説明

水処理装置用ろ過膜の製造方法、水処理装置用ろ過膜及び水処理装置用ろ過膜を備える水処理装置

【課題】所望の平均孔径を具備する有機質膜を、製造条件の厳しい管理を行うことなく製造できる、水処理装置用ろ過膜の製造方法を提供する。
【解決手段】製造するろ過膜の孔径に対応する微小突起が型面上に形成されてなる成形型をあからじめ用意し、この成形型に、ろ過膜用原料溶液を塗布形成し、固化させることにより、成形型の突起に対応した部分が空孔になったろ過膜を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置用ろ過膜の製造方法、水処理装置用ろ過膜及び水処理装置用ろ過膜を備える水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水、医療分野用又は半導体産業用の純水又は薬品類の精製、廃水の浄化、食品や醸造分野その他のバイオ産業における溶液の清澄ろ過、等の水処理には、精密ろ過膜や限外ろ過膜を用いた膜ろ過、膜分離が行われている。
【0003】
これらの精密ろ過膜や限外ろ過膜は、ろ過するための所定の平均孔径を有する多孔質膜であり、材質により有機膜と無機膜に分類される。このうち、有機膜は、成形加工が容易であり、また、無機膜よりも細孔の細孔径とすることができ、調整し得る孔径範囲が広い点で、無機膜よりも有利である。
【0004】
有機膜の多孔質膜よりなる精密ろ過膜や限外ろ過膜は、所望のろ過を実現するための平均孔径を具備しつつ、透水量を増加させることが求められている。しかし、透水量を増やすために空隙率を高めると、ろ過膜の機械的強度が低下すること等により阻止率が低下する場合がある。透水性と阻止率という相反する特性を両立させるために、多孔質の表面の少なくとも一方の表面及び多孔質内部に緻密層を有し、かつ、多孔質の少なくとも一方の表面にある緻密層の平均孔径が10nmから500nmである多孔質膜が提案されている(特許文献1)。この特許文献1に記載されたろ過膜は、重合体溶液から公知の方法により一方の表面に緻密層を有する多孔質樹脂層を作成し、その上に別の重合体溶液を塗布して、表面の緻密層を形成することにより製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−224051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたろ過膜の製造方法においては、不織布などの基材に原料樹脂溶液を塗布して凝固させた後、脱溶媒することで緻密層を有する多孔質樹脂層を形成し、次いでこの多孔質樹脂上に原料樹脂溶液を塗布して凝固させ、脱溶媒することで別の緻密層を形成している。このような脱溶媒により細孔を形成する多孔質膜の製造方法では、精密な孔の制御が困難であり、所望の平均孔径の多孔質膜を得るためには、試行錯誤を積み重ね、ノウハウを得る必要があった。また、所望の平均孔径の多孔質膜を得るための製造条件であっても、必ずしも所望の平均孔径の多孔質膜が得られるとは限らない場合があり、そのため製造後に阻止率の試験やその他の検査によってろ過膜の孔径を調べる手間を要していた。さらに、特許文献1に記載されたろ過膜の製造方法では、原料樹脂溶液を脱溶媒して多孔質膜を形成しているため、脱溶媒により多孔質を形成できる膜素材が限定されていた。
【0007】
本発明は上記の問題を有利に解決するものであり、所望の平均孔径を具備する有機質膜を、製造条件の厳しい管理を行うことなく製造できる、水処理装置用ろ過膜の製造方法を、この製造方法により得られる水処理装置用ろ過膜及びこの水処理装置用ろ過膜を備えた水処理装置と共に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る水処理装置用ろ過膜の製造方法は、製造するろ過膜の孔径に対応する微小突起が型面上に形成されてなる成形型をあからじめ用意し、この成形型に、ろ過膜用原料溶液を塗布形成し、固化させることにより、成形型の突起に対応した部分が空孔になったろ過膜を得ることを特徴とする。
【0009】
本発明の水処理装置用ろ過膜の製造方法は、成形型の突起が、型面からの突出方向に先細りの形状を有することが好ましく、また、成形型の突起が光硬化性樹脂よりなることが好ましい。
【0010】
本発明の水処理装置用ろ過膜の製造方法は、成形型の型面及び突起表面に離型剤を塗布する工程と、ろ過膜用原料溶液を塗布する工程と、塗布されたろ過膜用原料溶液を乾燥固化する工程と、乾燥固化して得られたろ過膜を成形型から剥離する工程と、を備えることができる。
