説明

水処理装置

【課題】流水に対して与える電磁気的作用を格段に高めること、並びに、容易に小型化及び低コスト化を図ることが可能な水処理装置を提供する。
【解決手段】流水に対して電磁気的作用を与える複数の磁石2と、磁性素材で成り、磁石間に介在されて正極及び負極に帯磁される磁極体4,8と、磁性素材で成り、磁石及び磁極体を覆うとともに、磁石及び磁極体との間で流水路10を形成し、一端側に流水路の流入口、他端側に流水路の流出口を有するハウジング6とを備えた水処理装置であって、磁石及び磁極体は、正極に帯磁された磁極体と負極に帯磁された磁極体とが交互に隣り合うように組み付けられ、いずれか一方の極に帯磁された磁極体は、ハウジングと非接触状態に位置付けられているのに対し、他方の極に帯磁された磁極体は、その外周部を部分的に切り欠いて流水路の一部を成す切り欠き部8aを有し、外周縁をハウジングと接触させて位置付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流水に対して電磁気的作用を与える水処理装置に関し、特に、かかる電磁気的作用を格段に高めることが可能であるとともに、小型化及び低コスト化を図ることが可能な水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等における給水、給湯用の配管は、長年に亘る使用に伴って配管の内壁が腐食され、その腐食部分に赤さびが発生する場合がある。この場合、かかる配管からは、いわゆる赤水が発生してしまう。また、水中の不純物が配管の内壁に固着し、当該配管の内径が次第に小さくなってしまう場合がある。この場合、かかる配管からの給水圧が低下する、いわゆる圧損が発生してしまう。そして、これらがさらに進行した場合、その結果として、水もれ、断水などの事態を招いてしまう。
【0003】
従来から、このような事態を回避するための各種の手法が知られているが、近年、長期に亘って断水させることなく工事を行うことができ、水質についての問題もなく、また、費用も抑制できることから、給水、給湯設備に磁石を設け、供給水に対して電磁気処理を加え、これに伴う電磁気的作用を与える手法が採用されるケースが増えている。このような電磁気的作用を与える手法によれば、かかる電磁気処理を加えた水を配管中に通すことで、安全、且つ低コストに、当該配管の内壁へ発生した赤さび等を除去するとともに、赤さびの発生や不純物の固着を防止することができる。そして、このように流水に対して、電磁気的作用を与えるために用いられる装置(以下、水処理装置という)としては、各種のタイプが知られている(特許文献1及び2参照)。
【0004】
図4には、かかる水処理装置の構成の一例が示されており、当該水処理装置は、一端側に水の流入口(図示しない)が設けられ、他端側に流出口(図示しない)が設けられた円筒状のハウジング52と、当該ハウジング52の内部に組み込まれ、ハウジング52内を通過する流水に対して電磁気処理を加え、これに伴う電磁気的作用を与えるための磁石ユニット50とが備えられている。
【0005】
図4に示すように、水処理装置には、ハウジング52の内周部と磁石ユニット50の外周部との間に所定の空隙部が形成され、当該空隙部が水の流路(流水路)58として構成されている。これにより、水処理装置は、内部に取り込まれた水が流水路58を流れている間に、当該流水に対し、磁石ユニット50によって電磁気処理を加え、これに伴う電磁気的作用を与えている。
【0006】
また、磁石ユニット50は、2つの磁石54a,54bの異極面同士(N極とS極)を吸着させて一体化した1つの磁石54と、磁極板56とを交互に直列に並べて構成されている。この場合、磁石ユニット50は、2つの磁石54が、同極同士を対向させるように位置付けられ、その間に1つの磁極板56が介在された状態となるように、磁石54及び磁極板56が組み付けられている。
【0007】
図4に示す構成においては、3つの磁極板56のうち、両側に位置する磁極板56が、その両側面を磁石54bのN極と密着させているため、N極の磁性を帯びることになる(以下、便宜上かかる磁極板56をN極磁極板56nという)。この結果、磁力線が、N極磁極板56nの外周部から放射状に当該N極磁極板56nの外部、すなわち、対向するハウジング52の本体部52aへ向けて放出される。そして、N極磁極板56nの外部へ放射状に放出された磁力線は、対向するハウジング52の円筒状を成す本体部52aへ入り、当該本体部52a内を伝って所定方向へ延びていく。
【0008】
