説明

水不溶性担体及びエンドトキシン吸着材

【課題】エンドトキシン等の被吸着物質を吸着しうるリガンドを、そのリガンドとしての機能を発揮させ得るように、かつ、容易に固定化できる水不溶性担体を提供すること。
【解決手段】基材と、該基材に結合した下記式1で表されるリンカーと、を備える、水不溶性担体。



[式1中、Bnはベンジル基、xは2〜6の数、Bは保護基又は水素原子を示す。*は基材と結合していることを示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性担体及びエンドトキシン吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
治療法の進歩にも関わらず、敗血症は依然として治療に難渋し、ICUにおける主たる死亡原因にもなっている病態である。最近では、TNF−α、IL−1β、IL−6、IL−8等のサイトカインと敗血症性ショックとの関連性が注目され、エンドトキシンと様々なサイトカインが複雑に絡み合って敗血症の病態を形成することが明らかとなってきている。エンドトキシンはこれらサイトカインカスケードの引き金となるものであり、血中内に流入したエンドトキシンを速やかに体外に除去できるエンドトキシン吸着剤は、敗血症の病態改善に大きく貢献している。
【0003】
現在では、エンドトキシン吸着式血液浄化剤として、東レ・メディカルによって開発されたトレミキシン(登録商標)が広く用いられている。トレミキシン(登録商標)は、ポリプロピレンを補強材としたα−クロロアセトアミドメチル化ポリスチレン複合繊維にポリミキシンBを共有結合で固定化した吸着剤である。ポリミキシンBは抗生物質であり、エンドトキシンの活性中心であるリピドAと結合し、その活性を中和することが知られている。例えば、特許文献1には、繊維状担体にポリミキシンBを固定化したエンドトキシン中和剤が開示されている。
【0004】
特許文献2、3及び非特許文献1、2には、エンドトキシン、LPS等を吸着できる細菌内毒素吸着剤やそのスクリーニング方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−49052号公報
【特許文献2】特開2002−311029号公報
【特許文献3】特開2007−31448号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Koichi Fukase、Masahiro Wakao、Minoru Izumi、Atsushi Ueno、Masato Oikawa、Yasuo Suda、Shoichi Kusumoto、H. Peter Nestler、Rosemarie Sherlock、and Ruiping Liu、「Peptide Science 2000:T. Shiori (Ed.)」、The Japanese Peptide Society (2001)、p.365−368
【非特許文献2】Takashi Goi、Yukari Fujimoto and Koichi Fukase、「Peptide Science 2005:T. Wakamiya (Ed.)」、The Japanese Peptide Society (2006)、p.433−436
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された方法は、ポリミキシンB自体が高コストであり、また、ポリミキシンB(リガンド)を固定化する担体が、繊維であることから、リガンドの固定化が不均一になりやすく、かつ、極めて煩雑な工程であるため、実際の製造を考慮すると好ましいものではなかった。
【0008】
特許文献2、3及び非特許文献1、2に記載された細菌内毒素吸着剤のリガンドは、分岐リジン残基を持つペプチド構造がリン酸基と相互作用する発見に基づいており、この分岐リジン構造を母骨格にして、リピドA誘導体に対する様々なペプチド性吸着剤ライブラリーが見出されている。
【0009】
これらのペプチド性吸着剤ライブラリーに用いる担体としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、水酸基などの官能基を有する樹脂が推奨されており、具体的には、上記した官能基を有するポリエチレングリコール−ポリスチレン樹脂〔具体的な商品名としては、例えば、TentaGel S−NH2(Papp Polymere社)やAminomethyl NovaGel HL(Novabiochem社)が挙げられる。〕や、親水性ビニルポリマー〔具体的な商品名としては、例えば、TSKgel AF−AminoTOYOPEARL 650S(東ソー(株))等が挙げられる。〕等が挙げられている。
【0010】
しかしながら、これらの担体とペプチド性吸着剤とを結合した吸着材は、単にエンドトキシン等の吸着物質が吸着するか否かをin vitroの水溶液系においてスクリーニングする目的には有効であるが、体外循環用に使用する目的には不向きであった。すなわち、全血を用いた場合には、血液中の細胞や蛋白質等の非特異的吸着が起こったり、血液凝固が起こったりしてしまうなどの欠点があった。
【0011】
血液や血漿を対象とした吸着材の担体としては、蛋白質の非特異的吸着や血液凝固を防ぐためには、担体自体が親水性のものが望ましい。すなわち、セルロースやアガロースなどの多糖類やポリビニルアルコールのように担体自体が水酸基を有しているものが好ましい。しかしながら、例えば、水酸基を官能基として有する担体にリガンドとしてペプチド性吸着剤を、そのリガンドとしての機能を発揮させ得るように、かつ、容易に固定化することは困難であった。
【0012】
上記のような現状に鑑み、本発明は、エンドトキシン等の被吸着物質を吸着しうるリガンドを、そのリガンドとしての機能を発揮させ得るように、かつ、容易に固定化できる水不溶性担体を提供することを目的とする。本発明はさらに、水不溶性担体にエンドトキシンを吸着することができるリガンドを固定化したエンドトキシン吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の〔1〕〜〔9〕に関する。
〔1〕基材と、上記基材に結合した下記式1で表されるリンカーと、を備える、水不溶性担体。
【化1】


