説明

気象予測装置、方法及びプログラム

【課題】
気象モデルの初期時刻以降に急発達する雷雨等を精度よく予測できるようにする。
【解決手段】
変換装置(12)、水平内挿装置(14)及び鉛直内挿装置(18)が、気象データ(10)からWRFモデルの格子点間隔の3次元気象データを生成する。予測装置(22)は、WRF気象モデルの初期場に対して予測計算を実行し、所定時間後までの一定時間範囲の気象状態を予測する。格子制御装置(24)が、地形データ(16)に従い、予測装置(22)における予測の格子間隔を、日本列島付近では細かい格子間隔に、それ以外の地域を粗い格子間隔になるように制御する。同化装置(26)が、リアルタイム又は準リアルタイムで計測される可降水量データ、風向風速・反射強度データ及び解析雨量データを3次元変分法によりデータ同化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気象予測装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
3次元空間でサンプルされた気象データに一定の物理方程式を適用して,その時間変換をコンピュータシミュレーションにより予測する気象予測モデル又は気象予測システムは、知られている。
【0003】
特許文献1には、気象予測モデルを用いて気象予測を行う気象予測システムにおいて、観測値を気象モデルに同化する同化方法としてナッジング法を使用する場合に、予測精度が一定条件を満たさない場合に,再同化を実施することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、気象データサーバDSから定期的に提供される広域気象予測データを初期値として気象予測モデルを作成し、このモデルに気象状況の観測結果をデータ同化し、予測モデルから風分布を含む極細密気象予測演算を行い、その演算結果を気象予測情報として提供するシステムが記載されている。
【0005】
特許文献3には、気象モデルから算出された雨水量から水蒸気ボーガスと潜熱ボーガスを算出して、ナッジング法によりデータ同化を行うことで、モデル領域内でレーダデータ同化された雨水が直ちに落下しても、周囲の水蒸気、周囲の温度上昇をモデル領域に残すことができる気象予測システムが記載されている。
【0006】
特許文献4には、レーダ観測結果から予め高度別に区分された複数階層の雨水量データを取得しておき、観測地点の雨の有無及び雨水量により、水蒸気同化すべき雨水量データの階層を決定する気象予測システムが記載されている。
【0007】
特許文献5には、気象庁から定期的に配信される広域の気象GPV(Grid Point Value)データを気流場解析の基本方程式に適用して、狭域の気象状況を予測するシステムにおいて、気象GPVデータの間の別の観測値を同化することで、予測計算の精度を向上させた気象予測システムが記載されている。
【0008】
特許文献6には、気象予測モデルによる降雨予測において、注目点の周囲にレーダ同化された雨水が存在する場合には、水蒸気ボーガスを作成してモデル内にデータ同化し、これにより、モデル領域内で「雨を降り続かせる」ことを可能とする気象予測システムが記載されている。
【0009】
特許文献7には、各種気象データの初期値に所定の計算式を適用し、データ更新を行いながら将来の気象を予測する気象予測モデルにおいて、初期値として使用される気象観測データの他に、別の気象観測データを同化することにより、短時間予測の精度を改善する気象予測システムが記載されている。
【0010】
特許文献8には、広域で観測される広域気象観測データを局地的に観測される局地気象観測データで補正する気象予測システムが記載されている。
【0011】
また、GPS及び静止衛星により可降水量を計測できることが知られている(非特許文献1)
【特許文献1】特開2007−212402号公報
【特許文献2】特開2007−017316号公報
【特許文献3】特開2007−010561号公報
【特許文献4】特開2006−220444号公報
【特許文献5】特開2006−064609号公報
【特許文献6】特開2006−038583号公報
【特許文献7】特開2003−090888号公報
【特許文献8】特開2002−328178号公報
【非特許文献1】赤塚 慎,遠藤 貴宏,安岡 善文,「衛星画像とGPSを用いた陸域可降水量分布の推定」,生産研究 58,343 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の気象予測システムは、陸上の水蒸気量を参照しておらず、陸地部分の予測精度に難点があった。従来の、陸上でレーダデータから雨水量や蒸気量を推定する方法では、誤差が大きく、また、降水が無い地域や、地形による遮蔽でレーダでは観測できない地域には利用できないので、モデル計算による予測精度が悪くなる。
【0013】
さらに、同化手法についても、たとえば、特許文献3,4,6に記載されるナッジング同化法では、修正結果が熱力学的、力学的にバランスしておらず、予測計算が不安定になりやすいという問題点がある。
【0014】
