説明

殺虫剤組成物

【課題】 抵抗性又は交差抵抗性の発達したハエ及び蚊に卓越した殺虫効果を示し、また、通常の畜産現場で見られる各種の害虫に対しても優れた殺虫効果を奏する、実用性の高い殺虫剤組成物の提供。
【課題の解決手段】(a)d・d−T−アレスリン、(b)フェニトロチオン、(c)ピペロニルブトキサイド及び(d)乳化剤を含む殺虫剤組成物。この殺虫剤組成物は、好ましくは、(a)d・d−T−アレスリン/(b)フェニトロチオンの質量比率が2/1〜1/10で、かつ(a)d・d−T−アレスリン/(c)ピペロニルブトキサイドの質量比率が1/1〜1/40であり、水で20〜300倍に希釈されて動物舎内又はその周辺で使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内や屋外に生息する各種の害虫に対して用いる殺虫剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピレスロイド系の薬剤を使用した乳剤は、その高い殺虫効果と安全性から、様々な現場において防疫用や動物用として広く使用されている。
使用形態としては、殺虫成分と界面活性剤を石油系溶剤に溶解して油性乳剤となし、使用時に水で希釈して用いるのが一般的である。かかるピレスロイド系薬剤の油性乳剤のほか、可溶化された水性乳剤も数多く開発され実用に供されている(例えば特許文献1参照)。また、他の有効成分を用いたハエ類の防除方法の検討も活発であり、例えばニコチン性アセチルコリン受容体に対して作用するような薬剤に関する文献も多数知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−117538号公報
【特許文献2】特開2001−302408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、限られた畜産現場ではあるが、イエバエに対して、ピレスロイド系薬剤とピペロニルブトキサイドを併用した製剤では対処困難なピレスロイド抵抗性の発達事例が報告されている。この種の抵抗性はkdrと呼ばれ、ピレスロイドの作用点である神経の感受性低下に起因し、あらゆるピレスロイドに対して交差抵抗性を示すため、ピレスロイドと作用機構の異なる殺虫剤で対処する以外方策がないとされる。また、畜産環境や飼育形態の変化に伴い、例えば、従来ニワトリヌカカの吸血によってもたらされた鶏ロイコチトゾーン症の感染機会が著しく減少し、一方、排泄された糞尿をそのまま長期にわたって舎内に堆積することが一般化して常時ハエが発生するという問題が起こっている。
これらの問題に対して種々の対策が試みられているが、抵抗性のハエ類を確実に防除できる方法が十分確立されているとは言えないのが現状である。

【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明では、以下の内容を開示する。
(1)(a)d・d−T−アレスリン、(b)フェニトロチオン、(c)ピペロニルブトキサイド及び(d)乳化剤を含む殺虫剤組成物。
(2)(a)d・d−T−アレスリン/(b)フェニトロチオンの質量比率が2/1〜1/10であり、かつ(a)d・d−T−アレスリン/(c)ピペロニルブトキサイドの質量比率が1/1〜1/40である(1)記載の殺虫剤組成物。
(3)前記殺虫剤組成物が水で20〜300倍に希釈され、その希釈液を動物舎内又はその周辺で使用するものである(1)又は(2)記載の殺虫剤組成物。

【発明の効果】
【0006】
本発明の殺虫剤組成物を使用すれば、本発明に記載の希釈倍率で通常のハエ及び蚊のみならず、抵抗性又は交差抵抗性の発達したハエ及び蚊に卓越した殺虫効果を示し、また、通常の畜産現場で見られる各種の害虫に対しても優れた効果が得られる。
ピペロニルブトキサイドがd・d−T−アレスリンの生体内での代謝を遅らせ、殺虫効果を増強させることは既に知られているが、本発明においては、ピペロニルブトキサイドの新規な作用効果として、もう一つの殺虫成分であるフェニトロチオンの安定化にも寄与することが判明し、極めて有用な殺虫剤組成物が提供される。

【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明で用いるd・d−T−アレスリンは、3−アリル−2−メチルシクロぺンタ−2−エン−4−オン−1−イル クリサンテマート(C1926)で示されるピレスロイド系薬剤である。この化合物の立体異性に関しては、アルコール部分がd体であり、一方、酸側の立体異性は1位がd体で、3位がトランス体リッチであれば特に限定はされない。また、好ましいd・d−T−アレスリンの様態は、定量値の80%以上のd−3−アリル−2−メチルシクロペンタ−2−エン−4−オン−1−イル d−トランス−クリサンテマートを含むものである。
本発明の殺虫剤組成物は、d・d−T−アレスリンを組成物全体量に対して0.5〜10質量%含有するのが好ましい。0.5質量%未満であると殺虫効力が不足する懸念があり、一方、10%質量を越えると乳化性に問題を生じる可能性が避けられない。

