説明

水中吊下げ構造、その構造を備えた船舶および水中吊下げ方法

【課題】 所定の水深に精度良く水中音波センサ等の物体を沈めることができ、しかも、その物体の水深および姿勢を安定的に維持できる水中吊下げ構造を提供する。
【解決手段】 水中吊下げ構造1は、綱状部材2と吊下げ長さ調整部3とアーム4とアーム状態維持部11を備える。綱状部材2は、所定の吊下げ基部5から吊下げ対象物体6を吊下げる。吊下げ長さ調整部3は、綱状部材2の吊下げ基部5からの吊下げ長さLを調整する。アーム4は、吊下げ対象物体6に接続する接続部9と、所定の支持部8に固定される固定部7とを含む。アーム4は、吊下げ長さ調整部3による綱状部材2の吊下げ長さLに応じて接続部7が固定部9に対して進退方向に変位する機能を備えている。アーム状態維持部11は、接続部9と固定部7との間隔が、吊下げ長さ調整部3による綱状部材2の吊下げ長さLに応じた長さである状態を維持し、かつ、アーム4の不要な揺れを抑制する機能を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水中音波センサ等の物体を例えば船舶の底部から水中に吊下げるための構造、その構造を備えた船舶および水中吊下げ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海洋に潜水している潜水艦等の存在を検知するために、水中音波センサ(音響探知機(いわゆるソナー)が利用される場合がある。その水中音波センサは、例えば特許文献1に示されるように、船舶の後方にケーブルで繋がれ当該船舶に曳航されて使用される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−84786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、上記のように、ケーブルで水中音波センサを曳航するので、ケーブルの撓みや揺れ等に起因して、水中音波センサの姿勢が安定しないという問題や、船舶と水中音波センサとの間の距離が正確に把握できないという問題がある。また、上記ケーブルが船舶のスクリューに絡まってしまうという事故が発生する虞がある。
【0005】
ところで、海洋は、温度特性に基づいて、海面側から深くなる順に、混合層、水温躍層、深海等温層に分けることができる。混合層(海面から水深約200mまでの領域)では、風力や太陽熱等による対流によって海水が混ざり合わされるので、水温はほぼ一定である。水温躍層(水深約200mから水深1000mまでの領域)では、水深に比例して水温が下がる。深海等温層(水深1000mよりも深い領域)では、水温はほぼ一定である。このような温度特性の差異に起因して、例えば、海面の温度が上昇すると混合層の温度が上昇して、混合層と水温躍層に大きな温度差が生じることがある。このような場合に、上記温度差のために混合層と水温躍層との境界部分(温度境界層)で音波の反射が起こる。このような音波の反射に起因して、海面に近い部分から水中音波センサで海中の潜水艦等の存在を検知しようとした場合に、上記温度境界層よりも深い部分に、シャドーゾーンと呼ばれる水中音波センサの死角が発生してしまう。このことを考慮すると、水中音波センサで、水温躍層以下の水深における潜水艦等の存在を検知する場合には、水中音波センサを水温躍層まで沈めなければならない。しかしながら、前記のような水中音波センサをケーブルで曳航する手法で、水中音波センサを水温躍層まで沈めようとすると、上記ケーブルが長くなる。このために、ケーブルの撓みや揺れの悪影響が大きくなって船舶と水中音波センサとの間の距離(つまり、水中音波センサの水深)が把握しにくいという問題や、水中音波センサの姿勢が不安定になるという問題がより大きくなる。また、ケーブルがスクリューに絡まる事故が発生し易くなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、所定の水深に精度良く水中音波センサ等の物体を沈めることができ、しかも、その物体の水深および姿勢を安定的に維持できる水中吊下げ構造等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水中吊下げ構造は、
