説明

歯間ブラシ等のブラシ及びその製造方法

【課題】 使用時に知覚過敏や違和感の生じにくい歯間ブラシを提供する。
【解決手段】 この歯間ブラシはモール糸を熱処理して得られたものである。歯間ブラシの軸部は芯糸と押さえ糸とで構成されている。また、歯間ブラシの刷毛部は花糸で構成されている。芯糸及び押さえ糸の少なくともいずれか一方には、熱融着性繊維が含有されている。熱融着性繊維としては、鞘部が低融点成分で芯部が高融点成分であって、低融点成分が熱融着成分として機能する芯鞘型複合繊維を用いるのが好ましい。そして、この熱融着性繊維の融着により、芯糸及び押さえ糸が一体化して、歯間ブラシの軸部となっている。また、刷毛部を構成する花糸は、熱融着性繊維の融着によって、歯間ブラシの軸部に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部と、この軸部から放射状に又はこの軸部から外方へループ状に形成された刷毛部とからなる歯間ブラシ等のブラシ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯間ブラシとして、金属線からなる軸部と、金属線に捩じり止めされた短繊維よりなる刷毛部とで構成されたものが用いられている。しかしながら、軸部が金属線で構成されていると、金属線が歯や歯肉に接触し、知覚過敏や不快な違和感を生じることがあった。また、歯や歯肉が金属線の擦過によって、損傷するということもあった。さらに、金属線の錆によって、歯間ブラシが不潔になるということもあった。
【0003】
このため、金属線の表面を合成樹脂等の有機物質で被覆することが、種々提案されている。たとえば、特許文献1では、金属線の表面をナイロンやポリウレタンで被覆することが提案されている。特許文献2では、金属線の表面を各種の天然樹脂及び/又は合成樹脂やゴム等で被覆することが提案されている。特許文献3では、金属線の表面をフッ素樹脂で被覆することが提案されている。
【0004】
しかしながら、金属線の表面を有機物質で被覆しても、被覆金属線で短繊維を捩じり止めする際に剪断力が作用し、有機物質の被覆に亀裂が入ると共に、この被覆は剥離するということがあった。亀裂が入ると、金属線が露出して、上記したような知覚過敏や不快な違和感が生じる等の欠点が引き起こされる。また、剥離した状態で歯間ブラシとして使用すると、剥離片が口中に残ったり、剥離部分に食物の残査が付着して不潔になるということもあった。
【0005】
【特許文献1】実公平1−41304号公報(実用新案登録請求の範囲)
【特許文献2】特開平5−305007号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2000−175942公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、本発明者は、金属線を用いないで、歯間ブラシ等のブラシの軸部を得るべく、鋭意検討していたところ、芯糸と押さえ糸とで軸糸が構成され、この軸糸の外周から花糸が放射状に延びているカットモール糸又は花糸が軸糸から外方へループの形態で延びて全体として螺旋状に旋回しているループモール糸(本発明においては、カットモール糸及びループモール糸の両者をまとめて、モール糸という。)を利用できるのではないかと想い至った。モール糸は、周知のように、天然繊維や合成繊維で構成されているものであり、金属線を使用しているものではない。したがって、これを歯間ブラシとして利用できれば、上記したような知覚過敏等の各種の欠点を完全に防止しうるものとなる。しかしながら、モール糸は柔らかい風合いと嵩高さに特徴を有するものであり、セーター等の秋冬物用衣料の素材として汎用されている。したがって、軸方向に柔軟すぎて、そのまま歯間ブラシとして使用することはできない。
【0007】
