説明

水中鋼管建て込み工法

【課題】シート遮水式のダム湖や貯水池に対し、水位低下や締切を必要とせずに、水中にドライ空間を合理的に形成できる水中鋼管建て込み工法を提供する。
【解決手段】まず、水中に鋼管を吊り下げて水底に、不陸調整ゴム(21)を下端に取り付けた最下段の鋼管11を設置する。続いて、最下段の鋼管11の上に第二の鋼管12を水密シールして接続した後、第二以降の鋼管12の上に第三以降の鋼管13・・・を水密シールして順次接続していって、最上段の鋼管16の上部を水上に位置させる。次に、水底の既設遮水シートに、最下段の鋼管11の下端に取り付けた止水シート(25)の外周部を水中溶着(W)することにより、鋼管下端部の水密性を確保する。そして、最上段の鋼管16内から最下段の鋼管11内まで排水して、水中に設置した鋼管柱内にドライ空間を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート遮水式のダム湖や貯水池に対する水中作業用の鋼管の建て込み式のドライアップ工法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばダム湖において、取水口などから排水させることで、湖全体の水位を下げ、補修等の作業が行われてきた。
一般の湖沼、海洋、河川においては、仮締切などにより数m程度のドライ空間を確保して、所望の作業が行われてきた(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−206539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、水位低下が可能な場合であっても、取水口高さや運用面から水位低下には限界があり、水深が深く仮締切が施工できない場合があった。
また、ドライ空間を確保する場合には、水深の浅いことが必要であることに加え、締切設置作業において、止水可能な地盤条件が必要であるなどの制約があった。特に、シート遮水式のダム湖などでは、シートを傷付けることなく従来方式の仮締切を設置することは非常に困難である。
【0004】
本発明の課題は、シート遮水式のダム湖や貯水池に対し、水位低下や締切を必要とせずに、水中にドライ空間を合理的に形成できる水中鋼管建て込み工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、水中に鋼管を吊り下げて水底に、不陸調整ゴムを下端に取り付けた最下段の鋼管を設置する工程と、前記最下段の鋼管の上に第二の鋼管を水密シールして接続した後、前記第二以降の鋼管の上に第三以降の鋼管を水密シールして順次接続していくことで、最上段の鋼管の少なくとも上部を水上に位置させる工程と、水底の既設遮水シートに、前記最下段の鋼管の下端に取り付けた止水シートの外周部を水中溶着する工程と、前記最上段の鋼管内から前記最下段の鋼管内まで排水することで、水中に設置した鋼管柱内にドライ空間を形成する工程と、を有する水中鋼管建て込み工法を特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の水中鋼管建て込み工法であって、前記最下段の鋼管として、下面に前記不陸調整ゴムと前記止水シートを取り付けた鋼製円座が下端に取り付けられた鋼管を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水中に設置した鋼管柱内にドライ空間を合理的に形成でき、水位低下や締切を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
始めに、本工法の狙いは次のとおりである。
1)従来は困難であった10数m以上の水深におけるドライ作業空間を可能にする。
2)鋼管下部については、水底の不陸に追従できるものとすること。
3)深い水深の中にあっても、止水性を確実なものとすること。
4)鋼管の鉛直支持・固定については、転倒のないよう確実なものとすること。
5)効率の良い汎用性の高い手法により必要な施工ヤードの作業制約を小さくすること。
【0009】
そして、本工法は、シート遮水式ダム調整池において、鋼管を水中に鉛直固定し、鋼管内部を排水することによって、水深の深い場所におけるドライ作業空間を確保するものである。その主な特徴としては、次の六点が挙げられる。
