説明

毛髪タンパクに対するモノクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む診断試薬

【課題】
毛髪タンパクの構成成分であるハードケラチン(type II neutral/basic hard α-keratins)を発現する毛皮質及び各種細胞を同定することができる、前記タンパクに対するモノクローナル抗体及びこのモノクローナル抗体と他の結合体を含む診断試薬を提供する。
【解決手段】
本発明のモノクローナル抗体は、抽出したヒト毛髪タンパクを動物に免疫し、この動物から前記タンパクに感作された脾細胞を採取し、これをミエローマ細胞と融合することによりハイブリドーマを作製し、次いで得られたハイブリドーマをクローニングすることにより得られる単一クローンのハイブリドーマにより産生されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト毛髪蛋白のハードケラチン(type II neutral/basic hard α-keratins)を認識する新規なモノクローナル抗体及び前記モノクローナル抗体と他の結合分子との結合体を含む診断試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
毛は、毛根部で盛んに増殖している毛母細胞が、ハードケラチンを集積させ、脱核し、死細胞となって毛皮質を形成することによって形づくられる。石灰化上皮腫(毛母腫)は、毛母細胞に由来する皮膚の良性腫瘍で、その腫瘍胞巣は、基本的に毛母細胞に相当する好塩基性細胞、皮質細胞に相当する陰影細胞及びこれら2種の細胞に介在する移行細胞の3種の細胞から成っている。本腫瘍におけるハードケラチンの発現に関しては、そのmRNAの発現が、移行細胞に認められることが、in situ hybridization により示されている(非特許文献1参照)。また、acidic keratinsであるtype I hair keratinsに対するモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体が移行細胞に反応することも知られている(非特許文献2参照)。石灰化上皮腫でみられる脱核した陰影細胞と同様の細胞は、下垂体の良性腫瘍であるエナメル上皮腫型頭蓋咽頭腫と、歯原性腫瘍の1つに挙げられている石灰化歯原性嚢胞においても出現することが知られている。下垂体前葉は、原始口腔にその起源を求めることができ、同部に生じるエナメル上皮腫型頭蓋咽頭腫は、歯原性腫瘍の中で最も一般的なエナメル上皮腫にその組織像が類似する。しかしながら、エナメル上皮腫型頭蓋咽頭腫では、エナメル上皮腫では認められない細胞成分である陰影細胞がみられ、毛髪タンパクに対するウサギポリクローナル抗体により陽性反応がみられることが報告されている(非特許文献3参照)。顎骨に生じる石灰化歯原性嚢胞は、WHO分類(1992)では、歯原性腫瘍の1つに挙げられているが、最近の文献では、単なる嚢胞、良性腫瘍及び悪性腫瘍に分類できることがいわれている。石灰化歯原性嚢胞の最も特徴的な組織像は、幻影細胞と称される石灰化上皮腫の陰影細胞と同様の脱核した角化細胞が出現することとされ、一部の症例でメラニン沈着がみられることが報告されている。幻影細胞に毛髪タンパクの主成分であるハードケラチンが発現しているとの報告はないが、これらのことは、本疾患における毛への分化を表わしているものと考えられる。本発明者は、石灰化上皮腫、エナメル上皮腫型頭蓋咽頭腫及び石灰化歯原性嚢胞において、同じくヒト毛髪のハードケラチンが発現していることを容易に確認できるようにするために、ヒト毛髪のハードケラチンに特異的なモノクローナル抗体を作製した。
【非特許文献1】Cribier B, Asch P-H, Regnier C, Rio M-C and Grosshans E: Expression ofhuman hair keratin basic 1 in pilomatrixoma. A study of 128 cases. Br JDermatol 140, 600-604, 1999
【非特許文献2】Cribier B, Peltre B, Langbein L, Winter H, Schweizer J, Grosshans E: Expression of type I hair keratins in follicular tumors. Br J Dermatol 144, 977-982, 2001
