説明

水冷破砕された製鋼スラグの排出装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、圧力容器内での固化高温製鋼スラグの水冷により破砕されたスラグを次工程のために排出する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、製鋼スラグ処理は、(1)溶融スラグを固化する固化工程、(2)固化したスラグを100℃程度まで冷却する冷却工程、(3)磁力選鉱に適した粒度に破砕する細粒化工程、(4)磁力選鉱によるスラグ/地鉄分別工程、および(5)エージングによる安定化工程によって行われている。
【0003】例えば、従来の典型的な製鋼スラグ処理においては、上記各工程は具体的には以下のように行われる。
(1)固化工程:まずスラグを土場または鉄板上に放流し、土場の場合で1〜2日間、鉄板上では数十分間放冷して固化させ、形成された一体の固形塊を上方からスラグポット等で打撃して直径数百mm程度に破砕する(一次破砕)。
【0004】(2)冷却工程:一次破砕塊に散水し例えば1時間程度で300℃程度まで冷却(一次冷却)した後、例えば積載容量30t程度の排滓台車上に排出し、この台車上で再度散水して通常は十数分程度で100℃程度まで冷却(二次冷却)し、次に台車から水冷ピット内に排出して通常は数時間から数十時間放置(ピット冷却)する。ピット水冷後、乾燥および放冷のためヤードに移送し貯鉱する。
【0005】ここで、スラグ塊は内部に地鉄が分散して含有されており、路盤材等に適した製品スラグ組成を得るためばかりでなく、鉄分を有効に回収しリサイクルするためにも、両者を分別する必要がある。そのためには、スラグ塊を破砕して両者を機械的に分離した後、磁力選鉱を行うことにより、磁力に反応する鉄分と反応しない純然たるスラグ部分とを分別する。ここで、破砕後のスラグ塊中にも地鉄は残留しており、スラグ塊中の鉄分をより少なくするには、破砕による細粒化をより促進する必要がある。
【0006】(3)細粒化工程:上記のヤード貯鉱で十分に乾燥および冷却された一次破砕塊は、打刻機(「ペッカー」等と通称される)により大きなスラグ塊と鉄塊とを分離した状態にして、篩分別器(「グリズリー」等と通称される)にかけ、塊寸法をある程度以下に抑えてから、ロッドミル等の適当な破砕機により適度な粒度まで破砕する(二次破砕)。ヤード貯鉱からこの二次破砕までの処理に、通常は丸一昼夜(24時間)程度を要する。
【0007】(4)分別工程:二次破砕した後、磁力選鉱により鉄分とスラグ分とに分別する。その後、鉄分については通常は更に磨鉱(乾式あるいは湿式)と磁力選鉱とを行い鉄分品位を向上させる。磨鉱および磁力選鉱には通常は60分程度を要する。スラグ分については次のエージング工程を行う。
(5)エージング工程:エージングヤードに移して保管し、水和反応を進行させて安定化させた後、路盤材等の各用途に供する。通常、このエージング期間として12カ月〜36カ月を要する。
【0008】このように、スラグ処理は非常に多くの工程と多大な時間とを要する上、各処理工程に膨大な敷地を必要とするという生産効率およびコスト上の問題があるばかりでなく、固化から一次冷却(300℃程度)までの高温期間には熱間作業を強いられ、その後の破砕、移送、磁力選鉱の各段階では多量の粉塵発生下での作業になり、労働環境の観点からも問題があった。
【0009】これに対して、本出願人らは特開昭55−110703号公報(特公昭58−55093)において、特に上記(2)の冷却時間の短縮および作業環境の改善および(5)のエージング期間の短縮のために、工程(1)で得られた一次破砕塊を密閉容器内で散水し、発生する高圧水蒸気と高温雰囲気を利用してスラグの冷却と水和反応促進とを行う方法を提案した。
【0010】しかしこの方法では、例え長時間の処理をしても水和反応促進効果が少ない上、破砕効果は全く得られないため、上記問題を解消する効果はあまり得られなかった。また、特公昭52−44721号公報には、500℃以上の顕熱を有する転炉滓を水を加えた高圧容器内の投入して密閉し、転炉滓顕熱により水を高圧蒸気にとして、高圧蒸気中で3〜15時間の処理を行う方法が開示されている。
【0011】しかしこの方法は、蒸気雰囲気中で処理するためスラグの冷却に長時間を要し、冷却速度が遅いため熱衝撃によるスラグ破砕効果が得られないという欠点があった。そこで更に本出願人は特願平第4−97699号において、上記密閉した圧力容器容器内での散水速度および水蒸気圧力と処理時間との関係を限定することにより、単に冷却水との接触による水和反応を誘起するだけでなく、急冷をより有効に利用して破砕効果をも誘起し、破砕の促進により水和反応をも更に促進する方法を提案した。この方法によれば、水和反応と破砕とが連鎖反応的に進行する相乗効果により、上記固化後の(2)冷却工程および(3)細粒化工程が、密閉した容器内で合計数十分程度で完了するので、生産性および労働環境が飛躍的に向上する。