説明

水中運動用衣類

【課題】水中運動、特に水中歩行運動において、カロリー消費量を高めることが可能な水中運動用衣類を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る水中運動用衣類1は、少なくとも胸郭脇側の一部を覆う本体100と、本体100に設けられた浮体200とを備える水中運動用衣類において、浮体200が、本体100の胸郭脇側に相当する位置であって、高さ方向において第6胸椎〜第12胸椎及び第1腰椎〜第2腰椎に相当する位置の少なくとも一部に設けられていることによって、前記本体の胸郭脇側に相当する位置の浮力が他の位置の浮力よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体を有する水中運動用衣類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜7には、浮体を有する水中運動用衣類として、水着が開示されている。特許文献1に開示の水着は、水中において溺れることを防止する目的で(安全性確保)、空気袋からなる浮体を、前身ごろ及び後身ごろの全体に設けている。また、特許文献2及び3に開示の水着は、初級者レベルの水泳を補助する目的で(安全性確保)、空気袋又は発泡材等からなる浮体を、胴部の周囲(正面側、背面側、及び、脇側)の少なくとも一部に設けている。なお、特許文献2及び3に開示の水着では、浮体が着脱可能になっており、浮力の調節が可能となっている。
【0003】
また、特許文献4に開示の水着は、水泳の補助の他に、リハビリテーションやトレーニング等の水中運動の補助をも目的としており(安全性確保)、空気袋からなる浮体を、腰部の脇側に設けている。この特許文献4に開示の水着でも、浮体が着脱可能になっている。
【0004】
また、特許文献5に開示の水着は、水泳の補助、リハビリテーションやトレーニング等の水中運動の補助に加え、水中運動の自由度確保をも目的としており、発泡材からなる浮体を、正面側の胸腹部及び背面側の背部に設けている。また、特許文献6に開示の水着は、特許文献5と同様の目的で、胴体上部の胸側又は背側が発泡材等からなる浮遊材で一体形成されている。
【0005】
また、特許文献7に開示の水着でも、水泳の補助、リハビリテーションやトレーニング等の水中運動の補助を目的として、空気袋からなる浮体を、正面側の胸腹部及び背面側の背部に設けている。この特許文献7には、水中運動として水中歩行運動の補助方法について詳細に開示されている。すなわち、筋力の少ない特に高齢者等によるリハビリテーションのための水中歩行運動では、水の抵抗に負けて身体が後方へ反ってしまい、水中でのバランスが崩れてしまうので、これを防止するために(安全性確保)、水の抵抗に逆らうように身体を前かがみ気味にするように浮力を与える構造とすることが好ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−052604号公報
【特許文献2】実開昭62−041017号公報
【特許文献3】登録実用新案第3022854号公報
【特許文献4】実開昭63−192412号公報
【特許文献5】登録実用新案第3020844号公報
【特許文献6】特開平08−337904号公報
【特許文献7】登録実用新案第3150330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、水中歩行運動は、関節等への負担が小さい上に、水の抵抗を利用した高負荷運動であり、高齢者等のリハビリテーションのみならず、ダイエットや筋力維持等を目的として幅広い年齢層(特に、激しい運動を行うことは困難であるが、ダイエットや筋力維持等のための運動を行うことに興味がある40代〜60代)に広く利用されている。この種の水中歩行運動では、カロリー消費量を更に高めることが要望されている。
【0008】
