説明

比熱測定装置および比熱測定方法

【課題】断熱式比熱測定において、測定サンプルを保持する保持ユニットの熱容量分を補正しなくても、測定サンプルの比熱を直接かつ正確に測定できるようにする。
【解決手段】比熱測定の対象となる測定サンプル8を保持する第1保持ユニット1と、これと同一の熱容量を有する第2保持ユニット2とを、断熱壁3で囲まれた収容空間に収容する第1工程と、その収容空間を断熱状態に遷移させる第2工程と、収容空間を断熱状態に維持しつつ、測定サンプル8に規定の熱量を入力するとともに、この熱量の入力によって第1保持ユニット1内の温度と第2保持ユニット2内の温度との間に温度差が生じないように、両保持ユニットに同一の熱量を供給する第3工程とを含む比熱測定方法である。第3工程においては、測定サンプル8に規定の熱量を入力した場合に生じる第1保持ユニット内の温度変化量を求め、この温度変化量に基づいて測定サンプル8の比熱を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定サンプルの比熱を測定する比熱測定装置および比熱測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、グリーンテクノロジーの代表的なテーマとして、自動車産業においては、ハイブリッド自動車や電気自動車の開発が急務になっている。この種の自動車の主要部品となる車載用のリチウムイオン電池は、エネルギー密度が大きく、電池内部に大きなエネルギーを保持している。車載用のリチウムイオン電池の熱的な安全性の評価項目の一つに、当該電池の比熱がある。
【0003】
比熱測定装置としては、断熱式比熱測定装置と、投下(落下)型比熱測定装置とが知られている(たとえば、特許文献1、2を参照)。断熱式比熱測定装置は、断熱状態で測定サンプルに既知の熱量(ジュール熱)を投入したときの温度変化を計測し、この計測結果に基づいて測定サンプルの比熱を測定するものである。
【0004】
投下型比熱測定装置は、上部収納部と下部収納部とを備えるものである。測定サンプルは、上部収納部に置かれる。下部収納部には規定温度の水が充填される。そして、実際の比熱測定では、上部収納部に置かれた測定サンプルを、下部収納部内の水に投入(落下)させる。このとき、測定サンプルの温度を下部収納部内の水の温度よりも高くした状態で、測定サンプルを水中に投入する。そうすると、測定サンプルの熱を受け取って水の温度が上昇するため、そのときの水の温度上昇から測定サンプルの比熱を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−156345号公報
【特許文献2】特開2003−287510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで上記断熱式比熱測定装置では、下記(1)および(2)の2種類の断熱制御が必要になる。
(1)測定サンプルとこれを保持する保持ユニット(サンプルを収容する容器など)の温度を外界の電気炉内壁温度と同一温度に制御する。
(2)測定サンプル温度と保持ユニット温度の間で熱収支がないように断熱温度制御する。
(2)の断熱制御に関しては、測定サンプル自身が内部ヒータもしくは自己発熱反応により温度上昇したとき、その熱が測定サンプルと直接接触している保持ユニットに移動することは避けられない。すなわち、測定サンプルから熱が逸散することなく断熱状態にしておくことができない。このため、従来の断熱式比熱測定法では、測定サンプルから保持ユニットに熱が逸散することを前提に、保持ユニットの熱容量は既知であるとして、測定終了後に得られた測定サンプルと保持ユニットのジュール熱の合算値から保持ユニットの比熱を補正して未知測定サンプルの比熱を求めている。つまり、比熱測定によって得られた比熱値については、常に保持ユニットの熱容量分を補正する必要があった。
【0007】
本発明の主な目的は、断熱式比熱測定において、測定サンプルを保持する保持ユニットの熱容量分を補正しなくても、測定サンプルの比熱を直接かつ正確に測定することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、
比熱測定の対象となる測定サンプルを保持する第1保持ユニットと、
前記第1保持ユニットと同一の熱容量を有するものであって、前記測定サンプルを保持しない、実質的に空の第2保持ユニットと、
前記第1保持ユニットおよび前記第2保持ユニットを収容する収容空間を形成する断熱壁と、
前記測定サンプルを保持する前記第1保持ユニット内の温度を測定する第1の温度センサと、
前記測定サンプルを保持しない前記第2保持ユニット内の温度を測定する第2の温度センサと、
前記断熱壁の温度を測定する第3の温度センサと、
前記第1保持ユニットに保持された測定サンプルを加熱するサンプル加熱ヒータと、
前記第1保持ユニットを加熱する第1の加熱ヒータと、
前記第2保持ユニットを加熱する第2の加熱ヒータと、
前記断熱壁を加熱する第3の加熱ヒータと、
前記第1の温度センサ、前記第2の温度センサおよび前記第3の温度センサの各測定結果に基づいて、前記第3の加熱ヒータの駆動を制御する第1の温度制御手段と、
前記第1の温度センサおよび前記第2の温度センサの各測定結果に基づいて、前記第1の加熱ヒータおよび前記第2の加熱ヒータの駆動を制御する第2の温度制御手段と、
前記測定サンプルの比熱を演算によって求める演算手段と
を備え、