本発明は、このような問題点を解決する気象予測装置、方法及びプログラムを提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る気象予測装置は、気象データを所定格子間隔の初期場として入力する初期場入力手段と、当該初期場から所定気象モデルに基づき気象を予測する予測装置と、当該気象データよりも短周期で観測される可降水量観測データ及び降水量観測データを当該気象モデルに同化する同化手段とを具備することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る気象予測方法は、気象データを所定格子間隔の初期場として入力する初期場入力ステップと、当該初期場から所定気象モデルに基づき気象を予測する予測ステップと、前記気象観測データよりも短周期で観測される可降水量観測データ及び降水量観測データを前記気象モデルに同化する同化ステップとを具備することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る気象予測プログラムは、気象データを所定格子間隔の初期場としてコンピュータの記憶手段に入力する初期場入力機能と、当該初期場から所定気象モデルに基づき当該コンピュータに気象を予測させる予測機能と、当該コンピュータに、当該気象データよりも短周期で観測される可降水量観測データ及び降水量観測データを当該気象モデルに同化させる同化機能とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、初期場の元となる気象データとは別に、当該気象データよりも短周期で観測される可降水量観測データ及び降水量観測データをデータ同化することで、予測精度の向上を図ることができる。また、気象モデルの初期時刻以降に急発達する雷雨等の予測も容易になり、精度の良い予測が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は,本発明の一実施例の概略構成ブロック図を示す。なお、本実施例では,気象モデルWRFを利用する。
【0021】
現在、気象観測結果を特定の気象モデルに同化することで、広域のグリッド化された気象データを周期的に得ることができる。この種の気象データは,現在のデータの他に、一定期間内、例えば、33時間後とか51時間後までの一定時間間隔の予測値を含み、現在値は気象モデルによる予測の初期場として使用され,予測値は、気象モデルによる予測の誤差評価に使用される。
【0022】
例えば,気象庁からは、GSM(Global Spectrum Model)データ(約20kmメッシュ)、MSM(Meso Scale Model)データ(約5kmメッシュ)、及び、Neargoos(the North-East Asian Regional Global Ocean Observing System)海水温・海氷分布データ(約20kmメッシュ)等の気象観測データが入手可能であり,本出願人から1kmメッシュの積雪分布の観測データが入手可能である。GSMデータは1日に4回、MSMデータは1日に8回、Neargoosデータは1日に1回、それぞれ発行されている。GSMデータは、51時間後まで、0時及び12時の気象データの予測値を含む。MSMデータは、33時間先までの予測値を含む。1kmメッシュの積雪分布の観測データは1日に1回、発行されている。これらの気象データは、気象モデルWRFに合致する格子点値(GPV:Grid Point Value)として表現されているものの、水平面上の格子点に対して表現される二次元データである。
【0023】
変換装置12は、上記の観測データの全部又は一部からなる気象データ10を気象モデルWRFの入力フォーマット(PREGRID形式)に変換する。
【0024】
水平内挿装置14は、変換装置12によりフォーマット変換された気象データを、予測対象地域の地形データ16に従って水平面内で内挿し、鉛直内挿装置18が鉛直線に沿って気象データを内挿して、WRFモデルの格子点間隔の3次元気象データを生成する。地形データ16は,気象モデル計算領域の海陸分布、土地利用区分及び標高等のデータからなり、モデル計算の格子間隔に合わせたものを用意する。このような地形データは、例えば、米国地質研究所(USGS)から入手できる。水平内挿装置14の水平内挿の段階では、鉛直方向は等圧面データになっており、鉛直内挿装置18を作用させることで、等圧面をη面に変換する。
【0025】
水平内挿装置14及び鉛直内挿装置18により生成されるWRF計算用データのうちの現在のデータがWRFモデルの初期値又は初期場としてハードディスク20に格納され、異なる時刻の予測データが後述する予測演算の誤差評価用としてハードディスク20に格納される。換言すると、ハードディスク20に格納されるWRFモデルの初期場、及び初期場から所定時間後の予測値は、気象データ10に従い、逐次、更新されることになる。
【0026】
