説明

殺菌剤組成物

【課題】 微酸性電解水の表面張力を低下し、且つ、それを一定期間維持することができる展着剤を含むことによって、改良された殺菌作用を示す殺菌剤組成物を提供する。
【解決手段】 微酸性電解水と、組成物の全重量に基き0.001〜1.0%の式(1)のポリエーテル変性シリコーンとを含む殺菌剤組成物をトマトに散布してトマトウドンコ病に高い防除効果を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌剤組成物に関し、詳細には、微酸性電解水と所定のポリエーテル変性シリコーンを含有する殺菌剤組成物に関する。該組成物は、殺菌効果に優れるうえ、保存安定性が良い。
【背景技術】
【0002】
塩化ナトリウムあるいは塩化カリウムなどのアルカリ金属の塩化物水溶液を電気分解して得られる、次亜塩素酸を有効成分とする酸性電解水を農業用の殺菌剤として使用することが知られている(例えば特許文献1)。該酸性電解水は、大腸菌や黄色ブドウ球菌など広範な細菌に対して殺菌作用を示し、環境上好ましい殺菌剤として注目されており、医療分野や食品分野への応用が進められている(特許文献2〜4)。
【0003】
食品分野で使用されている酸性電解水には、強酸性電解水と微酸性電解水の二つのタイプがある。強酸性電解水とは、陽極側と陰極側を膜で仕切った電解槽において、0.2%以下の食塩水を電気分解することによって陽極側に生成するものを言う。強酸性電解水のpHは2.7以下であり、有効塩素濃度が20〜60mg/kgであり、酸化還元電位は1000mV以上であり、殺菌力の主体である遊離次亜塩素酸を多く含んでいて、有効塩素濃度が低めであっても短時間で殺菌効果を示すことが知られている。
【0004】
一方、微酸性電解水は、隔膜のない電解槽において、2〜6%の希塩酸を電気分解することによってつくられる。微酸性電解水はPHが5〜6.5の微酸性で、有効塩素濃度が10〜60mg/kgで、殺菌力の主体である遊離次亜塩素酸を多く含んでいて、優れた殺菌効果を示すことが知られている。
【0005】
農業用途において作物の殺菌に応用することが検討されていて、pH2.7程度の強酸性電解水を数回撒布することでウドンコ病やベト病に効果のあることが報告されている(特許文献5参照)。しかしながら、このような強酸性水の撒布は作物の生理障害を引き起こす場合があり、散布時期、天候などへの注意が必要である。また、効能成分である次亜塩素酸は、持続的に効果を発揮する慣用の殺菌剤とは異なり、大気中に放出されると光や空気などで分解するため、効果が短く、バラツクという欠点があり、改良が行われている。
【0006】
そこで、これらの酸性電解水の表面張力を下げて植物体表面への濡れ性を改良するためにポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどの従来からの界面活性剤を加えることが検討されたが殺菌効果の改良はあまりなされなかった。これは動的表面張力が高いために対象とする菌に均一かつ確実に次亜塩素酸が到達できないか、あるいは到達するのに時間がかかり次亜塩素酸が分解したためと考えられる。
【0007】
一方、従来の界面活性剤よりも農薬水溶液の表面張力をより低くして該溶液の展着性を大幅に改良した、主鎖にトリシロキサン骨格を有するポリエーテル変性シリコーンが、開示されている(特許文献6〜8)。これらの文献には、上記微酸性電解水への言及はない。
【0008】
【特許文献1】特開平01−180293号公報
【特許文献2】特開平07−118158号公報
【特許文献3】特開平08−252310号公報
【特許文献4】特開2000−233161号公報
【特許文献5】特開平07−187931号公報
【特許文献6】特開平02−73002号公報
【特許文献7】特開2000−327787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、微酸性電解水よりも低い表面張力を有することによって、改良された殺菌作用を示し、且つ、該表面張力を所定期間維持することができる、殺菌剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記従来技術の課題を達成するために鋭意検討を行った結果、特定のポリエーテル変性シリコーンによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明は、微酸性電解水と、一般式(1)および(2)から選択される1種あるいは数種のポリエーテル変性シリコーンを0.001〜1.0%で含む殺菌剤組成物である。
【0011】
【化4】