前記第1の温度制御手段は、前記断熱壁が形成する収容空間を、前記第1保持ユニットと前記断熱壁との間の熱移動および前記第2保持ユニットと前記断熱壁との間の熱移動がない断熱状態に維持するように、前記第3の加熱ヒータの駆動を制御し、
前記第2の温度制御手段は、前記収容空間を前記断熱状態に維持している状況下で、前記サンプル加熱ヒータの駆動により前記測定サンプルに規定の熱量を入力した場合に、前記第1の温度センサが測定した温度と前記第2の温度センサが測定した温度との間に温度差が生じないように、前記第1の加熱ヒータおよび前記第2の加熱ヒータの両方に同一の電流を供給し、
前記演算手段は、前記収容空間を前記断熱状態に維持している状況下で、前記測定サンプルに前記規定の熱量を入力した場合に、前記第1の温度センサの測定結果に基づいて前記第1保持ユニット内の温度変化量を求め、さらに当該温度変化量に基づいて前記測定サンプルの比熱を算出する
ことを特徴とする比熱測定装置である。
【0009】
本発明の第2の態様は、
前記第1の加熱ヒータと前記第2の加熱ヒータを直列に接続し、
前記第2の温度制御手段は、前記直列に接続された前記第1の加熱ヒータと前記第2の加熱ヒータに電流を供給する電流回路を有する
ことを特徴とする上記第1の態様に記載の比熱測定装置である。
【0010】
本発明の第3の態様は、
前記測定サンプルは、板状の構造体であり、
前記第1保持ユニットは、前記測定サンプルをサンドイッチ状に挟んで保持する一対の保持部材を有し、
前記第2保持ユニットは、前記一対の保持部材と同一の構造物からなる一対の保持部材を有する
ことを特徴とする上記第1又は第2の態様に記載の比熱測定装置である。
【0011】
本発明の第4の態様は、
前記測定サンプルは、フィルムでラミネートされたリチウムイオン電池であり、
前記第2保持ユニットは、前記フィルムと同一の構造物からなるフィルムを空サンプルとして保持する
ことを特徴とする上記第3の態様に記載の比熱測定装置である。
【0012】
本発明の第5の態様は、
比熱測定の対象となる測定サンプルを保持する第1保持ユニットと、前記第1保持ユニットと同一の熱容量を有するものであって、前記測定サンプルを保持しない、実質的に空の第2保持ユニットとを、断熱壁で囲まれた収容空間に収容する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記第1保持ユニットと前記断熱壁との間の熱移動および前記第2保持ユニットと前記断熱壁との間の熱移動がない断熱状態に前記収容空間を遷移させる第2工程と、
前記第2工程の後に、前記収容空間を前記断熱状態に維持しつつ、前記測定サンプルに規定の熱量を入力するとともに、当該規定量の熱量の入力によって前記第1保持ユニット内の温度と前記第2保持ユニット内の温度との間に温度差が生じないように、前記第1保持ユニットおよび前記第2保持ユニットの両方に同一の熱量を供給する第3工程と
を含み、
前記第3工程において、前記測定サンプルに前記規定の熱量を入力した場合に生じる前記第1保持ユニット内の温度変化量を求め、当該温度変化量に基づいて前記測定サンプルの比熱を算出する
ことを特徴とする比熱測定方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、断熱式比熱測定において、測定サンプルを保持する保持ユニットの熱容量分を補正しなくても、測定サンプルの比熱を直接かつ正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る比熱測定装置の構成例を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る比熱測定方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】第1保持ユニット内の温度変化と第2保持ユニット内の温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施の形態においては、次の順序で説明を行う。
1.比熱測定装置の構成
2.比熱測定方法
3.実施の形態の効果
4.変形例等
【0016】
<1.比熱測定装置の構成>
図1は本発明の実施の形態に係る比熱測定装置の構成例を示す概略図である。まず、本発明の実施の形態においては、比熱測定の対象となる測定サンプルの一例として、リチウムイオン電池を想定する。また、各種用途のリチウムイオン電池の中でも、特に、ハイブリッド自動車や電気自動車等に搭載されるラミネートタイプのリチウムイオン電池を測定サンプルとする。この測定サンプルは、平面視矩形をなす平板状の構造を有する。測定サンプルのサイズを例示すると、平面的な寸法はA4版サイズ(297mm×210mm)程度、厚み寸法(板厚)が10mm程度となる。
【0017】
図示した比熱測定装置100は、上述した測定サンプルの比熱測定を実現するために、第1保持ユニット1と、第2保持ユニット2と、断熱壁3と、ヒータ駆動部4と、第1の温度制御部5と、第2の温度制御部6と、信号処理部7を備えている。
【0018】
(第1保持ユニット)
第1保持ユニット1は、上述の構造を有する測定サンプル8を保持するものである。第1保持ユニット1は、一対の保持部材11a,11bを有している。一対の保持部材11a,11bは、測定サンプル8をサンドイッチ状に挟んで保持するものである。一対の保持部材11a,11bには、それぞれヒータ14a,14bが内蔵されている。保持部材11aは、たとえば、2枚の薄いアルミニウム板の間に、ヒータ14aを構成するフィルムヒータ(面状発熱体)を挟んで、それらを接着等により一体化した構造になっている。保持部材11aを構成するアルミニウム板の厚さは、たとえば、1〜2mm程度となっている。保持部材11aの平面サイズは、少なくとも測定サンプル8の平面サイズと同等になっている。以上の点は、保持部材11bについても同様である。ヒータ14a,14bは、第1保持ユニット1を加熱する「第1の加熱ヒータ」に相当するものである。