予測装置22は、ハードディスク20に格納されるWRF気象モデルの初期場に対して予測計算を実行し、所定時間後までの一定時間範囲の気象状態を予測する。また、気象データ10に含まれる予測値との比較で、誤差を修正する。予測結果は、ハードディスク20に追加格納される。本実施例では、計算負荷を軽減するため、格子制御装置24が、地形データ16に従い、予測装置22における予測の格子間隔を、日本列島付近では細かい格子間隔(例えば、5km間隔)に、それ以外の地域(通常は、海上)を粗い格子間隔(例えば、15km間隔)になるように制御する。
【0027】
気象予報精度を向上させるために、本実施例では、予測装置22による気象モデル予測に関して、WRFモデルを以下のように修正した。本実施例では、初期場に入力する水物質の情報が湿度(水蒸気量)のみであり、初期場として水物質のデータが不足する。そこで、本実施例では、初期場に、前の予測計算結果の、今回の計算に該当する時間の水物質(雲水(Qc)、雨水(Qr)、雪(Qs)、霰(Qg)及び数濃度(Nc))の総量を取り込む。これにより、予報初期の降水の立ち上がりを改善できる。
【0028】
また、初期場に入力する土壌物性値(土壌湿潤度及び土壌温度)は、従来、毎回、診断ないし推定していたが、本実施例では、前の予測計算結果の、今回の計算に該当する時間の土壌物性値を初期場に取り込むようにした。これにより、予報精度の向上が期待で出来る。
【0029】
このように予測されたハードディスク20上の気象モデル値に対し、同化装置26が、リアルタイム又は準リアルタイムで計測される観測値を、3次元変分法により同化する。
【0030】
本実施例では、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS電波の遅延から計測した可降水量データ28、ドップラーレーダによる3次元計測した風向風速・反射強度データ30、及びレーダアメダス解析雨量データ32を利用可能である。異常値除去装置34、36、38はそれぞれ、可降水量データ28、風向風速・反射強度データ30及び解析雨量データ32から異常値を除去して、残るデータ(正常値データ)を同化装置26に供給する。例えば、異常値除去装置34、36、38は、ハードディスク20に格納される対応する同じ時刻の気象モデル値と比較して,一定以上の差がある場合に、異常値と判定する。
【0031】
GPSを使った可降水量の観測では、計算能力によるものの、現在の状況を数分乃至5分程度の演算遅延で計測できるので、この観測値を同化することで、予測精度が格段に向上する。また、陸地の可降水量を計測でき、陸上及び海岸部の水蒸気量の詳細分布を得ることができる。
【0032】
同化装置26は、レーダアメダス解析雨量の雨量強度を反射強度に変換し、高度を仮定した上で、同化を実行する。また、同化装置26は、ドップラーレーダの同径風、水平風及び反射強度データを、気象モデルの格子間隔に応じてスムージングしてから、同化を実行した。
【0033】
表示データ生成装置40は、最終的にハードディスク20に格納される予報値から一定形式の表示データを生成する。表示データを使って、テレビ画面への表示画像が生成される。
【0034】
本実施例ではGPSによる可降水量観測により、陸上及び海岸部の水蒸気量の詳細分布を得ることができる。これにより、気象モデルに対し陸上及び海岸部での適切な水蒸気分布初期場を再現できる。また、レーダアメダスの解析雨量を同化することで、雨が降り出している地域で適切な水物質分布を示す初期場を再現できる。これらにより、本実施例では、気象モデルの初期時刻以降に急発達する雷雨等の予測が容易になり、精度の良い予測が可能になる。
【0035】
本実施例は、主として,コンピュータプログラムにより実現されるが、その機能の一部を専用ハードウエアに置換しても同様の作用効果を奏することができることは明らかである。また、単一のコンピュータ上動作するコンピュータプログラムのみならず、多数のコンピュータ上でそれぞれ動作するコンピュータプログラムを協調動作させることでも、同様の作用効果を奏することができる。これらのいずれの構成も、本発明の技術的範囲に属するものである。
【0036】
特定の説明用の実施例を参照して本発明を説明したが、特許請求の範囲に規定される本発明の技術的範囲を逸脱しないで、上述の実施例に種々の変更・修整を施しうることは、本発明の属する分野の技術者にとって自明であり、このような変更・修整も本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例の概略構成ブロック図である。
【符号の説明】
【0038】
10:気象観測データ
12:変換装置
14:水平内挿装置
16:地形データ
18:鉛直内挿装置
20:ハードディスク
22:予測装置
24:格子制御装置
26:同化装置
28:可降水量データ
30:風向風速・反射強度データ
32:解析雨量データ
34,36,38:異常値除去装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象データを所定格子間隔の初期場として入力する初期場入力手段(12、14、18)と、
当該初期場から所定気象モデルに基づき気象を予測する予測装置(22)と、