そこで、本発明は、水中運動、特に水中歩行運動において、カロリー消費量を高めることが可能な水中運動用衣類を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、真水中での運動と比較して、海水中での運動において、関節の不具合が軽減されやすいだけでなく、痩せやすいという知見を得ている。これは、海水中では、真水中より浮力が大きく、背筋が伸びた正しい姿勢で運動を行うことに起因するものと考えられる。例えば、水中では、空気を取り込む肺を囲む胸郭部分に浮力が発生し、胸郭の付け根である第7胸椎〜第10胸椎を支点として上向きの力が作用することとなる。この作用により、胸郭が持ち上がり、姿勢が良くなるものと考えられる。海水中では、真水中と比較して、この作用の効果が大きいものと考えられる。
【0010】
そこで、本発明の水中運動用衣類は、少なくとも胸郭脇側の一部を覆う本体と、本体に設けられた浮体とを備える水中運動用衣類において、浮体が、本体の胸郭脇側に相当する位置であって、高さ方向において第6胸椎〜第12胸椎及び第1腰椎〜第2腰椎に相当する位置の少なくとも一部に設けられていることによって、本体の胸郭脇側に相当する位置の浮力が他の位置の浮力よりも大きい。ここで、胸郭とは、一般に12個の胸椎、12対の肋骨、及び、1個の胸骨からなるものとされているが、本明細書では、更に第1〜2腰椎をも含むものとする。
【0011】
この水中運動用衣類によれば、胸郭まで水中に浸かった状態での歩行運動において、浮体の浮力による上向きの力によって胸郭を持ち上げ、水中運動時の姿勢を改善することができる。その結果、プール等の真水中でも、海水中と同様に、カロリー消費量を高めることが可能となる。
【0012】
詳説すると、第一に、筋肉は伸びた状態から縮む時に力を発揮するものであるので、背筋を伸ばすことによって通常より腹筋等を伸びた状態とすることができ、その分より多く縮むことができる。すなわち、腹筋等の筋活動を高めることができる。第二に、体幹を安定することができ、四肢(両手足)を大きく動かすことができる。第三に、水の抵抗による負荷を高めることができる。これらの第一〜第三の作用により、カロリー消費量を高めることが可能となる。
【0013】
また、男女問わず比較的曲面が少ない胸郭脇側に浮体が配置されているので、密着性を高めることができ、胸郭に直接的に作用することができる。その結果、上記した第一〜第三の作用を効率よく働かせることが可能となる。また、運動中の腕等の動作を妨げることを抑制することができる。
【0014】
上記した浮体は、高さ方向において第7胸椎〜第10胸椎に相当する位置の少なくとも一部に設けられていることが好ましい。これによれば、海水中と同様の作用をより得ることができる。すなわち、浮体の浮力による上向きの力を、胸郭の付け根である第7胸椎〜第10胸椎を支点として作用させることができ、水中運動時の姿勢をより改善することができる。
【0015】
上記した浮体の幅は、水平ウエスト厚径以下であることが好ましい。ここで、水平ウエスト厚径とは、ウエスト基点の高さにおける矢状面に対して平行に測った胴部の最大水平直線距離である。これによれば、上記したように、男女問わず比較的曲面が少ない胸郭脇側に浮体が配置されることとなる。
【0016】
上記した浮体の幅は、腕付根前後径の1/2倍以上であることが好ましい。ここで、腕付根前後径とは、前腋窩点から後腋点までの水平直線距離である。これによれば、浮体の厚みの増加を抑制することができ、運動中における腕等の動作の妨げを軽減することができる。
【0017】
上記した浮体の一部は、中腋窩線上にあることが好ましい。これによれば、上記したように、男女問わず比較的曲面が少ない胸郭脇側に浮体が配置されることとなる。
【0018】
上記した浮体が有する浮力は、着用者の体重の0.1%以上0.5%以下の浮力であることが好ましい。浮体の浮力が着用者の体重の0.1%以上の浮力であれば、浮体の浮力による上向きの力によって胸郭を持ち上げ、水中運動時の姿勢を改善することができる。一方、浮体の浮力が着用者の体重の0.5%以下の浮力であれば、浮体の浮力による上向きの力を、全身が浮かない程度の適切なものとすることができる。
【0019】
上記した浮体は、複数に分割されていることが好ましい。これによれば、個々の浮体を小さくすることができるので、密着性をより高めることができると共に、ひねり動作等の動作に対してもずれをより防止することができる。その結果、上記した第一〜第三の作用をより効率よく働かせることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水中運動、特に水中歩行運動において、カロリー消費量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る水着を表側から示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る水着を裏側から示す斜視図である。