【0019】
第1保持ユニット1には、サンプル加熱ヒータ12と、温度センサ13とが設けられている。サンプル加熱ヒータ12は、第1保持ユニット1に保持される測定サンプル8を加熱するものである。サンプル加熱ヒータ12は、たとえば、フィルムヒータを用いて構成されている。サンプル加熱ヒータ12は、測定サンプル8の平面サイズと同一のサイズ又はそれよりも大きいサイズの発熱面を有している。
【0020】
温度センサ13は、測定サンプル8を保持する第1保持ユニット1内の温度を測定する「第1の温度センサ」に相当するものであり、さらに詳しくは、一対の保持部材11a,11bの間に挟んで保持される測定サンプル8の温度を測定するものである。温度センサ13は、たとえば、熱電対を用いた温度センサとなっている。温度センサ13は、第1保持ユニット1に測定サンプル8をセットした場合に、測定サンプル8と熱的(物理的)に接する状態で、サンプル加熱ヒータ12と保持部材11bとの間に配置されている。
【0021】
(第2保持ユニット)
第2保持ユニット2は、これに付属する加熱ヒータ等を含めて、上述した第1保持ユニット1と同一の熱容量を有している。具体的には、第2保持ユニット2は、上述した一対の保持部材11a,11bと同一の構造物からなる一対の保持部材16a,16bを有している。つまり、第2保持ユニット2は、実質的に第1保持ユニット1と同一の構成となっている。ただし、第2保持ユニット2は、測定サンプル8を保持しない実質的に空の状態となっている。このため、第1保持ユニット1に測定サンプル8を保持した状態では、測定サンプル8の熱容量の分だけ、第1保持ユニット1のほうが第2保持ユニット2よりも大きな熱容量を有することになる。一対の保持部材16a,16bには、それぞれヒータ19a,19bが内蔵されている。
【0022】
第2保持ユニット2には、ダミーのヒータ(以下、「ダミーヒータ」と記す)17と、温度センサ18とが設けられている。ダミーヒータ17は、上述したサンプル加熱ヒータと同じ構造(形状、寸法)になっている。温度センサ18は、測定サンプル8を保持しない第2保持ユニット2内の温度を測定する「第2の温度センサ」に相当するものであり、さらに詳しくは、一対の保持部材16a,16bの間に挟んで保持される空サンプル10の温度を測定するものである。
【0023】
空サンプル10は、ダミーヒータ17と保持部材16bとの間に介装されている。この空サンプル10は、測定サンプル8となるリチウムイオン電池の封止に用いられているアルミニウムのラミネートフィルムで構成されている。このように第2保持ユニット2内に空サンプル10を設ける理由は、ラミネートフィルムの部分を除いたリチウムイオン電池そのものの比熱を測定するためである。ただし、ラミネートフィルムの部分を含めて測定サンプル8の比熱を測定する場合、あるいはリチウムイオン電池の比熱を測定するにあたってラミネートフィルムの熱容量の影響が無視し得る程度に小さい場合は、第2保持ユニット2内に空サンプル10を設けなくてもよい。
【0024】
温度センサ18は、たとえば、上記の温度センサ13と同様に、熱電対を用いた温度センサとなっている。温度センサ18は、空サンプル10と熱的に接触する状態で、ダミーヒータ17と保持部材16bとの間に配置されている。
【0025】
本実施の形態においては、板状の構造体を測定サンプル8としているため、これに対応して第1保持ユニット1および第2保持ユニット2もそれぞれ全体的に板状のユニット構造体となっている。
【0026】
(断熱壁)
断熱壁3は、第1保持ユニット1および第2保持ユニット2を収容する収容空間を形成するものである。断熱壁3は、第1保持ユニット1および第2保持ユニット2の形状および大きさに対応した筐体構造を有している。ちなみに、図1においては、各構成部分を見た目で分かりやすく表記するために、断熱壁3の断面を正方形に近いに形状で表している。しかし実際には、第1保持ユニット1および第2保持ユニット2が板状になっているため、断熱壁3の左右方向の寸法は上下方向の寸法よりも十分に小さい構造(扁平の筐体構造)になっている。
【0027】
断熱壁3は、たとえば、ロックウールなどの断熱材を用いて形成されている。断熱壁3の内部(又は内面)には、断熱制御用の温度センサ20a,20bおよびヒータ21a,21bが設けられている。温度センサ20a,20bは、断熱壁3の温度を測定する「第3の温度センサ」に相当するものである。温度センサ20aは、第1保持ユニット1に対向(対面)する断熱壁3の一部に配置されている。温度センサ20bは、第2保持ユニット2に対向(対面)する断熱壁3の一部に配置されている。
【0028】
ヒータ21a,21bは、断熱壁3を加熱する「第3の加熱ヒータ」に相当するものである。ヒータ21aは、少なくとも第1保持ユニット1に対向する断熱壁3の壁面を加熱対象に含むように配置されている。ヒータ21bは、少なくとも第2保持ユニット2に対向する断熱壁3の壁面を加熱対象に含むように配置されている。
【0029】
(ヒータ駆動部)
