説明

水中走行装置

【課題】水底をスムーズに走行することが可能な水中走行装置を提供する。
【解決手段】車体と、車体に設けられた複数の走行体36aとを有し、走行体36aは、複数の回転自在な輪体55〜58と、これら輪体55〜58に巻装された無端回動体60とを有し、輪体55〜58は、前部輪体55と、後部輪体56と、これら前後部両輪体55,56間に配設された中間部輪体57と、駆動輪体58とからなり、後部輪体56と中間部輪体57とは水平面62から同じ高さにある基準位置Pに設けられ、前部輪体55は基準位置Pに対して上下方向へ揺動自在であり、前部輪体55を上下揺動させる上下揺動手段63が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底や湖底或は河川の底等の水底を走行する水中走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の水中走行装置としては、例えば図18に示すように、海底150を走行して、養殖漁場等の海底150に堆積した残滓物を吸引して海底150を清掃するものがある。この水中走行装置151は、車体152と、車体152の左右両側部に設けられたクローラ153と、車体152の左右両側上部に設けられたフローター154とを有している。
【0003】
クローラ153は、車体152に設けられた複数のローラ155,156,157と、これらローラ155,156,157に巻装されたベルト158とからなる。このうち、中間部のローラ157は前端部のローラ155と後端部のローラ156との間に配設され、前端部および後端部のローラ155,156は中間部のローラ157より上方に位置している。尚、前端部のローラ155はモータ(図示省略)によって回転駆動される。
【0004】
ベルト158は、前部先頭Fの中間部のローラ157と最後尾Lの中間部のローラ157との間において平坦な平坦経路部159を有し、前端部のローラ155と前部先頭Fの中間部のローラ157との間において平坦経路部159に対し斜め上向きに傾斜した上向傾斜経路部160を有している。
【0005】
これによると、水中走行装置151を海面に下ろし、フローター154内の空気を排出して浮力を減らすことにより、水中走行装置151を潜行させて海底150に着底させる。そして、前端部のローラ155を回転駆動させることにより、ベルト158が回動し、水中走行装置151が海底150を前進走行する。
【0006】
尚、上記のような水中走行装置については例えば下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−71128
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記の従来形式では、海底150が平坦である場合、ベルト158の上向傾斜経路部160は、海底150から上方に離れており、海底150に着底しない。したがって、図19に示すように、ベルト158の前後方向の全長Lに対してベルト158の着底部分の前後方向の長さL1が短くなり、ベルト158の着底面積(海底150に着底している面積)が減少する。
【0009】
例えば海底150に軟弱な浮泥162が堆積している場合、上記のようにベルト158の着底面積が減少すると、ベルト158がスリップして水中走行装置151の走行に支障を来たすという問題や大量の浮泥162が攪拌されて周囲の環境が悪化するといった問題
がある。
【0010】
上記のような問題の対策として、図20に示すように、前端部および後端部のローラ155,156を中間部のローラ157と同じ高さに設けた場合、上向傾斜経路部160は形成されず、ベルト158は前端部のローラ155と後端部のローラ156との間において平坦な平坦経路部159を有する。
【0011】
これにより、ベルト158の着底面積の減少は防止されるが、図20に示すように、走行方向前方の海底150に上り坂等の上向きの傾斜部161が存在する場合、仮想線で示すように、ベルト158の前端部が傾斜部161の表面から浮泥162の内部に潜り込んでしまい、大量の浮泥162が攪拌されて周囲の環境が悪化するといった問題や水中走行装置151の走行に支障を来たすといった問題がある。
【0012】
また、図18に示すように、海中においてフローター154内の空気の量を増減させることにより、水中走行装置151の浮力を調整して水中走行装置151の姿勢を左右方向に傾けて調節することが可能であるが、このような水中走行装置151の姿勢調節は大まかで精度が悪く、水中走行装置151の姿勢を迅速且つ正確に微調節することは困難であるという問題がある。
【0013】
本発明は、水底をスムーズに走行することが可能であり、また、水中における姿勢を迅速且つ正確に微調節することが可能な水中走行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本第1発明は、水底を走行する水中走行装置であって、
車体と、車体に設けられた走行体とを有し、
走行体は、複数の回転自在な輪体と、これら輪体に巻装された無端回動体とを有し、
輪体は、前部輪体と、後部輪体と、これら前後部両輪体間に配設された中間部輪体からなり、
後部輪体と中間部輪体とは水平面から同じ高さにある基準位置に設けられ、
前部輪体は基準位置に対して上下方向へ揺動自在であり、
前部輪体を上下揺動させる上下揺動手段が設けられているものである。
【0015】
これによると、輪体が回転して無端回動体が回動することにより、水中走行装置が水底を走行する。この際、水底が平坦であれば、前部輪体を基準位置に保つことにより、前部輪体と中間部輪体と後部輪体とが共に基準位置となり、平坦な平坦経路部が前部輪体から後部輪体に至る範囲で無端回動体に形成され、無端回動体は前部輪体から後部輪体にわたり水底に着底する。このため、無端回動体の着底部分の前後方向の長さが短くならず、無端回動体の着底面積の減少を防止することができる。これにより、無端回動体のスリップを防止することができ、水底に堆積した泥等の攪拌が抑制され、環境の悪化を防止することができるとともに、水底をスムーズに走行することが可能である。
