説明

水中ケーブルの把持装置およびその把持方法

【課題】
水中ケーブルの敷設で、水中ケーブルが海底の岩に乗り上げたり、検査等で位置が所定の位置からずれた場合の水中ケーブルの位置の修正作業において、水中ケーブルの破損、変形等を防止することが可能な水中ケーブルの把持装置およびその把持方法を提供する。
【解決手段】
内部に鉄線を有する水中ケーブルを先端で把持する電磁石からなる把持具と、当該把持具を三次元方向に移動させるアーム部と、前記把持具の電磁石を制御する制御部とを有し、前記把持具の電磁石は、その両端面に位置し、水中ケーブルを吸着する吸着面を有し、当該吸着面には、電磁石の長手方向に沿って中央部が内部に湾曲した凹みを設け、水中ケーブルを把持する際にアーム部により電磁石の双方の吸着面が水中ケーブルの外皮に接触しないように、電磁石を接近させて位置決めを行い、電磁石を水中ケーブルに接近させた状態で、電磁石に通電して水中ケーブルを吸着し、保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中ケーブルの把持装置およびその把持方法に関し、特に、水中の水中ケーブルを損傷することなく安全に把持ことが可能な水中ケーブルの把持装置およびその把持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中ケーブルの敷設は、ケーブル敷設船によって行われる。水中ケーブルの敷設は、浅い海では、船舶の錨、漁具等からのケーブルのダメージを防止するために、海底を数メートル掘ってその中にケーブルを埋設する。一方、深海ではケーブル障害が少ないため海底に直接ケーブルを設置する。また、海底に岩などが散在して海底の地形が複雑である場合には、防護管を使用し、防護管に水中ケーブルを収納してケーブルを保護するようにして敷設する。
【0003】
特許文献1には、ケーブルの宙づりやキンクの発生を防止した水中ケーブル設備を建設するための水中ケーブルの敷設方法が開示されている。特許文献1の敷設方法は、水中ケーブル敷設作業を行う際にケーブルの歪みをケーブルの長手方向に対し測定できるケーブル歪み分布測定装置を使用して、海中及び海底におけるケーブルの歪み又は歪みから求められる張力を監視することにより、ケーブルの宙づりやキンクが発生しないようにケーブル敷設船の速度やケーブルの繰出し速度を制御するものである。
【0004】
特許文献2は、水中ケーブルが潮の流れや横波等により台船が船幅方向に揺動し易く、目標ケーブル敷設ラインからずれるおそれがあり、敷設精度が低いという問題を解決すべく、台船の適宜箇所に船体位置を安定化させるための推力を発生する複数のスラスタ(推力発生手段)を配設し、海底の目標ケーブル敷設ラインに対応した台船曳航ラインを海上に想定し、該想定された台船曳航ライン上に上記台船が位置するように上記スラスタの出力を制御するコントローラ(出力制御手段)を備えるようにしたものである。
【0005】
また、水中ケーブルを敷設後にケーブル障害が発生することがある。ケーブル障害の原因は、漁労によるもの、船舶の錨によるもの、海底地形に起因するもの等である。例えば、漁労においては、底引網漁業等での網がケーブルに引っ掛かることにより、海底からのケーブルの浮き、ケーブルの敷設位置のずれ等のケーブル障害が発生する。ケーブル障害の程度により、水中ケーブルを引き上げて修理を行なったり、水中ケーブルの敷設位置の修正等を行うようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−344624
【特許文献2】特開2006−54994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水中ケーブルの敷設で、水中ケーブルが海底の岩に乗り上げてしまったり、検査等で水中ケーブルの位置が所定の位置からずれてしまっている場合には、水中ケーブルの位置の修正作業が必要となる。水中ケーブルの位置の修正作業は、ROV(Remotely Operated Vehicle)等を使用して、ROVに備えられたアームを船上で操作して、ROVのカメラからの画像で確認しながらマニピュレータを操作し、ROVのアーム先端に水中ケーブルを把持して行う。しかしながら、マニピュレータによるROVのアームの正確な位置決め、アーム先端の適正な把持力の調整は、操作が難しく、細心の注意が必要となる。