説明

残留塩素計

【課題】残留塩素計において、利用者が負担する装置の交換・保守点検費用を低減し、効率的な電極洗浄を可能にする。
【解決手段】残留塩素計1は、試料水が流入及び流出するセル部10と、作用極11Aを備えてセル部10内に固設される電極軸11と、セル部10内で電極軸11に回転自在に軸支されて内部に試料水が通過可能な電極研磨材容器13と、電極研磨材容器13内に収容されて作用極11Aに接するように配置される電極研磨材14とを備え、電極研磨材容器13は、セル部10内での試料水の水流を受けて電極研磨材容器13を電極軸11周りに回転させる羽根体15を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポーラログラフ法による残留塩素計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料水中に浸漬した作用極と対極との間に電圧を印加し、両極間を流れる電流に基づき試料水中の遊離残留塩素濃度を測定するポーラログラフ法による残留塩素計は、試薬を使用することなく遊離残留塩素濃度を測定することが可能であり、廃液処理も不要であることから、例えば、上水道,簡易水道,専用水道などにおいて、毎日の検査が義務付けられている水道水の残留塩素濃度の連続自動測定を行うものとして広く普及している。
【0003】
ポーラログラフ法による残留塩素計によって試料水中の残留塩素濃度を連続測定する際には、試料水の含有成分に加えて対極から溶出した金属が作用電極に付着して作用極の感度が低下することから、作用極の周りの試料水中にビーズ状の電極研磨材を混在させて、作用極を電極研磨材で研磨する電極洗浄が測定中に常時必要とされている。
【0004】
この電極洗浄を行う手段としては、従来は、ビーズ状の電極研磨材を入れたセルの中で電極に回転や振動を付与したり、電極の外周にビーズ状の電極研磨材を入れた外筒を設けて、その外筒を回転させたりすることが行われている(下記特許文献1参照)。
【0005】
また、特許文献2に記載されるように、試料水の水流を利用して作用極の周囲に配置したビーズ状の電極研磨材を撹拌させて電極を洗浄することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−295266号公報
【特許文献2】特開2004−53548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前者の従来技術のように、電極洗浄を行う手段として電極や電極研磨材を入れた外筒に回転や振動を付与するものでは、回転や振動を付与するための電動機が必要になる。残留塩素計は年中を通して日夜連続運転を行わなければならないので、電動機の寿命により1〜2年に1回程度の頻度で残留塩素計本体やその駆動部の交換が必要になり、また、電動機を利用するに際して制御回路などの電子部品の保守点検が必要になるので、長期使用時の装置の交換・保守点検費用が利用者の負担になる問題があった。更には、電動機を利用していることで、装置本体を小型・軽量化し難い問題があった。
【0008】
また、電動機によって電極などを回転させるものでは、試料水に浸かる電極や電極研磨材を入れた外筒とこれらを回転駆動する電動機との間の軸受にシール構造を設ける必要があるので、構造が複雑になり残留塩素計がコスト高になる問題があった。
【0009】
一方、後者の従来技術のように、電極洗浄を行う手段として、試料水の水流を利用して作用極の周囲に配置したビーズ状の電極研磨材を撹拌させるものでは、撹拌される電極研磨材の運動量を大きくして電極の洗浄精度を高めようとすると電極研磨材の密度を低くせざるを得ず、電極に当たる電極研磨材の単位時間あたりの回数が低くなり、効率的に電極洗浄を行うことができない問題が生じる。これに対して、電極研磨材の密度を高くすると、試料水の水流のみでは電極研磨材の全体を適正に撹拌できない問題が生じる。
【0010】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、残留塩素計において利用者が負担する装置の交換・保守点検費用を低減すること、軸受けのシール構造を不要として残留塩素計のコスト低減を図ること、電動機を用いない構造で残留塩素計の小型・軽量化を可能にすること、試料水の水流を利用しながら効率的に電極洗浄を行うことができること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明による残留塩素計は、以下の構成を少なくとも具備するものである。