そこで、本発明は、芯糸及び押さえ糸の少なくともいずれか一方に、熱融着性繊維を含有させ、これを融着固化させることによって、軸糸に剛性を与えて、歯間ブラシとして利用しうるようにしたものである。特に、熱融着性繊維の融着固化の際に、軸方向に緊張することによって、軸糸に十分な剛性を与えて、歯間ブラシとして使用しうるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、モール糸を熱処理して得られたブラシであって、ブラシの軸部は芯糸と押さえ糸とで構成され、該軸部に固定されたブラシの刷毛部は花糸で構成され、該軸部は、該芯糸及び該押さえ糸の少なくともいずれか一方に含有されている熱融着性繊維の融着により、両糸が一体化して形成されており、該刷毛部は、該花糸が該熱融着性繊維の融着によって、該軸部に固定されて形成されていることを特徴とするブラシに関するものである。また、本発明は、芯糸と押さえ糸との撚りの間に花糸を挿入してモール糸を得る際に、該芯糸及び該押さえ糸の少なくともいずれか一方に熱融着性繊維を含有させ、得られたモール糸を軸方向に緊張しながら熱処理し、該熱融着性繊維を融着させて、該芯糸、該押さえ糸及び該花糸を固定し、該芯糸と該押さえ糸とで軸部が形成され、該花糸で刷毛部が形成されていることを特徴とするブラシの製造方法に関するものである。
【0009】
本発明においては、従来周知の方法でモール糸を準備するのであるが、まず、モール糸を製造する際に用いる芯糸、押さえ糸及び花糸について説明する。芯糸及び押さえ糸としては、一般に、複数本の繊維で構成された糸条が用いられる。たとえば、複数本のフィラメントで構成されたマルチフィラメント糸条や、複数本の短繊維で構成された紡績糸条等が用いられる。芯糸及び押さえ糸は、一般に、各々1本づつの糸条が用いられる。しかし、花糸の固定のためや芯糸及び押さえ糸の補強のため、2本以上の芯糸及び/又は押さえ糸を用いてもよい。芯糸及び押さえ糸となる糸条の太さは任意でよい。歯間ブラシとして好適な太さ(芯糸及び押さえ糸との合計太さ)は、2000〜6000デシテックス程度である。使用者の歯間のサイズにより、SSSサイズ(0.7mm程度の孔を通過するサイズ)は2000〜3000デシテックス程度、SSサイズ(0.8mm程度の孔を通過するサイズ)は3000〜4000デシテックス程度、Sサイズ(1.0mm程度の孔を通過するサイズ)は4000〜5000デシテックス程度、Mサイズ(1.2mm程度の孔を通過するサイズ)は5000〜6000デシテックス程度であるのが好ましい。糸条を構成する繊維の種類としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等の有機繊維が用いられる。特に、ポリエステル繊維は、そのままでも又は融着固化した後も、高剛性のため、芯糸及び押さえ糸として用いるのに適している。そして、この繊維の太さは、一般的に、7〜13デシテックス程度である。芯糸と押さえ糸とは、同一の糸条であっても、別種の糸条であっても差し支えない。一般には、バランスを良くするために、同一の糸条を用いるのが好ましい。
【0010】
芯糸及び押さえ糸の少なくともいずれか一方には、熱融着性繊維が含有されている。すなわち、芯糸に熱融着性繊維が含有されていてもよいし、押さえ糸に熱融着性繊維が含有されていてもよいし、両糸に熱融着性繊維が含有されていてもよい。熱融着性繊維は、熱を与えることにより、少なくともその表面の一部が軟化又は溶融し、他の繊維と融着しうるものである。したがって、熱融着性繊維としては、花糸等を構成する他の繊維を劣化又は損傷させない温度で、少なくともその表面の一部が軟化又は溶融するものが用いられる。具体的には、熱融着成分である低融点成分のみよりなる低融点繊維、熱融着成分である低融点成分が鞘部を形成し高融点成分が芯部を形成している芯鞘型複合繊維、断面が半月状の高融点成分と熱融着成分である低融点成分とを貼り合わせてなるサイドバイサイド型複合繊維等が用いられる。なお、低融点繊維や低融点成分の素材としても、高剛性であるポリエステルを用いるのが好ましい。
【0011】