【0008】
本発明では、ピレスロイド抵抗性害虫に対処するため、d・d−T−アレスリンと作用機構が異なる殺虫成分として、低毒性の有機リン剤・フェニトロチオン(O,O−ジメチルO−(3−メチル−4−ニトロフェニル)ホスホロチオエート)を用いる。本発明の殺虫剤組成物中に配合されるフェニトロチオンの含有量は、通常2〜10質量%程度が適当であり、d・d−T−アレスリン/フェニトロチオンの質量比率は2/1〜1/10に設定するのが好ましい。濃度が低いと当然のことながら殺虫効力の面で不十分となる可能性があり、一方、濃度が高いと良好な乳化性を維持するのが困難となる場合がある。

【0009】
本発明は、ピペロニルブトキサイドが従来のピレスロイド共力作用に加え、フェニトロチオンの安定化にも寄与することを見出し完成に至ったもので、極めて有用な殺虫剤組成物を提供する。本殺虫剤組成物に配合されるピペロニルブトキサイドの含有量は、組成物全体量に対して通常5〜20質量%程度であり、使用目的に応じて適宜決定することができる。但し、d・d−T−アレスリンの殺虫効果を一層高めるために、d・d−T−アレスリン/ピペロニルブトキサイドの質量比率を1/1〜1/40に設定するのが好ましく、更にフェニトロチオンに対する安定化作用を考慮して、フェニトロチオン/ピペロニルブトキサイドの質量比率についても1/1〜1/40とするのが適当である。
【0010】
本発明で用いる乳化剤としては、乳化性に支障を生じない限り特に限定されず、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤あるいはこれらの2種以上の混合物など、各種のものを挙げることができる。通常は非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤または両者の混合物が使用される。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等を挙げることができ、アニオン性界面活性剤としては、例えば、ジアルキルスルホカルボン酸エステル、アルキル硫酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸重縮合物金属塩、アルケニルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、ジアルキルサクシスルホネート、リグニンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0011】
乳化剤は、本発明の殺虫剤組成物中に、通常5〜30質量%、好ましくは、10〜20質量%含有される。これらの量は適宜増減しても構わないが、使用量が少ないと乳化性に問題が生じる可能性があり、使用量を多くしても相応のメリットを伴わないので経済的でない。
【0012】
本発明の殺虫剤組成物には、必要に応じて更に各種の溶剤を添加することができ、例えば、灯油類、キシレン、フォッグソルベント、テトラメチルベンゼン等のアルキルベンゼン類、メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、エステル系溶剤等が挙げられるが、これらの中では灯油類が好ましい。灯油類は、溶剤臭が少ないうえ、使用時において乳化剤の臭い発生を抑え、使いやすいというメリットを有する。
【0013】
本発明の殺虫剤組成物は、必要に応じて、殺ダニ剤、カビ類、菌類を対象にした防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤、あるいは、安定剤、効力増強剤、着色剤、香料等の添加剤を適宜配合し、多目的組成物とすることも出来る。
【0014】
本発明の殺虫剤組成物の使用場面は、各種の害虫が発生する場所であれば特に限定されないが、例えば、道路、公園墓地、池、沼、溝などの近辺のハエや蚊の発生し易い場所、養豚場や養鶏場、あるいはその周辺等があげられる。
なかでも、畜舎や鶏舎の内部やその周辺などの場所では、これまでの薬剤散布履歴からピレスロイド系薬剤に対して抵抗性を示す害虫が発生しやすいため、本発明の殺虫剤組成物の使用場面として特に有効である。
【0015】
本殺虫組成物が適用可能な害虫は、種々の飛翔害虫ならびに匍匐害虫を網羅し、飛翔害虫としては、例えば、ハエ類、チョウバエ類、サシバエ、サンドフライ、蚊類(ノミ、サシガメ、ツツガムシ)、ヌカカ、蚋、ユスリカ類、イガ類、カメムシなど、匍匐害虫としては、例えば、ゴキブリ類、アリ類(クロアリ、アカアリ、アミメアリ等を含む)、チャタテムシ、シバンムシ、コクゾウムシ、カツオブシムシ、ゲジゲジ、ワラジムシ、ダンゴムシ、ムカデ、ダニ類等を例示できる。
特に、ハエ類(なかでも、イエバエ、オオイエバエ、ヒメイエバエなど)や蚊類には、限定的ではあるがkdr抵抗性の発達が報告されており、本発明は有用かつ実用的な防除手段を提供する。
【0016】
本殺虫組成物は、通常、水等の適当な溶媒で希釈して用いられる。希釈倍率は使用用途や使用目的に応じて適宜決定して構わないが、20〜300倍程度に設定するのが一般的である。なお、抵抗性害虫の発生した場所に対しては、希釈倍率を50〜100倍程度に設定すればよい。希釈倍率が低いと薬剤の使用量が多くなりすぎ、コスト面でも不利であり、一方、希釈倍率が低いと十分な効果が得られない可能性がある。
【0017】
本殺虫組成物の散布量についても、使用用途や使用目的に応じて適宜決定すればよい。殺虫効力の点から、d・d−T−アレスリンの使用量として、0.002〜0.20g/m程度が適当であり、なかんずく、0.005〜0.10g/m程度であればより実用的な結果を得ることができる。