ヒータ駆動部4は、予め決められた条件にしたがってサンプル加熱ヒータ12を駆動するものである。ヒータ駆動部4は、定電流回路22を用いて構成されている。定電流回路22は、サンプル加熱ヒータ12に一定の電流を供給するものである。定電流回路22がサンプル加熱ヒータ12に電流を供給すると、これを受けてサンプル加熱ヒータ12が熱を発生する。
【0030】
(第1の温度制御部)
第1の温度制御部5は、温度センサ13、温度センサ18および温度センサ20a,20bの各測定結果に基づいて、ヒータ21a,21bの駆動を制御する「第1の温度制御手段」に相当するものである。温度センサ13は、温度の測定データとなる測定信号S1を出力する。温度センサ18は、温度の測定データとなる測定信号S2を出力する。温度センサ20aは、温度の測定データとなる測定信号S3を出力し、温度センサ20bは、温度の測定データとなる測定信号S4を出力する。
【0031】
第1の温度制御部5は、後述する温度差ΔT1およびΔT2を検出する温度差検出回路23と、この温度差検出回路23が検出した温度差ΔT1,ΔT2に基づいて電流制御を行う制御回路24と、この制御回路24からの制御指令にしたがってヒータ21a,21bに電流を供給する電流回路25とを用いて構成されている。
【0032】
温度差検出回路23は、温度センサ18を用いて測定される温度Trに対応する測定信号S2と、温度センサ20aを用いて測定される温度Tout1に対応する測定信号S3と、温度センサ20bを用いて測定される温度Tout2に対応する測定信号S4とを入力信号としている。そして、温度差検出回路23は、温度Trと温度Tout1との温度差ΔT1に基づく温度差検出信号S5を出力するとともに、温度Trと温度Tout2との温度差ΔT2に基づく温度差検出信号S6を出力する。
【0033】
制御回路24は、温度差検出回路23から与えられる温度差検出信号S5を入力信号とし、この入力信号に対応する制御信号S7を生成する一方、温度差検出回路23から与えられる温度差検出信号S6を入力信号とし、この入力信号に対応する制御信号S8を生成するものである。電流回路25は、制御回路24から与えられる制御信号S7に基づいてヒータ21aに電流を供給する一方、制御回路24から与えられる制御信号S8に基づいてヒータ21bに電流を供給するものである。
【0034】
(第2の温度制御部)
第2の温度制御部6は、温度センサ13および温度センサ18の各測定結果に基づいて、ヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bの駆動を制御する「第2の温度制御手段」に相当するものである。第1の温度制御部5は、後述する温度差ΔT0を検出する温度差検出回路27と、この温度差検出回路27が検出した温度差ΔT0に基づいて電流制御を行う制御回路28と、この電流回路28からの制御指令にしたがってヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bに電流を供給する電流回路29とを用いて構成されている。
【0035】
温度差検出回路27は、温度センサ13を用いて測定される温度Tsに対応する測定信号S1と、温度センサ18を用いて測定される温度Trに対応する測定信号S2とを入力とし、それらの温度差ΔT0に基づく温度差検出信号S9を出力するものである。制御回路28は、温度差検出回路27から与えられる温度差検出信号S9を入力信号とし、この入力信号に対応する制御信号S10を生成するものである。電流回路29は、制御回路28から与えられる制御信号S10に基づいて、上述したヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bにそれぞれ同一の電流を供給するものである。
【0036】
(信号処理部)
信号処理部7は、上述した温度センサ13を用いて測定される温度Tsに対応する測定信号S1を入力とし、この入力信号を用いて、比熱測定に係る種々の処理(演算処理を含む)を行うものである。具体的な処理内容については後段で記述する。
【0037】
<2.比熱測定方法>
続いて、本発明の実施の形態に係る比熱測定方法について説明する。この比熱測定方法は、上述した比熱測定装置100を用いて行われるものである。
【0038】
図2は本発明の実施の形態に係る比熱測定方法の手順の一例を示すフローチャートである。まず、比熱測定の対象となる測定サンプル8を用意するとともに、この測定サンプル8を第1保持ユニット1にセットする(ステップSt1)。ここでは一例として、測定サンプル8の熱容量が600(J:ジュール)、ラミネートフィルム(空サンプル10)の質量が10g、測定サンプル8の質量(ラミネートフィルムの質量を除く)が200gであると仮定する。ラミネートフィルムと測定サンプル8の質量は、図示しない質量計を用いて予め測定することにより、既知の情報として取り扱うことができる。ここでは、測定サンプル8の質量を測定した得られた測定データを、電子データとして記憶手段(RAM等)に予め記憶しておくものとする。記憶手段は、信号処理部7が備える機能の一つである。
【0039】
次に、断熱壁3が形成する収容空間に第1保持ユニット1および第2保持ユニット2を収容した状態で、この収容空間を断熱状態に遷移させる(ステップSt2)。ここで記述する「断熱状態」とは、次の4つの要件を共に満たす状態をいう。
(1)第1保持ユニット1(測定サンプル8を含む)の温度と第2保持ユニット2の温度が同一であること。
(2)第1保持ユニット1と第2保持ユニット2との間の熱移動がないこと。
(3)第1保持ユニット1と断熱壁3との間の熱移動がないこと。
(4)第2保持ユニット2と断熱壁3との間の熱移動がないこと。