所定の吊下げ基部から吊下げ対象物体を吊下げる綱状部材と、
前記綱状部材の前記吊下げ基部からの吊下げ長さを調整する吊下げ長さ調整部と、
前記吊下げ対象物体に接続する接続部が、所定の支持部に固定される固定部に対して進退方向に変位する機能を備えたアームと、
前記接続部と前記固定部との間隔が、前記吊下げ長さ調整部による前記綱状部材の吊下げ長さに応じた長さである状態を維持し、かつ、前記アームの不要な揺れを抑制するためのアーム状態維持部と、
を備えている。
【0008】
本発明の船舶は、上記した水中吊下げ構造を備えている。
【0009】
本発明の水中吊下げ方法は、
所定の吊下げ基部から綱状部材で吊下げ対象物体を吊下げると共に、所定の支持部に固定されているアームで前記吊下げ対象物体を支持し、
前記綱状部材の前記吊下げ基部からの吊下げ長さを調整すると共に、その長さに応じて、前記アームにおける前記支持部に固定される固定部と、前記アームにおける前記吊下げ対象物体に接続する接続部との間の間隔を可変し、この前記固定部と前記接続部との間隔が維持されている前記アームで前記吊下げ対象物体を支持しながら当該吊下げ対象物体を吊下げる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所定の水深に精度良く水中音波センサ等の物体を沈めることができ、しかも、その物体の水深および姿勢を安定的に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態を説明するための図である。
【図2】第2実施形態を説明するための図である。
【図3】第3実施形態を説明するための図である。
【図4】その他の実施形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1(a)に示されるように、第1実施形態の水中吊下げ構造1は、綱状部材2と、吊下げ長さ調整部3と、アーム4と、アーム状態維持部11とを備えている。綱状部材2は、所定の吊下げ基部5から吊下げ対象物体6を吊下げるものである。吊下げ長さ調整部3は、綱状部材2の吊下げ基部5からの吊下げ長さLを調整する機能を備えている。アーム4は、吊下げ対象物体6に接続する接続部7と、所定の支持部8に固定される固定部9とを含んでいる。当該アーム4は、吊下げ長さ調整部3による綱状部材2の吊下げ長さLに応じて接続部7が固定部9に対して進退方向に変位する機能を備えている。アーム状態維持部11は、アーム4の接続部7と固定部9との間隔が、吊下げ長さ調整部3による綱状部材2の吊下げ長さLに応じた長さである状態を維持し、かつ、アーム4の不要な揺れを抑制する機能を備える。
【0014】
この水中吊下げ構造1は、図1(b)に示されるように、船舶10に備えられ、当該船舶10を構成することができる。
【0015】
この第1実施形態では、次のように吊下げ対象物体6を水中に吊り下げることができる。例えば、吊下げ基部5から綱状部材2で吊下げ対象物体6を吊下げると共に、吊下げ対象物体6をアーム4で支持する(図1(c)のステップS1参照)。
【0016】
そして、綱状部材2の吊下げ基部5からの吊下げ長さLを調整し、その長さに応じて、アーム4の固定部9と接続部7との間の間隔を可変する(ステップS2)。この固定部9と接続部7との間隔が維持されているアーム4で吊下げ対象物体6を支持しながら当該吊下げ対象物体6を吊下げる。
【0017】
この第1実施形態によれば、吊下げ対象物体6を綱状部材2で吊下げると共に、その吊下げ対象物体6をアーム4で支持する。このアーム4は、アーム状態維持手段11により接続部7と固定部9との間隔が、吊下げ長さ調整部3による綱状部材2の吊下げ長さLに応じた長さである状態が維持され、かつ、不要な揺れが抑制される。このため、綱状部材2を撓みや揺れなく真っ直ぐな状態に張らせることができる。これにより、綱状部材2の吊下げ長さLが、吊下げ対象物体6の水深に精度良く対応することとなるから、綱状部材2の吊下げ長さLを調整することにより、吊下げ対象物体6の水深を精度良く制御することができる。かつ、吊下げ対象物体6の姿勢を安定化させることができる。また、上記のように、綱状部材2は撓みや揺れが抑えられて垂下できるので、この第1実施形態の水中吊下げ構造1が船舶の底部に設けられる場合に、綱状部材2が船舶のスクリューに絡む事故を防止できる。