【0016】
また、走行方向前方の水底に上向きの傾斜部が存在する場合、前部輪体を基準位置から上方へ揺動させることにより、平坦な平坦経路部が中間部輪体と後部輪体との間で無端回動体に形成されるとともに、平坦経路部に対し斜め上向きに傾斜した上向傾斜経路部が前部輪体と中間部輪体との間で無端回動体に形成される。
【0017】
これにより、無端回動体の上向傾斜経路部が水底の傾斜部に添って着底するとともに、無端回動体の平坦経路部が水底の平坦部に着底する。これにより、無端回動体の前端部が水底の傾斜部の表面から内部に潜り込むことを防止することができ、水底に堆積した泥等の攪拌が抑制され、環境の悪化を防止することができるとともに、水底をスムーズに走行することが可能である。
【0018】
また、前方の水底に下向きの傾斜部が存在する場合、前部輪体を基準位置から下方へ揺動させることにより、平坦経路部に対し斜め下向きに傾斜した下向傾斜経路部が前部輪体と後部輪体との間で無端回動体に形成される。
【0019】
これにより、無端回動体の下向傾斜経路部が水底の傾斜部に添って着底するため、無端回動体のスリップを防止することができ、水底に堆積した泥等の攪拌が抑制され、環境の悪化を防止することができるとともに、水底をスムーズに走行することが可能である。
【0020】
本第2発明における水中走行装置は、前部輪体が基準位置にある場合、無端回動体は前部輪体と後部輪体との間において平坦な平坦経路部を有し、
前部輪体が基準位置よりも上方にある場合、無端回動体は中間部輪体と後部輪体との間において平坦な平坦経路部を有し、且つ、前部輪体と中間部輪体との間において平坦経路部に対し前方斜め上向きに傾斜した上向傾斜経路部を有し、
前部輪体が基準位置よりも下方にある場合、無端回動体は前部輪体と後部輪体との間において平坦経路部に対し前方斜め下向きに傾斜した下向傾斜経路部を有するものである。
【0021】
これによると、水底が平坦であれば、前部輪体を基準位置に保つことにより、平坦経路部が前部輪体から後部輪体に至る範囲で無端回動体に形成され、無端回動体の平坦経路部が着底する。
【0022】
また、水底に上向きの傾斜部が存在する場合、前部輪体を基準位置から上方へ揺動させることにより、平坦経路部が中間部輪体と後部輪体との間で無端回動体に形成されるとともに、上向傾斜経路部が前部輪体と中間部輪体との間で無端回動体に形成される。これにより、無端回動体の上向傾斜経路部が水底の傾斜部に添って着底するとともに、無端回動体の平坦経路部が水底の平坦部に着底する。
【0023】
また、水底に下向きの傾斜部が存在する場合、前部輪体を基準位置から下方へ揺動させることにより、下向傾斜経路部が前部輪体と後部輪体との間で無端回動体に形成される。これにより、無端回動体の下向傾斜経路部が水底の傾斜部に添って着底する。
【0024】
本第3発明における水中走行装置は、前部輪体と中間部輪体との間隔を拡縮する拡縮手段が設けられているものである。
これによると、前部輪体を基準位置から上下方向へ揺動させる際、拡縮手段を用いて前部輪体と中間部輪体との間隔を拡大することにより、無端回動体の弛みを防止することができる。また、前部輪体を基準位置に戻す際、拡縮手段を用いて前部輪体と中間部輪体との間隔を縮小することにより、無端回動体に過大な張力が作用するのを防止することができる。
【0025】
本第4発明における水中走行装置は、前部輪体は、上下方向に揺動自在で且つ前後方向に伸縮自在な伸縮部材の遊端部に、前後移動自在に設けられ、
伸縮部材の遊端部に、前部輪体を伸縮部材の伸長方向へ付勢する付勢手段が設けられているものである。
【0026】
これによると、伸縮部材を揺動することによって、前部輪体が上下方向に揺動し、伸縮部材を伸縮することによって、前部輪体と中間部輪体との間隔が拡縮される。
また、前部輪体は、付勢手段により、伸縮部材に対して伸長方向へ付勢されているため、無端回動体に作用する張力をほぼ一定に保つことができる。これにより、張力が不足して無端回動体が外れたり或は過大な張力が発生して無端回動体が損傷するといった不具合を防止することができる。
【0027】
本第5発明における水中走行装置は、車体に、浮力調整装置が横方向へ移動自在に設けられ、
浮力調整装置を移動させる移動手段が設けられているものである。
【0028】
これによると、移動手段を用いて浮力調整装置を横方向へ移動させることにより、水中における水中走行装置の姿勢を迅速且つ正確に微調節することができる。
本第6発明は、水底を走行する水中走行装置であって、
車体と、車体に設けられた走行体とを有し、
車体に、浮力調整装置が横方向へ移動自在に設けられ、
浮力調整装置を移動させる移動手段が設けられているものである。
【0029】
これによると、移動手段を用いて浮力調整装置を横方向へ移動させることにより、水中における水中走行装置の姿勢を迅速且つ正確に微調節することができる。
本第7発明における水中走行装置は、浮力調整装置は、内部に形成された浮力調整室と、外部の水を浮力調整室に出し入れする出し入れ装置と、浮力調整室内と水面上の大気とに連通する連通管とを有するものである。
【0030】
これによると、出し入れ装置を用いて外部の水を浮力調整室内に注入することにより、浮力調整室内の空気が連通管を通って水面上に排気されるため、浮力が低下する。また、出し入れ装置を用いて浮力調整室内の水を外部へ排出することにより、水面上の大気(空気)が連通管を通って浮力調整室内に吸入されるため、浮力が増加する。このようにして浮力を増減することで、水中走行装置を浮上させたり潜行させることができる。
【0031】
また、浮力調整装置を横方向へ移動させることにより、水中における水中走行装置の前後左右のバランスを微調節することができる。
本第8発明における水中走行装置は、浮力調整装置は、複数設けられ、前後左右方向が径方向となる円形状の移動経路上を移動自在であるものである。
【0032】
