説明

歯科用石膏模型用離型材キット

【課題】 石膏模型上にレジン系補綴物を作製するにあたり、操作性が良く、模型と補綴物の適合性を向上させることができる歯科用石膏模型用離型材キットを提供すること。
【解決手段】 (A)固化体のショアA硬度が70以上である樹脂エマルジョン、好適にはメタ)アクリル系樹脂エマルジョンまたはシリコーン系樹脂エマルジョンからなり、石膏模型の表面に塗布して使用される下地用処理材、および(B)固化体のショアA硬度が20〜60であるゴムエマルジョン、好適には共役ジエン系ゴムエマルジョンからなり、上記(A)下地用処理材の固化層上に層形成して使用される緩衝層用処理材を含んでなる歯科用石膏模型用離型材キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用石膏模型を基にして歯科用補綴物を作製する際に使用される歯科用石膏模型用離型材キットに関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕等により歯に欠損を生じた場合、その欠損が大きいときには、インレー、アンレー、クラウン等の補綴物により修復が行われる。即ち、技工所などの口腔外において、歯の欠損部の形状を有する補綴物を成形し、歯科医院において、この補綴物を、歯科用セメントと呼ばれるペースト状の接着材を用いて歯の欠損部に嵌入したり、欠損部に設けられた支台歯に接着固定したりすることにより修復される。
【0003】
補綴物としては種々のタイプが知られており、例えば、コバルト・クロム合金などの卑金属合金製;金・銀・パラジウム合金などの貴金属合金製;ガラスセラミックスなどのセラミックス製;重合性単量体、充填材、光重合開始剤からなる重合性ペーストを硬化させたレジン硬化物製などが知られている。何れの材質も一長一短があるが、最近では、審美性に優れ、成形が容易な利点からレジン硬化物製が広く使用される傾向にある。
【0004】
レジン硬化物製補綴物の作製は、重合性単量体、重合開始剤、及び充填材が混合され重合性ペーストを、口腔内印象に基づき作製された石膏模型上に築盛し、光硬化させることによる。ところが、上記重合性ペーストを、石膏模型上に直接築盛し硬化させた後に離型しようとすると、該重合性ペーストの成分の一部が石膏模型内部に浸透して硬化してしまい、スムーズな離型が行えない問題があった。
【0005】
このため、レジン硬化物製補綴物の石膏模型からの離型性を向上させるため、重合性ペーストを築盛する前に、石膏模型の表面に離型材を塗布することが行なわれている。こうした離型材としては、例えば、アルギン酸系溶液が使用されている。すなわち、アルギン酸系溶液は、これを石膏模型に塗布、乾燥させることで、石膏のカルシウム分とアルギン酸との架橋反応を生じせしめ硬質層が形成され、これが重合性ペーストの剥離層として作用する。また、シリコーン樹脂やポリイソプレンゴム、シリコーンゴム等の種々の高分子層を、上記剥離層として形成させることも知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−147328号公報
【特許文献2】特開2005−224601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記離型材の使用により、レジン硬化物製補綴物の石膏模型からの離型性は大きく向上するものの、それでも脱型したレジン硬化物製補綴物には歪みが生じて、歯の欠損部や支台歯への適合性が十分でないことがあった。すなわち、得られたレジン硬化物製補綴物の中には上記適合性が悪く、例えば、該補綴物を支台歯に接着する場合であれば、補綴物が支台歯から浮いてしまい、その内面を研磨して調整する必要のあるものが生じていた。
【0008】
しかして、斯様に補綴物の適合性が悪くなる原因は、重合性ペーストが硬化する際の重合収縮によるところが大きい。詳述すると、石膏模型を覆った重合性ペーストが硬化する際の重合収縮により、硬化物は石膏模型を強く締め付け、それにより得られるレジン硬化物製補綴物に歪みが生じ、これは離型時の外力の不均一な加重によっても増強されて、前記適合性の低下を引き起こすと考えられる。
【0009】