このため、ROVのマニピュレータの操作中にROVのアーム先端で水中ケーブルに傷を付けたり、ROVのアームの把持する力が強すぎて、水中ケーブルを変形させる等、水中ケーブルを破損させる恐れがある。特に、岩の上に位置する水中ケーブルや海底が岩盤である場合には、水中ケーブルのアームによる把持が困難であったりする。更に、作業中にROVのアームに水中ケーブルが引っかかって水中ケーブルがアームから外れなかったり、ROVのアーム先端で水中ケーブルを掴んだ状態で、ROVに不具合が発生して、水中ケーブルをアーム先端から離すことが不可能になったりする恐れがある。このため、確認のための作業時間が長くなり、作業効率も悪かったりする。また、水中ケーブルが通信用光ファイバーケーブルの場合には、ケーブルの補修に多くの時間と多大な費用を要するため、作業中のケーブルの破損、変形等を防止する必要がある。
【0008】
そこで、本発明は、岩等に乗り上げた水中ケーブルをROVのアーム先端で直接把持することなく、電磁石によって水中ケーブルを吸着し、把持するようにして、水中ケーブルの破損、変形等を防止することが可能な水中ケーブルの把持装置およびその把持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目標達成のため、本発明の水中ケーブルの把持装置は、水中ケーブルを把持する把持装置であって、内部に鉄線を有する水中ケーブルを先端で把持する電磁石からなる把持具と、当該把持具を三次元方向に移動させるアーム部と、前記把持具の電磁石を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の水中ケーブルの把持装置の前記把持具の電磁石は、その両端面に位置し、水中ケーブルを吸着する吸着面を有し、当該吸着面には、電磁石の長手方向に沿って中央部が内部に湾曲した凹みが設けられ、当該凹みは、略半円の形状を成していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の水中ケーブルの把持装置の前記把持具の電磁石は、水中ケーブルを吸着する前記吸着面の表面に緩衝材が取り付けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の水中ケーブルの把持装置の前記制御部は、把持具の電磁石における通電のON−OFFの制御及び電磁石に供給する電流の大きさを制御することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の水中ケーブルの把持装置の前記制御部は、更に、前記電磁石に高周波信号を供給する高周波発生回路を備え、前記電磁石のインダクタンス値を測定するインダクタンス測定回路を有していることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の水中ケーブルの把持装置は、水中ケーブルに接近した状態で電磁石に前記制御部の高周波発生回路から高周波信号を印加して、前記インダクタンス測定回路によって電磁石のインダクタンス値を測定し、測定したインダクタンス値が前もって規定した基準値以上のときに、前記電磁石に通電して、水中ケーブルを把持するようにしたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の水中ケーブルの把持装置のアーム部は、水中又は水底を移動可能な水中ロボットのアームに接続可能な接続部を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の水中ケーブルの把持装置における前記水中ケーブルは、通信用光ファイバーケーブル及び電力送電用ケーブル、又は通信用光ファイバーケーブル若しくは電力送電用ケーブルであり、ケーブル内に鉄線を配して成り、前記把持装置は、水中ケーブルに接近した状態で前記電磁石に通電して水中ケーブルを把持することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の水中ケーブルの把持方法は、ケーブル内に鉄線を配した水中ケーブルを把持する把持方法であって、先端に電磁石を有し、当該電磁石を三次元方向に移動させるアーム部を有する把持装置により、前記電磁石が水中ケーブルに接近した状態で、電磁石に通電して、前記水中ケーブルを電磁石で把持するようにしたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の水中ケーブルの把持方法は、水中ケーブルに接近した状態で電磁石に高周波信号を印加して、前記電磁石のインダクタンス値を測定し、測定したインダクタンス値が前もって規定した基準値以上のときに、電磁石に通電して、水中ケーブルを把持するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、把持装置の先端部分に電磁石を配したことにより、鉄線等を用いた水中ケーブルを把持する際に電磁石を水中ケーブルに接触させることなく、電磁石に通電することにより水中ケーブルを吸着して保持するようにしたことにより、水中ケーブルを把持するための挟む動作を行わないため水中ケーブルの破損、変形等を防止することができる。
