説明

水中自走浚渫装置

【課題】水底を静穏に機動的に自走しながら浚渫対象物を効率的に浚渫し得る浚渫装置の提供。
【解決手段】走行前方F側にあるアーム2は、スパッド20bを水底地盤Gに打ち込んで走行前方F側に突き出した伸長状態から屈曲状態に至る一回の往動と、この屈曲状態からスパッド20bを水底地盤Gから引き抜いて走行前方F側に再び突き出した伸長状態に至る一回の復動とを一サイクルとした往復動作を繰り返す。走行後方B側にあるアーム2は、スパッド20bを水底地盤Gに打ち込んだ屈曲状態から走行後方側に突き出した伸長状態に至る一回の往動と、この伸長状態からスパッド20bを水底地盤Gから引き抜いて再び屈曲状態に至る一回の復動とを一サイクルとした往復動作を繰り返す。各アーム2の往復動作に時間差を生じさせている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、吸泥ラインの端末に連通した吸泥口を有しており、浚渫エリアを自走しながら、この浚渫エリア内にある水底に堆積した浚渫対象物を前記吸泥口を通じて吸泥ラインに送り込み、水底から取り除いてこの浚渫エリアの浄化をなす浚渫装置に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾や漁港などの船舶の係留地や水上敷設構造物が設けられた場所にあっては、水底に汚泥や魚介の残滓などが堆積し易く、こうした堆積物の浚渫の要請がある。
【0003】
魚介の養殖施設にあっても、いけすなどの下の水底に食べ残しの餌や残滓などが堆積し易く、養殖施設を取り巻く環境の清浄化の観点から、こうした堆積物の浚渫がまた求められている。
【0004】
しかるに、こうした係留地などにあっては、その性格上、その利用を中止させた状態での大規模な浚渫工事を行い難い。
【0005】
浚渫装置を、吸泥口を備え、こうした係留地などの水底を機動的に自走しながら、この吸泥口から前記堆積物を吸引できるような小回りのきくものとすれば、前記係留地などの利用を損なうことなく、こうした堆積物を効率的に浚渫することができる。
【0006】
こうした自走は、典型的には、浚渫装置にクローラーを備えさせることにより実現できるが、このようにした場合、浚渫装置の走行にあたって堆積物が掻き上げられ、却って周辺環境を汚濁させてしまうおそれがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明が解決しようとする主たる問題点は、水底を静穏に機動的に自走しながら浚渫対象物を効率的に浚渫し得る浚渫装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を解決するために、この発明にあっては、浚渫装置を以下の(1)〜(7)の構成を備えたものとした。
(1)吸泥ラインの端末に連通した吸泥口を有すると共に、スパッドを水底地盤に打ち込ませた着底状態で浚渫エリアを自走する浚渫装置であって、
(2)装置本体の重心をとりまく少なくとも四箇所に隣り合うアームとの間に間隔を開けてそれぞれアームを有しており、
(3)各アームはそれぞれ、このアームを装置本体に対し鉛直軸を中心に回動可能に組み付ける肩ヒンジ部と、鉛直軸を持った肘ヒンジ部とを有すると共に、自由端部にスパッドを上下動可能に有しており、
(4)さらに、この各アームにおける肘ヒンジ部より先を肘ヒンジ部を中心として旋回させる第一駆動手段と、この各アームを肩ヒンジ部を中心として旋回させる第二駆動手段とを有しており、両駆動手段による旋回によってアームが伸長回動及び屈曲回動されるようにしてあり、
(5)走行前方側にあるアームは、
スパッドを水底地盤に打ち込んで走行前方側に突き出した伸長状態から屈曲状態に至る一回の往動と、この屈曲状態からスパッドを水底地盤から引き抜いて走行前方側に再び突き出した伸長状態に至る一回の復動とを一サイクルとした往復動作を繰り返すようにしてあると共に、
(6)走行後方側にあるアームは、