これに対し、中間に位置する磁極板56は、その両側面を磁石54aのS極と密着させているため、S極の磁性を帯びることになる(以下、便宜上、かかる磁極板56をS極磁極板56sという)。
この結果、N極磁極板56nから放射状に放出され、ハウジング52の本体部52aへ入った上記磁力線は、当該本体部52a内をS極磁極板56sの方向へ伝導され、当該S極磁極板56sとの対向部から、S極磁極板56sの外周部へ向けて放射状に放出され、当該S極磁極板56s内に収束する。
【0009】
具体的に説明すると、図4に示す3つの磁極板56のうち、右側のN極磁極板56nの外周部から放射状に放出された磁力線は、対向するハウジング52の本体部52aへ入った後、当該本体部52a内を伝って右から左へ延びていく。そして、S極磁極板56sとの対向部52bまで至ると、当該対向部52bからS極磁極板56sの外周部へ向けて放射状に放出され、当該S極磁極板56s内に収束する。すなわち、右側のN極磁極板56nとS極磁極板56sとの間で、かかる磁力線によって磁気回路(一例として、図4中の矢印で示す左回りの磁気回路MC3)が形成される。
【0010】
また、3つの磁極板56のうち、左側のN極磁極板56nの外周部から放射状に放出された磁力線は、対向するハウジング52の本体部52aへ入った後、当該本体部52a内を伝って左から右へ延びていく。そして、S極磁極板56sとの対向部52bまで至ると、当該対向部52bからS極磁極板56sの外周部へ向けて放射状に放出され、当該S極磁極板56s内に収束する。すなわち、左側のN極磁極板56nとS極磁極板56sとの間で、かかる磁力線によって磁気回路(一例として、図4中の矢印で示す右回りの磁気回路MC4)が形成される。
【0011】
このように磁気回路MC3,MC4が形成された水処理装置において、例えば、図4に示すように、その内部に取り込まれた水が流水路58内を右から左へ流れるように通水させた場合、当該流水は、磁気回路MC3及び磁気回路MC4をこの順番で通過することになる。すなわち、流水は、右側のN極磁極板56nの外周部から放射状に放出された磁力線が、対向するハウジング52の本体部52aへ入る流水路58上の位置(図4においては、位置C1(以下、ポイントC1という))、当該本体部52aの対向部52bから放射状に放出された磁力線が、S極磁極板56sの外周部へ入る流水路10上の位置(同じく、位置C2(以下、ポイントC2という))、及び左側のN極磁極板56nの外周部から放射状に放出された磁力線が、対向するハウジング52の本体部52aへ入る流水路58上の位置(同じく、位置C3(以下、ポイントC3という))を、この順番で通過することになる。
【0012】
この場合、流水は、各ポイントC1,C2,C3を通過する際、当該各ポイントC1,C2,C3において、それぞれの磁力線を横切って通過するため、当該流水に対して、電磁気的作用を与えることができる。すなわち、流水は、各ポイントC1,C2,C3を通過する際、各磁力線をその向きに対してそれぞれ直角に横切って通過するため、当該流水に対し、フレミングの左手の法則に基づいて電流を発生させることができ、これに伴う電磁気的作用を与えることができる。
【0013】
このように、かかる水処理装置によれば、水が流水路58内を流れる間、当該流水に対し、電磁気的作用を与えることができ、配管の内壁へ発生した赤さび等を除去するとともに、赤さびの発生や不純物の固着を防止することができる。
【特許文献1】特開平9−225459号公報
【特許文献2】特開2004−230275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上述した水処理装置においては、流水に対し、フレミングの左手の法則に基づいて、水流方向及び磁力線方向のいずれにも垂直する方向に電流が発生する。この場合、図4に示すように、ポイントC1及びC3においては、水の通過方向(水流方向)が右から左へ向かう方向であるとともに、磁力線の放出方向(磁力線方向)が下から上へ向かう方向となるため、流水に対し、ポイントC1及びC3を通過する際、フレミングの左手の法則に基づいて、図4の表から裏へ向かう方向に電流が発生する。これに対し、ポイントC2においては、水流方向が右から左へ向かう方向であるとともに、磁力線方向が上から下へ向かう方向となるため、流水に対し、ポイントC2を通過する際、フレミングの左手の法則に基づいて、図4の裏から表方向へ向かう電流が発生する。
【0015】