【0011】
本発明の水処理装置用ろ過膜は、一方の表面から他方の表面に向けて貫通する複数の細孔を有し、これらの細孔は、一方の表面における直径が、他方の表面における直径よりも小さいことを特徴とする。
【0012】
本発明の水処理装置は、一方の表面から他方の表面に向けて貫通する複数の細孔を有し、これらの細孔は、一方の表面における直径が、他方の表面における直径よりも小さいろ過膜を備えるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る水処理装置用ろ過膜の製造方法は、製造するろ過膜の孔径に対応する微小突起が型面上に形成されてなる成形型を用いてろ過膜の細孔を形成するから、単に成形型の調整により、所望の平均孔径を具備する有機質膜を、製造条件の厳しい管理を行うことなく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の水処理装置用ろ過膜の製造方法の一実施形態のフロー図である。
【図2】成形型の一例の模式的な斜視図である。
【図3】成形型の断面形状の例の模式図である。
【図4】成形型を用いたろ過膜の作成プロセスを時系列で示した模式的な断面図である。
【図5】本発明の一実施形態のろ過膜の模式的な斜視図でである。
【図6】本発明の一実施形態の水処理装置としてのフィルターの説明図である。
【図7】本発明の一実施形態の水処理装置としての浄水装置の概念図である。
【図8】ろ過膜の連続製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水処理装置用ろ過膜の製造方法、水処理装置用ろ過膜及び水処理装置の実施形態を、より具体的に説明する。
【0016】
図1は、本発明の水処理装置用ろ過膜の製造方法の一実施形態のフロー図である。同図に示すように、本発明の水処理装置用ろ過膜の一実施形態の製造方法においては、まず作ろうとするろ過膜の孔径に対応する微小突起が型面上に成形型をあからじめ用意する(ステップS10)。この型面から突出する微小突起は、製造するろ過膜の平均孔径に相当する直径有し、ろ過膜の厚さよりも大きな高さを有している。この微小突起の分布は、製造するろ過膜の空孔率に対応する密度となっている。好ましくは、微小突起は均一で規則的に形成されてなる。
【0017】
つまり、この成形型に形成された微小突起が、後で製造するろ過膜の細孔となる。
【0018】
この型面及び微小突起の表面に離型剤を付着させてから(ステップS11)、この型面上にろ過膜用原料溶液を所定厚さで塗布し、しかる後に固化させて(ステップS12)、この成形型から固化後の膜を剥離させる(ステップS13)。すると、突起部分があった部分には膜の厚さ方向に貫通する細孔が形成されている、本発明に従うろ過膜を得る。
【0019】
本発明の製造方法によれば、ろ過膜の微細孔として適切な直径、高さ、密度を有する微小突起を有する成形型を用いて膜を形成することにより、この突起に対応した貫通孔を膜に形成することができる。このため、ろ過膜を有機膜の原料溶液から製造する際に、特に細孔形成のための試行錯誤を行う必要がなく、所定の細孔特性を要するろ過膜を容易に製造することができる。また、製造されたろ過膜の平均孔径は、成形型の突起の直径によって決まるため、所望の孔径を確実に得ることができることから、ろ過膜の製造後に所定の平均孔径を有していることを検査することが不要となる。さらに、製造方法は微小突起を有する成形型上に原料溶液を塗布して固化させ、その後に成形型から剥離させるとという簡便な工程によって実施できるので、ろ過膜の材料は脱溶媒特性により制限されることがなく、よってろ過膜によりろ過、分離する原液に応じる適切な素材に本発明の製造方法を適用してろ過膜、分離膜とすることができるので新たな用途を開発することができる。
【0020】
また、成形型に突起を均一で規則的に設けることにより、平均孔径のばらつきの小さい、均質で高精度のろ過膜を得ることが可能になる。また、均質で高精度のろ過膜である本発明のろ過膜は、所定の平均孔径を具備したまま、空隙率を高めても阻止率の低下が小さく、よって高い透水性と高い阻止率を両立させることができる。
【0021】
この成形型について説明する。この成形型の一例を模式的な斜視図で図2に示す。図2に示すように成形型10は、ろ過膜用原料溶液が塗布形成される型面11とこの型面11上から突出する突起12とを有している。この成形型の断面形状の例の模式図を図3に示す。突起12は、製造するろ過膜の厚さよりも大きな高さhを有し、これによりろ過膜の厚さ方向に貫通する細孔を形成できるようになっている。突起12の直径は、製造するろ過膜の細孔径に相当する径とする。これによりろ過膜の厚さ方向に貫通する細孔のろ過膜表面における細孔径を所望の径とすることができる。