[式1中、Bnはベンジル基、xは2〜6の数、Bは保護基又は水素原子を示す。*は基材と結合していることを示す。]
〔2〕上記基材が、ポリビニルアルコール樹脂である、〔1〕に記載の水不溶性担体。
〔3〕基材と、上記基材に結合した下記式2で表されるリンカーと、上記リンカーに結合したエンドドキシン吸着リガンドLと、を備える、エンドトキシン吸着材。
【化2】


[式2中、Bnはベンジル基、xは2〜6の数を示す。*は基材と結合していること、**はLと結合していることを示す。]
〔4〕上記基材が、ポリビニルアルコール樹脂である、〔3〕に記載のエンドトキシン吸着材。
〔5〕xが2である、〔3〕又は〔4〕に記載のエンドトキシン吸着材。
〔6〕Lが下記式3で表される、〔3〕〜〔5〕のいずれかに記載のエンドトキシン吸着材。
【化3】


[式3中、AA、AA、AA及びAAはそれぞれ独立にアミノ酸残基を示す。**はリンカーと結合していることを示す。]
〔7〕〔1〕又は〔2〕に記載の水不溶性担体と、エンドドキシン吸着リガンドとを反応させて得られるエンドトキシン吸着材。
〔8〕xが2である、〔7〕に記載のエンドトキシン吸着材。
〔9〕上記エンドドキシン吸着リガンドが、下記式4で表される、〔7〕又は〔8〕に記載のエンドトキシン吸着材。
【化4】


[式4中、AA、AA、AA及びAAはそれぞれ独立にアミノ酸残基を示す。]
【発明の効果】
【0014】
本発明の水不溶性担体は、エンドトキシン等の被吸着物質を吸着しうるリガンドを、そのリガンドとしての機能を発揮させ得るように、かつ、容易に固定化することができる。すなわち、そのリガンドとしての活性を保ちながら、簡便に固定化することができる。本発明の水不溶性担体は、吸着材用水不溶性担体として有用である。
【0015】
上記水不溶性担体にエンドトキシンを吸着しうるリガンド(エンドトキシン吸着リガンド)を固定化した本発明のエンドトキシン吸着材は、血液中のエンドトキシンを選択的かつ十分に吸着することができるので、敗血症治療用の体外循環用吸着材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る水不溶性担体及びエンドトキシン吸着材の合成経路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
(水不溶性担体)
本発明の水不溶性担体は、基材と、その基材に結合した下記式1で表されるリンカーと、を備えるものである。式1中、Bnはベンジル基、xは2〜6の数、Bは保護基又は水素原子を示す。*は基材と結合していることを示す。なお、基材には、下記式1で表されるリンカーが、複数結合していてもよい。
【化5】