しかして、この問題は、離型材が、ポリイソプレンゴムやシリコーンゴム等の軟質層を形成するものの場合には、ある程度緩和できる。しかし、根本的な問題の解消には至らず、使用する石膏模型が、表面に凹凸や溝部等がある、より複雑な形状のものにおいては、その適合性は依然として不十分で改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を続けてきた。その結果、固化体の硬度が異なる2種類の高分子エマルジョンを組合せて使用することにより、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、(A)固化体のショアA硬度が70以上である樹脂エマルジョンからなり、石膏模型の表面に塗布して使用される下地用処理材、および
(B)固化体のショアA硬度が20〜60であるゴムエマルジョンからなり、上記(A)下地用処理材の固化層上に層形成して使用される緩衝層用処理材
を含んでなる歯科用石膏模型用離型材キット歯科用石膏模型用離型材キットである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の離型材キットを用いれば、石膏模型上に作製されたレジン硬化物製補綴物を優れた離型性で脱型できる。しかも、得られたレジン硬化物製補綴物は歪みが少ない。その結果、本発明の離型材キットを用いれば、石膏模型が複雑な形状で、表面に凹凸や溝部等が存在する場合であっても、歯の欠損部や支台歯への適合性に高度に優れた補綴物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の歯科用石膏模型用離型材キットは、(A)固化体のショアA硬度が70以上である樹脂エマルジョン、および(B)固化体のショアA硬度が20〜60であるゴムエマルジョンの2種類の高分子エマルジョンを組合せてキットとしたものである。そして、前者の樹脂エマルジョンを、石膏模型の表面に塗布して使用される下地用処理材として使用し、後者のゴムエマルジョンを、上記(A)下地用処理剤の固化層上に層形成して使用する。このような組合せで、上記2種類の高分子エマルジョンを離型材として使用することにより、レジン硬化物製補綴物の石膏模型からの離型性は大きく向上する。
【0014】
また、斯様な態様であれば、石膏模型表面に凹凸や溝部が存在していたとしても、これらは硬質な(A)下地用処理剤の固化層により覆われ平滑化される。そして、その上に、軟質な(B)緩衝層用処理材の固化層が積層され、この上にレジン硬化物製補綴物を作製するための重合性ペーストを築盛することになる。したがって、該重合性ペーストの硬化が開始され、重合収縮により石膏模型方向に緊締力が加わっても、平滑な硬質層の上に形成された軟質層が介在する作用により、この緊締力は均質に吸収され緩和される。この結果、硬化体の歪は減少し、且つ前記したように脱型時の離形性も良好で、操作中に多少の無理な負荷が荷重されても、これも前記軟質層に吸収され均質化される。かくして、本発明の離型材キットを用いれば、歯の欠損部や支台歯への適合性に高度に優れるレジン硬化物製補綴物を得ることができる。
【0015】
ここで、前記(A)下地用処理材を単層として設けても、石膏模型と重合性ペーストの間には、硬質層しか介在しなくなるので、重合性ペーストの重合収縮に対する吸収作用が発揮されず、得られるレジン硬化物製補綴物は大きな歪を有するものになる。他方、(B)緩衝層用処理材を単層として設けても、レジン硬化物製補綴物の離型時に外力を吸収し、離型性が低下する。さらに、石膏模型の表面の凹凸や溝部を、軟質層で直接に覆うことになるため、重合性ペーストの重合収縮が負荷された際に、下の起伏に追随して変形し、緊縛力の均質な吸収が行なえなくなる。したがって、やはり、得られるレジン硬化物製補綴物は、歪の発生を十分に低減できなくなる。
【0016】
さらに、たとえ(A)下地用処理剤と(B)緩衝層用処理材とを組合せて使用したとしても、その処理順序を本発明とは逆の態様にしても、本発明ほどに高い、レジン硬化物製補綴物に対する歪の低減効果は発揮されない。それは、先に(B)緩衝層用処理材の軟質層を設け、その上に(A)下地用処理剤の硬質層を設けても、結局は、上記(B)緩衝層用処理材を単層で設けた場合と同様に、石膏模型表面の凹凸や溝部は軟質層で覆われることに変わりはなく、重合性ペーストの重合収縮による負荷は該軟質層に均質に吸収されないからである。
【0017】
以下、本発明の歯科用石膏模型用離型材キットを構成する、(A)下地用処理剤と(B)緩衝層用処理材について、各詳述する。
【0018】
<(A)下地用処理剤>
本発明において下地用処理剤は、固化体のショアA硬度が70以上である樹脂エマルジョンからなる。こうした樹脂エマルジョンの塗布層は、固化すると硬質な樹脂層が形成される。石膏表面の、より確実な平滑化の観点からは、下地用処理剤の樹脂エマルジョンは、固化体のショアA硬度が75以上であるのが好ましい。また、樹脂エマルジョンの固化体のショアA硬度は、通常、100以下であり、あまり固すぎても密着性が低下する虞があるため95以下であるのが好ましい。