【0022】
突起12の断面形状は、円柱形であってもよいが、図3(a)〜(d)に示すように、膜の厚さ方向に平行な断面において、突出方向に先細り形状(テーパー形状)を有していることが好ましい。図3(a)に示す突起12Aは、円錐形状の突起であり、三角形の断面形状を有している。図3(b)に示す突起12Bは、円錐台形の突起であり、台形の断面形状を有している。図3(c)に示す突起12Cは、頂点が偏心している円錐の頂部を切り取った円錐台形の突起であり、傾斜面からの傾斜角が異なる台形の断面形状を有している。図3(d)に示す突起12Dは、ドーム型の突起であり、半円形の断面形状を有している。図3(b)に示したような円錐台状の突起になっているものは、突起の先端部が図3(a)に示したような錐状の突起よりも、ろ過膜製造時のハンドリング等により先端部が欠損するおそれが低い点で有利である。一方、図3(a)に示した突起は、図3(b)に示した突起よりも底面からの傾斜角を大きくすることができる。これは、後述する膜厚制御による細孔径制御には有利である。
【0023】
図2及び3に示したように、突起12、12A〜Dが先細り形状を有することにより、この突起により形成されるろ過膜1の細孔は、ろ過膜1における、製造時に型面に接していた側の面である裏面1aに開口している孔径d1よりも、製造時において空間に面している側の面である表面1bに開口している孔径d2が小さくなる。そして、この小さいほうの孔径d2は、膜厚によって変動し、かつ、膜厚によって所定の値に定められる。例えば、膜厚を厚くすると表面1bにおける孔径d2は小さくなり、膜厚を薄くすると表面1bにおける孔径d2は大きくなる。したがって、本実施形態に従い、成形型を用いてろ過膜を製造するときの膜厚を制御することにより、突起のテーパーの逓減度の範囲内で表面1bの孔径を自由に変更することができる。これにより所望の孔径を得るための制御が容易となる。
【0024】
また、このようにろ過膜の膜厚管理によってろ過膜の孔径管理を行うことができる、これにより確実に所定の孔径のろ過膜が確実に得られるから、後工程において検査を行うことが不要となる。
【0025】
さらに、突起が先細りのテーパー形状を有していることは、ろ過膜の製造時においては、成形型上でろ過膜を固化後に剥離する場合に、この突起12が抜け勾配を有していることとなるから、ろ過膜を容易に剥離することが可能となる。
【0026】
また、突起がテーパー形状を有していることにより、一つの成形型を用いて、製造するろ過膜の平均孔径を、膜厚の調整により所定範囲内で自由に変更させることができるため、成形型の数を集約することができ、よって成形型の管理が容易である。
【0027】
突起の厚み方向に垂直な断面における形状は特に図3に示されたものに限定されない。また、工業的な成形型の加工精度上の制約から、図3に示された幾何学的形状に近似した形状であっても許容される。要はろ過膜の裏面の孔径よりも表面の孔径を小さくすることができ、かつ、製造時に抜け勾配を有している形状であれば足りる。
【0028】
突起を成形型の型面に向かう方向から見た平面形状は、円形に限られないが、通常は円形とすることができる。
【0029】
このような突起を有する成形型は、例えば光硬化性樹脂を用いることで作成することができる。光硬化性樹脂は、紫外線などの光エネルギーを照射することによって硬化する樹脂である。半導体デバイスの製造分野においては、フォトレジストとしてフォトリソグラフィに用いられているように、光硬化性樹脂を含む溶液に照射する、光源からの紫外線などのビーム径を、精密ろ過膜や限界ろ過膜の平均孔径又はそれ以下にまで小さくすることができる。そこで、少なくとも突起の作成に、このような光硬化性樹脂を用いること、すなわち、成形型の突起が光硬化性樹脂よりなることにより、本発明のろ過膜の製造に好適な、微小突起を備える成形型を作成することができる。
【0030】
微小突起が光硬化性樹脂よりなる成形型の作成の具体的な例としては、プレポリマー、モノマー、光重合開始剤、添加剤等を含む光硬化性樹脂液を収容した浴中に、光硬化性樹脂又はその他の樹脂、あるいはその他の材料により公知の方法により作成された成形型材料を浸漬させ、この成形型材料の型面11を液の浴面近傍に位置させ、この型面11に向けて光源から導かれた紫外線などの光エネルギーを選択的に照射して、突起12に相当する部分のみを硬化させる。これにより型面11上に突起12を形成する。