【0019】
本明細書において、水不溶性担体とは、水に溶けない担体を意味する。例えば、血液に接触した場合、血液中に溶け出さないものである。
【0020】
(基材)
基材は、親水性の表面を有し、かつリンカーを化学結合により基材上に固定化するために利用し得る反応性の官能基(以下「反応性官能基」という。)を有するものである。反応性官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等が好ましい。また、非特異的吸着を抑制する観点から、反応性官能基として、電気的に中性である水酸基を有するものが、より好ましい。
【0021】
基材の例としては、セルロース系ゲル、デキストラン系ゲル、アガロース系ゲル、ポリアクリルアミド系ゲル、多孔質ガラス、ビニルポリマー系ゲル等の有機又は無機の多孔体が挙げられる。特に、水酸基を有するビニルポリマー系ゲル、セルロース系ゲル、デキストラン系ゲル、アガロース系ゲルは、効果的に用いることができる。
【0022】
また、本技術分野において、アフィニティクロマトグラフィー用担体として通常用いられる材料は全て基材として使用することができる。このような担体を例示すると、特公平1−44725号公報記載の全多孔質活性化ゲルや、CM−トヨパール650C(排除限界タンパク質分子量:5×10、東ソー(株)製)等のポリビニルアルコール系担体、旭化成マイクロキャリア(旭化成工業(株)社製)、CM−セルロファインCH(排除限界タンパク質分子量:約3×10、生化学工業(株)販売)等のセルロース系担体、セファロースCL−4B(SepharoseCL−4B)〔排除限界タンパク質分子量:2×10、スウェーデン国ファルマシア−LKB(Pharmacia−LKB)社製〕等のアガロース系担体等の有機質担体、CM−トリスアクリルM(CM−Trisacryl M)〔排除限界タンパク質分子量:1×10、スウェーデン国ファルマシア−LKB(Pharmacia−LKB)社製〕等のポリアクリルアミド系担体、及びCPG−10−1000〔排除限界タンパク質分子量:1×10、平均細孔径:100nm、米国エレクトロ−ニュークレオニクス(Electro−nucleonics)社製〕等の多孔性ガラス等の無機質担体が挙げられる。
【0023】
また、基材は有効表面積が広い多孔性であるものが望ましい。これにより、リガンドを結合させることが可能な表面積が広くなるため、吸着材として用いたときに吸着効率を高くすることができる。基材は、粒子状、繊維状、シート状、中空糸状等の任意の形状であってよい。
【0024】
(リンカー)
リンカーは、基材とリガンドを結合する際のスペーサーの役割を果たすものをいう。具体的には、下記式1で表される。式1中、Bnはベンジル基を示す。リンカーは、式1中、*で示す部位で、基材の反応性官能基と共有結合している。
【化6】

【0025】
上記式1中、Bは保護基又は水素原子である。Bが水素原子の場合は、リンカーの末端がアミノ基となり、このアミノ基を介してリガンドと結合することが可能となる。すなわち、Bが水素原子の場合は、アミノ基が保護されていない状態である。Bが保護基の場合、脱保護によりリンカーの末端をフリーのアミノ基とすることで、リガンドとの結合が可能となる。保護基としては、アミノ基の保護基として常用されているものを用いることができる。具体的には、t−ブトキシカルボニル基(t−Boc基)、ベンジル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0026】
式1中のxは、2〜6の数を示す。xがこの範囲であれば、本発明の効果を奏することができるが、化合物の安定性や入手の容易さといった観点から、xが2であるリンカーが、最も好ましい。
【0027】
本発明者らは、上記式1で表されるリンカーをポリビニルアルコール樹脂等の基材に共有結合させることによって、エンドトキシンを吸着するリガンドを、そのエンドトキシン吸着能を十分に発揮できるように、かつ容易に、固定化することができる水不溶性担体となることを見出した。また、この水不溶性担体を用いて作製したエンドトキシン吸着材が、血中のエンドトキシンを良く吸着することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいている。このような効果が得られる機構について、本発明者らは次のように考えている。リンカーを介さず、水不溶性担体の基材に存在する官能基に直接リガンドを結合させた場合、リガンドと基材との距離が近いため、エンドトキシン等の被吸着物質と基材との相互作用が大きくなると考えられる。これにより、フリーのリガンドに対し、血液中の蛋白質等が非特異的に吸着してしまう。一方、リンカーを介して基材とリガンドを結合させた場合、リガンドと基材との距離がリンカーの長さ分長くなるため、エンドトキシン等の被吸着物質と基材との相互作用が抑えられ、リガンドへの被吸着物質の吸着効率が上がるものと考えられる。
【0028】
さらに、リンカーを介してリガンドを結合させることによって、基材に存在する官能基に直接リガンドを結合させる場合に比べて結合させることが容易となり、リガンドの固定化量を上げることができる。
【0029】
(水不溶性担体の製造方法)
本発明の水不溶性担体は、基材の反応性官能基と、リンカーの前駆体とを共有結合させることにより得ることができる。リンカーの前駆体としては、基材の反応性官能基と共有結合を形成可能な残基を有し、その残基と反応性官能基とで共有結合を形成することにより、上記式1で表されるリンカーを形成可能な1つの化合物であってもよいし、逐次反応させることにより上記式1で表されるリンカーを形成可能な複数の化合物であってもよい。
【0030】
リンカーの前駆体として、例えば、下記式6で表される化合物とすることができる。式6中、Bnはベンジル基、xは2〜6の数を示す。また、Rは、反応性官能基と共有結合を形成可能な残基を示す。
【化7】