試料水中に浸漬した作用極と対極との間に電圧を印加し、両極間を流れる電流に基づき試料水中の遊離残留塩素濃度を測定する残留塩素計において、試料水が流入及び流出するセル部と、前記作用極を備えて前記セル部内に固設される電極軸と、前記セル内で前記電極軸に回転自在に軸支されて内部に試料水が通過可能な電極研磨材容器と、前記電極研磨材容器内に収容されて前記作用極に接するように配置される電極研磨材とを備え、前記電極研磨材容器には、前記セル部内での試料水の水流を受けて当該電極研磨材容器を前記電極軸周りに回転させる羽根体を備えることを特徴とする残留塩素計。
【発明の効果】
【0012】
本発明の残留塩素計は、このような特徴を具備することで、以下の効果を得ることができる。すなわち、電動機などの駆動力を用いることなく試料水の水流のみによって電極研磨材容器を電極軸の周りに回転させるので、装置の耐久性が高く、利用者が負担する装置の交換・保守点検費用を極力低減することが可能になる。セル部内で電極研磨材容器を電極軸に回転自在に軸支するための軸受け(水中ベアリング)はシール構造が不要になるので、構造が簡単で残留塩素計のコスト低減を図ることができる。電動機を用いない構造で残留塩素計の小型・軽量化が可能になる。電極研磨材容器内の電極研磨材を常に作用極に接触させた状態で電極研磨材容器を回転させることができるので、試料水の水流を利用しながら効率的に電極洗浄を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る残留塩素計の構造を示した説明図である(図1(a)が縦部分断面図、図1(b)が図1(a)におけるX−X断面図)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る残留塩素計の構造を示した説明図である(図1(a)が縦部分断面図、図1(b)が図1(a)におけるX−X断面図)。残留塩素計1は、セル部10、電極軸11、信号用コネクタ12、電極研磨材容器13、電極研磨材14を備える。
【0015】
セル部10は遊離残留塩素濃度を計測する対象となる試料水が流入及び流出する容器であり、試料水の流入口10Aと流出口10Bを備えている。セル部10は内部に試料水が流動するスペースSが設けられている。セル部10の形態は特に限定されないが、内部で試料水の旋回流が形成されることが好ましい。試料水の流入口10Aと流出口10Bの配置を特定することで、セル部10の内部に試料水の旋回流を効率的に形成することができる。図示の例では、流入口10Aを電極軸11の周りに一対設け、一対の流入口10A,10Aとは高さの異なる位置に一つの流出口10Bを設けている。図示の例では、セル部10は筒状をなしており、セル部の円筒状の内壁面に沿って試料水の旋回流が形成される。図示の例では、流入口10A,10Aを一対設けているが、流入口10Aは電極軸11の周りに対向して複数設けることもできる。
【0016】
セル部10の上部には信号用コネクタ12が取り付けられており、信号用コネクタ12に電極軸11が接続されている。電極軸11は作用極11Aを備えてセル部10内に固設されている。図示の例では、円筒状のセル部10の中心軸に沿って電極軸11が配置されており、電極軸11の下端に設けた作用極11Aがセル部10内に流入する試料水中に浸漬するようになっている。
【0017】
電極研磨材容器13は、セル部10内で電極軸11に回転自在に軸支されている。電極軸11は棒状の部材であり、その中心軸が回転軸になるように水中ベアリング13Aを介して電極研磨材容器13が装着されている。また、電極研磨材容器13は、セル部10と同心の円筒状であり、周囲が網状の壁で囲まれてその内部には試料水が通過可能になっている。電極研磨材容器13内に電極軸11の先端が配置され、その先端に作用極11Aが配置されている。
【0018】
電極研磨材容器13内には作用極11Aを研磨するための電極研磨材14が収容されている。電極研磨材14はビーズ状の部材であり、複数の電極研磨材14が作用極11Aに接するように配置されている。複数の電極研磨材14が作用極11Aに動的に接することで作用極11Aの表面が研磨される。
【0019】