芯糸及び押さえ糸は、それを構成している全ての繊維が熱融着性繊維であってもよいし、熱融着性繊維と非熱融着性繊維とが混繊されているものであってもよい。前者の場合、熱融着性繊維としては、低融点成分と高融点成分とからなる芯鞘型又はサイドバイサイド型複合繊維を用いるのが好ましい。この理由は、芯糸及び押さえ糸はブラシの軸部となるものであるから、軸部に高融点成分よりなる繊維形態の部分を残して、その強度を高めておく方が好ましいからである。高融点成分の全く存在しない低融点成分のみよりなる低融点繊維を用いると、軸部が折れやすくなる傾向が生じる。なお、芯鞘型又はサイドバイサイド型複合繊維と共に、低融点繊維を併用して全ての繊維が熱融着性繊維で構成された芯糸及び押さえ糸を用いてもよいことは、言うまでもない。後者の場合(熱融着性繊維と非熱融着性繊維の混繊の場合)、熱融着性繊維の割合を比較的多量にし、たとえば、50質量%以上とするのが好ましく、非熱融着性繊維の割合は50質量%未満とするのが好ましい。これは、芯糸及び押さえ糸は、高剛性が要求されるブラシの軸部となるものであるから、比較的多量の熱融着性繊維で融着する方がよいということである。また、熱融着性繊維と非熱融着性繊維との区別は、熱融着性繊維の表面が軟化又は溶融する温度では、非熱融着性繊維が溶融又は軟化しないということである。つまり、非熱融着性繊維としては、高融点繊維が用いられるということである。
【0012】
芯糸及び/又は押さえ糸中に含有されている熱融着性繊維として、融着温度の異なる二種の熱融着繊維を用いてもよい。すなわち、比較的低温で融着する低熱融着性繊維と、比較的高温で融着する高熱融着性繊維を用いてもよい。低融着性繊維と高熱融着性繊維を芯糸及び/又は押さえ糸中に含有させる方法としては、1本の芯糸及び/又は押さえ糸中に、低融着性繊維と高熱融着性繊維とを混繊してもよいし、たとえば、2本の押さえ糸を用い、1本の押さえ糸には低熱融着性繊維を、他の1本の押さえ糸には高熱融着性繊維を含有させてもよい。これらの場合、低熱融着性繊維は、もちろん前記したように軸部の剛性向上のための熱融着性繊維としても機能するが、ブラシの製造段階で、花糸を芯糸及び押さえ糸に仮固定するという機能も発揮する。すなわち、モール糸を製造した後に、必要に応じて洗浄工程や乾燥工程を経て、ブラシを製造する場合があるが、この洗浄工程や乾燥工程で花糸が脱落することがある。特に、カットモール糸の場合は、ループモール糸に比べて花糸が切断されているので、この脱落がしばしば生じる。これを防止するには、モール糸を製造した後、洗浄工程の前で、モール糸を低熱処理し、花糸を低熱融着性繊維で芯糸及び/又は押さえ糸に融着固定しておくのが好ましいのである。
【0013】
花糸としては、モノフィラメント糸条又は複数本の繊維で構成されたマルチフィラメント糸条が用いられる。花糸となる糸条の太さは、一般的に、芯糸や押さえ糸となる糸条に比べて細いものが用いられる。具体的には、モノフィラメント糸条の場合、10〜50デシテックス程度のものであり、マルチフィラメント糸条の場合、100〜500デシテックス程度のものである。また、マルチフィラメント糸条を構成する繊維の太さは、一般的に、10〜50デシテックス程度である。花糸となる糸条の素材としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等の有機繊維が用いられる。特に、素材としてポリアミド(ナイロン)は、弾性回復率に優れているので好ましい。すなわち、ループモール糸の場合、それをコーンに巻き取ったとき、ループが押しつぶされて平面状となるが、ポリアミドを使用していると、緊張・熱処理時に、押しつぶされたループが元の状態に戻りやすくなるのである。また、花糸となる糸条は、芯糸及び/又は押さえ糸に含有されている熱融着性繊維が軟化又は溶融する温度では、劣化・損傷しないものであるのが好ましい。花糸となる糸条が劣化・損傷すると、ブラシの刷毛部として使用しにくくなるからである。なお、花糸にも、その一部に、少量の熱融着性繊維が含有されていてもよい。これは、軸部において、花糸と芯糸及び押さえ糸との融着性を高めるためである。
【0014】
