説明

水中電界測定装置及び水中電界測定方法

【課題】水中で装置の揺れによる電磁誘導雑音を検知する場合でも、雑音補償が出来、測定上のS/Nを向上できる水中電界装置を提供する。
【解決手段】水中電界測定装置に、水中電界センサに加えジャイロと3軸磁気センサを備え、ジャイロで検出の3軸加速度データと3軸磁気センサで検出の3軸磁気データから、速度vで電線が運動することにより発生する第1の電磁誘導雑音を計算し(ST11,ST12,ST15)、ジャイロで検出の3軸角速度データと3軸磁気センサで検出の3軸磁気データから、角速度ωで電線が回転することにより発生する第2の電磁誘導雑音を計算し(ST11,ST13、ST16)、さらに第1と第2の電磁誘導雑音を加算して(ST17)揺れによる電磁誘導雑音を求め、実測水中電界データから計算により得た電磁誘導雑音を減算することにより電磁誘導雑音を補償する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、雑音補償に工夫を凝らした水中電界測定装置及び水中電界測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、海中や水中の電位、電界を測定するのに水中電界センサを使用するが、海中や水中で電位や電界を測定する場合に、目的とする電位の他に雑音が重畳するため、この雑音分を除去するための雑音補償が行われている。
【0003】
従来の雑音補償は、図6に示すように、電界測定を行うための水中電界センサ(被補償用)11の他に補償用の水中電界センサ12を、水中電界測定用センサ11の近傍に、それぞれのセンサの検出軸を同じ方向となるように設置し、目的とする電界発生体等の到来前に測定用の水中電界センサ11と補償用水中電界センサ12とで、それぞれ環境水中雑音を測定し、測定用の水中電界センサ11の測定値から補償用の水中電界センサ12の測定値を引く(減算する)ことにより、雑音補償を行っている。
【0004】
また、水中電界測定時に、環境雑音を低減補償するために、目標体が測定領域に無い状態と、測定領域中にある状態で、電界センサにより、それぞれ電界を測定して環境雑音測定データと目標体測定データとを記憶し、次に環境雑音測定データと目標体測定データとをそれぞれ周波数解析して、環境雑音周波数解析データと目標体測定周波数解析データとを記憶し、目標体測定周波数解析データから環境雑音周波数解析データを減算して、交流雑音低減された目標体電界測定データを得るようにした水中電界測定方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−2680公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した測定用の水中電界センサと補償用の水中電界センサを備える水中電界測定装置では、環境水中電界雑音を補償できる。
【0007】
しかし、この種の水中電界測定装置では環境水中電界雑音のほか、波浪等の影響により水中電界測定装置が揺れる場合、水中電界センサに接続された電線に印加される地磁気が変動することにより発生する電磁誘導雑音も検知する。
【0008】
この電磁誘導雑音は、上記した従来のように被補償用の水中電界センサ出力から補償用の水中電界センサ出力を引いても、補償用、被補償用の水中電界測定装置の揺れが異なり、検知する電磁誘導雑音の大きさが相違するので雑音補償を行うことができない。
【0009】
この発明は、上記問題点に着目してなされたものであって、装置本体が水中で揺れによる電磁誘導雑音を検知する場合でも、雑音補償ができ、測定上のS/Nを向上できる水中電界測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に係る水中電界測定装置は、水中電界センサと、加速度及び角速度を計測するジャイロと、3軸磁気センサとを備えた水中電界測定装置であって、前記水中電界センサの出力に重畳した前記水中電界センサが揺動することに起因する電磁誘導雑音を、前記ジャイロ及び前記3軸磁気センサの出力に基づいて補正する補正手段を有することを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に係る水中電界測定装置は、請求項1に記載の水中電界測定装置において、前記電磁誘導雑音計算手段は、前記ジャイロからの3軸加速度データと前記3軸磁気センサからの3軸磁気データとにより、速度vで電線が運動することにより発生する電磁誘導雑音を計算する第1の電磁誘導雑音計算手段と、 前記ジャイロからの3軸角速度データと、前記3軸磁気センサからの3軸磁気データとにより、角速度ωで電線が回転することにより発生する電磁誘導雑音を計算する第2の電磁誘導雑音計算手段と、前記第1の電磁誘導雑音計算手段で計算された電磁誘導雑音と、前記第2の電磁誘導雑音計算手段で計算された電磁誘導雑音を加算する電磁誘導雑音加算手段と、を有し、前記補償手段は前記水中電界センサで実測した水中電界データから、前記電磁誘導雑音加算手段の加算により求めた電磁誘導雑音を減算することにより電磁誘導雑音を補償することを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に係る水中電界測定方法は、水中電界センサと、加速度及び角速度を計測するジャイロと、3軸磁気センサとを備える水中電界測定装置を用いて水中電界を測定する方法であって、前記ジャイロからの3軸加速度データと前記3