電極研磨材容器13は、セル部10内での試料水の水流を受けて電極研磨材容器13を電極軸11周りに回転させる羽根体15を備えている。図示の例では、羽根体15は電極研磨材容器13の側面に設けられ、セル部10の内部に形成される水流を受けて電極研磨材容器13を電極軸11の周りに回転させる。また、図示の例では、羽根体15は電極軸11に沿った屈折部15Aを有する。このような屈折部15Aを設けることで水の抵抗を抑制し効率的な回転が可能になる。
【0020】
このような残留塩素計1によると、セル部10の流入口10Aからセル部10内に導入された試料水に電極軸11の先端に設けられた作用極11Aと図示省略した対極を浸漬して、これら電極間に信号用コネクタ12を介して計測用の電圧を印加する。そして、このときの電極間に流れる電流に基づいて試料水中の遊離残留塩素濃度を測定する。
【0021】
この際、セル部10の流入口10Aから流入して流出口10Bから流出する試料水の流動をセル部10内で電極研磨材容器13に取り付けられた羽根体15が受けて、電極研磨材容器13が電極軸11の周りで回転する。電極研磨材容器13の中には複数の電極研磨材14が収容されており、その電極研磨材14は作用極11Aに接しているので、電極研磨材容器13が回転すると電極研磨材14が作用極11Aの表面を擦り、作用極11Aの付着物を削ぎ落として作用極11Aの表面を常時適正な状態に保つ。
【0022】
本発明の実施形態に係る残留塩素計1によると、電動機などの駆動力を用いることなく試料水の水流のみによって電極研磨材容器13を電極軸11の周りに回転させるので、装置の耐久性が高く、利用者が負担する装置の交換・保守点検費用を低減することが可能になる。また、セル部10内で電極研磨材容器13を電極軸11に回転自在に軸支するための水中ベアリング13Aはシール構造が不要になるので、構造が簡単で残留塩素計1のコスト低減を図ることができる。電動機を用いない構造で残留塩素計1の小型・軽量化が可能になる。電極研磨材容器13内の電極研磨材14を常に作用極11Aに接触させた状態で電極研磨材容器13を回転させることができるので、試料水の水流を利用しながら効率的に電極洗浄を行うことができる。
【0023】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0024】
1:残留塩素計,10:セル部,10A:流入口,10B:流出口,
11:電極軸,11A:作用極,12:信号用コネクタ,
13:電極研磨材容器,13A:水中ベアリング,14:電極研磨材,
15:羽根体,15A:屈折部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水中に浸漬した作用極と対極との間に電圧を印加し、両極間を流れる電流に基づき試料水中の遊離残留塩素濃度を測定する残留塩素計において、
試料水が流入及び流出するセル部と、前記作用極を備えて前記セル部内に固設される電極軸と、前記セル部内で前記電極軸に回転自在に軸支されて内部に試料水が通過可能な電極研磨材容器と、前記電極研磨材容器内に収容されて前記作用極に接するように配置される電極研磨材とを備え、
前記電極研磨材容器は、前記セル部内での試料水の水流を受けて当該電極研磨材容器を前記電極軸周りに回転させる羽根体を備えることを特徴とする残留塩素計。
【請求項2】
前記セル部は、内部に試料水の旋回流を形成するように試料水の流入口と流出口を備えることを特徴とする請求項1記載の残留塩素計。
【請求項3】
前記流入口は、前記電極軸の周りに対向して複数設けられることを特徴とする請求項2記載の残留塩素計。
【請求項4】
前記セル部と前記電極研磨材容器は同心の筒状をなし、該筒状の中心軸に沿って前記電極軸が配置され、前記電極研磨材容器の側面に前記羽根体が設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された残留塩素計。
【請求項5】
前記羽根体は、前記電極軸に沿った屈折部を有することを特徴とする請求項1〜4に記載された残留塩素計。

【図1】
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【公開番号】特開2012−154676(P2012−154676A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11983(P2011−11983)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(391033816)日本電色工業株式会社 (3)