スパッドを水底地盤に打ち込んだ屈曲状態から走行後方側に突き出した伸長状態に至る一回の往動と、この伸長状態からスパッドを水底地盤から引き抜いて再び屈曲状態に至る一回の復動とを一サイクルとした往復動作を繰り返すようにしてあり、
(7)しかも、各アームの前記往動が等速でなされるようにしてあると共に、各アームの往復動作に時間差を生じさせるように各アームの往復動作を制御させている。
【0009】
かかる構成によれば、浚渫装置を、装置本体の重心を取り巻く四箇所に個別に設けられたアームのうち、常時少なくとも三本のアームに支持されたスパッドを水底地盤に打ち込ませた状態で、浚渫エリア内の水底を所望の方向に向けて安定的に走行させることができる。そして、この走行の過程で、水底に堆積された浚渫対象物を連続的に取り除くことができる。この走行は、アームを伸長又は屈曲させた状態でスパッドを水底地盤に打ち込ませたこのアームの屈曲又は伸長によって、スパッドを打ち込んだ位置に向けて装置本体を引き寄せ、又は、このスパッドを打ち込んだ位置から装置本体を遠ざけることによりなされることから、この走行にあたり水底に堆積された堆積物をまきあげさせてしまうといったことがほとんどなく、浚渫エリア周辺の水質を浚渫によって汚濁させてしまうといった事態を生じさせることがない。
【0010】
前記装置本体に、浚渫装置の自走の過程において、上昇されるスパッドを支持するアームがあるときは、このアームの設置側と反対の側に装置本体の重心を偏らせ、かつ、下降されるスパッドを支持するアームがあるときは、このアームの設置側に装置本体の重心を偏らせる重心調整手段を備えさせておくこともある。
【0011】
浚渫装置の自走の過程において、一つのアームに支持されているスパッドが水底地盤に打ち込まれた状態から上昇されて引き抜かれると、装置本体にはこの装置本体におけるこのスパッドの設置側を沈み込ませる向きの力が作用される。一方、一つのアームに支持されているスパッドが水底地盤から引き抜かれた状態から下降されてこの水底地盤に打ち込まれると、装置本体にはこの装置本体におけるこのスパッドの設置側を浮き上がらせる向きの力が作用される。しかるに、前記重心調整手段によって、このスパッドの上昇と下降とのタイミングに合わせて装置本体の重心を偏らせるようにすれば、このスパッドの上昇及び下降によって装置本体に傾きが生じないようにすることができ、浚渫装置の水底地盤上の走行を安定ならしめることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明にかかる浚渫装置によれば、水底を静穏に、つまり、浚渫対象物を掻き上げてしまうようなことなく、機動的に自走しながら、浚渫対象物を効率的に浚渫することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1ないし図12に基づいて、この発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、ここで図1および図2は、浚渫装置をそれぞれ示しており、また、図3は、図中、右上に位置されるアーム2によって支持されているスパッド20bが水底地盤Gから引き抜かれた場合のカウンターウエイト15aの位置を、また、図4は、図中、右上に位置されるアーム2によって支持されているスパッド20bが水底地盤Gに打ち込まれる場合のカウンターウエイト15aの位置を、それぞれ示している。
【0014】
また、図5は、浚渫装置を効率的に直進走行させる場合のアーム2の自由端部23の移動の基準を、図6は、浚渫装置を効率的に斜め走行させる場合のアーム2の自由端部23の移動の基準を、図7は、浚渫装置を効率的に横走行させる場合のアーム2の自由端部23の移動の基準を、それぞれ示している。
【0015】