【図3】腕付根前後径、及び、水平ウエスト厚径を示す図である。
【図4】(a)真水中と(b)海水中とにおける胸郭部分に発生する浮力を示す図である。
【図5】(a)比較例の水着を着用した場合と(b)第1の実施形態の水着を着用した場合との、胸郭まで水中に浸かった状態での歩行運動における姿勢を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る水着を裏側から示す斜視図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る水着を裏側から示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
[第1の実施形態]
【0023】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る水着を表側から示す斜視図であり、図2は、本発明の第1の実施形態に係る水着を裏側から示す斜視図である。図1及び図2に示す水着1は、着用者の上半身を覆うノースリーブシャツ形状の水着であり、本体100と浮体200とを備えている。
【0024】
本体100は、主本体10と一対の裏本体20との2重構造をなしている。主本体10は、ノースリーブシャツ形状をなしており、前中心に設けられたファスナー11によって開閉可能となっている。なお、ファスナー11の裏側には、裏当て布12が設けられている。
【0025】
主本体10には、水着として機能可能な様々な生地が適用可能であるが、縦方向及び横方向に伸縮性を有する生地が用いられることが好ましい。また、主本体10には、プリンセスライン(着用者の上半身に沿わせるための縦の切り替え線)13が形成されることが好ましい。これらにより、無駄な余りがない立体パターンを有する主本体10を得ることができ、フィット感を高めることができる。
【0026】
また、主本体10の生地としては、適度な厚みを有し、かつ、軽い素材が用いられることが好ましく、例えばツーウェイトリコットのような弾性編地が用いられる。これにより、着用感を損なうことなく、透けない等の安心感を得ることができる。主本体10の裏側には、一対の裏本体20が設けられている。
【0027】
一対の裏本体20は、それぞれ、主本体10の裏側において、胸郭の正面側及び脇側に相当する位置に、前中心に対して左右対称に設けられている。裏本体20では、下辺を除く周囲が、主本体10のファスナー部10a、襟部10b、肩部10c、腕部10d、及び、脇側後部10eに縫着されており、その他の部分は主本体10と遊離している。裏本体20には、縦方向及び横方向に伸縮性を有し、着用者に対して密着性を有する生地(例えば、パワーネット)が用いられる。
【0028】
一対の裏本体20には、バストを覆うための一対のカップ21がそれぞれ設けられている。また、裏本体20の胸郭脇側に相当する位置には、浮体200を収容するための収容部22が設けられている。本実施形態では、2個の収容部22が上下に併設されている。裏本体20に対する収容部22の形成位置の詳細については、後述する浮体200の配置位置を参照することとする。
【0029】
ここで、胸郭とは、一般に12個の胸椎、12対の肋骨、及び、1個の胸骨からなるものとされているが、本明細書では、更に第1〜2腰椎をも含むものとする。
【0030】
一対の裏本体20における収容部22それぞれには、浮体200が収容される。本実施形態では、4個の浮体200が、胸郭両脇側に2個ずつ、上下に併設される。すなわち、一方の胸郭脇側において、浮体200は2つに分割されている。
【0031】
浮体200には、浮力を発生させることが可能な部材全てが適用可能である。なお、浮体200の部材としては、例えば、耐水性、耐久性に優れていることが好ましい。浮体200の部材の一例としては、ポリエチレン製発泡体が挙げられる。
【0032】
