説明

気化性防錆剤組成物

【課題】アンモニアガスを発生して金属に対する防錆効果を発現する気化性防錆剤組成物であって、長期にわたり効果的に防錆効果を発揮し、人体に対する安全性が高い気化性防錆剤組成物を提供する。
【解決手段】成分Aとして非自己分解性のアンモニウム塩と、成分Bとして非潮解性のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とを含有し、亜硝酸またはその塩を含有せず、前記成分Aの前記成分Bに対する質量比が1/10〜10/1の範囲であることを特徴とする固体の気化性防錆剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属に対する防錆効果を有する気化性防錆剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製品の防錆手段として、防錆油の塗布や気化性防錆剤が知られている。防錆油や気化性防錆剤は、鉄鋼等の金属製自動車部品や各種機械部品を保管、輸送する際、金属表面が酸化されて発錆するのを防止するために、使用されている。特に近年、少量で優れた防錆効果を発揮し、用済み後は簡単に除去することのできる気化性防錆剤が、広く実用化されている。
【0003】
気化性防錆剤としては、ジイソプロピルアミン亜硝酸塩[((CH32CH)2NH・HNO2:DIPAN]が知られている。しかし、ジイソプロピルアミン亜硝酸塩は、防錆効果に関しては満足するものの、空気中に放置すると、脱水生成物であるジイソプロピルニトロソアミンが発生し、これが発ガン性を有するとの問題がある。また、気化性防錆剤として、ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩[(C6112NH・HNO2:DICHAN]も知られているが、ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩は、発ガン性については問題ないものの、気化性が低く、防錆効果が不十分となる場合がある。
【0004】
特許文献1には、鉄鋼用気化性防錆剤として、炭酸アンモニウム、セスキ炭酸アンモニウム、または炭酸水素アンモニウムを用いることが開示されている。特許文献1に開示される気化性防錆剤は、アンモニアガスを発生して鉄鋼の発錆を防止するものであるが、自己分解性が高く、環境中に暴露すると速やかに気化して、消失してしまう。また、温度や湿度に関係なくアンモニアガスが発生し、アンモニアガスの発生の制御が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−26789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アンモニアガスを発生して金属に対する防錆効果を発現する気化性防錆剤組成物であって、長期にわたり効果的に防錆効果を発揮し、人体に対する安全性が高い気化性防錆剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決することができた本発明の気化性防錆剤組成物とは、成分Aとして非自己分解性のアンモニウム塩と、成分Bとして非潮解性のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とを含有し、亜硝酸またはその塩を含有せず、前記成分Aの前記成分Bに対する質量比が1/10〜10/1の範囲であり、固体であるところに特徴を有する。本発明の気化性防錆剤組成物は、前記構成により、金属が錆びやすい高湿度の環境下では、成分Bが空気中の水分と反応して中性からアルカリ性を呈し、その結果、成分Aに由来して防錆効果を有するアンモニアガスの発生が促進される。一方、金属が錆びにくい低湿度の環境下では、成分Bと空気中の水分との反応が抑えられ、その結果、成分Aに由来してアンモニアガスが発生しにくくなる。従って、本発明の気化性防錆剤組成物は、効果的に金属の防錆を行うことができ、長期にわたり防錆効果が持続する。また、亜硝酸塩またはその塩を含有しないため、ニトロソアミンに由来する発ガン性の懸念がなく、人体に対する安全性が高い。
【0008】
前記成分Aとしては、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、アミド硫酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、硝酸アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、クエン酸二アンモニウム、クエン酸水素アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、安息香酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、酒石酸水素アンモニウム、コハク酸アンモニウム、蟻酸アンモニウム、乳酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、サリチル酸アンモニウム、およびエチレンジアミン四酢酸二アンモニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。前記成分Bとしては、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、およびメタホウ酸ナトリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。特に好ましいのは、前記成分Aが、リン酸水素二アンモニウムおよび安息香酸アンモニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記成分Bが、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、および炭酸ナトリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。