説明

段差昇降装置及びこれを用いた電動車椅子

【課題】安価で簡単な構造としながらも、階段などの段差を円滑に昇降できる段差昇降装置及びこれを用いることによって介助者なしでも階段を確実、且つ安定に昇降できる機能と平地面に凸条物や溝などが存在してもこれを跨ぐ状態で容易に通過して、平地面を円滑に走行移動できる機能とを兼ね備えた機動性の高い電動車椅子を提供する。
【解決手段】段差昇降装置は、中心部から等間隔で放射状に延びた同一長さを有する複数の取付アーム片(10a) の先端部に走行車輪(11)が取り付けられた回動アーム(10)を左右一対設け、各回動アーム(10)を回動させるための回動アーム回動用歯車(12)および回動駆動源(13)と、走行車輪(11)を回転させるための回転駆動源(17)とを備えて構成する。電動車椅子は、段差昇降装置を主機構(8) とし、さらに、段差昇降装置を簡略化した補助機構(9) とを前後に配置して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階段などの段差を容易に昇降できる段差昇降装置、及びこれを用いることによって介助者なしでも階段を容易に昇降できる機能と、平地面に凸条物や溝などが存在してもこれを跨ぐ状態で通過して、その平地面を安定に走行移動できる機能とを兼ね備えた電動車椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国では、近年において高齢化社会が一段と進み、介護保険による車椅子の福祉用貸与事業の開始により、その利用者数が年々増加している。また、2009年4月の介護保険法の改正により、可搬型階段昇降機の貸与も可能となり、介助者の操作による階段昇降が可能となり、利用者数も増加している。このような福祉用具の活用により高齢者や身体障害者等の人々の行動範囲が大きく広がり、生活の質(QOL)が少しずつ高まってきている。しかし、既存のいずれの車椅子も介助者の手助けが必要であるため、高齢者や身体障害者等が車椅子の利用によって完全に自立した生活を過ごすことができないのが実情である。
【0003】
そこで、高齢者や身体障害者等が屋内及び屋外において生活の幅を広げて一層自立した生活を送れるようにするには、階段の昇降や段差または溝などの通過を乗っている人の操作のみで容易、且つ確実に行える電動車椅子の出現が待望されている。このような目的の達成を図ったものとして、平地面を走行移動するための前輪機構と後輪とが本体フレームに設けられているのに加えて、前輪機構の位置から斜め後方に延びる主キャタピラ機構と、この主キャタピラ機構の前方に配置された副キャタピラ機構と、後輪伸縮機構とを備えた階段昇降車椅子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、従来では、中心部から等間隔に放射状に延びる多数(例えば8本)の軸部の先端にそれぞれ小車輪を配設した段差乗り越え用車輪を主車輪の前側に取り付けた車椅子も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−171549号公報
【特許文献2】特開2008−254716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の階段昇降車椅子は、主キャタピラ機構と副キャタピラ機構とにより階段を昇降するため、階段の角部に対して高い摩擦力を確保する必要があるので、両キャタピラ機構に大きな摩擦係数を確保できる凹凸を設けなければならないことから、階段の角部を傷付けたり、大きな傾斜角度の階段を昇降する際にスリップするおそれがある。しかも、この階段昇降車椅子では、後輪伸縮機構と後輪スライド機構とを駆動制御することにより、平地面を走行する場合に、両キャタピラ機構を平地面の上方に浮かせて前輪と後輪とによる車輪走行モードに切り換え、一方、階段を昇降する場合に、両キャタピラ機構のみが階段の角部に接触する階段昇降モードに切り換える必要があるため、機動性に乏しい大きな欠点がある。さらに、この階段昇降車椅子は、主キャタピラ機構、副キャタピラ機構、後輪伸縮機構および後輪スライド機構などの多くの機構を設ける必要があるので、構成の複雑化に伴って、コスト高となるだけでなく、故障が多発する可能性がある。一方、特許文献2の車椅子は、屋外の走行移動時に10mm程度の幅の凸条物を乗り越えることができるだけであり、階段を昇降するのが不可能なものである。
【0006】
本発明は、安価で簡単な構造としながらも、階段などの段差を円滑に昇降できる段差昇降装置、及びこれを用いることによって介助者なしでも階段を確実、且つ安定に昇降できる機能と、平地面に凸条物や溝などが存在してもこれを跨ぐ状態で容易に通過して、平地面を円滑に走行移動できる機能とを兼ね備えた機動性の高い電動車椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の段差昇降装置は、同一構成の走行ユニットが走行方向に対し左右一対設けられ、左右の前記各走行ユニットは、中心部から等間隔で放射状に延び、且つ同一長さを有する少なくとも3つの取付アーム片が一体形成された回動アームと、前記各取付アーム片の先端部にそれぞれ回転自在に取り付けられた同一径の複数の走行車輪と、前記回動アームの中心部に固着されたアーム回動用歯車と、単一の回転軸の両端部に固着されて左右の前記アーム回動用歯車にそれぞれ噛合する回転伝達歯車と、前記回転軸に回転力を付与して左右の前記回転伝達歯車およびアーム回動用歯車を介して左右の前記回動アームを同一方向に同一回動速度で回動させる回動駆動源と、左右の前記回動アームの各走行車輪を同一方向に同一速度で回転させる回転駆動源とを備え、左右の前記走行ユニットが、前記回転軸が回転自在に装着された支持体を介して互いに連結されている。
【0008】
請求項2に係る発明の段差昇降装置は、請求項1に係る発明において、前記回動アームは、3つの前記取付アーム片が120°の等間隔で一体形成され、前記回転駆動源が左右一対設けられるとともに、この各回転駆動源により回転駆動される回転伝達軸が、左右の前記アーム回動用歯車の中心部にそれぞれ埋設された軸受を介して左右の前記回動アームの中心部に貫通状態で回転自在に支持され、左右の前記回動アームの3つの前記取付アーム片にそれぞれ回転自在に設けられて、前記回転伝達軸の左右両端部にそれぞれ固着された各原動歯車に個々に噛合する3つの受動歯車を備え、前記各取付アーム片に、前記受動歯車の回転力を前記走行車輪に伝達する回転伝達機構が設けられている。
【0009】