【0031】
別の方法では、型面11を有する成形型材料上に、光硬化性樹脂液をスピンコータなどにより塗布した後、光硬化性樹脂液に向けて、紫外線などの光エネルギーを選択的に照射して、突起12に当たる部分のみを硬化させる。
【0032】
紫外線などの選択的な照射は、光源からの光を集光して、作成する突起12の直径と同程度のビーム径にした光を、型面11の面内で走査しながら断続的に照射することにより実行することができる。この他、作成する突起12の直径と同程度の孔を有するマスクを、光源と成形型10との間に用意して、このマスクの孔を通して光を型面11上の光硬化性樹脂液に照射することによっても実行することができる。
【0033】
また、図3に示したようなテーパーを有する突起を光硬化性樹脂により製造するには、まず作成する突起12の底面に相当する領域に光を照射して硬化させたのち、光硬化性樹脂液を収容した浴中の成形型材料を浴面から降下させるとともに、既に照射した領域に重ねて、既照射領域よりも面積が小さい範囲で光を照射して硬化させることを、必要とされる突起高さを得るまで繰り返すことにより、テーパーを有する突起を形成させることができる。
【0034】
本発明の製造方法に用いられる成形型の作成は、光硬化性樹脂を用いた光硬化に限られない。例えばプラズマ照射その他の指向性のあるエッチング方法により、成形型材料から突起部分を残すように選択的にエッチングすることにより、突起を有する成形型を形成することもできる。この場合の成形型材料は、エッチング種に応じて適宜選択することができる。
【0035】
図4は、成形型を用いたろ過膜の作成プロセスを時系列で示した模式的な断面図である。この図4を用いてろ過膜の製造工程の一実施形態を説明すると、まず図4(a)に示すように、成形型を用意する。成形型の先に述べた方法により作成することができる。一例として図4(a)では光硬化型樹脂を用いて、複数の突起を持つ成形型を成形した。
【0036】
次に、この成形型10の型面11及び突起12の表面に、離型剤13を公知の塗布方法、例えばスプレー塗布などにより塗布する(図4(b))。この離型剤は、ろ過膜を型面上に形成した後に剥離させる際に、容易にろ過膜を剥離できるようにするためのものである。この離型剤には、公知の剥離剤や油脂、セラミック粒子等の微細粉体などを用いることができる。なかでも、好ましいのは界面活性剤である。ろ過膜を成形型から剥離させると、ろ過膜の表面及び細孔内に界面活性剤が転写されて付着している。そのため、このろ過膜は、界面活性剤の種類に親水性の界面活性剤を用いることにより親水性膜とすることができる。また、界面活性剤の種類を工夫することにより、疎水性膜とすることもできる。つまり離型剤に界面活性剤を用いるだけで、後処理で親水化処理を行うことなく、親水性膜、疎水性膜を作り分けることができる。
【0037】
次に、図4(c)に示すように、ろ過膜の原料の有機質溶液を成形型10の型面11上に塗布形成する。この塗布には、公知の方法、例えばスピンコーティングにより行うことができる。スピンコーティング法は、溶液の塗布厚さの制御が容易であるために有利である。スピンコーティングのほか、吹き付け、流し込み、掃け塗りなどによって塗布することもできる。ろ過膜用原料溶液を塗布する前に界面活性剤を成形型10の突起12の表面にわたって塗布しておくことにより、突起の先端部に溶液が付着せず、付着しても下方の溶液中に降下する。したがって、付着した溶液の硬化による孔径変動が生じず、所望の孔径を有する均質なろ過膜を容易に製造することができる。
【0038】
塗布するろ過膜の溶液の材料は、ろ過膜として用いることができる有機材料であれば特に限定されない。例えば、ナイロン、ポリエステルなどを用いることができる。樹脂のなかでも親水性樹脂をろ過膜の材料に用いることは、後処理で親水化処理を行わなくても、親水性膜を得ることができることから、親水性膜を製造する場合には有利である。
【0039】
次いで、溶液を乾燥固化する。この乾燥・固化手段は、光硬化性樹脂の場合には光硬化法、熱硬化性樹脂の場合には熱硬化法というように、塗布した樹脂材料に応じた方法を採ればよい。この他、乾燥固化、脱溶媒硬化等も行うことができる。
【0040】
乾燥固化後に剥離処理を行う(図4(d))。剥離処理は、接着剥離、エア剥離、電気斥力剥離等、何れの方法であってもよい。
【0041】