要するに、測定サンプル温度と保持ユニット温度の間で熱収支がない状態である。
【0040】
上述した収容空間の断熱状態は、後述する熱量の入力に伴う測定サンプル8の温度上昇が停止するまで維持される。そのための断熱制御として、第1の温度制御部5は、次のような処理を行う。すなわち、温度差検出回路23は、予め決められた時間間隔で温度センサ18および温度センサ20a,20bの各測定信号S2,S3,S4を取り込む。そして、温度差検出回路23は、それらの測定信号S2,S3,S4を取り込むたびに、温度センサ18から出力される測定信号S2が示す温度Trと温度センサ20aから出力される測定信号S3が示す温度Tout1との温度差ΔT1を検出する。また、温度差検出回路23は、温度センサ18から出力される測定信号S2が示す温度Trと温度センサ20bから出力される測定信号S4が示す温度Tout2との温度差ΔT2を検出する。
【0041】
これに対して、制御回路24は、温度差検出回路23で検出した温度差ΔT1が予め決められた閾値Sh1以上である場合は、ヒータ21aをオンする旨の制御信号S7を電流回路25に送出し、温度差ΔT1が閾値Sh1未満である場合は、ヒータ21aをオフする旨の制御信号S7を電流回路25に送出する。同様に、制御回路24は、温度差検出回路23が検出した温度差ΔT2が予め決められた閾値Sh2以上である場合は、ヒータ21bをオンする旨の制御信号S8を電流回路25に送出し、温度差ΔT2が閾値Sh2未満である場合は、ヒータ21bをオフする旨の制御信号S8を電流回路25に送出する。
【0042】
これにより、電流回路25は、温度差ΔT1が閾値Sh1以上となったときだけ、ヒータ21aに電流を供給する。また、電流回路25は、温度差ΔT2が閾値Sh2以上となったときだけ、ヒータ21bに電流を供給する。このため、第1保持ユニット1と断熱壁3との間で温度差(熱移動)が生じないように、ヒータ21aの駆動が制御される。同様に、第2保持ユニット2と断熱壁3との間で温度差(熱移動)が生じないように、ヒータ21bの駆動が制御される。閾値Sh1と閾値Sh2は、基本的に同じ値を適用することができる。
【0043】
次に、上述した断熱状態のもとで、第1保持ユニット1にセットしてある測定サンプル8の温度Tsを測定する(ステップSt3)。測定サンプル8の温度は、温度センサ13を用いて測定する。具体的には、信号処理部7が、温度センサ13から出力される測定信号S1を取り込み、この測定信号S1が示す温度Tsの電子データを信号処理部7自身の記憶手段に記憶する。
【0044】
次に、定電流回路22からサンプル加熱ヒータ12に電流を流すことにより、測定サンプル8を加熱する(ステップSt4)。サンプル加熱ヒータ12に電流を流すタイミングは、上記の断熱状態が安定した後のタイミングとする。また、測定サンプル8に入力する熱量を既知の情報(Q)として取り扱うために、予め決められた量の電流をサンプル加熱ヒータ12に流す。たとえば、サンプル加熱ヒータ12に対して、2.00(W:ワット)の電力を予め決められた時間だけ供給する。そうすると、サンプル加熱ヒータ12の発熱によって、測定サンプル8の温度が、たとえば3秒あたり0.01℃の割合で上昇する。ちなみに、本実施の形態においては、サンプル加熱ヒータ12への電流の供給により、2Wの電力で合計60秒だけ熱量(Q=120J)を入力するものとする。このステップSt4で入力する熱量Qは、「規定の熱量」に相当するものである。この熱量Qは、比熱を求める演算処理(後述)の前に、信号処理部7の記憶手段に記憶しておけばよい。
【0045】
サンプル加熱ヒータ12が発生する熱は、第1保持ユニット1に保持された測定サンプル8に付与される。ただし、単にサンプル加熱ヒータ12を発熱させると、それによって測定サンプル8に入力された熱量Qが、測定サンプル8だけでなく、その近傍のユニット構成部材(保持部材11a,11bなど)にも拡散して消費される。そうすると、ユニット構成部材への熱の拡散によって測定サンプル8の比熱を正確に測定できなくなる。そこで、本実施の形態においては、以下のような温度制御処理を採用している。
【0046】
まず、温度差検出回路27は、予め決められた時間間隔で、温度センサ13を用いて測定サンプル8の温度Tsを測定する一方、温度センサ18を用いて空サンプル10の温度Trを測定する(ステップSt5)。このとき、温度差検出回路27は、温度センサ13,18を用いて測定した温度Ts,Trの温度差ΔT0を検出し、この検出結果を温度差検出信号S9として制御回路28に出力する。
【0047】
そうすると、制御回路28は、温度差検出回路27が検出した温度差ΔT0が予め決められた閾値Sh3以上であるかどうかにより、温度差の有無を判断する(ステップSt6)。このとき、制御回路28は、温度差が「あり」と判断した場合(温度差ΔTが閾値Sh3以上の場合)は、ヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bをオンする旨の制御信号S10を電流回路25に送出し、温度差が「なし」と判断した場合(温度差ΔTが閾値Sh3未満の場合)は、ヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bをオフする旨の制御信号S10を電流回路25に送出する。これに対して、電流回路29は、制御回路28が温度差ありと判断した場合に、ヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bに対して、それぞれ同一の電流を供給する(ステップSt7)。その後は、温度差ΔT0が実質的にゼロになる(ΔT0<Sh3の条件を満たす)まで、ステップSt6,St7の処理を繰り返す。