浮体200は、裏本体20の胸郭脇側において、第6胸椎(腕の付根の脇下の高さに相当)〜第12胸椎、及び、第1腰椎〜第2腰椎(腰、ウエストの高さに相当)に相当する位置に位置する(高さ方向の位置)。また、浮体200の一部が、中腋窩線2と重なる位置に位置する(横方向の位置)。
【0033】
浮体200の幅は、水平ウエスト厚径以下であり、腕付根前後径の1/2倍以上である。好ましくは、浮体200の幅は、腕付根前後径の約1/2倍である。後述する腕付根前後径の平均値によれば、40歳〜60歳の女性では、浮体200の幅は約56mmであることが好ましい。
【0034】
ここで、図3に示すように、腕付根前後径とは、前腋窩点から後腋点までの水平直線距離L1であり、40歳〜60歳の女性の平均値は約109.1mmであり、40歳〜60歳の男性の平均値は約127.4mmである。一方、水平ウエスト厚径とは、ウエスト基点の高さにおける矢状面に対して平行に測った胴部の最大水平直線距離L2であり、40歳〜60歳の女性の平均値は約188.8mmであり、40歳〜60歳の男性の平均値は約227.4mmである(社団法人人間生活工学研究センター(HQL)の人体寸法データベース2004−2006)。
【0035】
また、浮体200の浮力は、体重の0.1%以上0.5%以下であればよく、好ましくは0.15%以上0.3%以下である。更に好ましくは、0.15%以上0.25%以下である。なお、浮体200の浮力は、体脂肪等の着用者自身が有する浮力に関連するパラメータに基づいて調整してもよい。
【0036】
浮体200の一例としては、9号Mサイズ(女性サイズ)を想定した場合、ポリエチレン製発泡体を使用すると、縦67.5mm、横56mm、厚さ5mmの長方形状平板が挙げられる。これによれば、4個の浮体200の総浮力が約0.784N(約80gf)であり、着用者の体重約32kg〜53kgに対して浮力約0.15%〜0.25%を得ることができる。
【0037】
また、13号Lサイズ(女性サイズ)を想定した場合の浮体200の一例としては、ポリエチレン製発泡体を使用すると、縦67.5mm、横84mm、厚さ5mmの長方形状平板が挙げられる。これによれば、4個の浮体200の総浮力が約1.176N(約120gf)であり、着用者の体重約48kg〜80kgに対して浮力約0.15%〜0.25%を得ることができる。
【0038】
ここで、本願発明者らは、真水中での運動と比較して、海水中での運動において、関節の不具合が軽減されやすいだけでなく、痩せやすいという知見を得ている。これは、海水中では、真水中より浮力が大きく、背筋が伸びた正しい姿勢で運動を行うことに起因するものと考えられる。例えば、図4(a)及び(b)に示すように、水中では、空気を取り込む肺Aに大きな浮力が発生し、胸郭の付け根である第7胸椎〜第10胸椎Cを支点として、肺Aを囲む胸郭部分Bに上向きの力(浮力)Fが作用することとなる。この作用により、胸郭が持ち上がり、姿勢が良くなるものと考えられる。図4(b)に示す海水中では、図4(a)に示す真水中と比較して、この作用の効果が大きいものと考えられる。なお、図4(b)には、図4(a)における胸郭位置を点線で示している。
【0039】
第1の実施形態の水着1によれば、本体の胸郭脇側に相当する位置であって、第6胸椎〜第12胸椎及び第1腰椎〜第2腰椎に相当する位置に浮体200が設けられているので、図5(b)に示すように、胸郭まで水中に浸かった状態での歩行運動において、浮体200の浮力による上向きの力によって胸郭を持ち上げ、図5(a)に示す浮体を有さない水着と比較して、水中運動時の姿勢を改善することができる。その結果、プール等の真水中でも、海水中と同様に、カロリー消費量を高めることが可能となる。
【0040】
詳説すると、第一に、筋肉は伸びた状態から縮む時に力を発揮するものであるので、背筋を伸ばすことによって通常より腹筋等を伸びた状態とすることができ、その分より多く縮むことができる。すなわち、腹筋等の筋活動を高めることができる。第二に、体幹を安定することができ、四肢(両手足)を大きく動かすことができる。第三に、水の抵抗による負荷を高めることができる。これらの第一〜第三の作用により、カロリー消費量を高めることが可能となる。
【0041】