【0018】
(第2実施形態)
以下に、第2実施形態を説明する。
【0019】
図2には、第2実施形態の水中吊下げ構造20が船舶21に設けられた状態で示されている。この第2実施形態の水中吊下げ構造20は、船舶21の船首側に配設されている。当該水中吊下げ構造20は、吊下げ対象物体である水中音波センサ(いわゆるソナー)18を海洋等の水中に吊下げるためのものである。水中音波センサ18は、音波を利用して水中の潜水艦等の存在を検知するための機能を備えている。当該水中音波センサ18は、実際に音波の出力や受信を行うセンサ部(図示せず)や、船舶21等との無線通信のための無線通信部(図示せず)等が耐水圧構造のドーム内に収納された形態を備えている。なお、そのような水中音波センサ18には様々な構成があり、ここでは、何れの構成を採用してもよいことから、水中音波センサ18の詳細な説明は省略する。
【0020】
この第2実施形態の水中吊下げ構造20は、綱状部材であるケーブル22と、吊下げ長さ調整部である巻き上げ機23と、アーム24と、アーム状態維持部29とを備えている。ケーブル22は、水中音波センサ18に接続され当該水中音波センサ18を海洋中に吊下げるためのものである。当該ケーブル22は、水中音波センサ18を海洋中に安定的に吊下げることができるように、水中音波センサ18の重量等を考慮した例えばシミュレーション等に基づいた耐久性を持つ。この第2実施形態では、ケーブル22に添わせて、あるいは、ケーブル22内に、水中音波センサ18に電力を供給するための電源ケーブル(図示せず)が配置されている。
【0021】
巻き上げ機23は、例えばボビン状の芯材にケーブル22を自動巻回可能な構成を備えている。この第2実施形態では、さらに、巻き上げ機23は、吊下げ基部としての機能を備えている。当該巻き上げ機23によるケーブル22の巻き上げ量を調整することによって、ケーブル22の水中音波センサ18の吊下げ長さLを調整することができる。なお、その吊下げ長さLは、この第2実施形態では、吊下げ基部(巻き上げ機23)と水中音波センサ18との間のケーブル長である。
【0022】
アーム24は、水中音波センサ18に接続される接続部25と、支持部である船舶底部に固定される固定部26とを含み、ケーブル22で吊下げられている水中音波センサ18を支持する機能を備えている。この第2実施形態では、アーム24は、2つのアーム部材27A,27Bを備えている。それらアーム部材27A,27Bは例えばアルミニウム合金(比重3)等の軽金属により構成されている。当該アーム部材27A,27Bの一端部同士は、回転可能な状態で連結されている。アーム部材27A,27Bを回転可能な状態で連結する構成には様々な構成があり、適宜な構成を採用してよいが、その一例として、例えば、蝶番タイプの連結部材を利用してアーム部材27A,27Bを連結する。アーム部材27Aの他端部には、アーム24の前述した固定部26が形成されている。この固定部26は船舶底部に、例えば蝶番により接続固定されている。アーム部材27Bの他端部には、アーム24の前述した接続部25が形成されている。この第2実施形態では、ケーブル22による水中音波センサ18の吊下げ方向Aと、アーム24の固定部26から接続部25に向かう方向Bとがほぼ平行となるように、アーム24の固定部26および接続部25の配置位置が設定されている。
【0023】
上記のように、アーム部材27A,27Bは回転可能な状態で連結されている。このため、アーム24は、そのアーム部材27A,27Bの連結部28の回転動作によって、固定部26に対して接続部25が進退する方向に変位可能となっている。つまり、アーム24は、連結部28を屈伸部として屈伸することが可能となっている。
【0024】