これによると、浮力調整装置が移動経路上を移動することにより、水中における水中走行装置の姿勢を迅速且つ正確に微調節することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明によると、水底をスムーズに走行することが可能であり、水底に堆積した堆積物(例えば泥等)の攪拌が抑制され、環境の悪化を防止することができる。また、水中における姿勢を迅速且つ正確に微調節することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態における水中走行装置を備えた堆積物回収設備の概略側面図である。
【図2】同、堆積物回収設備の概略平面図である。
【図3】同、堆積物回収設備の濃縮設備の構成を示す図である。
【図4】同、堆積物回収設備の成形設備の構成を示す図である。
【図5】同、水中走行装置の側面図である。
【図6】同、水中走行装置の平面図である。
【図7】同、水中走行装置の走行体の側面図である。
【図8】同、水中走行装置の走行体の上下揺動手段と拡縮手段との一部切欠き側面図である。
【図9】同、水中走行装置の走行体の上下揺動手段と拡縮手段との一部切欠き平面図である。
【図10】図9におけるX−X矢視図である。
【図11】同、水中走行装置の走行体の拡縮手段の動作を示す一部切欠き側面図であり、(a)は前部ローラと中間部ローラとの間隔を縮小した状態、(b)は前部ローラと中間部ローラとの間隔を拡大した状態を示す。
【図12】図8におけるX−X矢視図である。
【図13】同、水中走行装置の浮力調整装置の縦断面図である。
【図14】同、水中走行装置の前部車体の平面図である。
【図15】同、水中走行装置の走行体の側面図であり、前方の平坦な海底を走行する状態を示す。
【図16】同、水中走行装置の走行体の側面図であり、平坦部から上向きの傾斜部を走行する状態を示す。
【図17】同、水中走行装置の走行体の側面図であり、平坦部から下向きの傾斜部を走行する状態を示す。
【図18】従来の水中走行装置の図であり、(a)は側面図、(b)は平面図を示す。
【図19】同、水中走行装置の上向傾斜経路部を有するクローラの側面図である。
【図20】同、水中走行装置の上向傾斜経路部を有していないクローラの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明における実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1,図2に示すように、1は、海底7(水底の一例)に堆積した浮泥2(堆積物の一例)等の軟弱層を回収する堆積物回収設備である。尚、浮泥2は、有害物質を含んでおり、微生物が生息する有益な泥の上に堆積している。
【0036】
以下に、堆積物回収設備1の全体構成を説明する。
堆積物回収設備1は、回収船3と、海底7を走行して浮泥2を回収する複数の水中走行装置4とを備えている。回収船3は、作業台船5と、作業台船5に連結された再処理プラント船6とで構成されている。回収船3には、水中走行装置4によって回収された浮泥2を処理する処理設備8が設けられている。
【0037】
作業台船5には、クレーン9と、各水中走行装置4を遠隔操作する操作室10と、各水中走行装置4に備えられた受信機11との間で通信を行う送信機12とが設けられている。
【0038】
処理設備8は、水中走行装置4によって回収された浮泥2を濃縮して生コンクリートに混入し、処理製品としての消波ブロック14(コンクリート製品の一例)を製作するものである。図3,図4に示すように、処理設備8は、回収された浮泥2を濃縮する濃縮設備15と、濃縮された浮泥2(以下、濃縮浮泥と記載)を生コンクリートに混入して消波ブロック14を成形する成形設備16とからなる。
【0039】
濃縮設備15は、浮泥2中の粗ゴミ等の固形物を分離する篩い分け部17と、浮泥2中の微粒子を凝集させて沈降させる凝集部18と、浮泥2中の液体(海水)と固形物とを分離する固液分離部19とを備えており、作業台船5上に設置されている。
【0040】
篩い分け部17はスクリーン20を有している。凝集部18は、スクリーン20の下流側に設置された複数の凝集タンク21と、凝集タンク21に沈降促進剤を投入する沈降促進剤タンク22とを有している。凝集タンク21には、凝集タンク21内の上澄み液(海水)を排水する排液部21aと、凝集タンク21内の底部に沈殿した濃縮浮泥を排出する排出部21bとが設けられている。固液分離部19は凝集タンク21の下流側に設置された遠心分離機23を有している。
【0041】
遠心分離機23は、凝集タンク21の排出部21bから排出された濃縮浮泥を導入する流入部24と、導入された濃縮浮泥から分離された分離液(海水)を排出する分離液排出部25と、遠心分離された濃縮浮泥を取り出す取出部26とを有している。
【0042】
図4に示すように、成形設備16は、セメントと水と骨材(砂・砂利)とを混合して生コンクリートを作る生コン生成部27と、遠心分離機23の取出部26から取り出された濃縮浮泥とスクリーン20で除去された粗ゴミとを生コンクリートに混入する混入部28と、濃縮浮泥および粗ゴミを混入した生コンクリートを型枠に流し込んで消波ブロック14を成形する成形部29と、乾燥後、消波ブロック14を型枠から取り出す脱型部30とを備えており、再処理プラント船6上に設置されている。尚、取出部26から取り出された濃縮浮泥は搬送ポンプ31等の搬送手段によって混入部28に送られる。また、スクリーン20で除去された粗ゴミはベルトコンベヤ等の搬送手段によって混入部28に送られる。
【0043】
次に、各水中走行装置4の構成について説明する。
図5,図6に示すように、水中走行装置4は、車体35と、車体35の前後左右四箇所に設けられた複数のクローラ式の走行体36a〜36dを有している。車体35は前部車体37と後部車体38とに前後二分割されており、前部車体37と後部車体38とは回転胴39を介して接続されている。尚、前部車体37と後部車体38とは、回転胴39の部分が回転することにより、前後方向軸心40周りに相対的に回動自在である。
【0044】