また、図8は、浚渫装置の走行前方側に位置されるアーム2の往復動作の一サイクルをこの往復動作の各過程毎に表しており、また、図9は、浚渫装置の走行後方側に位置されるアーム2の往復動作の一サイクルをこの往復動作の各過程毎に表している。(両図においては水底地盤に打ち込まれているスパッド20bを支持するアーム2の自由端部23に×印を付し、水底地盤から引き抜かれているスパッド20bを支持するアーム2の自由端部23にはこの×印を付していない。両図共に、左から右に向けてアーム2の動作が進行する。)
【0016】
また、図10は、浚渫装置の直進走行の様子をこの直進の各過程毎に表しており、(図10においては、同図中のa図、b図、c図、d図の順で浚渫装置が前進される。)また、図11は、浚渫装置の左旋回の様子をこの左旋回の各過程毎に表している。(図11においては、同図中のa図、b図、c図、d図、e図の順で浚渫装置が左旋回される。)
【0017】
また、図12は、浚渫装置の四つのアーム2、2…の往復動作を理解しやすいように、それをタイムチャートの形で表したものである。
【0018】
この実施の形態にかかる浚渫装置は、吸泥ラインPの端末Paに連通した吸泥口10を有しており、スパッド20bを水底地盤Gに打ち込ませた着底状態で浚渫エリアを自走しながら、この浚渫エリア内にある水底に堆積した浚渫対象物Mを前記吸泥口10を通じて吸泥ラインPに送り込み、水底から取り除いてこの浚渫エリアの浄化をなすものである。
【0019】
かかる浚渫装置は、装置本体1と、アーム2とを有している。
【0020】
図示の例では、装置本体1は、略正方形状をなす上面と下面とを有すると共に、その対向する両辺に位置される側面にそれぞれ、吸泥口10を有している。装置本体1内には、この二カ所の吸泥口10、10にそれぞれ連通する内部流路11が形成されている。この内部流路11は、水中ポンプ12を介して吸泥ラインPの端末Paに接続されており、この水中ポンプ12によって発生される負圧によって吸泥口10から浚渫対象物Mが取り込まれ吸泥ラインPを通じて水上に圧送されるようになっている。かかる吸泥ラインPの排出側端末は、典型的には、台船(浚渫母船)に設けられた貯泥タンクなどに接続される。
【0021】
また、図示の例では、二カ所の吸泥口10の内方にはそれぞれ、仕切り弁13が設けられており、装置本体1の走行後方B側に位置される吸泥口10と内部流路11との連通をこの仕切り弁13によって遮断するようにしてある。この連通が遮断されていた吸泥口10が装置本体1の走行方向の変更によって走行前方F側に位置されるに至ったタイミングでこの吸泥口10側の仕切り弁13を開弁させると共に、この走行方向の変更によって走行後方B側に位置されるに至った他方の吸泥口10側の仕切り弁13を閉弁させて、前記負圧の全てが装置本体1の走行前方F側に位置される吸泥口10に常時作用されるようにしている。
【0022】
また、図示の例では、二カ所の吸泥口10、10にはそれぞれ、吸泥口10を間において吸泥口10の左右からそれぞれ前方に突き出すスパイラルブレードを有する取り込み装置14が設けられており、このように設けられた一対の取り込み装置14、14によって浚渫対象物Mをこの一対の取り込み装置14、14間にある吸泥口10に円滑に取り込めるようにしてある。
【0023】
また、この実施の形態にあっては、装置本体1に、浚渫装置の自走の過程において、上昇されるスパッド20bを支持するアーム2があるときは、このアーム2の設置と反対の側に装置本体1の重心を偏らせ、かつ、下降されるスパッド20bを支持するアーム2があるときは、このアーム2の設置側に装置本体1の重心を偏らせる重心調整手段15が備えられている。
【0024】
