説明

水中仮締切り設備の水密金物

【課題】戸当りの位置調整ボルトの締付け固定に悪影響を与えないようにする。
【解決手段】ダム堰体1の貯水池側コンクリート面1aに作業空間を確保する水中仮締切り設備2の、前記コンクリート面1aと相対して設置され、支承面が水中仮締切り設備2からの水圧荷重を受けて前記コンクリート面1aに伝達される荷重伝達用モルタル7の注入用空間4aを水密する金物4である。内部両側に、前記コンクリート面側から、水膨潤ゴム6b、非膨潤ゴム6aを順に設け、この非膨潤ゴム6aの水膨潤ゴム6bと反対の側に、伸縮可能なチューブ9を配置する。チューブ9に圧力水を注入する圧力水の注入装置10を設ける。
【効果】圧力水の注入により膨張するチューブの圧力が非膨潤ゴムを介して水膨潤ゴムに均等に作用し、水膨潤ゴムの反発力の増大及びばらつきを防止できて、水膨潤ゴムの反発力を均等に位置調整ボルトに伝達できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばダム施設の改良工事を行う際に、ダム堰体と貯水池を分離すべく、ダム堰体の貯水池側に取付ける水中仮締切り設備におけるケーソン脚部の戸当りに設ける水密金物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ダム施設の改良工事を行う場合、工事に先立ち、図4に示すように、ダム堰体1の貯水池側コンクリート面1aに、水中仮締切り設備2を一時的に取付け、ダム堰体1における工事部分と貯水池3を分離している(例えば特許文献1の段落0002〜0006及び図7〜図10)。
【0003】
この水中仮締切り設備2は、箱型の構造物であるケーソン2aの脚部に設置された戸当り2bに水密金物4を設けた構成である。この水密金物4は、ダム堰体1の前記コンクリート面1aと相対配置され、その支承面が水中仮締切り設備2からの水圧荷重を受け、荷重伝達用モルタルを介して前記コンクリート面1aに伝達される(特許文献1の段落0008)。
【0004】
その際、水密金物4の内部両側に出代調整用枕5を介して非膨潤ゴム6a・水膨潤ゴム6bを前記コンクリート面1aに向けて配置し、水密金物4の両側をコンクリート面1aに追従させて注入用空間4aを水密し(図5参照)、注入用空間4aに荷重伝達用モルタル7を注入した時の流出を防止している(特許文献1の段落0008)。
【0005】
しかしながら、前記の水密金物では、水膨潤ゴムが想定外に膨張して水膨潤ゴムの反発力が増大した場合、水密金物の外側に取付けた固定部材(図5中の11)を介して戸当りの位置を調整する位置調整ボルト(図5中の8)の負担荷重が増大する。
【0006】
この増大により、実際の負担荷重が想定した負担荷重を超えると、想定した負担荷重に基づいて材質、強度を選定して決定された位置調整ボルトの締付け固定に悪い影響を与えるおそれがある。
【0007】
なお、位置調整用ボルトの負担荷重とは、(水膨潤ゴムの反発力+コンクリート面に作用する水密モルタルの荷重)/ボルト本数で求めた値をいう。このうち、水膨潤ゴムの反発力は、水膨潤ゴムの接触圧に水膨潤ゴム全てがコンクリート面に接触する面積を乗じて求めた値、コンクリート面に作用する水密モルタルの荷重は、水密モルタルの打設圧力に水密モルタル全てがコンクリート面に接触する面積を乗じて求めた値である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3455081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、水中仮締切り設備の戸当りに設けられた従来の水密金物は、水膨潤ゴムとコンクリート面の距離が想定より小さくて反発力が増大した場合、戸当りの位置調整ボルトの負担荷重が増大して締付け固定に悪い影響を与えるおそれがあるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水中仮締切り設備の水密金物は、
戸当りの位置調整ボルトの締付け固定に悪影響を与えないようにするために、
ダム堰体の貯水池側コンクリート面に作業空間を確保する水中仮締切り設備の、前記コンクリート面と相対して設置され、支承面が水中仮締切り設備からの水圧荷重を受けて前記コンクリート面に伝達される荷重伝達用モルタルの注入用空間を水密する金物であって、
内部両側に、前記コンクリート面側から、水膨潤ゴム、非膨潤ゴムの順に設け、この非膨潤ゴムの水膨潤ゴムと反対の側に、伸縮可能なチューブを配置すると共に、このチューブに圧力水を注入する圧力水の注入装置を設けたことを最も主要な特徴としている。
【0011】
本発明は、水密金物の内部両側に配置した非膨潤ゴムのコンクリート面と反対の側にチューブを配置するので、圧力水の注入により膨張するチューブの圧力が非膨潤ゴムを介して水膨潤ゴムに均等に作用し、その反発力が位置調整ボルトに均等に伝達される。
【0012】
