説明

毛羽除去装置および糸巻取装置

【課題】給糸ボビンから糸を巻き上げてパッケージを形成する際に生じる毛羽(特に3mm以上の比較的長い毛羽)を比較的簡単な構成で除去することができる毛羽除去装置と、これを備えた糸巻取装置を提供する。
【解決手段】巻取部に巻き上げられる糸の糸走行路を挟み込み、かつ糸走行路に沿うように配置された複数の押圧部材対を備える。これらの押圧部材対のそれぞれにおいて、そのうちの少なくとも一方の押圧部材には、これを他方の押圧部材に対して移動可能とする移動機構を備える。押圧部材には糸に接触して糸を押さえる糸接触部をそれぞれ形成する。そして、各押圧部材対のそれぞれにおいて、第1の押圧部材に形成する第1の糸接触部は、糸走行路に沿う円弧状の凸部とし、第2の押圧部材に形成する第2の糸接触部は、糸走行路に沿う円弧状の凸部、または糸走行路に沿う平面とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給糸ボビンから巻取部に糸を巻き上げる際にその糸表面に生じる毛羽を除去する毛羽除去装置と、この毛羽除去装置を備えた糸巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動ワインダのような糸巻取装置によって給糸ボビンから糸を巻き上げてパッケージを形成する場合、給糸ボビンから引き出された糸が巻き上げられる過程でガイド部分などに接触するために、巻き取られる糸に毛羽が生じることが避けられない。このような毛羽を制御する技術として、従来においては例えば特許文献1な記載されているような自動ワインダにおける毛羽伏せ装置や特許文献2に記載されているような毛羽制御装置が知られている。
【0003】
このうち、特許文献1記載の毛羽伏せ装置は、糸が通過する糸通路とこの通路内に旋回流を生じさせるためにエアを噴射する孔とを設けてなるノズル手段を備え、糸通路内にエアを噴射して糸をバルーニングさせることにより、毛羽を糸に絡ませて巻き込むようにしたものである。また、特許文献2記載の毛羽制御装置は、複数のフリクションディスクを備え、これらのディスクの回転により、走行する糸に仮撚りを施し、糸の表面から突出した毛羽を糸を構成する繊維に巻き込ませるようにしたものである。これらの装置によれば、いずれも給糸ボビンから引き出された糸がパッケージに巻き上げられる過程で生じる毛羽を抑制することができる。
【0004】
なお、上記のような糸巻取装置には、特許文献1・2にも記載されているように、糸の走行および巻き取りをスムーズに行わせる手段として、走行する糸にテンションを付与する張力付与装置(テンション装置)が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−139231号公報(段落番号0004、0008、図1参照)
【特許文献2】特開2002−348042号公報(段落番号0004、0012〜0016、図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の毛羽伏せ装置では、糸を旋回させるためのエアやノズル手段が必要であるだけでなく、ノズル手段にエアを供給するためのエア供給手段(エア通路やエア供給源となるコンプレッサなど)が必要である。また、十分な毛羽伏せ効果を得るために、上記の旋回流によって糸に対して施される撚りが糸通路の入口及び出口の少なくとも一方に伝播するのを実質的に止める撚り止め手段を、糸通路の入口及び出口の少なくとも一方に設ける必要がある。このため、上記のエアの消費に加えて装置構成ないし機構の複雑化が避けられない。
【0007】
一方、特許文献2記載の毛羽制御装置においても、走行する糸に仮撚りを施すために複数のフリクションディスクを所定の状態に配置する必要があるとともに、これらの複数のディスクを駆動するための複数の駆動軸や、これらの駆動軸を介して各ディスクを駆動する回転駆動装置(モータなど)を別途備える必要がある。したがって、この場合も、装置構成や機構が比較的複雑なものになってしまうという問題がある。
【0008】
ところで、上記のような糸の巻き上げ時には1mm以下の毛羽から10mm以上の毛羽まで種々の長さの毛羽が生じるが、その中でも特に3mm以上の比較的長い毛羽の量の少ない糸を求めるユーザーも存在する。この点、従来の毛羽伏せ装置等は、そのような3mm以上の比較的長い毛羽に重点をおいてその量を抑制するようには構成されていなかったため、上記のようなユーザーの要望に十分に応えられない面があった。
【0009】
本発明の目的は、給糸ボビンから糸を巻き上げてパッケージを形成する際に生じる毛羽(特に3mm以上の比較的長い毛羽、以下同じ)を比較的簡単な構成ないし機構で除去することができる毛羽除去装置と、これを備えた糸巻取装置(糸巻取装置等)を提供することにある。本発明の目的は、給糸ボビンから糸を巻き上げてパッケージを形成する際に生じる毛羽を比較的簡単な構成ないし機構で除去することができ、しかも除去した毛羽(風綿)についてその後の風綿除去作業が行いやすくなるように一箇所にためることができる糸巻取装置等を提供することにある。本発明の目的は、給糸ボビンから糸を巻き上げてパッケージを形成する際に生じる毛羽を比較的簡単な構成ないし機構で除去することができ、しかも毛羽除去操作に必要な調整が容易な糸巻取装置等を提供することにある。本発明の目的は、給糸ボビンから糸を巻き上げてパッケージを形成する際に生じる毛羽を比較的簡単な構成ないし機構で除去することができ、しかも走行する糸に対して毛羽除去および巻き取りの双方に適した付与テンョンを実現できる糸巻取装置等を提供することにある。本発明の目的は、給糸ボビンから糸を巻き上げてパッケージを形成する際に生じる毛羽を比較的簡単な構成ないし機構で除去することかでき、しかも従来の毛羽伏せ装置を備えた自動ワインダ等に比べて駆動源の個数を減らすことができ、その分だけコストを低減できる糸巻取装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明に係る毛羽除去装置および糸巻取装置は、下記のように構成したことを特徴とする。
