説明

歯車の取付構造

【課題】回転軸と歯車とのスプライン結合部にフレッティング摩耗が発生しても安定した取付状態を確保することができる歯車の取付構造を提供する。
【解決手段】出力軸13の先端部と、ピニオン11の中心に形成されている軸挿通孔11bとをスプライン結合させて出力軸13とピニオン11とを一体回転可能に結合し、出力軸13の先端部外周に周方向溝13cを形成する。周方向溝13cを軸挿通孔11bから外方に突出させた状態で、内周面14bの内径が周方向溝13bの溝底面13eの外径より大きく、厚さが周方向溝13bの溝幅より小さく形成されたリング状の抜止部材14の内周部を周方向溝13cに挿入し、抜止部材14の外周部とピニオン11の外面11cとを重ね合わせて取付ボルト15にて結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の取付構造に関し、詳しくは、回転軸と歯車とをスプライン結合させて歯車を回転軸と一体に回転するように取り付けるための構造であって、例えば、杭打機の作業装置を昇降させるための昇降装置に設けられている油圧モータの出力軸先端部にピニオンやスプロケットを取り付ける構造に関する。
【背景技術】
【0002】
杭打機の作業装置をリーダに沿って昇降させるための昇降装置として、リーダの長手方向に設けられたラックと、作業装置に設けた油圧モータにて回転駆動されるピニオンとを噛合させたラックピニオン式昇降装置や、作業装置に連結されているチェーンを巻掛けたスプロケットを油圧モータにて駆動するチェーン式昇降装置が知られている。このような昇降装置では、油圧モータの出力軸(回転軸)の先端にピニオン(歯車)を取り付ける構造として、回転軸と歯車とをスプライン(セレーション)結合させるとともに、歯車の外面側に前記軸挿通孔の内径よりも十分に大きな外径を有する押えプレートを配置し、該押えプレートの中央部を回転軸の先端面に取付ボルトで締結し、押えプレートにて歯車を回転軸の基端部に設けられている肩部に押し付け、この肩部と押えプレートとの間に歯車を挟んで固定する取付構造が広く採用されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【特許文献1】特開2003−184086号公報
【特許文献2】特開平11−303077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述のように取付ボルトの締結力によって押えプレートを歯車の外面に押し付け、押えプレートと歯車との摩擦力で歯車を回転軸に固定するには、十分な摩擦力を得るために大きなサイズのボルトや剛性の高い押えプレートを採用しなければならず、コストが嵩む原因となっていた。また、スプライン結合では、嵌め合いのために微少な隙間が存在しているため、駆動力伝達の繰り返しによってフレッティング摩耗が発生し、スプライン結合部が摩耗したり、押えプレートと歯車との摩擦力が低下したりすることから、回転軸、歯車、押えプレート間にガタが発生する。
【0004】
特に、大型の作業装置を昇降させる杭打機の昇降装置の場合は、大きなトルクを必要とするだけでなく、頻繁に正逆回転を切り換えるため、長期にわたる使用で回転軸(出力軸)と歯車(ピニオン,スプロケット)とのスプライン結合部にフレッティング摩耗が発生しやすい状態になっている。スプライン結合部の摩耗によって出力軸とピニオンなどとの間にガタが発生すると、油圧モータの始動時に、出力軸の回転開始に僅かに遅れてピニオンが回転を開始する状態になる。この出力軸とピニオンとの回転開始のズレは、押えプレートに回転力として伝達され、この回転力が押えプレートを締結している取付ボルトに剪断力として作用することから、ボルトの首下部分が疲労破壊してしまったり、取付ボルトが弛んで押えプレート及びピニオンが脱落してしまうおそれがあった。
【0005】
そこで本発明は、回転軸と歯車とのスプライン結合部にフレッティング摩耗が発生しても安定した取付状態を確保することができる歯車の取付構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の歯車の取付構造は、回転軸の先端部と、歯車の中心に形成されている軸挿通孔とをスプライン結合させて前記回転軸と前記歯車とを一体回転可能に結合する歯車の取付構造において、前記回転軸の先端部外周に周方向溝を形成し、該周方向溝を前記歯車の軸挿通孔から外方に突出させた状態で、内周部の内径が前記周方向溝の溝底面の外径より大きく、厚さが前記周方向溝の溝幅より小さく形成されたリング状の抜止部材の内周部を前記周方向溝に挿入するとともに、該抜止部材の外周部と前記歯車の外面とを重ね合わせて取付ボルトにて結合したことを特徴としている。