軸磁気センサからの3軸磁気データとにより、速度vで電線が運動することにより発生する電磁誘導雑音を計算する第1の電磁誘導雑音計算過程と、前記ジャイロからの3軸角速度データと、前記3軸磁気センサからの3軸磁気データとにより、角速度ωで電線が回転することにより発生する電磁誘導雑音を計算する第2の電磁誘導雑音計算過程と、前記第1の電磁誘導雑音計算過程で計算された電磁誘導雑音と、前記第2の電磁誘導雑音計算過程で計算された電磁誘導雑音を加算する電磁誘導雑音加算過程と、前記水中電界センサで実測した水中電界データから、前記加算により求めた電磁誘導雑音を減算することにより電磁誘導雑音を補償する補償過程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、加速度、角速度を計測するジャイロと、3軸磁気センサとを備え、このジャイロ及び3軸磁気センサの計測データを用いて、水中電界センサの電線に電磁誘導される電位を求め、つまり揺れにより発生する電磁誘導雑音を求め、実測水中電界データから電磁誘導雑音を減算することにより、電磁誘導雑音を補償できる。
【0014】
そのため、水中において装置が揺れている状態でも雑音補償が可能であり、揺れ状態の測定でのS/Nを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の一実施形態に係る水中電界測定装置の概略構成を説明する図である。
【図2】同実施形態水中電界測定装置の回路構成を示すブロック図である。
【図3】同実施形態水中電界測定装置の処理動作を説明するフロー図である。
【図4】図3に示すフロー図の第1の処理を詳細に説明するフロー図である。
【図5】図3に示すフロー図3の第2の処理を詳細に説明するフロー図である。
【図6】従来の水中電界測定装置における雑音補償を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態により、この発明を更に詳細に説明する。図1は、この発明の一実施形態水中電界測定装置の概略構成を示す図、図2は回路構成を示すブロック図である。
【0017】
この実施形態水中電界測定装置は、ブイによって水中に吊り下げられるタイプのものであって、水中電界センサ1と、3軸磁気センサ2と、ジャイロ3と、信号記録器4と、信号処理器5とから構成されている。
【0018】
水中電界センサ1は、従来からよく知られるようにX軸用の電界センサ1x、Y軸用の磁気センサ1y、Z軸用の電界センサ1zからなる3軸電界センサである。X軸用の電界センサ1xは、電極6x1、6x2と、この電極6x1、6x2を信号処理器5に接続する電線7x1,7x2を備え、Y軸用の電界センサ1yは、電極6y1、6y2と、この電極6y1、6y2を信号処理器5に接続する電線7y1,7y2を備え、Z軸用の磁気センサ1zは、電極6z1、6z2と、この電極6z1、6z2を信号処理器5に接続する電線7z1,7z2を備えている。
【0019】
3軸磁気センサ2は、水中電界測定装置の設置位置における3軸磁気Hx,Hy、Hzを検出する。ジャイロ3は、水中電界測定装置の揺れ(Pitch、Roll、Yaw・3軸加速度・3軸角速度)を検出する。信号記録器4は、水中電界センサ1、3軸磁気センサ2,及びジャイロ3で検出された各検出値のデータ及び処理過程で得られるデータを記録(記憶)する。
【0020】
信号処理器5は、CPU(コンピュータ)が使用され、水中電界センサ1,3軸磁気センサ2,及びジャイロ3で検出されるデータに基づき所定の処理を実行し、揺れにより発生する電磁誘導雑音を算出する機能、実測した電界データから電磁誘導雑音を減算し、雑音補償を行う機能を有する。
【0021】
次に、この実施形態水中電界測定装置における、雑音補償を含む水中電界測定処理動作を図3,図4、図5に示すフロー図を参照して説明する。
【0022】
信号処理器5における処理動作は、図3に示すように、大きく分けて、ステップST1とステップST2における処理が実行される。第1の処理として、ステップST1において、電磁誘導雑音を計算する。次にステップST2へ移行し、第2の処理として、水中電界センサ1で測定した電界データからステップST1で求めた電磁誘導雑音を引き(減算し)、雑音補償を行う。
【0023】
以下に、上記第1の処理及び第2の処理の詳細を説明する。先ず図4のフロー図により、第1の処理の具体例を説明する。
【0024】
処理開始で、ステップST11において、3軸磁気センサ2で検出した3軸磁気データHx,HY,Hzを取得する。次にステップST12へ移行する。
【0025】
ステップST12において、ジャイロ3の出力である3軸加速度データAx,Ay,Azを取得する。続いてステップST13へ移行する。
【0026】
ステップST13において、ジャイロ3の出力である3軸角速度データWx,Wy、Wzを取得する。次にステップST14へ移行する。
【0027】
ステップST14においては、ジャイロ3の出力である角度データPitch、Roll、Yawを取得する。次に、ステップST15へ移行する。
【0028】
ステップST15においては、速度vで電線7x1〜7z2が運動することにより発生する電磁誘導雑音Evx、Evy、Evzを、ステップST11で取得した3軸磁気データHx,HY,Hzと、ステップST12で取得した3軸加速度データAx,Ay,Azを基に、式1で計算する。なお、電線の長さをlとする。続いてステップST16へ移行する。
【数1】

