説明

気体吸着デバイス

【課題】簡単な条件管理で封止できる気体吸着デバイスを提供する。
【解決手段】有底筒状の気体吸着物質収納部14の開口部側に筒状の狭窄部形成部15を共晶接合等の方法で接合した有底筒状の金属容器11を用い、有底筒状の金属容器11の開口部12より気体吸着物質収納部14に加熱で活性化する気体吸着物質13を充填した後に、開口部12近傍に位置する筒状の狭窄部形成部15の内面同士が接近した狭窄部16を設けて、真空加熱炉内で、金属容器11の内部と金属容器11の周囲の空間を減圧すると共に、狭窄部16を設けた狭窄部形成部15を構成する金属が溶融して狭窄部16の隙間を塞ぐ状態になるように加熱し、その後、冷却固化することにより、狭窄部16の隙間を封止する方法で作製される。なお、狭窄部形成部15を構成する金属には、融点が気体吸着物質収納部14を構成する金属の融点よりも低い金属を用いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用時まで気体吸着物質を容器内に密封する気体吸着デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、真空断熱材、真空断熱容器、プラズマディスプレイパネル等、高度な真空環境により性能を発揮することができる機器(以下、真空機器と記述)の開発が、盛んになってきている。
【0003】
これらの真空機器にとって、製造時における残留気体や経時的に侵入する気体による内部の圧力上昇は、性能を劣化する原因になる。そこで、これらの気体を吸着するための気体吸着物質の適用が試みられている。
【0004】
気体吸着物質は、使用時までに大気中で空気に接触すると、空気を吸着してしまい、気体吸着能力が低下してしまう。
【0005】
そのため、気体吸着物質を気体難透過性容器や気体難透過性素材で被うことで、使用時までの大気中の空気との接触を防ぎ、気体吸着物質の気体吸着性能を維持する気体吸着デバイスが開発されている。
【0006】
また、気体吸着物質の吸着性能を発揮させるために熱処理を要する場合、気体吸着物質を気体難透過性容器(以下金属容器という)で被って封止するためには、予め金属容器と封止材をセットにして熱処理炉の中に設置して温度を上昇させることにより、気体吸着物質の熱処理と同一の工程で封止材を融解して封止する手法が有効である。
【0007】
従来のこのような封止の方法としては、例えば、特許文献1に開示されているものがある。以下、図面を参照しながら従来の封止の方法を説明する。
【0008】
図3は従来の気体吸着デバイスの狭窄部加工前の状態を示す斜視図であり、図4は従来の気体吸着デバイスの狭窄部に封止材を設けた状態を示す縦断面図である。なお、図3の斜視図は容器に覆われて見えない容器内の気体吸着物質も表示している。
【0009】
図3、図4に示すように、従来の気体吸着デバイス1は、有底筒状の金属容器4の開口部2より気体吸着物質3を充填した後に、開口部2近傍に金属容器4の内面同士が接近した狭窄部5を設けて、開口部2内の狭窄部5に封止材6を設置し、真空加熱炉内で、金属容器4の内部と金属容器4の周囲の空間を減圧すると共に、融解状態の封止材6が狭窄部5の隙間を塞ぐ状態になるように加熱し、その後、開口部2内で狭窄部5の隙間を塞いだ融解状態の封止材6を冷却固化することにより、開口部2近傍(狭窄部5の隙間)を封止する方法で作製される。
【0010】
そのため、気体吸着物質3が大気に触れることなく、真空断熱材等の真空の維持を必要とする機器へ適用することができるとされている。
【0011】
この気体吸着物質3に気体を吸着させるには、金属容器4を破壊させるか貫通孔を空けて金属容器4内の気体吸着物質3と金属容器4外の気体を接触させることで、気体吸着物質3に気体を吸着させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2010/109846号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来の気体吸着デバイス1は、封止材6を軟化、溶融させて狭窄部5に流れ込ませ、狭窄部5で保持させて、密封される構造であるため、封止材6の形状、材質、成分、封止温度によって封止が不十分な場合があり、封止不良の発生を無くすためには非常に綿密な条件の管理が必要であった。さらに封止材6に特殊な材料(例えば低融点ガラス)を用いるためコストが高価になり、安価に製作することが困難であった。
【0014】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、簡単な条件管理で封止できる気体吸着デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、気体吸着物質を収納する金属容器の狭窄部の封止を、狭窄部を構成する金属の溶融により行ったのである。
【0016】
これにより、気体吸着物質を収納する金属容器の狭窄部の封止に封止材が不要になるので、封止材の形状、材質、成分、封止温度などの綿密な条件管理が不要となり、狭窄部の金属の溶融温度以上に加熱するだけで封止することができるので、簡単な条件管理で封止が可能となり、封止不良が抑制される。また封止材が不要なので、構成部材も少なくなり、安価に製作が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、気体吸着物質を収納する金属容器の狭窄部の封止に封止材が不要になるので、封止材の形状、材質、成分、封止温度などの綿密な条件管理が不要となり、狭窄部の金属の溶融温度以上に加熱するだけで封止することができるので、簡単な条件管理で封止が可能となり、封止不良が抑制される。また封止材が不要なので、構成部材も少なくなり、安価に製作が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1による気体吸着デバイスの狭窄部加工前の状態を示す斜視図