【0007】
また、本発明の歯車の取付構造では、前記周方向溝は、前記回転軸の先端部外周面を切削して形成されていてもよく、前記回転軸より小径の小径軸部と該小径軸部より大径の大径軸部とを有する周方向溝形成部材を、前記小径軸部側を前記回転軸の先端面に当接させて結合することにより形成されるものであってもよい。さらに、前記抜止部材が周方向に複数に分割されて形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の歯車の取付構造によれば、歯車に結合されるリング状の抜止部材は、回転軸に形成されている周方向溝に対して、内周部の内径が周方向溝の溝底面の外径より大きく、厚さが周方向溝の溝幅より小さく形成されているので、回転軸に遊嵌された状態になっている。したがって、スプライン結合部のフレッティング摩耗により回転軸と歯車との間にガタが発生して両者の回転にズレが発生しても、歯車に結合された抜止部材に回転軸から回転力が伝達されることはなく、取付ボルトに剪断力が掛からず、取付ボルトの緩みや疲労破壊の発生を防止することができ、安定した取付状態を長期間確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1及び図2は、本発明の歯車の取付構造の第1形態例を示すもので、図1は回転軸(出力軸)と歯車(ピニオン)との取付状態を示す断面図、図2は抜止部材の装着状態を示す説明図である。図3乃至図5は、本発明の歯車の取付構造を杭打機の作業装置をリーダに沿って昇降させるラックピニオン式昇降装置に適用した一例を示すもので、図3は作業装置の平面図、図4は作業装置の側面図、図5は作業装置の正面図である。
【0010】
まず、本形態例に示す杭打機1は、図示しないベースマシンの前部に立設したリーダ2の両側に2本のガイドパイプ3がリーダ2の長手方向に平行に設けられ、作業装置であるオーガ4の後部側には、前記ガイドパイプ3を摺動可能に挟み込むガイドギブ5が左右に2個ずつ設けられるとともに、前記ガイドパイプ3,3に沿ってオーガ4を昇降させるための昇降装置6が設けられている。オーガ4は、作業用油圧モータ7と、該作業用油圧モータ7の駆動を減速機を介して伝達させる回転用ギアケース8と、該回転用ギアケース8に連結され、オーガスクリュ等を連結するアタッチメント9とを備えている。
【0011】
昇降装置6は、リーダ2に設けられた両歯型のラック10と、該ラック10に両側から噛合する一対のピニオン11と、該ピニオン11を回転駆動する2台の昇降用油圧モータ12とを備えている。昇降用油圧モータ12は、オーガ4の本体フレーム4aの後部側に設置され、ピニオン11は、各昇降用油圧モータ12の出力軸13の先端部に、出力軸13と一体に回転するように取り付けられている。この昇降装置6は、昇降用油圧モータ12で前記ピニオン11を回転駆動することにより、オーガ4をリーダ2に沿って昇降させる。
【0012】
ピニオン11は、外周に前記ラック10のギア部に噛合するギア部11aを有し、中心に昇降用油圧モータ12の出力軸13を挿通させる軸挿通孔11bを有するもので、軸挿通孔11bと出力軸本体13aとをスプライン結合Sにより結合して出力軸13とピニオン11とが一体に回転するように形成されている。出力軸13は、前記軸挿通孔11b内に嵌り合う出力軸本体13aと、軸挿通孔11bの開口端から外方に突出する突出軸部13bとを備え、突出軸部13bの外周に周方向溝13cが切削加工によって形成されている。
【0013】
ピニオン11は、周方向溝13cに係合するリング状の抜止部材14によって出力軸13に取り付けられる。抜止部材14は、一対のリング半体14aからなるもので、リング半体14aを組み合わせた抜止部材14における内周部の内径は、周方向溝13cの溝底面の外径より大きく、その厚さは、周方向溝13cの溝幅より小さく形成されている。この抜止部材14は、各リング半体14aの内周部を周方向溝13c内に挿入するとともに、外周部をピニオン11の外面11cに重ね合わせた状態で3本の取付ボルト15でピニオン11にそれぞれ結合される。
【0014】