【非特許文献3】Tateyama H, Tada T, Okabe M, Takahashi E and Eimoto T: Different keratin profiles in craniopharyngioma subtypes and ameloblastomas. Pathol Res Pract 197, 735-742, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、ヒト毛髪タンパクの主成分であるハードケラチン(type II neutral/basic hard α-keratins)に特異的に反応し、毛皮質、石灰化上皮腫の移行細胞及び陰影細胞、エナメル上皮腫型頭蓋咽頭腫の陰影細胞、並びに石灰化歯原性嚢胞の幻影細胞を同定できるモノクローナル抗体、このモノクローナル抗体と他の結合分子との結合体を含む診断試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のモノクローナル抗体は、毛髪タンパクの内、ハードケラチン(type II neutral/basic hard α-keratins)に特異的に反応するものである。本発明のモノクローナル抗体は、ヒト正常皮膚及び類皮嚢胞の組織切片に対する反応性を免疫組織化学的に検索した場合、毛皮質のみに反応するものである。本発明のモノクローナル抗体は、石灰化上皮腫の組織切片に対する反応性を免疫組織化学的に検索した場合、移行細胞及び陰影細胞に反応するものである。本発明のモノクローナル抗体は、エナメル上皮腫型頭蓋咽頭腫の組織切片に対する反応性を免疫組織化学的に検索した場合、陰影細胞のみに反応するものである。本発明のモノクローナル抗体は、石灰化歯原性嚢胞の組織切片に対する反応性を免疫組織化学的に検索した場合、幻影細胞のみに反応するものである。
【0005】
本発明のモノクローナル抗体は、ヒト毛髪より抽出した毛髪タンパクを動物に免疫し、前記動物から前記タンパクに感作されたB細胞を含む脾細胞を採取し、それをミエローマ細胞と融合することによりハイブリドーマを作製し、次いで得られたハイブリドーマをクローニングすることにより得られる単一クローンのハイブリドーマにより産生されるものである。
【0006】
本発明のハイブリドーマは、モノクローナル抗体を産生するものである。本発明の診断試薬は、(a)モノクローナル抗体;及び(b)ラジオアイソトープ、酵素、蛍光色素、ビオチン、ストレプトアビジンから成る群から選択される結合分子の結合体を含むものである。
【0007】
本発明の診断試薬は、前記各種腫瘍における移行細胞、陰影細胞及び幻影細胞の同定試薬、または毛皮質傷害診断試薬である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ヒト毛髪の主成分であるハードケラチン(type II neutral/basic hard α-keratins)を特異的に認識するモノクローナル抗体MA-HP1を用いることによって、正常毛皮質及び各種腫瘍における移行細胞、陰影細胞、幻影細胞を同定することができる。これによって、将来的に、毛の発生、分化における成熟過程、毛髪傷害診断や各種腫瘍における毛への分化に関わる新たな知見が得られる可能性が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における毛髪タンパクを認識するモノクローナル抗体の製造方法について、以下の実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0010】
本発明は、ヒト毛髪タンパクを特異的に認識するモノクローナル抗体を作製することを目的としていることから、まず、ヒト毛髪タンパクを抽出した。ヒト毛髪タンパクの抽出方法は特に限定されるものではないが、効率の良いShindai methodにより行った。タンパク抽出液は、2mg/mlに調整の後、Freund’s complete adjuvantと1:1に十分に混和し、Balb/cマウス(6週齢、♀)に50 ~ 200μl ずつ、計5匹に腹腔内注射を行なった。注射は約1週ごとに計4回行ったが、最終時にはタンパク抽出液のみを注射した。尾静脈血から得られた血清をELISAにより検索し、高い抗体価を示した1匹のマウスより脾細胞を得た。この脾細胞とミエローマ細胞 (P3-X63-Ag8-U1) を5:1の割合で混ぜ、40%ポリエチレングリコール存在下で細胞融合を行った。これをHAT選択培地で96穴マイクロタイタープレートを用い培養し、ハイブリドーマを選択した。ELISAによりヒト毛髪タンパクと高い反応性を示す培養上清を含むウエル中の10個のハイブリドーマプールについて、96穴マイクロタイタープレートを用い、限界希釈法によりクローニングを行った。コロニー1個のみの増殖を示すウエル中の培養上清について、ELISAによりヒト毛髪タンパクと高い反応性を示すハイブリドーマを選択し、その結果、モノクローナル抗体 MA-HP1 を単離した。
【0011】
モノクローナル抗体 MA-HP1は、SDS-PAGEに続くウエスタンブロットによる検索の結果、ヒト毛髪タンパクの内、ハードケラチン(type II neutral/basic hard α-keratins)を認識することが示された(図1)。正常皮膚及び類皮嚢胞における免疫組織化学的検索では、本抗体は、毛皮質のみに反応した(図2)。図2(A)が正常皮膚組織、図2(B)が類皮嚢胞組織を示す。毛小皮や他の上皮成分にはその反応を示さなかった。石灰化上皮腫では、本抗体は移行細胞及び陰影細胞を認識し、好塩基細胞にはその反応を示さなかった(図3)。エナメル上皮腫型頭蓋咽頭腫では、本抗体は陰影細胞のみを認識し、他の細胞成分にはその反応を示さなかった(図4)。石灰化歯原性嚢胞では、本抗体は幻影細胞のみを認識し、他の細胞にはその反応をみなかった(図5)。