以上のようにして準備した芯糸、押さえ糸及び花糸を用いて、従来周知のモール糸製造機を用いてモール糸を得る。すなわち、芯糸と押さえ糸との撚りの間に花糸を挿入してループ状に巻き付けてゆき、この後、このループの頂点を切断することにより、カットモール糸を得ることができる。また、両糸間に花糸を挿入してループ状に巻き付けたままで、切断することなく、このループが全体として螺旋状に旋回しているループモール糸を得ることができる。
【0015】
このモール糸を構成している芯糸及び/又は押さえ糸には、熱融着性繊維が含有されているので、この熱融着性繊維の少なくともその表面の一部が軟化又は溶融する温度で熱処理を行う。熱融着性繊維が低熱融着性繊維と高熱融着性繊維とからなる場合は、高熱融着性繊維の少なくともその表面の一部が軟化又は溶融する温度で熱処理を行う。この場合には、低熱融着性繊維も同時に軟化又は溶融することは自明である。この熱処理によって、芯糸及び押さえ糸は融着一体化され、剛性のあるブラシの軸部となる。ブラシの軸部は、プラスチック製の棒のような状態となっているが、芯糸及び/又は押さえ糸に含有されている熱融着成分の割合によって、種々の外観となる。たとえば、熱融着成分の割合が多いと、溶融又は軟化する量が多くなり、軸部表面は平滑な外観となる。すなわち、熱融着成分よりなる母体中に、熱融着成分以外の高融点成分が存在した状態となる。また、熱融着成分の割合が少ないと、高融点成分よりなる繊維が貼着された状態となり、軸部表面は軸方向に走行する繊維形態が現出した外観となる。
【0016】
カットモール糸の場合、花糸は、その中央部が芯糸及び押さえ糸の間を、軸方向と直交する方向に貫通している。そして、花糸の中央部は、芯糸及び/又は押さえ糸に含有されている熱融着性繊維の軟化又は溶融によって、融着されている。また、花糸の両端部は、芯糸及び押さえ糸の軸方向と直交する方向の外方へ延びている。したがって、花糸の中央部は、芯糸及び押さえ糸で形成された軸部に固定されており、軸部の外方へ延びた花糸の部分は刷毛部となるのである。一方、ループモール糸の場合、花糸は、切断されることなく、芯糸及び押さえ糸の間を貫通しており、ループを形成している。したがって、花糸の貫通している箇所において、芯糸及び/又は押さえ糸に含有されている熱融着性繊維の軟化又は溶融によって、融着され固定されている。このループは軸方向と直交する方向に延びていると共に、軸方向に多数形成され、全体として軸糸の周囲において螺旋状に旋回した形態となっており、この花糸の部分が刷毛部となるのである。
【0017】
モール糸を熱処理して、熱融着性繊維を軟化又は溶融させる際、モール糸を軸方向に緊張しておくのが好ましい。これによって、ブラシの軸部が完全な直線になり、しかも芯糸及び押さえ糸に含有されている熱融着性繊維等も緊密に密着した状態で一体化されるので、より剛性の高いブラシの軸部となるからである。
【0018】
本発明に係るブラシは、芯糸と押さえ糸とで軸部が形成され、花糸で刷毛部が形成される。花糸は芯糸と押さえ糸の撚り間に挿入されるので、芯糸と押さえ糸の撚り回数によって、花糸の密度を適宜決定することができる。すなわち、撚り回数を多くすれば、花糸の密度が高くなり、刷毛部が密となるし、逆に撚り回数を少なくすれば、花糸の密度が低くなり、刷毛部の密度が粗となる。
【0019】
モール糸を得る際、花糸は芯糸と押さえ糸の全ての撚りの間に挿入されていてもよい。このモール糸を用いて熱処理すると、軸部の長手方向の全てに亙って刷毛部が形成されることになる。これを所定長に切断してブラシとする。必要であれば、別途、把手を設けてもよい。たとえば、スチロール製のパイプにブラシを挿入して、かしめる方法で、パイプを把手とすることができる。一方、モール糸を得る際、一定長に亙って花糸を挿入する部位と、一定長に亙って花糸を挿入しない部位を交互に設けてもよい。このようにして得られたモール糸を熱処理すると、花糸を挿入しない部位は軸部のみとなり、花糸を挿入した部位は軸部と刷毛部とからなる。すなわち、(軸部のみ−軸部と刷毛部−軸部のみ−軸部と刷毛部・・・)の順に長手方向に並んだものが形成されるのである。そして、(軸部のみ−軸部と刷毛部)の単位で切断すれば、一方端が軸部のみで、他方端が軸部と刷毛部で形成されたブラシを得ることができ、軸部のみの箇所を把手とすることができる。また、(軸部のみの一部−軸部と刷毛部−軸部のみの一部)の単位で切断すれば、両端が軸部のみで、中央が軸部と刷毛部で形成されたブラシを得ることができる。この場合には、いずれか一方の軸部のみの箇所を把手とし、他方の軸部のみの箇所を歯間への挿入を誘導する箇所とすることができ、歯間ブラシとして好適である。
