説明

水中洗浄装置

【課題】水中点検ロボットによる内部点検を効率的に実施するため、表面の付着物を綺麗に洗浄できるとともに、簡易な構造でより汎用性の高い水中洗浄装置を提供する。
【解決手段】水中洗浄装置1は、水中点検ロボットRへの取付機構を有する懸架装置2と、この懸架装置2に取り付けられ、水中点検ロボットRの接地面を洗浄する洗浄装置本体3と、前記洗浄装置本体3に取り付けられる浮体4とから構成する。前記洗浄装置本体3は、接地面に対して少なくとも垂直方向に移動可能に設けるとともに、前記懸架装置2に取り付けた状態で前記浮体4の浮力により略中性浮力に保持し、かつ接地面に摺接する洗浄ブラシ34…を備えた回転円盤33が設けられ、この回転円盤33を回転駆動することにより、前記回転円盤33と接地面との間の液体が外側に押し出されて負圧となり、接地面に押し付けられるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力発電所における水圧鉄管やサージタンクなどの大規模淡水水路設備において、水中点検ロボットによって内部点検する際の前処理として点検箇所を洗浄するための水中洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水力発電所の大規模淡水水路設備のうち水圧鉄管やサージタンクの内部点検は、高落差、急勾配であることから全線の確認を点検員が目視で行うには大規模な仮設備と長期停止が必要となるため、大規模な仮設備を必要としない水中点検ロボットが使用されている。ところが、水中点検ロボットによって設備内部の壁面を点検する際、その表面に水垢や泥などが付着して、壁面の錆やひび割れなどの確認が困難な場合がある。そこで、点検の前処理として点検箇所の洗浄を行う必要がある。さらに、近年は運用開始後20年以上を経過する設備が増加しており、今後の劣化評価の重要性が高まっている。
【0003】
下記特許文献1では、ロボット本体に、走行駆動される走行車輪と、該走行車輪を覆う回転支持体の開口部の外周に設けられ、回転駆動されて接地面を清掃する清掃具とを有する複数の走行清掃装置を設け、前記清掃具の回転により発生する遠心力で、水を外周側に流出させて前記回転支持体内を負圧とすることにより、ロボット本体を着地面に吸着させるように構成した水中清掃ロボットが開示されている。
【特許文献1】特開2003−112137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の走行清掃装置では、清掃具の回転による回転支持体内部の負圧が増加しすぎると、接地面への押し付け力が大きくなりすぎて清掃具が回転しにくくなって、綺麗な洗浄が行われない場合があり、必ずしも十分な内部点検が実施できるとは言い難かった。
【0005】
また、上記特許文献1では、水中点検ロボット本体の走行車輪を前記走行清掃装置として、ロボット本体に洗浄機能を一体化させる必要があるため、形式の異なる市販の水中点検ロボットに当該清掃装置を組み込みたいという場合に制限があるとともに、洗浄機能を不要とし点検のみ行いたいという場合に清掃装置を脱着するのが困難であった。
【0006】
そこで本発明の主たる課題は、水中点検ロボットによる内部点検を効率的に実施するため、表面の付着物を綺麗に洗浄できるとともに、簡易な構造でより汎用性の高い水中洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、水中点検ロボットに取り付けられ、前記水中点検ロボットの接地面を洗浄する水中洗浄装置であって、
前記水中点検ロボットへの取付機構を有する懸架装置と、この懸架装置に取り付けられ、前記水中点検ロボットの接地面を洗浄する洗浄装置本体と、前記洗浄装置本体に取り付けられる浮体とから構成され、