【0011】
すなわち、本発明に係る毛羽除去装置は、巻取部に巻き上げられる糸の糸走行路を挟み込み、かつ糸走行路に沿うように配置された複数の押圧部材対を有する。これらの押圧部材対のそれぞれにおいて、そのうちの少なくとも一方の押圧部材には、これを他方の押圧部材に対して移動可能とする移動機構を備える。
【0012】
各押圧部材対には、糸に接触して糸を押さえる糸接触部をそれぞれ形成する。そして、各押圧部材対のそれぞれにおいて、第1の押圧部材に形成する第1の糸接触部は、糸走行路に沿う円弧状の凸部とし、第2の押圧部材に形成する第2の糸接触部は、糸走行路に沿う円弧状の凸部、または糸走行路に沿う平面とする。この場合、第2の糸接触部は、前者のように円弧状の凸部とするのが好ましく、特に第1の糸接触部と同一形状の円弧状の凸部とするのが好ましい。ここで、上記の「糸走行路に沿う円弧状の凸部」とは、押圧部材をその糸接触部と糸走行路とを含むように糸走行路の方向に沿って切断したときに当該押圧部材の断面において糸走行路に面する側の側縁部が円弧状の凸部となっていることを意味する。
【0013】
より具体的には、毛羽除去装置は、糸走行路を挟み込むように配置された第1の板部材と第2の板部材とをさらに有しており、そのうちの第1板部材の板面上に前記複数の第1の押圧部材を形成し、第2の板部材の板面上に前記複数の第2の押圧部材を形成した構成とする。そして、各板部材のうち少なくとも一方は、前記各押圧部材の形成されていない板面側で、揺動可能に支持されている構成とする。
【0014】
複数の押圧部材は2箇所ないし4箇所に備えることができるが、毛羽抑制効果が特に高いという点で2箇所に備えるのが好ましい。1箇所では十分な毛羽抑制効果が得られず、5箇所以上では却って毛羽が増加するおそれがある。
【0015】
第1の板部材には、糸走行路と直交する方向に延びる第1の押圧部材を、糸走行路に沿う方向に所定の間隔をあけて2箇所形成し、第2の板部材には、糸走行路と直交する方向に延びる第2の押圧部材を、糸走行路に沿う方向に所定の間隔をあけて2箇所形成する。
【0016】
各押圧部材は、糸走行路側から見てリング状の形状を有する構成とすることができる。
【0017】
第1の押圧部材が形成された第1の板部材と、第2の押圧部材が形成された第2の板部材とは、同一形状とすることができる。この場合の同一形状とは、例えば、当該押圧部材によって挟み込まれる糸走行路の側から各板部材を見た場合に、各板部材の外形(輪郭)が同一の形状(例えば、いずれも同じ四角形や、円形など)であることを意味する。
【0018】
本発明に係る糸巻取装置は、給糸ボビンを支持するボビン支持部と、このボビン支持部に支持された給糸ボビンから糸を巻き上げてパッケージを形成する巻取部とを有するものにおいて、上述した毛羽除去装置を備えた構成である。
【0019】
本発明の糸巻取装置には、巻取部に巻き上げられる糸に対して張力を付与する張力付与装置と、この張力付与装置と前記毛羽除去装置とによる張力付与を制御する制御部とをさらに備えることができる。その場合、張力付与装置および毛羽除去装置とを一体のフレームに設け、これらの装置を共通の駆動源で駆動する駆動機構を備えるのが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の毛羽除去装置によれば、給糸ボビンから巻取部に巻き上げられる糸の糸走行路を挟み込み、かつ糸走行路に沿うように配置された糸接触部を形成してなる複数の押圧部材対が備えられており、そのうちの少なくとも一方の押圧部材には、これを他方の押圧部材に対して移動可能とする移動機構が備えられているので、これらの押圧部材対における糸接触部間に走行する糸を挟み込むことができる。これにより、その糸表面に存在する毛羽に対して摩擦力を与え、毛羽を引きちぎるようにして除去することができる。
【0021】
この場合、糸接触部間に挟み込まれた糸に作用する押圧力、すなわちニップ力が強すぎると糸表面が荒れて逆に毛羽立ち、糸に対する接触面積が広いと糸表面の擦られる距離が長くなって、やはり毛羽立ちの原因となる。糸に付与するテンションは一定であり、毛羽除去のために付与する押圧力も一定であるが、例えば、尖った凸部で糸をニップすると、糸に接触する面積が非常に小さくなるため、その部分に圧力(ニップ力)が集中してしまい、この局所的に集中した強い押圧力によって糸が荒れて毛羽立ってしまう。この毛羽立ちによる毛羽増加量が毛羽引きちぎりによる毛羽減少量よりも多くなると、全体の毛羽量が増えてしまう。逆に、糸に接触する面積が大きすぎると圧力(ニップ力)の集中が無くなり、所要の引きちぎり力が得られない。さらに、糸に接触する面積が大きい分だけ糸表面が擦られる距離が長くなることにより毛羽立ちが増える。このような毛羽引きちぎりによる毛羽減少量と毛羽立ちによる毛羽増加量との差分が最終の毛羽量となって測定されるのであるが、毛羽除去手段が糸に対して面接触する構成では十分な毛羽除去効果が得られない。
【0022】