【0020】
また、把持装置の先端部分の電磁石により電磁石を水中ケーブルに接触させることなく、電磁石に通電することにより水中ケーブルを吸着して保持するため、岩に乗り上げたり、岩盤の海底に位置する水中ケーブルを直上から把持することができる。このため、従来、ROVのアーム先端での把持が困難であった個所にも使用できる。
【0021】
また、把持装置の先端部分の電磁石により、電磁石の吸着面と水中ケーブルとの位置関係を電磁石のインダクタンスの変化により確認できるため、水中ケーブルを確実に把持することができる。
【0022】
また、把持装置は、ROV等の水中ロボットのアーム先端に取り付けるための接続部を有しているため、把持装置を水中ロボットに搭載して作業を行うことができる。
【0023】
また、従来は、ROVのアーム先端で水中ケーブルを掴んだ状態で、ROVに不具合が発生して、水中ケーブルをアーム先端から離すことが不可能になったりする恐れがあったが、本発明の把持装置は、電磁石の電源をOFFにすることにより、水中ケーブルを電磁石の吸着面から容易に離すことができるため、信頼性が求められる海底での作業に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】把持装置における把持部の構成を示す図であり、(a)は、把持部の正面図、(b)は、把持部の側面図であり、水中ケーブルを把持した状態を示す図である。
【図2】把持部の制御を行う制御回路のブロック図を示す図である。
【図3】光ファイバーケーブルの無外装水中ケーブルの構成を示す断面図である。
【図4】光ファイバーケーブルの外装水中ケーブルの構成を示す断面図であり、(a)は、一重外装水中ケーブルの構成を示す断面図、(b)は、二重外装水中ケーブルの構成を示す断面図である。
【図5】ROVのアーム先端に把持装置を接続した状態を示す斜視図である。
【図6】水中ケーブルを把持装置の電磁石で把持した状態での電磁石と水中ケーブルとの位置関係を示す図であり、(a)は、正面図、(b)は平面図である。
【図7】水中ケーブルを把持装置の電磁石で把持する直前の、電磁石の吸着面と水中ケーブルとの位置関係を示す図であり、(a)は、電磁石の吸着面と水中ケーブルとが上下方向に離れた状態を示す正面図、(b)は、電磁石の吸着面と水中ケーブルとが離れてほぼ平行に位置した状態を示す平面図、(c)は、電磁石の吸着面の一方のみが水中ケーブルの直上に位置した状態を示す平面図である。
【図8】把持部のアーム部にカメラ及び照明を搭載した把持装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明による水中ケーブルの把持装置およびその把持方法を実施するための形態について説明する。尚、本発明は、把持装置の先端部分に電磁石を配して、鉄線等を用いた水中ケーブルを把持する際に電磁石を水中ケーブルに接触させることなく、電磁石に通電することにより水中ケーブルを吸着し、保持するようにして、水中ケーブルの把持による破損、変形等を防止するようにしたものである。尚、本発明では、海、湖、川等で使用するケーブルを総称して水中ケーブルと記す。
【0026】
最初に、本発明による水中ケーブルの把持装置について図1及び図2を用いて説明する。図1は、水中ケーブルを把持する把持装置における把持部の構成を示す図であり、(a)は、把持部の正面図、(b)は、把持部の側面図であり、水中ケーブルを把持した状態を示す図である。図2は、把持部の制御を行う制御回路のブロック図を示す図である。水中ケーブルを把持する把持装置は、図1に示す先端に電磁石を有する把持部2と図2に示す把持部2の制御を行う制御回路12とを有している。
【0027】
[把持装置の把持部の構成]