請求項3に係る発明の段差昇降装置を用いた電動車椅子は、請求項1または2に係る発明の段差昇降装置と同一構成を有する主機構および補助機構が前後に配置して設けられ、前記補助機構は、中心部から等間隔で放射状に延び、且つ同一長さを有する少なくとも3つの取付アーム片が一体形成された補助回動アームと、前記各取付アーム片の先端部にそれぞれ回転自在に取り付けられた同一径の複数の補助走行車輪と、前記補助回動アームの中心部に固着された補助アーム回動用歯車と、前記補助アーム回動用歯車に噛合する補助回転伝達歯車と、前記補助回転伝達歯車が固着された回転軸に回転力を付与して前記補助回転伝達歯車および補助アーム回動用歯車を介して前記補助回動アームを回動させる補助回動駆動源と、前記各補助走行車輪を同一方向に同一速度で回転させる補助回転駆動源とにより構成され、車椅子の車体フレームが、前記主機構の回転軸に軸受箱を介し取り付けられて支持された車台板部と、背板部と前記車台板部の先端部とに支持された座面板部と、この座面板部と前記背板部とに固定された左右の側板部と、前記車台板部から前記補助機構部に向け延出して該補助機構の前記回転軸に軸受箱を介し取り付けられて支持された補助板部とにより構成され、前記主機構の回動駆動源と回転駆動源および前記補助回動駆動源と補助回転駆動源の回転をそれぞれ制御する制御部と、この制御部による制御を手動操作により行う操作部と、駆動電力を供給するバッテリとを備えている。
【0010】
請求項4に係る発明の段差昇降装置を用いた電動車椅子は、請求項3の発明において、階段などの段差に近接したときに当該段差の段差高さおよび奥行きを認識して検知するセンサと、前記回動アームおよび前記補助回動アームの回動時にいずれかの走行車輪または補助走行車輪が段差面に当接したことを検出する近接センサとを有する検知手段を備え、
前記制御部が、前記検知手段からの検知信号に基づいて前記主機構の回動駆動源と回転駆動源および前記補助回動駆動源と補助回転駆動源の各々の回転角度を制御する。
【0011】
請求項5に係る発明の段差昇降装置を用いた電動車椅子は、請求項4の発明において、前記制御部が、前記検知手段からの検知信号に基づいて前記回動アームまたは前記補助回動アームが段差に対し昇る方向に向け回動させるように前記主機構の回動駆動源または前記補助機構の補助回動駆動源を回転駆動するときに、前記主機構の走行車輪または前記補助機構の補助走行車輪を段差から離間する方向に向け所定距離だけ走行移動するように前記主機構の回転駆動源または前記補助機構の補助回転駆動源を制御する。
【0012】
請求項6に係る発明の段差昇降装置を用いた電動車椅子は、請求項1または2に記載の段差昇降装置と同一構成を有する主機構および補助機構が前後に配置して設けられ、前記補助機構は、中心部から等間隔で放射状に延び、且つ同一長さを有する少なくとも3つの取付アーム片が一体形成された補助回動アームと、前記各取付アーム片の先端部にそれぞれ回転自在に取り付けられた同一径の複数の補助走行車輪と、前記補助回動アームの中心部に固着された補助アーム回動用歯車と、前記補助アーム回動用歯車に噛合する補助回転伝達歯車と、前記補助回転伝達歯車が固着された回転軸に回転力を付与して前記補助回転伝達歯車および補助アーム回動用歯車を介して補助回動アームを回動させる補助回動駆動源と、前記各補助走行車輪を同一方向に同一速度で回転させる補助回転駆動源とにより構成され、車椅子の車体フレームが、前記主機構の回転軸および前記補助機構に各々の下端部がそれぞれ回動自在に支持されて上下方向に配置された主脚部フレームおよび補助脚部フレームと、この主脚部フレームおよび補助脚部フレームの各々の上端部が回動自在に取り付けられて前記主脚部フレームおよび前記補助脚部フレームに支持された座面板部と、この座面板部の下方に位置して、両端部が前記主脚部フレームおよび前記補助脚部フレームに回動自在に連結された伸縮連結部材とにより構成され、前記主機構の回動駆動源と回転駆動源および前記補助回動駆動源と補助回転駆動源を回転制御するとともに、前記伸縮連結部材を伸縮させて前記主脚部フレームおよび前記補助脚部フレームを前記座面板部との連結部位を支点として下方側を揺動させることにより前記主機構と補助機構との間隔を可変させるように制御する制御部と、前記制御部による制御を手動操作により行う操作部と、駆動電力を供給するバッテリとを備えている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る段差昇降装置によれば、一般道路などの平地面を走行する場合は、左右の複数の走行車輪のうちの平地面に着地する2つの走行車輪が回転駆動源により回転駆動されることによってスムーズに走行移動することができる。一方、階段などの段差を昇降する場合には、回動駆動源によって回動アームが回動されることにより、上方に位置している走行車輪がこれが取り付けられた取付アーム片の回動によって段差面上に乗り上げ、この状態から着地している走行車輪が段差面に当接するまで走行移動したのち、回動アームがさらに回動されることにより、つぎの走行車輪も段差面に乗り上げる。この動作を繰り返すことにより、階段を安定して昇ることができる。また、平地面に凸状部や溝が存在した場合には、回動アームが回動することによって走行車輪が凸状部や溝を跨ぐ状態で通過することができる。
【0014】
請求項2に係る段差昇降装置によれば、回動アームに3つの取付アーム片が120°の等間隔で設けられているので、4つ以上の取付アーム片を有する場合に比較して、高い段差を有する階段でも容易に昇降することができる。また、左右の走行ユニットの各走行車輪は、個別の回転駆動源により独立的に回転駆動されるので、旋回したり、螺旋階段を昇降したりすることもできる。また、回転駆動源の回転を走行車輪に伝達する回転伝達軸が左右のアーム駆動用歯車の中心部にそれぞれ埋設されている軸受けを介して回動アームの中心部に回転自在に支持されていることから、走行車輪と回動アームとをそれぞれ独立的
に駆動することができ、平地面の走行移動と階段などの昇降とに即座に、且つ容易に対応することができる。
【0015】
請求項3に係る段差昇降装置を用いた電動車椅子によれば、車体フレームを、本発明の段差昇降装置と同一構成の主機構における回転軸に軸受箱を介して荷重の殆どを支持し、前記段差昇降装置の一方の走行ユニットとほぼ同一の構成を備えた補助機構により補助的に支持することにより、簡単で安価な構造を有する電動車椅子となる。そして、平地面を走行する場合は、主機構および補助機構における複数の走行車輪のうちの平地面に着地する各2つの走行車輪および補助走行車輪が回転駆動源により回転駆動されることによってスムーズに走行移動することができる。一方、階段などの段差を昇降する場合には、主機構および補助機構の各々の回動駆動源によって回動アームおよび補助回動アームが回動されることにより、上方に位置している走行車輪が、これが取り付けられた補助取付アームまたは取付アーム片の回動によって段差面上に乗り上げ、この状態から着地している走行車輪が段差面に当接するまで走行移動したのち、回動アームまたは補助回動アームがさらに回動されることにより、つぎの走行車輪も段差面に乗り上げる。この動作を繰り返すことにより、階段を安定して昇ることができる。
