説明

気体燃料用フィルタ

【課題】コストの高騰を伴うことなく気体燃料用フィルタの圧力損失を軽減して良好なエンジン運転性を確保する。
【解決手段】フィルタエレメント15の内周面内側空間を中心軸線Xに沿って延長したプレフィルタ室12を有してその延長部側面に燃料導入路13が接続されているとともにフィルタエレメント15外周側に形成されたポストフィルタ室11の側面から燃料送出路14が延設されており、導入した気体燃料中のオイル状不純物を捕捉するための気体燃料用フィルタにおいて、燃料導入路13及び燃料送出路14がフィルタエレメント15の中心軸線Xに対しオフセットした状態で接続されており、燃料導入路13を通ってプレフィルタ室12に導入した気体燃料が旋回流となって拡径しながらフィルタエレメント15を通過し、ポストフィルタ室11の周壁に沿って旋回しながら燃料送出路14を通って送出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体燃料用フィルタに関し、殊に、CNGやLPGなどの燃料を気体の状態にしてインジェクタでエンジンに噴射・供給するシステムにおいて、気体燃料中にミストの状態で含まれるタール等のオイル状不純物を、インジェクタ手前で捕捉するための気体燃料用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
CNGやLPG等の液相燃料をレギュレータ(調圧器又は熱交換式気化促進調圧器)で所定圧力の気体にしてエンジンに供給するシステムでは、気体燃料中にミストの状態で含まれるタールやホースから溶出した可塑剤によるオイル状不純物が下流側のインジェクタに流入することにより、インジェクタ機能に悪影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
そこで、例えば特開2002−225575号公報に記載されているように、レギュレータとインジェクタとの間の気体燃料供給路に、気体燃料用フィルタを配設してオイル状不純物を捕捉することが一般的に行われている。この場合、気体燃料用フィルタに比較的圧力損失の大きいものを使用した場合には、その下流側の燃料圧力が低下してエンジン要求流量に見合った燃料を供給できずにエンジン運転性の悪化に繋がることがある。
【0004】
このフィルタによる燃料の圧力損失を軽減するものとして、ガラス繊維系のフィルタ部と不織布系のフィルタ部を交互に積層したフィルタエレメントを内蔵してなるオイルミストフィルタが特開2005−279629号公報に提案されており、ガラス繊維のフィルタ部の間に不織布のフィルタ部を挟み込むことにより空気抵抗を減少させて圧力損失の軽減を図るものとしている。
【0005】
しかしながら、このようにガラス繊維系のフィルタ部と不織布系のフィルタ部を交互に重ねた複合型のフィルタエレメントは、従来のフィルタエレメントと比べて構造が複雑でコスト高となりやすく、また、不織布のフィルタ部は通気性が高い反面、保油能が低いことから、この部分の割合を増して圧力損失軽減効果を高めると、その分だけフィルタ寿命が短縮することになるため、実際にはコストアップに見合った効果が発揮されにくいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−225575号公報
【特許文献2】特開2005−279629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、気体燃料用フィルタについて、コストの高騰を伴うことなくその圧力損失を軽減して、良好なエンジン運転性を確保できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、円柱状のケーシング内収納空間に中心軸線を一致させて円筒状のフィルタエレメントが内装され、このフィルタエレメントの内周面で形成された空間をその中心軸線に沿って延長してなるプレフィルタ室を有して、そのプレフィルタ室に燃料導入路が接続されているとともにフィルタエレメント外周側に形成された円筒状のポストフィルタ室から燃料送出路が延設されており、導入した気体燃料中のオイル状不純物を捕捉するための気体燃料用フィルタにおいて、その燃料導入路は円柱状に形成されたプレフィルタ室延長部側面にその中心軸線に対しオフセットした状態で横向きに接続され、その燃料送出路はポストフィルタ室側面からその中心軸線に対しオフセットした状態で横向きに延設されており、燃料導入路を通ってプレフィルタ室に導入した気体燃料が、プレフィルタ室の内周面に当たることで旋回流となって旋回半径を拡大しながらフィルタエレメントを通過し、ポストフィルタ室の周壁に沿って旋回しながらこの旋回方向を直線的に延長した向きに一致するように延設した燃料送出路を通って送出される、ことを特徴とする。
【0009】
このように、ケーシングの収納空間に円筒状のフィルタエレメントを収装してフィルタ内周側空間を中心軸線に沿って延長してなるプレフィルタ室の延長部に、側方からフィルタ中心軸線に対しオフセットした状態で燃料導入路を接続することで導入した気体燃料に旋回流を生じさせ、フィルタエレメントを通過してポストフィルタ室周壁に沿って進む燃料がその旋回方向に一致するように中心軸線に対しオフセットして延設した燃料送出路を通って送出するものとしたことで、簡易な改良のみでフィルタエレメント部分以外の燃料通過に伴って生じるケーシング内の抵抗を減少させて、装置全体としての圧力損失を軽減することができる。