以上の工程の経て得られた本発明の一実施形態のろ過膜を、模式的な斜視図で図5に示す。図5に示されるように、本発明の一実施形態のろ過膜1は、一方の表面から他方の表面に貫通する孔径が均一な細孔を備えている。このように、本発明の方法により得られたろ過膜1は、孔径が均一で精度が高く、ロットによる孔径のばらつきが全くないため、医療機器などの用途においては、ろ過対象物から分離除去を高精度に行うことができ、また、特定成分の濃縮能力を要求される場合でも、安全に安心して使用することができる。
【0042】
また、図5に示したろ過膜1は、細孔が、一方の表面に開口しているところの直径d1よりも、他方の表面に開口している直径d2が小さくなっていることから、孔径の大きい面側から孔径の小さい面側へ、ろ過する場合には、逆洗浄により閉塞物質の除去を容易に行うことができる。また、孔径の小さい面側から孔径の大きな面側へ、ろ過する場合には、膜内部でのろ過物の詰まりが少ないため、長寿命なろ過膜とすることができる。
【0043】
ろ過膜は、そのまま単独で使用してもよいし、不織布などの別の補強基材に貼り付けて使用してもよい。
【0044】
ろ過膜の厚さ、細孔の孔径は、特に限定されるものではない。一例としては、厚さは0.1μm程度、孔径は精密ろ過、限外ろ過に用いられる10〜100nm程度とすることができる。
【0045】
このろ過膜は、水処理装置として例えば浄水用フィルターに適用することができる。図6はその一例として、ろ過膜からスパイラル型膜エレメントを作成して、これを浄水装置のフィルターとして用いた例である。
【0046】
図6に示したフィルター20は、膜リーフ21を備えている。図6(a)に示されるように、膜リーフ21は、本発明に従う2枚の長方形のろ過膜1と、透過液の通路となる網板状のスペーサー22とを備え、この2枚のろ過膜1でスペーサー22を挟んだ状態で、ろ過膜1の短辺の一辺を除く三辺でこれらの膜を互いに接着して袋状に成形してなる。この膜リーフ21の接着されていない一辺を、円筒状の集水管23の周面23aに開口されている複数の集水孔23bに、袋状の膜リーフ21の内部空間が連通するようにして接着固定する。この膜リーフ21は、1本の集水管23当たり1枚でも良いし、複数枚でもよい。集水管23に一辺が固定された膜リーフ21と、原液の通路となるスペーサー24とを重ねるようにして集水管23の周囲に巻き、一体的にしてなるスパイラル型膜エレメントを本発明のフィルター20とすることができる(図6(c))。
【0047】
本発明のろ過膜は、水処理装置として例えば浄水装置に用いることができる。図7に概念図で示す浄水装置30は、一例として、図6を用いて説明したフィルター20を、交換可能なカートリッジとして浄水装置30に組み込んだものである。浄水装置30は、このフィルター20と、このフィルター20に原液を供給する供給ポンプ31とを備え、供給ポンプ31から原液をフィルター20に供給して、浄化水と濃縮排水とに分離する。
【実施例】
【0048】
本発明のろ過膜の製造方法の実施例として、連続処理によりろ過膜を製造する例を以下に説明する。
【0049】
図8は、ろ過膜の連続製造装置40の模式図である。図示した連続製造装置40は、円筒形を有し周面41aに微小突起が形成されている回転可能な型ドラム41を有している。型ドラム41の周面41aは光硬化型樹脂(エポキシ樹脂系)よりなり、本発明に従う円錐形状の微小突起が形成されている。この型ドラム41の周囲には、型ドラム41の周面41aに向けて離型剤をスプレー可能な剥離液ノズル42と、型ドラム41の周面41aに向けて、ろ過膜用原料溶液を吐出可能な液吐出ノズル43とが設けられている。剥離液ノズル42は、剥離液供給装置(図示せず)と接続している。液吐出ノズル43は、ろ過膜用原料溶液の供給装置(図示せず)と接続している。
【0050】
この装置でろ過膜を製造する際には、型ドラム41の回転方向の上流側に設けられた剥離液ノズル42から剥離剤として非イオン系界面活性剤であるPVA(ポリビニルアルコール)溶液を型ドラム41の周面41aにスプレー塗布した。PVA溶液が塗布された型ドラム41の周面上に液吐出ノズル43から、ろ過膜用原料溶液を所定厚みになるように吐出させ、型ドラム41上に形成された膜を乾燥固化させた。ろ過膜用原料溶液は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスルフォンなどの疎水性樹脂を用いた。ろ過膜用原料溶液が型ドラム41の周面41a上に位置している間に乾燥させた。この乾燥は、型ドラム41の回転方向の下流側で型ドラム41の周面に向けて設けた図示しない乾燥装置により行った。乾燥硬化させた膜を、図示しないエアナイフにより剥離させると、疎水性膜素材表面に、PVAが付着することにより親水性表面を有する膜が成形された。膜の厚さは1μm、孔のd1は300nm、孔のd2は30nmであった。