図1(a)、(b)に示すように、把持部2は、内部に鉄線を有する水中ケーブルを先端で把持する把持具としての電磁石3と、電磁石3の回転、上下移動等を行うアーム部4とを有している。把持部2の電磁石3は、略半円形状を成し、内部に軟磁性材料からなる磁性体3a(図1(a)に点線で示す)を有し、磁性体3aの外周に沿ってコイル3b(図1(a)に1点鎖線で示す)を巻いた構成となっている。電磁石3は、全体を絶縁性の部材で覆われており、耐水性、耐圧性を有するようにしている。電磁石3の磁極となる両端面に位置し、水中ケーブルを吸着する吸着面3cは、水平面上で同一の高さとなるように設けられている。また、吸着面3cには、電磁石3の長手方向に沿って中央部が内部に湾曲した凹みが設けられており、凹みは、水中ケーブルの外周に接するように略半円の形状を成している。また、電磁石3の吸着面3cの表面には、緩衝材3dが取り付けられている。図1(b)に示すように、水中ケーブル23(図3及び図4に示す)は、電磁石3の先端部である凹みを有する吸着面3cに沿って把持される。
【0028】
電磁石3の回転、上下移動等を行うアーム部4は、電磁石3の頂点から垂直方向の上方に設けられている。アーム部4は、電磁石3を矢印で示すように上下に移動させる上下機構部6と、水平に設けられた軸を支点として回転して、電磁石3及び上下機構部6を振り子のように矢印で示すように回転変位させる回転変位機構部7と、電磁石3、上下機構部6及び回転変位機構部7を垂直軸方向に沿って矢印で示すように回転させる回転機構を有している。また、回転機構の上部には、ROV40(図5に示す)のマニピュレータの先端部がアーム部4を把持するための接続部5を有している。
【0029】
アーム部4の上下機構部6、回転変位機構部7及び回転機構部8は、内蔵したモータ等により駆動され、船上等から操作可能なように構成されている。尚、アーム部4の各機構部の構成及び駆動等は、公知のものであり、説明は省略する。
【0030】
[制御回路の構成]
次に、把持装置における把持部の制御を行う制御回路について図2を用いて説明する。図2は、把持部の制御を行う制御回路のブロック図を示す。図2に示すように、制御回路12は、外部に設けられた直流電源であるバッテリー20から把持部2の電磁石3への電源のON−OFFを行う電源スイッチ13と、バッテリー20から把持部2の電磁石3に流す電流の大きさを制御する電流制御回路14からなる。また、制御回路12には、把持部2の電磁石3のインダクタンスを測定するために電磁石3に高周波信号を印加する高周波発生回路15とインダクタンス値を測定するインダクタンス測定回路16とを有している。電磁石3への電源供給又は高周波信号の印加の切り換えは、切替回路17により行われる。電流制御回路14は、水中ケーブルの水中での重量等に応じて、電磁石3のコイル3bに流す電流値を調節するものである。尚、制御回路12のスイッチの切替、電流調整等は、船上等から操作可能なように構成されている。
【0031】
[光ファイバーケーブルの構成]
次に、把持装置によって把持する水中ケーブルとしての光ファイバーケーブルの構成について図3及び図4を用いて説明する。図3は、光ファイバーケーブルの無外装水中ケーブルの構成を示す断面図である。また、図4は、光ファイバーケーブルの外装水中ケーブルの構成を示す断面図であり、図4(a)は、一重外装水中ケーブルの構成を示す断面図、図4(b)は、二重外装水中ケーブルの構成を示す断面図である。
【0032】
光ファイバーケーブルは、敷設する海底までの水深によって、水深1,000m(メートル)未満までの浅瀬用に用いる外装水中ケーブルと、水深1,000m以上の深海用に用いる無外装水中ケーブルに分類される。尚、外装水中ケーブルは、一重外装水中ケーブルと二重外装水中ケーブルとがあり、水中ケーブルを敷設する水深により一重外装水中ケーブル又は二重外装水中ケーブルが用いられる。
【0033】
図3に、深海に敷設される無外装水中ケーブルの構成の一例を示す。図3に示すように、無外装水中ケーブル24は、中心に位置する鉄パイプ27の中空内に光ファイバー26を配している。鉄パイプ27の外周には、複数の鉄線28が配されており、鉄線28は銅チューブ29で被覆されている。更に、銅チューブ29は、低密度ポリエチレン等の絶縁体30で覆われており、絶縁体30は、高密度ポリエチレンから成る外皮31に覆われている。図3に示す無外装水中ケーブル24は、径が20.4mm、破断張力が、98KN(キロニュートン)以上のものである。
【0034】