この点、本発明においては、各押圧部材対のうち第1の押圧部材に形成された第1の糸接触部が糸走行路に沿う円弧状の凸部とされており、各押圧部材対のうち第2の押圧部材に形成された第2の糸接触部が糸走行路に沿う平面、または糸走行路に沿う円弧状の凸部とされているので、少なくとも第1の糸接触部(第2の糸接触部が糸走行路に沿う円弧状の凸部とされているときは第2の糸接触部も)は走行する糸に対して点接触の状態となる。このような少なくとも一方が円弧状の凸部からなる糸接触部間に糸を挟み込んで走行させると、糸に接触する面積が比較的小さいにもかかわらず、尖った凸部で糸を挟み込んだときのような圧力(ニップ力)の集中が起こらない。そして、糸に接触する面積が比較的小さいために、所要の引きちぎり力が得られると同時に、糸表面が擦られる距離が長くなることによる毛羽立ちの増加も回避できることとなる。また、長い毛羽は、その長さが長い分、円弧状の凸部間を通過する糸に作用する摩擦力も大きくなるから短い毛羽よりも引きちぎられやすい。
【0023】
こうして、本発明の毛羽除去装置によれば、パッケージに巻き取られる糸に発生した比較的長い毛羽(3mm以上の毛羽)を効果的に除去ないし抑制することができる。
【0024】
第2の糸接触部をも円弧状の凸部である構成とした場合には、本発明の毛羽除去装置を備えた糸巻取装置の糸走行路において、円弧状の凸部と凸部とで走行する糸を挟むこととなる。これにより、円弧面に応力を適度に集中させて、糸をさらに毛羽立たせることなく糸表面における比較的長い毛羽を除去することができる。この場合、第2の糸接触部が第1の糸接触部と同一形状の円弧状の凸部とされていると、同一形状の凸部で糸を挟むこととなるので、挟み込みによる応力集中部分が把握し易くなり、最適な毛羽除去(抑制)効果が得られるようにするための挟み込み力等の調整が容易になる。
【0025】
本発明の毛羽除去装置において、糸走行路を挟み込むように配置された第1の板部材と第2の板部材とをさらに備え、そのうちの第1の板部材の板面上に前記複数の第1の押圧部材を、第2の板部材の板面上に前記複数の第2の押圧部材をそれぞれ形成し、前記各板部材のうち少なくとも一方を、前記各押圧部材の形成されていない板面側で、揺動可能に支持した構成とした場合には、揺動する板部材に複数の押圧部材が配置されることとなるので、そのような複数の押圧部材に毛羽除去のための応力が均等に分散される。これにより、複数の押圧部材で等しい毛羽除去作用が発揮されることとなる。
【0026】
前記第1の板部材に、前記糸走行路と直交する方向に延びる前記第1の押圧部材を糸走行路に沿う方向に所定の間隔をあけて2箇所形成し、前記第2の板部材に、前記糸走行路と直交する方向に延びる前記第2の押圧部材を糸走行路に沿う方向に所定の間隔をあけて2箇所形成する構成とした場合には、各押圧部材の間に風綿をためることができる。また、単純な形状となるため、製作上も有利である。
【0027】
各押圧部材をリング状とした場合にも、形状が単純であるため、製作上有利である。
【0028】
前記第1の押圧部材が形成された第1の板部材と、前記第2の押圧部材が形成された第2の板部材とを同一形状にすると、同一形状の凸部で糸を挟み込むこととなるので、挟み込みによる応力集中部分が把握しやすく、調整が容易になる。
【0029】
給糸ボビンを支持するボビン支持部と、このボビン支持部に支持された給糸ボビンから糸を巻き上げてパッケージを形成する巻取部と、前記の毛羽除去装置を備えた糸巻取装置において、巻取部に巻き上げられる糸に対して張力を付与する張力付与装置と、この張力付与装置と前記毛羽除去装置とによる張力付与を制御する制御部とをさらに備えていると、張力付与装置によるテンション付与と、毛羽除去装置による毛羽除去のための押圧力と、張力付与装置と毛羽除去装置とによるテンション付与とを、前記制御部によって調節できるので、毛羽除去および糸巻き取りに適した付与テンションを実現することができる。
【0030】
この糸巻取装置において、張力付与装置および毛羽除去装置とを一体のフレームに設けておくと、糸巻取装置への着脱をフレームごと行えるので、両装置の着脱作業が容易になる。また、共通の駆動源で駆動するので、各装置ごとに個別の駆動源で駆動する場合に比べて駆動源の個数を減らすことができ、その分だけコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1に係る糸巻取装置の全体構成を示す正面図である。
【図2】糸巻取装置に備えられた毛羽除去装置の周辺構造を示す縦断面図である。
【図3】可動側ゲート体および可動側押圧体が作動位置にある状態を示す平面図である。
【図4】可動側ゲート体および可動側押圧体が待機位置にある状態を示す平面図である。
【図5】図4の矢印Cの矢視方向に見た側面図である。
【図6】図2のA−A線断面図である。
【図7】図2のB−B線断面図である。
【図8】本発明の実施例2に係る一対の押圧体(押圧部材等)を示すもので、(a)はその対向する面側からみた正面図、(b)は縦断面図である。
【図9】本発明の実施例3に係る一対の押圧体(押圧部材等)を示すもので、(a)はその対向する面側からみた正面図、(b)は縦断面図である。
【図10】本発明の比較例に係る各一対の押圧体をそれぞれ示すもので、(a)は比較例1、(b)は比較例2、(c)は比較例3、(d)は比較例4、(e)は比較例5をそれぞれ示すものである。
【図11】本発明の効果確認試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(実施例1) 図1ないし図7は本発明に係る糸巻取装置(自動ワインダ)の実施例1を示す。図1に示すように、糸巻取装置1は、縦長箱状の本体フレーム2を有する。この本体フレーム2の左側には、ボビン支持部3に支持された給糸ボビンBの糸Yを巻き取ってパッケージPを形成しうるように、下から上へ延びる糸Yの糸走行路に沿って、ボビン支持部3、解舒補助装置4、テンション付与部5、テンションセンサ6、糸継装置7、スラブキャッチャ8および巻取部9などが配置されている。このうち、テンション付与部5には、テンション装置10に加えて、本発明の特徴部分となる毛羽除去装置11が備えられている。
【0033】