前記のように成分Aと成分Bの化合物を適切に選択することにより、安全性が高く、取り扱いが容易な気化性防錆剤組成物が得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の気化性防錆剤組成物は、金属が錆びやすい高湿度の環境下では防錆効果を有するアンモニアガスの発生が促進され、金属が錆びにくい低湿度の環境下ではアンモニアガスの発生が抑えられるため、効果的に金属の防錆を行うことができ、長期にわたり防錆効果が持続する。また、人体に対する安全性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の気化性防錆剤組成物は、成分Aとして非自己分解性のアンモニウム塩と、成分Bとして非潮解性のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とを含有し、亜硝酸またはその塩を含有せず、前記成分Aの前記成分Bに対する質量比が1/10〜10/1の範囲であり、固体であることを特徴とする。
【0011】
まず、成分Aとして用いられる非自己分解性のアンモニウム塩について説明する。アンモニウム塩としては、非自己分解性であり、カチオンとしてアンモニウムイオンを有する塩であれば、特に限定されない。対イオンとしてのアニオンは、特に限定されない。本発明の気化性防錆剤組成物においては、アンモニウム塩に由来して発生するアンモニアガスが、金属に対する防錆効果を発揮する。
【0012】
本発明において、非自己分解性のアンモニウム塩とは、60℃で空気中に24時間放置した場合の残存率が90質量%以上のアンモニウム塩であることが好ましい。成分Aとして非自己分解性のアンモニウム塩を用いれば、アンモニアガスの発生の制御が容易な気化性防錆剤組成物を得ることができる。すなわち、金属が錆びにくい低湿度の環境下ではアンモニアガスが発生しにくく、金属が錆びやすい高湿度の環境下ではアンモニアガスが発生しやすい気化性防錆剤組成物を得ることができる。
【0013】
非自己分解性のアンモニウム塩としては、対イオンとして炭酸イオンまたは炭酸水素イオンを有しないアンモニウム塩を採用することが好ましい。炭酸イオンまたは炭酸水素イオンを有するアンモニウム塩は容易に自己分解するため、低湿度の条件下でも高湿度の条件下でも容易にアンモニアガスが発生し、アンモニアガスの発生の制御が難しい。炭酸イオンまたは炭酸水素イオンを有するアンモニウム塩としては、炭酸アンモニウム、セスキ炭酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、および炭酸水素アンモニウムが挙げられる。
【0014】
アンモニウム塩としては、非自己分解性で、比較的入手や取り扱いが容易なものとして、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、アミド硫酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、硝酸アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、クエン酸二アンモニウム、クエン酸水素アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、安息香酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、酒石酸水素アンモニウム、コハク酸アンモニウム、蟻酸アンモニウム、乳酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、サリチル酸アンモニウム、およびエチレンジアミン四酢酸二アンモニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これらのアンモニウム塩は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、リン酸水素二アンモニウムと安息香酸アンモニウムは、安全性が高く、対イオンのリン酸や安息香酸が酸としての腐食性が少ない点で、好ましく用いられる。例えば、リン酸水素二アンモニウムは食品添加物として使用されたり、また安息香酸アンモニウムの原料である安息香酸およびアンモニアも食品添加物として使用されており、その安全性が広く認められている。
【0015】
次に、成分Bとして用いられる非潮解性のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩について説明する。本発明の気化性防錆剤組成物は、成分Aのアンモニウム塩に由来してアンモニアガスが発生し、このアンモニアガスが金属に対する防錆効果を発揮する。一般に、金属は、低湿度の環境では錆が発生しにくく、高湿度の環境では錆が発生しやすい。従って、気化性防錆剤組成物が、低湿度の環境ではアンモニアガスの発生が抑えられ、高湿度の環境ではアンモニアガスの発生が促進されれば、効果的に金属の防錆を行うことができ、長期にわたり防錆効果が持続することとなる。そこで本発明の気化性防錆剤組成物は、成分Bとして、非潮解性のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を有している。
【0016】
アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩は、水に溶けると、一般に中性からアルカリ性を呈する。一方、成分Aとして使用されるアンモニウム塩は、一般に、高いpHほど、分解してアンモニアガスの発生が促進される。従って、本発明の気化性防錆剤組成物は、高湿度の環境下では、成分Bが空気中の水分と反応して中性からアルカリ性を呈し、その結果、成分Aに由来してアンモニアガスの発生が促進され、防錆効果がより高く発現する。一方、低湿度の環境下では、成分Bと空気中の水分との反応が抑えられ、その結果、成分Aに由来するアンモニアガスが発生しにくくなる。