前部車体37には、ライト等の前部照明装置41および昇降自在な中央部照明装置52と、人の掌の形状を有するロボットアーム42と、浮泥2を吸引する吸引ポンプ43(吸引装置の一例)と、浮泥2を吸引ポンプ43の吸込口に掻き集める昇降自在な回収装置44と、前方の地形を撮影する水中カメラ等の前部撮像装置53aと、水中走行装置4の前端部分を含めた前方を撮影する水中カメラ等の中央部撮像装置53bとが設けられている。
【0045】
吸引ポンプ43によって吸引された浮泥2は移送手段45によって処理設備8に移送される。図1〜図3,図5,図6に示すように、移送手段45は、吸引ポンプ43の吐出側と作業台船5上のスクリーン20の供給側との間に接続された回収ホース46(回収管路の一例)と、回収ホース46の途中に設けられて海面に浮かぶ中継ブイ47(中継浮体の一例)を有している。
【0046】
回収装置44は、左右方向に延びた回転軸48の外周に螺旋状のスクリュー羽根49を設けた構造を有し、モータ等で回転軸48を一方向に回転することにより、海底7の浮泥2が、スクリュー羽根49の回転によって中央に掻き寄せられ、吸引ポンプ43の吸込口に集められる。尚、スクリュー羽根49の方向は左右で逆ねじの関係となっている。
【0047】
後部車体38には、ライト等の後部照明装置50と、プロペラからなる推進装置51と、後方の地形を撮影する水中カメラ等の後部撮像装置53cとが設けられている。また、前部車体37の左右二箇所と後部車体38の左右二箇所には、水底(海底7又は湖底或は河川の底)の傾斜を測定する傾斜測定器54が設けられ、傾斜測定器54として例えば超音波センサー等が用いられている。さらに、車体35には、水平面に対する車体35の前後方向の傾きを計測する前後姿勢検知器97aと、水平面に対する前部車体37の左右方向の傾きを計測する前部左右姿勢検知器97bと、水平面に対する後部車体38の左右方向の傾きを計測する後部左右姿勢検知器97cとが設けられている。
【0048】
図7に示すように、各走行体36a〜36dはそれぞれ、前部ローラ55(前部輪体の一例)と、後部ローラ56(後部輪体の一例)と、これら前後部両ローラ55,56間に配設された中間部ローラ57(中間部輪体の一例)と、走行用モータ(図示省略)で回転駆動される駆動ローラ58(駆動輪体の一例)と、テンションローラ59(テンション輪体の一例)と、ローラ55〜58に巻装された走行ベルト60(無端回動体の一例)を有している。
【0049】
このうち、後部ローラ56と中間部ローラ57と駆動ローラ58とテンションローラ59とは車体35に回転自在に設けられ、駆動ローラ58は後部ローラ56と中間部ローラ57との前後中間部の上方に位置している。また、テンションローラ59は後部ローラ56と駆動ローラ58との間において走行ベルト60を外側から押圧している。尚、前部および後部および中間部および駆動ローラ55〜58は同径であるが、径が異なっていてもよい。
【0050】
後部ローラ56の回転軸心と中間部ローラ57の回転軸心69とは水平面62から同じ高さにある基準位置Pに設けられている。尚、基準位置Pは後部ローラ56の回転軸心から中間部ローラ57の回転軸心69を通る延長線上に設定されている。
【0051】
前部ローラ55は基準位置Pに対して上下方向へ揺動自在であり、前部ローラ55を上下揺動させる上下揺動手段63が車体35に設けられている。図8〜図10に示すように、上下揺動手段63は、上下方向に揺動自在で且つ前後方向に伸縮自在な伸縮部材64と、伸縮部材64を上下揺動させる揺動機構65とから構成されている。
【0052】
伸縮部材64の後部は左右一対の支軸66a,66bに支持されており、これら支軸66a,66bは、車体35に設けられた左右一対の車体フレーム67a,67bにブッシュ68を介して取り付けられ、車幅方向(左右方向)の同一軸心69上に配置され、この軸心69周りに回動自在である。尚、中間部ローラ57は、ブッシュ68を介して支軸66a,66bに外嵌されており、支軸66a,66bに対して相対的に回転自在である。
【0053】
揺動機構65は、左右内側の車体フレーム67bに取り付けられた揺動用モータ70と、揺動用モータ70の回転を左右内側の支軸66bに伝達する伝達機構78とを有している。尚、伝達機構78は、揺動用モータ70の出力軸71に設けられた駆動歯車72と、左右内側の支軸66bに設けられて駆動歯車72に歯合する従動歯車73とを有している。また、揺動機構65は、車体フレーム67bに設けられた防水ケース74内に収納されている。
【0054】
前部ローラ55は、伸縮部材64の前端部(遊端部)に、前後移動自在に設けられている。図8〜図11に示すように、伸縮部材64は、円筒状のハウジング75と、ハウジング75内に前後移動自在に挿入された円筒状のロッド76と、ロッド76の先端に設けられた先端部材77とを有している。
【0055】
また、伸縮部材64の後端部には、伸縮部材64を伸縮させる伸縮機構79が設けられている。伸縮機構79は、ロッド76の後端に設けられたナット体80と、ロッド76内に挿入されてナット体80に螺合するボールねじ81と、ボールねじ81を回転させる伸縮用モータ82と、伸縮用モータ82の回転をボールねじ81に伝達する伝達機構83とを有している。
【0056】
尚、ボールねじ81はハウジング75の後端部にベアリング98を介して回転自在に保持されている。図8,図12に示すように、伝達機構83は、ボールねじ81の後端と伸縮用モータ82の出力軸84との間に設けられた回転軸85と、出力軸84に設けられた駆動側ベベルギヤ86と、回転軸85の上端に設けられて駆動側ベベルギヤ86に歯合する従動側ベベルギヤア87と、回転軸85の下端に設けられたウォームギヤ88と、ボールねじ81の後端部に設けられてウォームギヤ88に歯合するウォームホイール89とを有している。
【0057】
伸縮用モータ82はハウジング75の後端部に設けられたフランジ部90に取付固定されている。また、伸縮用モータ82と伝達機構83とは、ハウジング75の後端部に設けられた防水ケース91内に収納されている。尚、上記伸縮部材64と伸縮機構79とによって、前部ローラ55と中間部ローラ57との間隔Aを拡縮する拡縮手段92が構成されている。
【0058】