1)水圧に耐えうる強度特性を持つ剛性の高い鋼管を用いた構造の採用。
2)水圧に耐えうる継手止水性能として、フランジ+ボルト接合の構造とゴムパッキンとの併用による止水性能の向上。
3)現地への運搬が可能で資機材の積載能力が十分であるユニフロート台船を使用して、施工性の向上。
4)鋼管底部にゴム付き鋼製円座を用いることによって、現地地盤の不陸に追従して鋼管の鉛直性及び止水性能の確保。
5)外周止水シートの水中溶着による止水性の確保。
6)鋼管を水中に敷設したシンカーブロックにワイヤーで接続し、ワイヤーに初期緊張力を与えることにより、鉛直性を確保するとともに、台船の接触荷重等の外力に対する鋼管の安定性確保。
【0010】
図1は、本発明を適用した一実施形態の構成を示すもので、1はユニフロート台船、2は操船ウインチ、3は発電機、4はクローラクレーン、5はシンカーブロックである。水上に浮かべたユニフロート台船1には、操船ウインチ2、発電機3、クローラクレーン4が積載されるとともに、複数のシンカーブロック5などが積載されている。
【0011】
第一工程では、図示のように、ユニフロート台船1の上でクローラクレーン4を用いてシンカーブロック5を一旦吊り上げてから水中に吊り下げることで、水底の鋼管柱設置箇所の周囲に複数のシンカーブロック5を等間隔等に設置する。
【0012】
第二工程では、図2に示すように、ユニフロート台船1の上でクローラクレーン4を用いて第一の鋼管11を一旦吊り上げてから水中に吊り下げることで、水底の鋼管柱設置箇所に最下段の鋼管11を設置する。この最下段の鋼管11には、図3に示すように、ゴム付き鋼製円座、すなわち、下面に不陸調整ゴム21を有する鋼製円座22が、鋼管下端に溶接して備えたフランジ23に対し、ゴムによるパッキン材24を介装してボルトナット結合により取り付けられている。そして、パッキン材24の周囲には外周止水シート25が一体に形成されている。
【0013】
従って、最下段の鋼管11は不陸調整ゴム21を介して水底に設置される。そして、最下段の鋼管11の上端の外周に等間隔等に複数備えた固定金具26と水底との間にサポートパイプ6をそれぞれ掛け渡すことで、最下段の鋼管11を垂直に転倒防止しつつ設置する。
【0014】
第三工程では、図4に示すように、ユニフロート台船1の上でクローラクレーン4を用いて第二の鋼管12を水中に吊り下げて、水底に鉛直設置した最下段の鋼管11の上に第二の鋼管12を設置する。ここで、図3に示したように、最下段の鋼管11の上端に溶接して備えたフランジ31と、第二の鋼管12の下端に溶接して備えたフランジ32との間に、ゴムによるパッキン材33を介装してボルトナット結合により鋼管11・12が水密シール状態で接続されている。
【0015】
続いて、ユニフロート台船1の上でクローラクレーン4を用いて第三の鋼管13を水中に吊り下げて、水中に鉛直設置した第二の鋼管12の上に第三の鋼管13を設置する。この場合も、第二の鋼管12の上端に溶接して備えたフランジ31と、第三の鋼管13の下端に溶接して備えたフランジ32との間に、ゴムによるパッキン材33を介装してボルトナット結合により鋼管12・13が水密シール状態で接続されている。
【0016】
そして、第三の鋼管13の上端の外周に等間隔等に複数備えた固定金具26と水底に設置したシンカーブロック5との間にワイヤー7をそれぞれ掛け渡すことで、第三の鋼管13を垂直に転倒防止しつつ設置する。このとき、ワイヤー7に初期緊張力を与えておくことで、第二及び第三の鋼管12・13の鉛直性を保持する。
【0017】
その後、同様にして、図5に示すように、第四の鋼管14、第五の鋼管15、第五の最上段となる鋼管16を順次接続していき、最上段の鋼管16の上部を水上に位置させる。なお、以上により水中鋼管柱が設置される。
【0018】
次に、図3に示したように、鋼製円座22に一体の外周止水シート25を、水底に敷設された遮水シートに全周で水中溶着Wする。
【0019】
その後、最上段の鋼管16から最下段の鋼管11までの水中鋼管柱内に水中ポンプを投入等して排水することで、水中鋼管柱内をドライアップする。これにより水中鋼管柱内にドライ空間が形成される。
【0020】