前記洗浄装置本体は、接地面に対して少なくとも垂直方向に移動可能に設けられるとともに、前記懸架装置に取り付けた状態で前記浮体の浮力により略中性浮力に保持され、かつ接地面に摺接する洗浄ブラシを備えた回転円盤が設けられ、この回転円盤を回転駆動することにより、前記回転円盤と接地面との間の液体が外側に押し出されて負圧となり、接地面に押し付けられるように構成されていることを特徴とする水中洗浄装置が提供される。
【0008】
上記請求項1記載の発明では、回転円盤が回転駆動されることによって回転円盤と接地面との間の液体が外側に押し出されて負圧となり、洗浄装置本体が接地面に押し付けられるため、表面の付着物を綺麗に洗浄することができるようになる。一方、洗浄装置本体の押し付け力が大きくなり過ぎて洗浄ブラシと接地面との摩擦力が増加し、それに伴って回転円盤の回転数が低下すると、洗浄装置本体が略中性浮力(水中で浮きも沈みもしない状態)に保持されているため、前記負圧が低下して洗浄装置本体が接地面から若干離れる。これによって、接地面との摩擦力が軽減され、再び回転円盤の回転によって洗浄装置本体が接地面に押し付けられて洗浄効果が回復する。このように、本発明に係る水中洗浄装置では、回転円盤の最適な回転による洗浄効果が維持されるため、常に表面の付着物を綺麗に洗浄することができるようになる。
【0009】
また、前記水中洗浄装置には、水中点検ロボットへの取付機構を有する懸架装置が備えられているため、水中点検ロボットと洗浄装置とが一体化されず、形式の異なる市販の水中点検ロボットに本水中洗浄装置を組み込んだり、脱着したりすることが容易になり、簡易な構造でより汎用性の高い水中洗浄装置が提供できるようになる。
【0010】
請求項2に係る本発明として、前記懸架装置は、天板から案内軸が垂設されるとともに、この案内軸に沿って軸方向に移動可能とされる可動架台が設けられ、この可動架台に前記洗浄装置本体を取り付けるための本体支持架台が設けられて構成されている請求項1記載の水中洗浄装置が提供される。
【0011】
上記請求項2記載の発明は、前記洗浄装置本体を、接地面に対して垂直方向に移動可能に設けるための具体的な構成を規定したものである。
【0012】
請求項3に係る本発明として、前記本体支持架台は、前記可動架台に対して揺動自在に設けられている請求項2記載の水中洗浄装置が提供される。
【0013】
上記請求項3記載の発明では、例えば水圧鉄管などの接地面が傾斜し、水中点検ロボットの両側底部に水中洗浄装置が設けられる場合などにおいて、前記本体支持架台を可動架台に対して揺動自在に設けることにより、水中洗浄装置が外側に傾斜して、洗浄ブラシが水圧鉄管壁面に垂直に摺接するようになるため、表面の付着物を綺麗に洗浄することができるようになる。
【0014】
請求項4に係る本発明として、前記懸架装置には、前記可動架台が前記案内軸に沿って軸方向に移動することによって生じる衝撃を吸収するための緩衝装置が設けられている請求項1〜3いずれかに記載の水中洗浄装置が提供される。
【0015】
上記請求項4記載の発明は、可動架台が垂直方向に移動することによって生じる衝撃を吸収するための緩衝装置を設けたものである。この緩衝装置としては、可動架台の上下側の案内軸に巻回させたコイルバネとすることができる。
【0016】
請求項5に係る本発明として、前記回転円盤は、前記洗浄ブラシが配設される領域のほぼ全面を覆い、開口を有しない円盤状とされている請求項1〜4いずれかに記載の水中洗浄装置が提供される。
【0017】
上記請求項5記載の発明は、回転円盤の好ましい構造であり、具体的には洗浄ブラシが配設される領域のほぼ全面を覆い、内部側に開口を有しない円盤状に形成することが好ましい。これによって、回転円盤が回転駆動されると、回転円盤と接地面との間の液体が外側に押し出されて負圧を形成し易く、水中洗浄装置がより接地面に押し付けられるようになる。
【0018】
請求項6に係る本発明として、前記洗浄ブラシは、前記回転円盤の半径方向に対して傾斜して設けられている請求項1〜5いずれかに記載の水中洗浄装置が提供される。
【0019】