伸縮部材64の先端部材77は、ロッド76の先端に固定された固定部材93と、固定部材93に対して伸縮部材64の伸縮方向へ移動自在な可動部材94とを有している。前部ローラ55は可動部材94に回転自在に設けられている。また、先端部材77には、可動部材94と共に前部ローラ55を伸縮部材64の伸長方向へ付勢するコイルスプリング95(付勢手段の一例)が設けられている。
【0059】
図5,図6に示すように、前部車体37の上部には、左右一対の前部浮力調整装置101a,101bが設けられ、後部車体38の上部には、左右一対の後部浮力調整装置102a,102bが設けられている。前部浮力調整装置101a,101bは前後左右方向(横方向)が径方向となる円形状の前部移動経路103上を移動自在である。すなわち、前部車体37の上部には、前部移動経路103に沿って、リング状のガイド部材104が設けられている。図13に示すように、各前部浮力調整装置101a,101bの底部には、ガイド部材104に支持案内されて前部移動経路103上をスライドするスライドベアリング105が設けられている。また、各前部浮力調整装置101a,101bにはそれぞれ、これら前部浮力調整装置101a,101bを移動させる移動手段106が設けられている。
【0060】
図13,図14に示すように、前部浮力調整装置101a,101bはそれぞれ、平面視において円弧形状に形成され且つ中空構造を有するフロート本体107と、フロート本体107の内部に形成された浮力調整室108および移動用モータ収納室109と、外部の水(海水又は淡水)を浮力調整室108内に注入する注水用ポンプ110(出し入れ装置の一例)と、浮力調整室108内の水を外部へ排水する排水用ポンプ111(出し入れ装置の一例)と、浮力調整室108内と水面(海面又は湖面或は川面)上の大気とに連通するエアホース112(連通管の一例)とを有している。
【0061】
注水用ポンプ110は、フロート本体107に設けられた注水管113を介して、フロート本体107の外部に設けられている。排水用ポンプ111は、フロート本体107に設けられた排水管114を介して、フロート本体107の外部に設けられている。注水管113と排水管114との先端部には、注水用電磁弁115と排水用電磁弁116が設けられている。また、エアホース112の一端部はフロート本体107に接続され、他端部は中継ブイ47に支持されている。
【0062】
移動手段106は、ガイド部材104の内周面に全周にわたり設けられたラックギヤ120と、移動用モータ収納室109内に収納された移動用モータ121と、移動用モータ121の出力軸122に設けられてラックギヤ120に歯合する駆動歯車123とで構成されている。尚、出力軸122の先端部は移動用モータ収納室109内からフロート本体107の下方外部に突出しており、防水シール124でシールされている。
【0063】
また、図5,図6に示すように、後部浮力調整装置102a,102bも、前部浮力調整装置101a,101bと同様に構成されており、移動手段106によって後部移動経路126上を移動自在である。
【0064】
尚、水中走行装置4の各モータ70,82,121やポンプ110,111、推進装置51等の駆動装置や照明装置41,50,52、撮像装置53、測定器54等を作動させるための電力は作業台船5から電源ケーブル(図示省略)を介して各水中走行装置4に供給される。
【0065】
以下、上記構成における作用を説明する。
先ず、水中走行装置4の走行体36a〜36dの作用を以下に説明する。
各走行体36a〜36dの駆動ローラ58を回転駆動することにより、走行ベルト60が回動すると共に各ローラ55〜57,59が回転し、水中走行装置4が水底(海底7又は湖底或は川底等)を走行する。また、図9,図10に示した揺動用モータ70を正駆動することにより、支軸66a,66bが一方向に回動し、図8に示すように、支軸66a,66bを支点として伸縮部材64が上方へ揺動し、前部ローラ55が上方へ揺動する。反対に、揺動用モータ70を逆駆動することにより、支軸66a,66bが他方向に回動し、支軸66a,66bを支点として伸縮部材64が下方へ揺動し、前部ローラ55が下方へ揺動する。これにより、前部ローラ55を、基準位置Pと、基準位置Pよりも上方位置P1と、基準位置Pよりも下方位置P2とに揺動させることができる。尚、揺動用モータ70の制御は操作室10から遠隔操作で行われる。
【0066】
図7の実線で示すように、前部ローラ55を基準位置Pにした場合、走行ベルト60には、前部ローラ55と後部ローラ56との間において平坦な平坦経路部128が形成される。また、図7の仮想線で示すように、前部ローラ55を上方位置P1にした場合、走行ベルト60には、中間部ローラ57と後部ローラ56との間において平坦な平坦経路部129が形成され、且つ、前部ローラ55と中間部ローラ57との間において平坦経路部129に対し前方斜め上向きに傾斜した上向傾斜経路部130が形成される。さらに、図7の仮想線で示すように、前部ローラ55を下方位置P2にした場合、走行ベルト60には、前部ローラ55と後部ローラ56との間において平坦経路部128に対し前方斜め下向きに傾斜した下向傾斜経路部131が形成される。
【0067】
また、図8,図9に示した伸縮用モータ82を正駆動することにより、ボールねじ81が一方向に回転し、図11(b)に示すように、ナット体80が前方へ送られ、ハウジング75に対してロッド76が前方へ移動する。これにより、伸縮部材64が伸長し、前部ローラ55と中間部ローラ57との間隔Aが拡大される。
【0068】
反対に、伸縮用モータ82を逆駆動することにより、ボールねじ81が他方向に回転し、図11(a)に示すように、ナット体80が後方へ送られ、ハウジング75に対してロッド76が後方へ移動する。これにより、伸縮部材64が短縮し、前部ローラ55と中間部ローラ57との間隔Aが縮小される。
【0069】
上記のように、前部ローラ55を基準位置Pから上方又は下方に揺動させた際(図7の仮想線参照)、前部ローラ55と中間部ローラ57との間隔Aを拡大することにより、走行ベルト60の弛みを防止することができる。
【0070】
