説明

気泡の除去方法及びガラスの製造方法

【課題】SbやAsの使用量を低減でき且つ充分に脱泡できる、溶融ガラスに含まれる気泡の除去方法、及びガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】この気泡の除去方法は、第一イオン化エネルギーが520kJ・mol−1以下の元素及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が2500kJ・mol−1以下の元素を有し且つイオン化によりガスを生成し得るガス放出体を用い、前記ガス放出体に対して熱エネルギーを与えて前記ガス放出体をイオン化させ、前記ガスを前記溶融ガラスに放出させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡の除去方法、及びガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学レンズを使用する光学機器の高機能化が急速に進められており、これに伴って光学レンズに対する高精度化の要求が強まっている。そこで、光学レンズの精度を低下する主要な原因である光学レンズ内への気泡残留を解消する必要がある。
【0003】
光学レンズ内への気泡残留を抑制するには、光学レンズを成形する前の溶融ガラスを脱泡することが有効である。従来、溶融ガラスの脱泡は、SbやAsからなる脱泡剤をガラス材料に混合することで行われてきた(例えば、特許文献1参照)。つまり、高温にさらされると、SbやAsが分解反応を起こし、酸素ガスを溶融ガラス中へと放出する。これにより、溶融ガス中に滞留する微細な気泡が、酸素ガスに巻き込まれて外部へと排出されるため、溶融ガラスの脱泡を充分に行うことができる。
【特許文献1】特開2003−292338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、人体をはじめとした生物体への悪影響の観点や、環境保護の観点等から、脱泡剤として用いられていたSbやAsの使用量を低減することが望まれていた。
【0005】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、SbやAsの使用量を低減することができ且つ充分に脱泡することができる気泡の除去方法及び光学ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ガラス原料に、第一イオン化エネルギーが所定範囲内にある元素及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が所定範囲内にある元素を有し且つ熱分解によりガスを生成し得るガス放出体を用いることにより、ガス放出体に対して熱エネルギーを与える際に熱分解によってガスが生成し易くなり、溶融ガラスの気泡が生成したガスに巻き込まれて溶融ガラスの外部へと排出されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0007】
(1) 溶融ガラスに含まれる気泡の除去方法であって、第一イオン化エネルギーが520kJ・mol−1以下の元素及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が2500kJ・mol−1以下の元素を有し且つ熱分解によりガスを生成し得るガス放出体を用い、前記ガス放出体に対して熱エネルギーを与えて前記ガス放出体を熱分解させ、前記ガスを前記溶融ガラスに放出させる気泡の除去方法。
【0008】
(2) 前記元素として第一イオン化エネルギーが370kJ・mol−1以上の元素及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が1500kJ・mol−1以上の元素を用いる(1)記載の気泡の除去方法。
【0009】
(3) 前記元素としてポーリング電気陰性度が1.5以下の元素を用いる(1)又は(2)記載の気泡の除去方法。
【0010】
(4) 前記元素として第1族元素及び/又は第2族元素を用いる(1)から(3)のいずれか記載の気泡の除去方法。
【0011】
(5) 前記ガス放出体が、前記元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、過酸化物、及び塩化物からなる群より選ばれる1種以上からなる(1)から(4)のいずれか記載の気泡の除去方法。
【0012】
(6) 前記溶融ガラス及び前記ガス放出体として、実質的にSb成分及びAs成分を含まないものを用いる(1)から(5)のいずれか記載の気泡の除去方法。
【0013】
(7) ガラス原料を溶融して前記溶融ガラスを形成した後、前記ガス放出体を加える(1)から(6)のいずれか記載の気泡の除去方法。
【0014】