【0019】
なお、本発明において、高分子エマルジョンの固化体のショアA硬度は、JIS K7215の規定に従って測定した値である。具体的には、高分子エマルジョンを乾燥させ、23℃の温度下、厚さ1mmの固化体の表面に圧子を押し込み変形させ、その押込み深さを測定し、数値化するデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)により測定された値をいう。
【0020】
固化体がこのようなショアA硬度を有する樹脂エマルジョンは、如何なる樹脂のエマルジョンから採択しても良い。好適には、ビニル系樹脂エマルジョンや、シリコーン樹脂エマルジョンが挙げられる。
【0021】
ここで、ビニル系樹脂エマルジョンは、末端に重合性の炭素−炭素二重結合を持つ基を有するビニル系単量体が重合して得られる樹脂のエマルジョンであり、具体的には、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリビニルアセテート系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂等が挙げられる。これらは単独重合体の他に、上記ビニル系単量体からなる単位を主構成単位とする共重合体、例えば、酢酸ビニル−(メタ)アクリル系単量体共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル系単量体共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル系単量体−塩化ビニル共重合体等からなる樹脂であっても良い。さらに、ビニル系樹脂は、三次元架橋樹脂体であっても良い。こうしたビニル系樹脂エマルジョンは、ガラス転移点が−30〜50℃である樹脂のエマルジョンが該当することが多い。
【0022】
これらのビニル系樹脂エマルジョンは、原料のビニル系単量体を、水性媒体中でのラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合させて得ることができる。具体的には、水を分散媒として、原料のビニル系単量体を、攪拌翼を装備した反応器に仕込み、界面活性剤の存在下、水溶性重合開始剤により乳化重合させる方法が好ましい。
【0023】
他方、シリコーン系樹脂エマルジョンは、例えば、アルコキシシラン化合物又はその縮合物を重縮合してなるポリオルガノシロキサン類を水性媒体に分散、乳化又は溶解したエマルジョン;アルコキシシリル基含有ビニル系単量体を重合(必要に応じて他のビニル系単量体と共重合)してなる重合体エマルジョン;有機重合体にポリオルガノシロキサンを複合化させてなるエマルジョンなどが挙げられる。
【0024】
このうち、アルコキシシラン化合物又はその縮合物を重縮合してなるポリオルガノシロキサン類のエマルジョンが好ましい。係るポリオルガノシロキサン類としては、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリトリフルオロプロピルシロキサンなどのホリアルキルシロキサン;ポリジフェニルシロキサンなどのポリアリールシロキサン;ポリメチルフェニルシロキサンなどのポリアルキルアリールシロキサンなどが挙げられ、ポリジメチルポリシロキサンが特に好ましい。
【0025】
これらの樹脂エマルジョンは、2種以上の樹脂が混合して用いられたものであっても良い。また、石膏表面をより確実に平滑化でき、(A)下地用処理剤として好適であることから、(メタ)アクリル系樹脂エマルジョン、またはシリコーン系樹脂エマルジョンであるのが特に好ましい。ここで、(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系単量体の単独重合体や該(メタ)アクリル系単量体の2種以上の共重合体の他、(メタ)アクリル系単量体からなる単位を主構成単位(少なくとも30モル%含有)とする共重合体、特に、好適には(メタ)アクリル系単量体−塩化ビニル共重合体が該当する。
【0026】
上記(A)下地用処理材に用いる樹脂エマルジョンにおいて、樹脂は水系分散媒に分散されている。水系分散媒は、水が単独で使用されるのが通常であるが、必要によりアルコール等の親水性溶媒を混合して用いても良い。水系分散媒の配合量は、樹脂エマルジョン中において、樹脂分の含有量が5〜80質量%、さらに10〜70質量%になる量がより好ましい。水系分散媒はこの配合量で、好適な厚みの被膜が形成し易くなり、且つ樹脂粒子の好適な分散状態を保てるものになる。