図4(a)に、水深が1,000m以浅の海底に敷設される一重外装水中ケーブルの構成の一例を示す。図4(a)に示すように、一重外装水中ケーブル35は、図3に示す無外装水中ケーブル24に、更に、外装用の鉄線28を配した構成となっている。外装用の鉄線28は、径が3.2mmであり、無外装水中ケーブルの外皮の周囲に23本配されている。また、外装用の鉄線28は、ポリプロピレン繊維からなる外皮32で覆われている。尚、図4(a)に示す一重外装水中ケーブル35の外皮32は、ポリプロピレン繊維からなるものである。図4(a)に示す一重外装水中ケーブル35は、径が32mm、破断張力が、310KN以上のものである。
【0035】
図4(b)に、水深数10m以浅の浅瀬の海底に敷設される二重外装ケーブルの構成の一例を示す。図4(b)に示すように、二重外装水中ケーブル36は、図3に示す無外装水中ケーブル24に、外装用の鉄線28及びポリプロピレン繊維から成る外皮32を二重に施した構成となっている。尚、図4(b)に示す二重外装水中ケーブル36の外皮32は、ポリプロピレン繊維からなるものである。図4(b)に示す二重外装水中ケーブル36は、径が47mm、破断張力が、800KN以上のものである。
【0036】
光ファイバーケーブルは、障害の発生しやすい浅瀬用に、破断張力が大きい二重外装水中ケーブル36を敷設し、ケーブルを敷設する海底の水深が深くなるにつれて、一重外装水中ケーブル35、無外装水中ケーブル24の順に敷設するようにする。
【0037】
以上述べた図3、図4(a)及び図4(b)に示す光ファイバーケーブルには、補強用の鉄線28が外装用として使用されている。また、電力用の水中ケーブルにおいても、ケーブル芯の導体を防護する外装用に鉄線が用いられている。このような鉄線28が用いられた水中ケーブル23の外皮に電磁石3を接近させると、電磁石3に反応して、水中ケーブル23が電磁石3に吸引され、電磁石3を上下、左右に移動すると、水中ケーブル23は電磁石3に吸引保持されて、同時に移動する。
【0038】
本発明は、ケーブル内に防護外装用に鉄線が用いられている水中ケーブルとしての通信用光ファイバーケーブル及び電力送電用ケーブルの構成に着目して成されたものであり、本発明の把持装置は、鉄線が用いられている水中ケーブルに対して適用するものである。
【0039】
[水中ケーブルの把持]
次に、把持装置による水中ケーブルの把持について図5及び図6を用いて説明する。図5は、ROVのアーム先端に把持装置を接続した状態を示す斜視図であり、図6は、水中ケーブルを把持装置の電磁石で把持した状態での電磁石と水中ケーブルとの位置関係を示す図であり、(a)は、正面図、(b)は平面図である。
【0040】
図5に示すように、把持装置1の把持部2は、アーム部4の接続部5を介して水中ロボットであるROV40のアーム41の先端に把持されている。最初に、図5に示すROVのアームを操作して、把持しようとする水中ケーブル23に対して、ROV40に搭載されたカメラ(図示せず)の画像で確認しながらマニュピュレータで把持装置1を水中ケーブル23の直上に位置するようにする。その後、把持装置1のアーム部4を操作して、把持装置1の電磁石3の双方の吸着面3cが水中ケーブル23の外皮31に接触しないように、電磁石3を接近させて位置決めを行う。電磁石3を水中ケーブル23に接近させた状態で、電磁石3に制御回路12の電源スイッチ13をONして直流電圧を印加する。また、水中ケーブルの水中での重量によって、制御回路12(図2に示す)の電流制御回路14により電磁石3のコイル3bに流す電流を調節する。例えば、図4(b)に示す二重外装水中ケーブルの水中での重量は、1km(キロメートル)当たり約5,000kg(キログラム)であり、1mでは5kgである。電磁石は、水中ケーブルの長さ10mに相当する50kgを持ち上げる能力を有するようにする。
【0041】
電磁石3に直流電圧を印加することにより、電磁石3の双方の吸着面3cにそれぞれN極、S極の磁極が発生して、水中ケーブル23内部の鉄線28を吸引する力が作用して、水中ケーブル23が電磁石3の吸着面3c側に移動して、図6(a)及び図6(b)に示すように、水中ケーブル23が電磁石3の双方の吸着面3cに吸着される。水中ケーブル23は、吸着面3cの略半円形状を有する凹みに固定させる。
【0042】