従って、鋼管内の梯子を使って降りる等して、図6に示すように、水中鋼管柱内に形成されたドライ空間において、水底に取り付けられていた地下水位計の交換等の所期の修繕作業が行える。
【0021】
なお、鋼管の接続段数は任意であり、その他、具体的な細部構造や手法等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【0022】
本工法による利点は以下のとおりである。
1)剛性の高い鋼管を使用し、水深15mの水圧に耐えうる構造を採用。
2)鋼管底部にゴム付き鋼製円座(下面に不陸調整ゴム21を有する鋼製円板22)を設けることで、使用するゴムの使用とゴム厚を選定することで、現地地盤の不陸に対応しやすい構造を採用。
3)鋼管継手は、フランジ+ボルト接合の構造とゴムパッキンとの併用で止水機能を向上し、鋼管底部は、適切なゴム付き鋼製円座の選定により、現地地盤不陸に追従して止水性能を確保するとともに、外周止水シート25を水中溶着Wすることによって、止水性を確保し、二重の止水構造を採用。
4)鋼管を水中に敷設したシンカーブロック5にワイヤー7で接続し、ワイヤー7に初期緊張力を与えることにより、鉛直性を支持・固定。
5)現地への運搬が可能で資機材の積載能力が十分であるユニフロート台船1を使用し、ブロックを分割可能な構成とすることで、吊り能力の小さいクレーン4での施工に対応。
【0023】
従って、本工法によれば、以下の効果が得られる。
1)常時は水中にある箇所の施工において、既設の締切工法では水深数mまでしか可能ではなかったドライ作業空間を、10数m以上確保することができる。
2)鋼管径を変えることにより、ドライ空間を大きくとることができるなど汎用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を適用した一実施形態の構成を示すもので、水底にシンカーブロックを設置する工程を示した概略図である。
【図2】図1に続いて、ゴム付き鋼製円座及び最下段鋼管を設置して転倒防止措置を施す工程を示した概略図である。
【図3】図2の最下段鋼管の拡大図である。
【図4】図2に続いて、第2以降の鋼管を接続してワイヤーロープによる鋼管の鉛直性確保を施す工程を示した概略図である。
【図5】図4に続いて、水中鋼管柱を構築する工程を示した概略図である。
【図6】水中鋼管柱内での作業を示した概略図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ユニフロート台船
2 操船ウインチ
3 発電機
4 クローラクレーン
5 シンカーブロック
6 サポートパイプ
7 ワイヤー
11 最下段の鋼管
12 第二の鋼管
13 第三の鋼管
14 第四の鋼管
15 第五の鋼管
16 最上段の鋼管
21 不陸調整ゴム
22 鋼製円座
23 フランジ
24 パッキン材
25 外周止水シート
26 固定金具
31 フランジ
32 フランジ
33 パッキン材
W 溶着

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に鋼管を吊り下げて水底に、不陸調整ゴムを下端に取り付けた最下段の鋼管を設置する工程と、
前記最下段の鋼管の上に第二の鋼管を水密シールして接続した後、前記第二以降の鋼管の上に第三以降の鋼管を水密シールして順次接続していくことで、最上段の鋼管の少なくとも上部を水上に位置させる工程と、
水底の既設遮水シートに、前記最下段の鋼管の下端に取り付けた止水シートの外周部を水中溶着する工程と、
前記最上段の鋼管内から前記最下段の鋼管内まで排水することで、水中に設置した鋼管柱内にドライ空間を形成する工程と、
を有することを特徴とする水中鋼管建て込み工法。
【請求項2】
前記最下段の鋼管として、下面に前記不陸調整ゴムと前記止水シートを取り付けた鋼製円座が下端に取り付けられた鋼管を用いることを特徴とする請求項1に記載の水中鋼管建て込み工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−208680(P2008−208680A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48876(P2007−48876)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)