【0051】
この連続製造装置40は、ろ過膜と補強基材とを接着したものを製造する装置であり、そのために、型ドラム41の近傍に、不織布供給ドラム44を備えていて、補強基材としての不織布46を供給した。不織布供給ドラム44は、不織布46とろ過膜1とを接着するための接着剤が収容されているパン45に周面が浸漬されている。不織布供給ドラム44は、型ドラム41の周速と同一速度で回転しつつ、別途に設けられた不織布ロール(図示せず)から導入された不織布46を周面に巻きかけて、パン45に収容している接着剤を不織布46に付着させ、成形された親水性表面を有するろ過膜1にこの不織布46を接着した。
【0052】
次に、本発明のろ過膜の製造方法の実施例として、バッチ処理によりろ過膜を製造する例を以下に説明する。
【0053】
図2に示したような平板状の成形型10を用意した。この成形型は光硬化型樹脂(エポキシ樹脂系)よりなり、本発明に従う円錐形状の微小突起が形成されている。この成形型10の表面に剥離剤としてPVA溶液をにスプレー塗布した。次いで、スピンコートにより膜溶液を成形型表面状に塗布した後、乾燥固化させた。ろ過膜用原料溶液は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスルフォンなどの疎水性樹脂を用いた。乾燥硬化させた膜上に、成形された膜よりも粗いメッシュ構造を有する不織布を載置し、この不織布の上から吸引装置により吸引することにより、不織布と共に膜を成形型から剥離させた。剥離させた膜は、疎水性膜素材表面に、PVAが付着することにより親水性表面を有する膜であった。膜の厚さは1μm、孔のd1は300nm、孔のd2は30nmであった。得られた膜を別途に用意した補強基材としての不織布と接着し、浄化膜を完成させた。
【0054】
また、上記バッチ処理の例において、乾燥硬化させた膜上に不織布を載置して、この不織布と共に成形型から膜を剥離させた後、この剥離時に用いた不織布を補強基材として用いて、得られた膜と接着し、浄化膜を完成させた。この場合は、膜における孔径の大きい面側で不織布と接着しているので、孔径の小さい面側が露出している。つまり、いわゆる逆テーパー構造の孔を持つ膜となるため、洗浄し易い膜となった。
【0055】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【符号の説明】
【0056】
1 ろ過膜
10 成形型
11 型面
12 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造するろ過膜の孔径に対応する微小突起が型面上に形成されてなる成形型をあからじめ用意し、
この成形型に、ろ過膜用原料溶液を塗布形成し、固化させることにより、成形型の突起に対応した部分が空孔になったろ過膜を得る
ことを特徴とする水処理装置用ろ過膜の製造方法。
【請求項2】
前記成形型の突起が、型面からの突出方向に先細りの形状を有することを特徴とする請求項1に記載の水処理装置用ろ過膜の製造方法。
【請求項3】
前記成形型の突起が光硬化性樹脂よりなることを特徴とする請求項1に記載の水処理装置用ろ過膜の製造方法。
【請求項4】
成形型の型面及び突起表面に離型剤を塗布する工程と、ろ過膜用原料溶液を塗布する工程と、塗布されたろ過膜用原料溶液を乾燥固化する工程と、乾燥固化して得られたろ過膜を成形型から剥離する工程と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の水処理装置用ろ過膜の製造方法。
【請求項5】
一方の表面から他方の表面に向けて貫通する複数の細孔を有し、これらの細孔は、一方の表面における直径が、他方の表面における直径よりも小さいことを特徴とする水処理装置用ろ過膜。
【請求項6】
請求項5に記載の水処理装置用ろ過膜を備える水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−214228(P2010−214228A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60833(P2009−60833)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】