また、第1の実施形態の水着1では、浮体200が男女問わず比較的曲面が少ない胸郭脇側に配置されており、浮体200の幅が水平ウエスト厚径以下であり、また、浮体200の一部が中腋窩線2上にある。これにより、密着性を高めることができる。その結果、上記した第一〜第三の作用を効率よく働かせることが可能となる。また、運動中における腕等の動作の妨げを軽減することができる。また、着用時に浮体が目立ち難い。
【0042】
なお、浮体が本体の前面側又は背面側に位置すると、ひねり動作等によりずれ易い。また、女性では、バストに起因して前面側の密着性が損なわれる。これらを考慮すると、浮体は胸郭脇側にのみに配置されることが好ましい。しかしながら、胸郭脇側における浮体の作用を大きく妨げない、例えば、カップ部材や微調整用の浮体(胸郭脇側における浮体よりも小さな浮力を有する浮体)を本体の前面側又は背面側に設けてもよい。このように、本体の胸郭脇側に相当する位置の浮力が他の位置の浮力よりも大きければ、上記効果を得ることが可能である。
【0043】
また、第1の実施形態の水着1では、浮体200の幅が腕付根前後径の1/2倍以上であるので、浮体の厚みの増加を抑制することができ、運動中における腕等の動作の妨げを軽減することができる。
【0044】
なお、浮体200の幅が水平ウエスト厚径より大きいと、胸郭部分への密着性が低下してしまう。一方、浮体200の幅が腕付根前後径の1/2倍より小さいと、必要な浮力を得るための厚みが厚くなってしまう。これらを考慮すると、浮体200の幅は、腕付根前後径の約1/2倍であることが好ましい。
【0045】
また、第1の実施形態の水着1によれば、浮体200の浮力が着用者の体重の0.1%以上0.5%以下、好ましくは0.15%以上0.3%以下、更に好ましくは0.15%以上0.25%以下の浮力であるので、浮体の浮力による上向きの力であって、全身が浮かない程度の適切な上向きの力によって胸郭を持ち上げ、水中運動時の姿勢を改善することができる。
【0046】
また、第1の実施形態の水着1によれば、胸郭両脇側それぞれにおいて、浮体200が上下に2つに分割されているので、個々の浮体200を小さくすることができる。その結果、密着性をより高めることができると共に、ひねり動作等の動作に対してもずれをより防止することができる。その結果、上記した第一〜第三の作用をより効率よく働かせることが可能となる。
【0047】
また、第1の実施形態の水着1によれば、本体100が2重構造であり、主本体10と裏本体20とが遊離しており、裏本体20の密着性が高いので、着用者の動作に応じて主本体をずれ易くしつつ(動作の自由度確保)、裏本体20の密着性を高めることができる。
[第2の実施形態]
【0048】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る水着を裏側から示す斜視図である。図6に示す水着1Aは、着用者の胸郭を覆うブラジャー形状の水着であり、本体100Aと浮体200Aとを備えている。
【0049】
本体100Aは、バスト及びバストの下方を覆うブラジャー形状をなしている。本体100Aには、上記した本体100における主本体10又は裏本体20と同様の生地が適用可能である。本体100Aの胸郭脇側に相当する位置には、浮体200Aを収容するための収容部22Aが設けられている。本体100Aに対する収容部22Aの形成位置の詳細については、後述する浮体200Aの配置位置を参照することとする。
【0050】
本体100Aの収容部22Aそれぞれには、浮体200Aが収容される。本実施形態では、2個の浮体200Aが、胸郭両脇側に1個ずつ配置される。浮体200Aには、上記した浮体200と同様の部材が適用可能である。
【0051】
浮体200Aは、本体100Aの胸郭脇側において、第7胸椎〜第10胸椎に相当する位置に位置する(高さ方向の位置)。また、浮体200Aの一部が、中腋窩線2と重なる位置に位置する(横方向の位置)。
【0052】
浮体200Aの幅は、水平ウエスト厚径以下であり、腕付根前後径の1/2倍以上である。好ましくは、浮体200の幅は、水平ウエスト厚径の2/3倍である。上記した水平ウエスト厚径の平均値によれば、40歳〜60歳の女性では、浮体200Aの幅は約135mmであることが好ましい。
【0053】
また、浮体200Aの浮力は、0.1%以上0.5%以下であればよく、好ましくは0.15%以上0.3%以下である。更に好ましくは、0.15%以上0.25%以下である。