(8) (1)から(7)いずれか記載の気泡の除去方法を用いて製造されるガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【0015】
(9) (8)記載の精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。
【0016】
(10) (1)から(7)いずれか記載の気泡の除去方法を用いて製造されるガラスからなる光学素子。
【0017】
(11) (9)又は(10)記載の光学素子を用いた光学機器。
【0018】
(12) ガラス原料と、第一イオン化エネルギーが520kJ・mol−1以下の元素及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が2500kJ・mol−1以下の元素を有し且つ溶融温度下でガスを生成し得るガス放出体と、を用い、前記ガラス原料と前記ガス放出体とを共に溶融するガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガラス原料に、第一イオン化エネルギーが所定範囲内にある元素及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が所定範囲内にある元素を有し且つ熱分解によりガスを生成し得るガス放出体を用いることにより、ガス放出体に対して熱エネルギーを与える際にガス放出体からガスが放出され易くなり、溶融ガラスの気泡が放出されたガスに巻き込まれて溶融ガラスの外部へと排出される。このガス放出体で溶融ガラスを充分に脱泡することができるため、SbやAsを別途使用する必要性が低く、SbやAsの使用量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明を限定するものではない。
【0021】
本発明の気泡の除去方法は、ガラス原料と、所定のガス放出体を用い、このガス放出体に対して熱エネルギーを与えることで生成されるガスを溶融ガラスに放出させる。ガス放出体に対して熱エネルギーを与えることにより、熱分解によってガスがガス放出体から放出され易くなり、このガスが溶融ガラスの気泡を巻き込むことで、溶融ガラスの気泡が溶融ガラスの外部へと排出されるため、SbやAsを別途使用する必要性が低く、SbやAsの使用量を低減することができる。
【0022】
(ガス放出体)
ガス放出体は、熱分解によりガスを生成し得る物質であり、第一イオン化エネルギーが520kJ・mol−1以下の元素及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が2500kJ・mol−1以下の元素を、1種又は2種以上有する。第一イオン化エネルギー及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が小さな元素を有するガス放出体を用いることで、ガス放出体に対して熱エネルギーを与えた際にガス放出体が熱分解し易くなり、熱分解により生成されて放出されたガスが溶融ガラスの気泡と結びついて溶融ガラスの外部へと排出される。このため、溶融ガラスからの脱泡を促進し、泡の少ないガラスを得ることができる。
【0023】
ここで、本発明で用いられる元素の第一イオン化エネルギーの上限は、520kJ・mol−1であることが好ましく、518kJ・mol−1であることがより好ましく、515kJ・mol−1であることが最も好ましい。また、この元素の第一イオン化エネルギーの下限は、370kJ・mol−1以上であることが好ましく、390kJ・mol−1以上であることがより好ましく、410kJ・mol−1以上であることが最も好ましい。第一イオン化エネルギーがこの範囲内にあることにより、ガス放出体に対して熱エネルギーを与えた際に、元素が1価のカチオンとなってガス放出体が熱分解し易くなるため、溶融ガラスからの脱泡を促進することができる。この効果は、アルカリ金属のように1価のイオンを形成する元素について特に顕著である。第一イオン化エネルギーが所定範囲内にある元素の具体例としては、例えばLi、Na、K、Rb、Cs、及びBaを挙げることができる。
【0024】
または、本発明で用いられる元素の第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和の上限は、2500kJ・mol−1であることが好ましく、2300kJ・mol−1であることがより好ましく、2200kJ・mol−1であることが最も好ましい。また、この元素の第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和の下限は1500kJ・mol−1であることが好ましく、1550kJ・mol−1であることがより好ましく、1600kJ・mol−1であることが最も好ましい。第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和がこの範囲内にあることにより、ガス放出体に対して熱エネルギーを与えた際に、元素が2価以上のカチオンとなってガス放出体が熱分解し易くなるため、溶融ガラスからの脱泡を促進することができる。この効果は、2価以上のイオンを形成する元素について特に顕著であり、アルカリ土類金属のように2価のイオンを形成する元素について最も顕著である。第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が所定範囲内にある元素の具体例としては、例えばMg、Ca、Sr、Ba、La、Gd、Y、Yb、Lu、Ti、Zr及びNbを挙げることができる。