【0017】
成分Bとして用いられるアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩としては、非潮解性である限り、特に限定されない。潮解は、一般に、ある物質の飽和水溶液の水蒸気圧が、それと接触する大気の水蒸気の分圧よりも小さい場合に起こる。本発明において、非潮解性のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とは、成分Bとして用いられるアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の飽和水溶液の水蒸気圧が、40℃における水の蒸気圧、すなわち55Torr(7.3kPa)より小さい化合物であることが好ましい。
【0018】
仮に、潮解性のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を用いた場合、低湿度の環境下でも成分Bが空気中の水分を吸収しやすくなり、金属の発錆が起こりにくい低湿度の環境下でも成分Aに由来してアンモニアガスが発生しやすくなる。この場合、防錆が不要な条件でも防錆剤が消費され、非効率的である。また、気化性防錆剤組成物を使用する際、気化性防錆剤組成物が液状になり取り扱い性が悪化したり、液状になった気化性防錆剤組成物が金属製品に垂れたりして、金属製品に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0019】
しかし、本発明の気化性防錆剤組成物は、成分Bとして非潮解性のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を用いているため、低湿度の環境下で成分Bが空気中の水分を吸収しにくく、低湿度の環境下では、成分Aに由来するアンモニアガスが発生しにくくなる。従って、効率的に金属の防錆を行うことができる。つまり、本発明の気化性防錆剤組成物は、潮解性のアルカリ金属塩および潮解性のアルカリ土類金属塩を含有しない。
【0020】
成分Bとして用いられるアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩は、アンモニアガスの発生を容易にする点から、水に溶けてアルカリ性を呈する塩が好ましい。具体的には、成分Bとしては、入手や取り扱いの容易さを考慮すると、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、およびメタホウ酸ナトリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これらのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、および炭酸ナトリウムは、食品添加物として使用されるなど、安全性が高い点で、好ましく用いられる。
【0021】
本発明の気化性防錆剤組成物は、成分Aと成分Bとを、均一な混合状態で含有することが好ましい。詳細には、気化性防錆剤組成物は、粉体状の成分Aと粉体状の成分Bとを、均一に混合して得られるものが好ましい。成分Aと成分Bとが混合状態で含まれることにより、成分Bの吸湿に引き続き、成分A由来のアンモニアガスの発生が速やかに起こりやすくなる。本発明の気化性防錆剤組成物は、成分Aと成分Bとを均一な混合状態で含有する限り、粉体状であってもよく、任意の方法で造粒した粒状、あるいは任意の方法で成形したペレット状等であってもよい。
【0022】
成分Aと成分Bは、気化性防錆剤組成物の原料として使用される状態で、目開き2.00mm(9メッシュ)のふるいを通過する割合が、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。すなわち、成分Aと成分Bの粉体状の程度としては、目開き2.00mm(9メッシュ)のふるいを大部分が通過する粒度であればよく、前記粒度の成分Aと成分Bとが、均一に混合されていることが好ましい。
【0023】
本発明の気化性防錆剤組成物は、成分Aと成分Bとを、成分Aの成分Bに対する質量比(A/B)が1/10〜10/1の範囲で含有する。成分Aの成分Bに対する質量比は、好ましくは1/5以上であり、より好ましくは1/3以上であり、また5/1以下が好ましく、3/1以下がより好ましい。成分Aの成分Bに対する質量比が1/10未満であれば、気化性防錆剤組成物に含まれるアンモニウム塩(成分A)の量が少なくなり、防錆に必要なアンモニアガスが十分発生しなかったり、多量の気化性防錆剤組成物が必要となるおそれがある。成分Aの成分Bに対する質量比が10/1超であれば、気化性防錆剤組成物に含まれる非潮解性のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩(成分B)の量が少なくなり、防錆に必要なアンモニアガスが十分発生しなかったり、未反応のアンモニウム塩(成分A)が多くなり、非効率的となるおそれがある。
【0024】
以上のように、本発明の気化性防錆剤組成物は、成分Aとして非自己分解性のアンモニウム塩と、成分Bとして非潮解性のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とを含有する。しかし、本発明の気化性防錆剤組成物は、亜硝酸またはその塩は含有しない。亜硝酸またはその塩を含有する気化性防錆剤は、発ガン性等の有害性を有するニトロソアミンを生成する場合があるためである。従って、亜硝酸またはその塩は含有しない本発明の気化性防錆剤組成物は、ニトロソアミンに由来する発ガン性の懸念がなく、人体に対する安全性が高い。
【0025】