【0010】
また、この気体燃料用フィルタにおいて、そのフィルタエレメントは中心軸線が鉛直線に対し直角になるように配置されており、燃料送出路が燃料導入路よりも高い位置に配設されていることを特徴としたものとすれば、フィルタエレメントで捕捉したオイル状不純物が送出燃料に混入しにくいものとなる。
【0011】
この場合、その燃料導入路は、フィルタエレメントの中心軸線に対し下方向にオフセットした状態でその内周面の下側部分がプレフィルタ室延長部の内周面に連続する位置に配設されており、その燃料送出路は、中心軸線に対し上方向にオフセットした状態でその内周面の上側部分がポストフィルタ室の内周面に連続する位置で配設されたものとすれば、気体燃料とオイル状不純物との分離が確実になるとともに、ケーシング内で燃料の流れに加わる抵抗をより小さく抑えやすい。
【0012】
さらにまた、上述した気体燃料用フィルタにおいて、その燃料導入路が接続するプレフィルタ室延長部は、その内径がフィルタエレメントの内周面で形成された空間の内径と同等以下とされ、ポストフィルタ室の燃料送出路延設箇所の内径がフィルタエレメントの外径よりも大きいものとされている、ことを特徴としたものとすれば、燃料による旋回流が拡径しやすくなってスムースさを一層損ないにくくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
フィルタエレメントの中心軸線に対し燃料導入路及び燃料送出路をオフセットした状態で設け気体燃料が旋回しながらフィルタエレメントを通過して送出されるものとした本発明によると、コストの高騰を伴うことなく気体燃料用フィルタの圧力損失を軽減して、良好なエンジン運転性を確保しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における実施の形態である気体燃料用フィルタを燃料送出路部分で切断した状態を示す縦断面図である。
【図2】図1の気体燃料用フィルタの右側面図である。
【図3】図1の気体燃料用フィルタを燃料導入路部分で切断した状態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。尚、本発明において、円筒状のフィルタエレメントの中心軸線はフィルタエレメント内周面で形成される円柱状の内側空間の中心軸線に一致するものとする。
【0016】
図1は本実施の形態である気体燃料用フィルタ1の縦断面図を示している。気体燃料用フィルタ1は、CNGやLPG等の液相燃料をベーパライザ等で所定圧力の気体燃料に調整して導入することにより、これに含まれるタール等のオイル状不純物を捕捉して清浄な状態とし、下流側のインジェクタに送ってエンジンに供給するためのものである。
【0017】
この気体燃料用フィルタ1は、ケーシング10の円柱状の収納空間10a内にその中心軸線に中心軸線Xを一致した状態で円筒状のフィルタエレメント15を内装し、そのケーシング10の開口部を図示しない円盤状のカバー部材で閉鎖してなる略円柱状の装置であり、そのフィルタエレメント15の中心軸線Xは、鉛直線に対し直角、即ち地に対して平行に配置される。
【0018】
直線的な燃料導入路13を介して内部に導入した気体燃料は、含有するオイル状不純物がフィルタエレメント15で濾過・捕捉されてケーシング10内の底部側に溜まるしくみであり、以上の構成は従来例にも共通した周知のものである。そして、本発明においては、フィルタエレメント15の中心軸線Xに対し燃料導入路13と燃料送出路14とがオフセット(偏芯)した位置に設けられたことで、気体燃料が螺旋状の旋回流を形成して旋回半径を拡大しながらフィルタエレメント15を通過して送出される。
【0019】
即ち、フィルタエレメント15内周面で形成された円柱状の内側空間であるフィルタ内側部12aとこの空間を中心軸線Xに沿って延長した柱状の延長部12b(図3参照)からなる円柱状のプレフィルタ室12の側面に、これよりも小径の燃料導入路13がその中心軸線を下方向にオフセットした状態で横向き(水平)に接続している。
【0020】
また、図2の側面図に示すように、この燃料導入路13よりも高い位置において、フィルタエレメント15外周側の円筒状空間であるポストフィルタ室11の側面から、これよりも小径の燃料送出路14が中心軸線Xに対し上方向にオフセットした状態で横向き(水平)に延設された構成となっている。また、この燃料送出路14と前述の燃料導入路13とは装置の同じ側に並列して設けられている。
【0021】
このような構成としたことで、燃料導入路13を通ってプレフィルタ室12の円柱状の延長部12bに導入された気体燃料は、図3の横断面図に示すように、その中心軸線Xに対しオフセットした方向から内周面に当たるため、螺旋状の旋回流となってフィルタ内側部12a側に進み旋回半径を拡大しながらフィルタエレメント15を内周面から外周面まで通過する。そして、収納部10aの内周面に一致するポストフィルタ室11の周壁に沿って旋回し、その旋回方向を直線的に延長した向きに一致するように延設した燃料送出路14を通ってインジェクタに向かって送出されることになる。
【0022】
このように、導入した気体燃料が円柱状のプレフィルタ室12の内周面に偏芯して当たることで、内周面に沿う螺旋状の旋回流を生じてフィルタ内側部12aで旋回半径を拡大しながら旋回して送出される構成としたことにより、フィルタエレメント15部分を除くケーシング10内で気体燃料への抵抗の少ないものとなり、フィルタ全体としての圧力損失をより小さく抑えることが可能となる。