アーム状態維持部29は、アーム24の接続部25と固定部26との間隔が所望の間隔となっている状態を維持し、かつ、アーム24の不要な揺れを抑制する機能を備えている。この第2実施形態では、アーム状態維持部29は、油圧ジャッキ(支持手段)32を含むものである。この油圧ジャッキ32は、固定部26を含むアーム部材27Aを、船舶21の底部(支持固定部)に支持固定させる。当該油圧ジャッキ32のジャッキ長さは、例えば制御部30の制御動作に基づいた油圧駆動によって可変することができる。この第2実施形態では、油圧ジャッキ32の長さを可変することによってアーム部材27Aが固定部26を中心にして回転変位して、船舶21の底部とアーム部材27Aとの成す角度が可変する。また、そのようなアーム部材27Aの変位に伴ってアーム部材27Bが自重により屈伸部28を中心にして回転変位する。つまり、巻き上げ機23によるケーブル22の長さLに応じて油圧ジャッキ32の長さを制御することにより、屈伸部28の角度が制御され、これにより、接続部25と固定部26との間隔を制御できる。また、油圧ジャッキ32はその長さを所望の長さで固定することができるので、船舶21に対するアーム部材27Aの位置を固定できる。さらに、アーム部材27Bは、その比重が3程度のものであり、海洋中における不要な揺れの抑制が可能な比重を持っているものである。これらのことから、この第2実施形態では、油圧ジャッキ32を含むアーム状態維持部29は、アーム24の接続部25と固定部26との間隔が、巻き上げ機23によるケーブル22の吊下げ長さLに応じた長さである状態を維持し、かつ、不要な揺れを抑制できる構成となっている。
【0025】
この第2実施形態では、アーム部材27Bから重量(比重)に基づいた下向きの力が水中音波センサ18に作用する。このため、ケーブル22には、水中音波センサ18による下向きの力だけでなく、そのアーム部材27Bに関連した下向きの力も作用する。つまり、アーム部材27Bによってケーブル22の引っ張り力が大きくなる。このことも、ケーブル22の撓みや揺れを抑制できる要素となる。しかし、アーム部材27Bの比重が重すぎると(例えば鉄(比重7)でアーム部材27Bを構成すると)、ケーブル22に作用する引っ張り力が大きくなってケーブル22に要求される耐久性が大きくなる。このため、ケーブル22をより耐久性の高いものにしなければならず、巻き上げたときのケーブル22の嵩が大きくなってしまうという問題等が発生してしまう。このようなことも考慮して、アーム部材27A,27Bを構成することが好ましい。
【0026】
なお、水中音波センサ18を例えば水深200m付近の水温躍層に沈めたいというように、水中音波センサ18に対して要求される潜水水深が予め想定される。このことから、その想定される潜水水深限界に基づいて、アーム24の全長が設定される。なお、上記のように水中音波センサ18を水深約200m付近まで潜水させることを想定し、かつ、この第2実施形態の水中吊下げ構造20を採用する場合には、アーム24の大きさを考慮して、例えば、船舶21の全長は150m以上であることが好ましい。
【0027】
次に、水中吊下げ構造20を利用した水中音波センサ18の吊下げ動作例を説明する。例えば、水中音波センサ18がケーブル22およびアーム24の接続部25に接続されている状態で、巻き上げ機23の運転によりケーブル22の巻きを解いていき、水中音波センサ18を船舶21の底部から海洋中に離す。これにより、水中音波センサ18はケーブル22で吊下げられた状態で自重により下降していく。このとき、巻き上げ機23の運転動作に連動させて油圧ジャッキ32も油圧駆動させてアーム部材27Aを変位させる。このようなケーブル22(水中音波センサ18)およびアーム部材27Aの動きに伴って、アーム部材27Bは自重により変位する。この第2実施形態では、ケーブル22が撓みや揺れなく真っ直ぐに張った状態で船舶21の真下方向に下降できるように予め与えられた制御データに基づいて油圧ジャッキ32の油圧駆動が制御される。そして、ケーブル22の吊下げ長さLが、所望の水深(例えば、水深200m)に対応する長さに達したときに、巻き上げ機23および油圧ジャッキ32を停止させる。これにより、水中音波センサ18を所望の水深に配置(固定)できる。
【0028】
また、例えば、その後、水中音波センサ18を所定の水深分ΔDだけ上昇させたい場合(例えば混合層まで上昇させたい場合)には、巻き上げ機23の運転によりケーブル22を巻き上げる。またそれと共に、油圧ジャッキ32を油圧駆動させる。そして、ケーブル22の吊下げ長さLが、上記上昇水深ΔD分、短くなったときに、巻き上げ機23および油圧ジャッキ32を停止させる。上記のような水中音波センサ18の上昇中にも、アーム24およびアーム状態維持部29によって、水中音波センサ18は、ケーブル22が真っ直ぐに張った状態で、船舶21に向かって真上に上昇変位できる。このため、ケーブル22の吊下げ長さLによって、精度良く水中音波センサ18の水深を制御(調整)することができる。