【0029】
ステップST16においては、角速度ωで電線7x1〜7z2が回転することにより発生する電磁誘導雑音Eωx、Eωy、Eωzを、ステップST11で取得した3軸磁気データHx,HY,Hzと、ステップST13で取得した角速度データWx、Wy,Wzを基に、式2で計算する。ここでも、電線の長さをlとする。計算後、ステップST17へ移行する。
【数2】



【0030】
ステップST17においては、ステップST15において求めた各電磁誘導雑音Evx、Evy、Evzと、ステップST16において求めた各電磁誘導雑音Eωx、Eωy、Eωzを、式3により加算処理する。これにより電線7x1〜7z2の揺れにより生じた電磁誘導雑音Ex、Ey,Ezが得られる。
【数3】

【0031】
次に、図5のフロー図を参照して、第2の処理の具体例を説明する。処理開始で、ステップST21において、水中電界センサ1により測定した水中電界測定値Vx,Vy、Vzを取得する。続いてステップST22へ移行する。
【0032】
ステップST22において、前記第1の処理のステップで求めた電磁誘導雑音Ex、Ey,Ezを取得する。続いてステップST23へ移行する。
【0033】
ステップST23においては、次の式4により、水中電界計測データVx,Vy、Vzより電磁誘導雑音Ex、Ey,Ezを引くことにより、雑音補償された計測データVx,Vy、Vzが得られる。
【数4】

【0034】
以上のように、この実施形態によれば、水中電界センサが揺れ、速度vで電線が運動により発生する電磁誘導雑音を計算するとともに、角速度ωで電線が回転することにより発生する電磁誘導雑音を計算し、さらに、これら計算された両電磁誘導雑音を加算して揺れに起因する電磁誘導雑音を求め、実測した水中電界計測値から揺れによる、計算で求めた電磁誘導雑音を減算して電磁誘導雑音を補償している。これにより、電線等の揺れにより発生する電磁誘導雑音も完全に補償することができ、精度良く水中電界測定を行うことが出来る。
【符号の説明】
【0035】
1x、1y、1z 水中電界センサ
2 3軸磁気センサ
3 ジャイロ
4 信号記録器
5 信号処理器
6x1、6x2、6y1、
6y2,6z1、6z2 電極
7x1,7x2,7y1,
7y2,7z1、7z2 電線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中電界センサと、加速度及び角速度を計測するジャイロと、3軸磁気センサとを備えた水中電界測定装置であって、
前記水中電界センサの出力に重畳した前記水中電界センサが揺動することに起因する電磁誘導雑音を、前記ジャイロ及び前記3軸磁気センサの出力に基づいて補正する補正手段を有することを特徴とする水中電界測定装置。
【請求項2】
前記電磁誘導雑音は、前記水中電界センサの電線に電磁誘導される電位であって、
前記補正手段は、前記ジャイロ及び前記3軸磁気センサからの計測データを用いて前記電位を計算する電磁誘導雑音計算手段と、前記水中電界センサで実測した水中電界データから、前記計算により求めた電磁誘導雑音を減算することにより電磁誘導雑音を補償する補償手段と、
を有することを特徴とする請求項1記載の水中電界測定装置。
【請求項3】
前記電磁誘導雑音計算手段は、
前記ジャイロからの3軸加速度データと前記3軸磁気センサからの3軸磁気データとにより、電線が平行移動することにより発生する電磁誘導雑音を計算する第1の電磁誘導雑音計算手段と、
前記ジャイロからの3軸角速度データと、前記3軸磁気センサからの3軸磁気データとにより、電線が回転することにより発生する電磁誘導雑音を計算する第2の電磁誘導雑音計算手段と、
前記第1の電磁誘導雑音計算手段で計算された電磁誘導雑音と、前記第2の電磁誘導雑音計算手段で計算された電磁誘導雑音を加算する電磁誘導雑音加算手段と、
を有することを特徴とする請求項2記載の水中電界測定装置。
【請求項4】
水中電界センサと、加速度及び角速度を計測するジャイロと、3軸磁気センサとを備える水中電界測定装置を用いて水中電界を測定する方法であって、
前記ジャイロからの3軸加速度データと前記3軸磁気センサからの3軸磁気データとにより、電線が平行移動することにより発生する電磁誘導雑音を計算する第1の電磁誘導雑音計算過程と、前記ジャイロからの3軸角速度データと、前記3軸磁気センサからの3軸磁気データとにより、電線が回転することにより発生する電磁誘導雑音を計算する第2の電磁誘導雑音計算過程と、前記第1の電磁誘導雑音計算過程で計算された電磁誘導雑音と、前記第2の電磁誘導雑音計算過程で計算された電磁誘導雑音を加算する電磁誘導雑音加算過程と、前記水中電界センサで実測した水中電界データから、前記加算により求めた電磁誘導雑音を減算することにより電磁誘導雑音を補償する補償過程と、
を有することを特徴とする水中電界測定方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−102762(P2011−102762A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258053(P2009−258053)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)