【0020】
なお、以上では、主として、本発明に係るブラシが歯間ブラシとして用いられる場合について説明したが、本発明に係るブラシは、歯間ブラシ以外の試験管洗い用ブラシやコップ洗い用ブラシ等の清掃用ブラシとしても、好適に使用しうるものである。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明に係るブラシは、有機繊維で構成された芯糸、押さえ糸及び花糸を原料とするものであって、金属線は用いられていないので、歯間ブラシとして用いたときには、知覚過敏や不快な違和感を殆ど生じさせず、また、歯や歯肉の損傷も防止しうるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明に係る方法は、モール糸を軸方向に緊張しながら熱処理して、芯糸及び/又は押さえ糸に含有されている熱融着性繊維を軟化又は溶融して、ブラシの軸部を得るものであるから、比較的高剛性の軸部が得られる。したがって、本発明に係る方法で得られたブラシは、使用時に軸部が折れたり、曲がったりするのを防止しうるという効果を奏する。
【実施例】
【0023】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明の特徴は、モール糸を利用して歯間ブラシ等のブラシを得た点に存するものとして、理解されるべきである。
【0024】
実施例1
以下の芯糸、押さえ糸及び花糸を準備した。
[芯糸]
融点が160℃の低融点ポリエステルが鞘部を形成し、融点が250℃の高融点ポリエステルが芯部を形成している芯鞘型複合フィラメント(約8.5デシテックス)を192本集束してなる、1650デシテックス/192フィラメントのマルチフィラメント糸条を、芯糸として準備した。
[押さえ糸]
上記芯糸と同一のマルチフィラメント糸条を、押さえ糸として準備した。
[花糸]
融点が213℃のナイロンよりなる単相フィラメント(約33デシテックス)を10本集束してなる、330デシテックス/10フィラメントのマルチフィラメント糸条を、花糸とした準備した。
【0025】
上記芯糸、押さえ糸及び花糸を用いて、モール糸製造機(小関製作所社製)で、ループモール糸を製造し、コーンに巻き取った。なお、花糸は、芯糸と押さえ糸の撚りの間に挿入した。そして、コーンからループモール糸を巻き戻し、ループモール糸の軸方向に緊張下で、170℃で1分間の条件で熱処理した。この熱処理によって、芯糸及び押さえ糸中の低融点ポリエステルが溶融固化し、芯糸及び押さえ糸は一体化した。したがって、芯糸及び押さえ糸を構成している芯鞘型複合フィラメントは、いずれも熱融着性繊維として機能しているものである。一方、花糸は、この熱処理で、芯糸及び押さえ糸中を貫通している箇所で融着固定されたが、各ループは何ら劣化乃至損傷しなかった。以上のようにして、芯糸及び押さえ糸が一体化した軸部と、軸部の外方へ多数のループが延び、全体として軸部の周囲において螺旋状に旋回している花糸からなる刷毛部とを備えたものが得られた。これを、50mmの長さに切断して、SSサイズの歯間ブラシを得た。
【0026】
実施例2
芯糸及び押さえ糸であるマルチフィラメント糸条を、以下のものに変更した他は、実施例1と同一の方法でSSSサイズの歯間ブラシを得た。
[芯糸]
融点が160℃の低融点ポリエステルが鞘部を形成し、融点が250℃の高融点ポリエステルが芯部を形成している芯鞘型複合フィラメント(約11.5デシテックス)を96本集束してなる、1100デシテックス/96フィラメントのマルチフィラメント糸条を、芯糸として準備した。