これにより、ピニオン11の外面11cと周方向溝13cとに亘って、2つのリング半体14aで形成される抜止部材14が掛け渡された状態となり、ピニオン11と出力軸13とが抜止部材14によって取り付けられた状態となる。このとき、抜止部材14と周方向溝13cとの寸法を前述のように設定していることから、周方向溝13cの溝側面13dと抜止部材14との間には隙間E1が、周方向溝13cの溝底面13eと抜止部材14の内周面14bとの間には隙間E2がそれぞれ形成される。さらに、昇降用油圧モータ12の出力軸13のように、出力軸13の基端部に肩部13fが存在する場合には、ピニオン11の厚さ(軸挿通孔11bの長さ)を出力軸本体13aの長さより短くし、ピニオン11の取付状態において、基端側溝側面13gとピニオン11の外面11cとが面一になったときに、ピニオン11の内端面11dと出力軸13の肩部13fとの間にも隙間E3が形成されるように設定する。
【0015】
このようにしてラック10に噛合するピニオン11を昇降用油圧モータ12の出力軸13に取り付けた昇降装置6を備えた杭打機1では、例えば、オーガ4のアタッチメント9にオーガスクリュを連結し、地盤を掘削する際には、作業用油圧モータ7を駆動してオーガスクリュに回転を与える一方、昇降用油圧モータ12により出力軸13を介してピニオン11を下降方向に回転させ、各ピニオン11のギア部11aがラック10を転動し、これに伴ってオーガ4を下降させ、回転するオーガスクリュによって地盤を掘削していく。また、オーガスクリュによる作業が終了した際には、昇降用油圧モータ12により出力軸13を介してピニオン11を上昇方向に回転させ、これにより昇降装置6を上昇させてオーガスクリュを掘削孔から引き抜く。
【0016】
掘削作業の繰り返しにより、出力軸本体13aと軸挿通孔11bとのスプライン結合部分にフレッティング摩耗が発生し、スプライン結合部が摩耗してガタが発生した場合、前述のように、昇降用油圧モータ12の始動時に、出力軸13の回転開始に僅かに遅れてピニオン11が回転を開始する状態になり、出力軸13の回転とピニオン11の回転とにズレが生じるが、ピニオン11を出力軸13に取り付けている抜止部材14はピニオン11にのみ結合されており、出力軸13に対しては、周方向溝13cとの間の隙間E1及び隙間E2によって遊嵌した状態になっており、さらに、隙間E3によって出力軸13の肩部13fとピニオン11とが離間しているため、出力軸13から抜止部材14に回転力が伝達されることはない。したがって、取付ボルト15に剪断力が作用することがなくなるため、取付ボルト15が疲労破壊したり、取付ボルト15が弛んで抜止部材14及びピニオン11が脱落したりすることがなくなる。
【0017】
図6は本発明の第2形態例を示すもので、先端部外周面に周方向溝が形成されていない回転軸に歯車を取り付ける例を示している。なお、前記第1形態例と同様の構成要素を示すものには、同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0018】
本形態例は、出力軸16の出力軸本体16aをピニオン11の軸挿通孔11bに挿通して軸挿通孔11bと出力軸本体16aとをスプライン結合Sにより結合し、リング状に形成した抜止部材14を、出力軸本体16aの先端面16bとピニオン11の外面11cとに掛け渡した状態で配置した後、出力軸本体16aの先端面16bに、出力軸本体16aとは別体に形成された周方向溝形成部材16cを連結ボルト17にて結合するとともに、抜止部材14の外周部を複数の取付ボルト15にてピニオン11に結合することにより、出力軸16の先端部にピニオン11を取り付ける。あるいは、ピニオン11の外面11cに抜止部材14をあらかじめ取付ボルト15にて結合した状態でピニオン11の軸挿通孔11bに出力軸本体16aを挿入し、出力軸本体16aの先端面16bに周方向溝形成部材16cを連結ボルト17にて結合することにより、出力軸16の先端部にピニオン11を取り付けるように構成されている。
【0019】
前記周方向溝形成部材16cは、出力軸本体16aより小径の小径軸部16dと、該小径軸部16dより大径の大径軸部16eとを有するもので、小径軸部16d側を出力軸本体16aの先端面16bに当接させて連結ボルト17にて結合することにより、出力軸本体16aの先端面16bと、小径軸部16dの外周面16fと、大径軸部16dの基端面16gとによって周方向溝16hが形成される。このようにして形成された周方向溝16hと、抜止部材14の内周部との間には、前記同様の隙間E1及び隙間E2がそれぞれ形成され、ピニオン11の内端面11dと出力軸16の肩部16iとの間にも隙間E3が形成される