図示の例にあっては、装置本体1の中央部に装置本体1の重心が略位置されるようになっていると共に、装置本体1内にこの中央部に設けられた鉛直軸15cを中心に回転されるカウンターウエイト15aが納められている。図示の例ではかかるカウンターウエイト15aは、平面視扇状のプレート体として構成されていると共に、その扇の要部分において前記鉛直軸15c(図示の例では内部流路11を構成する管体)に回動可能に組み付けられている。このプレート体の扇の要部分の下部には周回ラック15dが備え付けられており、この周回ラック15dに駆動ギアを噛み合わせた油圧モータ15eによってカウンターウエイト15aが旋回されるようになっている。そして、図示の例では、後述する浚渫装置の自走の過程において、上昇されるスパッド20bを支持するアーム2があるときは、このアーム2の設置と反対の側にカウンターウエイト15aの自由端15bが位置されるようにカウンターウエイト15aを回転させてこの反対の側に装置本体1の重心を偏らせると共に、(図3)この自走の過程において、下降されるスパッド20bを支持するアーム2があるときは、このアーム2の設置側にカウンターウエイト15aの自由端15bが位置されるようにカウンターウエイト15aを回転させてこの設置側に装置本体1の重心を偏らせるように、カウンターウエイト15aの動作を制御させている。(図4)すなわち、図示の例では、かかるカウンターウエイト15aが前記重心調整手段15として機能されるようになっている。
【0025】
浚渫装置の自走の過程において、一つのアーム2に支持されているスパッド20bが水底地盤Gに打ち込まれた状態から上昇されて引き抜かれると、装置本体1にはこの装置本体1におけるこのスパッド20bの設置側を沈み込ませる向きの力が作用される。一方、一つのアーム2に支持されているスパッド20bが水底地盤Gから引き抜かれた状態から下降されてこの水底地盤Gに打ち込まれると、装置本体1にはこの装置本体1におけるこのスパッド20bの設置側を浮き上がらせる向きの力が作用される。しかるに、前記重心調整手段15によって、このスパッド20bの上昇と下降とのタイミングに合わせて装置本体1の重心を偏らせるようにすれば、このスパッド20bの上昇及び下降によって装置本体1に傾きが生じないようにすることができ、浚渫装置の水底地盤G上の走行を安定ならしめることができる。
【0026】
なお、装置本体1には、バラストタンクなどの装置本体1の水中重量の調整手段を設け、水底地盤Gの軟弱に合わせて装置本体1の水中重量を可変できるようにしておくことが好ましい。
【0027】
一方、アーム2は、装置本体1の重心(装置本体1の略中央部)をとりまく四隅にそれぞれ設けられている。
【0028】
各アーム2はそれぞれ、このアーム2を装置本体1に対し鉛直軸を中心に回動可能に組み付ける肩ヒンジ部21と、鉛直軸を持った肘ヒンジ部22とを有すると共に、自由端部23にスパッド20bを上下動可能に有している。
【0029】
図示の例にあっては、各アーム2はそれぞれ、板面を鉛直方向に沿わせた板状をなす前腕体24と腕体25とを前記肘ヒンジ部22によって回動可能に接続すると共に、この腕体25を前記肩ヒンジ部21によって装置本体1の隅部16に回動可能に組み付けさせている。
【0030】
また、前腕体24の腕体25との接続側と反対の側、つまり、アーム2の自由端部23には、油圧シリンダ20aとこの油圧シリンダ20aの下端から下方に向けて出没可能にこの油圧シリンダ20aに組み合わされたプランジャ状をなすスパッド20bとからなるスパッド装置20が組み付けられている。油圧シリンダ20aは軸線を鉛直方向に配するようにしてアーム2の自由端部23に接合されている。油圧シリンダ20aからのスパッド20bの突き出し量を大きくするように油圧シリンダ20aを動作させればスパッド20bは下降され、水底地盤Gにその下端が打ち込まれる。油圧シリンダ20aからのスパッド20bの突き出し量を小さくするよるように油圧シリンダ20aを動作させればスパッド20bは上昇され、水底地盤Gからスパッド20bは引き抜かれる。
【0031】
また、この実施の形態にあっては、前記各アーム2に、このアーム2における肘ヒンジ部より先を、肘ヒンジ部22を中心として旋回させる第一駆動手段26と、各アーム2を肩ヒンジ部21を中心として旋回させる第二駆動手段27とが備えられている。そして、両駆動手段26、27の駆動による旋回によって各アーム2が伸長回動及び屈曲回動されるようにしてある。