【0031】
リンカーの前駆体としては、上記残基Rを有するリンカーの一部に相当する化合物と、その化合物と反応することにより上記式6で表される化合物を形成可能な1又は複数の化合物とからなっていてもよい。この場合、これらリンカーの前駆体を予め反応させて上記式6で表される化合物を形成した後、基材との共有結合を形成させてもよい。また、上記残基Rを有するリンカーの一部に相当する化合物と、基材との間に共有結合を形成した後、上記1又は複数の化合物を逐次反応させてもよい。
【0032】
基材の反応性官能基と共有結合を形成可能な残基(R)の例としては、例えば、反応性官能基がアミノ基の場合、Rとしては、カルボキシル基、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子)等とすることができる。この場合、基材と、上記式1で表されるリンカーとの結合部は、それぞれ、−NH−C(O)−、−NH−等となる。反応性官能基がカルボキシル基の場合、Rとしては、水酸基、アミノ基、チオール基等とすることができる。この場合、上記結合部は、それぞれ、−C(O)−O−、−C(O)−NH−、−C(O)−S−等となる。反応性官能基が水酸基の場合、Rとしては、カルボキシル基、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子)等とすることができる。この場合、上記結合部は、それぞれ、−O−C(O)−、−O−等となる。
【0033】
以下、基材が反応性官能基として水酸基を有する場合、例えば基材がポリビニルアルコール樹脂(PVA樹脂)等、を例として、基材中の反応性官能基(水酸基)上で逐次反応を行うことにより、式1で表されるリンカーを形成する方法について、図1を参照しながら、具体的に説明する。
【0034】
リンカーの前駆体として、上記残基Rを有するリンカーの一部に相当する化合物として下記式7で表されるクロロメチルオキシランと、クロロメチルオキシランと化学的に反応することにより上記式6で表される化合物を形成可能な1又は複数の化合物として下記式8で表される化合物とすることができる。
【化8】


【化9】


[式8中、Bnはベンジル基、xは2〜6の数を示す。]
【0035】
基材であるポリビニルアルコール樹脂1に、DMSO中、水酸化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、上記式7で表されるクロロメチルオキシランを作用させる。これにより、基材であるポリビニルアルコール樹脂1上の−OHと、クロロメチルオキシラン上のCl−との間の化学反応により、エーテル結合(−O−)が形成される(図1)。
【0036】
次に、得られた樹脂に、上記式8で表される化合物と、水中、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを作用させる。最後に上記作用により得られた樹脂に、トリフルオロ酢酸を作用させて、基材であるポリビニルアルコール樹脂に、上記式1で表されるリンカーが結合した水不溶性担体2を製造することができる。
【0037】
(水不溶性担体の使用方法)
本発明の水不溶性担体は、リンカー末端のアミノ基(Bが保護基の場合は、常法に従って脱保護すればよい)との化学結合によって、被吸着物質を吸着し得る任意のリガンドを結合させ、その被吸着物質の吸着材として使用することができる。本発明の水不溶性担体は、上記式1で表されるリンカーを有するため、このようなリガンドの機能(被吸着物質の吸着能)を十分に発揮させることができるとともに、リガンドの固定化を容易(簡便)に行うことができる。
【0038】
また、本発明の水不溶性担体は、血液に接触した際に血液中に溶け出さないため、例えば、エンドトキシンを吸着し得るリガンド(エンドトキシン吸着リガンド)を結合させ、エンドトキシン吸着材とすることが好ましい。このエンドトキシン吸着材は、血中エンドトキシンを除去するために使用することができる。
【0039】
(エンドトキシン吸着リガンド)
本発明に係るエンドトキシン吸着リガンドは、エンドトキシンを吸着し得る化合物であればよい。エンドトキシン吸着リガンドとしては、高分子化合物、低分子化合物、ペプチド化合物等特に限定はないが、ぺプチド化合物は、有効なリガンドとなり得る。具体的には、特開2002−311029号公報に開示されたペプチド化合物は有効である。即ち、下記式4のような分岐リジン残基を持つペプチド化合物を、エンドトキシン吸着リガンドとして好ましく用いることができる。
【化10】