上記請求項6記載の発明では、洗浄ブラシを回転円盤の半径方向に対して傾斜して設けることにより、回転円盤と接地面との間の液体を外側に押し出し易くして、より負圧が形成され易くなっている。なお、洗浄ブラシは、回転円盤の半径方向線に対して回転方向に傾斜して設けることにより、より遠心力が作用して液体を外側に押し出す効果が発揮されやすいため好ましい。
【0020】
請求項7に係る本発明として、前記洗浄ブラシは、回転円盤の中心側より外周側の方が周方向間隔が大きくなるように設置されている請求項1〜6いずれかに記載の水中洗浄装置が提供される。
【0021】
上記請求項7記載の発明では、回転円盤の中心側より外周側の方が、洗浄ブラシが周方向間隔が大きくなるように設置することにより、回転円盤の回転による負圧効果を向上させるようにしている。
【0022】
請求項8に係る本発明として、前記洗浄ブラシは、ブラシ形状及びブラシの硬さを異ならせた複数のブラシが組み合わされている請求項1〜7いずれかに記載の水中洗浄装置が提供される。
【0023】
上記請求項8記載の発明では、洗浄ブラシのブラシ形状およびブラシの硬さを異ならせた複数のブラシを組み合わせて設置することにより、接地面の凹凸、付着物の性状などに柔軟に対応することができるようになる。
【発明の効果】
【0024】
以上詳説のとおり本発明によれば、水中点検ロボットによる内部点検を効率的に実施するため、表面の付着物を綺麗に洗浄できるとともに、簡易な構造でより汎用性の高い水中洗浄装置が提供できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。図1は本発明に係る水中洗浄装置1を備えた水中点検ロボットRの側面図、図2はその正面図である。
【0026】
本発明に係る水中洗浄装置1は、図示例では水中点検ロボットRの両側底部に左右1つずつ取り付けられ、この水中点検ロボットの接地面を洗浄するための装置である。
【0027】
前記水中洗浄装置1は、図3に示されるように、水中点検ロボットRへの取付け機構を有する懸架装置2と、この懸架装置2に取り付けられ、前記水中点検ロボットRの接地面を洗浄する洗浄装置本体3と、前記洗浄装置本体3に取り付けられる浮体4とから構成されている。
【0028】
そして、前記洗浄装置本体3は、接地面に対して少なくとも垂直方向に移動可能に設けられるとともに、前記懸架装置2に取り付けた状態で前記浮体4の浮力により略中性浮力に保持されている。また、接地面に摺接する洗浄ブラシ34を備えた回転円盤33が設けられ、この回転円盤33を回転駆動することにより、前記回転円盤33と接地面との間の液体が外側に押し出されて負圧となり、接地面に押し付けられるようになっている。
【0029】
前記水中点検ロボットRは、底部に接地面を走行するための車輪が4つ設けられるとともに、前後方向および上下方向に向けて設けられた回動翼を回動させることによって水中を推進後退および上昇下降できるようになっている。また、前記水中点検ロボットRの中央部に浮力を有する容器が設けられることによって、ロボット全体として質量と浮力とが釣り合った略中性浮力の状態とされている。これにより、水中点検ロボットRは、前記車輪が水圧鉄管やサージタンクなどの大規模淡水水路設備の内部の上下左右あらゆる方向に接地できるようになっている。さらに、前記水中点検ロボットRには水中カメラが搭載され、洗浄後に水中点検ロボットRの接地面を撮影できるようになっている。その他、水中点検ロボットRには水中ライトや探知ソナーなどの各種機器が搭載され、これらの遠隔操作が可能となっている。
【0030】
以下、前記水中洗浄装置1について詳述する。前記懸架装置2は、図5に示されるように、天板21から案内軸22が垂設されるとともに、この案内軸22に沿って軸方向に移動可能とされる可動架台23が設けられ、この可動架台23に前記洗浄装置本体3を取り付けるための本体支持架台24が設けられている。さらに、前記本体支持架台24は、前記可動架台23に対して揺動自在に設けられている。
【0031】