また、樹脂エマルジョンに分散される樹脂粒子の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、通常は、レーザー回折・散乱法を用いた粒度分布計で測定して50〜2000nmであるのが好ましく、100〜1000nmであるのがより好ましい。
【0027】
上記樹脂エマルジョンには、樹脂の分散性を向上させるために、界面活性剤が配合されているのが一般的である。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤があるが、樹脂エマルジョンの種類に応じて適切なものを適宜に採択すれば良い。一般には、ビニル系樹脂エマルジョンには、ノニオン系界面活性剤またはアニオン系界面活性剤が配合されるのが好ましく、シリコーン樹脂系エマルジョンにはノニオン系界面活性剤が配合されるのが好ましい。こうした界面活性剤の配合量は、樹脂成分100質量部に対して、0.1〜10重量部が好ましく、0.5〜8重量部が特に好ましい。
【0028】
さらに、樹脂エマルジョンには、他の公知の添加剤が配合されていても良い。具体的には、可塑剤(ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジノニルフタレート、ジイソデシルフタレートなどのフタル酸エステル系;ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケートなどの脂肪族2塩基酸エステル系;トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェートなどのリン酸エステル系;エポキシ化大豆油などのエポキシ系;トリメリット酸系;ポリエステル系等)、粘着付与樹脂(ロジン系、石油樹脂系、クマロンインデン樹脂系、フェノール樹脂等)等が挙げられる。
【0029】
なお、樹脂エマルジョンの粘度は特に制限されないが、塗布性、塗布した際好適な膜厚を得る観点から、23℃で測定して、0.05〜2Pa・sであることが好適である。
【0030】
<(B)緩衝層用処理材>
本発明において緩衝層用処理材は、固化体のショアA硬度が20〜60であるゴムエマルジョンからなる。こうしたゴムエマルジョンの塗布層は、固化すると軟質なゴム層が形成される。重合性ペーストの重合収縮による緊締力のより高い吸収と層形状の保持の観点からは、固化体のショアA硬度が25〜50であるのが好ましい。
【0031】
固化体がこのようなショアA硬度を有するゴムエマルジョンとしては、如何なるゴムのエマルジョンから採択されても良い。好適には、共役ジエン系ゴムエマルジョンが挙げられる。
【0032】
ここで、共役ジエン系ゴムは、共役ジエン単量体からなる単位を必須構成成分とするゴムであり、場合により、ビニル系単量体からなる単位等が共重合されていても良い。ビニル系単量体からなる単位が共重合されている場合、共役ジエン系単量体からなる単位の含有量は、少なくとも10質量%以上であり、20〜80質量%であるのが好ましい。こうした共役ジエン系ゴムは、ガラス転移点が−110〜−20℃である樹脂のエマルジョンが該当することが多い。
【0033】
共役ジエン系ゴムの具体例は、合成イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、カルボキシル化クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等のエマルジョンであり、また、天然ゴムのエマルジョンも通常は該当する。これらのゴムエマルジョンは、2種以上のゴムが混合して用いられたものであっても良い。
【0034】
上記(A)緩衝層用処理材に用いるゴムエマルジョンにおいて、ゴムは水系分散媒に分散されている。水系分散媒は、水が単独で使用されるのが通常であるが、必要によりアルコール等の親水性溶媒を混合して用いても良い。水系分散媒の配合量は、ゴムエマルジョン中において、ゴム分の含有量が5〜80質量%、さらに10〜70質量%になる量がより好ましい。。水系分散媒はこの配合量で、好適な厚みの被膜が形成し易くなり、且つゴム粒子の好適な分散状態を保てるものになる。
【0035】
また、ゴムエマルジョンに分散される樹脂粒子の平均粒子径は、、特に制限されるものではないが、通常は、レーザー回折・散乱法を用いた粒度分布計で測定して50〜2000nmであるのが好ましく、100〜1000nmであるのがより好ましい。
【0036】