【0032】
この実施の形態にあっては、第一駆動手段26を、肘ヒンジ部22の直上に備え付けられたトルクアクチエータ26aによって構成させている。このトルクアクチエータ26aによって各アーム2は腕体25をベースにして前腕体24を回動させるようになっている。また、この実施の形態にあっては、この肘ヒンジ部22の直上に備え付けられたトルクアクチエータ26aの上部にエンコーダー26bが備え付けられており、このエンコーダー26bによって前腕体24の回動速度と回動角度とをリアルタイムで検知して前腕体24の回動を制御できるようにしてある。
【0033】
また、この実施の形態にあっては、第二駆動手段27を、肩ヒンジ部21の直上に備え付けられたトルクアクチエータ27aによって構成させている。このトルクアクチエータ27aによって各アーム2は装置本体1をベースにして腕体25を回動させるようになっている。また、この実施の形態にあっては、この肩ヒンジ部21の直上に備え付けられたトルクアクチエータ27aの上部にエンコーダー27bが備え付けられており、このエンコーダー27bによって腕体25の回動速度と回動角度とをリアルタイムで検知して腕体25の回動を制御できるようにしてある。
【0034】
また、この実施の形態にあっては、浚渫装置の走行前方F側にあるアーム2は、
スパッド20bを水底地盤Gに打ち込んで走行前方F側に突き出した伸長状態から屈曲状態に至る一回の往動と、この屈曲状態からスパッド20bを水底地盤Gから引き抜いて走行前方F側に再び突き出した伸長状態に至る一回の復動とを一サイクルとした往復動作を繰り返すようにしてあると共に、(図8)
走行後方B側にあるアーム2は、
スパッド20bを水底地盤Gに打ち込んだ屈曲状態から走行後方B側に突き出した伸長状態に至る一回の往動と、この伸長状態からスパッド20bを水底地盤Gから引き抜いて再び屈曲状態に至る一回の復動とを一サイクルとした往復動作を繰り返すようにしてある。(図9)
【0035】
図示の例にあっては、浚渫装置が二カ所の前記吸泥口10の一方を走行前方F側に向けた場合に、この走行前方F側に四つのアーム2、2…のうちの二つのアーム2、2が位置され、また、走行後方B側に残りの二つのアーム2、2が位置されるようになっている。
【0036】
そして、走行前方F側に位置されるアーム2が、前記第一駆動手段26と第二駆動手段27とスパッド装置20を制御することにより、
アーム2を装置本体1の前部から前方に突き出させた伸長状態においてスパッド20bを下降させて水底地盤Gに打ち込ませた状態からこのアーム2を徐々に屈曲させてスパッド20bに装置本体1を引き寄せさせる一回の往動と、
スパッド20bに装置本体1がある程度近づいた位置においてスパッド20bを上昇させて水底地盤Gから引き抜いた後、屈曲されたアーム2を速やかに伸長させて再びこのアーム2を装置本体1の前部から前方に突き出させた伸長状態に復帰させる一回の復動とを1サイクルとした往復動作を連続的に行なうようにしている。
【0037】
復動終了後は上昇されたスパッド20bは再び下降され水底地盤Gに打ち込まれ、往動が開始されることとなる。
【0038】
また、走行後方B側に位置されるアーム2が、前記第一駆動手段26と第二駆動手段27とスパッド装置20を制御することにより、
スパッド20bを装置本体1の後部に近接させたアーム2の屈曲状態においてスパッド20bを下降させて水底地盤Gに打ち込ませた状態からこのアーム2を徐々に伸長させてスパッド20bから装置本体1を遠ざけさせる一回の往動と、
スパッド20bから装置本体1がある程度遠ざけられた位置においてスパッド20bを上昇させて水底地盤Gから引き抜いた後、伸長されたアーム2を速やかに屈曲させて再びこのアーム2を前記屈曲状態に復帰させる一回の復動とを1サイクルとした往復動作を連続的に行なうようにしている。
【0039】
復動終了後は上昇されたスパッド20bは再び下降され水底地盤Gに打ち込まれ、往動が開始されることとなる。