前記天板21は、図6に示されるように、略方形の板状体の中央に開口部21bが設けられるとともに、水中点検ロボットRに取付けるための複数のボルト孔21a、21a…と、開口部21bの四隅の外側には案内軸22の上端に突出する連結ボルト22aを挿通させるためのボルト孔21c、21c…とが設けられている。
【0032】
前記案内軸22は、前述の通り天板21から4本垂設され、その底部には係合する可動架台23の脱落を防止するためのフランジ22bが固設されている。
【0033】
前記可動架台23は、略四角形に枠組みされた枠体からなり、その四隅には前記案内軸22、22…に係合して該案内軸22を軸方向に移動させるための係合孔23a、23a…が設けられている。
【0034】
前記可動架台23が案内軸22に沿って軸方向に移動することによって、可動架台23が案内軸22の両端部に衝突して生じる衝撃を吸収するため、前記可動架台23の上下側にはそれぞれ、前記案内軸22を巻回させたコイルバネ27、27が設けられている。
【0035】
前記本体支持架台24は、前記洗浄装置本体3が固定される上部の本体固定枠24aと、その前後の脚体24b、24bとから構成され、前記脚体24bの下部が前記可動架台23の前後中央部の内側に支持軸25、25によって軸支されることによって、該支持軸25を中心として揺動自在に取り付けられている。このように本体支持架台24が可動架台23に対して揺動自在に設けられることにより、洗浄装置本体3が懸架装置2に揺動自在に設けられている。ここで、前記洗浄装置本体3は、図2に示されるように、水中洗浄装置1を水中点検ロボットRに取り付けた状態でロボットの両側方向に揺動するように設けられるようにする。これにより、水圧鉄管など両側に傾斜した壁面においても、洗浄ブラシ34を壁面に対して垂直に接触させることができるようになる。
【0036】
ここで、前記本体支持架台24は、水中洗浄装置1を水中点検ロボットRに取り付けた状態で、図2に示されるように、洗浄装置本体3の底部が水中点検ロボットRの外側方向にのみ傾動するように、ストッパーを設けるなどして、一方向への傾動のみ許容する構造としても良い。
【0037】
また、前記可動架台23の内側には、前記洗浄装置本体3を本体支持架台24に取り付けて揺動させた際に、洗浄装置本体3が可動架台23に直接当たるのを防止するため、ウレタン製などのストッパ26、26が取り付けられている。
【0038】
上述のように構成される懸架装置2では、前記洗浄装置本体3を取り付けた状態で、図4に示されるように、前記可動架台23が案内軸22に沿って軸方向に移動することによって、洗浄装置本体3が接地面に対して垂直方向に移動可能とされ、かつ前記本体支持架台24が可動架台23に揺動可能に軸支されることによって、洗浄装置本体3が揺動可能とされている。
【0039】
前記洗浄装置本体3は、図7に示されるように、回転駆動装置31と、その回転軸32に中心部が軸支されることによって回転駆動される回転円盤33と、水中点検ロボットRの接地面に摺接して表面を洗浄する複数の洗浄ブラシ34、34…とから構成されている。また、この洗浄装置本体3を前記懸架装置2に取り付けた状態では、洗浄装置本体3に浮体4が取り付けられることにより、この浮体4の浮力によって略中性浮力に保持されている。
【0040】
前記回転駆動装置31は、各種の電動モータを水密性及び耐圧性を有する略円筒形のケーシングで囲繞したものであり、その下面には回転軸32が突出している。前記電動モータとしては、洗浄装置本体3が水中浮遊型を前提としているため軽量化・小型化に優れ、高効率化及び省力化が可能なブラシレスギヤードモータを使用することが好ましい。前記ケーシングの胴部中間には前記本体支持架台24の本体固定枠24aに設けられた段差部に係合する段差が設けられるとともに、本体固定枠24aの通孔を連通するボルト孔31a、31a…が周方向に複数設けられている。
【0041】