【0054】
浮体200Aの一例としては、9号Mサイズ(女性)を想定した場合、ポリエチレン製発泡体を使用すると、縦56mm、横135mm、厚さ5mmの長方形状平板が挙げられる。これによれば、2個の浮体200Aの総浮力が約0.784N(約80gf)であり、着用者の体重約32kg〜53kgに対して浮力約0.15%〜0.25%を得ることができる。
【0055】
この第2の実施形態の水着1Aでも、第1の実施形態の水着1と同様の利点を得ることができる。なお、第2の実施形態の水着1Aでは、浮体200Aが第7胸椎〜第10胸椎に相当する位置に設けられているので、海水中と同様の作用をより得ることができる。すなわち、浮体の浮力による上向きの力を、胸郭の付け根である第7胸椎〜第10胸椎を支点として作用させることができ、水中運動時の姿勢をより改善することができる。
[第3の実施形態]
【0056】
図7は、本発明の第3の実施形態に係る水着を裏側から示す斜視図である。図7に示す水着1Bは、水着1において本体100及び浮体200に代えて本体100B及び浮体200Bを備えている構成で第1の実施形態と異なっている。
【0057】
本体100Bは、上記した主本体10と一対の裏本体20Bとの2重構造をなしている。一対の裏本体20Bは、それぞれ、主本体10の裏側において、胸郭の正面側及び脇側に相当する位置に、前中心に対して左右対称に設けられている。裏本体20Bでは、下辺を除く周囲が、主本体10のファスナー部10a、襟部10b、肩部10c、腕部10d、及び、脇側中腋窩線部10fに縫着されており、その他の部分は主本体10と遊離している。裏本体20Bには、裏本体20と同様の生地が適用可能である。一対の裏本体20Bには、バストを覆うための一対のカップ21がそれぞれ設けられている。
【0058】
また、本体100Bの胸郭脇側に相当する位置には、浮体200Bを収容するための収容部22Bが設けられている。本体100Bに対する収容部22Bの形成位置の詳細については、後述する浮体200Bの配置位置を参照することとする。
【0059】
収容部22Bには、2個の浮体200Bが収容される。すなわち、4個の浮体200Bが、胸郭両脇側に2個ずつ、上下に併設される。このように、一方の胸郭脇側において、浮体200Bは2つに分割されている。
【0060】
胸郭片脇側において上下に併設された2個の浮体200Bは、中腋窩線2の背側から前側下方に向けて斜めに延在している。すなわち、浮体200Bは、脇下中腋窩線近傍及び脇下前側近傍に配置されていない。浮体200Bには、浮体200と同様の部材が適用可能である。
【0061】
本実施形態でも、浮体200Bは、本体100Bの胸郭脇側において、第6胸椎(腕の付根の脇下の高さに相当)〜第12胸椎、及び、第1腰椎〜第2腰椎(腰、ウエストの高さに相当)に相当する位置に位置する(高さ方向の位置)。また、浮体200Bの一部が、中腋窩線2と重なる位置に位置する(横方向の位置)。また、浮体200Bの幅は、換言すれば、浮体200Bの最背側位置Pbから最前側位置Pfの横方向幅Wは、水平ウエスト厚径以下であり、腕付根前後径の1/2倍以上である。
【0062】
また、本実施形態でも、浮体200Bの浮力は、体重の0.1%以上0.5%以下であればよく、好ましくは0.15%以上0.3%以下である。更に好ましくは、0.15%以上0.25%以下である。
【0063】
この第3の実施形態の水着1Bでも、第1の実施形態の水着1と同様な効果が得られる。
【0064】
更に、この第3の実施形態の水着1Bによれば、浮体200Bが中腋窩線2の背側から前側下方に向けて斜めに延在しており、脇下中腋窩線近傍及び脇下前側近傍に配置されていないので、歩行等における着用者の腕の動きを阻害することを抑制することができる。また、腕を動かしたときに、浮体による水着表面の膨らみに触れて生じる違和感を軽減することができる。
【0065】
なお、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、本実施形態では、浮体の収容部を本体に設けたが、別体の袋状の収容部を設けてもよい。この場合、例えば、袋状の収容部の上辺のみを本体に縫着し、収容部のその他の部分を本体に対して遊離する形態とすることが好ましい。これにより、着用者の動作に応じて本体をずれ易くしつつ(動作の自由度確保)、袋状の収容部の密着性を高めることができる。