【0040】
また、各アーム2の前記往動が等速でなされるようにしてあると共に、各アーム2の往復動作に常時時間差を生じさせるように各アーム2の往復動作を制御させている。
【0041】
すなわち、前記四本のアーム2、2…のうちの一つのアーム2における往動開始位置(走行前方F側にあるアーム2にあっては所定の伸長状態にある位置、走行後方B側にあるアーム2にあっては所定の屈曲状態にある位置)からの往動量よりも他の一つのアーム2の往動開始位置からの往動量が多く、(より具体的には、図12の左端においては同図における4番のアームよりも3番のアームの往動量が多く)
さらに、この他の一つのアーム2における往動開始位置からの往動量よりもさらに他の一つのアーム2の往動開始位置からの往動量が多く、(より具体的には、図12の左端においては同図における3番のアームよりも2番のアームの往動量が多く)
さらに、このさらに他の一つのアーム2における往動開始位置からの往動量よりも残りの一つのアーム2の往動開始位置からの往動量が多くなるように、(より具体的には、図12の左端においては同図における2番のアームよりも1番のアームの往動量が多くなるように、)
各アーム2の往復動作を制御させている。
【0042】
これにより、浚渫装置を、装置本体1の重心を取り巻く四隅に個別に設けられたアーム2のうち、常時少なくとも三本のアーム2に支持されたスパッド20bを水底地盤Gに打ち込ませた状態で、浚渫エリア内の水底を所望の方向に向けて安定的に走行させることができる。そして、この走行の過程で、水底に堆積された浚渫対象物Mを連続的に取り除くことができる。この走行は、アーム2を伸長又は屈曲させた状態でスパッド20bを水底地盤Gに打ち込ませたこのアーム2の屈曲又は伸長によって、スパッド20bを打ち込んだ位置に向けて装置本体1を引き寄せ、又は、このスパッド20bを打ち込んだ位置から装置本体1を遠ざけることによりなされることから、この走行にあたり水底に堆積された堆積物をまきあげさせてしまうといったことはなく、浚渫エリア周辺の水質を浚渫によって汚濁させてしまうといった事態をほとんど生じさせることがない。
【0043】
浚渫装置は、図5に示されるように、装置本体1の前後方向に延びる中心軸xに対し略平行に位置される線分x’上を、四つのアーム2、2…の自由端部23が移動されるように、この四つのアーム2、2…を往復動作させることにより、効率的にこの中心軸xに沿った向きに走行させることができる。(直進走行)
【0044】
また、かかる浚渫装置は、図6に示されるように、装置本体1の前後方向に延びる中心軸xに対し交叉する線分y上を、四つのアーム2、2…の自由端部23が移動されるように、この四つのアーム2、2…を往復動作させることにより、効率的にこの線分yに沿った向きに斜めに走行させることができる。(斜め走行)
【0045】
また、かかる浚渫装置は、図7に示されるように、装置本体1の前後方向に延びる中心軸xに対し直交する線分z上を、四つのアーム2、2…の自由端部23が移動されるように、この四つのアーム2、2…を往復動作させることにより、効率的にこの線分zに沿った向きに横方向に走行させることができる。(横走行)
【0046】
また、前記直進走行の終了後、各アーム2を肩ヒンジ部21を中心に90度回動させて横走行させ、この横走行の終了後、再び各アーム2を肩ヒンジ部21を中心に90度回動させた後、最初の直進走行のときに走行後方B側となっていた側を走行前方F側とするようにして各アーム2を往復動作させれば、浚渫装置を円滑にターンさせることができる。(図11)
【0047】
水底での浚渫装置の位置は、典型的には、浚渫装置から発信される超音波信号を台船などの二カ所に設けた受波装置によって受信することによりリアルタイムで検知することができる。浚渫装置の現実の位置と予定された位置との間にズレが生じている場合には、このズレを補正するように浚渫装置の各アーム2の動作を制御する。
【0048】