上述したように、水処理装置に取り込まれた水は、流水路58をポイントC1、C2、C3の順番で通過する。このため、流水路58を流れる水に対しては、各ポイントC1,C2,C3を通過する際、この順番で電流がそれぞれ発生し、当該電流により電磁気処理が加えられることで、これに伴う電磁気的作用が与えられる。
しかしながら、かかる流水に対して発生する電流は、その発生方向が、ポイントC1及びC3での向き(図4の表から裏へ向かう方向)と、ポイントC2での向き(図4の裏から表へ向かう方向)とで逆向きになるため、ポイントC1で流水に対して発生した電流は、当該流水がポイントC2を通過する際に発生する電流によって、ほぼ打ち消されてしまう。この結果、両ポイントC1,C2で流水に対して与えられる電磁気的作用が相殺されることになり、その効果が薄れてしまう。
【0016】
かかる流水に対しては、ポイントC3を通過する際に、再び電流が発生し、これに伴う電磁気的作用が与えられるが、その後にポイントC2と同様のポイント(図示しない)を通過することで、上述したように、当該電流はほぼ打ち消され、かかる電磁気的作用が相殺されてしまう。すなわち、流水に対し、このような電磁気的作用が付与される状態と、相殺される状態とが、水処理装置に取り込まれた水の流入から流出まで交互に繰り返されることになる。
【0017】
このような状態においては、流水に対し、発生させた電流により与えられる電磁気的作用の効果が薄れてしまう、別の捉え方をすれば、磁石ユニット50において放射状に放出させた磁力線を有効に活用し切れず、かかる磁力線による電磁気的作用を効果的に与えることができないこととなってしまう。そして、その程度によっては、配管の内壁へ発生した赤さび等を除去するとともに、赤さびの発生や不純物の固着を防止する効果が充分に発揮されない場合がある。
【0018】
この場合、例えば、磁石54及び磁極板56を多数組み合わせて磁石ユニット20を構成することや、磁石ユニット50を構成する磁石54として、非常に高い磁気力を有する磁石(例えば、ネオジウム磁石など)を適用することで、流水に対する電磁気的作用の効果を高めることができる。しかしながら、磁石54及び磁極板56を多数組み合わせて磁石ユニット50を構成した場合、製造工程における作業負荷が増加してしまうとともに、当該磁石ユニット50のサイズが大きくなり、水処理装置が大型化してしまう。また、ユニット50を構成する磁石54として、ネオジウム磁石などを適用した場合、これらの磁石は、一般的なフェライト磁石などと比べて高価であるため、その分だけ水処理装置の製造コストが上昇してしまう。
【0019】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、流水に対して与える電磁気的作用を格段に高めることが可能であるとともに、容易に小型化及び低コスト化を図ることが可能な水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような目的を達成するために、本発明の水処理装置は、流水に対して電磁気的作用を与えるための複数の磁石と、磁性素材で成り、磁石間に介在されて正極及び負極に帯磁される磁極体と、磁性素材で成り、前記磁石及び磁極体を覆うとともに、当該磁石及び磁極体との間で流水路を形成し、一端側に前記流水路の流入口、他端側に当該流水路の流出口を有するハウジングとを備えている。かかる水処理装置において、磁石及び磁極体は、正極に帯磁された磁極体と負極に帯磁された磁極体とが交互に隣り合うように組み付けられ、いずれか一方の極に帯磁された磁極体は、ハウジングと非接触状態に位置付けられているのに対し、他方の極に帯磁された磁極体は、その外周部を部分的に切り欠いて前記流水路の一部を成す切り欠き部を有し、外周縁をハウジングと接触させて位置付けられている。
【0021】
この場合、前記他方の極に帯磁された各磁極体の切り欠き部は、その切り欠き断面積の合計が、ハウジングの流入口の断面積以上、且つ、流出口の断面積以上の大きさに形成されている。
また、本発明の水処理装置において、ハウジングと非接触状態に位置付けられている磁極体には、その外周部からハウジング方向に突出して形成された複数の羽根部が周方向に沿って構成されているとともに、ハウジングと接触させて位置付けられている磁極体には、切り欠き部相互間に残留した部位が羽根部として構成されており、これら複数の羽根部は、流水の流れ方向に対して所定の角度で傾斜している。この場合、複数の羽根部は、それぞれ、流水の流れ方向に対して同一方向に傾斜している。