【0012】
【化5】


ただし、R1は、互いに異なっていてよい、炭素数1〜30の、アルキル基、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基であって、R2は下記一般式(3)で示されるポリオキシアルキレン基である。
−Cx2x−O−(C24O)y(C36O)z−R3 (3)
3は水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基又はR4−(CO)−で示される有機基、 R4は炭素数1〜10の炭化水素基である。pは0〜3、qは1〜2、rは0〜6の整数である。xは2≦x≦5の整数である。y、zはそれぞれ5≦y≦15、0≦z≦10の整数である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組成物は、微酸性電解水よりも界面張力が顕著に低く、向上された殺菌効果を有する。さらに、該組成物は、保存安定性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。本発明で使用される電解水は、微酸性電解水であって、食品添加物に指定された酸性電解水として知られているものである。本発明の微酸性電解水は2〜6%の希塩酸を無隔膜電解槽内で電気分解するという方法によって水溶液として得ることが出来る。あるいは食塩水を使用して強酸性電解水と強アルカリ電解水をつくり、強酸:強アルカリ=6:4〜5.5:4.5で混合して調整することもできる。また、電解次亜塩素酸水生成装置のビーコロン、商標、三浦電子(株)、に希塩酸を入れて生成する。pHは4.0〜6.5、好ましくは5.0〜6.5のものを使用する。この範囲の微酸性電解水の有効塩素は10〜60mg/kg含まれており殺菌効果も高いほか、強酸性電解水が容易に分解して活性がなくなるのに対して保存安定性もきわめて高い。pHが4.0未満のものを使用すると本発明で使用するポリエーテル変性シリコーンが分解する場合があり、一方、pHが6.5を越えると有効塩素濃度が10mg/kg以下となり殺菌効果が弱くなるためである。
【0015】
本発明で使用されるポリエーテル変性シリコーンは以下の一般式(1)および(2)から選択される。
【0016】
【化6】

【0017】
【化7】

【0018】
1は、互いに異なっていてよい、炭素数1〜30の、アルキル基、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基であるが、具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、トリフロロプロピル基、ヘプタデカフロロデシル基等のフッ素置換アルキル基などを挙げることができる。好ましくはR1は、炭素数1〜6を有し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基である。さらに好ましくは全R1の80%以上がメチル基である。
【0019】
2は下記一般式(3)で表されるポリオキシアルキレン基である。
−Cx2x−O−(C24O)y(C36O)z−R3 (3)
上式中、R3は水素原子若しくは炭素数1〜30の炭化水素基又はR4−(CO)−で示される有機基であって、R4は炭素数1〜10の炭化水素基である。R3は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アセチル基が例示される。特に好ましくは水素原子あるいはメチル基である。xは2≦x≦5の整数である。yは5≦y≦15、好ましいyは7≦y≦12である。プロピレンオキサイド基は低温期のポリエーテル変性シリコーンの取り扱い性を高めるのに有効であって、zは0あるいはz≦10の整数である。なお、上記式(3)のポリオキシアルキレン部分がエチレンオキサイド単位とプロピレンオキサイド単位の両方からなる場合には、これら両単位のブロック重合体、ランダム重合体の何れでもよい。また、式(1)におけるpは0〜3、qは1〜2の整数である。一般式(2)におけるrは0〜6の整数であって好ましくは0〜3である。
【0020】
好ましくは、下記式(4)で示されるポリエーテル変性シリコーンが使用される。


