説明

水中油型乳化食品

【課題】 水中油型乳化食品にヒアルロン酸又はその塩を配合すると、経時的に離水する場合があり、当該離水現象を防止したヒアルロン酸又はその塩を配合した水中油型乳化食品を提供する。
【解決手段】 ヒアルロン酸又はその塩を配合しており、製品のブリックス(Brix)が30%以下である水中油型乳化食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸又はその塩を配合した水中油型乳化食品に関する。詳しくは、水中油型乳化食品にヒアルロン酸又はその塩を配合すると、経時的に離水する場合があり、本発明は、当該離水現象を防止したヒアルロン酸又はその塩を配合した水中油型乳化食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康を気になる方々が増加し、機能性成分を添加した様々な健康訴求型の食品が販売されるようになった。このような状況下、本出願人は、皮膚(特に真皮)の弾力性や柔軟性を担う化粧料原料としてしばしば使用されているヒアルロン酸又はその塩に着目し、これを経口摂取するならば、優れた肌改善効果が得られることを見出し、既に、特開2002−356432号公報(特許文献1)として出願した。
【0003】
そこで、本発明者は、上記ヒアルロン酸又はその塩の乳化ドレッシング等の乳化食品への応用を試みるべく乳化ドレッシングにヒアルロン酸又はその塩を配合した同食品を試作した。しかしながら、ヒアルロン酸又はその塩を配合すると、経時的に離水するという問題を生じた。
【0004】
【特許文献1】特開2002−356432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、水中油型乳化食品にヒアルロン酸又はその塩を配合すると、経時的に離水する場合があり、当該離水現象を防止したヒアルロン酸又はその塩を配合した水中油型乳化食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成すべく配合原料に関し鋭意研究を重ねた結果、水中油型乳化食品において、製品のブリックス(Brix)を30%以下にするならば、意外にもヒアルロン酸又はその塩に由来する離水現象を防止することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)ヒアルロン酸又はその塩を配合しており、製品のブリックス(Brix)が30%以下である水中油型乳化食品、
(2)ヒアルロン酸又はその塩の配合量が全体に対し0.02%以上である(1)の水中油型乳化食品、
(3)ヒアルロン酸又はその塩の平均分子量が5万以上である(1)又は(2)記載の水中油型乳化食品、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水中油型乳化食品にヒアルロン酸又はその塩を配合したとしても、経時的な離水現象を防止できることから、外観に優れ商品価値を損なわないヒアルロン酸又はその塩を配合した水中油型乳化食品を提供できる。更に、高濃度のヒアルロン酸又はその塩を配合しても経時的な離水現象を防止することができることから、ヒアルロン酸又はその塩の生理機能例えば、肌改善効果等に優れた乳化食品の提供を可能とならしめる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、ブリックス(Brix)に係る「%」を除き、「%」は「質量%」を意味する。
【0010】
本発明において水中油型乳化食品とは、食用油脂が油滴として水相中に略均一に分散し水中油型に乳化された食品である。このような水中油型乳化食品としては、代表的には、例えば、マヨネーズ、乳化ドレッシング等の酸性水中油型乳化調味料等が挙げられる。
【0011】
本発明は、上記水中油型乳化食品において、ヒアルロン酸又はその塩を配合しており、製品のブリックス(Brix)が30%以下であることを特徴とする。ここでヒアルロン酸とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンの2糖を反復構成単位とする多糖類であり、ヒアルロン酸の塩としては例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム等が挙げられる。
【0012】