[押さえ糸]
上記芯糸と同一のマルチフィラメント糸条を、押さえ糸として準備した。
【0027】
実施例3
芯糸及び押さえ糸であるマルチフィラメント糸条を、以下のものに変更した他は、実施例1と同一の方法でSサイズの歯間ブラシを得た。
[芯糸]
融点が160℃の低融点ポリエステルが鞘部を形成し、融点が250℃の高融点ポリエステルが芯部を形成している芯鞘型複合フィラメント(約9デシテックス)を240本集束してなる、2210デシテックス/240フィラメントのマルチフィラメント糸条を、芯糸として準備した。
[押さえ糸]
上記芯糸と同一のマルチフィラメント糸条を、押さえ糸として準備した。
【0028】
実施例4
芯糸及び押さえ糸として、実施例1で使用したのと同一のものを準備した。また、花糸として、以下のものを準備した。
[花糸]
融点が250℃のポリエステルよりなる単相フィラメント(約11デシテックス)を10本集束してなる、110デシテックス/10フィラメントのマルチフィラメント糸条を、花糸とした準備した。
【0029】
上記芯糸、押さえ糸及び花糸を用いて、モール糸製造機(小関製作所社製)で、カットモール糸を製造した。なお、花糸は、芯糸と押さえ糸の撚りの間に挿入した。そして、このカットモール糸を洗浄及び乾燥した後、カットモール糸の軸方向に緊張下で、180℃で1分間の条件で熱処理した。この熱処理によって、芯糸及び押さえ糸中の低融点ポリエステルが溶融固化し、芯糸及び押さえ糸は一体化した。したがって、芯糸及び押さえ糸を構成している芯鞘型複合フィラメントは、いずれも熱融着性繊維として機能しているものである。一方、花糸は、この熱処理で、その中央部が芯糸及び押さえ糸に融着固定されたが、その両端部は何ら劣化乃至損傷しなかった。以上のようにして、芯糸及び押さえ糸が一体化した軸部と、軸部から放射状に外方へ延びている花糸からなる刷毛部とを備えたものが得られた。これを、50mmの長さに切断して、SSサイズの歯間ブラシを得た。
【0030】
実施例5
芯糸及び押さえ糸であるマルチフィラメント糸条を、実施例2で使用したものに変更した他は、実施例4と同一の方法でSSSサイズの歯間ブラシを得た。
[芯糸]
融点が160℃の低融点ポリエステルが鞘部を形成し、融点が250℃の高融点ポリエステルが芯部を形成している芯鞘型複合フィラメント(約11.5デシテックス)を96本集束してなる、1100デシテックス/96フィラメントのマルチフィラメント糸条を、芯糸として準備した。
[押さえ糸]
上記芯糸と同一のマルチフィラメント糸条を、押さえ糸として準備した。
【0031】
実施例6
芯糸及び押さえ糸であるマルチフィラメント糸条を、実施例3で使用したものに変更した他は、実施例4と同一の方法でSサイズの歯間ブラシを得た。
【0032】
実施例7
以下の芯糸、押さえ糸1、押さえ糸2及び花糸を準備した。
[芯糸]
融点が160℃の低融点ポリエステルが鞘部を形成し、融点が250℃の高融点ポリエステルが芯部を形成している芯鞘型複合フィラメント(約8.5デシテックス)を192本集束してなる、1650デシテックス/192フィラメントのマルチフィラメント糸条を、芯糸として準備した。
[押さえ糸1]
上記芯糸と同一のマルチフィラメント糸条を、押さえ糸1として準備した。
[押さえ糸2]
融点が105℃の低融点ポリエステルよりなる低融点フィラメント(約9デシテックス、ユニチカファイバー株式会社製、商品名「フロールM」)を12本集束してなる、110デシテックス/12フィラメントのマルチフィラメント糸条を、押さえ糸2として準備した。
[花糸]
融点が250℃のポリエステルよりなる、22デシテックスの単相モノフィラメントを5本引き揃えたものを、花糸とした準備した。
【0033】