本発明の気化性防錆剤組成物は、さらに、ベンゾトリアゾールおよびトリルトリアゾールよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。気化性防錆剤組成物がベンゾトリアゾールまたはトリルトリアゾールをさらに有していれば、銅や銅合金等の非鉄金属の変色を防止したり、腐食効果を高めることができる。また、気化性防錆剤組成物は、必要に応じて、バインダー、増量剤、顔料、色素等を含有してもよい。
【0026】
本発明の気化性防錆剤組成物は、常温常圧(25℃、1気圧)で固体である。気化性防錆剤組成物は、そのまま置くだけで、大気中の湿度に応じて防錆効果を有するアンモニアガスを発生し、金属、特に鉄鋼に対する防錆効果を発現する。また、気化性防錆剤組成物は、潮解性を有さず、固体であるため、取り扱いが容易である。
【0027】
本発明の気化性防錆剤組成物の使用に当たっては、そのままの姿で用いてもよいが、取り扱い性を高めるため、通気性の不織布、あるいは孔開きフィルムや連続気泡タイプの発泡フィルムのような通気性フィルムからなる袋などに適量包装して用いることが好ましい。ここで使用される不織布や通気性フィルムの種類は特に制限されない。気化性防錆剤組成物の漏出を防止しつつ、防錆効果を有するガスの通過を許すものであれば、通常の植物性繊維、動物性繊維、再生繊維、合成繊維等の不織布、あるいは各種樹脂の連続発泡シート、孔開きフィルム等が使用可能である。
【0028】
気化性防錆剤組成物を使用する前は、気化性防錆剤組成物あるいは気化性防錆剤組成物を包装した袋を、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド等の水蒸気不透過性のフィルムや金属製缶に密封して保管あるいは搬送し、使用時にフィルムや缶を開封して使用するのがよい。気化性防錆剤組成物を密封して保管することにより、保管時に成分Bが空気中の水分を吸収するのが防止され、防錆剤としての機能の劣化を防ぐことができる。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0030】
(1)気化性防錆剤組成物の作製
表1および表2に示す配合割合に従い、気化性防錆剤組成物No.1〜13を作製した。表1中、リン酸水素二アンモニウムと安息香酸アンモニウムは成分Aに相当し、酸化マグネシウムと水酸化カルシウムと炭酸ナトリウムは成分Bに相当する。
【0031】
各試薬はいずれも粉体状または結晶粒状であった。リン酸水素二アンモニウムは太平化学産業株式会社製の食品添加物用を用い、安息香酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムは関東化学株式会社製の試薬特級を用い、酸化マグネシウムは協和化学工業株式会社製の食品添加物用を用い、水酸化カルシウムは富田製薬株式会社製の食品添加物用を用い、炭酸ナトリウムはソーダアッシュジャパン株式会社製の食品添加物用を用い、ベンゾトリアゾールとDICHAN(ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩)はキレスト株式会社製のものを用いた。
【0032】
(2)試験方法
(2−1)防錆試験
上記(1)で作製した気化性防錆剤組成物を、表1に示された所定量を量り取り、不織布製の袋内に入れて密封し、防錆剤バッグを得た。20℃に調整した恒温槽内に、上面に直径60mmの穴を設けたアクリル樹脂(PMMA)製容器(アズワン株式会社製、ポータブルデシケータースタンダードPL、外寸法400mm×317mm×338mm、容量33L)を設置し、当該容器内のほぼ真ん中に防錆剤バッグをつり下げた。前記容器の上面の穴には、JIS Z 1519−1994 5.4「気化性さび止め性」に基づき作製した試験片付きゴム栓で、栓をした。前記試験片付きゴム栓は、アルミニウム管がゴム栓を貫通し、そのアルミニウム管の一端に試験片(みがき棒鋼用一般鋼材SGB3)が取り付けられたものであり、試験片が前記容器内の雰囲気と接していた。なお、アルミニウム管と試験片とは、別の穴あきゴム栓により両者が固定されていた。前記容器内の底部には、35%グリセリン水200mLを入れ、容器内を相対湿度90%に調整した。JIS Z 1519−1994 5.4「気化性さび止め性」の5.4.5「操作」に従い、20℃で20時間静置した後、アルミニウム管に0℃〜2℃の冷水を入れて試験片に結露を発生させ、その後20℃で3時間放置後、試験片の錆発生状況を5倍拡大ルーペで確認した。錆発生状況の評価は下記基準に従い、評価を、表1および表2の「防錆試験」の欄に示した。
◎:腐食なし、変色なし
○:ごく僅かな腐食もしくは点さびが1〜3個発生、変色面積が10%未満
△:軽度の腐食もしくは点さびが4〜9個発生、変色面積が10%以上30%未満
×:明確な腐食もしくは点さびが10個以上発生、変色面積が30%以上50%未満
××:全面腐食、変色面積が50%以上
【0033】
(2−2)防錆試験時のアンモニアガス濃度測定
上記の防錆試験において、20時間経過時に、株式会社ガステック製のガス検知管(アンモニア用、No.3L,3La,3M)により、アクリル樹脂製容器内のアンモニアガス濃度を測定した。結果を、表1および表2の「アンモニアガス濃度」の欄に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
(2−3)アンモニアガス発生量の温度および湿度の影響
組成物No.1,5,12または13の気化性防錆剤組成物0.10gを30mLビーカーに入れ、これを容量1Lの試験瓶の内部に置いた。試験瓶の下部にグリセリン水10mLを入れ、試験瓶内部の湿度を調整した。試験瓶をゴム栓で密閉し、20℃、30℃または40℃で20時間静置した後、試験瓶内のアンモニアガス濃度を株式会社ガステック製のガス検知管(アンモニア用、No.3L,3La,3M,3HM)により測定した。湿度調整用のグリセリン水の濃度は、相対湿度40RH%の条件で86.2質量%、相対湿度50RH%の条件で80.4質量%、相対湿度60RH%の条件で72.7質量%、相対湿度70RH%の条件で64.1質量%、相対湿度80RH%の条件で51.5質量%、相対湿度90RH%の条件で34.7質量%とした。結果を表3に示した。