ただし、R3およびyは上記のとおりである。
上記シリコーンは、例えば、商品名KF−643(信越化学製)、Silwet L−77(ジェネラルエレクトリック社製)として市販されている。
【0021】
式(1)及び(2)のシリコーンは、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとポリオキシアルキレン化合物との付加反応によって調製することができる。式(1)のシリコーン原料として使用されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを例示すると(下記化合物の記述においては(H3C)3SiO1/2基をM、(H3C)2SiO基をDと表記し、MおよびD中のメチル基の1つが水素である単位をMHおよびDHと表記する。またメチル基の1つを置換基Rで置換した単位をそれぞれMRおよびDRと表記する)、平衡化混合物あるいは純品であるM2H、M2DDH、M22H、M23H、M2DDH2、M22H2、M23H2があげられるが、好ましいのはq=0あるいは1であるM2H、M2DDH、M22H、M23Hである。さらに好ましくはトリシロキサンであるM2Hである。
【0022】
式(2)のシリコーンの原料に使用されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを例示するとMMH、MDMH、MD3H、Mn-Bu4.5Hなどがあげられ、MDMHは平衡化混合物でも良く、Mn-Bu4.5HのようにMn-Bu3H とMn-Bu6Hの混合物であっても良い。好ましくはMMHあるいはMD3Hであって、さらに好ましくはMD3Hである。
【0023】
上記オルガノポリオキシハイドロジェンポリシロキサンと付加反応させるアルキレン化合物は、下記一般式(5)で示される。ただし下記一般式中のx、y、zおよびはR3は一般式(3)と同じである。
x2x-1−O−(C24O)y(C36O)z−R3 (5)
【0024】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとポリオキシアルキレン化合物との反応比率は、SiH基と末端不飽和基のモル比でSiH基に対して0.8〜1.5、好ましくは0.9〜1.2である。
【0025】
上記付加反応は、白金触媒又はロジウム触媒の存在下で行うことが望ましく、具体的には塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸−ビニルシロキサン錯体等の触媒が好適に使用される。また、助触媒として酢酸ナトリウムやクエン酸ナトリウムを添加しても良い。
【0026】
なお、触媒の使用量は触媒量とすることができるが、白金又はロジウム量で50ppm以下であることが好ましく特に20ppm以下であることが好ましい。上記付加反応は、必要に応じて有機溶剤中で行ってもよい。有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール等の脂肪族アルコール、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。付加反応条件は特に限定されるものではないが、還流下で1〜10時間反応させることが好ましい。
【0027】
本発明の組成物は、このポリエーテル変性シリコーンを、該組成物の総重量に基き0.001〜1%好ましくは0.05%〜0.2%加えて使用する。このポリエーテル変性シリコーンは微酸性電解水の動的表面張力を大きく下げて対象作物に散布されると同時にすみやかに葉面を濡らして拡散するようにする。また、植物体の気孔からも浸透できるようにし、殺菌効果をあげる。有効成分の次亜塩素酸は、殺菌作用を発現したのち分解して植物に残留することもなく、安全である。
【0028】
本発明の農業用殺菌剤組成物は本発明の目的を損なわない範囲で他の成分を加えてもよい。例えば、殺菌作用以外の目的の他の農薬、あるいは、泡立ちを抑えるために消泡剤、例えばシリコーンオイルとシリカ等からなるシリコーン系消泡剤を用いてもよい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。また、実施例中の表面張力、酸化還元電位およびpHは25℃における値である。
【0030】
実施例1及び2及び比較例2
ポリエーテル変性シリコーンは以下の平均構造式のものを使用した。
【0031】
ポリエーテル変性シリコーン1:
【0032】
【化8】

【0033】
ポリエーテル変性シリコーン2:
【0034】
【化9】

【0035】
ポリエーテル変性シリコーン1および2を、夫々、pH6の微酸性電解水に0.1質量%混合して実施例1及び2の組成物を調製した。微酸性電解酸性水は、無隔膜電解により調製した。各組成物のpH、酸化還元電位および表面張力を測定した。結果を表1に示す。表中、比較例2は、ブランクの微酸性電解水である。
【0036】
比較例1
実施例1のポリエーテル変性シリコーン1に代えて、ドデシル硫酸ナトリウムを用いたことを除き、実施例1と同様にして組成物を調製した。
に示す。表中、比較例2は、ブランクの微酸性電解水である。
【0037】
参考例1
実施例1のポリエーテル変性シリコーン1に代えて、下記ポリエーテル変性シリコーン3を用いたことを除き、実施例1と同様にして組成物を調製した。