上記ゴムエマルジョンにも、樹脂の分散性を向上させるために、界面活性剤が配合されているのが一般的である。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤があり、ゴムエマルジョンの種類に応じて適切なものを適宜に採択すれば良いが、アニオン系界面活性剤が特に好ましい。その配合量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1〜10重量部が好ましく、0.5〜8重量部が特に好ましい。
【0037】
さらに、ゴムエマルジョンには、他の公知の添加剤が配合されていても良い。具体的には、可塑剤、粘着付与樹脂(好適には、ロジン系、石油樹脂系、クマロンインデン樹脂系、フェノール樹脂等)等が挙げられる。
【0038】
なお、ゴムエマルジョンの粘度は特に制限されないが、塗布性、塗布した際、好適な膜厚を得る観点から、23℃で測定して、0.05〜2Pa・sであることが好適である。
【0039】
<石膏模型>
本発明において、離型材キットを適用する石膏模型は、歯科用であり、これを元に、重合性単量体、充填材、光重合開始剤からなる重合性ペーストが築盛されて型取りされるものである。一般には、レジン硬化物製補綴物の作製に際して、口腔内印象に基づき作製された石膏模型が該当する。補綴物がジャケット冠である場合に用いられる、凸型の外側性石膏窩洞模型や、MOD窩洞等の複雑な形態の窩洞に対応した内外側性窩洞型等の石膏模型が挙げられる。
【0040】
歯牙表面には、エナメル小窩、裂溝、亀裂が多数あり、また、う蝕により切削した箇所の形状は複雑で、その表面には凹凸や溝部が多数に存在している。本発明の離型材キットは、斯様な凹凸や溝部が、より密に存在する面の離型材として使用すると、特に効果的である。
【0041】
さらに、本発明の離型材キットを適用する石膏模型としては、長い歯列を型取ったものに対して有効である。すなわち、こうした石膏模型は、横幅が長く、その両側端の上側角部周辺には、築盛した重合性ペーストの重合時における締め付け力が、格別に集中し易い。したがって、このような石膏模型に本発明の離型材キットを適用すると、その離型性の効果がより顕著に発揮されて好ましい。
【0042】
<レジン硬化物製補綴物を作製するための重合性ペースト>
本発明の離型材キットを適用して、硬化後、石膏模型から脱型される重合性ペーストは、歯科治療において使用される、歯科充填用コンポジットレジン、歯冠用硬質レジン、歯冠用常温重合レジン等が挙げられる。この中でも、レジン硬化物製補綴物の製造に使用される、歯冠用硬質レジンが、特に好ましい。
【0043】
こうした重合性ペーストは、重合性単量体、重合開始剤、及び充填材が混合された組成からなる。例えば、特開2011−089131号公報、特開2011−063537号公報、特開2010−202516号公報等に示される、歯科用として公知の重合性ペーストが制限なく使用できる。
【0044】
<離型材キットの使用方法>
本発明の離型材キットは、まず、石膏模型の表面に、(A)下地用処理材を塗布し、乾燥することでショアA硬度が70以上である樹脂の固化層を形成する。石膏模型の表面に対する、(A)下地用処理材を塗布量は、該石膏模型表面の凹凸や溝部を十分に覆った、その固化層が形成される量であり、該固化層は、少なくとも5μm、より好適には10〜1000μmの厚みで形成されるようにするのが望ましい。塗布した下地用処理材の乾燥は、常温放置により行なっても良いが、固化を早め、固化膜の強度を確保する観点から熱風等を当てて加熱することが好ましい。
【0045】
このようにして石膏模型の表面に、(A)下地用処理材の固化層を形成したら、次いで、その表面に、(B)緩衝層用処理材を塗布し、乾燥することで、ショアA硬度が20〜60であるゴムの固化層を形成する。(A)下地用処理材の固化層に対する、(B)緩衝層用処理材の塗布量は、その固化層が少なくとも5μm、より好適には10〜20μmの厚みで形成される量が望ましい。塗布した(B)緩衝層用処理材の乾燥は、(A)下地用処理材の場合と同様である。
【0046】
なお、(A)下地用処理材および(B)緩衝層用処理材は、それぞれの範疇内で別のものを2層以上設け、(A)下地用処理材の固化層を2層以上の積層構造や、(B)緩衝層用処理材の固化層を2層以上の積層構造にしても良い。
【0047】