【0012】
前記モノクローナル抗体MA-HP1は、毛髪タンパクの主成分であるハードケラチン(type II neutral/basic hard α-keratins)を特異的に認識し、正常では毛皮質に、各種腫瘍では移行細胞、陰影細胞及び幻影細胞に反応する。したがって、毛の発生、分化における成熟過程の検索や毛髪傷害診断、各種腫瘍における毛への分化の検索に、本モノクローナル抗体、本モノクローナル抗体とラジオアイソトープ、酵素、蛍光色素、ビオチン、ストレプトアビジンから成る群から選択される結合分子との結合体を含むものを診断試薬として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のモノクローナル抗体のウエスタンブロットの結果を示す図である。
【図2(A)】本発明のモノクローナル抗体により正常皮膚の組織切片における毛皮質を染色した顕微鏡写真である。
【図2(B)】本発明のモノクローナル抗体により類皮嚢胞の組織切片における毛皮質を染色した顕微鏡写真である。
【図3】本発明のモノクローナル抗体により石灰化上皮腫の組織切片における移行細胞及び陰影細胞を染色した顕微鏡写真である。
【図4】本発明のモノクローナル抗体によりエナメル上皮腫型頭蓋咽頭腫の組織切片における陰影細胞を染色した顕微鏡写真である。
【図5】本発明のモノクローナル抗体により石灰化歯原性嚢胞の組織切片における幻影細胞を染色した顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出した毛髪タンパクを動物に免疫し、前記動物から前記タンパクにより感作されたB細胞を含む脾細胞を採取し、これをミエローマ細胞と融合することによりハイブリドーマを作製し、次いで得られたハイブリドーマをスクリーニングすることにより得られる単一クローンのハイブリドーマにより産生されることを特徴とするモノクローナル抗体。
【請求項2】
毛髪の構成成分であるハードケラチン(type II neutral/basic hard α-keratins)を認識することを特徴とする請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
ヒト正常皮膚及び類皮嚢胞の組織標本に対する反応性を免疫組織化学的に検索した場合、毛皮質に反応することを特徴とする請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
ヒトの毛母細胞に由来する石灰化上皮腫(毛母腫)の組織標本に対する反応性を免疫組織化学的に検索した場合、前記腫瘍を構成する移行細胞及び陰影細胞に反応することを特徴とする請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
ヒトの下垂体腫瘍であるエナメル上皮型頭蓋咽頭腫の組織標本に対する反応性を免疫組織化学的に検索した場合、前記腫瘍を構成する陰影細胞に反応することを特徴とする請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項6】
歯を形成する組織に由来する腫瘍(歯原性腫瘍)の1つとして挙げられている石灰化歯原性嚢胞の組織標本に対する反応性を免疫組織化学的に検索した場合、前記腫瘍を構成する幻影細胞に反応することを特徴とする請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のモノクローナル抗体とラジオアイソトープ、酵素、蛍光色素、ビオチン、ストレプトアビジンから成る群から選択される結合分子の結合体を含む診断試薬。

【図1】
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【図2(A)】
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【図2(B)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−124317(P2006−124317A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314303(P2004−314303)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月1日 歯科基礎医学会雑誌編集委員会発行の「Journal of Oral Biosciences 第46巻 第5号」に発表
【出願人】(504401938)株式会社メド城取 (1)
【Fターム(参考)】