上記芯糸、押さえ糸1、押さえ糸2及び花糸を用いて、モール糸製造機(小関製作所社製)で、カットモール糸を製造した。なお、花糸は、芯糸と押さえ糸の撚りの間に挿入した。そして、このカットモール糸を120℃で乾熱処理した。この処理によって、押さえ糸2が溶融固化し、花糸を仮固定した。次いで、洗浄及び乾燥した後、カットモール糸の軸方向に緊張下で、180℃で1分間の条件で熱処理した。この熱処理によって、芯糸及び押さえ糸1中の低融点ポリエステル、更には押さえ糸2が溶融固化し、芯糸及び押さえ糸1,2は一体化した。したがって、芯糸及び押さえ糸1を構成している芯鞘型複合フィラメント、更には押さえ糸2を形成している低融点フィラメントは、いずれも熱融着性繊維として機能しているものであり、また、押さえ糸2は仮固定時の熱融着性繊維としても機能しているものである。一方、花糸は、乾熱処理及び熱処理で、その中央部が芯糸及び押さえ糸1、2に融着固定されたが、その両端部は何ら劣化乃至損傷しなかった。以上のようにして、芯糸及び押さえ糸1、2が一体化した軸部と、軸部から放射状に外方へ延びている花糸からなる刷毛部とを備えたものが得られた。これを、50mmの長さに切断して、SSサイズの歯間ブラシを得た。
【0034】
実施例4〜7に係る方法で得られた歯間ブラシの軸部の剛性を、KES法の曲げ特性Bの測定方法で測定したところ、以下のとおりであった。すなわち、実施例4に係る方法で得られた歯間ブラシは21.5gf・cm2/cmであり、実施例5のものは9.6gf・cm2/cmであり、実施例6のものは50.3gf・cm2/cmであり、実施例7のものは20.4gf・cm2/cmであった。この結果、実施例4〜7のものは、いずれも歯間ブラシとして使用したとき、軸部が折れにくく、また曲がりにくいものであった。また、実施例1〜3に係る方法で得られた歯間ブラシの各軸部は、各々、実施例4〜6に係る方法で得られた歯間ブラシの各軸部と同一構成であるので、同等の剛性を有し、いずれも歯間ブラシとして使用したとき、軸部が折れにくく、また曲がりにくいものであった。さらに、実施例1〜3に係る方法で得られた歯間ブラシは、花糸が切断されていないループモール糸から得られるものであるため、刷毛部が脱落しにくく、好ましいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モール糸を熱処理して得られたブラシであって、ブラシの軸部は芯糸と押さえ糸とで構成され、該軸部に固定されたブラシの刷毛部は花糸で構成され、該軸部は、該芯糸及び該押さえ糸の少なくともいずれか一方に含有されている熱融着性繊維の融着により、両糸が一体化して形成されており、該刷毛部は、該花糸が該熱融着性繊維の融着によって、該軸部に固定されて形成されていることを特徴とするブラシ。
【請求項2】
ブラシが歯間ブラシである請求項1記載のブラシ。
【請求項3】
熱融着性繊維として、鞘部が低融点成分で芯部が高融点成分であり、該低融点成分が熱融着成分として機能する芯鞘型複合繊維を用いる請求項1又は2記載のブラシ。
【請求項4】
芯糸と押さえ糸の素材がポリエステルであり、花糸の素材がポリアミドである請求項1乃至3のいずれか一項に記載のブラシ。
【請求項5】
芯糸と押さえ糸との撚りの間に花糸を挿入してモール糸を得る際に、該芯糸及び該押さえ糸の少なくともいずれか一方に熱融着性繊維を含有させ、得られたモール糸を軸方向に緊張しながら熱処理し、該熱融着性繊維を融着させて、該芯糸、該押さえ糸及び該花糸を固定し、該芯糸と該押さえ糸とで軸部が形成され、該花糸で刷毛部が形成されていることを特徴とするブラシの製造方法。
【請求項6】
熱融着性繊維として、低熱融着性繊維と高熱融着性繊維の二種を用い、モール糸を得た後、熱処理前に低熱融着性繊維を融着させて花糸を仮固定する請求項5記載のブラシの製造方法。
【請求項7】
ブラシが歯間ブラシである請求項5又は6記載のブラシの製造方法。
【請求項8】
熱融着性繊維として、鞘部が低融点成分で芯部が高融点成分であり、該低融点成分が熱融着成分として機能する芯鞘型複合繊維を用いる請求項5乃至7のいずれか一項に記載のブラシの製造方法。
【請求項9】
芯糸と押さえ糸の素材がポリエステルであり、花糸の素材がポリアミドである請求項5乃至8のいずれか一項に記載のブラシの製造方法。