【0048】
これにより、電流回路29は、温度差検出回路27が検出した温度差ΔTが閾値Sh3以上となっているときだけ、ヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bに同一の電流を供給することになる。このため、上記ステップSt3における測定サンプル8の加熱(熱量の入力)により、第1保持ユニット1内の測定サンプル8の温度が上昇し、各温度センサ13,18の測定温度Ts,Trに閾値Sh3以上の温度差ΔT0が生じると、その都度、ヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bに対して、連続的に又は断続的(間欠的)に同一の電流が供給される。
【0049】
このようにヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bに同一の電流を供給すると、第1保持ユニット1および第2保持ユニット2に対して、それぞれ同一の熱量が与えられる。このため、第1保持ユニット1内の温度と第2保持ユニット2内の温度は、共に上昇する。ただし、第1保持ユニット1には測定サンプル8がセットされ、第2保持ユニット2には空サンプル10がセットされている。このため、第2保持ユニット2全体の熱容量は、第1保持ユニット1全体の熱容量に比べて、測定サンプル8の熱容量分だけ小さくなっている。
【0050】
したがって、第1保持ユニット1および第2保持ユニット2にそれぞれ同一の熱量を与えると、第1保持ユニット1に比べて第2保持ユニット2の方が、温度上昇する割合が高くなる。このため、上記ステップSt3における測定サンプル8の加熱(規定の熱量の入力)によって測定サンプル8の温度Tsが上昇し、これによって各温度センサ13,18の測定温度Ts,Trに閾値Sh3以上の温度差ΔT0が生じても、ヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bに同一の電流を供給することにより、温度Tsに温度Trが追いつく。その結果、第1保持ユニット1内における測定サンプル8の温度Tsと、第2保持ユニット2内の空サンプル10の温度Trとは、互いに同様の態様で変化する。この点については、後段で詳しく説明する。
【0051】
なお、上述した温度差ΔT0は、これとの比較対象となる閾値Sh3を非常に小さな値で設定することにより、実質的にゼロに近い微差とする。このことから、第2の温度制御部6は、温度センサ13が測定した温度Tsと温度センサ18が測定した温度Trとの間に実質的な温度差ΔT0が生じないように、ヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bの両方に同一の電流を供給する温度制御処理を行うものとなる。
【0052】
その後、上記ステップSt6において制御回路28が温度差を「なし」と判断し、この状態が予め決められた時間にわたって継続すると(ステップSt8でYesと判断すると)、その段階で測定サンプル8の温度Tsを測定する(ステップSt9)。具体的には、上記ステップSt3と同様に、信号処理部7は、温度センサ13から出力される測定信号S1を取り込み、この測定信号S1が示す温度Tsの電子データを信号処理部7自身の記憶手段に記憶する。
【0053】
次に、信号処理部7は、上記ステップSt3,St9で記憶手段に記憶した2つの測定温度Tsの電子データを用いて、測定サンプル8の比熱を算出する(ステップSt10)。ここでは説明の便宜上、上記ステップSt3で測定した測定サンプル8の温度Tsを第1のサンプル温度Ts1とし、上記ステップSt9で測定した測定サンプル8の温度Tsを第2のサンプル温度Ts2とする。そうした場合、信号処理部7は、第2のサンプル温度Ts2と第1のサンプル温度Ts1との温度差ΔTsを演算により求める。この温度差ΔTsは、熱量Qの入力に伴う第1保持ユニット1内の温度変化量(温度上昇量)に相当する。ここでは一例として、ΔTs=0.2℃と算出されたものとする。そうすると、信号処理部7は、以下の(1)式に基づいて測定サンプル8の比熱(定圧比熱)Cpを算出する。
【0054】
Cp=Q/(ΔTs×m) …(1)
Cpは測定サンプルの比熱(J/K・g)
Qは測定サンプルに入力した熱量(J)
mは測定サンプルの質量(g)
【0055】
ここで、予め信号処理部7の記憶手段に記憶してあるQ=120Jおよびm=200gの各数値を上記(1)式に代入し、かつ上記の演算により求めたΔTs=0.2℃の数値を代入すると、Cp=3.0(J/K・g)として求まる。
【0056】
図3は、本発明の実施の形態に係る比熱測定方法を実施した場合に、第1保持ユニット1内の温度および第2保持ユニット2内の温度が、それぞれどのように変化するかを示す図である。図中の温度Tsは、温度センサ13によって測定される、第1保持ユニット1内の温度であり、実質的には測定サンプル8の温度である。また、温度Trは、温度センサ18によって測定される、第2保持ユニット2内の温度であり、実質的には空サンプル10の温度である。また、図中のタイミングt1は、上記のサンプル加熱ヒータ12によって入力熱量Qを印加するタイミングを示し、タイミングt2は、温度Tsの上昇が停止して平衡状態に移行し始めるタイミングを示し、t1からt2までの期間Ltは、温度Tsが上昇し続ける期間(以下、「温度上昇期間」という)を示している。