なお、以上に説明した実施の形態にあっては、装置本体1が四つのアーム2、2…を備えたものとなっているが、アーム2は四つ以上であっても良い。アーム2を四つ以上とした場合には、四つ以上の各アーム2の往復動作に時間差が生じるようにしてあっても、四つ以上の各アーム2のうちの少なくとも四つのアーム2、2…は往復動作に時間差を生じるように動作されるが、その余のアーム2はこの四つのアーム2、2…のどれかと時間差なく同じ周期で往復動作するようにしてあっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】浚渫装置の斜視構成図
【図2】同断面構成図
【図3】同平面構成図
【図4】同平面構成図
【図5】同平面構成図
【図6】同平面構成図
【図7】同平面構成図
【図8】アーム2の一つの往復動作の様子を示した要部構成図
【図9】アーム2の一つの往復動作の様子を示した要部構成図
【図10】直進の様子を示した平面構成図
【図11】左旋回の様子を示した平面構成図
【図12】四つのアーム2、2…の往復動作に時間差を生じさせる制御の様子を示した説明図(タイムチャート)
【符号の説明】
【0050】
P 吸泥ライン
Pa 端末
G 水底地盤
M 浚渫対象物
F 走行前方
B 走行後方
1 装置本体
10 吸泥口
2 アーム
20b スパッド
21 肩ヒンジ部
22 肘ヒンジ部
26 第一駆動手段
27 第二駆動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸泥ラインの端末に連通した吸泥口を有すると共に、スパッドを水底地盤に打ち込ませた着底状態で浚渫エリアを自走する浚渫装置であって、
装置本体の重心をとりまく少なくとも四箇所に隣り合うアームとの間に間隔を開けてそれぞれアームを有しており、
各アームはそれぞれ、このアームを装置本体に対し鉛直軸を中心に回動可能に組み付ける肩ヒンジ部と、鉛直軸を持った肘ヒンジ部とを有すると共に、自由端部にスパッドを上下動可能に有しており、
さらに、この各アームにおける肘ヒンジ部より先を肘ヒンジ部を中心として旋回させる第一駆動手段と、この各アームを肩ヒンジ部を中心として旋回させる第二駆動手段とを有しており、両駆動手段による旋回によってアームが伸長回動及び屈曲回動されるようにしてあり、
走行前方側にあるアームは、
スパッドを水底地盤に打ち込んで走行前方側に突き出した伸長状態から屈曲状態に至る一回の往動と、この屈曲状態からスパッドを水底地盤から引き抜いて走行前方側に再び突き出した伸長状態に至る一回の復動とを一サイクルとした往復動作を繰り返すようにしてあると共に、
走行後方側にあるアームは、
スパッドを水底地盤に打ち込んだ屈曲状態から走行後方側に突き出した伸長状態に至る一回の往動と、この伸長状態からスパッドを水底地盤から引き抜いて再び屈曲状態に至る一回の復動とを一サイクルとした往復動作を繰り返すようにしてあり、
しかも、各アームの前記往動が等速でなされるようにしてあると共に、各アームの往復動作に時間差を生じさせるように各アームの往復動作を制御させていることを特徴とする水中自走浚渫装置。
【請求項2】
装置本体に、浚渫装置の自走の過程において、上昇されるスパッドを支持するアームがあるときは、このアームの設置側と反対の側に装置本体の重心を偏らせ、かつ、下降されるスパッドを支持するアームがあるときは、このアームの設置側に装置本体の重心を偏らせる重心調整手段が備えられていることを特徴とする請求項1記載の水中自走浚渫装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−57267(P2006−57267A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238028(P2004−238028)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(390032517)株木建設株式会社 (7)