上記本発明の水中仮締切り設備の水密金物において、圧力水の注入装置を構成する給水ポンプからチューブに圧力水を供給する配管の途中にアキュムレータを設置した場合は、温度が変化してもチューブ内の水圧をほぼ一定に保持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、水密金物の内部両側に配置した非膨潤ゴムのコンクリート面と反対の側にチューブを配置するので、圧力水の注入により膨張するチューブの圧力が非膨潤ゴムを介して水膨潤ゴムに均等に作用する。
【0014】
従って、水膨潤ゴムの反発力の増大及びばらつきを防止することができて、水膨潤ゴムの反発力を位置調整ボルトに均等に伝達でき、位置調整ボルトに作用する荷重を容易に均等化することができる。
【0015】
また、チューブ内の水圧の制御により、水膨潤ゴムとダム堰体の貯水池側コンクリート面との接触面圧を容易に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は水中仮締切り設備の戸当りに設置した本発明の水密金物の概略説明図、(b)は(a)図のA−A部の拡大図、(c)は水密金物の拡大図である。
【図2】水膨潤ゴムの膨潤前における本発明の水密金物を示した図である。
【図3】本発明の一例を示したもので、水密金物と注入装置を拡大して示した図である。
【図4】ダム堰体の貯水池側コンクリート面に一時的に取付ける水中仮締切り設備の概略説明図である。
【図5】戸当りに設置する従来の水密金物を説明する図で、(a)は水膨潤ゴムの膨潤前、(b)は水膨潤ゴムの膨潤後に荷重伝達用モルタルを注入した状態を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、戸当りの位置を調整する位置調整ボルトの締付け固定に悪い影響を与えないようにするという目的を、水密金物の内部両側に配置した非膨潤ゴムのコンクリート面と反対の側に伸縮可能なチューブを配置することで実現した。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図1〜図3を用いて詳細に説明する。
図1(a)は水中仮締切り設備の戸当りに設置した本発明の水密金物の概略説明図、(b)は(a)図のA−A部の拡大図、(c)は水密金物の拡大図、図2及び図3は戸当りに設置された本発明の水密金物を説明する図である。
【0019】
ダム施設の改良工事を行う場合、工事に先立ち、ダム堰体1の貯水池側のコンクリート面1aに作業空間を確保すべく、一時的に取付ける水中仮締切り設備2の戸当り2bには、図1に示すように、水密金物4が設置されている。
【0020】
この水密金物4は、図1(b)に示すように、戸当り2bの、前記コンクリート面1aと相対する側を水平部材2baで区画して構成したもので、本発明では、以下のような構造を採用している。
【0021】
2bbは戸当り2bの両側の側壁であり、前記水平部材2baで区画された空間の、両側壁2bbの内側に、前記コンクリート面1aに向かって側壁2bbと平行に補助壁面4bを設けている。
【0022】
そして、各側壁2bbと水平部材2baと前記補助壁面4bで囲われた空間に、コンクリート面1a側から水膨潤ゴム6b、非膨潤ゴム6a、チューブ9を順に配置し、このうちのチューブ9に、注入装置10から圧力水を注入できるようにしている。
【0023】
この圧力水の注入装置10は、例えば図1(a)、図3に示すように、給水ポンプ10aから配管10b、ホース10cを介してそれぞれの水密金物4に圧力水を注入するもので、配管10bには圧力計10dを設けて、チューブ9の内圧を計測できるようにしている。また、本実施例では、配管10bにアキュムレータ10eを設けている。
【0024】
ところで、本発明の水密金物4では、水膨潤ゴム6bを両側から挟む側壁2bbと補助壁面4bの水膨潤ゴム6bを保持する長さLは、短くとも10mm以上となるように、水膨潤ゴム6bの高さ及び水膨潤ゴム6bの膨潤代を予め選定しておく。
【0025】
水膨潤ゴム6bを両側から挟む側壁2bbと補助壁面4bの、水膨潤ゴム6bを保持する長さLが10mm以下であると、チューブ9の圧力により水膨潤ゴム6bが水密金物4から外れてしまうおそれがあるからである。
【0026】
従って、側壁2bb及び補助壁面4bのコンクリート面1aと相対する端面とコンクリート面1aとが接触しない程度の小さな距離C1、C2となるように、側壁2bb及び補助壁面4bの長さを決定しても良い。
【0027】
上記構成の本発明では、水密金物4の内部両側に配置した非膨潤ゴム6aのコンクリート面1aと反対の側にチューブ9を配置するので、圧力水の注入により膨張するチューブ9の圧力が非膨潤ゴム6aを介して水膨潤ゴム6bに均等に作用する。
【0028】
従って、水膨潤ゴム6bの反発力の増大やばらつきを防止することができて、水膨潤ゴム6bの反発力を均等に位置調整ボルト8に伝達し、位置調整ボルト8に作用する荷重を容易に均等化することができる。
【0029】
また、チューブ9内の水圧を制御することにより、水膨潤ゴム6bとダム堰体1の貯水池側コンクリート面1aとの接触面圧を容易に制御することができるようになる。
【0030】
さらに、配管10bの途中にアキュムレータ10eを設置した上記発明例では、温度が変化した場合も、温度変化に起因するチューブ9の内圧変化をアキュムレータ10eで吸収することができるので、チューブ9の内圧をほぼ一定に保持することができる。