【0057】
図から分かるように、上記ステップSt3でサンプル加熱ヒータ12に一定の電流を流すと、それをきっかけとして温度Tsが上昇を始める。この温度上昇中においては、前述したヒータ21a,21bへの電流の供給によって断熱状態が維持される。また、温度Tsと温度Trとの間に温度差ΔT0が生じると、これをゼロとするようにヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bに同一の電流が供給される。このため、温度Tsが上昇を始めると、これに追従するかたちで温度Trも上昇を始める。
【0058】
その際、ヒータ14a,14bへの電流の供給によって第1保持ユニット1に与えられる熱量は、測定サンプル8を除いた部分の熱容量による熱量損失分に相当するものとなる。この点について、以下に詳しく説明する。
【0059】
まず、第1保持ユニット1が有するトータルの熱容量をC1とし、測定サンプル8が有する熱容量をC2とし、測定サンプル8を除いた部分の熱容量をC3とする。そうした場合、これらの熱容量の関係は、以下の(2)式のようになる。
C1=C2+C3 …(2)
【0060】
また、第2保持ユニット2が有する熱容量をC4とすると、この熱容量C4は、第1保持ユニット1が有する熱容量C1のうち、測定サンプル8を除いた部分の熱容量C3に等しいものとなる。
【0061】
また、断熱壁3内での温度制御の形態として、熱量Qの入力に伴って温度Tsが上昇するときに、温度Tsと温度Trとの温度差ΔT0がゼロになるように、ヒータ14a,14bとヒータ19a,19bに同一の電流を供給すると、その都度、測定サンプル8を除いた部分の熱容量C3による熱量損失分が補填される。
【0062】
そして、温度上昇期間Ltにおいて、入力熱量Qの印加に伴う温度Tsの上昇に対し、これに追従するように温度Trを上昇させて、両者の温度差ΔT0をなくすように制御すると、この温度上昇期間Ltが終わるタイミングt2では、測定サンプル8を除いた部分の熱容量c3によって生じるすべての熱量損失分が補填された状態となる。
【0063】
このため、温度Tsの上昇が停止して平衡状態に遷移したときの温度Ts2は、第1保持ユニット1が有する熱容量C1のうち、測定サンプル8以外の部分の熱容量C3を除いた、測定サンプル8のみの熱容量C2に対応したものとなる。したがって、上述した第2のサンプル温度Ts2と第1のサンプル温度Ts1との温度差ΔTsは、サンプル加熱ヒータ12への電流の供給によって発生する熱量Qを測定サンプル8にのみ入力したときの、測定サンプル8自身の温度変化を示すものとなる。よって、この温度差ΔTsを上記の(1)式に代入すれば、測定サンプル8の比熱を正確に求めることができる。
【0064】
<3.実施の形態の効果>
本発明の実施の形態に係る比熱測定装置および比熱測定方法によれば、以下のような効果が得られる。
【0065】
すなわち、比熱測定の対象として、上述した大判のリチウムイオン電池のように、何らかの保持を必要とする物体を測定サンプル8とする場合に、この測定サンプル8の比熱を正確に測定することができる。さらに記述すると、比熱測定の対象となる測定サンプル8が板状の構造体であって、この測定サンプル8を一対の保持部材11a,11bでサンドイッチ状に挟んで保持する場合に、保持部材11a,11b等の熱容量によって生じる熱量損失分を補填しつつ、規定の熱量の入力に伴う測定サンプル8の温度変化量を求めることができる。このため、断熱式比熱測定において、測定サンプル8を保持する第1保持ユニット1の熱容量分を補正しなくても、測定サンプル8の比熱を直接かつ正確に測定することができる。
【0066】
また、比熱測定の対象となる測定サンプル8が、フィルムでラミネートされたリチウムイオン電池である場合に、このフィルムと同一の構造物からなるフィルムを空サンプル10として第2保持ユニット2に保持するようにしている。このため、リチウムイオン電池を測定サンプル8とする場合に、第2保持ユニット2に空サンプル10を設けない場合に比べて、ラミネートフィルムの熱容量の影響を排除したかたちで、リチウムイオン電池自身の比熱を正確に測定することができる。
【0067】
<4.変形例等>
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0068】
たとえば、上記図1においては、ヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bに対して、電流回路29からそれぞれ個別に電流を供給する構成になっているが、本発明はこれに限らず、次のような構成を採用してもよい。すなわち、図示はしないが、ヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bを直列に接続し、この直列接続のヒータ14a,14bとヒータ19a,19bに対して共通の電流回路29から電流を供給する構成としてもよい。この構成を採用すれば、より簡単な回路構成によって、ヒータ14a,14bおよびヒータ19a,19bに同一の電流をほぼ同時に流すことができる。
【0069】
また、比熱測定の対象となる測定サンプルとしても、上述したリチウムイオン電池に限らず、種々の形状、大きさの物体を測定サンプルとすることができる。また、第1保持ユニット、第2保持ユニットおよび断熱壁の各構成(形状、大きさなど)についても、測定サンプルの形状、大きさ等にあわせて種々の変形が可能である。たとえば、第1保持ユニット、第2保持ユニットおよび断熱壁が、それぞれ略円筒状をなすものであってもよい。また、自己発熱反応を起こす測定サンプルについても完全な断熱状態での断熱上昇温度曲線が得られる。