【0018】
更に、本発明の殺虫組成物に、エポキシ化大豆油等のエポキシ化植物油を添加することによって、ピペロニルブトキサイドの安定性を高め得ることが認められた。エポキシ化植物油の添加量は特に限定はされないものの、組成物全体量に対して0.01〜2.0質量%添加すればよい。添加量が少ないと十分な安定化効果が得られないし、添加量が多いと乳化分散性に影響を与える場合がある。

【実施例1】
【0019】
d・d−T−アレスリン2.0質量部、フェニトロチオン3.0質量部、ピペロニルブトキサイド5.0質量部、乳化剤18重量部を混合し、さらに溶剤である直鎖アルキルベンゼン15質量部と水を加え、全量を100質量部として本発明の殺虫組成物を得た。
【0020】
同様にして表1に示すとおり、各種の本発明の殺虫組成物を調製し、水で50倍に希釈した。この希釈液を噴霧降下法装置のガラス製円筒内に施用し、kdr抵抗性イエバエ(若松系、ペルメトリン抵抗性系統、抵抗性比129倍)を用いて殺虫効力を評価した。
試験結果は以下の通りとなった。
【0021】
【表1】





















【0022】
試験結果に示した通り、本発明の殺虫組成物はいずれも、kdr抵抗性のハエに対してKT50が8〜15分でノックダウン効果に優れ、しかも致死率はいずれも100%となり、十分な殺虫効力を示した。
これに対し、d・d−T−アレスリンのみの比較3やd・d−T−アレスリンとピペロニルブトキサイドを含む比較1の場合、KT50は20分で幾分劣る程度であったが、致死効力が低く、実用性に乏しかった。また、フェニトロチオンのみの比較4では、致死率は100%であったが、KT50が30分以上で速効性に欠け、同じく実用性は低かった。

【実施例2】
【0023】

実施例1と同様に各種の殺虫組成物を調製した。この原液を室温条件で保存し、所定期間経過後に原液の安定性を調べた。

【0024】
【表2】














【0025】
試験の結果、実施例1〜4のいずれも、室温、36ヶ月保存後の回収率が、d・d−T−アレスリン及びフェニトロチオンでは98%以上、またピペロニルブトキサイドについては94〜96%と良好で、優れた安定性を示した。更にエポキシ化大豆油を加えた実施例5では、ピペロニルブトキサイドの回収率が98%と一層向上し、エポキシ化大豆油に基づくピペロニルブトキサイドの安定化効果が確認された。
これに対して、d・d−T−アレスリンとピペロニルブトキサイドのみの処方である比較1では、ピペロニルブトキサイドの回収率が低下した。また、ピペロニルブトキサイドのみの処方である比較2でも同様であった。更に、フェニトロチオン単独処方である比較5ではフェニトロチオンの回収率が94%であったのに対し、ピペロニルブトキサイドを混用する本発明の殺虫組成物は、いずれも98%以上のフェニトロチオン回収率を示し、ピペロニルブトキサイドがフェニトロチオンの安定化に寄与していることが明らかとなった。
また同じ有機リン剤であってもマラチオンに対してはピペロニルブトキサイドの安定化効果は認められなかった。

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の殺虫組成物は、広範な害虫防除分野で利用できる可能性がある。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)d・d−T−アレスリン、(b)フェニトロチオン、(c)ピペロニルブトキサイド及び(d)乳化剤を含むことを特徴とする殺虫剤組成物。

【請求項2】
(a)d・d−T−アレスリン/(b)フェニトロチオンの質量比率が2/1〜1/10であり、かつ(a)d・d−T−アレスリン/(c)ピペロニルブトキサイドの質量比率が1/1〜1/40であることを特徴とする請求項1に記載の殺虫剤組成物。

【請求項3】
前記殺虫剤組成物が水で20〜300倍に希釈され、その希釈液を動物舎内又はその周辺で使用するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の殺虫剤組成物。



【公開番号】特開2010−265219(P2010−265219A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118140(P2009−118140)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】