前記回転円盤33は、図8に示されるように、洗浄ブラシ34、34…が配設される領域のほぼ全面を覆い、開口を有しない円盤状に形成されることが望ましい(後段で詳述する実施例(4)参照)。図示例では、回転円盤33は、骨材33aに板材33bを固設して構成されているが、板材だけで構成されるようにしてもよい。
【0042】
接地面の洗浄方式としては、洗浄ブラシによって壁面付着物を掻き取るブラシ式と、ゴムや金属などからなる板状のスクレーパで壁面付着物を掻き取るスクレーパ式とが考えられる。前記スクレーパ式は、固い付着物の除去が可能となるが、壁面に損傷を与えるおそれがあるとともに、接地面への押し付け力が大きくなると回転円盤の回転が阻害されやすいという欠点がある。前記ブラシ式は、きめ細やかな洗浄が可能となるとともに、接地面への押し付け力が大きくなっても回転が阻害されにくくなるが、長期の使用によってブラシ素材が摩耗しやすいという欠点がある。ここで、発明者は、本発明が水力発電所等の水圧鉄管やサージタンクなど淡水水路を対象とし、海水を対象とした場合の貝などの硬い付着物が想定され難いこと、回転円盤の回転が阻害され難い構成とすることが重要であることなどを勘案した結果、接地面の洗浄方式として前記洗浄ブラシ34を用いたブラシ式とした。
【0043】
前記洗浄ブラシ34は、ブラシ先端の形状として、図9(A)に示される平形、(B)に示される波形とすることができる。前記平形と波形の洗浄ブラシを組み合わせて配置することにより、凹凸面に対しても効果的に洗浄ができるようになる。
【0044】
また、ブラシの線径としては、直径0.1〜1.5mm、好ましくは直径0.5〜0.8mmとすることができる。さらに、ブラシの材質としては、ポリプロピレン、ナイロンなどの各種合成繊維とすることができる。これら、線径及び材質についても、種々の線径又は材質で構成した洗浄ブラシ34を組み合わせて配置することができる。
【0045】
前記洗浄ブラシ34を回転円盤33に配置するに際しては、図8に示されるように、洗浄ブラシ34が回転円盤33の半径方向に対して傾斜して設けられるようにすることが好ましい。具体的には、洗浄ブラシ34の円盤中心側端縁を通る回転円盤33の中心線CLに対して、洗浄ブラシ34の長手方向軸のなす角度をθとしたとき、回転方向の角度を正とすると、−25°≦θ≦+25°の範囲で配置することが好ましく、−25°≦θ≦−15°の範囲で配置することがより好ましい。この範囲の角度で洗浄ブラシ34を配置することにより、より遠心力が作用し、円盤と接地面との間の水を外側に押し出して、負圧を形成し易くなる。
【0046】
また、洗浄ブラシ34は、回転円盤33の中心側より外周側の方が周方向間隔が大きくなるように配置することが好ましい。このように配置するには、例えば、図8に示されるように、回転円盤33に大中小と3本の仮想円周線を想定して、この円周線上にそれぞれ同じ個数(図示例では大径の仮想円周線に34a…、中径の仮想円周線に34b…、小径の仮想円周線に34c…と各3個ずつ)の洗浄ブラシ34を均等配置するようにすればよい。これにより、円盤と接地面との間の水を効率的に外側に押し出して、負圧を形成し易くなる。
【実施例】
【0047】
(1)壁面への押し付け力試験
壁面への押し付け力と洗浄効果の関係を把握するため、図10に示されるように、モータの回転指令電圧を試験条件として、バネばかりによる洗浄装置の引上げ力を測定する試験を実施した。試験装置は、水槽40内の擬似水圧鉄管壁面41に洗浄ブラシ34を押し付けた状態で洗浄装置1を水中に設置するとともに、天井から吊り下げたチェーンブロックにバネばかり42を取付け、このバネばかり42と洗浄装置1とを連結した状態で、モーター制御装置43からのモーター回転指令電圧を変数として回転円盤33を回転させたときにチェーンブロックを引き上げ、洗浄ブラシ34が擬似水圧鉄管壁面41から離れる直前にバネばかり42に作用した引上げ力を測定した。なお、洗浄ブラシ34と擬似水圧鉄管壁面41との接触状態は、ビデオカメラ44により観測した。
【0048】