なお、磁極体及びハウジングは、その材料として、SUS系ステンレスを適用して構成されている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の水処理装置によれば、正極から放射状に放出される磁力線、若しくは、負極へ放射状に収束される磁力線のいずれか一方を集中的に流水に対して作用させることで、当該流水に対して与える電磁気的作用を格段に高めることができるとともに、容易に装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。この場合、ハウジングと接触させて位置付けられている磁極体及びハウジングと非接触状態に位置付けられている磁極体の少なくともいずれか一方の外周部に、流水の流れ方向に対して傾斜させた複数の羽根部を構成することで、流水を各羽根部に沿って磁石周りに螺旋状に環流させながら、同時に当該流水に電磁気処理を加えることが可能となり、その結果、高い濃度の活性水素を含有する水を生成することができる。これにより、高い防錆効果を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る水処理装置について、添付図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る水処理装置が示されており(ただし、同図には、要部のみ示す)、当該水処置装置は、流水に対して電磁気的作用を与えるための複数の磁石2と、磁性素材で成り、磁石2間に介在されて正極(N極)及び負極(S極)に帯磁される磁極体4,8と、磁性素材で成り、前記磁石2及び磁極体4,8を覆うとともに、当該磁石2及び磁極体4,8との間で流水路10を形成し、一端側に前記流水路10の流入口(図示しない)、他端側に当該流水路10の流出口(図示しない)を有するハウジング6とを備えている。
【0024】
この場合、ハウジング6、磁石2及び磁極体4,8は、いずれも直線状に所定長さで延出した略円環状を成し、ハウジング6は、その内径が磁石2及び磁極体4,8の外径よりも大きな円筒状を成す本体部6aと、その両端部に配設され、当該本体部6aと同心の円板状を成す蓋部(図示しない)とで構成されている。本体部6aの両端に配設した2つの蓋部のうち、一方には、その中心部に棒体の固定具(図示しない)を挿通するための貫通孔が形成されているとともに、その周縁部に水処理装置の内部へ水を取り込むための流入口(図示しない)が形成されている。これに対し、他方の蓋部には、その中心部に前記棒体固定具を挿通するための貫通孔、及びその周縁部に水処理装置の外部へ水を流出させるための流出口(図示しない)がそれぞれ形成されている。
【0025】
なお、ハウジング6の本体部6aは、蓋部の流入口から流出口に亘って、磁石2及び磁極体4,8との間で流水路10を形成することが可能であれば、その形状は、特に限定されない。例えば、上述した円筒状の他、断面形状(断面の外郭形状や内郭形状)が楕円や矩形などを成す筒状であってもよい。同様に、ハウジング6の蓋部も上述した円板状の他、楕円板状や矩形板状であってもよい。
また、ハウジング6の本体部6aは、分割構成であってもよく、例えば、水流方向に複数分割し、これらを直列に組み付けて所定長さに構成してもよいし、円筒を径方向に複数分割(例えば、2つ又は4つの扇形に分割)し、これらを組み付けて略円筒状に構成してもよい。
【0026】
いずれの場合においても、ハウジング6(具体的には、本体部6a及び蓋部)の大きさ(長さや径など)は、例えば、磁石2及び磁極体4,8の大きさなどに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。また、ハウジング6(本体部6a及び蓋部)は、所定の磁性を有することが可能であれば、任意の磁性素材を材料として構成すればよいが、本実施形態においては、一例として、SUS系ステンレス鋼がその素材として適用されている場合を想定する。
【0027】
また、棒体固定具(図示しない)は、一例として、その両端部に螺旋状溝(例えば、雄ねじ)が形成されたボルト部材と、当該螺旋状溝に螺合可能な螺旋状溝(例えば、雌ねじ)が形成されたナット部材とで構成されている場合を想定する。
【0028】
磁石2及び磁極体4,8は、一例として、中心部に一方の側面から他方の側面まで(例えば、図1の左側の側面から右側の側面まで)を貫通し、棒体固定具を挿通するための貫通孔(図示しない)が形成された円板状に構成されている。この場合、磁石2は、その外径が円筒状を成すハウジング6の本体部6aの内径よりも小さな円板状を成すように構成されている。