【0025】
これら第一イオン化エネルギー及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が所定範囲内にある元素のポーリング電気陰性度は、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下、最も好ましくは1.3以下である。これにより、それら元素を含むガス放出体が溶融ガラス中にて熱分解されてガスを放出し易くなるため、泡の少ないガラスをより得易くすることができる。このような元素の具体例としては、例えばLi、Na、K、Rb、Cs、Ca、Sr、Ba、La、Gd、Y、Yb及びLuを挙げることができる。
【0026】
第一イオン化エネルギーが小さな元素及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が小さな元素としては、第1族元素及び/又は第2族元素を用いることが好ましく、K及び/又はBaを用いることが最も好ましい。第1族元素や第2族元素を用いることで、第一イオン化エネルギーが与えられた元素が1価の陽イオンになり、第一イオン化エネルギー及び第二イオン化エネルギーが与えられた元素が2価の陽イオンになり、これらがガス放出体の分子から脱離することでガス放出体が容易に熱分解されるため、溶融ガラスからの脱泡をより促進することができる。これら第1族元素及び/又は第2族元素の中でも、周期表の下にある元素ほど熱分解に必要なエネルギーが低く、溶融ガラスの脱泡をより促進することができるが、Rb及びCsは放射性等の有害な特性を有する元素である。従って、K及び/又はBaを用いることで、溶融ガラスの脱泡を促進しながらも、放射性等の有害な特性を有さないガラスを得ることができる。
【0027】
なお、熱分解によってイオン化した元素は、溶融ガラスの冷却時に溶融ガラスに残っている気泡(特に直径30μm未満の気泡)中の酸素を取り込んで酸化物へと変化する性質を有するため、ガラスの清澄化に役立てることができる。特に、この清澄化の点に着目した場合には、Li、Na、Mg、Caを用いることが好ましく、Li及び/又はMgを用いることが最も好ましい。所定の第一イオン化エネルギー又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和を有する元素の中でも、熱分解に必要なエネルギーが高いこれらの元素、特にLi及び/又はMgを用いることで、イオン化した元素が酸化物に変化する反応が進み易くなるため、ガラスをより清澄化することができる。
【0028】
ガス放出体は、これらの元素を含む化合物であれば特に限定されないが、ガス発生能に優れる点では、これらの元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、過酸化物、及び塩化物からなる群より選ばれる1種以上をガス放出体として用いることが好ましい。これらの化合物をガス放出体として用いる場合、ガラス原料に対して熱エネルギーを与えた際に硝酸塩はNOxガスを、炭酸塩はCOxガスを、硫酸塩はSOxガスを、酸化物及び過酸化物はOガスを、塩化物はClガスをそれぞれ放出することが期待され、上述の元素の熱分解によって気体を放出し易くなるため、溶融ガラスからの脱泡効率を高めることができる。その中でも特に、1価の陰イオンを形成しうる化合物である点で、これらの元素の硝酸塩及び塩化物からなる群より選ばれる1種以上をガス放出体として用いることがより好ましい。これにより、第一イオン化エネルギーが与えられたガス放出体の分子から陰イオンが脱離してガス放出体が容易に熱分解するため、溶融ガラスからの脱泡をより促進することができる。なお、ガス放出体は、ガラス原料として用いてもよく、既知のガラス組成に加えて用いてもよい。
【0029】
(ガラス原料)
ガラス原料は、ガラスの骨格を形成する成分と、このガラス骨格を変質して種々の特性を持たせる成分と、に大別される。前者の具体例としてはSiO、Al及びB等が挙げられ、後者の具体例としてはTiO、Nb、WO、Ta、ZnO、MgO、CaO、SrO、La、Gd、Y、Yb、Lu、P、GeO、TeO、Bi、Ga、In、SnO、F、AgO、PbO、MoO、Fe、CuO、Sb、及びCdO等が挙げられる。なお、ここでは各成分の例示として酸化物を主に列挙したが、これに限られず、列挙された金属元素及び非金属元素の硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、過酸化物、及び塩化物等であってもよい。
