説明

殺菌性樹脂成型品

【課題】ヨウ素含有粉砕樹脂を熱可塑性樹脂と混合し、焼結することで濃度に偏りがなく、ヨウ素を効果的に含有する殺菌性能を有する樹脂成型品を提供する。
【解決手段】成型前にヨウ素を含有させた単体の原料を熱可塑性樹脂と混合することを特徴とする焼結樹脂成型品。特にヨウ素を30〜70%含有するヨウ素化された陰イオン交換樹脂を、ヨウ素を含有する単体の原料として使用することを特徴とする焼結樹脂成型品であり、表面を樹脂またはセラミックスで被覆した金型により成型するヨウ素含有焼結樹脂成型品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌性能あるいは抗菌性能を有する樹脂成型品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素は細菌、ウイルス、真菌などを対象とした幅広い抗微生物スペクトルを示すことが知られ、外用殺菌剤、消毒薬としても使用されている。薬剤としてはヨウ素とヨウ化カリウムをアルコールに溶解させたヨードチンキ、ポリビニルピロリドンをヨウ素化したポビドンヨードなどがよく知られている。
【0003】
ヨウ素を固体の形態で利用している製品としてはアイオマック(発売元:アルピコ株式会社)がある。該製品は陰イオン交換樹脂をヨウ素化したものでヨウ素を50質量%含有している。これ自体は溶解しないため成型品は難しく、通常1mm以下の粒状の形態である。またアイオマックを粉砕しポリエチレンと混合、成型したペレット、シートなどの成型品がある。アイオマックおよびこれら応用製品はヨウ素の含有量を制御しやすいため、抗菌用途のみならず、気中あるいは液中の殺菌剤としても使用することができる。
【0004】
一方、ヨウ素は常温でも昇華する揮発性の物質であり、成型時の加熱により気化、金型を腐蝕させるため、複雑な形状の成型には適さない。しかし比較的簡易な形状であれば焼結成型が適し、金型の管理も比較的容易である。出願人はヨウ素化した後粉砕した陰イオン交換樹脂を混合した熱可塑性樹脂ペレットをさらに粉砕した原料を用いた焼結成型品を商品化している。
【0005】
一方、陰イオン交換樹脂やポリアミド樹脂などヨウ素化しやすい樹脂を、成型した後にヨウ素溶液に浸すなど成型後にヨウ素化し、殺菌機能を付与する技術が提案されている(例えば特許文献1、2および3を参照)。
【特許文献1】特開平7−204429号公報(実施例)
【特許文献2】特開平9−132867号公報
【特許文献3】特開2005−290294号公報
【0006】
ヨウ素化は溶質にヨウ素およびヨウ化カリウムなどのヨウ素化合物、溶媒として水、アルコールを使用するヨウ素溶液が用いられる。ヨウ素溶液への浸漬により、ヨウ素化させやすい樹脂としては陰イオン交換樹脂、ポリアミド樹脂が知られる。陰イオン交換樹脂はヨウ素化させ、殺菌機能素材として使用されるほか、地中のヨウ素を含む鹹水に浸漬させることで、ヨウ素を工業的に抽出させる素材として使用されている。ポリアミド樹脂はヨウ素化すると包接による変化に伴い強度が増すことが知られている(例えば非特許文献1を参照)。
【非特許文献1】「高分子加工」高分子刊行会、1992年、41巻、11号、p33
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のヨウ素含有焼結成型品は、ヨウ素化した陰イオン交換樹脂を粉砕、熱可塑性樹脂と混合しペレットに成型した後、これを粉砕し、焼結成型している。ヨウ素の分布が均一且つ機械的強度が比較的強い製品とすることが可能であるが、熱可塑性樹脂との混合ペレット成型の際、および焼結成型の際に高温に曝されるため、ヨウ素の気化による損失を見込む必要があった。
【0008】
前記特許文献1ではその実施例において陰イオン交換エレメントを製造後にヨウ素化している。しかし、イオン交換樹脂のイオン交換基の耐熱温度は約100℃程度であるため、加熱により一部の交換基が壊れ、成型後の樹脂がヨウ素化される割合は大きく減ずることとなる。
【0009】
ポリアミド樹脂は陰イオン交換樹脂と比べ、ヨウ素を保持する力が弱いため、成型品においてヨウ素の含有量を増やすには内部まで浸透させることが望ましいが、ヨウ素化できるのは表面部分にすぎないため、長期間放散させる用途には適さない。ポリアミド樹脂粉末の焼結成型品であれば内部までヨウ素を浸透させることが可能であるが、十分に浸漬させるためには加圧など別途工程を増やす必要が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはヨウ素を含有させた粉砕樹脂を熱可塑性樹脂と混合し、焼結することで濃度に偏りが無く、ヨウ素を効果的に含有する焼結成型品を得るに至った。
【0011】
前述の通り、イオン交換基は熱に弱く、イオン交換機能を減退させるという問題点があるが、加熱前にヨウ素と結合させた場合、ヨウ素化した交換基は比較的高温な環境においてもヨウ素を保持し続けることができる。即ち、焼結前に陰イオン交換樹脂をヨウ素化すると、焼結工程で気化によるヨウ素の損失が少ないため、成型後にヨウ素化させるより高い濃度のヨウ素を含有させることができる。
【0012】
ヨウ素化させたポリアミド樹脂を粉砕、または粉砕したポリアミド樹脂をヨウ素化し、熱可塑性樹脂と混合後、成型すると、内部まで均等なヨウ素濃度の成型品が得られる。ポリアミド樹脂も熱可塑性であり、ヨウ素化したポリアミド樹脂単体を焼結成型しても良い。