その結果、図11に示されるように、回転指令電圧が高いほど(回転円盤33の回転数が大きいほど)測定された引上げ力が大きく、壁面への大きな押し付け力を得ることが可能となる。これは、洗浄ブラシ34が擬似水圧鉄管壁面41に接触しながら回転する際に、回転円盤33と壁面との間の水を外側へ押し出すため、回転円盤33と壁面との間に負圧が発生し、回転数が大きいほどこの負圧が大きくなると推測される。ただし、回転指令電圧が2.6Vを超えると、押し付け力が過大となり、洗浄ブラシと壁面との間の摩擦がモータの回転力を上回り、脱調(モータのマグネットカップリングが外れる現象)が生じた。
【0049】
(2)壁面及び洗浄ブラシの摩耗性試験
水中洗浄装置1により壁面を洗浄する場合、洗浄ブラシを壁面に押し付けた状態で回転させるため、壁面及び洗浄ブラシの摩耗が懸念される。そこで、擬似水圧鉄管壁面に洗浄ブラシを押し付けた状態で洗浄装置を水中に設置し、モータの回転指令電圧を2Vにて4時間作動させ、壁面の摩耗状態(塗膜圧の計測)及び洗浄ブラシの先端部の摩耗状態(長さ寸法の計測)を調査した。
【0050】
その結果、塗膜厚摩耗量は、実機における想定洗浄時間である5分あたり1.46μmであり、一般的な水圧鉄管の内面の塗膜厚が350〜500μm程度であることを考慮すると、塗膜への影響は非常に小さいと考えられる。また、洗浄ブラシ34の摩耗量は極僅かであり、1回の水中点検作業中に交換の必要がないことが確認された。
【0051】
(3)模擬付着物掻き取り試験
本試験では、水圧鉄管壁面に、実機の付着物を模擬した模擬付着物を付着させ、水中洗浄装置1による掻き取り性能を調査した。実機の水圧鉄管に付着している付着物を採取して分析した結果、主成分はマンガン、珪素であり、粒度は粘度とシルトが90%以上であった。そこで、模擬付着物としては、実機付着物の粒度に着目して、シルト成分が多い陶芸用粘度を模擬付着物として使用することとし、乾燥状態、粘土状態、半粘土状態の3種類に調整したものとした。模擬付着物の塗布厚さは、実際の付着物相当の10mmとした。試験方法は、30秒間洗浄後、付着物の状態を確認し、完全に洗浄できていない場合にはモータ回転指令電圧を上げてさらに30秒間洗浄するということを、完全に洗浄できるまで繰り返した。
【0052】
その結果、粘土状態のように粘性が高い付着物の場合、洗浄ブラシが付着物に埋もれてしまい、回転円盤の回転が停止するため、完全に洗浄するにはモータ回転指令電圧を高くする必要があるが、半粘土状態のように含水率が高い付着物の場合、十分に洗浄できることが確認された。
【0053】
(4)回転円盤の円盤形状に対する押し付け力の検討
負圧による押し付け力を最大限に活用できる回転円盤の円盤形状を検討するため、図12に示されるように、(A)骨組み型、(B)小円盤型、(C)ドーナツ型、(D)全円盤型の4種類の回転円盤について、上記実施例(1)の試験方法と同様にして引上げ力を測定した。
【0054】
その結果、図13に示されるように、全円盤型とした場合に、回転円盤の回転を低下させることなく、負圧による押し付け力(引上げ力)を格段に高めることができるようになることが確認された。これは、回転円盤に開口が設けられていないため、回転円盤と壁面との間の水を外側に押し出すことにより、回転円盤と壁面との間が負圧状態になりやすく、引上げ力が大きくなったものと考えられる。
【0055】
(5)洗浄ブラシの最適化の検討
覆工コンクリート壁面など、表面に凹凸が存在する場合の洗浄機能を向上させ、特に洗浄ブラシが凹部にも入り込むようにするため、洗浄ブラシ先端の形状(図9参照)、材質および線径をパラメータにとって試行錯誤的に洗浄試験を行い、その効果を調査した。
【0056】
その結果、図14に示されるように、ブラシ形状については矩形状ブラシ(ブラシA:3個、ブラシB:3個)と波形状ブラシ(ブラシC:3個)との組み合わせ、ブラシ線径については直径0.5mm(ブラシA)と直径0.8mm(ブラシB、C)との組み合わせ、材質としてはポリプロピレン製のものが最も洗浄効果が高くなることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】水中洗浄装置1を搭載した水中点検ロボットRの側面図である。