【0066】
また、第1の実施形態では、浮体を上下に分割したが、左右に分割してもよい。例えば、分割した浮体は中腋窩線を挟んで配置されればよい。また、上下及び左右に3分割以上としてもよい。
【0067】
また、第2の実施形態では、ブラジャー形状の水着を例示したが、本発明は水着のインナー等にも適用可能である。
【0068】
また、本実施形態では、女性用水着を例示したが、本発明は男性用水着にも適用可能である。この場合、例えば、本実施形態の水着において、バストを覆うためのカップを省けばよい。また、例えば、本実施形態の水着において、裏本体を省いてもよい。この場合、上記したように、別体の袋状の収容部を採用することが好ましい。
【0069】
また、本実施形態では、本体の裏側に浮体を収容する形態を例示したが、容易に着脱できるよう、本体の表側に収容部を配置し、この収容部に浮体を収容するようにしてもよい。
【実施例1】
【0070】
図1及び図2に示す本発明の第1の実施形態の水着1を実施例として製作し、40代〜60代の女性モニタ複数名による評価を行った。この評価では、実施例と比較例との対比評価を行った。
【0071】
実施例の水着1としては、9号Mサイズ及び13号Lサイズを製作した。浮体200の部材としてはポリエチレン製発泡体を使用した。9号Mサイズでは、浮体200は縦67.5mm、横56mm、厚さ5mmの長方形状平板であり、この浮体200を胸郭両脇側それぞれにおいて上下に2個並置した。これより、胸郭両脇側における4個の浮体200の総浮力は約0.784N(約80gf)であった。一方、13号Lサイズでは、浮体200は縦67.5mm、横84mm、厚さ5mmであり、この浮体200を胸郭両脇側それぞれにおいて上下に2個並置した。これより、胸郭両脇側における4個の浮体200の総浮力は1.176N(120gf)であった。
【0072】
比較例の水着は、実施例の水着1において浮体200を備えないものである。
(第1の評価)
【0073】
第1の評価では、実施例と比較例とをそれぞれ着用し、プールの真水中に胸郭まで浸かった状態で歩行運動を行った際の歩幅を計測した。この評価結果を表1に示す。表1では、比較例及び実施例の水着を着用した場合の歩幅をそれぞれ示すと共に、比較例の水着を着用した場合に対する実施例の水着を着用した場合の歩幅広がりを示している。なお、表1には、モニタ8名の水着サイズ(浮力)、体重/身長、体重に対する浮力割合も示している。
【表1】

【0074】
この評価結果によれば、比較例の水着を着用した場合に対して8名中6名のモニタの歩幅が広がり、平均で約3.4cmも広がったことが確認できた。これにより、本実施例の水着1による上記の第三の作用、すなわち、体幹を安定することができ、四肢(両手足)を大きく動かすことができることが確認できた。
【0075】
また、上記した第1の評価では、本実施例の水着1に対して、モニタより以下のような良好な感想を聞くことができた。
・おなか周りが安定して、身体に軸を感じて歩ける。
・水中に入ってすぐ、背中がぴっしりとして姿勢が整った気がした。
・脚が踏み込み易く、歩きやすい。
・安定感があって、ふらふらしない。
・手足ものびのび出せる。
・水に入ったときに身体が安定してぶれ難い。
・程よい補正力で、姿勢がよくなる感じ。
・軽やかに動ける
・生地の軽さがあるのでフィット感もある。
(第2の評価)
【0076】
第2の評価では、実施例と比較例とをそれぞれ着用し、プールの真水中に胸郭まで浸かった状態で歩行運動を行った際のモニタ4名の外腹斜筋活動を評価した。筋活動の評価は、BTS社製POCKETEMGを使用して計測した、水中歩行時の踵着地より1秒間のiEMG値(積分筋電図測定値)により行なった。比較例の水着を着用した場合の外腹斜筋のiEMG値のモニタ4名の平均は114.7mV/secであり、実施例の水着を着用した場合の外腹斜筋のiEMG値のモニタ4名の平均は179.1mV/secであった。なお、表2には、モニタ4名の水着サイズ(浮力)、体重/身長、体重に対する浮力割合を示す。
【表2】

【0077】