【0023】
また、図2に示したように、フィルタエレメント15をその中心軸線Xが地に対し水平になるように配置して燃料送出路14が燃料導入路13よりも高い位置になるようにしたことで、捕捉したオイル状不純物が送出燃料に混入しにくいものとなる。尚、燃料導入路13と燃料送出路14が装置の同じ側に並列して設けられたことで、製造時及び搭載時の利便性に優れたものとなる。
【0024】
さらに、図1に示したように、燃料導入路13を中心軸線Xに対し下方向にオフセットしながら、破線で示すその内周面の下側部分がプレフィルタ室12の延長部12b内周面に連続するように配設したことで、直線的な燃料導入路13を通って導入された気体燃料がそのまま連続している延長部12bの内周面に沿ってスムースに旋回する。
【0025】
さらにまた、その燃料送出路14を燃料導入路13よりも高い位置で中心軸線Xに対し上方向にオフセットしながら、その内周面の上側部分がポストフィルタ室11の内周面に連続する位置になるように配設したことで、気体燃料とオイル状不純物との分離機能がより確実なものなり、且つ、旋回しながらポストフィルタ室11に出てきた気体燃料がスムースに燃料送出路14に侵入しやすくなって、燃料の旋回流に対する抵抗の発生が一層抑えられる。
【0026】
そして、図3の横断面図に示したように、燃料導入路13が接続するプレフィルタ室12の延長部12bは、その内径がフィルタエレメント15の内径に対し同等以下とされ、ポストフィルタ室11の燃料送出路14が延設された箇所の内径が、フィルタエレメント15の外径よりも大きくなっている。これにより、燃料が旋回するに従って旋回半径が大きくなりやすいものとなり、且つ、その抵抗を最小限に抑えやすいものとなる。
【0027】
尚、本実施の形態の気体燃料用フィルタ1による上述した作用・効果は、燃料流量が多い場合ほど顕著に表れやすく、且つ、圧力損失が問題となりやすい低圧ガスエンジンにおいて特に有効である。また、気体燃料用フィルタ1のケーシング10内における抵抗を少なくしてフィルタ全体の圧力損失を軽減できるようにしたことにより、従来例と比べてフィルタの小型化が可能となって省スペース化も実現しやすい。
【0028】
以上、述べたように、気体燃料用フィルタについて、本発明により、コストの高騰を伴うことなくその圧力損失を軽減して良好なエンジン運転性を確保しやすいものとなった。
【符号の説明】
【0029】
1 気体燃料用フィルタ、10 ケーシング、11 ポストフィルタ室、12 プレフィルタ室、12a フィルタ内側部、12b 延長部、13 燃料導入路、14 燃料送出路、15 フィルタエレメント


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状のケーシング内収納空間に中心軸線を一致させて円筒状のフィルタエレメントが内装され、該フィルタエレメントの内周面で形成された空間を前記中心軸線に沿って延長してなるプレフィルタ室を有して、該プレフィルタ室に燃料導入路が接続されているとともに前記フィルタエレメント外周側に形成された円筒状のポストフィルタ室から燃料送出路が延設されており、導入した気体燃料中のオイル状不純物を捕捉するための気体燃料用フィルタにおいて、前記燃料導入路は円柱状に形成された前記プレフィルタ室延長部側面に前記中心軸線に対しオフセットした状態で横向きに接続され、前記燃料送出路は前記ポストフィルタ室側面から前記中心軸線に対しオフセットした状態で横向きに延設されており、前記燃料導入路を通って前記プレフィルタ室に導入した気体燃料が、前記プレフィルタ室の内周面に当たることで旋回流となって旋回半径を拡大しながら前記フィルタエレメントを通過し、前記ポストフィルタ室の周壁に沿って旋回しながら該旋回方向を直線的に延長した向きに一致するように延設した前記燃料送出路を通って送出されることを特徴とする気体燃料用フィルタ。
【請求項2】
前記フィルタエレメントは、前記中心軸線が鉛直線に対し直角になるように配置されており、前記燃料送出路が前記燃料導入路よりも高い位置に配設されていることを特徴とする請求項1に記載した気体燃料用フィルタ。
【請求項3】
前記燃料導入路は、前記中心軸線に対し下方向にオフセットした状態で内周面の下側部分が前記プレフィルタ室延長部の内周面に連続する位置に配設されており、前記燃料送出路は、前記中心軸線に対し上方向にオフセットした状態で内周面の上側部分が前記ポストフィルタ室の周壁面に連続する位置に配設されていることを特徴とする請求項2に記載した気体燃料用フィルタ。
【請求項4】
前記プレフィルタ室延長部は、内径が前記フィルタエレメントの内周面で形成された空間の内径と同等以下とされ、前記ポストフィルタ室の燃料送出路延設箇所の内径が前記フィルタエレメントの外径よりも大きいものとされていることを特徴とする請求項1,2または3に記載した気体燃料用フィルタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−64131(P2011−64131A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215265(P2009−215265)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)