また、前部ローラ55を基準位置Pに戻した際(図7の実線参照)、前部ローラ55と中間部ローラ57との間隔Aを縮小することにより、走行ベルト60に過大な張力が作用するのを防止することができる。
【0071】
さらに、前部ローラ55は、コイルスプリング95により、伸縮部材64の固定部材93に対し伸長方向(前方)へ付勢されているため、走行ベルト60に作用する張力をほぼ一定に保つことができる。これにより、張力が不足して走行ベルト60が外れたり或は過大な張力が発生して走行ベルト60が損傷するといった不具合を防止することができる。
【0072】
次に、水中走行装置4の浮力調整装置101a,101b,102a,102bの作用を以下に説明する。
図13に示すように、排水用電磁弁116を閉じ、排水用ポンプ111を停止させた状態で、注水用電磁弁115を開き、注水用ポンプ110を駆動させることにより、外部の水が注水管113を通って浮力調整室108内に注水され、浮力調整室108内の空気がエアホース112を通って水面上に排気される。これにより、フロート本体107の浮力が低下する。
【0073】
また、排水用電磁弁116を開き、排水用ポンプ111を駆動させるとともに、注水用電磁弁115を閉じ、注水用ポンプ110を停止させることにより、浮力調整室108内の水が排水管114を通って外部へ排出され、水面上の大気(空気)がエアホース112を通って浮力調整室108内に吸入される。これにより、フロート本体107の浮力が増加する。
【0074】
上記のようにして各浮力調整装置101a,101b,102a,102bのフロート本体107の浮力を増減することで、水中走行装置4を浮上させたり或は潜行させることができる。
【0075】
また、各浮力調整装置101a,101b,102a,102bの移動用モータ121を駆動させることにより、駆動歯車123が回転し、フロート本体107がガイド部材104に支持案内されて、移動経路103,126上を移動する。これにより、水中における水中走行装置4の姿勢を迅速且つ正確に微調節することが可能である。
【0076】
次に、水中走行装置4の使用方法を以下に説明する。
上記のようにしてフロート本体107の浮力を低下させることにより、図1に示すように、水中走行装置4を海面から潜行させることができる。この際、例えば、海底7が後方ほど低く傾斜している場合、海底7の傾斜を傾斜測定器54が測定し、この測定値に基づいて後部浮力調整装置102a,102bのフロート本体107の浮力を前部浮力調整装置101a,101bのフロート本体107の浮力よりも小さくすることで、水中走行装置4が前部よりも後部を低くした傾斜姿勢となり、海底7の傾斜に応じた傾斜姿勢で水中走行装置4を着底させることができる。
【0077】
この際、図6および図14の仮想線で示すように、各浮力調整装置101a,101b,102a,102bのフロート本体107を移動経路103,126に沿って移動させることにより、水中走行装置4の傾斜姿勢を迅速且つ正確に微調節できる。例えば、前部浮力調整装置101a,101bのフロート本体107を前部移動経路103の前部に移動させ、後部浮力調整装置102a,102bのフロート本体107を後部移動経路126の前部に移動させることにより、水平面に対する水中走行装置4の傾斜角度を僅かに増やすことができる。
【0078】
また、前部浮力調整装置101a,101bのフロート本体107を前部移動経路103の後部に移動させ、後部浮力調整装置102a,102bのフロート本体107を後部移動経路126の後部に移動させることにより、水平面に対する水中走行装置4の傾斜角度を僅かに減らすことができる。
【0079】
また、上記と同様にして、各浮力調整装置101a,101b,102a,102bのフロート本体107の浮力を個別に増減させて調節することにより、海底7の傾斜に応じて、水中走行装置4を、後部よりも前部を低くした傾斜姿勢にしたり、或は、前後方向の傾斜姿勢だけではなく、左右方向に傾斜した傾斜姿勢にすることができる。このような、様々な姿勢においても、上記のように、各浮力調整装置101a,101b,102a,102bのフロート本体107を移動経路103,126に沿って個別に移動させることにより、水中走行装置4の姿勢を迅速且つ正確に微調節できる。この際、水中走行装置4の車体35の姿勢(前後左右の傾き)は姿勢検知器97a〜97cによって検出され、この検出値に基づいて、水中走行装置4が海底7の傾斜に応じた姿勢に制御される。
【0080】
水中走行装置4を着底させた後、水中走行装置4を走行させる。この際、図15に示すように、走行方向前方の海底7が平坦であれば、前部および中央部撮像装置53a,53b(図6参照)によって平坦な海底7の映像が得られ、この映像に基づいて各走行体36a〜36dの前部ローラ55を基準位置Pに保つことにより、平坦経路部128が前部ローラ55から後部ローラ56に至る範囲で走行ベルト60に形成され、走行ベルト60の平坦経路部128が着底するため、走行ベルト60の着底部分の前後方向の長さLが短くならず、走行ベルト60の着底面積の減少を防止することができる。これにより、海底7に浮泥2等の堆積物が堆積している場合であっても、走行ベルト60のスリップを防止することができ、大量の浮泥2を巻き上げることなく、海底7をスムーズに走行することが可能である。
【0081】
また、図16に示すように、走行方向の前方に上向きの傾斜部133が存在する場合、前部および中央部撮像装置53a,53bによって傾斜部133の映像が得られ、この映像に基づいて前部の走行体36a,36bの前部ローラ55を基準位置Pから上方位置P1へ揺動させることにより、平坦経路部129が中間部ローラ57と後部ローラ56との間で走行ベルト60に形成されるとともに、上向傾斜経路部130が前部ローラ55と中間部ローラ57との間で走行ベルト60に形成される。
【0082】
これにより、前部の走行体36a,36bの走行ベルト60の上向傾斜経路部130が海底7の傾斜部133に着底するとともに、走行ベルト60の平坦経路部129が海底7の平坦部134に着底する。これにより、前部の走行体36a,36bの走行ベルト60の前端部が傾斜部133の表面から浮泥2の内部に潜り込むことを防止することができる。