【0013】
ここでヨウ素を含有させる素材としては陰イオン交換樹脂やポリアミド樹脂に限定するものではない。生分解性樹脂やデンプンなどヨウ素を包接するものやABS樹脂などが挙げられ、ヨウ素を含有させる素材は固体であるほかは特に限定されない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成、および製造工程によれば、均一且つ高い濃度でヨウ素を含有する焼結成型品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、ヨウ素化またはヨウ素を含有することのできる単体の原料を含む殺菌性樹脂焼結成型品およびその製造方法である。図1に本発明の製造工程を示す。
【0016】
本発明においてヨウ素化可能とする原料は特に限定しない。最も適するのは陰イオン交換樹脂であり、ヨウ素化したときヨウ素の含有量は50質量%を超えることも可能である。また、ポリアミド樹脂もヨウ素化することができるが、ヨウ素を保持する力が弱いため、特に水中で使用する場合、初期段階で大半のヨウ素を放散してしまうという難点がある。このほかABS樹脂などもわずかながらヨウ素化することができる。
【0017】
ヨウ素を含有することの可能な固体としてはデンプンなどの多糖類が挙げられる。ラセン構造の分子にヨウ素が捉えられるヨウ素−デンプン反応が知られ、捉えられたヨウ素も殺菌作用を示す。多糖類を原料とする生分解性樹脂もヨウ素含有物質として適用することができる。
【0018】
ヨウ素化させたヨウ素含有物質は成型後の通水性能などの必要に応じ、10〜500μmの粉体とする。用途によっては粉砕加工をせず、例えば4mm程度のペレットのまま焼結成型工程へ移行しても良い。
【0019】
熱可塑性樹脂としてはPP、PE、EVA、ポリアミド樹脂などが使用されるが、これらに限定するものではない。熱可塑性樹脂も必要に応じ粉砕する。加熱によるヨウ素の損失を抑えるには融点が100〜140℃と低いPEが適する。
【0020】
焼結成型を行う際の金型は、金属単体の場合アルミニウムが適する。気化したヨウ素は金属を腐蝕させるため、金属の表面を耐熱性が高く、腐蝕に強い物質で被覆することが望ましい。フッ素樹脂など耐熱性、耐薬品性に優れる素材がこれに適し、金型にフッ素樹脂塗装処理を行う。
【0021】
また、セラミックスであれば被覆の材料として使用するほか、型そのものをセラミックス製とすることもできる。窒化ケイ素セラミックスなど熱伝導に優れる材質が望ましい。
【0022】
本発明の焼結成型品は均一な濃度でヨウ素を含有し、殺菌、抗菌製品としての用途に優れる。多孔質体として成型したとき、水など液体や空気など気体の殺菌性フィルターとしても使用できる。また、熱可塑性樹脂のサイズや密度、融点に対し、十分に高い温度にするなど条件を変えて成型した場合、流体を通過させない構造にすることができ、例えば液体の抗菌性の経路としても使用することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の形態のみには制限されない。
【0024】
以下の手法によりヨウ素を含有する焼結成型品を製作、殺菌性を評価した。
【0025】
塩基性陰イオン交換樹脂をヨウ素・ヨウ化カリウム水溶液に含浸させ、ヨウ素化し乾燥させ、ヨウ素を50質量%含む樹脂とした。これを約100μmの大きさに粉砕した。
【0026】
融点104℃のLDPE樹脂を約100μmに粉砕し、ヨウ素化させた陰イオン交換樹脂の粉砕物と十分に混合し、焼結し、通水性のある焼結成型品を得た。
【0027】
殺菌性を評価するため、前記工程で製作した50×50×2mmの焼結成型品に菌数4.4×105個/mlの黄色ブドウ球菌の菌液0.4mlを滴下し、滅菌した40×40mmのPEフィルムで密着させた。この試験体を24時間静置させた後、10mlの水で洗い出し、1ml中の生菌数を測定したところ、生菌は検出されなかった。試験結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の殺菌性焼結樹脂製品の製造工程を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過熱する成型工程の前段にヨウ素を含有する単体の原料と熱可塑性樹脂とを混合することを特徴とする焼結樹脂成型品。
【請求項2】
ヨウ素を30〜70質量%含有するヨウ素化された陰イオン交換樹脂を、ヨウ素を含有する単体の原料として使用することを特徴とする請求項1に記載する焼結樹脂成型品。
【請求項3】
表面を樹脂またはセラミックスで被覆した金型により成型する請求項1および2記載のヨウ素含有焼結樹脂成型品の製造方法。




【図1】
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【公開番号】特開2008−291080(P2008−291080A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136539(P2007−136539)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(599044803)アルピコ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】