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、上記の密閉圧力容器内水冷破砕処理を組み込んだスラグ処理プロセス全体を効率良く機能させるために、水冷破砕された製鋼スラグを次工程に迅速に搬送できるように排出する装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記の目的は、本発明によれば、圧力容器内での固化高温製鋼スラグの水冷により破砕されたスラグを、次工程のために排出する装置において、上記破砕されたスラグを収容する上部開放型のスラグボックス、上記スラグボックスを傾転可能に搭載して走行する台車、上記台車が走行するための、上記圧力容器の内外を連絡する軌条、上記圧力容器外部の上記軌条に隣接して配設され、一端には篩手段を介してスラグを受け入れるスラグ受入口を有し他端にはスラグ送出口を有するスラグ排出用シュート、上記シュートの配設位置において、上記軌条上に停車した上記台車上の上記スラグボックスを上記シュートのスラグ受入口に向けて傾転させる手段、および上記シュートのスラグ送出口からのスラグを次工程のために搬送する手段を含むことを特徴とする、水冷破砕された製鋼スラグの排出装置によって達成される。
【0014】
【作用】本発明のスラグ排出装置は、破砕処理済のスラグをスラグボックスの傾転により極めて短時間で排出用シュートへ排出でき、しかもその際に篩手段を介してシュートへ投入することにより次工程(基本的には磁力選鉱工程)のために適した粒度範囲内に制御することができるので、これをそのまま搬送して次工程に供給することができる。
【0015】圧力容器内での水冷による破砕で、スラグ中の地鉄分以外の部分(実質的なスラグ分)は粒径100mm以下に細粒化でき、粒径100mm以上の部分はほぼ地鉄分である。粒径100mm以上の大塊はベルトコンベア等の搬送機器の破損の原因や磁力選鉱効率の低下にともない磁力選鉱設備の投資額増大を引きおこす。圧力容器からスラグを排出する際に、グリズリー等の篩手段を介在させることにより、上記のような大塊を容易に排除でき、前記ベルトコンベア破損や磁力選鉱効率低下を防止できる。
【0016】篩手段としては、上記のいわゆるグリズリーが簡便且つ十分である。グリズリーの典型的な形態は、鋼枠に何本かの鋼棒を平行または縦横に渡して縞状または格子状の篩目を構成したものである。篩手段を通過しないスラグ塊を篩面から直ちに排除すれば、シュートへのスラグ供給をより円滑に進行させることができる。そのため、篩手段の篩面は、これを通過しないスラグ塊を篩面外へ滑落させるのに十分な角度で傾斜しているか、または傾斜し得るようになっていることが望ましい。これと同じ理由で、シュートの篩手段は、その篩作用を促進するための振動機能を有することが望ましい。篩面の傾斜と振動とを組み合わせると滑落・篩作用を更に促進することができる。
【0017】また、スラグボックスは、傾転によるスラグ排出を促進するように側壁にテーパをつけておくことが望ましい。この場合、スラグボックスは底部から開放上部に向けて上広がりの断面プロファイルになる。スラグボックスからのスラグ排出を常にスラグボックスの一定の部位で行うようにする場合には、その部位の側壁のみにテーパをつけておけば上記の作用を得るには十分である。例えば、スラグボックスの両側壁のうちの一方のみにテーパをつけておき、常にこのテーパ付き側壁の側からスラグ排出を行うようにしてもよい。
【0018】また、圧力容器内で冷却・破砕されたスラグは乾燥しているため、スラグ排出時に粉塵を発生することがある。これを防止するために、スラグ排出時にスラグ又はその周囲に散水することにより、スラグに適度な水分を供給してもよい。以下に、添付図面を参照して、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0019】
【実施例】図1に、圧力容器内での固化高温製鋼スラグの水冷により破砕されたスラグを次工程のために排出するための本発明による装置の一例の平面配置を示す。破砕されたスラグ1を収容する上部開放型のスラグボックス2は、台車3上に傾転可能に搭載されている。台車3は図示しない圧力容器内部から外部へ連絡する軌条4上を走行する。スラグボックス2は、図2に示すように、両端面に傾転装置との係合部2Aを備えており、また傾転によるスラグ排出を促進するために側壁2Bにテーパを付けてある。スラグボックス2は、台車3上に固定された台座3Aと、支柱3Bの傾転軸部分とで台車3上に支持される。
【0020】図示した軌条4は圧力容器の外部の部分であり、軌条4に隣接してスラグ排出用シュート5が配設されている。シュート5の頂部のスラグ受入口5Aは格子状のグリズリーで構成されており、これを介して破砕済スラグを受け入れる。シュート5の下端にはスラグ送出口5Bが開口している。シュート5の断面は、頂部の受入口5Aから下端の送出口5Bに向けてテーパ状に絞られている。
【0021】シュート5の両側には、スラグボックス2を傾転させるための油圧式駆動装置6が設置されている。傾転装置6は旋回・伸縮機構を備えた腕6Aを有する。シュート5下端のスラグ送出口5Bの直下には、ベルトコンベアー7が配設されている。図1の装置の基本的な作動を以下に説明する。