【0083】
また、後部の走行体36c,36dについても、同様に、前部ローラ55を基準位置Pから上方位置P1へ揺動させて、走行ベルト60に上向傾斜経路部130と平坦経路部129とを形成することにより、後部の走行体36c,36dの走行ベルト60の前端部が傾斜部133の表面から浮泥2の内部に潜り込むことを防止することができる。これにより、大量の浮泥2を巻き上げることなく、傾斜部133をスムーズに走行することが可能である。
【0084】
また、図17に示すように、走行方向の前方に下向きの傾斜部135が存在する場合、前部および中央部撮像装置53a,53bによって傾斜部135の映像が得られ、この映像に基づいて前部の走行体36a,36bの前部ローラ55を基準位置Pから下方位置P2へ揺動させることにより、下向傾斜経路部131(図7参照)が前部ローラ55と後部ローラ56との間で走行ベルト60に形成される。
【0085】
これにより、前部の走行体36a,36bの走行ベルト60の下向傾斜経路部131が海底7の傾斜部135に添って着底するため、走行ベルト60のスリップを防止することができる。
【0086】
また、後部の走行体36c,36dについても、同様に、前部ローラ55を基準位置Pから下方位置P2へ揺動させて、走行ベルト60に下向傾斜経路部131を形成することにより、後部の走行体36c,36dの走行ベルト60のスリップを防止することができる。これにより、大量の浮泥2を巻き上げることなく、海底7をスムーズに走行することが可能である。
【0087】
尚、上記のように海底7の傾斜部133,135において、前部ローラ55を上方位置P1と下方位置P2とに揺動させているが、上向きの傾斜部133の傾斜角度の緩急に応じて、前部ローラ55を基準位置Pと上方位置P1との間の位置まで揺動させてもよい。同様に、下向きの傾斜部135の傾斜角度の緩急に応じて、前部ローラ55を基準位置Pと下方位置P2との間の位置まで揺動させてもよい。
【0088】
また、図5,図6に示すように、走行時、海底7の起伏に応じて、水中走行装置4の前部車体37と後部車体38とが回転胴39を介して前後方向軸心40周りに相対的に回動するため、各走行体36a〜36dは、確実に海底7に着底し、海底7から浮き上がるのを防止することができる。
【0089】
次に、堆積物回収設備1を用いて、海底7に堆積した浮泥2を回収する方法を以下に説明する。
水中走行装置4を作業台船5上に搭載し、作業台船5と再処理プラント船6とを海上の目的地まで航行させる。その後、図1に示すように、クレーン9を使って水中走行装置4を海面に下ろす。そして、操作室10からの遠隔操作により浮力調整装置101a,101b,102a,102bを操作してフロート本体107の浮力を減らし、水中走行装置4を潜行させて海底7に着底させる。
【0090】
その後、図5,図6に示すように、吸引ポンプ43を駆動することにより、海底7に堆積した浮泥2が吸引ポンプ43で吸引される。この際、回収装置44のスクリュー羽根49を回転させることにより、浮泥2がスクリュー羽根49によって吸引ポンプ43の吸込口に寄せ集められる。
【0091】
吸引ポンプ43で吸引された浮泥2は、回収ホース46を通って作業台船5上に移送され、図3に示すように、スクリーン20に供給され、スクリーン20において浮泥2から粗ゴミ等の固形物が分離され、粗ゴミ等の固形物は混入部28に搬送される。
【0092】
上記のようにして粗ゴミ等が除去された浮泥2はスクリーン20から凝集タンク21に貯留され、沈降促進剤タンク22から投入された沈降促進剤によって、浮泥2中の微粒子が凝集して沈降する。
【0093】
凝集タンク21内の上澄み液は排液部21aから海へ排水され、凝集タンク21内の濃縮浮泥は、排出部21bから排出され、その後、流入部24から遠心分離機23の内部に導入されて遠心分離される。この際、濃縮浮泥から分離された分離液は遠心分離機23の分離液排出部25から海へ排出される。また、遠心分離後の濃縮浮泥は、搬送ポンプ31により、遠心分離機23の取出部26から取り出されて混入部28に送られる。
【0094】
そして、図4に示すように、混入部28に送られた濃縮浮泥と粗ゴミとは、生コンクリートに混入され、成形部29において、生コンクリートと共に型枠に流し込まれる。これにより、消波ブロック14が成形され、乾燥後、脱型部30において消波ブロック14を型枠から取り出すことで、コンクリート製の消波ブロック14が製作される。
【0095】
これにより、図1に示すように、回収船3上で浮泥2から消波ブロック14が製作され、その後、クレーン9を使って消波ブロック14を再処理プラント船6上から海中に投入することによって、浮泥2を、陸揚げすることなく、回収船3上で処理することができる。これにより、陸上における環境の悪化を防止することができる。
【0096】
また、水中走行装置4を走行させることにより、容易に海底7の広範囲の浮泥2を吸引することができ、環境を破壊せずに有害な浮泥2を海底から効率良く除去することができる。
【0097】
作業終了後、浮力調整装置101a,101b,102a,102bを操作してフロート本体107の浮力を増し、水中走行装置4を海面へ浮上させた後、クレーン9を使って水中走行装置4を作業台船5上に回収する。
【0098】
上記実施の形態では、コンクリート製品の一例として消波ブロック14を製作しているが、消波ブロック14に限定されるものではなく、消波ブロック14以外の海や湖又は河川等で使用されるコンクリート製品を製作してもよく、例えばコンクリート製の漁礁等を製作してもよい。
【0099】
また、上記のように浮泥2を海底から回収して除去し、陸揚げすることなく、回収船3上で浮泥2を利用してコンクリート製品を製作することができるため、浮泥2を産業廃棄物とせずに有効利用でき、環境の異変を食い止めることができる。また、コンクリート製品として漁礁等を製作することにより、自然の再生に寄与することが可能であり、さらに、魚類等の海産物資源の安定供給を図ることができ、新産業の育成や経済的効果の波及も期待できる。