解舒補助装置4は、給糸ボビンBの糸巻き量の減少による解舒張力の上昇を抑えて、給糸ボビンBからの糸Yの解舒を補助する。テンション付与部5におけるテンション装置10は、給糸ボビンBから送給される糸Yに所定のテンション(張力)を付与する(これについては後述する)。テンションセンサ6は、テンション付与部5を通過した糸Yの糸走行路に設けられており、糸Yのテンションを測定してその結果を出力する。テンションセンサ6としては、例えば、二本の固定棒の間に可動棒を配置し、固定棒と可動棒とにわたって掛けられた糸Yが可動棒に与える力に基づいて糸Yのテンションを測定するものが該当する。
【0034】
糸継装置7は、スラブキャッチャ8で糸欠陥が検知されたとき、糸Yを切断して糸欠陥部分を除去し、当該除去後の給糸ボビンB側の下糸と、パッケージP側の上糸とを継ぎ合わせる。そのために、前記下糸を捕捉して糸継装置7に渡す中継ぎパイプ12と、前記上糸を捕捉して糸継装置7に渡すサクションマウス13とが、それぞれ揺動できる状態で本体フレーム2に組み付けられている。テンション装置10に対する糸Yの導入は、中継ぎパイプ12が糸継装置7に下糸を渡す過程で行なわれる。巻取部9は、糸Yを一定の幅範囲で変位操作(トラバース)する綾振ドラム14と、パッケージPの巻芯15を支持するクレードル16などで構成する。
【0035】
図2および図3に示すように、テンション付与部5には、本体フレーム2に固定した補助フレーム17の一側に、上下一対の平板状のブラケット18・19が互いに所定の間隔をあけた状態で取り付けられており、これらのブラケット18・19間に、先のテンション装置(張力付与装置)10、本発明の特徴部分となる毛羽除去装置11、これらの一部を構成する上下一対の揺動体20・21、駆動機構(移動機構)22、後面が開口された箱状のケーシング23などが配置されている。両ブラケット18・19には、これらの前縁で開口する前後に長い導入溝24・25がそれぞれ形成されている。糸継ぎ時に中継ぎパイプ12で捕捉された下糸は、テンション装置10の前方から導入溝24・25を介して、下記の待機位置にある可動側ゲート体27と、固定側ゲート体26との間へ導入され、その下糸の上端側が糸継装置7に渡される。
【0036】
テンション装置10は、図2ないし図4に示すように、櫛状の固定側ゲート体26と、櫛状の可動側ゲート体27と、先の下側の揺動体21と、先の駆動機構22と、ケーシング23とを含んでいる。駆動機構22は、可動側ゲート体27を作動位置(図3に示す位置)と待機位置(図4に示す位置)とに切り換え操作できるように構成されている。可動側ゲート体27は、作動位置で固定側ゲート体26と協同して糸Yを挟み込んで糸Yにテンションを付与し、待機位置では固定側ゲート体26から分離して、可動側ゲート体27と固定側ゲート体26との間への糸導入に備える。なお、テンション装置10には、可動側ゲート体27の切り換え状態を検知する開閉センサ(図示せず)が備えられており、この開閉センサによって可動側ゲート体27が作動位置にあるか待機位置にあるかが検知される。
【0037】
固定側ゲート体26は、図2ないし図4、図6、図7に示すように、ケーシング23の右側壁の外面に固定されており、複数(図示例では4個)の水平な固定櫛歯28を上下に並べて形成した構成である。各固定櫛歯28は、糸Yを円滑に導入するために前端部が丸められており、後部に、糸Yが後方へ移動するのを規制するための半円状の突起部29が形成されている。
【0038】
下側の揺動体21は、図6に示すように、上方から見て略L状に形成されており、下側のブラケット19に固定した支軸30に中央のボス31が軸支されて当該軸回りに揺動可能とされている。下側の揺動体21の一端側は可動側ゲート体27の取付部32とされ、他端側は後述する第1レバー67や第2レバー68によって揺動操作される被操作部33とされている。
【0039】
可動側ゲート体27は、下側の揺動体21の取付部32に設けられた複数(図示例では3個)の水平な可動櫛歯34を備えた構成である。各可動櫛歯34は、先の固定櫛歯28と互い違い状に交差できるように配置されており、固定櫛歯28の突起部29の側方に湾曲部が形成されている。可動櫛歯34が湾曲させることで、湾曲させた可動櫛歯34と固定櫛歯28の湾曲部とで協同して糸Yを挟んだときに、糸Yが前方へ移動するのが規制される。可動側ゲート体27は、作動位置で固定側ゲート体26と協同して糸Yを挟み込んで糸Yにテンションを付与し、待機位置では固定側ゲート体26から分離して、可動側ケート体27と固定側ケート体26との間への糸導入に備える。
【0040】
次に、テンション付与部5に備えられた上述の毛羽除去装置11について説明する。
【0041】
毛羽除去装置11は、図2、図3、図7に示すように、巻取部9に巻き上げられる糸Yの糸走行路を挟み込むように対向配置された一対の押圧体(第1の押圧部材、第2の押圧部材)40・41と、上側の揺動体20と、駆動機構22とを含んでいる。駆動機構22は、先のテンション装置10におけるものと共通である。
【0042】