【0016】
この電動車椅子は、従来の車椅子のようにキャタピラ機構を備えず、走行車輪および補助走行車輪の回転と回動アームおよび補助回動アームの回動とを互いに独立して行える構造を備えていることから、階段の角部に接触することなく階段の昇降を行えるので、階段の角部を傷付けたり、スリップするといったおそれがなく、容易、且つ確実に階段を昇降することができる。また、機構の配置を変更したりすることなく、走行状態からそのまま階段を昇ることができ、階段を昇降し終えた時点でそのまま走行状態に移行することができ、極めて機動性に優れている。すなわち、この電動車椅子は、走行車輪により走行する車輪走行モードとキャタピラで階段を昇降する階段昇降モードとに切り換える従来の電動車椅子とは異なり、階段などの段差を昇降する場合に、モードの切り換えを行うことなく、そのままの状態で回動アームが単に回動するだけであり、高い機動性を有したものとなる。
【0017】
請求項4に係る段差昇降装置を用いた電動車椅子によれば、階段などの昇降に際して回動アームまたは補助回動アームが回動するときに、上方に位置する取付アーム片の走行車輪または補助取付アーム片の補助走行車輪が段差面に当接したのを検知手段で検知して回動アームまたは補助回動アームの回動を停止することにより、階段などを安定に昇降することができる。また、階段に接近したときに、検知手段が検知した段差高さが設定値以上であった場合には、昇降を中止するようにもできる。
【0018】
請求項5に係る段差昇降装置を用いた電動車椅子によれば、着地している走行車輪または補助走行車輪が、回動する回動アームまたは補助回動アームに対しこれの中心部下方に素早くもぐり込むような相対関係になるように僅かに走行するので、回動アームまたは補助回動アームのそれぞれの回動トルクは、走行車輪または補助走行車輪の段差から離間方向への移動距離分に相当する逆トルク分だけ軽減されるから、その軽減分だけ回動アームまたは補助回動アームの蹴り上がり動作が容易となる。
【0019】
請求項6に係る段差昇降装置を用いた電動車椅子によれば、階段の昇降時に、伸縮連結部材が例えば伸長されることにより、主脚部フレームおよび補助脚部フレームが、各々の下方部が互いに離間する方向に揺動されて、八字状の相対位置関係の配置となるから、これに伴って主脚部フレームおよび補助脚部フレームを支持する主機構および補助機構の間隔が拡がるので、その拡がった分だけ車体フレームが下降して車椅子としての重心が低くなるとともに、車椅子の階段に対するアプローチ角度が小さくなり、搭乗者に安心感を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る段差昇降装置を用いた電動車椅子を示す一部破断した平面図である。
【図2】同上の電動車椅子の側面図である。
【図3】図1の主機構における右側の走行ユニット部分の拡大図である。
【図4】同上の電動車椅子の車体フレームの支持構造を示す拡大断面図である。
【図5】同上の電動車椅子の電気系統を示すブロック図である。
【図6】同上の電動車椅子が前進走行時に凸条部を通過するときの前半動作を示す説明図である。
【図7】同上の電動車椅子が前進走行時に凸条部を通過するときの後半動作を示す説明図である。
【図8】同上の電動車椅子が階段を昇るときの前半動作を順に示す説明図である。
【図9】同上の電動車椅子が階段を昇るときの後半動作を順に示す説明図である。
【図10】同上の電動車椅子が階段を昇るときの制御部の制御処理を示すフローチャートである。
【図11】同上の電動車椅子の旋回動作を行う状態を示す説明図である。
【図12】同上の電動車椅子が螺旋階段を昇る状態を示す説明図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る段差昇降装置を用いた電動車椅子を示す一部破断した平面図である。
【図14】同上の電動車椅子の概略側面図である。
【図15】同上の電動車椅子の階段を昇降する状態を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら詳述する。
【0022】
図1および図2は、本発明の第1の実施形態に係る段差昇降装置を用いた電動車椅子を示す一部破断した平面図および側面図である。この電動車椅子の車体フレーム1は、後述する主機構8に支持された車台板部2と、この車台板部2から後方へ延出して後述する補助機構に支持された補助板部7と、車台板部2に鉛直配置で立設された支持板6と、補助板部7に鉛直配置で立設された補助支持板16と、補助支持板16の水平な支持部と支持板6の上端と車台板部2の先端とに支持された座面板部4と、補助支持板16の支持部および座面板部4の後端とに支持された背板部3と、この背板部3に固定されて車台板部2の上面に支持された左右の側板部5とにより構成されている。座面板部4は、前端から斜め前側下方に向けて延び、その下端部に足乗せ板4aが設けられている。この車体フレーム1は、これの荷重が前側の主機構8により主に支持されているとともに、後側の補助機構9により補助的に支持されている。
【0023】
主機構8は、本発明の第1の実施形態に係る段差昇降装置であり、補助機構9は前記段差昇降装置の変形例である。すなわち、前記主機構8は、左右一対の走行ユニット8A,8Bからなり、これら両走行ユニット8A,8Bはそれぞれ、中心部から120°の等間隔で放射状に延びた3つの取付アーム片10aが一体形成された主回動アーム10と、3つの取付アーム片10aの先端近傍部にそれぞれ回転自在に取り付けられた主走行車輪11と、主回動アーム10の中心部内側に固定された主回動アーム回動用歯車12と、左右の主回動アーム10の回動用として共通に用いられる単一の主回動アーム回動用モータ13と、この主回動アーム回動用モータ13から左右両側へ延びた2つのモータ軸13aの各々の先端に固定されて主回動アーム回動用歯車12に噛合された回転伝達歯車14と、左右の主車輪回転用モータ17と、この主車輪回転用モータ17の各モータ軸17aにおける主回動アーム回動用歯車12および主回動アーム10をそれぞれ貫通して導出した先端部に固着された原動歯車18と、この原動歯車18にそれぞれ噛合して3つの取付アー
ム片10aの根元部に回転自在に取り付けられた3つの受動歯車19と、この各受動歯車19に同軸状に固着された3つの原動側プーリ20と、3つの走行用車輪11に同軸状に固着された受動側プーリ21と、相対する3組の各々の原動側プーリ20と受動側プーリ21とに巻き掛けられた3つのタイミングベルト22とを備えて構成されている。なお、図1では、図示の複雑化に伴う理解困難を避けるために、上下に延びる取付アーム片10aの主走行車輪11、受動側プーリ21およびタイミングベルト22の図示を省略している。