さらに、本発明の離型材キットは、上記(A)下地用処理材の固化層と(B)緩衝層用処理材の固化層の積層構造を、必ずしも石膏模型における、重合性ペーストが築盛される全面に対して設ける必要はない。すなわち、石膏模型の表面において、凹凸や溝部が密に存在する箇所のみを、上記(A)下地用処理材の固化層と(B)緩衝層用処理材の固化層との積層構造とし、他の比較的平滑な表面には、その一方のみを単層で設けて使用しても良い。この場合、係る単層で設ける離型材は、(A)下地用処理材よりも、(B)緩衝層用処理材の方が離型性に優れることからより好ましい。
【0048】
斯様に石膏模型の表面に、本発明の離型材キットを施した後、(B)緩衝層用処理材の固化層の上面に、重合性ペーストを築盛し硬化させ、レジン硬化物製補綴物等の目的の硬化体を得る。上記離型材が介在する効果により、係る硬化体の石膏模型からの離型は極めて容易に行なうことができる。例えば、硬化体と石膏模型の境界に、ヘラ、探針等を差込み、その隙間を拡げながら、硬化体を上方に引っ張れば、簡単に脱型できる。なお、離型材は、取り外した硬化体の裏面に付着した状態になるのが普通であるが、これはヘラ、探針、ピンセット等を用いて引き剥がすことにより簡単に除去できる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
【0050】
なお、以下の実施例および比較例において、離型材キットの各種物性は以下の方法により測定した。
【0051】
<ショアA硬度の測定>
高分子エマルジョンを直径3cm、厚さ2mmの孔を有するポリエステル製の型に、固化後の厚さが1mmとなるように流し込み、37℃、1時間乾燥させた後に固化体を型から外し、さらに37℃、1時間で乾燥させ試験片を得た。この試験片のショアA硬度を、23℃の温度下、JIS−K7215(デュロメータ タイプA)に基づいて測定した。
【0052】
<粘度の測定>
粘度測定装置(BOHLIN社製CSレオメーター CVO120HR)の試料採取部に、高分子エマルジョン0.1gを載せ、23℃で保持しながら粘度の測定を開始し、測定開始から60秒後の粘度を、該高分子エマルジョンの粘度とした。なお、粘度測定装置の測定条件は、コーン直径が2cm、コーンの傾斜角度が1°、ショアレート10s−1とした。
【0053】
<樹脂粒子の平均粒径の測定>
0.1gのエマルジョンを水10mlに分散させ、手でよく振動する。粒度分布計(LS230、ベックマンコールター製)を用い、光学モデルFraunhoferを適用して、体積統計のメディアン径を求めた。
【0054】
<ガラス転移点の測定>
示差走査熱量測定装置(DSC6200/セイコー社製)を用いて測定した。予想されるおよそのTgよりも30℃ほど高温まで10℃/分で初期昇温を続け、そこで5分間保持後、50℃/分で降温した。次いで直ちに最昇温して得られたシグナルにおいて得られる3本の接線の交点の温度を求め、それらの中間の温度をTgとした。
【0055】
<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>
直径15mmの半球状の石膏模型において、頂点付近の表面に、幅2mm、深さ0.5mm、長さ10mmの溝を設けた。模型上の溝を埋めるように下地用処理材を塗布、乾燥した後、模型上の球面全体に緩衝層用処理材を厚さ20μmとなるように塗布、乾燥した。次いで通法にしたがって模型上に歯冠用硬質レジン「パールエステ」(株式会社トクヤマデンタル製)を築盛した。歯冠用硬質レジンの硬化後、硬化体と石膏模型の境界に、ヘラを差込み、その隙間を拡げながら、硬化体を上方に引っ張ることにより、硬化体を石膏模型から脱型し、レジン硬化物製補綴物を作製した。上記歯冠用硬質レジンの硬化体の石膏模型からの脱型に際しての離形性を下記の基準で評価した。
○:歯冠用硬質レジンの硬化体が、石膏模型から容易に離型する
△;歯冠用硬質レジンの硬化体が、石膏模型からやや離型し難い
×;歯冠用硬質レジンの硬化体を、石膏模型から離型させることが困難
【0056】
<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の適合性の評価>
上記<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>に従って作製したレジン硬化物製補綴物について、その裏面に付着する離型材をヘラを用いて引き剥がして除去した後、該レジン硬化物製補綴物を石膏模型に再び装着し、その適合性を下記の基準で評価した。
◎:レジン硬化物製補綴物を石膏模型に装着した際に密着性が高く、補綴物はほとんど動かない。
○:レジン硬化物製補綴物を石膏模型に装着した際に、かなりの密着性の良さが認められるが、補綴物はわずかに動く。