【0029】
なお、磁石2の形状は、円板状の他、例えば、楕円板状や矩形板状などであってもよいし、これらの複数の形状を成す磁石2を混在させてもよい。また、磁石2の大きさは、例えば、水処理装置の使用態様や使用条件などに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。
さらに、磁石2としては、永久磁石及び一時磁石(例えば、電磁石など)のいずれも適用することができるが、本実施形態においては、フェライト磁石やネオジウム磁石などの永久磁石が適用されている場合を一例として想定する。
【0030】
これに対して、磁極体4,8は、いずれか一方の極に帯磁された磁極体4が、ハウジング6と非接触状態に位置付けられているのに対し、他方の極に帯磁された磁極体8が、その外周部を部分的に切り欠いて流水路10の一部を成す切り欠き部8aを有し、外周縁をハウジング6と接触させて位置付けられている。
【0031】
図1に示す構成においては、一例として、正極(N極)に帯磁された磁極体4(以下、かかる磁極体をN極磁極体4という)が、ハウジング6の本体部6aの内周縁と非接触状態に位置付けられているのに対し、負極(S極)に帯磁された磁極体8(以下、かかる磁極体をS極磁極体8という)が、その外周部を部分的に切り欠いて形成された切り欠き部8aを有し、当該切り欠き部8a以外の外周縁をハウジング6の本体部6aの内周縁と接触させて位置付けられている。
すなわち、N極磁極体4は、その外径をハウジング6の内径よりも小さく、且つ磁石2の外径よりも大きく設定した円板状に構成されているのに対し、S極磁極体8は、その外径をハウジング6の内径と略同一の大きさに設定した円板状に構成されている。
【0032】
なお、これとは逆に、N極磁極体4がその外周縁を部分的に切り欠いて形成された切り欠き部8aを有し、その外周縁をハウジング6の本体部6aの内周縁と接触させて位置付けられるとともに、S極磁極体8がハウジング6の本体部6aの内周縁と非接触状態に位置付けられる構成であってもよい。この場合、N極磁極体4は、その外径をハウジング6の内径と略同一の大きさに設定した円板状に構成するとともに、S極磁極体8は、その外径をハウジング6の内径よりも小さく、且つ磁石2の外径よりも大きく設定した円板状に構成すればよい。
【0033】
また、図3(a)に示すように、S極磁極体8には、その外径が円弧状に小さくなるようにその外周部を切り欠いた切り欠き部(扇形切り欠き部)8aが4つ形成されている。この場合、4つの切り欠き部8aは、それぞれ同一の大きさを成し、周方向に沿って等間隔に、すなわち、S極磁極体8の中心に対して相互に90°ずつ位相をずらして位置付けられている。
【0034】
なお、切り欠き部8aの大きさは、例えば、水処理装置の大きさなどに応じて任意に設定されるため、特に限定されないが、切り欠き部8aの各切り欠き断面積の合計が、ハウジング6の流入口の断面積以上、且つ、流出口の断面積以上の大きさとなるように設定することが好ましい。S極磁極体8に対して、切り欠き部8aをこのような大きさで形成することにより、水処理装置における水圧の低下(圧損)の発生を防止することができる。
【0035】
また、切り欠き部の形状や数などは、図3(a)に示す構成には限定されず、切り欠き部は、例えば、図3(b)〜(d)に示すような各種の形状や数を成して形成してもよい。
例えば、図3(b)に示す構成において、S極磁極体8には、外周部を矩形状に切り欠いた切り欠き部(矩形切り欠き部)8bが4つ形成されており、当該4つの切り欠き部8bは、それぞれ同一の大きさを成し、周方向に沿って等間隔に、すなわち、S極磁極体8の中心に対して相互に90°ずつ位相をずらして位置付けられている。
【0036】
また、図3(c)に示す構成において、S極磁極体8には、上述した図3(a)に示す扇形切り欠き部8aが2つ形成されているとともに、図3(c)に示す矩形切り欠き部8bが2つ形成されており、当該扇形切り欠き部8aと矩形切り欠き部8bは、周方向に沿って交互に等間隔に、すなわち、S極磁極体8の中心に対して相互に90°ずつ位相をずらして位置付けられている。
【0037】
さらに、図3(d)に示す構成において、S極磁極体8には、上述した図3(a)に示す扇形切り欠き部8aよりも大きな扇形切り欠き部8cが3つ形成されており、当該3つの切り欠き部8cは、それぞれ同一の大きさを成し、周方向に沿って等間隔に、すなわち、S極磁極体8の中心に対して相互に120°ずつ位相をずらして位置付けられている。