一対の押圧体40・41は、本実施例の場合、セラミックで構成されており、図2に示すように、対向する面側(糸Yを挟み込む側)から見た形状が4角形状とされている。これらの押圧体40・41はいずれも板状部分を有しており、そのうちの一方の押圧体40における板状部分が第1の板部材42、他方の押圧体41における板状部分が第2の板部材43とされている。そして、その互いに対向する面における上縁および下縁に沿って上下2対の押圧部44〜47がそれぞれ対向状に設けられている。これら上下2対の押圧部44〜47は、糸Yの糸走行路と直交する方向に延び、糸走行路に沿う方向(図2では上下方向)に所定の間隔をあけて形成されている。これらの押圧部44〜47には、その対向する面側に、糸に接触して糸を押さえる糸接触部48〜51が形成されている。各糸接触部48〜51は、本実施例では、図2の紙面と直交する方向から見て、いずれも糸Yの糸走行路に沿う同一形状の円弧状の凸部で構成されている。各押圧体40・41の板部材42・43における押圧部(第1の押圧部材)44・45間および押圧部(第2の押圧部材)46・47間には、当該押圧体40・41を図2に示したケーシング23や図7に示した連結ユニット55にネジ止めする際に使用するネジ挿通孔52が貫通形成されている。なお、本実施例では、各押圧体40・41を構成している板部材42・43と押圧部44〜47とは同一の素材(この実施例ではセラミック)で一体に形成されているが、これらは別体でもよく、また異なる素材で構成されていても構わない。
【0043】
上記一対の押圧体40・41は、本実施例では、そのうちの一方が固定側押圧体40、他方が可動側押圧体41とされている。固定側押圧体40は、上述した固定側ゲート体26が形成されているケーシング23の右側壁の外面における上部に第1の板部材42を介してネジ53で固定されている。可動側押圧体41は、図2、図3および図7に示すように、上側の揺動体20の取付部54に取り付けられた連結ユニット55に取り付けられている。連結ユニット55は、上側の揺動体20の取付部54に固定された第1連結部材56と、第1連結部材56に揺動可能に連結されて可動側押圧体41がネジ57により固定された第2連結部材58と、第1連結部材56と第2連結部材58とを連結する連結軸59とからなる。連結軸59は、先の揺動体20・21等を支持している支軸30と平行に設けられており、この連結軸59の回りに第2連結部材58およびこれに取り付けられた可動側押圧体41が一体的に揺動可能とされている。
【0044】
上側の揺動体20は、下側の揺動体21と同様の構造であって、図3および図7に示すように、上方から見て略L状に形成されており、下側のブラケット19に固定した支軸30に中央のボス60が軸支されて当該軸回りに揺動可能とされている。上側の揺動体20の一端側は上記第1連結部材56に対する取付部54とされ、他端側は下側の揺動体21と同じく、第1レバー67や第2レバー68によって揺動操作される被操作部61とされている。
【0045】
駆動機構22は、上記の可動側ゲート体27および可動側押圧体41を共通の駆動源で駆動できるように構成したもので、図3に示すように、可動側ゲート体27および可動側押圧体41の開閉位置(待機位置と作動位置)を切り換え操作するための開閉用の第1アクチュエータ(駆動源)65と、上下の揺動体20・21に作用するトルク値ひいては可動側ゲート体27や可動側押圧体41に作用するトルク値を調節する調節用の第2アクチュエータ(駆動源)66と、支軸30にそれぞれ揺動可能に支持された第1レバー67および第2レバー68と、一端が第1レバー67の一端側に連結されて他端が第1アクチュエータ65の回転軸69に連結された第1連結ロッド70と、一端が第2レバー68の一端(揺動端)側に連結されて他端が第2アクチュエータ66の回転軸71に連結された第2連結ロッド72とを有する。第1アクチュエータ65および第2アクチュエータ66は、図示例ではいずれも回転型のソレノイドで構成されている。
【0046】
第1レバー67の一端側には、図3および図5から図7に示すように、可動側ゲート体27および可動側押圧体41の開閉位置を切り換え操作する際に上下の揺動体20・21を揺動させるための第1操作部73が上下に形成されている。また、第1レバー67の他端側の下部には、可動側ゲート体27および可動側押圧体41を図4に示す待機位置から図3および図6等に示す作動位置へと切り換えるべく第1レバー67を支軸30を中心として図4の左回りに揺動させたときに第2レバー68の一端に当接して、当該第2レバー68を同じく支軸30を中心として図4の左回りに揺動させる第2操作部74が設けられている。
【0047】
第2レバー68は、上方から見て略L状に屈曲されており、その一端側に支軸30に支持されたボス75が形成され、他端側に上下の揺動体20・21にそれぞれ対応する操作部76・77が上下に設けられている(図5参照)。これらの上下の操作部76・77は、上下の揺動体20・21の被操作部61・33に対向させうる高さ位置にそれぞれ配置されており、その対向面となる側に弾性体(図示例ではゴム)78・79がそれぞれ装着されている。また、第2レバー68における上下の操作部76・77間には、上方から見て操作部76・77と同方向に延びる連結部80が設けられており、この連結部80の先端側に第2連結ロッド72の一端が連結されている。そして、可動側ゲート体27および可動側押圧体41が図3に示す作動位置にある状態において、第2アクチュエータ66が第2連結ロッド72を介して第2レバー68を支軸30を中心にして図3の左回りに揺動させたときに、その上下の操作部が各弾性体を介して上下の揺動体20・21の被操作部61・33を押圧し、逆に第2レバー68を図3の右回りに揺動させたときに、その押圧動作が緩和あるいは解除されるようになっている。こうして上下の揺動体20・21に作用するトルク値、ひいては糸Yに作用するテンションおよび糸Yに対する押圧体41による押圧力(糸Yを挟み込む力)を第2アクチュエータ66によって調節しうるように構成されている。
【0048】
なお、第2レバー68の上下の操作部76・77にそれぞれ装着される各弾性体78・79は、これらを介して上下の揺動体20・21の被操作部61・33を所定方向に押圧したときに、上側の揺動体20では可動側ゲート体27によるテンション付与に適したトルク値が、また下側の揺動体21では押圧体41による毛羽除去に適したトルク値がそれぞれ得られるように、各用途に適したものを使用するのが望ましい。