【0037】
【表3】

【0038】
(2−4)安定性評価
組成物No.1,12または13の気化性防錆剤組成物を100mLビーカーに入れ、これを60℃の恒温槽内に入れ、時間の経過による質量変化をみた。結果は表4に示した。表4では、初期の質量を100%として、各経過時間における質量を百分率で表した。
【0039】
【表4】

【0040】
(3)試験結果
表1および表2の防錆試験結果では、気化性防錆剤組成物を容器内に設置しなかったNo.14では、防錆試験の評価は「××」となった。これに対し、成分Aと成分Bとを質量比1/10〜10/1の範囲で含有する組成物No.1〜8は、2gまたは4gの量を容器内に設置することで、防錆試験の評価は「◎」となった。また、評価「◎」のときのアンモニアガス濃度は、少なくとも23ppmであった(組成物No.4)。成分Aと成分Bとを含有するが、成分Aの成分Bに対する質量比が1/10〜10/1の範囲外となる組成物No.9,10は、10gの量を容器内に設置しても、アンモニアガス濃度は高くても11ppmであり、防錆試験の評価は「△」または「×」であった。一般的な気化性防錆剤として多用されるDICHAN(組成物No.11)は、10gの量を容器内に設置しても、防錆試験の評価は「△」であった。
【0041】
炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムを用いた組成物No.12,13では、表1および表2の防錆試験結果において十分なアンモニアガスの発生が認められ、防錆試験の評価も「◎」となった。しかし、低温低湿度の環境下でも、多くのアンモニアガスの発生が認められ、安定性(非自己分解性)も十分ではなかった。これについて、表3および表4を用いて説明する。
【0042】
表3には、組成物No.1,5,12,13の気化性防錆剤組成物について、アンモニアガス発生量の温度および湿度の影響を調べた結果を示した。組成物No.1,5では、発錆しにくい低温低湿度の環境下ではアンモニアガス発生量は少なく、高温および高湿度になるほどアンモニアガス発生量が増加した。一方、組成物No.12,13では、20℃、40RH%の低温低湿度の環境下でも、多量のアンモニアガスの発生が認められた。すなわち、組成物No.12,13は、防錆剤としては非効率的であることが分かった。
【0043】
表4には、組成物No.1,12,13の気化性防錆剤組成物の安定性評価試験の結果を示した。組成物No.1は、120時間経過後もほとんど質量は減少せず、高い安定性を示した。一方、組成物No.12は、18時間でほぼ完全に消失し、組成物No.13は、24時間で半分近くが消失し、120時間でほぼ完全に消失した。すなわち、組成物No.12,13は、安定性(非自己分解性)に劣ることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の気化性防錆剤組成物は、金属の防錆用途へ適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分Aとして非自己分解性のアンモニウム塩と、成分Bとして非潮解性のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とを含有し、
亜硝酸またはその塩を含有せず、
前記成分Aの前記成分Bに対する質量比が1/10〜10/1の範囲であることを特徴とする固体の気化性防錆剤組成物。
【請求項2】
前記成分Aが、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、アミド硫酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、硝酸アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、クエン酸二アンモニウム、クエン酸水素アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、安息香酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、酒石酸水素アンモニウム、コハク酸アンモニウム、蟻酸アンモニウム、乳酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、サリチル酸アンモニウム、およびエチレンジアミン四酢酸二アンモニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の気化性防錆剤組成物。
【請求項3】
前記成分Bが、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、およびメタホウ酸ナトリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の気化性防錆剤組成物。
【請求項4】
前記成分Aが、リン酸水素二アンモニウムおよび安息香酸アンモニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記成分Bが、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、および炭酸ナトリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の気化性防錆剤組成物。

【公開番号】特開2011−47028(P2011−47028A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198981(P2009−198981)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(596148629)中部キレスト株式会社 (31)
【出願人】(592211194)キレスト株式会社 (30)
【Fターム(参考)】