【0038】
なお、切り欠き部は、S極磁極体8を所定の大きさ、形状及び数で一方側から他方側までを貫通する貫通孔(図示しない)として形成してもよい。
いずれの場合においても、S極磁極体8に対し、上述した各大きさ及び形状の切り欠き部を組み合わせて形成してもよい。また、切り欠き部は、全てのS極磁極体8に対して同一の大きさ、形状及び数だけ形成してもよいし、各S極磁極体8に対して、異なる大きさ、形状及び数で形成してもよい。
【0039】
また、磁極体4,8は、所定の磁性を有することが可能であれば、任意の磁性素材を材料として構成すればよいが、本実施形態においては、一例として、SUS系ステンレス鋼がその素材として適用されている場合を想定する。
【0040】
そして、磁石2及び磁極体4,8は、それぞれの貫通孔が連通するように位置付けられ、棒体固定具(図示しない)が当該貫通孔に挿通されることで、相互に同心状を成して組み付けられている。なお、磁石2及び磁極体4,8は、このような組み付け法の他、例えば、水処理装置の使用条件や使用状態などに応じて、接着剤により接着させて組み付けてもよいし、溶接などにより組み付けてもよい。
【0041】
さらに、このように組み付けられた磁石2及び磁極体4,8は、これらの貫通孔が蓋部(図示しない)の貫通孔と連通するように、ハウジング6に対して位置付けられ、蓋部の貫通孔に挿通させた棒体固定具の両端部を固定することで、ハウジング6と相互に同心状を成して一体的に組み付けられている。
【0042】
なお、水流方向の両端に位置する磁極体(N極磁極体4、若しくはS極磁極体8)と、ハウジング6の両端の蓋部との間に、それぞれ弾性部材(一例として、ばね(図示しない))を介在させてこれら及び磁石2を組み付けてもよい。このように、磁石2及び磁極体4,8を、弾性部材を介してハウジング6に対して組み付けることで、これらの磁石2及び磁極体4,8は、弾性部材が弾性変形することにより、ハウジング6の内部における位置を微小変動させることができる。これにより、磁石ユニット20は、流水から受ける水圧の変動を効果的に負荷することができる。
【0043】
ハウジング6、磁石2及び磁極体4,8をこのように組み付けることで、水処理装置の内部には、ハウジング6の内周部と磁石2及びN極磁極体4の外周部との間に円筒状の空隙部が形成されるとともに、S極磁極体8の切り欠き部8aによって扇形の切り欠きが形成され、当該空隙部及び切り欠きが水の流路(流水路)10として構成される。これにより、水は、一端側の蓋部の流入口からハウジング6の内部へ流入された後、流水路10を所定方向(一例として、図1では右から左へ向かう方向)へ流れ、ハウジング6内を通過し、他端側の蓋部の流出口からハウジング6の外部へ流出され、この間、当該流水に対し、磁石2によって所定の電磁気処理が加えられ、これに伴う電磁気的作用が与えられている。
【0044】
なお、図1に示す構成において、磁石2及び磁極体4,8は、これらを複数組み合わせた磁石ユニット20として、ハウジング6の内部に組み込まれている。この場合、磁石ユニット20は、2つの磁石2a,2bの異極面同士(N極とS極)を吸着させて一体化した1つの磁石2と、磁極体4,8とを交互に直列に並べて構成されており、一例として、2つの磁石2が、同極同士を対向させるように位置付けられ、その間に1つの磁極体4,8が介在された状態となるように、磁石2及び磁極体4,8が組み付けられている。なお、磁石2は、2つの磁石2a,2bを一組とした分割構成ではなく、当初から1つの磁石2として構成してもよい。
【0045】
また、磁石ユニット20は、2つの磁石2a,2bの間にそれぞれ所定のスペーサ(図示しない)を介在させた構成としてもよい。この場合、スペーサは、所定の非磁性材(例えば、ゴムやプラスチックなど)を材料として構成するとともに、2つの磁石2a,2bと同心で且つ小径の円板状を成し、その中心部に棒体固定具によって組み付ける際、各磁石2a,2bの貫通孔と連通可能な貫通孔を形成して構成すればよい。なお、スペーサは、例えば、水処理装置の使用条件や使用状態などに応じて、各磁石2a,2bに対し、接着剤により接着させて組み付けてもよいし、溶接などにより組み付けてもよい。
【0046】