【0031】
上記構成の本発明の水密金物4を備えた水中仮締切り設備2は、以下の施工順序で設置する。
【0032】
(1)先ず、作業空間を確保すべきダム堰体1の貯水池側のコンクリート1a面を計測する。計測結果に基づき、水中仮締切り設備2における戸当り2bの、コンクリート面1aと相対する側壁2bb及び補助壁面4bの端面を、コンクリート面1aと側壁2bb及び補助壁面4bの端面の距離C1、C2が所定の範囲(例えば20mm程度)となるように切断する。
【0033】
(2)水密金物4の両側にチューブ9、非膨潤ゴム6a、水膨潤ゴム6bを順に設置する。
【0034】
(3)位置調整ボルト8による戸当り2bの設置位置調整時に、固定部材11がコンクリート面1aと干渉しないよう、固定部材11のコンクリート面側の面とコンクリート面1aの間の距離C3が10mm以上となるよう、水密金物4の外側に固定部材11を設置する。
【0035】
(4)上記の施工により出来上がった水密金物4を、ダム堰体1の貯水池側に沈設する。
(5)固定部材11とコンクリート面1aの距離C3を、位置調整ボルト8で調整した後、この間にライナー12を介設する(図2)。
【0036】
(6)チューブ9に設けた開口部と配管10bの端部に設けたバルブ10fをホース10cで繋いだ後、配管10bの途中に設けたバルブ10gを開いて給水ポンプ10aを起動して、チューブ9の内圧が所定の水圧になるまで、圧力水をチューブ9に注入する。
【0037】
ここで、チューブ9の内圧は、最大水深部の水圧の1.5倍程度とするのが望ましい。最大水深をBmとすると、チューブ9の内圧は、B×0.01×1.5=0.015B(MPa)となる。例えば最大水深が50mの場合、水圧は0.5MPaであるため、必要接触圧力は0.75MPaで、チューブ9の内圧は0.75MPaとなる。
【0038】
なお、最大水深から水面に行くにつれて水圧は小さくなるが、本発明では、水膨潤ゴム6bの膨張による反発力の増大をチューブ9が吸収するので、位置調整ボルト8の締付け固定に悪い影響を与えることはない。
【0039】
(7)膨張した水膨潤ゴム6bがコンクリート面1aに当たるまで、圧力水を注入してチューブ9を膨張させる。
【0040】
(8)水膨潤ゴム6bのコンクリート面1aへの当たり具合を目視確認した後、圧力計10dにより、チューブ9の内圧が所定の水圧(荷重伝達用モルタル7を注入した時の漏れ出し防止に必要な接触圧)となるまで圧力水を供給する。この間、アキュムレータ10eに繋げるバルブ10hは開いており、チューブ9内の圧力を開放するためのバルブ10iは閉じている。そして、圧力水の供給が完了した後は、バルブ10gを閉じる。
【0041】
(9)水密金物4の注入用空間4aに荷重伝達用モルタル7を注入する。荷重伝達用モルタル7の打設完了後は、バルブ10iを開けてチューブ9内の圧力を開放してもよい。
【0042】
(10)水密金物4の取付けが終了すると、ケーソン2a等を取付けて、水中仮締切り設備2が完成する。
【0043】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0044】
例えば、上記の例では、配管10bの途中にアキュムレータ10eを設置しているが、アキュムレータ10eを設置しなくても良い。また、圧力水の供給は戸当り2b毎に別のホース10cで行っているが、全ての戸当りに同じホースで圧力水を供給しても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 ダム堰体
1a コンクリート面
2 水中仮締切り設備
4 水密金物
4a 注入用空間
6a 非膨潤ゴム
6b 水膨潤ゴム
7 荷重伝達用モルタル
9 チューブ
10 注入装置
10a 給水ポンプ
10b 配管
10c ホース
10e アキュムレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダム堰体の貯水池側コンクリート面に作業空間を確保する水中仮締切り設備の、前記コンクリート面と相対して設置され、支承面が水中仮締切り設備からの水圧荷重を受けて前記コンクリート面に伝達される荷重伝達用モルタルの注入用空間を水密する金物であって、
内部両側に、前記コンクリート面側から、水膨潤ゴム、非膨潤ゴムの順に設け、この非膨潤ゴムの水膨潤ゴムと反対の側に、伸縮可能なチューブを配置すると共に、このチューブに圧力水を注入する圧力水の注入装置を設けたことを特徴とする水中仮締切り設備の水密金物。
【請求項2】
前記圧力水の注入装置を構成する給水ポンプから前記チューブに圧力水を供給する配管の途中にアキュムレータを設置したことを特徴とする請求項1に記載の水中仮締切り設備の水密金物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−1927(P2012−1927A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136169(P2010−136169)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)