【0100】
上記実施の形態では、図5に示すように、前部ローラ55と後部ローラ56との間に中間部ローラ57を一個設けたが、中間部ローラ57を前後複数個設けてもよい。また、駆動ローラ58を設けたが、駆動ローラ58を設けず、前部ローラ55又は後部ローラ56をモータ等で強制的に回転駆動してもよい。
【0101】
上記実施の形態では、図6に示すように、水中走行装置4の車体35に走行体36a〜36dを前後左右四個設けたが、左右二個設けてもよく、或は、二個又は四個以外の複数個設けてもよい。
【0102】
上記実施の形態では、図6に示すように、水中走行装置4の車体35に浮力調整装置101a,101b,102a,102bを前後左右四個設けたが、四個以外の複数個設けてもよい。
【0103】
上記実施の形態では、図5,図6に示すように、水中走行装置4の車体35を前部車体37と後部車体38とに前後二分割しているが、分割していない構成であってもよい。また、前後三分割以上に複数分割してもよい。
【0104】
上記実施の形態では、図6,図14に示すように、各浮力調整装置101a,101b,102a,102bをそれぞれ移動経路103,126に沿って円周方向へ移動自在に構成しているが、前後方向又は左右方向或は前後左右方向へ移動自在に構成してもよい。
【0105】
上記実施の形態では、海底7から浮泥2を回収する例を示したが、湖底又は河川の底から浮泥2を回収してもよい。また、堆積物の一例として浮泥2を挙げたが、浮泥2に限定されるものではなく、浮泥2以外の堆積物であってもよい。
【0106】
上記実施の形態では、図1に示すように、回収船3を作業台船5と再処理プラント船6とに二分割しているが、三分割以上の複数分割してもよく、或は、作業台船5と再処理プラント船6とを分離せずに一体にしてもよい。
【0107】
上記実施の形態では、水中走行装置4が海底7を走行する例を挙げたが、湖底又は河川の底等を走行してもよい。
【符号の説明】
【0108】
4 水中走行装置
7 海底(水底)
35 車体
36a〜36d 走行体
55 前部ローラ(前部輪体)
56 後部ローラ(後部輪体)
57 中間部ローラ(中間部輪体)
60 走行ベルト(無端回動体)
62 水平面
63 上下揺動手段
64 伸縮部材
92 拡縮手段
95 コイルスプリング(付勢手段)
101a,101b,102a,102b 浮力調整装置
103,126 移動経路
106 移動手段
108 浮力調整室
110,111 ポンプ(出し入れ装置)
112 エアホース(連通管)
128,129 平坦経路部
130 上向傾斜経路部
131 下向傾斜経路部
A 前部ローラと中間部ローラとの間隔(前部輪体と中間部輪体との間隔)
P 基準位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底を走行する水中走行装置であって、
車体と、車体に設けられた走行体とを有し、
走行体は、複数の回転自在な輪体と、これら輪体に巻装された無端回動体とを有し、
輪体は、前部輪体と、後部輪体と、これら前後部両輪体間に配設された中間部輪体からなり、
後部輪体と中間部輪体とは水平面から同じ高さにある基準位置に設けられ、
前部輪体は基準位置に対して上下方向へ揺動自在であり、
前部輪体を上下揺動させる上下揺動手段が設けられていることを特徴とする水中走行装置。
【請求項2】
前部輪体が基準位置にある場合、無端回動体は前部輪体と後部輪体との間において平坦な平坦経路部を有し、
前部輪体が基準位置よりも上方にある場合、無端回動体は中間部輪体と後部輪体との間において平坦な平坦経路部を有し、且つ、前部輪体と中間部輪体との間において平坦経路部に対し前方斜め上向きに傾斜した上向傾斜経路部を有し、
前部輪体が基準位置よりも下方にある場合、無端回動体は前部輪体と後部輪体との間において平坦経路部に対し前方斜め下向きに傾斜した下向傾斜経路部を有することを特徴とする請求項1記載の水中走行装置。
【請求項3】
前部輪体と中間部輪体との間隔を拡縮する拡縮手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水中走行装置。
【請求項4】
前部輪体は、上下方向に揺動自在で且つ前後方向に伸縮自在な伸縮部材の遊端部に、前後移動自在に設けられ、
伸縮部材の遊端部に、前部輪体を伸縮部材の伸長方向へ付勢する付勢手段が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水中走行装置。
【請求項5】
車体に、浮力調整装置が横方向へ移動自在に設けられ、
浮力調整装置を移動させる移動手段が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水中走行装置。
【請求項6】
水底を走行する水中走行装置であって、
車体と、車体に設けられた走行体とを有し、
車体に、浮力調整装置が横方向へ移動自在に設けられ、
浮力調整装置を移動させる移動手段が設けられていることを特徴とする水中走行装置。
【請求項7】
浮力調整装置は、内部に形成された浮力調整室と、外部の水を浮力調整室に出し入れする出し入れ装置と、浮力調整室内と水面上の大気とに連通する連通管とを有することを特徴とする請求項5又は請求項6記載の水中走行装置。
【請求項8】
浮力調整装置は、複数設けられ、前後左右方向が径方向となる円形状の移動経路上を移動自在であることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の水中走行装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−57001(P2011−57001A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206518(P2009−206518)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(509252379)株式会社キョーリツマシナリー (2)
【出願人】(509252380)