【0030】
ここで、ガラス原料の形態は特に限定されず、粉末状又は塊状の非ガラス状の形態(バッチ)であってもよく、これが溶融され冷却されてガラス化した塊を破砕したもの(カレット)であってもよく、バッチ及びカレットの混合物であってもよい。
【0031】
これらガス放出体及びガラス原料は、光学ガラスの所望の光学特性等に応じて適宜選択されてよい。ただし、人体をはじめとした生物体への悪影響の観点や、環境保護の観点では、ガス放出体及びガラス原料として、Sb成分(例えばSb、Sb等)及びAs成分(例えばAs、As等)の使用量の少ないもの、より好ましくはSb成分及びAs成分を実質的に含まないものを用いることが好ましい。本発明では、第一イオン化エネルギーが小さな元素を有するガス放出体を用いているので、Sb成分及びAs成分の使用量にかかわらず、ガス放出体による気泡が溶融ガラスへと放出され易い。このため、生物体への悪影響を低減しつつ、脱泡を充分に行うことができる。
【0032】
(使用量比)
ガス放出体及びガラス原料の使用量比は、特に限定されるものではなく、適宜設定されてよい。ただし、ガス放出体及びガラス原料の質量和に対するガス放出体の使用量を0.05%以上にすることで、ガラスの脱泡作用が得られ易くなるため、光学ガラスとして好適なガラスを得易くすることができる。一方で、ガス放出体の使用量比を30.00%以下にすることで、ガラス溶融時における過度の発泡が生じ難くなるため、溶解槽からの溶融ガラスの漏出を低減することができる。従って、ガス放出体及びガラス原料の質量和に対するガス放出体の使用量は、好ましくは0.05%、より好ましくは0.10%、最も好ましくは0.20%を下限とし、好ましくは30.00%、より好ましくは20.00%、最も好ましくは15.00%を上限とする。
【0033】
(脱泡)
上述したガス放出体による脱泡は、ガス放出体に対して熱エネルギーを与えることにより行われる。より具体的には、ガス放出体及びガラス原料を溶融温度まで共に加熱して溶融することが好ましい。これにより、ガス放出体の熱分解によって放出されたガスが、ガラス原料の溶融によって形成される溶融ガラスの気泡(特に直径30μm以上の気泡)と結びついて溶融ガラスの外部へと排出されるため、ガラスの脱泡を行うことができる。ここで、溶融温度は、ガス放出体及びガラス原料の組成によって適宜設定されるものであるが、例えば1200℃以上1400℃以下に設定することができる。
【0034】
ガス放出体及びガラス原料を共に加熱する方法は、特に限定されるものではなく、ガス放出体及びガラス原料を常温で混合した後で溶解槽に投入し、溶融温度に加熱してもよい。しかしながら、ガラス原料を溶解槽に投入して溶融して溶融ガラスを形成した後で、ガス放出体を加えることが好ましい。ガス放出体を溶融ガラスに加えることにより、ガラスの網目構造と結合してガラス中に取り込まれるガス放出体が減少するため、所望の脱泡効果を得易くすることができる。
【0035】
なお、本発明の製造方法は、従来の脱泡技術に代替するものではあるが、ガスを溶融ガラスへと導出する技術(いわゆるバブリング)や、脱泡剤の使用を除外するものではなく、これらの技術を併用してもよい。
【0036】
(光学ガラス)
本発明の製造方法を用いて作製される光学ガラスは、ガス放出体からのガスの放出によって脱泡されたものである。溶融ガラスに残された気泡(特に直径30μm未満の気泡)中の酸素が、イオン化した元素に取り込まれ易くなるため、より清澄化されたガラスを得ることができる。
【0037】
また、本発明の製造方法を用いて製造される光学ガラスは、優れた光学特性を有しているため、この光学ガラスからなるプリフォームを精密プレス成形等の成形を行うことで、高精度を有するレンズ、プリズム、ミラー等の光学素子を得ることができる。なお、プリフォームを介さず、光学ガラスから直接的に成形してなる光学素子も同様に有用である。また、これらの光学素子を用いた光学機器も本発明に包含される。
【0038】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
本発明の実施例で用いるガラス原料及びガス放出体として、酸化物換算の組成でSiO成分、B成分、SrO成分、LiO成分、CaO成分、ZnO成分、Al成分、ZrO成分及びTiO成分となるように原料を調合した。ここで、LiO成分の原料であるLiCOの含有率は酸化物換算におけるガラス質量全体の7%であり、CaO成分の原料であるCaCOの含有率は酸化物換算におけるガラス質量全体の7%であり、SrO成分の原料であるSrOの含有率はガラス質量全体の15%であった。これらガラス原料及びガス放出体としては、Sb成分及びAs成分を実質的に含有しないものを用いた。調合した原料を白金からなる溶解槽に入れ、電気炉中で1250〜1300℃の範囲で加熱し、温度を保持しつつ4時間に亘り撹拌を行ってガラス原料及びガス放出体を溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1250℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0041】