この評価結果によれば、比較例の水着を着用した場合に対して外腹斜筋のiEMG値がモニタ4名の平均で約64.4mV/sec増加したことが確認できた。これにより、本実施例の水着1による上記の第一の作用、すなわち、腹筋等の筋活動を高めることができることが確認できた。
(第3の評価)
【0078】
第3の評価では、実施例と比較例とをそれぞれ着用し、プールの真水中に胸郭まで浸かった状態で歩行運動を行った際の消費カロリーを計測した。この評価結果を表3に示す。表3では、比較例及び実施例の水着を着用した場合の消費カロリーをそれぞれ示すと共に、比較例の水着を着用した場合に対する実施例の水着を着用した場合の消費カロリーの増加量を示している。なお、表3には、モニタ5名の水着サイズ(浮力)、体重/身長、体重に対する浮力割合も示している。
【表3】

【0079】
この評価結果によれば、比較例の水着を着用した場合に対して5名中4名のモニタの消費カロリーが増加し、平均で約16kcal/hも増加したことが確認できた。これより、本実施例の水着1によれば、カロリー消費量を高めることができることが確認できた。
(第4の評価)
【0080】
第4の評価では、それぞれ、本発明の実施例と比較例とを対比して、どちらが優れていると感じたかを問うた。この評価結果を表4に示す。表4では、本発明の実施例が優れているとの回答を丸印で、どちらともいえないとの回答を三角印で、比較例の方がよいとの回答をばつ印で示している。
【表4】

【0081】
この評価結果によれば、プールの真水中に胸郭まで浸かった状態で歩行運動を行う際の姿勢が、比較例の水着を着用した場合よりも良くなったと感じる人が多かった。また、プールの真水中に胸郭まで浸かった状態で歩行運動を行う際に、比較例の水着を着用した場合よりも、おなかに力が入れやすいと感じる人が多かった。これらの評価において着目すべきは、姿勢良く、腹筋等に力が入れやすいことで、安定しながらしっかり動くことができ、その結果、より消費カロリー高く運動できていると実感できることである。このように、カロリー消費を実感できると、ダイエット等を目的とした運動を楽しく感じることができ、短期で挫折することなく、長期にわたって継続することが可能となる。また、総合的な快適感でも、比較例の水着を着用した場合よりも良いと感じる人が多かった。
【0082】
これより、本実施例の水着1によれば、上記した第一〜第三の作用が働き、その結果、カロリー消費量を高めることができることが確認できた。
【符号の説明】
【0083】
1,1A,1B…水着(水中運動用衣類)、2…中腋窩線、100,100A,100B…本体、10…主本体、11…ファスナー、12…裏当て布、13…プリンセスライン、20,20B…裏本体、21…カップ、22,22A,22B…収容部、200,200A,200B…浮体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも胸郭脇側の一部を覆う本体と、前記本体に設けられた浮体とを備える水中運動用衣類において、
前記浮体が、前記本体の胸郭脇側に相当する位置であって、高さ方向において第6胸椎〜第12胸椎及び第1腰椎〜第2腰椎に相当する位置の少なくとも一部に設けられていることによって、前記本体の胸郭脇側に相当する位置の浮力が他の位置の浮力よりも大きい、
水中運動用衣類。
【請求項2】
前記浮体は、高さ方向において第7胸椎〜第10胸椎に相当する位置の少なくとも一部に設けられている、請求項1に記載の水中運動用衣類。
【請求項3】
前記浮体の幅は水平ウエスト厚径以下である、請求項1又は2に記載の水中運動用衣類。
【請求項4】
前記浮体の幅は腕付根前後径の1/2倍以上である、請求項3に記載の水中運動用衣類。
【請求項5】
前記浮体の一部は中腋窩線上にある、請求項1〜4の何れか1項に記載の水中運動用衣類。
【請求項6】
前記浮体が有する浮力は、着用者の体重の0.1%以上0.5%以下の浮力である、請求項1〜5の何れか1項に記載の水中運動用衣類。
【請求項7】
前記浮体は複数に分割されている、請求項1〜6の何れか1項に記載の水中運動用衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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