ヒアルロン酸又はその塩は一般的に、鶏冠、臍の緒、眼球、皮膚、軟骨等の生物組織、あるいはストレプトコッカス属の微生物等のヒアルロン酸生産微生物を培養して得られる培養液等を原料として、これらの原料から抽出、さらに精製することで得られもので、本発明で使用するヒアルロン酸又はその塩としては、当該粗抽出物あるいは精製物の何れを用いてもよいが、精製物、具体的には、ヒアルロン酸又はその塩の純度が90%以上のものが好ましく、95%以上のものがより好ましい。前記純度のヒアルロン酸又はその塩を使用することにより、水中油型乳化食品の一原料として用いた場合でも保存中に着色や異臭が発生し難いので、好ましい本発明の水中油型乳化食品が得られ易い。
【0013】
水中油型乳化食品は、ヒアルロン酸又はその塩を配合した場合、当該平均分子量が高いほど、具体的には、平均分子量5万以上、さらには10万以上となるほど、また、当該配合量が多いほど、具体的には、0.02%以上、さらには0.1%以上となるほど、離水現象が発現し易い。しかしながら、本発明によれば、上記平均分子量あるいは配合量であっても、ブリックス(Brix)を30%以下にすることにより、好適に離水現象を防止できる。前記ヒアルロン酸又はその塩の配合量は、水中油型乳化食品のサラダ1回分の使用量と想定される25gに対し、0.02%以上配合品は5mg以上、0.1%以上配合品は25mg以上に相当する。これらのヒアルロン酸又はその塩の量は、例えば、特開2002−356432号公報(特許文献1)で開示の肌改善効果が期待される一日の摂取量とほぼ同等である。よって、ヒアルロン酸又はその塩を前記配合量配合した本発明の水中油型乳化食品は、肌改善効果等の生理機能が期待される。
【0014】
なお、上記純度は乾物換算で100%よりヒアルロン酸又はその塩以外の蛋白分解物、脂肪分(粗脂肪)、コンドロイチン硫酸等の不純物を除いた値として定義される。具体的に鶏冠を原料とする精製ヒアルロン酸又はその塩の純度は、以下式(1)で求めることができる。
【0015】
[数1]
ヒアルロン酸又はその塩の純度(%)=100−蛋白分解物(%)−粗脂肪(%)−コンドロイチン硫酸(%) (1)
【0016】
式(1)中、蛋白分解物(%)はLowry法により求めた値であり、粗脂肪(%)は新・食品分析法(光琳(株)発行)「第1章一般成分および関連成分、1−4脂質、1−4−2エーテル抽出法」により求めた値である。
【0017】
また、コンドロイチン硫酸(%)は、以下に説明する方法により得られた値である。まず、ヒアルロン酸又はその塩を乾燥し、その50mgを精密に量り、精製水を加えて溶かし、正確に100mLとして試験溶液とし、その試験溶液4mLを試験管にとり、0.5mol/L濃度の硫酸1mLを加えて混和し、水浴中で10分間加熱し、その後冷却して得られた溶液に0.04mol/L濃度の臭化セチルトリメチルアンモニウムを0.2mL加えて混和し、室温で1時間放置し、層長10mm、波長660nmにおける吸光度を測定する。
【0018】
次に、得られた吸光度データをコンドロイチン硫酸の検量線に適用してヒアルロン酸又はその塩中のコンドロイチン硫酸量(%)を求める。ここで、その検量線は、クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩(SG(Special Grade)、生化学工業(株)製)を乾燥(減圧、五酸化リン、60℃、5時間)させたものを精密に量り、精製水を加えて溶かし、1mL中に10μg、20μg、30μg、40μgのコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含む溶液をそれぞれ調製し、それぞれの溶液4mLについて、0.5mol/L濃度の硫酸1mlを加えて混和後、0.04mol/L濃度の臭化セチルトリメチルアンモニウムを0.2mL加えて混和し、室温で1時間放置後、同様に吸光度を測定し、その吸光度を縦軸に、対応するコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩溶液(μg/mL)を横軸にプロットすることによって作成したものである。
【0019】
また、本発明で使用するヒアルロン酸又はその塩の平均分子量は、当該粗抽出物の場合は、常法である例えば、エタノール濃度約80〜95容量%の含水エタノールで洗浄等を施して純度が98%以上となるように精製したヒアルロン酸又はその塩で、また純度98%以上のものはそのまま用いて下記の方法で求めた値として定義される。
【0020】