【符号の説明】
【0070】
1…第1保持ユニット
2…第2保持ユニット
3…断熱壁
4…ヒータ駆動部
5…第1の温度制御部
6…第2の温度制御部
7…信号処理部
8…測定サンプル
10…空サンプル
11a,11b,16a,16b…保持部材
12…サンプル加熱ヒータ
13,18,20a,20b…温度センサ
14a,14b,19a,19b,21a,21b…ヒータ
17…ダミーヒータ
22…定電流回路
23,27…温度差検出回路
24,28…制御回路
25,29…電流回路
100…比熱測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比熱測定の対象となる測定サンプルを保持する第1保持ユニットと、
前記第1保持ユニットと同一の熱容量を有するものであって、前記測定サンプルを保持しない、実質的に空の第2保持ユニットと、
前記第1保持ユニットおよび前記第2保持ユニットを収容する収容空間を形成する断熱壁と、
前記測定サンプルを保持する前記第1保持ユニット内の温度を測定する第1の温度センサと、
前記測定サンプルを保持しない前記第2保持ユニット内の温度を測定する第2の温度センサと、
前記断熱壁の温度を測定する第3の温度センサと、
前記第1保持ユニットに保持された測定サンプルを加熱するサンプル加熱ヒータと、
前記第1保持ユニットを加熱する第1の加熱ヒータと、
前記第2保持ユニットを加熱する第2の加熱ヒータと、
前記断熱壁を加熱する第3の加熱ヒータと、
前記第1の温度センサ、前記第2の温度センサおよび前記第3の温度センサの各測定結果に基づいて、前記第3の加熱ヒータの駆動を制御する第1の温度制御手段と、
前記第1の温度センサおよび前記第2の温度センサの各測定結果に基づいて、前記第1の加熱ヒータおよび前記第2の加熱ヒータの駆動を制御する第2の温度制御手段と、
前記測定サンプルの比熱を演算によって求める演算手段と
を備え、
前記第1の温度制御手段は、前記断熱壁が形成する収容空間を、前記第1保持ユニットと前記断熱壁との間の熱移動および前記第2保持ユニットと前記断熱壁との間の熱移動がない断熱状態に維持するように、前記第3の加熱ヒータの駆動を制御し、
前記第2の温度制御手段は、前記収容空間を前記断熱状態に維持している状況下で、前記サンプル加熱ヒータの駆動により前記測定サンプルに規定の熱量を入力した場合に、前記第1の温度センサが測定した温度と前記第2の温度センサが測定した温度との間に温度差が生じないように、前記第1の加熱ヒータおよび前記第2の加熱ヒータの両方に同一の電流を供給し、
前記演算手段は、前記収容空間を前記断熱状態に維持している状況下で、前記測定サンプルに前記規定の熱量を入力した場合に、前記第1の温度センサの測定結果に基づいて前記第1保持ユニット内の温度変化量を求め、さらに当該温度変化量に基づいて前記測定サンプルの比熱を算出する
ことを特徴とする比熱測定装置。
【請求項2】
前記第1の加熱ヒータと前記第2の加熱ヒータを直列に接続し、
前記第2の温度制御手段は、前記直列に接続された前記第1の加熱ヒータと前記第2の加熱ヒータに電流を供給する電流回路を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の比熱測定装置。
【請求項3】
前記測定サンプルは、板状の構造体であり、
前記第1保持ユニットは、前記測定サンプルをサンドイッチ状に挟んで保持する一対の保持部材を有し、
前記第2保持ユニットは、前記一対の保持部材と同一の構造物からなる一対の保持部材を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の比熱測定装置。
【請求項4】
前記測定サンプルは、フィルムでラミネートされたリチウムイオン電池であり、
前記第2保持ユニットは、前記フィルムと同一の構造物からなるフィルムを空サンプルとして保持する
ことを特徴とする請求項3に記載の比熱測定装置。
【請求項5】
比熱測定の対象となる測定サンプルを保持する第1保持ユニットと、前記第1保持ユニットと同一の熱容量を有するものであって、前記測定サンプルを保持しない、実質的に空の第2保持ユニットとを、断熱壁で囲まれた収容空間に収容する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記第1保持ユニットと前記断熱壁との間の熱移動および前記第2保持ユニットと前記断熱壁との間の熱移動がない断熱状態に前記収容空間を遷移させる第2工程と、
前記第2工程の後に、前記収容空間を前記断熱状態に維持しつつ、前記測定サンプルに規定の熱量を入力するとともに、当該規定量の熱量の入力によって前記第1保持ユニット内の温度と前記第2保持ユニット内の温度との間に温度差が生じないように、前記第1保持ユニットおよび前記第2保持ユニットの両方に同一の熱量を供給する第3工程と
を含み、
前記第3工程において、前記測定サンプルに前記規定の熱量を入力した場合に生じる前記第1保持ユニット内の温度変化量を求め、当該温度変化量に基づいて前記測定サンプルの比熱を算出する
ことを特徴とする比熱測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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