図5に示すように、水中ケーブル23が海底の障害物45である岩に乗り上げている場合には、水中ケーブル23が電磁石3の吸着面3cに把持されていることを確認後、アーム部4によって電磁石3を上方に移動させて、水中ケーブル23を引き上げるようにする。その後、ROV40のアーム41により電磁石3を水平に移動させて、移設場所まで移動し、電磁石3を下降させて、水中ケーブル23が海底に接触する手前で電磁石3の下降を停止し、制御回路12の電源スイッチ13をOFFにして電磁石3の直流電圧の供給を遮断して、水中ケーブル23を海底に敷設するようにする。
【0043】
また、ROV40に搭載されたカメラの画像により水中ケーブル23の把持状態を確認し、把持が不完全のときには、制御回路12の電源スイッチ13をOFFにして電磁石3の直流電圧の供給を遮断して、把持装置1のアーム部4を操作して再度位置決めを行うようにする。
【0044】
このように、電磁石3を用いることにより、従来のように、水中ケーブルをアーム先端で挟んで把持することがないため、水中ケーブルを破損する恐れが軽減される。
【0045】
また、従来は、ROVのアームに水中ケーブルが引っ掛かってアームから水中ケーブルが外れなかったり、ROVのアーム先端で水中ケーブルを掴んだ状態で、ROVに不具合が発生して、水中ケーブルをアーム先端から離すことが不可能になったりする恐れがある。本発明の把持装置は、ROVに不具合が発生しても電磁石の電源をOFFにすることにより、水中ケーブルを把持部の吸着面から容易に離すことができる。
【0046】
[水中ケーブルの位置の確認]
以上説明した水中ケーブルの把持は、ROVに搭載されたカメラの画像で確認しながら行うものであるが、本発明の把持装置は、電磁石の双方の吸着面と水中ケーブルとの位置関係を電気的な特性を利用して確認することが可能となっている。
【0047】
図1に示すように、把持部2の電磁石3は、略半円形状を成し、内部に軟磁性材料からなる磁性体3aを有し、磁性体3aの外周にコイル3bを巻いた構成となっており、電磁石3に直流電源を供給することにより、鉄等を磁力で吸引する電磁石3として機能するが、電磁石3に高周波信号を印加することにより、インダクターとしても機能する。水中ケーブル23が電磁石3の吸着面3cから離れている場合には、電磁石3は、固有のインダクタンス値を有している。水中ケーブル23が電磁石3の両方の吸着面3cに接近するにつれて、水中ケーブル23の鉄線28と電磁石3の両方の吸着面3cとのキャップが減少して、水中ケーブル23の鉄線28と電磁石3の磁性体3aとで磁気回路が形成されて、電磁石3のインダクタンス値が増加する。この特性を利用して、電磁石3の双方の吸着面3cと水中ケーブル23との位置関係を電気的な特性を利用して確認するものである。
【0048】
以下に、電磁石のインダクタンス値の変化を利用した、電磁石の双方の吸着面と水中ケーブルとの位置関係の確認動作について図7を用いて説明する。図7は、水中ケーブルを把持装置の電磁石で把持する直前の、電磁石の吸着面と水中ケーブルとの位置関係を示す図であり、図7(a)は、電磁石の吸着面と水中ケーブルとが上下方向に離れた状態を示す正面図、図7(b)は、電磁石の吸着面と水中ケーブルとが離れてほぼ平行に位置した状態を示す平面図、図7(c)は、電磁石の吸着面の一方のみが水中ケーブルの直上に位置した状態を示す平面図である。
【0049】
最初に、図5に示すROV40に搭載されたカメラの画像を確認しながらマニュピュレータを操作して把持装置1を水中ケーブル23の直上に位置するようにする。その後、把持装置1のアーム部4を操作して、把持装置1の電磁石3の双方の吸着面3cが水中ケーブル23の外皮31に接触しないように、電磁石3を接近させて位置決めを行う。この状態で、図2に示す制御回路12の切替回路17をインダクタンス測定回路16側に切り換えて、電磁石3に高周波信号を印加する。このとき、インダクタンス測定回路16によって電磁石3のインダクタンスを測定して、測定した電磁石3のインダクタンスの値が前もって規定した基準値以上のときに、水中ケーブル23が電磁石3の吸着面3cに把持できる位置にあると判断する。尚、インダクタンスの基準値とは、電磁石3が水中ケーブル23に接近した状態で、電磁石3に直流電源を供給したときに、電磁石3が水中ケーブル23を吸着することが可能であるときの、電磁石3が水中ケーブル23に接近した状態での最小のインダクタンス値をいう。
【0050】