すなわち、平均分子量が100万程度の場合には約0.05g、50万〜70万程度の場合には約0.1g、20万程度の場合には約0.5g、5万〜10万程度の場合には約1gの精製ヒアルロン酸又はその塩を精密に量り、0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液に溶かし、正確に100mLとした溶液及びこの溶液8mL、12mL並びに16mLを正確に量り、それぞれに0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液を加えて正確に20mLとした溶液を試料溶液とする。この試料溶液及び0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液につき、日本薬局方(第十四改正)一般試験法の粘度測定法(第1法 毛細管粘度測定法)により30.0±0.1℃で比粘度を測定し(式(2))、各濃度における還元粘度を算出する(式(3))。還元粘度を縦軸に、本品の換算した乾燥物に対する濃度(g/100mL)を横軸にとってグラフを描き、各点を結ぶ直線と縦軸との交点から極限粘度を求める。ここで求められた極限粘度をLaurentの式(式(4))に代入し、平均分子量を算出する。
【0021】
[数2]
比粘度={(試料溶液の所要流下秒数)/(0.2mol/L塩化ナトリウム溶液の所要流下秒数)}−1 (2)
【0022】
[数3]
還元粘度=比粘度/(本品の換算した乾燥物に対する濃度(g/100mL)) (3)
【0023】
[数4]
極限粘度=3.6×10−40.78 (4)
M:平均分子量
【0024】
また、本発明で用いるブリックス(Brix)とは、20℃における屈折率を測定し、純蔗糖溶液(サッカロース)の質量/質量パーセントに換算(ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表を使用)した値をいう。ブリックス(Brix)の測定は、一般に市販されている糖度計を用いて行えばよい。
【0025】
本発明の水中油型乳化食品において、ヒアルロン酸又はその塩を配合することにより経時的に発現する離水現象を防止するため、本発明は、上記ブリックス(Brix)の値が30%以下、好ましくは20%以下とする必要がある。前記値よりブリックス(Brix)が高いと、ヒアルロン酸又はその塩の配合による経時的な離水現象を十分に防止することが難しく好ましくないからである。
【0026】
本発明の水中油型乳化食品の製造方法は、本発明の必須の配合原料である上述したヒアルロン酸又はその塩を配合し、更に得られる製品のブリックス(Brix)が30%以下、好ましくは20%以下となるように他の配合原料を適宜選択して配合し、水中油型に乳化される方法であれば特に限定するものではない。従って、前記ヒアルロン酸又はその塩はいずれも水溶性あるいは水分散性を呈することから、前記両原料を水相部に配合し、常法に則り水中油型乳化食品を製すれば良い。例えば、本発明で用いる前記原料とその他の水相原料をミキサー内で均一として水相部を調製した後、当該水相部を攪拌させながら油相部である食用油脂を徐々に注加して粗乳化物を得る。更に、当該粗乳化物を乳化機で仕上げ乳化を行ない、水中油型乳化食品を製する等の方法が挙げられる。
【0027】
なお、本発明は、本発明の効果を損なわない範囲で水中油型乳化食品に一般的に使用されている原料を適宜選択し配合すればよい。このような原料としては、例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油、卵黄油等の動植物油又はこれらの精製油(サラダ油)、あるいはMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的、酵素的処理等を施して得られる油脂、あるいは各種スパイスオイル等調味油等の食用油脂、食酢、食塩、醤油、味噌、核酸系旨味調味料、柑橘果汁等の各種調味料、砂糖、グルコース等の一般糖類、ソルビトール、還元水飴等の糖アルコール類、ステビア、スクラロース、アスパルテーム等の高甘味度甘味料等の甘味料、卵黄、ホスフォリパーゼA処理卵黄、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン等の乳化材、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、アラビアガム、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉等の澱粉、湿熱処理澱粉、化工澱粉等の増粘材、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸又はその塩、香辛料、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、色素、各種具材等が挙げられる。