【0049】
第1アクチュエータ65および第2アクチュエータ66の駆動は、糸巻取装置(自動ワインダ)1の各部を制御する制御装置83(図1参照)によって制御される。第1アクチュエータ65の回転動力は、可動側ゲート体27および可動側押圧体41に対する開操作時には第1連結ロッド70、第1レバー67および上下の揺動体20・21等を介して可動側押圧体41および可動側ゲート体27に伝達される。図3、図6および図7の状態から第1アクチュエータ65が駆動されると、第1レバー67が支軸30を中心にして同図の右回りに揺動して、可動側押圧体41および可動側ゲート体27が、これらの図に示す作動位置から図4に示す待機位置へと切り換えられる。
【0050】
一方、可動側ゲート体27および可動側押圧体41に対する閉操作時には、第1アクチュエータ65の回転動力は、第1連結ロッド70、第1レバー67、第2レバー68および上下の揺動体20・21等を介して可動側押圧体41および可動側ゲート体27に伝達される。図4の状態から第1アクチュエータ65が駆動されると、第1レバー67が支軸30を中心にして図4の左回りに揺動して、その第2操作部74が第2レバー68の一端に当接してこれを支軸30の回りに揺動させる。そして、これに伴なって第2レバー68の弾性体79・78が上下の揺動体20・21の被操作部61・33に当接して両揺動体20・21を同じく支軸30の回りに揺動させることにより、可動側押圧体41および可動側ゲート体27が待機位置から作動位置へと切り換わる。
【0051】
可動側押圧体41および可動側ゲート体27が作動位置に達すると、第2アクチュエータ66が駆動される。この第2アクチュエータ66の回転動力が、第2連結ロッド72、第2レバー68および上下の揺動体20・21等を介して可動側押圧体41および可動側ゲート体27に伝達されて、可動側押圧体41および可動側ゲート体27の作動位置がさらに微妙に調節される。その結果、図2および図6に示す示すように、可動櫛歯34と固定櫛歯28とが所定の状態に交差して、糸Yが両櫛歯28・34で左右方向にジグザグ状に屈曲するように挟み込まれ、この屈曲部に作用する摩擦力で糸Yにテンションが付与される。また、図2および図7に示すように、交差した両櫛歯28・34の上方において、固定側押圧体40の円弧状の凸部からなる糸接触部(第1の糸接触部)49と可動側押圧体41の同じく円弧状の凸部からなる糸接触部(第2の糸接触部)51との間に糸Yが挟み込まれ、糸走行時にその挟み込まれた部分で糸Yの表面が擦られることにより糸表面の毛羽が引きちぎられる。
【0052】
制御装置83は、テンションセンサ6からの測定データに応じて第2アクチュエータ66に印加する電圧(電流)を制御して、糸Yのテンションや第1・第2の糸接触部49・51による糸Yに対する押圧力が適正になるように、可動側押圧体41および可動側ゲート体27に作用するトルク値を調節する。糸Yのテンションは、制御装置83がテンションセンサ6での測定結果に応じて第2アクチュエータ66の駆動を制御することで調節される。
【0053】
上記のように構成された糸巻取装置1において、可動側押圧体41および可動側ゲート体27が作動位置にある状態で、ボビン支持部3に支持された給糸ボビンBから巻取部9へと糸Yを巻き上げてパッケージPを形成すべく、図1の上方に向けて糸Yを走行させると、糸Yはテンション装置10によって所要のテンョンを付与された状態で巻取部9へと巻き上げられる。その過程で、糸Yがガイド部分等に接触するために、テンション装置10を通過した糸Yの表面には、1mm以下の短い毛羽から10mm以上の長い毛羽まで、長短様々な毛羽が生じる。
【0054】
このような毛羽の生じた糸Yはテンション装置10を通過したのち、その上方に配置された毛羽除去装置11を通過するが、その際に3mm以上の比較的長い毛羽が次のようにして除去される。すなわち、糸走行路に沿って走行する糸Yは、毛羽除去装置11に備えられた一対の押圧体40・41における糸接触部49・51間に挟み込まれる。そして、その状態で糸接触部49・51間を糸Yが通過する際に、その糸表面に存在する毛羽に対して摩擦力を与え、毛羽を引きちぎるようにして除去する。
【0055】
このとき、糸接触部49・51間に挟み込まれた糸Yに作用する押圧力(ニップ力)が強すぎると糸表面が荒れて逆に毛羽立ち、糸Yに対する接触面積が広いと糸表面の擦られる距離が長くなって、やはり毛羽立ちの原因となる。第1アクチュエータ65により下側の揺動体21および可動側ゲート体27を介して糸Yに付与するテンションは一定であり、毛羽除去のために上側の揺動体20および可動側押圧体41を介して糸Yに作用させる押圧力も一定であるが、例えば、尖った凸部で糸Yを挟み込むと、糸Yに接触する面積が非常に小さくなるため、その部分に圧力(ニップ力)が集中してしまい、この局所的に集中した強い押圧力によって糸が荒れて却って毛羽立ってしまう。そして、このような毛羽立ちによる毛羽増加量が毛羽引きちぎりによる毛羽減少量よりも多くなると、全体の毛羽量が増えてしまう。逆に、糸に接触する面積が大きすぎると圧力(ニップ力)の集中が無くなり、所要の引きちぎり力が得られない。さらに、糸Yに接触する面積が大きい分だけ糸表面が擦られる距離が長くなることにより毛羽立ちが増えることとなる。このような毛羽引きちぎりによる毛羽減少量と毛羽立ちによる毛羽増加量との差分が最終の毛羽量となって測定されるのであるが、毛羽除去手段が糸に対して面接触する構成では十分な毛羽除去効果が得られない。
【0056】