【0029】
なお、上記のような巻き上げ機23の運転は、例えば予め与えられたケーブル長さ制御用データに基づいた制御部30の制御動作によって自動化されていてもよいし、手動により運転のオン・オフを行ってもよい。
【0030】
この第2実施形態では、水中音波センサ18をケーブル22で吊下げると共に、アーム状態維持手段29により状態が維持されるアーム24で水中音波センサ18を支持する。このため、第1実施形態と同様に、水中音波センサ18の姿勢を安定化させることができる。また、水中音波センサ18の水深を精度良く制御することができる。さらに、船舶21のスクリュー31にケーブル22が絡むという事故を防止することができる。特に、この第2実施形態では、吊下げ基部(巻き上げ機23)が船首側に設けられているので、船尾側のスクリュー31にケーブル22が絡む事故をほぼ確実に回避できる。さらに、水中音波センサ18を船首側に配置することによって、船尾側のスクリュー31から発生する雑音の水中音波センサ18への悪影響を小さく抑えることができる。
【0031】
さらに、この第2実施形態では、ケーブル22による水中音波センサ18の吊下げ方向Aと、アーム24の固定部26から接続部25に向かう方向Bとがほぼ平行である。このため、アーム24の全長を、想定される水中音波センサ18の最深値程度に抑えることができる。
【0032】
さらに、この第2実施形態では、アーム24および油圧ジャッキ32は、簡単な構造であり、複雑な機構部を持たない。このため、アーム24や油圧ジャッキ32の不具合発生の問題を抑制することができる。
【0033】
さらにまた、この第2実施形態では、船舶21が水深の浅い海域を航行する場合には、水中音波センサ18を船舶21の底部に例えば密着あるいは収納するまで巻き上げ、また、アーム24を折り畳むことができる。このため、水中音波センサ18やアーム24が海底に接触する事故を防止できる。
【0034】
(第3実施形態)
以下に、第3実施形態を説明する。
【0035】
この第3実施形態では、図3に示されるように、水中吊下げ構造35は、第2実施形態の水中吊り上げ構造20に加えて、アーム吊下げ部材であるケーブル36と、アーム支持長さ調整部である巻き上げ機37とをさらに備えている。なお、図3では、第2実施形態で述べた油圧ジャッキ32の図示が省略されている。
【0036】
巻き上げ機37は、ケーブル36を巻回することが可能な構成を備えている。ケーブル36は、アーム24の屈伸部28又はその近傍に接続され、屈伸部28を巻き上げ機37から吊下げて屈伸部28を支持する機能を備えている。
【0037】
ところで、ケーブル22の吊下げ長さが可変すると(水中音波センサ18が変位すると)、屈伸部28の位置が変位する。このような場合に、ケーブル36でアーム24の屈伸部28を支持するためにケーブル36が張っている状態を維持するためには、屈伸部28の変位に応じて巻き上げ機37によるケーブル36の巻き上げ状態を調整する必要がある。このため、例えば、ケーブル22の吊下げ長さと、屈伸部28の位置との関係に基づいて作成した制御データを利用して、制御部30が巻き上げ機37を自動運転する。これにより、ケーブル36の撓みを防止することができ、ケーブル36の張り状態を良好な状態に維持する。
【0038】
この第3実施形態では、アーム24の中で最も不安定になりやすい屈伸部28をケーブル36で支持している。このため、アーム24の安定性を高めることができる。
【0039】
また、この第3実施形態では、第2実施形態と同様の構成を備えているので、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0040】
(その他の実施形態)