【0028】
また、水中油型乳化食品は、粘度が低いほど、具体的には、15Pa・s以下、更には10Pa・s以下となるほど、離水現象が発現しやすい。しかしながら、本発明によれば、上記粘度であっても、ブリックス(Brix)を30%以下にすることにより、好適に離水現象を防止できる。
【0029】
以下、本発明の水中油型乳化食品について、実施例及び比較例、並びに参考例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
下記の配合割合に準じ、まず全水相原料を均一に混合した。そして、得られた水相部を攪拌させながら油相であるサラダ油を徐々に注加して粗乳化した後、当該粗乳化物を高速乳化機で仕上げ乳化し水中油型乳化食品を製した。得られた水中油型乳化食品を250mL容量のPET容器に250mL充填して密栓した。なお、原料のヒアルロン酸は、キユーピー(株)製の商品「ヒアルロンサンHA−F」を用い、当該ヒアルロン酸は、平均分子量約80万、純度99%、水分含量約3%である。
【0031】
<水中油型乳化食品の配合割合>
(油相部)
サラダ油 18%
(水相部)
食酢(酸度4%) 20%
醤油 5%
ピーナッツペースト 5%
食塩 3%
生卵黄 2%
ヒアルロン酸 0.5%
グルタミン酸ソーダ 0.5%
酢酸ナトリウム(結晶) 0.2%
香辛料 0.1%
キサンタンガム 0.1%
スクラロース 0.03%
清水 残余
―――――――――――――――――――
合計 100%
【0032】
[実施例2]
実施例1において、実施例1で配合のヒアルロン酸0.5%を後述するヒアルロン酸ナトリウム0.8%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で水中油型乳化食品を製造した。なお、ヒアルロン酸は、商品名「ヒアルロンサンHA−Q」を塩酸で低分子化した平均分子量約15万、純度99%、水分含量約3%のものを用いた。
【0033】
[実施例3]
実施例1において、スクラロースを0.01%にして砂糖を12%加えて、甘さを実施例1と同等になるように調整した以外は、実施例1と同様の方法で製造した。
【0034】
[比較例1]
実施例1において、スクラロースを除いて砂糖を18%加えて、甘さを実施例1と同等になるように調整した以外は、実施例1と同様の方法で製造した。
【0035】
[参考例1]
実施例1において、ヒアルロン酸を除き、キサンタンガムを加えて、粘度を実施例1と同等になるように調整した以外は、実施例1と同様の方法で水中油型乳化食品を製造した。
【0036】
[試験例1]
実施例1、2及び3、比較例1並びに参考例1で得られた各水中油型乳化食品を35℃で4週間保存し、経時的な離水現象の発現を各週毎に観察した。結果を表1に示す。表中の各水中油型乳化食品のブリックス(Brix)を、デジタル糖度計((株)アタゴ製、spittzシリーズIPR−201)により測定する方法に拠った。また、粘度をBH粘度計(東京計器(株)製、BH型)により、品温23℃、ローターNo.3、10rpmで3回転したところの粘度を測定する方法に拠った。
【0037】
【表1】

−:離水観察されず
±:2mm未満の離水が観察された
+:2mm以上5mm未満の離水が観察された。
++:5mm以上の離水が観察された。
【0038】
表1より、ヒアルロン酸を配合した水中油型乳化食品において、ブリックス(Brix)が30%を超える比較例1は、保存2週間後には明らかに離水現象が観察されたのに対し、ブリックス(Brix)が30%以下である実施例1、2及び3は、保存3週間後も離水現象は全く観察されず、外観に優れていることが理解される。特に、ブリックス(Brix)が20%以下である実施例1及び2は、離水現象の防止に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸又はその塩を配合しており、製品のブリックス(Brix)が30%以下であることを特徴とする水中油型乳化食品。
【請求項2】
ヒアルロン酸又はその塩の配合量が全体に対し0.02%以上である請求項1記載の水中油型乳化食品。
【請求項3】
ヒアルロン酸又はその塩の平均分子量が5万以上である請求項1又は2記載の水中油型乳化食品。