しかしながら、図7(a)に示すように、電磁石3の吸着面3cが水中ケーブル23の直上に位置しているが、電磁石3の吸着面3cと水中ケーブル23とが上下方向に離れている場合、また、図7(b)に示すように、水中ケーブル23が電磁石3の吸着面3cに位置しないで、電磁石3と離れてほぼ平行に位置している場合には、電磁石3の双方の吸着面3cと水中ケーブル23とに間隙が生じているため、インダクタンスの値は、前もって規定した基準値未満となる。更に、図7(c)に示すように、電磁石3の一方の吸着面3cが水中ケーブル23の直上で接近して位置し、電磁石3の他方の吸着面3cが水中ケーブル23の直上に位置していない場合には、電磁石3の他方の吸着面3cと水中ケーブル23とに間隙が生じているため、インダクタンスの値は、前もって規定した基準値未満となる。
【0051】
このように、電磁石3に通電して水中ケーブル23を把持する前に、電磁石の吸着面と水中ケーブルとの位置関係が適切であるかを確認するために、電磁石3のコイル3bに高周波信号を印加して電磁石3のインダクタンスを測定して、電磁石3による把持が可能かを判断するようにする。尚、電磁石3のインダクタンスが前もって規定した基準値未満のときには、把持装置1のアーム部4を操作して、把持装置1の電磁石3の双方の吸着面3cが水中ケーブル23に接近させて位置決めを行う。このときに、電磁石3のインダクタンスの変化を確認しながら、把持装置1のアーム部4を操作することにより、電磁石3の吸着面を水中ケーブル上に的確に位置決めすることができる。
【0052】
これにより、電磁石の先端部分の吸着面と水中ケーブルとの位置関係を電磁石のインダクタンス値により確認できるため、図7(a)、図7(b)及び図7(c)に示すような電磁石の吸着面と水中ケーブルとの位置関係であっても、水中ケーブルを確実に把持することができる。
【0053】
尚、電磁石の双方の吸着面と水中ケーブルとの位置関係を電磁石のインダクタンス値によって確認する実施の形態を示したが、インダクタンス値に代えて、インピーダンス値の変化を検知するようにしてもよい。
【0054】
また、本発明の把持装置は、電磁石のコイルに高周波信号を印加して、電磁石をインダクターとして使用しているが、電磁石の磁性体の外周に電磁石用のコイルとインダクター用のコイルを個別に設ける形態であってもよい。
【実施例】
【0055】
以上説明した把持装置は、ROVに搭載されているカメラ及び照明灯を用いて、ROVのカメラの画像で確認しながらマニュピュレータで把持装置を把持する水中ケーブルの直上に位置するようにしていたが、図8に示すように、把持部2にカメラ9及び照明灯10を搭載することも可能である。カメラ9及び照明灯10は、アーム部4の回転機構部8の上部に取付金具11を介して取り付けるようにする。これにより、ROV40のカメラのみでは、把持装置のROV40と反対側の場所の画像が得られないことがあるが、把持装置1にカメラ9及び照明灯10を搭載することにより、把持装置1のほぼ全周の画像が得られるため、水中ケーブル23の把持作業を正確に行うことができる。尚、把持装置1のカメラ9及び照明灯10の搭載する位置は、図8に示すアーム部4の回転機構部8に限らず他の位置であってもよい。
【0056】
以上述べたように、本発明によれば、把持装置の先端部分に電磁石を配したことにより、鉄線等を用いた水中ケーブルを把持する際に電磁石を水中ケーブルに接触させることなく、電磁石に通電することにより水中ケーブルを吸着して保持するようにしたことにより、水中ケーブルを挟む動作を行わないため水中ケーブルの破損、変形等を防止することができる。
【0057】
また、把持装置の先端部分の電磁石により 電磁石を水中ケーブルに接触させることなく、電磁石に通電することにより水中ケーブルを吸着して保持できるため、岩に乗り上げたり、岩盤の海底に位置する水中ケーブルを直上から把持することができるため、従来、
ROVのアーム先端での把持が困難であった個所にも使用できる。
【0058】
また、把持装置の先端部分の電磁石により、電磁石の吸着面と水中ケーブルとの位置関係を電磁石のインダクタンスの変化により確認できるため、水中ケーブルを確実に把持することができる。
【0059】
また、把持装置は、ROV等の水中ロボットのアーム先端に取り付けるための接続部を有しているため、把持装置を水中ロボットに搭載して作業を行うことができる。
【0060】
また、従来は、ROVのアーム先端で水中ケーブルを掴んだ状態で、ROVに不具合が発生して、水中ケーブルをアーム先端から離すことが不可能になったりする恐れがあったが、本発明の把持装置は、電磁石の電源をOFFにすることにより、水中ケーブルを電磁石の吸着面から容易に離すことができるため、信頼性が求められる海底での作業に好適である。