△:レジン硬化物製補綴物を石膏模型に装着した際に密着性が悪く、補綴物がかなりガタツいたり、または補綴物の石膏模型面からの浮きが目視される。
×:レジン硬化物製補綴物が石膏模型に入らない(装着できない)、または装着はできても弱い外力で簡単に外れるほど密着性が低い。
【0057】
実施例1
(A)下地用処理材として、アクリル酸エチルの5質量部、メタクリル酸の5質量部、アクリル酸2−エチルヘキシルの45質量部、塩化ビニルの45質量部を懸濁重合することで得られた、(メタ)アクリル系単量体−塩化ビニル共重合体(ガラス転移点−7℃)が、水に45質量%の濃度で懸濁する樹脂エマルジョン(以下「A−1」と表記する;ショアA硬度83、樹脂粒子の平均粒径250nm、粘度0.81Pa・s)を用意した。
【0058】
また、(B)緩衝層用処理材として、共役ジエン系ゴムに属する天然ゴムラテックス(ガラス転移点72℃)である「レヂテックス TRH‐70」(レヂテックス社製)を、水で固形分55質量%になるように薄めたゴムエマルション(以下「B−1」と表記する;ショアA硬度47、ゴム粒子の平均粒径660nm、粘度0.33Pa・s)を用意した。
【0059】
これらの(A)下地用処理材「A−1」と(B)緩衝層用処理材「B−1」とを離型材キットとして用いて、<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>および<適合性の評価>を行なった。結果を表3に示した。
【0060】
実施例2
(A)下地用処理材として、メタクリル酸メチルの40質量部、メタクリル酸の5質量部、アクリル酸2−エチルヘキシルの55質量部、塩化ビニルの45質量部を懸濁重合することで得られた、(メタ)アクリル系単量体−塩化ビニル共重合体(ガラス転移点−9℃)が、水に45質量%の濃度で懸濁する樹脂エマルジョン(以下「A−2」と表記する;ショアA硬度81、樹脂粒子の平均粒径280nm、粘度0.84Pa・s)を用意した。
【0061】
この(A)下地用処理材「A−1」と前記(B)緩衝層用処理材「B−1」とを離型材キットとして用いて、<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>および<適合性の評価>を行なった。結果を表3に示した。
【0062】
実施例3
(A)下地用処理材として、メタクリル酸メチルの30質量部、メタクリル酸の5質量部、アクリル酸ブチルの35質量部、塩化ビニルの30質量部を懸濁重合することで得られた、(メタ)アクリル系単量体−塩化ビニル共重合体(ガラス転移点−35℃)が、水に45質量%の濃度で懸濁する樹脂エマルジョン(以下「A−3」と表記する;ショアA硬度92、樹脂粒子の平均粒径230nm、粘度0.83Pa・s)を用意した。
【0063】
この(A)下地用処理材「A−3」と前記(B)緩衝層用処理材「B−1」とを離型材キットとして用いて、<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>および<適合性の評価>を行なった。結果を表3に示した。
【0064】
実施例4
(A)下地用処理材として、アクリル酸ブチルの20質量部、アクリル酸の2−エチルヘキシル70質量部、塩化ビニルの10質量部を懸濁重合することで得られた、(メタ)アクリル系単量体−塩化ビニル共重合体(ガラス転移点−53℃)が、水に45質量%の濃度で懸濁する樹脂エマルジョン(以下「A−4」と表記する;ショアA硬度74、樹脂粒子の平均粒径310nm、粘度0.79Pa・s)を用意した。
【0065】
この(A)下地用処理材「A−4」と前記(B)緩衝層用処理材「B−1」とを離型材キットとして用いて、<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>および<適合性の評価>を行なった。結果を表3に示した。
【0066】
実施例5
(A)下地用処理材として、シリコーン樹脂エマルジョン「KM−902」(信越化学社製;ガラス転移点−120℃)100質量部に、10質量%カルボキシメチルセルロース水溶液5質量部を添加して、固形分45質量%になるように薄めた樹脂エマルジョン(以下「A−5」と表記する;ショアA硬度71、樹脂粒子の平均粒径290nm、粘度0.82Pa・s)を用意した。
【0067】
この(A)下地用処理材「A−5」と前記(B)緩衝層用処理材「B−1」とを離型材キットとして用いて、<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>および<適合性の評価>を行なった。結果を表3に示した。