当該気象データよりも短周期で観測される可降水量観測データ及び降水量観測データを当該気象モデルに同化する同化手段(26)
とを具備することを特徴とする気象予測装置。
【請求項2】
当該初期場入力手段は、
当該気象データを当該気象モデルのデータ形式に変換する変換手段と、
当該変換手段の出力データから水平方向及び鉛直方向の内挿処理により当該所定格子間隔の3次元の気象データを生成する内挿手段(14,18)
とを具備することを特徴とする請求項1に記載の気象予測装置。
【請求項3】
更に、気象予測対象の地形データに基づき、当該予測装置による陸上部の予測の格子間隔を海上部の予測の格子間隔よりも広く設定する格子制御装置(24)を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の気象予測装置。
【請求項4】
当該気象データが、当該可降水量観測データ及び当該降水量観測データよりも長い周期で観測される気象観測データからなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の気象予測装置。
【請求項5】
当該気象データが、当該可降水量観測データ及び当該降水量観測データよりも長い周期で観測される気象観測データに基づくことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の気象予測装置。
【請求項6】
気象データを所定格子間隔の初期場として入力する初期場入力ステップ(12、14、18)と、
当該初期場から所定気象モデルに基づき気象を予測する予測ステップ(22)と、
当該気象データよりも短周期で観測される可降水量観測データ及び降水量観測データを前記気象モデルに同化する同化ステップ(26)
とを具備することを特徴とする気象予測方法。
【請求項7】
当該初期場入力ステップは、
当該気象データを当該気象モデルのデータ形式に変換する変換ステップと、
当該変換ステップにより変換されたデータから水平方向及び鉛直方向の内挿処理により当該所定格子間隔の3次元の気象データを生成する内挿ステップ(14,18)
とを具備することを特徴とする請求項6に記載の気象予測方法。
【請求項8】
更に、気象予測対象の地形データに基づき、当該予測ステプによる陸上部の予測の格子間隔を海上部の予測の格子間隔よりも広く設定する格子制御ステップ(24)を具備することを特徴とする請求項6又は7に記載の気象予測方法。
【請求項9】
当該気象データが、当該可降水量観測データ及び当該降水量観測データよりも長い周期で観測される気象観測データからなることを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の気象予測方法。
【請求項10】
当該気象データが、当該可降水量観測データ及び当該降水量観測データよりも長い周期で観測される気象観測データに基づくことを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の気象予測方法。
【請求項11】
気象データを所定格子間隔の初期場としてコンピュータの記憶手段(20)に入力する初期場入力機能(12、14、18)と、
当該初期場から所定気象モデルに基づき当該コンピュータに気象を予測させる予測機能(22)と、
当該コンピュータに、当該気象データよりも短周期で観測される可降水量観測データ及び降水量観測データを当該気象モデルに同化させる同化機能(26)
とを具備することを特徴とする気象予測プログラム。
【請求項12】
当該初期場入力機能は、
当該コンピュータに、当該気象データを当該気象モデルのデータ形式に変換させる変換機能と、
当該コンピュータに当該変換機能の出力データから水平方向及び鉛直方法の内挿により当該所定格子間隔の3次元の気象データを生成させる内挿機能(14,18)
とを具備することを特徴とする請求項11に記載の気象予測プログラム。
【請求項13】
更に、当該コンピュータに、地形データに基づき、当該予測機能による陸上部の予測の格子間隔を海上部の予測の格子間隔よりも広く設定させる格子制御機能(24)を具備することを特徴とする請求項11又は12に記載の気象予測プログラム。
【請求項14】
当該気象データが、当該可降水量観測データ及び当該降水量観測データよりも長い周期で観測される気象観測データからなることを特徴とする請求項11乃至13の何れか1項に記載の気象予測プログラム。
【請求項15】
当該気象データが、当該可降水量観測データ及び当該降水量観測データよりも長い周期で観測される気象観測データに基づくことを特徴とする請求項11乃至13の何れか1項に記載の気象予測プログラム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−60443(P2010−60443A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226849(P2008−226849)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(397039919)一般財団法人日本気象協会 (29)