【0024】
したがって、主機構8の左右の走行ユニット8A,8Bでは、主車輪回転用モータ17の回転が原動歯車18を介して3つの受動歯車19に伝達され、各3つの受動歯車19とそれぞれ一体回転する3つの原動側タイミングプーリ20の回転がタイミングベルト22の回送を介して対応する各受動側プーリ21に伝達され、これら受動側プーリ21に同軸状に固定された3つの主走行用車輪11が同時に同一方向に同一の回転速度で回転される。一方、主回動アーム回動用モータ13の回転は、回転伝達歯車14を介して主回動用歯車12に伝達されることにより、この主回動用歯車12が固着された主回動アーム10が回動する。なお、前記主機構の両走行ユニット8A,8Bおよび補助機構9において、主回動アーム10および補助回動アーム23がそれぞれ同一形状であり、主走行車輪11および補助走行車輪24はいずれも同一径であって、且つ取付アーム片10a、23aにおける同一位置に取り付けられている。
【0025】
前記補助機構9は、前記主機構8における右側の走行ユニット8Aとほぼ同一の構成を車体フレーム1の車幅方向の中央部に配置した構成になっている。すなわち、補助機構9は、主回動アーム10と同一形状の補助回動アーム23と、この補助回動アーム23の3つの取付アーム片23aにそれぞれ回転自在に取り付けられた3つの補助走行車輪24と、補助回動アーム23の中心部に固定された補助回動アーム回動用歯車27と、補助回動アーム回動用モータ28のモータ軸28aの各々の先端に固定されて補助回動アーム回動用歯車27と、この補助回動アーム回動用歯車27に噛合された補助回転伝達歯車29と、補助車輪回転用モータ30と、この車輪回転用モータ30のモータ軸30aにおける補助回動アーム回動用歯車27および補助回動アーム23をそれぞれ貫通して導出した先端部に固着された原動歯車31と、この原動歯車31にそれぞれ噛合して3つの取付アーム片23aの根元部に回転自在に取り付けられた3つの受動歯車32と、この各受動歯車32に同軸状に固着された3つの原動側プーリ33と、3つの補助走行車輪24に同軸状に固着された受動側プーリ34と、相対する3組の各々の原動側プーリ33と受動側プーリ34とに巻き掛けられた3つのタイミングベルト37とを備えて構成されている。したがって、補助機構9の補助車輪回転用モータ30および補助回動アーム回動用モータ28の回転は、主機構8と同様の作用により補助走行車輪24および補助回動アーム23にそれぞれ伝達される。
【0026】
図3は図1の主機構8における右側の走行ユニット8A部分の拡大図を示し、同図において、主回動アーム回動用歯車12の中心部には、軸受38が埋め込まれた状態で主回動アーム10に固定されており、主車輪回転用モータ17のモータ軸17aが、前記軸受38および主回動アーム10の挿通孔10bに貫通されている。このモータ軸17aの先端に原動歯車18が固着されている。したがって、主走行車輪11を回転する原動歯車18および受動歯車19と主回動アーム回動用歯車12とは互いに独立して回転することが可能な構成になっている。補助機構9においても、図示を省略しているが、主機構8と同様に、補助走行車輪24を回転する原動歯車31および受動歯車32と補助回動アーム回動用歯車27とは互いに独立して回転することが可能な構成になっている。
【0027】
図4に示すように、主機構7の左右の主車輪回転用モータ17の各々のモータ軸17aは、車体フレーム1の車台板部2に固定されたピロー型ユニット軸受箱39を貫通する状
態で車台板部2に固定されている。したがって、車体フレーム1の車台板部2は、左右一対のピロー型ユニット軸受箱39を介在して2つの主車輪回転用モータ17,17の各モータ軸17a,17aを介し左右両側の主回動アーム10,10に架け渡す状態で支持されている。また、図3に示す主回動アーム回動用モータ13のモータ軸13aは、車体フレーム1の支持板6に固定されたピロー型ユニット軸受箱40を貫通する状態で支持板6に固定されている。
【0028】
上述した構成は、図示の複雑化に伴う理解困難を避けるために簡略化して原理のみを図示したものであって、各モータ13,17の各々のモータ軸13a,17aにそれぞれ回転伝達歯車14、原動歯車18、補助回転歯車29および原動歯車をそれぞれ固定して、回転伝達歯車14および原動歯車18を各モータ13,17により直接的に回転させるようになっている。しかしながら、実用化に際しては、回転伝達歯車14が固定された回転支軸に受動歯車を固定し、この受動歯車に、主回動アーム回動用モータ13のモータ軸13aに固定した伝達歯車を噛合する構成などが採用されるのは勿論である。原動歯車18の支持および回転伝達についても同様である。その場合、傘歯車を内蔵したL字型ギヤボックスなどを用いれば、モータを車椅子の進行方向に向けた配置とすることができ、車幅方向に対して短い小さなスペースにモータや歯車などを配置することができる。
【0029】
また、補助機構9の補助板部7は、図1に示すように、ピロー型ユニット軸受箱41を介在して補助車輪回転用モータ30のモータ軸30aを介し補助回動アーム23に支持されており、この補助板部7に、補助回動アーム回動用モータ28が固定され、この補助回動アーム回動用モータ28のモータ軸28aがピロー型ユニット軸受箱42に回転自在に支持され、このモータ軸28aの先端部に固着された回転伝達歯車29が、補助回動アーム回動用歯車27に噛合されている。
【0030】
図1および図2に示すように、前記車体フレーム1には、座面板部4の下方の空間において、制御ボックス43と、各モータ13,17,28,30に対し制御ボックス43を介して駆動電力を供給するバッテリ44とが車台板部2上に搭載されている。また、車体フレーム1における側板部5の前側上端部には、座面板部4に腰掛けている搭乗車が操作する操作盤47が設けられている。
【0031】
図5は前記電動車椅子の電気系統を示すブロック図であり、同図において、制御ボックス43には、操作盤47の操作により入力する指令信号に基づいて所要の制御信号を各モータ13,17,28,30のモータドライブ回路48〜52に対し出力するマイクロコンピュータからなる制御部53が設けられている。操作盤47には、複数の操作用の釦、例えば、前進走行釦、後進走行釦、昇段釦、降段釦、旋回釦、螺旋昇段釦、螺旋降段釦および停止釦などが設けられている。これらの各釦が操作されたときに制御部53が実行する制御プログラムはROM54に予め格納されており、制御部53が制御プログラムを実行する際に読み出すデータはRAM57に予め記憶されている。また、主機構8および補助機構9にはそれぞれ検知手段58,59が設けられている。これら検知手段58,59は、主走行車輪11や補助走行車輪24が走行中に何らかの障害物に当接した場合や、主回動アーム10や補助回動アーム23の回動に伴いいずれかの主走行車輪11や補助走行車輪24が段差面または平地面に着地した場合に、これを検知して制御部53に対し検知信号を出力する近接センサ、および階段などの段差高さおよび奥行きを検知する認識センサなどを備えている。