【図2】同実施の形態の気体吸着デバイスの狭窄部加工前の状態を示す縦断面図
【図3】特許文献1に記載された従来の気体吸着デバイスの狭窄部加工前の状態を示す斜視図
【図4】同従来の気体吸着デバイスの狭窄部に封止材を設けた状態を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の発明は、気体吸着物質を収納した金属容器における対向する内面同士の間隔が他の箇所より狭い狭窄部を封止して使用時まで前記気体吸着物質を前記金属容器内に密封する気体吸着デバイスであって、前記狭窄部の封止が前記狭窄部を構成する金属の溶融による封止であることを特徴とする。
【0020】
上記構成により、気体吸着物質を収納する金属容器の狭窄部の封止に封止材が不要になるので、封止材の形状、材質、成分、封止温度などの綿密な条件管理が不要となり、狭窄部の金属の溶融温度以上に加熱するだけで封止することができるので、簡単な条件管理で封止が可能となり、封止不良が抑制される。また封止材が不要なので、構成部材も少なく
なり、安価に製作が可能となる。
【0021】
本発明において、気体吸着物質とは、真空断熱材等の密閉空間に残存または侵入する水蒸気や空気等の混合ガスを吸着する役割を果たすもので、特に指定するものではないが、ZSM−5型ゼオライトに銅一価イオンを担持させたものが使用できる。
【0022】
金属容器とは、空気および水蒸気等の気体を通過させない性質(ガスバリア性)を持ち、気体吸着物質を大気に触れさせないようにする役割を果たすものである。狭窄部を形成する部分の金属に気体吸着物質を収納する部分の金属よりも溶融温度の低い金属を使用することが望ましい。この場合、狭窄部を形成する金属と気体吸着物質を収納する金属を共晶接合等の方法で接合させたものを使用できる。
【0023】
この気体吸着物質に気体を吸着させるには、金属容器を破壊させるか貫通孔を空けて金属容器内の気体吸着物質と金属容器外の気体を接触させることで、気体吸着物質に気体を吸着させる。
【0024】
金属容器を破壊または貫通孔をあける開封部材は、特に指定するものではないが、例えば、開封部材に突起が設けられたもので開封する。開封部材の材質としては、鉄、アルミなどの金属、樹脂などが使用できる。金属容器に貫通孔を開けるため突起の硬度は、金属容器の硬度よりも硬くする必要があるが、突起が折れないような硬さにすれば、硬度は特に指定はしない。
【0025】
第2の発明は、第1の発明において、前記狭窄部を構成する金属の融点が、前記金属容器における前記気体吸着物質を収納している部分を構成する金属の融点よりも低いことを特徴とする。
【0026】
狭窄部を構成する金属は、例えばアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金にし、気体吸着物質を収納する金属は例えば銅または銅を主成分とする合金とする。アルミニウムの融点は660℃、銅1083℃であり、気体吸着物質を600℃で活性化させたあと、アルミニウムの融点まで温度を上昇させ、溶融させ、狭窄部を封止することができる。気体吸着物質を収納する金属は銅とすることで、銅は溶融しないので、気体吸着デバイスとして機能を発揮することができる。
【0027】
第3の発明は、第1の発明および第2の発明において、前記気体吸着物質は、加熱すると加熱前に吸着していた気体を解放する物質からなり、使用時まで前記金属容器内に減圧密封されることを特徴とする。
【0028】
この気体吸着物質は、加熱すると、加熱前に吸着していた吸着物質、例えば水分を解放し、吸着物質を解放させて気体吸着物質を活性化させると同時に減圧密閉する。気体吸着物質は空気に接触すると、空気を吸着してしまい、気体吸着能力が低下してしまうので使用時まで減圧密閉されたままの状態で維持する。
【0029】
以下、本発明による気体吸着デバイスの実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0030】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1による気体吸着デバイスの狭窄部加工前の状態を示す斜視図であり、図2は同実施の形態の気体吸着デバイスの狭窄部加工前の状態を示す縦断面図である。なお、図1の斜視図は容器に覆われて見えない容器内の気体吸着物質も表示している。
【0031】
図1、図2に示すように、本実施の形態の気体吸着デバイスは、有底筒状の気体吸着物質収納部14の開口部側に筒状の狭窄部形成部15を共晶接合等の方法で接合した有底筒状の金属容器11を用い、有底筒状の金属容器11の開口部12より気体吸着物質収納部14に気体吸着物質13を充填した後に、開口部12近傍に位置する筒状の狭窄部形成部15の内面同士が接近した狭窄部16を設けて、真空加熱炉内で、金属容器11の内部と金属容器11の周囲の空間を減圧すると共に、狭窄部16を設けた狭窄部形成部15を構成する金属が溶融して狭窄部16の隙間を塞ぐ状態になるように加熱し、その後、冷却固化することにより、開口部12近傍(狭窄部16の隙間)を封止する方法で作製される。