【図2】その正面図である。
【図3】水中洗浄装置1の側面図である。
【図4】懸架装置2に対する洗浄装置本体3の移動状態を示す図である。
【図5】懸架装置2の(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図6】天板2Aの平面図である。
【図7】洗浄装置本体3の側面図である。
【図8】洗浄装置本体3の底面図である。
【図9】(A)、(B)は洗浄ブラシ34の外形図である。
【図10】試験装置の模式図である。
【図11】引上げ力試験の結果を示すグラフである。
【図12】試験で使用した各種回転円盤の底面図である。
【図13】各種回転円盤に対する引上げ力試験の結果を示すグラフである。
【図14】洗浄ブラシの配列検討結果である。
【符号の説明】
【0058】
1…水中洗浄装置、2…懸架装置、3…洗浄装置本体、4…浮体、21…天板、22…案内軸、23…可動架台、24…本体支持架台、31…回転駆動装置、32…回転軸、33…回転円盤、34…洗浄ブラシ、R…水中点検ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中点検ロボットに取り付けられ、前記水中点検ロボットの接地面を洗浄する水中洗浄装置であって、
前記水中点検ロボットへの取付機構を有する懸架装置と、この懸架装置に取り付けられ、前記水中点検ロボットの接地面を洗浄する洗浄装置本体と、前記洗浄装置本体に取り付けられる浮体とから構成され、
前記洗浄装置本体は、接地面に対して少なくとも垂直方向に移動可能に設けられるとともに、前記懸架装置に取り付けた状態で前記浮体の浮力により略中性浮力に保持され、かつ接地面に摺接する洗浄ブラシを備えた回転円盤が設けられ、この回転円盤を回転駆動することにより、前記回転円盤と接地面との間の液体が外側に押し出されて負圧となり、接地面に押し付けられるように構成されていることを特徴とする水中洗浄装置。
【請求項2】
前記懸架装置は、天板から案内軸が垂設されるとともに、この案内軸に沿って軸方向に移動可能とされる可動架台が設けられ、この可動架台に前記洗浄装置本体を取り付けるための本体支持架台が設けられて構成されている請求項1記載の水中洗浄装置。
【請求項3】
前記本体支持架台は、前記可動架台に対して揺動自在に設けられている請求項2記載の水中洗浄装置。
【請求項4】
前記懸架装置には、前記可動架台が前記案内軸に沿って軸方向に移動することによって生じる衝撃を吸収するための緩衝装置が設けられている請求項1〜3いずれかに記載の水中洗浄装置。
【請求項5】
前記回転円盤は、前記洗浄ブラシが配設される領域のほぼ全面を覆い、開口を有しない円盤状とされている請求項1〜4いずれかに記載の水中洗浄装置。
【請求項6】
前記洗浄ブラシは、前記回転円盤の半径方向に対して傾斜して設けられている請求項1〜5いずれかに記載の水中洗浄装置。
【請求項7】
前記洗浄ブラシは、回転円盤の中心側より外周側の方が周方向間隔が大きくなるように設置されている請求項1〜6いずれかに記載の水中洗浄装置。
【請求項8】
前記洗浄ブラシは、ブラシ形状及びブラシの硬さを異ならせた複数のブラシが組み合わされている請求項1〜7いずれかに記載の水中洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−104934(P2010−104934A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280799(P2008−280799)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000221546)東電設計株式会社 (44)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】