【0032】
つぎに、前記電動車椅子の前進走行時の動作について図6および図7を参照しながら説明する。図6(a)に示すように、図5の操作盤47における前進走行釦が操作されると、制御部53は、各主走行車輪11および各補助走行車輪24がそれぞれ矢印で示す正方向に回転するよう主車輪走回転用モータ17および補助車輪回転用モータ30を回転制御
する。このとき、主回動アーム回動用モータ13および補助回動アーム回動用モータ28は停止状態に維持される。これにより、主機構8では、左右の走行ユニット8A,8Bの各々の3つのうちの2つの主走行車輪11,11が走行路に着地した状態で走行することにより、車体フレーム1の座面板部4が水平に保たれるとともに、補助機構9も同様に、3つのうちの2つの補助走行車輪24,24が走行路に着地した状態で走行することにより、車体フレーム1の補助板部7が水平に保たれながら電動車椅子が前進走行する。この前進走行時には、車体フレーム1の重量の殆どが主機構8に荷重し、補助機構9は車体フレーム1の後部を補助支持板16を介して軽く支持するだけである。なお、後進走行時には、各主走行車輪11および各補助走行車輪24がそれぞれ図示矢印の逆方向に回転するだけであり、やはり車体フレーム1の重量の殆どが主機構8に荷重し、補助機構9が車体フレーム1の後部を補助支持板16を介して軽く支持するだけである。
【0033】
電動車椅子が前進走行しているときに、図6(a)に示すように、走行路上に例えばレール状の凸条部60が存在する場合、主機構8の左右の走行ユニット8A,8Bにおける前側の主走行車輪11が凸条部60に当接した時点で主機構8の検知手段58から制御部53に検知信号が入力する。これにより、制御部53は、ROM54から所要の制御ブログラムを読み出してそれを実行することにより、以下のように制御する。すなわち、制御部53は、主機構8の検知手段57から検知信号が入力したときに、主車輪回転用モータ17,17および補助車輪回転用モータ30の回転を停止させたのち、図6(b)に示すように、主回動アーム10が矢印で示す正方向に回動するよう主回動アーム回動用モータ13を回転制御するとともに、補助走行車輪24が矢印で示す正方向に回転するよう補助車輪回転用モータ30を回転制御する。これにより、主機構8は、上方に存在していた主走行車輪11が主回動アーム10の回動により凸条部60を跨ぐように移動して凸条部60の走行方向前方側の平地面に着地し、補助機構9は、主機構8が主回動アーム10の回動により前進移動した距離だけ前進移動する。
【0034】
上方に位置していた主走行車輪11が主回動アーム10の回動により凸条部60を跨ぐように移動して凸条部60の前方の平地面に着地したときに主機構8から検知信号が制御部53に対し出力される。制御部53は、検知信号が入力した時点で主回動アーム回動用モータ13の回転を停止したのち、補助車輪回転用モータ30を回転継続させて前進させる。主機構8の後側の主走行車輪11が凸条部60に当接して主機構8から検知信号が入力した時点で補助車輪回転用モータ30の回転を停止する。
【0035】
続いて、図7(c)に示すように、制御部53は、主回動アーム10が矢印で示す正方向に回動するよう主回動アーム回動用モータ13を回転制御するとともに、補助回動アーム23が矢印で示す正方向に回動するよう補助回動アーム回動用モータ28を回転制御する。これにより、主機構8では、上方に位置していた主走行車輪11が主回動アーム10の回動により凸条部60を跨ぐように移動して凸条部60の進行方向前方の平地面に着地し、凸条部60を通過する。一方、補助機構9では、上方に位置していた補助走行車輪24が補助回動アーム10の回動により凸条部60を跨ぐように移動して凸条部60の前方の平地面に着地し、これにより補助機構9から検知信号が制御部53に対し出力されるので、補助回動アーム回動用モータ28の回転が停止される。
【0036】
さらに、制御部53は、図7(d)に示すように、補助回動アーム23が矢印で示す正方向に回動するよう補助回動アーム回動用モータ28を回転制御するとともに、主走行車輪11が矢印で示す正方向に回転するよう主車輪回転用モータ17を回転制御する。これにより、補助機構9では、上方に位置していた補助走行車輪24が補助回動アーム23の回動により凸条部60を跨ぐように移動して凸条部60の進行方向前方の平地面に着地し、補助機構9も凸条部60を通過する。なお、図6(a)に2点鎖線で示す溝61が存在する場合であっても、上述と同様の動作によって溝61を跨いで支障なく通過することが
できる。このように、この電動車椅子は、主走行車輪11および補助走行車輪24の回転と主回動アーム10および補助回動アーム23の回動とを互いに独立して行える機構を備えていることにより、キャタピラ機構を備えた従来の車椅子では不可能であった凸条部60や溝61を容易に乗り越えて通過し、スムーズに走行移動することができる。
【0037】
つぎに、前記電動車椅子の階段を昇る動作について、図8〜図10を参照しながら説明する。図8に示すように、階段62に近接したときには、電動車椅子を、図11で後述するように旋回させて、後進移動する向きに変えたのち、図8(a)に示すように、主走行車輪11および補助走行車輪24を矢印で示すように逆方向に回転させて、後側の補助走行車輪24が階段62の段差面63に当接したときに移動を停止し、この状態で、車椅子の搭乗者によって操作盤47の昇段釦が操作されると、制御部53は、図10のフローチャートで示すような昇段用制御プログラムをROM54から読み出して実行する。
【0038】
図10に示すように、制御部53は、昇段釦が操作されたと判別したとき(ステップS1)に、続いて、後側の補助機構9の検知手段59から出力される段差高さの検知信号が所定値以上であるか否かを判別する(ステップS2)。制御部53は、段差高さが設定値以下であると判別したときに、補助回動アーム23が図8(b)に矢印で示す逆方向に回動するよう補助回動アーム回動用モータ28を回転制御すると同時に、主回動アーム10が逆方向に向け125°の角度だけ回動するよう主回動アーム回動用モータ13を回転制御する。これにより、主回動アーム10は、上下方向に位置する取付アーム片10aが僅かに後方へ向けて傾いた配置となり、左右の走行ユニット8A,8Bの各々の1つの主走行車輪11のみが着地状態であるにもかかわらず、車体フレーム1の重量を安定に支持できる。なお、前述の125°の回動角度は、この実施形態において主機構8および補助機構9が主回動アーム10および補助回動アームが3つの取付アーム片10a,23aを備えているのに基づき設定したものであり、回動に伴って上下方向の向きに位置する取付アーム片10aを5°の角度だけ昇段方向へ向け傾いた配置とするものである。なお、前記回動角度を130°に設定すれば、10°の角度だけ昇段方向へ向け傾いた配置となり、このように設定してもよい。