なお、この発明は第1〜第3の各実施形態に限定されるものではなく、様々な実施の形態を採り得る。例えば、第1〜第3の各実施形態では、綱状部材2、ケーブル22は、吊下げ対象物体6、水中音波センサ18を直接的に吊下げていた。これに対し、図4(a)に示されるように、綱状部材2(ケーブル22)をアーム4(24)の接続部7(25)あるいはその近傍に接続させ、綱状部材2(ケーブル22)は、吊下げ対象物体6(水中音波センサ18)を間接的に吊下げてもよい。この場合には、アーム4(24)の接続部7(25)に、吊下げ対象物体6(水中音波センサ18)を取り付けるだけでよい。このため、綱状部材2(ケーブル22)と吊下げ対象物体6(水中音波センサ18)の接続作業を省略できる分、水中音波センサ18の取り付ける作業の軽減を図ることができる。
【0041】
また、第2と第3の各実施形態では、アーム24は、1つの屈伸部28を備えている構成であった。これに代えて、図4(b)に示されるように、アーム24は、2つ以上の屈伸部28を備える構成であってもよい。さらに、アーム24は、図4(c)に示されるような構成を備えていてもよい。このように、アーム24の態様は、第2や第3の実施形態に示した態様に限定されない。なお、アーム状態維持手段29は、アーム24の態様に応じた適宜な構成を持つものである。
【0042】
さらにまた、アーム24は、屈伸部28が、図4(d)に示されるように、パワーショベルのアームの屈伸部のように油圧駆動する機構部40を備えていてもよい。この場合には、その油圧駆動機構部40の動きを制御するための駆動制御部41が設けられる。その駆動制御部41は、例えば、巻き上げ機23の運転に連動させて油圧駆動機構部40の動きを制御するための制御データを持ち、当該制御データに基づいた制御動作を行う。
【0043】
さらに、第2や第3の各実施形態では、吊下げ対象物体として水中音波センサ18を例示したが、吊下げ対象物体は水中音波センサ18に限定されるものではなく、例えば水中カメラ等の他の物体でもよい。さらにまた、第2や第3の各実施形態では、吊下げ対象物体を海洋に潜水させる場合を説明したが、もちろん、淡水に吊下げ対象物体を潜水させてもよいものである。
(付記1)
所定の吊下げ基部から吊下げ対象物体を吊下げる綱状部材と、
前記綱状部材の前記吊下げ基部からの吊下げ長さを調整する吊下げ長さ調整部と、
前記吊下げ対象物体に接続する接続部が、所定の支持部に固定される固定部に対して進退方向に変位する機能を備えたアームと、
前記接続部と前記固定部との間隔が、前記吊下げ長さ調整部による前記綱状部材の吊下げ長さに応じた長さである状態を維持し、かつ、前記アームの不要な揺れを抑制するためのアーム状態維持部と、
を備えている水中吊下げ構造。
(付記2)
前記アームは、前記固定部と前記接続部との間に少なくとも1つの屈伸部をさらに備え、当該屈伸部の屈伸によって前記固定部に対する前記接続部が進退方向に変位する付記1記載の水中吊下げ構造。
(付記3)
前記屈伸部を吊下げるアーム吊下げ部材と、
前記屈伸部の吊下げ長さを調整する屈伸部吊下げ長さ調整部とを、さらに、備えている付記2記載の水中吊下げ構造。
(付記4)
前記アームは、少なくとも2つのアーム部材を含み、
前記屈伸部は、2つの前記アーム部材が回転可能に連結されている連結部である付記2又は付記3記載の水中吊下げ構造。
(付記5)
前記綱状部材は、前記アームの前記接続部又はその近傍に接続され、前記アームを介して前記吊下げ対象物体を間接的に吊下げている付記1乃至付記4の何れか一つに記載の水中吊下げ構造。
(付記6)
前記屈伸部は、油圧駆動により屈伸する付記2乃至付記5の何れか一つに記載の水中吊下げ構造。
(付記7)
前記アーム状態維持部は、前記固定部を含む前記アーム部材を、所定の支持固定部に支持固定させると共に、前記屈伸部の2つの前記アーム部材の成す角度を油圧駆動により調整する機能を備えた支持手段を備えている付記4又は付記5又は付記6記載の水中吊下げ構造。
(付記8)
前記綱状部材による前記吊下げ対象物体の吊下げ方向と、前記アームの前記固定部から前記接続部に向かう方向とがほぼ平行である付記1乃至付記7の何れか一つに記載の水中吊下げ構造。
(付記9)
前記吊下げ対象物体である水中音波センサを吊下げるための付記1乃至付記8の何れか一つに記載の水中吊下げ構造。
(付記10)
付記1乃至付記9の何れか一つに記載の水中吊下げ構造を備えている船舶。
(付記11)
前記水中吊下げ構造における所定の吊下げ基部が、船底部の船首側に設けられている付記10記載の船舶。