【0040】
なお、式4中、AA,AA,AA及びAAはそれぞれ独立してアミノ酸残基を示す。AA,AA,AA及びAAは任意のアミノ酸残基とすることができるが、エンドトキシンを吸着する能力を指標として、適切なアミノ酸残基を選択することもできる。例えば、上記式1で表されるリンカーのアミノ基末端と式4で表されるペプチド化合物のカルボキシル基末端とを結合させ、いわゆる、ペプチドライブラリーを作製した後、ペプチドライブラリーとのリムルス活性測定、又は血漿及び全血吸着実験を行うことにより、このペプチドライブラリーの中から、血中エンドトキシンを効果的に吸着するものを探索、抽出することができる。
【0041】
そのようにして得られたエンドトキシン吸着リガンドの具体例としては、例えば、上記式4において、AA,AA,AA及びAAが下記表1に記載のいずれかの組み合わせからなるもの等が挙げられる。オリゴペプチド構造と細菌内毒素吸着剤としての有効性との相関関係は、未だ十分には解明されていないが、AAがリジン等の酸性アミノ酸残基又はグルタミン酸残基であるものがより有効のようである。
【0042】
【表1】

【0043】
(エンドトキシン吸着材)
本発明のエンドトキシン吸着材は、基材と、基材に結合した下記式2で表されるリンカーと、リンカーに結合したエンドドキシン吸着リガンドLと、を備える。なお、式2中、Bnはベンジル基、xは2〜6の数を示す。*は基材と結合していること、**はLと結合していることを示す。
【化11】

【0044】
エンドトキシン吸着リガンドLとしては、下記式3で表されるものとすることが好ましい。なお、式3中、AA,AA,AA及びAAはそれぞれ独立してアミノ酸残基を示し、表1に示したいずれかの組み合わせからなるものが特に好ましい。また、**はリンカーと結合していることを示す。
【化12】