ここで、本実施形態において、磁石ユニット20は、一例として、合計で6つの磁石2と7つの磁極体4,8を、交互に直列に並べて構成されている場合を想定している。ただし、磁石ユニット20を構成する磁石2と磁極体4,8の数は、これらに特に限定されず、例えば、水処理装置の使用態様や使用条件などに応じて、2つの磁石2の間に1つの磁極体4,8を介在させるとともに、各磁石2の両側にそれぞれ磁極体4,8を1つずつ直列に配列させた構成としてもよい。また、合計で7つ以上の磁石2と8つ以上の磁極体4,8を、交互に直列に並べて構成してもよい。
【0047】
これにより、図1に示す3つの磁極体4,8のうち、両側に位置する磁極体4は、その両側面を磁石2bのN極と密着させているため、N極の磁性を帯び、N極磁極体4となる。これに対し、中間に位置する磁極体8は、その両側面を磁石2aのS極と密着させているため、S極の磁性を帯び、S極磁極体8となる。
すなわち、磁石ユニット20において、磁石2及び磁極体4,8は、N極に帯磁された磁極体(N極磁極体)4とS極に帯磁された磁極体(S極磁極体)8とが交互に隣り合うように組み付けられている。
【0048】
以上のような構成によれば、図1に示す3つの磁極体4,8のうち、右側のN極磁極体4の外周部から放射状に放出された磁力線は、対向するハウジング6の本体部6aへ入った後、当該本体部6a内を伝って右から左へ延びていく。そして、S極磁極体8の外周縁との接触部6bまで至ると、当該接触部6bからS極磁極体8の外周縁を伝って当該S極磁極体8へ入り、その内部で収束する。すなわち、右側のN極磁極体4とS極磁極体8との間で、かかる磁力線によって磁気回路(一例として、図1中の矢印で示す左回りの磁気回路MC1)が形成される。なお、かかるN極磁極体4と、その右側に位置する図示しないS極磁極体との間にも、同様の磁気回路が形成されている。
【0049】
また、3つの磁極体4のうち、左側のN極磁極体4の外周部から放射状に放出された磁力線は、対向するハウジング6の本体部6aへ入った後、当該本体部6a内を伝って左から右へ延びていく。そして、S極磁極体8の外周縁との接触部6bまで至ると、当該接触部6bからS極磁極体8の外周縁を伝って当該S極磁極体8へ入り、その内部で収束する。すなわち、左側のN極磁極体4とS極磁極体8との間で、かかる磁力線によって磁気回路(一例として、図1中の矢印で示す右回りの磁気回路MC2)が形成される。なお、かかるN極磁極体4と、その左側に位置する図示しないS極磁極体との間にも、同様の磁気回路が形成されている。
【0050】
このように磁気回路MC1,MC2が形成された水処理装置において、例えば、図1に示すように、その内部に取り込まれた水が流水路10内を右から左へ流れるように通水させた場合、当該流水は、磁気回路MC1及び磁気回路MC2をこの順番で通過することになる。すなわち、流水は、右側のN極磁極体4の外周部から放射状に放出された磁力線が、対向するハウジング6の本体部6aへ入る流水路10上の位置(図1においては、位置P1(以下、ポイントP1という))、当該磁力線が本体部6aの接触部6bからS極磁極体8の外周縁を伝って当該S極磁極体8へ入るとともに、流水路10を成す切り欠き部8a内の位置(同じく、位置P2(以下、ポイントP2という))、及び左側のN極磁極体4の外周部から放射状に放出された磁力線が、対向するハウジング6の本体部6aへ入る流水路10上の位置(同じく、位置P3(以下、ポイントP3という))を、この順番で通過することになる。
【0051】
この場合、流水は、ポイントP1及びP3を通過する際、当該各ポイントP1,P3において、それぞれの磁力線を垂直に横切って通過するため、当該流水に対し、フレミングの左手の法則に基づいて、水流方向及び磁力線方向のいずれにも垂直する方向に電流が発生する。
図1に示すように、ポイントC1及びC3においては、水の通過方向(水流方向)が右から左へ向かう方向であるとともに、磁力線の放出方向(磁力線方向)が下から上へ向かう方向となるため、流水に対し、ポイントC1及びC3を通過する際、フレミングの左手の法則に基づいて、図1の表から裏へ向かう方向に電流が発生することになる。
【0052】
これに対し、ポイントP2においては、水は、S極磁極体8の外周部に形成された切り欠き部8a内を右から左へ向かって流れる。また、上述したように、S極磁極体8には、切り欠き部8aが形成されているため、N極磁極体4の外周部から放射状に放出された磁力線は、対向するハウジング6の本体部6a内を伝い、本体部6aの接触部6bからS極磁極体8の切り欠き部8a以外の外周縁を伝って当該S極磁極体8へ入り、その内部で収束する。
【0053】