作製したガラスについて、日本光学硝子工業会規格JOGIS12−1994「光学ガラスの泡の測定方法」により泡評価を行い、この規格の表1に基づき100mlのガラス中の泡の断面積の総和(mm)により級別した。すなわち、級1は泡の断面積の総和が0.03mm未満、級2は0.03〜0.1mm未満、級3は0.1〜0.25mm未満、級4は0.25〜0.5mm未満、級5は0.5mm以上とした。
【0042】
一方、本発明の比較例として、ガラス組成中のLiO成分、SrO成分、及びCaO成分をZnO成分に置き換え、実施例と同様に泡評価を行った。
【0043】
その結果、ガラス原料にガス放出体としてLiCO及びCaCOを加えた実施例により得られたガラスの泡評価の結果は級1であった。一方、ガラス組成中のLiO成分、SrO成分、及びCaO成分をZnO成分に置き換えた比較例では、サンプルのガラス化が困難であった上、サンプルがガラス化した場合における泡評価の結果は級5であり、特に直径30μm〜1mm程度の泡が多く含まれていた。実施例及び比較例の泡評価の結果から、ガラス原料にガス放出体を加えることによって、SbやAsの使用量を低減しても溶融ガラスを脱泡できることが明らかになった。特に、ガス放出体としてLiCO及びCaCOを加えた場合には、溶融ガラスを充分に脱泡できることが明らかになった。
【0044】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスに含まれる気泡の除去方法であって、
第一イオン化エネルギーが520kJ・mol−1以下の元素及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が2500kJ・mol−1以下の元素を有し且つ熱分解によりガスを生成し得るガス放出体を用い、
前記ガス放出体に対して熱エネルギーを与えて前記ガス放出体を熱分解させ、前記ガスを前記溶融ガラスに放出させる気泡の除去方法。
【請求項2】
前記元素として第一イオン化エネルギーが370kJ・mol−1以上の元素及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が1500kJ・mol−1以上の元素を用いる請求項1記載の気泡の除去方法。
【請求項3】
前記元素としてポーリング電気陰性度が1.5以下の元素を用いる請求項1又は2記載の気泡の除去方法。
【請求項4】
前記元素として第1族元素及び/又は第2族元素を用いる請求項1から3のいずれか記載の気泡の除去方法。
【請求項5】
前記ガス放出体が、前記元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、過酸化物、及び塩化物からなる群より選ばれる1種以上からなる請求項1から4のいずれか記載の気泡の除去方法。
【請求項6】
前記溶融ガラス及び前記ガス放出体として、実質的にSb成分及びAs成分を含まないものを用いる請求項1から5のいずれか記載の気泡の除去方法。
【請求項7】
ガラス原料を溶融して前記溶融ガラスを形成した後、前記ガス放出体を加える請求項1から6のいずれか記載の気泡の除去方法。
【請求項8】
請求項1から7いずれか記載の気泡の除去方法を用いて製造されるガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項9】
請求項8記載の精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。
【請求項10】
請求項1から7いずれか記載の気泡の除去方法を用いて製造されるガラスからなる光学素子。
【請求項11】
請求項9又は10記載の光学素子を用いた光学機器。
【請求項12】
ガラス原料と、第一イオン化エネルギーが520kJ・mol−1以下の元素及び/又は第一イオン化エネルギーと第二イオン化エネルギーとの和が2500kJ・mol−1以下の元素を有し且つ溶融温度下でガスを生成し得るガス放出体と、を用い、
前記ガラス原料と前記ガス放出体とを共に溶融するガラスの製造方法。

【公開番号】特開2010−83725(P2010−83725A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255798(P2008−255798)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】