【0045】
本発明のエンドトキシン吸着材は、また、上述の水不溶性担体と、エンドドキシン吸着リガンドとを反応させて得られるものとすることもできる。水不溶性担体は、反応前にリンカーの保護基を脱保護することが好ましい。このような反応により得られるエンドトキシン吸着材においては、リンカーのアミノ基末端と結合したリガンドと、基材中の反応性の官能基と結合したリガンドが混在しているものと考えられる。
【0046】
(エンドトキシン吸着材の製造方法)
上記式1で表されるリンカーに対して、所望のリガンド(例えば、エンドトキシン吸着性リガンド)を結合させるための一例としては、式1中のBがアミノ基の保護基の場合は、常法に従って脱保護し、アミノ基をフリーの状態にする。その後、例えば、リガンドにカルボキシル基がある場合は、リンカーのアミノ基とリガンドのカルボキシル基を脱水縮合させて、化学的に結合することができる。その他、リンカーのアミノ基とリガンドとの結合方法については、適宜選択することができる。
【0047】
以下、基材がポリビニルアルコール樹脂(PVA樹脂)、リガンドが上記式3で表されるペプチド化合物である場合を例として、エンドトキシン吸着材を形成する方法について、図1を参照しながら、具体的に説明する。
【0048】
基材がポリビニルアルコール樹脂(PVA樹脂)である水不溶性担体2の保護基(t−Boc)を常法に従って脱保護し、Fmon−Lys(Fmoc)−OH、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)及びN,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)を作用させる。次に、同様の方法を用いてBoc基の脱保護とFmoc−保護アミノ酸の導入を順次繰り返すことにより、ペプチド鎖の伸長を行うことができる。これにより、エンドトキシン吸着材3を得ることができる。なお、ペプチド固相合成に用いられる他の方法によっても、同様にエンドトキシン吸着材3を得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0050】
〔実施例1〕水不溶性担体の合成
クロロメチルオキシラン、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)は、ナカライテスク株式会社から購入し、水酸化ナトリウムは、和光純薬工業株式会社から購入した。無水ジクロロメタンは、水素化カルシウムを脱水剤に用いて蒸留してから反応に用いた。ジメチルスルホキシド(40mL)で膨潤させたポリビニルアルコール樹脂(PVA樹脂)(水酸基担持量:110μmol/mL,4.0g,12.4mL,1.36mmol)に対して、細砕した水酸化ナトリウム(4.8g,0.12mol)を室温で作用させて30秒間震盪し、さらに水素化ホウ素ナトリウム(30mg,0.79mmol)、及びクロロメチルオキシラン(31.4mL,0.40mol)作用させて、35℃で5時間震盪した。反応溶液を濾過により除去した後、樹脂をメタノール(35℃,15分間×3回)、及び水(45℃,5分間×8回)で洗浄した。
【0051】
次いで、得られた樹脂に対して、水(50mL)、及びN−Boc,N’−ベンジルエタノールジアミン(BnNHCHCHNHBoc,1.03g,4.13mmol)を作用させて30秒間震盪させた後、炭酸ナトリウム(232mg,2.18mmol)及び炭酸水素ナトリウム(276g,3.29mmol)を作用させて、50℃で14時間震盪した。反応溶液を濾過により除去した後、樹脂をメタノール(35℃,15分間×3回)、及び水(45℃,5分間×8回)で洗浄することにより、水不溶性担体を得た。水不溶性担体におけるリンカーの導入率は、用いた試薬溶液(BnNHCHCHNHBoc)とリンカー導入後の洗浄濾液中のベンジル基に由来する吸光度(258nm)を比較することにより算出した(導入率:96%)。
【0052】
〔実施例2〕エンドトキシン吸着材の合成
使用した各種アミノ酸は、ペプチド研究所又は渡辺化学工業株式会社から購入した。1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)はペプチド研究所から、またN,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)は東京化成から購入した。ペプチド鎖の伸長反応は、標準的なFmocペプチド固相合成法に従って行った。ペプチド縮合にはHOBt/DIC法を用いた。すなわち、実施例1に記載の方法に従って得られた水不溶性担体(100mg,32.7μmol)に対して、20%トリフルオロ酢酸/ジクロロメタン溶液(2.0mL)を室温で1時間作用させることによってBoc基を脱保護した。反応溶液を濾過により除去した後、水不溶性担体をジクロロメタン(5分間×5回)、ジメチルホルムアミド(5分間×5回)を用いて洗浄した。次いで得られた水不溶性担体に対して、Fmon−Lys(Fmoc)−OH(58.0mg,98.2μmol)、HOBt(13.3mg,98.2μmol)、及びDIC(15.4μL,98.2mmol)のジメチルホルムアミド溶液(1.5mL)を作用させ、室温で5時間震盪した。反応溶液を濾過した後、ジメチルホルムアミドで(5分間×5回)洗浄した。同様の方法を用いてBoc基の脱保護とFmoc−保護アミノ酸の導入を順次繰り返すことにより、ペプチド鎖の伸長を行った。以上の方法により、表1に示すAA−AAのアミノ酸を導入し、ペプチド配列a〜lを有するエンドトキシン吸着材を得た。
【0053】
〔実施例3〕ヒト血漿及びヒト全血を用いたエンドトキシン吸着試験
1.エンドトキシン吸着材及び試験器具の前処理
実施例2で作製したエンドトキシン吸着材の中から、ペプチド配列a、c、e及びfを有するエンドトキシン吸着材を使用した。
上記エンドトキシン吸着材及び使用器具は、0.2mol/L NaOH(和光純薬株式会社)用いて16時間アルカリ液処理し、16時間後にパイロジエンフリー水(大塚製薬株式会社)で洗浄し、最終洗浄液が中性であることをpH試験紙(メルク社製)で確認したものを使用し、ガラス器具は乾熱滅菌(250℃、3時間)を行ったものを使用した。
【0054】
2.吸着試験
抗凝固剤としてヘパリン(三菱ウェルファーマ)を15IU/mL及び100IU/mLの濃度で添加し、健常人ボランティアより血液を得た。採血後の血液を3500rpmで15分間遠心分離し、得られた上清を血漿とした。血液(全血)及び血漿にLPS(Lipopolysaccharide;SIGMA L2630)を1μL/mL添加し、エンドトキシン添加サンプル液とした。
実施例2で合成したエンドトキシン吸着材1mLとエンドトキシン添加サンプル液12mLを三角フラスコに入れ、37℃温浴で30分間、振盪を加えて反応した。
対照として、実施例1で合成した水不溶性担体1mL(実施例2で合成したエンドトキシン吸着材1mL中に含まれる水不溶性担体の量に相当する)とエンドトキシン添加サンプル液12mLを三角フラスコに入れ、37℃温浴で30分間、振盪を加えて反応した。
【0055】
3.分析
反応後の溶液からエンドトキシン吸着材を除去し、分析サンプルとした。エンドトキシンの濃度を比濁時間分析法により測定し、反応前の濃度と反応後の濃度を求め、エンドトキシン吸着率(%)=(1−吸着反応後濃度/吸着反応前濃度)×100を算出して、エンドトキシン吸着能を評価した(表2中、「Et吸着率(%)」と表示した)。また、反応後の血液凝固物の有無(表2中、「凝固物の有無」と表示した)については、目視にて確認した。
【0056】
4.結果
結果を表2に示した。実施例3で用いられたエンドトキシン吸着材は、ヘパリン存在のヒト血漿及びヒト全血中においてもエンドトキシン吸着能があることが認められた。特に、ペプチド配列cを有するエンドトキシン吸着材においては、ヒト全血においても血液凝固物が認められず、かつ、良好なエンドトキシン吸着能があることが確認された。
【0057】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の水不溶性担体は、リガンドを簡便かつ効果的に固定化することができ、この水不溶性担体にエンドトキシンを吸着するリガンドを固定化したエンドトキシン吸着材は、血漿及び全血中よりエンドトキシンを効率よく吸着するので、体外循環吸着療法用の吸着材や治療器として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材に結合した下記式1で表されるリンカーと、を備える、水不溶性担体。
【化1】