【0061】
この発明は、その本質的構成から逸脱することなく多くの形式のものとして具体化することができる。よって、上述した実施形態は専ら説明上のものであり、本発明を制限するものではない。
【符号の説明】
【0062】
1 把持装置
2 把持部
3 電磁石
3a 磁性体
3b コイル
3c 吸着面
3d 緩衝材
4 アーム部
5 接続部
6 上下機構部(伸縮機構部)
7 回転変位機構部
8 回転機構部
9 カメラ
10 照明灯
11 取付金具
12 制御回路
13 電源スイッチ
14 電流制御回路
15 高周波発生回路
16 インダクタンス測定回路
17 切替回路
20 バッテリー
23 水中ケーブル
24 無外装水中ケーブル
26 光ファイバー
27 鉄パイプ
28 鉄線
29 銅チューブ
30 絶縁体(低密度ポリエチレン)
31 外皮(高密度ポリエチレン)
32 外皮(ポリプロピレン繊維)
35 一重外装水中ケーブル
36 二重外装水中ケーブル
40 水中ロボット(ROV)
41 アーム
45 障害物(岩)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中ケーブルを把持する把持装置であって、内部に鉄線を有する水中ケーブルを先端で把持する電磁石からなる把持具と、
当該把持具を三次元方向に移動させるアーム部と、
前記把持具の電磁石を制御する制御部と、
を有することを特徴とする水中ケーブルの把持装置。
【請求項2】
前記把持具の電磁石は、その両端面に位置し、水中ケーブルを吸着する吸着面を有し、当該吸着面には、電磁石の長手方向に沿って中央部が内部に湾曲した凹みが設けられ、当該凹みは、略半円の形状を成していることを特徴とする請求項1に記載の水中ケーブルの把持装置。
【請求項3】
前記把持具の電磁石は、水中ケーブルを吸着する前記吸着面の表面に緩衝材が取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の水中ケーブルの把持装置。
【請求項4】
前記制御部は、把持具の電磁石における通電のON−OFFの制御及び電磁石に供給する電流の大きさを制御することを特徴とする請求項1に記載の水中ケーブルの把持装置。
【請求項5】
前記制御部は、更に、前記電磁石に高周波信号を供給する高周波発生回路を備え、前記電磁石のインダクタンス値を測定するインダクタンス測定回路を有していることを特徴とする請求項4に記載の水中ケーブルの把持装置。
【請求項6】
前記把持装置は、水中ケーブルに接近した状態で電磁石に前記制御部の高周波発生回路から高周波信号を印加して、前記インダクタンス測定回路によって電磁石のインダクタンス値を測定し、測定したインダクタンス値が前もって規定した基準値以上のときに、前記電磁石に通電して、水中ケーブルを把持するようにしたことを特徴とする請求項5に記載の水中ケーブルの把持装置。
【請求項7】
前記把持装置のアーム部は、水中又は水底を移動可能な水中ロボットのアームに接続可能な接続部を有することを特徴とする請求項1に記載の水中ケーブルの把持装置。
【請求項8】
前記水中ケーブルは、通信用光ファイバーケーブル及び電力送電用ケーブル、又は通信用光ファイバーケーブル若しくは電力送電用ケーブルであり、ケーブル内に鉄線を配して成り、前記把持装置は、水中ケーブルに接近した状態で前記電磁石に通電して水中ケーブルを把持することを特徴とする請求項1に記載の水中ケーブルの把持装置。
【請求項9】
ケーブル内に鉄線を配した水中ケーブルを把持する把持方法であって、先端に電磁石を有し、当該電磁石を三次元方向に移動させるアーム部を有する把持装置により、前記電磁石が水中ケーブルに接近した状態で、電磁石に通電して、前記水中ケーブルを電磁石で把持するようにしたことを特徴とする水中ケーブルの把持方法。
【請求項10】
水中ケーブルに接近した状態で電磁石に高周波信号を印加して、前記電磁石のインダクタンス値を測定し、測定したインダクタンス値が前もって規定した基準値以上のときに、電磁石に通電して、水中ケーブルを把持するようにしたことを特徴とする請求項9に記載の水中ケーブルの把持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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