【0039】
この主回動アーム10および補助回動アーム23の回動時に、制御部53は、主回動アーム10および補助回動アーム23がそれぞれ側面視でY字形状となる状態、つまり主回動アーム10および補助回動アーム23がそれぞれ120°の角度だけ回動するまでの間、主走行車輪11および補助走行車輪24がそれぞれ正方向に所定の回転速度で回転するように主車輪回転用モータ17および補助車輪回転用モータ30を回転制御する(ステップS3)。前述の所定の回転速度は、主回動アーム10および補助回動アーム23の回動動作を誘発できるように主走行車輪11および補助走行車輪24を走行させることができる速度であり、これにより、主機構8および補助機構9の着地状態の主走行車輪11および補助走行車輪24が僅かに前進移動する。このため、主回動アーム10および補助回動アーム23のそれぞれの回動トルクは、主走行車輪11および補助走行車輪24が前進移動したトルク分だけ軽減されるから、その軽減分だけ主回動アーム10および補助回動アーム23の蹴り上がり動作が容易となる。
【0040】
つぎに、制御部53は、補助回動アーム23の回動に伴って移動される補助走行車輪24が段差面63に当接して、検知信号が補助機構9の検知手段59から入力するのを待つ(ステップS4)。図8(b)に示すように、移動される補助走行車輪24が段差面63に当接したときには、車体フレーム1が昇段方向へ向け傾いた配置となり、乗っている人に不安感を与えない。
【0041】
制御部53は、補助機構9の検知手段59から検知信号が入力したと判別したとき(ステップS3)に、図8(c)に示すように、補助回動アーム23の上下方向の向きに位置
する取付アーム片23aが鉛直配置となるように補助回動アーム回動用モータ28を回転制御する(ステップS5)。これにより、補助回動アーム23は、上方の2つの補助走行車輪24、24がほぼ同一の高さに位置する。
【0042】
続いて、制御部53は、主回動アーム10および補助回動アーム23が図8(c)の位置を保ったままで主走行車輪11および補助走行車輪24が共に逆方向に回転するよう主車輪回転用モータ17および補助車輪回転用モータ30を回転制御する(ステップS6)。これにより、電動車椅子は、図8(c)の状態を保持したまま昇段方向へ向け移動されるので、制御部53は、主機構8の着地状態の主走行車輪11が階段62の段差面63に当接して主機構8から検知信号が入力するのを待つ(ステップS7)。
【0043】
図9(d)に示すように、昇段方向へ向け移動する主機構8における着地状態の主走行車輪11が階段62の段差面63に当接して、検知信号が主機構8の検知手段58から制御部53に入力すると、制御部53は主車輪回転用モータ17および補助車輪回転用モータ30をそれぞれ回転停止させる。このとき、補助機構9における下方の前方側(図の左側)の補助走行車輪24は、階段62の段差面63に既に着地していた後方側の補助走行車輪24と同一高さに保ったまま後方へ移動されたことから、主機構8の着地状態の主走行車輪11が階段62の段差面63に当接した時点で階段62の階段面に乗り上げる。すなわち、後方側の補助機構9が階段62の段差面63に完全に乗り上げた状態となる。
【0044】
つぎに、図9(e)に示すように、制御部53は、主回動アーム10が逆方向に低速で回動するよう主回動アーム回動用モータ13を低速回転させるとともに、主走行車輪11および補助走行車輪24が共に低速で回転するように主車輪回転用モータ17および補助車輪回転用モータ39を低速回転させる。これにより、補助走行車輪24が低速回転して補助機構9が昇段方向へ向け移動するのに伴って主機構8も昇段方向へ向け移動されるので、主機構8の段差面63に接触している下方の主走行車輪11が段差面63に押し付けられた状態で逆方向に回転するのと同時に主回動アーム10が逆方向に回動されるので、主機構8の下方の主走行車輪11は、段差面63に押し付けられた状態で逆方向に回転することにより、段差面63をよじ登る状態で除々に上昇していく。
【0045】
図9(f)に示すように、主機構8の下方に位置していた主走行車輪11が段差面63をよじ登って階段面上に乗り上げた時点では、もう一方の下方の主走行車輪11が主回動アーム10の逆方向への回動によって段差面63上に当接する。これにより、制御部53は、主機構8の検知手段58から検知信号が入力したと判別(ステップS9)したとき、車椅子の全体が階段62の1段目の階段面上に乗り上げたと判断して、ステップS3にリターンして同様の制御を繰り返す。そして、電動車椅子が階段を完全に上り切って搭乗者が再び昇段釦を操作すると、制御部53は終了の入力であると判別して(ステップS10)、制御を終了する。なお、階段62を降りるときには、上述とは逆の制御が行われる。また、ステップS2において、制御部53は、所定値以上の段差高さであると判別したときには、図5に示すアラーム15を鳴動させて、車椅子の搭乗者に階段62を昇降するのが危険であることを報知して、昇降動作を取り止める(ステップS11)。
【0046】
上述のように、この電動車椅子は、従来の車椅子のようにキャタピラ機構を備えず、主走行車輪11および補助走行車輪24の回転と主回動アーム10および補助回動アーム23の回動とを互いに独立して行える構造を備えていることから、階段63の角部に接触することなく階段63の昇降を行えるので、階段62の角部を傷付けたり、スリップするといったおそれがなく、容易、且つ確実に階段62を昇降することができる。また、後進走行状態からそのまま階段62を昇ることができ、階段63を昇降し終えた時点でそのまま走行状態に移行することができるから、極めて機動性に優れている。したがって、この電動車椅子は、例えば、エレベータが設置されていない団地などの集合住宅に住まいする人
等にとって、自宅から階段を昇降して自由に屋外を走行移動することができるものとなり、極めて便利に活用することができる。
【0047】
さらに、図8および図9に示したように、この電動車椅子は、座面板部4を略水平配置に保ちながら階段62を昇降できるように制御されること、および主機構8の主回動アーム10および主走行車輪11と補助機構9の補助回動アーム23および補助走行車輪24とがそれぞれ同じ長さおよび同一径に設定されていることとにより、この実施形態で例示したように後進移動する向きに階段を昇降するだけでなく、前進移動する向きで階段を昇降することもできる。
【0048】