【0032】
本実施の形態では、気体吸着物質13には、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを用いており、気体吸着物質13を収納する気体吸着物質収納部14は銅または銅を主成分とする合金、狭窄部16を形成する狭窄部形成部15はアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いる。
【0033】
以上のように構成された本実施の形態の気体吸着デバイスについて、以下その動作を説明する。
【0034】
気体吸着デバイスを真空加熱炉内で真空加熱処理を行う。気体吸着物質13を600℃で活性化させたあと、狭窄部形成部15を構成する金属(アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金)の融点660℃まで温度を上昇させて、狭窄部形成部15の狭窄部16の金属を溶融させ、狭窄部16を封止する。
【0035】
気体吸着物質13を収納する気体吸着物質収納部14を構成する金属の融点は1083℃であり、狭窄部形成部15の狭窄部16の金属を溶融させる時の加熱温度(660℃)では溶融しないので、気体吸着デバイスとして機能を発揮することができる。狭窄部形成部15を構成する金属の融点を、気体吸着物質収納部14を構成する金属の融点よりも低くしたことで狭窄部16を溶融させ封止できることが可能となった。
【0036】
また、この気体吸着物質13は、加熱すると加熱前に吸着していた吸着物質、例えば水分を解放し、吸着物質を解放させて気体吸着物質13を活性化させると同時に減圧密閉する。気体吸着物質13は空気に接触すると、空気を吸着してしまい、気体吸着能力が低下してしまうので使用時まで減圧密閉されたままの状態で維持する。
【0037】
この気体吸着物質13に気体を吸着させるには、金属容器11を破壊させるか貫通孔を空けて金属容器11内の気体吸着物質13と金属容器11外の気体を接触させることで気体吸着物質13に気体を吸着させる。
【0038】
金属容器11を破壊または貫通孔をあける開封部材は特に指定するものではないが、例えば開封部材に突起が設けられたもので開封する。開封部材の材質としては、鉄、アルミなどの金属、樹脂などが使用できる。金属容器11に貫通孔を開けるため突起の硬度は金属容器11の硬度よりも硬くする必要があるが、突起が折れないような硬さにすれば、硬度は特に指定はしない。
【0039】
以上のように本実施の形態の気体吸着デバイスは、気体吸着物質13を収納した金属容器11における対向する内面同士の間隔が他の箇所より狭い狭窄部16を封止して使用時まで気体吸着物質13を金属容器11内に密封する気体吸着デバイスであって、狭窄部16の封止が狭窄部形成部15の狭窄部16を構成する金属の溶融による封止であることを特徴とする。
【0040】
上記構成により、気体吸着物質13を収納する金属容器11の狭窄部16の封止に封止材が不要になるので、封止材の形状、材質、成分、封止温度などの綿密な条件管理が不要となり、狭窄部形成部15の狭窄部16を構成する金属の溶融温度以上に加熱するだけで封止することができるので、簡単な条件管理で封止が可能となり、封止不良が抑制される。また封止材が不要なので、構成部材も少なくなり、安価に製作が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の気体吸着デバイスは、封止材の形状、材質、成分、封止温度などの綿密な条件管理が不要となり、狭窄部を構成する金属の溶融温度以上に加熱するだけで封止することができるので、簡単な条件管理で封止が可能となり、封止不良が抑制され、安価に製作が可能となるので、真空断熱材、真空断熱容器、プラズマディスプレイパネル等、高度な真空環境により性能を発揮することができる機器に適している。
【符号の説明】
【0042】
11 金属容器
12 開口部
13 気体吸着物質
14 気体吸着物質収納部
15 狭窄部形成部
16 狭窄部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体吸着物質を収納した金属容器における対向する内面同士の間隔が他の箇所より狭い狭窄部を封止して使用時まで前記気体吸着物質を前記金属容器内に密封する気体吸着デバイスであって、前記狭窄部の封止が前記狭窄部を構成する金属の溶融による封止であることを特徴とする気体吸着デバイス。
【請求項2】
前記狭窄部を構成する金属の融点が、前記金属容器における前記気体吸着物質を収納している部分を構成する金属の融点よりも低いことを特徴とする請求項1記載の気体吸着デバイス。
【請求項3】
前記気体吸着物質は、加熱すると加熱前に吸着していた気体を解放する物質からなり、使用時まで前記金属容器内に減圧密封されることを特徴とする請求項1または2記載の気体吸着デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−213732(P2012−213732A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81458(P2011−81458)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】