このように、本形態例では、抜止部材14を所定の位置に配置した後に周方向溝形成部材16cを取り付けるので、抜止部材14をリング状に形成しておくことができ、ピニオン11の外面に抜止部材14や取付ボルト15、連結ボルト17を収納する凹部11eを設ける場合、前記形態例に比べて凹部11eの直径を小さくすることができ、ピニオン11の径が小さい場合でもギア部11aの強度を十分に保持することができる。
【0020】
本形態例に示す取付構造においても、前記同様に、出力軸16とピニオン11とにガタが発生した場合でも、抜止部材14に回転力が伝達されることがないため、取付ボルト15が疲労破壊したり、取付ボルト15が弛んだりすることを防止できる。
【0021】
なお、本発明は上述の各形態例に限るものではなく、抜止部材は、ピニオンの外面と周方向溝とに掛け渡すことができれば形状や分割数は任意であり、例えば、リングの一部が開口したC字状にすることも可能である。また、ピニオン(歯車)の外面に抜止部材や取付ボルトを収納する凹部を設けているが、このような凹部を設けていない歯車にも適用できる。さらに、回転軸が肩部を有していない場合には、前述の隙間E3は考慮する必要はない。
【0022】
また、本発明は、トルクが大きく、正逆回転を切り換え使用する杭打機の昇降装置に最適であり、前記形態例に示したようなラックピニオン式昇降装置における昇降用油圧モータの出力軸とラックに噛合するピニオンとの取り付けに限らず、同様の杭打機であっても、チェーン式昇降装置における昇降用油圧モータの出力軸とチェーンが巻掛けられたスプロケットとの場合にも同様であり、他の様々な回転軸に歯車を取り付ける際に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1形態例を示すピニオンの取付状態を示す断面図である。
【図2】同じく抜止部材の装着状態を示す説明図である。
【図3】同じく昇降装置の平面図である。
【図4】同じく昇降装置の側面図である。
【図5】同じく昇降装置の正面図である。
【図6】本発明の第2形態例を示すピニオンの取付状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1…杭打機、2…リーダ、3…ガイドパイプ、4…オーガ、4a…本体フレーム、5…ガイドギブ、6…昇降装置、7…作業用油圧モータ、8…回転用ギアケース、9…アタッチメント、10…ラック、11…ピニオン、11a…ギア部、11b…軸挿通孔、11c…外面、11d…内端面、12…昇降用油圧モータ、13…出力軸、13a…出力軸本体、13b…突出軸部、13c…周方向溝、13d…溝側面、13e…溝底面、13f…肩部、13g…基端側溝側面、14…抜止部材、14a…リング半体、14b…内周面、15…取付ボルト、16…出力軸、16a…出力軸本体、16b…先端面、16c…周方向溝形成部材、16d…小径軸部、16e…大径軸部、16f…外周面、16g…基端面、16h…周方向溝、16i…肩部、17…連結ボルト、S…スプライン結合、E1,E2,E3…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の先端部と、歯車の中心に形成されている軸挿通孔とをスプライン結合させて前記回転軸と前記歯車とを一体回転可能に結合する歯車の取付構造において、前記回転軸の先端部外周に周方向溝を形成し、該周方向溝を前記歯車の軸挿通孔から外方に突出させた状態で、内周部の内径が前記周方向溝の溝底面の外径より大きく、厚さが前記周方向溝の溝幅より小さく形成されたリング状の抜止部材の内周部を前記周方向溝に挿入するとともに、該抜止部材の外周部と前記歯車の外面とを重ね合わせて取付ボルトにて結合したことを特徴とする歯車の取付構造。
【請求項2】
前記周方向溝は、前記回転軸の先端部外周面を切削して形成されていることを特徴とする請求項1記載の歯車の取付構造。
【請求項3】
前記周方向溝は、前記回転軸より小径の小径軸部と該小径軸部より大径の大径軸部とを有する周方向溝形成部材を、前記小径軸部側を前記回転軸の先端面に当接させて結合することにより形成されていることを特徴とする請求項1記載の歯車の取付構造。
【請求項4】
前記抜止部材は、周方向に複数に分割されて形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の歯車の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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