また、この電動車椅子は、主機構8の左右の走行ユニット8A,8Bの主走行車輪11,11が個々の主車輪回転用モータ17,17で互いに独立して回転されるようになっているので、双方の走行ユニット8A,8Bの主走行車輪11,11の一方を低速回転させ、且つ他方を高速回転させることにより、図11に示すように旋回移動させることができる。さらに、左右の走行ユニット8A,8Bの主走行車輪11,11を異なる回転速度で回転させることにより、図12に示すような螺旋階段64の昇降をも容易に行うことができる。
【0049】
図13および図14は、本発明の第2の実施形態に係る電動車椅子を示す一部破断した平面図および概略側面図であり、これらの図において、第1の実施形態と同一若しくは相当するものには同一の符号を付して、重複する説明を省略する。この第2の実施形態の電動車椅子が第1の実施形態と相違するのは以下の構成のみである。第1の実施形態では、車体フレーム1の互いに連結された車台板部2と補助板板部7とにより主機構8と補助機構9とが一定間隔の相対配置で互いに連結されていたが、この構成に代えて、第2の実施形態では、主機構8と補助機構9との間隔を可変できる車体フレーム65を設けている。すなわち、主機構8の2つの主車輪回転用モータ17,17の各々のモータ軸17a,17aを軸受ジョイント67により互いに独立して回転可能な状態に連結することにより、あたかも1本の回転軸とし、その各モータ軸17a,17aに、上下方向に位置する主脚部フレーム69が軸受68,68を介して回動自在に支持されている。この2本の主脚部フレーム69,69の上端部は、図14に示すように、受動関節70を介して支持台板71に回動自在に連結されている。
【0050】
一方、補助機構9は、補助車輪回転用モータ30のモータ軸30を、原動歯車31から突出させて、モータ軸30における補助回動アーム23の両側部位に、上下方向に位置する補助脚部フレーム72,72が軸受73,73を介して回動自在に支持されている。この2本の補助脚部フレーム72,72の上端部は、図14に示すように、受動関節74を介して支持台板71に回動自在に連結されている。
【0051】
主脚部フレーム69と補助脚部フレーム72との各々の中間部には、制御部53の制御により伸縮駆動される伸縮連結部材77の両端部が受動関節78,79を介して回動自在に連結されている。前記伸縮連結部材77は、例えば、スクリュウ軸およびスクリュウナットなどからなる周知の構成を採用することができる。また、車体フレーム65の支持台部71の上面部には、座面板部80と背板部81との連結部分が、回動連結機構82を介して回動自在に装着されており、支持台部71には、座面板部80を上方に押し上げる押上機構部83が取り付けられている。さらに、支持台部71には、補助脚部フレーム72を回動させるステアリング機構部84が設けられている。
【0052】
この第2の実施形態の電動車椅子は、図14に示す状態で、第1の実施形態の車椅子と同様の動作で平地面を走行するが、階段を昇降するときに、図15に示すように、伸縮連結部材77が制御部53により伸長するよう制御される。このときの伸縮連結部材77の
伸長長さは、補助機構の検知手段59が認識した階段62の段差面63の高さに基づいて制御部53が設定して制御する。これにより、主脚部フレーム69および補助脚部フレーム72は、上端の受動関節70,74を支点として、各々の下方部が互いに離間する方向に揺動され、八字形状の相対位置関係となる。そのため、車体フレーム65の支持台部71は、主脚部フレーム69および補助脚部フレーム72が互いに離間した距離だけ下降して、車体フレーム65の重心、つまり車椅子全体の車体重心が低くなるとともに、階段に対する車椅子の仰角、つまり車椅子の階段に対するアプローチ角度が小さくなる。これにより、階段を昇降する際の車椅子の安定性が格段に向上するとともに、座面板部80に座っている搭乗者には、車椅子の車体重心が低くなり、且つ階段に対するアプローチ角度が小さくなることによって安心感を与えることができる。
【0053】
また、このとき、押上機構部83は、制御部53により制御されて、車体フレーム65全体に対して座面板部80がほぼ水平状態を保つように座面板部80を押し上げる。したがって、この第2の実施形態の電動車椅子は、座面板部80がほぼ水平状態を保つために、第1の実施形態のように主回動アーム10および補助回動アーム23の回転角度を細かく制御する必要がない利点がある。また、図11の旋回時または図12の螺旋階段64を昇降する場合には、制御部53がステアリング機構部84を制御して補助走行車輪24を進行方向に向かせるので、旋回動作および螺旋階段の昇降動作が一層容易となる。
【0054】
なお、本発明は、以上の実施形態で示した内容に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。例えば、操作盤47には、搭乗者だけでなく、介護者も操作できる構成とすることが好ましい。また、階段の昇降時には、車体フレームの座面板部のみを昇降方向に対し直交方向を向く配置になるよう回動動作させる構成とすることもできる。さらに、主回動アーム10および補助回動アーム23は、それぞれ4つの取付アーム片10a,23aを有する形状としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の段差昇降装置を用いた電動車椅子は、特に、エレーベタが設置されていない団地などの集合住宅に住まいする人が、介護者の手助けを受けることなく自身の操作のみで階段を昇降して目的地に行くための用途に好適に活用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 車体フレーム
2 車台板部(支持体)
3 背板部
4 座面板部
5 側板部
7 補助板部
8 主機構(段差昇降装置)
8A,8B 走行ユニット
9 補助機構
10 主回動アーム(回動アーム)
10a 取付アーム片
11 主走行車輪(走行車輪)
12 主回動アーム回動用歯車(アーム回動用歯車)
13a モータ軸(回転軸)
13 主回動アーム回動用モータ(回動駆動源)
14 回転伝達歯車
17 主車輪回転用モータ(回転駆動源)
17a モータ軸(回転伝達軸)
18 原動歯車
19 受動歯車
22 タイミングベルト(回転伝達機構)
23 補助回動アーム
23a 取付アーム片
24 補助走行車輪
27 補助回動アーム回動用歯車(補助アーム回動用歯車)
28 補助回動アーム回動用モータ(補助回動駆動源)
29 補助回転伝達歯車
30 補助車輪回動用モータ(補助回転駆動源)
30a モータ軸(回転軸)
32 受動歯車(回転伝達機構)
33 原動側プーリ(回転伝達機構)
34 受動側プーリ(回転伝達機構)
38 軸受
40 軸受箱
41 軸受箱
44 バッテリ
47 操作盤(操作部)
53 制御部
58,59 検知手段