【0068】
実施例6
(B)緩衝層用処理材として、スチレンの50質量部、1,3−ブタジエンの50質量部を懸濁重合することで得られた、スチレン−1,3−ブタジエン共重合体(ガラス転移点−26℃)が、水に45質量%の濃度で懸濁するゴムエマルジョン(以下「B−2」と表記する;ショアA硬度56、樹脂粒子の平均粒径640nm、粘度0.31Pa・s)を用意した。
【0069】
前記(A)下地用処理材「A−1」と、この(B)緩衝層用処理材「B−2」とを離型材キットとして用いて、<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>および<適合性の評価>を行なった。結果を表3に示した。
【0070】
実施例7
(B)緩衝層用処理材として、1,3−ブタジエンを懸濁重合することで得られた、1,3−ブタジエン単独重合体(ガラス転移点−100℃)が、水に45質量%の濃度で懸濁するゴムエマルジョン(以下「B−3」と表記する;ショアA硬度24、樹脂粒子の平均粒径590nm、粘度0.29Pa・s)を用意した。
【0071】
前記(A)下地用処理材「A−1」と、この(B)緩衝層用処理材「B−3」とを離型材キットとして用いて、<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>および<適合性の評価>を行なった。結果を表3に示した。
【0072】
比較例1
実施例1において、離型材として、(A)下地用処理材「A−1」のみを用いて(石膏模型に対して、溝を埋めた上で、球面全体に塗布)、<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>および<適合性の評価>を行なった。結果を表4に示した。
【0073】
比較例2
実施例1において、(A)下地用処理材「A−1」を使用せず、離型材として、(B)緩衝層用処理材「B−1」のみを用いて(石膏模型に対して、溝を埋めた上で、球面全体に塗布)、<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>および<適合性の評価>を行なった。結果を表4に示した。
【0074】
比較例3
<石膏模型とレジン系補綴物の適合性の評価>を、離型材として何も使用せず、石膏模型上に直接に、歯冠用硬質レジン「パールエステ」を築盛、硬化させる態様で実施した。<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>および<適合性の評価>の各評価結果を表4に示した。
【0075】
比較例4
実施例1において、(B)緩衝層用処理材「B−1」を(A)下地用処理材として使用し、逆に、(A)下地用処理材「A−1」を(B)緩衝層用処理材として使用する以外は、実施例1と同様にして<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>および<適合性の評価>を行なった。結果を表4に示した。
【0076】
比較例5
(B)緩衝層用処理材として、エチレン60質量部、プロピレン40質量部を懸濁重合することで得られた、エチレンープロピレン共重合体(ガラス転移点−68℃)が、水に45質量%の濃度で懸濁するゴムエマルジョン(以下「B−4」と表記する;ショアA硬度10、樹脂粒子の平均粒径550nm、粘度0.30Pa・s)を用意した。
【0077】
前記(A)下地用処理材「A−1」と、この(B)緩衝層用処理材「B−4」とを離型材キットとして用いて、<石膏模型とレジン硬化物製補綴物の離型性の評価>および<適合性の評価>を行なった。結果を表4に示した。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)固化体のショアA硬度が70以上である樹脂エマルジョンからなり、石膏模型の表面に塗布して使用される下地用処理材、および
(B)固化体のショアA硬度が20〜60であるゴムエマルジョンからなり、上記(A)下地用処理材の固化層上に層形成して使用される緩衝層用処理材
を含んでなる歯科用石膏模型用離型材キット。
【請求項2】
(A)下地用処理剤が、(メタ)アクリル系樹脂エマルジョン、またはシリコーン系樹脂エマルジョンである、請求項1記載の歯科用石膏模型用離型材キット。
【請求項3】
(B)緩衝層用処理材が、共役ジエン系ゴムエマルジョンである、請求項1または請求項2に記載の歯科用石膏模型用離型材キット。
【請求項4】
レジン硬化物製補綴物の作製に使用される請求項1〜3の何れか1項に記載の歯科用石膏模型用離型材キット。