(付記12)
所定の吊下げ基部から綱状部材で吊下げ対象物体を吊下げると共に、所定の支持部に固定されているアームで前記吊下げ対象物体を支持し、
前記綱状部材の前記吊下げ基部からの吊下げ長さを調整すると共に、その長さに応じて、前記アームにおける前記支持部に固定される固定部と、前記アームにおける前記吊下げ対象物体に接続する接続部との間の間隔を可変し、この前記固定部と前記接続部との間隔が維持されている前記アームで前記吊下げ対象物体を支持しながら当該吊下げ対象物体を吊下げる水中吊下げ方法。
【符号の説明】
【0044】
1,20,35 水中吊下げ構造
2 綱状部材
4,24 アーム
6 吊下げ対象物体
10,21 船舶
18 水中音波センサ
22,36 ケーブル
23,37 巻き上げ機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の吊下げ基部から吊下げ対象物体を吊下げる綱状部材と、
前記綱状部材の前記吊下げ基部からの吊下げ長さを調整する吊下げ長さ調整部と、
前記吊下げ対象物体に接続する接続部が、所定の支持部に固定される固定部に対して進退方向に変位する機能を備えたアームと、
前記接続部と前記固定部との間隔が、前記吊下げ長さ調整部による前記綱状部材の吊下げ長さに応じた長さである状態を維持し、かつ、前記アームの不要な揺れを抑制するためのアーム状態維持部と、
を備えている水中吊下げ構造。
【請求項2】
前記アームは、前記固定部と前記接続部との間に少なくとも1つの屈伸部をさらに備え、当該屈伸部の屈伸によって前記固定部に対する前記接続部が進退方向に変位する請求項1記載の水中吊下げ構造。
【請求項3】
前記屈伸部を吊下げるアーム吊下げ部材と、
前記屈伸部の吊下げ長さを調整する屈伸部吊下げ長さ調整部とを、さらに、備えている請求項2記載の水中吊下げ構造。
【請求項4】
前記アームは、少なくとも2つのアーム部材を含み、
前記屈伸部は、2つの前記アーム部材が回転可能に連結されている連結部である請求項2又は請求項3記載の水中吊下げ構造。
【請求項5】
前記アーム状態維持部は、前記固定部を含む前記アーム部材を、所定の支持固定部に支持固定させると共に、前記屈伸部の2つの前記アーム部材の成す角度を油圧駆動により調整する機能を備えた支持手段を備えている請求項4記載の水中吊下げ構造。
【請求項6】
前記綱状部材による前記吊下げ対象物体の吊下げ方向と、前記アームの前記固定部から前記接続部に向かう方向とがほぼ平行である請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の水中吊下げ構造。
【請求項7】
前記吊下げ対象物体である水中音波センサを吊下げるための請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の水中吊下げ構造。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか一つに記載の水中吊下げ構造を備えている船舶。
【請求項9】
前記水中吊下げ構造における所定の吊下げ基部が、船底部の船首側に設けられている請求項8記載の船舶。
【請求項10】
所定の吊下げ基部から綱状部材で吊下げ対象物体を吊下げると共に、所定の支持部に固定されているアームで前記吊下げ対象物体を支持し、
前記綱状部材の前記吊下げ基部からの吊下げ長さを調整すると共に、その長さに応じて、前記アームにおける前記支持部に固定される固定部と、前記アームにおける前記吊下げ対象物体に接続する接続部との間の間隔を可変し、この前記固定部と前記接続部との間隔が維持されている前記アームで前記吊下げ対象物体を支持しながら当該吊下げ対象物体を吊下げる水中吊下げ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−168125(P2011−168125A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32388(P2010−32388)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(599161890)NECネットワーク・センサ株式会社 (71)