65 車体フレーム
69 主脚部フレーム
72 補助脚部フレーム
77 伸縮連結部材
80 座面板部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一構成の走行ユニットが走行方向に対し左右一対設けられ、
左右の前記各走行ユニットは、
中心部から等間隔で放射状に延び、且つ同一長さを有する少なくとも3つの取付アーム片が一体形成された回動アームと、
前記各取付アーム片の先端部にそれぞれ回転自在に取り付けられた同一径の複数の走行車輪と、
前記回動アームの中心部に固着されたアーム回動用歯車と、単一の回転軸の両端部に固着されて左右の前記アーム回動用歯車にそれぞれ噛合する回転伝達歯車と、
前記回転軸に回転力を付与して左右の前記回転伝達歯車およびアーム回動用歯車を介して左右の前記回動アームを同一方向に同一回動速度で回動させる回動駆動源と、
左右の前記回動アームの各走行車輪を同一方向に同一速度で回転させる回転駆動源とを備え、
左右の前記走行ユニットが、前記回転軸が回転自在に装着された支持体を介して互いに連結されていることを特徴とする段差昇降装置。
【請求項2】
請求項1に記載の段差昇降装置において、
前記回動アームは、3つの前記取付アーム片が120°の等間隔で一体形成され、
前記回転駆動源が左右一対設けられるとともに、この各回転駆動源により回転駆動される回転伝達軸が、左右の前記アーム回動用歯車の中心部にそれぞれ埋設された軸受を介して左右の前記回動アームの中心部に貫通状態で回転自在に支持され、
左右の前記回動アームの3つの前記取付アーム片にそれぞれ回転自在に設けられて、前記回転伝達軸の左右両端部にそれぞれ固着された各原動歯車に個々に噛合する3つの受動歯車を備え、
前記各取付アーム片に、前記受動歯車の回転力を前記走行車輪に伝達する回転伝達機構が設けられていることを特徴とする段差昇降装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の段差昇降装置と同一構成を有する主機構および補助機構が前後に配置して設けられ、
前記補助機構は、
中心部から等間隔で放射状に延び、且つ同一長さを有する少なくとも3つの取付アーム片が一体形成された補助回動アームと、
前記各取付アーム片の先端部にそれぞれ回転自在に取り付けられた同一径の複数の補助走行車輪と、
前記補助回動アームの中心部に固着された補助回動アーム回動用歯車と、
前記補助回動アーム回動用歯車に噛合する補助回転伝達歯車と、
前記補助回転伝達歯車が固着された回転軸に回転力を付与して前記補助回転伝達歯車および補助回動アーム回動用歯車を介して前記補助回動アームを回動させる補助回動駆動源と、
前記各補助走行車輪を同一方向に同一速度で回転させる補助回転駆動源とにより構成され、
車椅子の車体フレームが、前記主機構の回転軸に軸受箱を介し取り付けられて支持された車台板部と、背板部と前記車台板部の先端部とに支持された座面板部と、この座面板部と前記背板部とに固定された左右の側板部と、前記車台板部から前記補助機構部に向け延出して該補助機構の前記回転軸に軸受箱を介し取り付けられて支持された補助板部とにより構成され、
前記主機構の回動駆動源と回転駆動源および前記補助回動駆動源と補助回転駆動源の回転を制御する制御部と、この制御部による制御を手動操作により行う操作部と、駆動電力を供給するバッテリとを備えてなることを特徴とする電動車椅子。
【請求項4】
請求項3に記載の電動車椅子において、
階段などの段差に近接したときに当該段差の段差高さおよび奥行きを認識して検知するセンサと、前記回動アームおよび前記補助回動アームの回動時にいずれかの前記走行車輪または前記補助走行車輪が段差面に当接したことを検出する近接センサとを有する検知手段を備え、
前記制御部が、前記検知手段からの検知信号に基づいて前記主機構の回動駆動源と回転駆動源および前記補助回動駆動源と補助回転駆動源の各々の回転角度を制御することを特徴とする電動車椅子。
【請求項5】
請求項4に記載の電動車椅子において、
前記制御部が、前記検知手段からの検知信号に基づいて前記回動アームまたは前記補助回動アームが段差に対し昇る方向に向け回動させるように前記主機構の回動駆動源または前記補助機構の補助回動駆動源を回転駆動するときに、前記主機構の走行車輪または前記補助機構の補助走行車輪を段差から離間する方向に向け所定距離だけ走行移動するように前記主機構の回転駆動源または前記補助機構の補助回転駆動源を制御することを特徴とする電動車椅子。
【請求項6】
請求項1または2に記載の段差昇降装置と同一構成を有する主機構および補助機構が前後に配置して設けられ、
前記補助機構は、
中心部から等間隔で放射状に延び、且つ同一長さを有する少なくとも3つの取付アーム片が一体形成された補助回動アームと、
前記各回動アーム片の先端部にそれぞれ回転自在に取り付けられた同一径の複数の補助走行車輪と、
前記補助回動アームの中心部に固着された補助回動アーム回動用歯車と、
前記補助回動アーム回動用歯車に噛合する補助回転伝達歯車と、
前記補助回転伝達歯車が固着された回転軸に回転力を付与して前記補助回転伝達歯車および補助回動アーム回動用歯車を介して補助回動アームを回動させる補助回動駆動源と、
前記各補助走行車輪を同一方向に同一速度で回転させる補助回転駆動源とにより構成され、
車椅子の車体フレームが、前記主機構の回転軸および前記補助機構に各々の下端部がそれぞれ回動自在に支持されて上下方向に配置された主脚部フレームおよび補助脚部フレームと、この主脚部フレームおよび補助脚部フレームの各々の上端部が回動自在に取り付けられて前記主脚部フレームおよび前記補助脚部フレームに支持された座面板部と、この座面板部の下方に位置して、両端部が前記主脚部フレームおよび前記補助脚部フレームに回動自在に連結され伸縮連結部材とにより構成され、
前記主機構の回動駆動源と回転駆動源および前記補助回動駆動源と補助回転駆動源を回転制御するとともに、前記伸縮連結部材を伸縮させて前記主脚部フレームおよび前記補助脚部フレームを前記座面板部との連結部位を支点として下方側を揺動させることにより前記主機構と補助機構との間隔を可変させるように制御する制御部と、前記制御部による制御を手動操作により行う操作部と、駆動電力を供給するバッテリとを備えてなることを特徴とする電動車椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−85854(P2012−85854A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235544(P2010−235544)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(510279192)株式会社ウィードメディカル (1)