これに対して、上記構成の毛羽除去装置11においては、糸走行路を挟みこむように対向配置された一対の押圧体40・41における上下の第1および第2の糸接触部48・49および50・51が、いずれも糸Yの走行路と直交する方向に延びる円弧状の凸部で構成されており、これらの対向する凸部で走行する糸Yを挟むようになっている。この場合、対向する円弧状の凸部同士が直接接触すると曲面接触となるが、両凸部間をこれらと直交する方向に走行する糸Yが両凸部によって挟まれた状態で通過する際の当該糸Yと当該凸部との接触状態は、点接触に近い線接触状態となる。このような所定の間隔をあけて上下2箇所に位置する円弧状の凸部間に糸Yを挟み込んで点接触に近い線接触状態で走行させると、糸Yに接触する面積が比較的小さいにもかかわらず、尖った凸部で糸を挟み込んだときのような圧力(ニップ力)の集中が起こらない。そして、糸Yに接触する面積が比較的小さいために、所要の引きちぎり力が得られると同時に、糸表面が擦られる距離が長くなることによる毛羽立ちの増加も回避できることとなる。加えて、長い毛羽は、その長さが長い分、円弧状の凸部間を通過する糸に作用する摩擦力も大きくなるから短い毛羽よりも引きちぎられやすい。こうして、上記の毛羽除去装置11およびこれを備えた糸巻取装置1によれば、パッケージPに巻き取られる糸Yに発生した比較的長い毛羽(3mm以上の毛羽)を効果的に除去ないし抑制することができる。
【0057】
この実施例における一対の押圧体40・41は、その対向する面側から見た形状が4角形状とされた板部材42・43の上縁および下縁に沿って上下2対の押圧部(押圧部材)44・45、46・47を糸走行路と直交する方向に形成しただけの単純な形状であるから比較的容易に製作できる。また、上下2対の押圧部(押圧部材)44・45、46・47間に形成される空間に風綿を一次的にため、これを当該糸巻取装置1に備えられる吸引装置等によって吸い込むようにすることもできる。
【0058】
(実施例2) 図8の(a)および(b)は、本発明の実施例2に係る一対の押圧体85・86を示したものである。各押圧体85・86は、その対向する面側(糸と接する側)から見た形状が円形である板状部分を有しており、そのうちの一方の押圧体85における板状部分が第1の板部材87、他方の押圧体86における板状部分が第2の板部材88とされている。そして、その互いに対向する面における周縁に沿って押圧部(押圧部材)89・90がそれぞれリング状に且つ互いに対向位置するように形成されている。これらの押圧部89・90の対向する面側には、糸に接触して糸を押さえる糸接触部91・92が形成されている。各糸接触部91・92は、当該押圧体85・86を径方向に切断した断面形状が円弧状の凸部で構成されている。各押圧体85・86における板部材87・88の中心部には、当該押圧体85・86を図2に示したケーシング23や図7等に示した連結ユニット55にネジ止めする際に使用するネジ挿通孔52が形成されている。
【0059】
このような構成によれば、一方の押圧体85における円弧状の凸部からなる糸接触部91と、他方の押圧体86における同じく円弧状の凸部からなる糸接触部92とで走行する糸を挟み込むことができ、しかもそのような挟み込む箇所が所定間隔をあけて上下の2箇所に形成されるから、実施例1の場合と同様、両糸接触部91・92に対して点接触状態で糸を走行させることができ、その結果、パッケージに巻き取られる糸に発生した比較的長い毛羽(3mm以上の毛羽)を効果的に除去ないし抑制することができる。また、各押圧体85・86は、形状が簡単であるから、製作も容易である。一対の押圧体85・86間に形成される空間Sに風綿をためることもできる。
【0060】
(実施例3) 図9の(a)および(b)は、本発明の実施例3に係る一対の押圧体93・94を示したものである。この実施例3では、一対の押圧体93・94のうち一方の押圧体93は、実施例2の押圧体85と同様の構成であるので、対応する部分に同様の符号を付して説明を省略するが、他方の押圧体94の構成は実施例2のものと異なっている。すなわち、この実施例3における他方の押圧体94は、糸走行路を挟む押圧部(第2の押圧部材)95を有しているが、この押圧部95に形成された糸接触部(第2の糸接触部)96が、糸走行路に沿う平面とされている。詳しくは、糸走行路を挟む押圧部(第2の押圧部材)95における糸接触部96側の端面において、その周縁が円弧状に面取りされており、その面取り部分97に囲まれた内側の部分が平面とされている。そして、その面取り部分97の直ぐ内側に位置する平面部分が第2の糸接触部96とされており、この平面からなる第2の糸接触部96と、上記の一方の押圧体93における円弧状の凸部からなる糸接触部(第1の糸接触部)91との間で糸を挟み込むように構成されている。なお、この実施例3においても、各押圧体93・94における板部材87・98の中心部には、当該押圧体93・94を図2に示したケーシング23や図7等に示した連結ユニット55にネジ止めする際に使用するネジ挿通孔52が形成されている。
【0061】
このような構成によれば、円弧状の凸部からなる糸接触部(第1の糸接触部)91と平面からなる糸接触部(第2の糸接触部)96とで走行する糸を挟み込むことができるので、糸を第1の糸接触部91に対して点接触の状態で走行させることができる。この場合、第2の糸接触部96に対しては面接触の状態となるが、第1の糸接触部91が上記のように糸に対して点接触の状態となるので、その点接触部分の摩擦力で糸表面の毛羽を引きちぎって除去することができる。また、形状が簡単であるから、製作も容易である。
【0062】