(CH3)3SiO[(CH3)2SiO]4[R(CH3)SiO]2Si(CH3)3

上式で、RはCH2CH2CH2O(C2H4O)9Hで表される基である。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すように、本発明の組成物は、比較例1及び2に比べて、顕著に低い界面張力を有した。該界面張力、pH及び酸化還元電位は、少なくとも1週間に亘り、安定であった。この結果から、本発明におけるポリエーテル変性シリコーン、特にポリエーテル変性シリコーン2は、微酸性電解水に対して効果的な展着剤であることが分かる。
【0040】
参考例2及び3、及び比較例3
実施例1の微酸性電解水に代えて、pH2.7の強酸性電解水を用いたことを除き、実施例1と同様にして、組成物を調製した。各組成物のpH、酸化還元電位および表面張力を測定した。結果を表2に示す。表中、比較例3は、ブランクの強酸性電解水である。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すように、ポリエーテル変性シリコーン1は、強酸性電解水中においても、安定であった。
【0043】
トマトウドンコ病の防除試験
表3に示す各組成物をトマトに散布して、トマトウドンコ病の防除試験を行った。試験は2003年10月に定植したトマト(桃太郎、タキイ種苗(株))園でウドンコ病の自然発生を確認した8アールを使いこれを、何も防除を行わない1区画を含む6区画に分けて行った。2004年1月22日、1月29日、2月5日の3回にわたり、表3に示す各組成物を10リットル/1アールの割合で、各区画に噴霧器にて撒布した。2月13日に全葉の発病を調査することにより発病葉率を求めた。又、薬害の有無を目視観察により調べた。
【0044】
トマトウドンコ病防除試験結果
【0045】
【表3】

【0046】
表3に示すように、実施例2の組成物は、ポリエーテル変性シリコーン2によって改良された濡れ性により、高い防除効果を有した。また、該組成物によって薬害もなかった。参考例3の組成物は、強酸性であり、トマトの葉に薬害を及ぼした。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の組成物は界面張力が低く、農作物の殺菌剤として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微酸性電解水と、組成物の全重量に基き0.001〜1.0%の、一般式(1)で表されるポリエーテル変性シリコーン及び式(2)で表されるポリエーテル変性シリコーンからなる群より選択される少なくとも1種とを含む殺菌剤組成物
【化1】


【化2】


上式において、R1は、互いに異なっていてよい、炭素数1〜30の、アルキル基、アリール基、アラルキル基、又はフッ素置換アルキル基であって、
2は下記一般式(3)で示されるポリオキシアルキレン基であり、
−Cx2x−O−(C24O)y(C36O)z−R3 (3)
3は水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基又はR4−(CO)−で示される有機基であり、ここでR4は炭素数1〜10の炭化水素基であり、
pは0〜3、qは1〜2、rは0〜6の整数であり、xは2≦x≦5の整数であり、及びy、zはそれぞれ5≦y≦15、0≦z≦10の整数である。
【請求項2】
微酸性電解水のpHが4.0〜6.5であり、且つ有効塩素濃度が10〜60mg/kgである、請求項1記載の殺菌剤組成物。
【請求項3】
ポリエーテル変性シリコーンが一般式(4)で示される請求項1乃至2に記載の殺菌剤組成物
【化3】


ただし、R3およびyは上記のとおりである。
【請求項4】
一般式(4)におけるR3が水素原子あるいはメチル基である請求項3記載の殺菌剤組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4の殺菌剤組成物を、農作物に撒布することを特徴とする農作物の殺菌方法。

【公開番号】特開2006−176489(P2006−176489A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119772(P2005−119772)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】