[式1中、Bnはベンジル基、xは2〜6の数、Bは保護基又は水素原子を示す。*は基材と結合していることを示す。]
【請求項2】
前記基材が、ポリビニルアルコール樹脂である、請求項1に記載の水不溶性担体。
【請求項3】
基材と、該基材に結合した下記式2で表されるリンカーと、該リンカーに結合したエンドドキシン吸着リガンドLと、を備える、エンドトキシン吸着材。
【化2】


[式2中、Bnはベンジル基、xは2〜6の数を示す。*は基材と結合していること、**はLと結合していることを示す。]
【請求項4】
前記基材が、ポリビニルアルコール樹脂である、請求項3に記載のエンドトキシン吸着材。
【請求項5】
xが2である、請求項3又は4に記載のエンドトキシン吸着材。
【請求項6】
Lが下記式3で表される、請求項3〜5のいずれか一項に記載のエンドトキシン吸着材。
【化3】


[式3中、AA、AA、AA及びAAはそれぞれ独立にアミノ酸残基を示す。**はリンカーと結合していることを示す。]
【請求項7】
請求項1又は2に記載の水不溶性担体と、エンドドキシン吸着リガンドとを反応させて得られるエンドトキシン吸着材。
【請求項8】
xが2である、請求項7に記載のエンドトキシン吸着材。
【請求項9】
前記エンドドキシン吸着リガンドが、下記式4で表される、請求項7又は8に記載のエンドトキシン吸着材。
【化4】


[式4中、AA、AA、AA及びAAはそれぞれ独立にアミノ酸残基を示す。]

【図1】
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【公開番号】特開2012−143707(P2012−143707A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3976(P2011−3976)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】