(比較例) 図10の(a)〜(d)に、本発明の比較例1〜5に係る各一対の押圧体100・101をそれぞれ示す。このうち、(a)に示す比較例1は、一対の押圧体100・101における各糸接触部102を平面としたものである。(b)に示す比較例2は、一対の押圧体100・101のうち一方の押圧体100における押圧部(押圧部材)104を、本発明の実施例2における押圧体86と同じように上下に円弧状の凸部からなる糸接触部105を有する構成とし、これに対応する他方の押圧体101における糸接触部106を、前記円弧状の凸部に対応する円弧状の凹部としたものである。(c)に示す比較例3は、一対の押圧体100・101における対向する面側に上下に2箇所ずつ(全部で4箇所)円弧状の凸部を対向位置するように形成し、これらを糸接触部107としたものである。(d)に示す比較例4は、一方の押圧体100における糸接触部108を平面とし、他方の押圧体における糸接触部109を、刃先部分が平坦な鋸刃状の凸部としたもの、(e)に示す比較例5は、一対の押圧体100・101のいずれの糸接触部109をも、刃先部分が平坦な鋸刃状の凹部としたものである。(a)〜(d)に示したいずれの押圧体100・101も、その対向する面側から見た形状は円形(丸形)である。
【0063】
(効果確認試験) 本発明の効果を確認するために、上記の実施例1〜3およひ比較例1〜5について、毛羽を除去するテストを行った結果を図11に示す。押圧体には各実施例および比較例に係る押圧体をそれぞれ使用し、それ以外は実施例1に係る糸巻取装置を使用した。使用した糸はコーマNe40、糸の走行速度は1200m/minである。このような条件で、給糸ボビンから巻取部に糸を巻き上げてパッケージを形成し、給糸ボビンにおける糸の毛羽量とパッケージに巻き取られた後の糸の毛羽量とを測定して、毛羽の増加率が抑制される割合を求めた。図11に、その結果を示す。表中の数値(毛羽増加率を抑制した割合)が大きいほど、毛羽抑制効果が高い。
【0064】
図11から、本発明の実施例1〜3に係る押圧体を使用した場合には、比較例1〜5に係る押圧体を使用した場合に比べて、いずれの長さの毛羽の発生も抑制されていることがわかる。このような効果は、特に2〜15mm以上の長さの毛羽について顕著である。
【符号の説明】
【0065】
3 ボビン支持部
9 巻取部
10 張力付与装置(テンション装置)
17 フレーム(補助フレーム)
22 移動機構(駆動機構)
40 第1の押圧部材(押圧体)
41 第2の押圧部材(押圧体)
42 第1の板部材
43 第2の板部材
44 第1の押圧部材
45 第1の押圧部材
46 第2の押圧部材
47 第2の押圧部材
48 糸接触部
50 糸接触部
65 駆動源(第1アクチュエータ)
66 駆動源(第2アクチュエータ)
83 制御部(制御装置)
B 給糸ボビン
P パッケージ
Y 糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給糸ボビンから巻取部に糸を巻き上げる際にその糸表面に生じる毛羽を除去する毛羽除去装置であって、
前記巻取部に巻き上げられる糸の糸走行路を挟み込み、かつ糸走行路に沿うように配置された複数の押圧部材対を有し、
前記押圧部材対のうち少なくとも一方の押圧部材には、これを他方の押圧部材に対して移動可能とする移動機構が備えられており、
各押圧部材対には、前記糸に接触して糸を押さえる糸接触部がそれぞれ形成されており、
各押圧部材対のうち第1の押圧部材に形成された第1の糸接触部は、糸走行路に沿う円弧状の凸部であり、
各押圧部材対のうち第2の押圧部材に形成された第2の糸接触部は、糸走行路に沿う平面、または糸走行路に沿う円弧状の凸部であることを特徴とする毛羽除去装置。
【請求項2】
前記第2の糸接触部は、円弧状の凸部である、請求項1記載の毛羽除去装置。
【請求項3】
前記第2の糸接触部は、前記第1の糸接触部と同一形状の円弧状の凸部である、請求項2記載の毛羽除去装置。
【請求項4】
糸走行路を挟み込むように配置された第1の板部材と第2の板部材とをさらに有し、
そのうちの第1の板部材の板面上に前記複数の第1の押圧部材が形成され、
第2の板部材の板面上に前記複数の第2の押圧部材が形成されており、
前記各板部材のうち少なくとも一方は、前記各押圧部材の形成されていない板面側で、揺動可能に支持されている、請求項1ないし3のいずれかに記載の毛羽除去装置。
【請求項5】
複数の押圧部材は2から4箇所備えられている、請求項4記載の毛羽除去装置。
【請求項6】
前記第1の板部材には前記糸走行路と直交する方向に延びる前記第1の押圧部材が、糸走行路に沿う方向に所定の間隔をあけて2箇所形成され、
前記第2の板部材には前記糸走行路と直交する方向に延びる前記第2の押圧部材が、糸走行路に沿う方向に所定の間隔をあけて2箇所形成されている、請求項4記載の毛羽除去装置。
【請求項7】
前記各押圧部材はリング状である、請求項4記載の毛羽除去装置。
【請求項8】
前記第1の押圧部材が形成された前記第1の板部材と、前記第2の押圧部材が形成された前記第2の板部材とは、同一形状ある、請求項6または7記載の毛羽除去装置。
【請求項9】
給糸ボビンを支持するボビン支持部と、このボビン支持部に支持された給糸ボビンから糸を巻き上げてパッケージを形成する巻取部とを有する糸巻取装置であって、
前記請求項1ないし8のいずれかに記載の毛羽除去装置が備えられていることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項10】
前記巻取部に巻き上げられる糸に対して張力を付与する張力付与装置と、
前記張力付与装置と前記毛羽除去装置とによる張力付与を制御する制御部とがさらに備えられている、請求項9記載の糸巻取装置。
【請求項11】
前記張力付与装置および毛羽除去装置とが一体のフレームに設けられており、これらの装置を共通の駆動源で駆動する移動機構が備えられている、請求項10記載の糸巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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