〔工程1〕:図1(a)破砕済スラグ1を収容したスラグボックス2を搭載した台車3が、図示しない圧力容器から軌条4上を走行してスラグ排出用シュート5の位置へ向かう。
〔工程2〕:図1(b)台車3がシュート5の位置で停車する。腕6Aの旋回・伸縮機構が作動してその先端が台車3上まで前進し、スラグボックス2の両端に係合する。
〔工程3〕:図1(c)腕6Aが旋回・伸縮機構によりスラグボックス2の係合部を引き寄せる向きに作動すると、スラグボックス2は台車3上に固定された支柱3Bの傾転軸の周りに回転し、収容しているスラグ1をシュート5の受入口すなわちグリズリー5A上に排出する。グリズリー5Aを通過したスラグはシュート5内を落下して下端の送出口5Bからベルトコンベアー7上に放出される。ベルトコンベアー7は、放出されたスラグを磁力選鉱工程等の次工程の実施場所へ向けて矢印Tの方向に搬送する。
【0022】グリズリー5Aは、これを通過しないスラグ塊をその面外へ滑落させるのに十分な角度で傾斜させて設けるか、あるいは傾斜し得るように可動に設けることが望ましい。また、その篩作用を促進するための振動機能を有することも望ましい。
【0023】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、水冷破砕された製鋼スラグを次工程に迅速に搬送できるように排出するできるので、密閉圧力容器内水冷破砕処理を組み込んだスラグ処理プロセス全体を効率良く機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による破砕スラグ排出装置の一例を示す平面図である。
【図2】本発明の破砕スラグ排出装置の構成要素としてのスラグ搬送用台車を示す(a)側面図および(b) 平面図である。
【符号の説明】
1…破砕されたスラグ
2…スラグボックス
2A…係合部
2B…テーパ付き側壁
3…スラグボックス搭載用台車
3A…スラグボックス2を支持するための台座
3B…スラグボックス2を支持する傾転軸を持つ支柱
4…台車3が走行する軌条
5…スラグ排出用シュート
5A…シュート5頂部の受入口(グリズリー)
5B…シュート5下端の送出口
6…油圧式スラグボックス傾転装置
6A…傾転装置6の旋回・伸縮可能な腕
7…ベルトコンベアー

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧力容器内での固化高温製鋼スラグの水冷により破砕されたスラグを、次工程のために排出する装置において、上記破砕されたスラグを収容する上部開放型のスラグボックス、上記スラグボックスを傾転可能に搭載して走行する台車、上記台車が走行するための、上記圧力容器の内外を連絡する軌条、上記圧力容器外部の上記軌条に隣接して配設され、一端には篩手段を介してスラグを受け入れるスラグ受入口を有し他端にはスラグ送出口を有するスラグ排出用シュート、上記シュートの配設位置において、上記軌条上に停車した上記台車上の上記スラグボックスを上記シュートのスラグ受入口に向けて傾転させる手段、および上記シュートのスラグ送出口からのスラグを次工程のために搬送する手段を含むことを特徴とする、水冷破砕された製鋼スラグの排出装置。
【請求項2】 前記シュートの篩手段の篩面は、これを通過しないスラグ塊を該篩面外へ滑落させるのに十分な角度で傾斜しており、または傾斜し得ることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】 前記シュートの篩手段は、その篩作用を促進するための振動機能を有することを特徴とする請求項1または2記載の装置。
【請求項4】 前記スラグボックスは、前記傾転によるスラグ排出を促進するように側壁がテーパを有することを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】 前記シュートにスラグを排出する際にスラグに散水する機能を有することを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3110198号(P3110198)
【登録日】平成12年9月14日(2000.9.14)
【発行日】平成12年11月20日(2000.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−74303
【出願日】平成5年3月31日(1993.3.31)
【公開番号】特開平6−287034
【公開日】平成6年10月11日(1994.10.11)
【審査請求日】平成11年5月13日(1999.5.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【参考文献】
【文献】特開 平6−281363(JP,A)
【文献】特開 昭50−134904(JP,A)
【文献】特開 昭55−110703(JP,A)
【文献】特開 平5−295409(JP,A)
【文献】特開 平6−127984(JP,A)
【文献】特開 平6−256814(JP,A)
【文献】特開 平6−256047(JP,A)
【文献】特開 平6−281363(JP,A)