このため、ポイントP2において、かかる磁力線は、切り欠き部8a内を流れる磁気抵抗の大きな流水中にはほとんど放出されず、ハウジング6の本体部6aと接触し、相対的に磁気抵抗の小さなS極磁極体8の切り欠き部8a以外の外周縁から、当該S極磁極体8内に入って当該切り欠き部8aに沿って流水を迂回することになる。なお、図2(a)は、ポイントP2を通過する際の水の流れ、及び磁力線が迂回される状況、並びに、結果として発生する電流の流れを示した概念図であり、図2(b)は、図2(a)における磁石2、N極磁極体4及びS極磁極体8の各構成を示している。
【0054】
この結果、ポイントP2においては、磁力線が流水中にほとんど放出されず、流水が通過する際、当該流水に対し、フレミングの左手の法則に基づく電流はほとんど発生しないことになる。このため、流水がポイントP1を通過する際に発生した電流は、図2(a)に示すように右回りの円環状を成し、当該流水がポイントP2を通過した際においても、ほとんど打ち消されることがない。
【0055】
このように、水処理装置に取り込まれ、流水路10を流れる水に対しては、ポイントP1,P3を通過する際、この順番で所定の電流がそれぞれ発生し、これに伴う電磁気処理を加えることで、電磁気的作用が与えられる。
一方、ポイントP2を通過する際には、上述したように、流水に対して所定の電流はほとんど発生せず、電磁気的処理がほとんど加えられないため、与えられる電磁気的作用は極めて小さい。
【0056】
このため、流水に対し、ポイントP1で与えられた電磁気的作用がポイントP2を通過する際に相殺されることはなく、ポイントP3を通過する際、当該電磁気的作用をさらに重ねて与えることができる。
【0057】
この結果、水処理装置に取り込まれ、流水路10を流れる水に対しては、その流入から流出まで、電磁気処理を加え続けることができるとともに、これに伴う電磁気的作用を与え続けることができる。すなわち、上述した従来の水処理装置(図4)のように、流水に対して電磁気的作用が付与される状態と、相殺される状態とが、水の流入から流出まで交互に繰り返されることがなく、流水に対して与える電磁気的作用を格段に高めることができる。
【0058】
また、これにより、磁石2及び磁極体4,8を多数組み合わせて磁石ユニット20を構成しなくとも、流水に対して十分な電磁気的作用を与えることができるため、磁石ユニット20の製造工程における作業負荷を低減させることができるとともに、磁石ユニット20のサイズを小さくすることができ、容易に水処理装置の小型化を図ることができる。また、磁石ユニット20を構成する磁石2として、非常に高い磁気力を有する高価な磁石(例えば、ネオジウム磁石など)を必ずしも使用しなくとも、流水に対して十分な電磁気的作用を与えることができるため、容易に水処理装置の製造コストの低減化を図ることができる。
【0059】
ここで、本実施形態に係る水処理装置における、流水に対して与える電磁気的作用について、流水中に放出される磁力線の磁束の大きさを測定し、N極の磁性を有する磁束(N極磁束)からS極の磁性を有する磁束(S極磁束)を差し引いた磁束を、流水に対して電磁気的作用を与える有効磁束として、その大きさを上述した従来の水処理装置(図4)と比較することで、検証した。
【0060】
この場合、図1に示す区間Xにおける磁気角度(いわゆる電気角度に相当)を一周期(0〜2π(0°〜360°))とし、各磁気角度に対する磁束の大きさを測定した。なお、区間Xは、N極磁極体4の外径とハウジング6の本体部6aの内径との中間の大きさを成す流水路10上の点を、水流方向へ、右側のN極磁極体4と、その手前に位置する図示しないS極磁極体8との間隔の中間位置から、当該N極磁極体4、S極磁極体8を越えて、当該S極磁極体8と次のN極磁極体4(左側のN極磁極体4)との間隔の中間位置まで移動する位置及び長さに設定した。
【0061】
また、上述した従来の水処理装置(図4に相当)についても同様の区間Xにおける各磁気角度に対する磁束の大きさを測定した。
なお、本実施形態に係る水処理装置(図1)、及び上述した従来の水処理装置(図4)のいずれにおいても、磁石として、外径が50mm、厚さが10mmの同一磁気力を有するフェライト磁石を適用するとともに、厚さ1mmの磁極体(磁極板)を適用し、区間Xの長さを42mm(磁石及び磁極体(磁極板)それぞれ2つ分の合計厚さに相当)に設定した。
【0062】
本実施形態に係る水処理装置(図1)についての測定結果を図5に示すとともに、上述した従来の水処理装置(図4)についての測定結果を図6に示す。
図6に示すように、従来の水処理装置(図4)の場合、N極磁束は、N極磁極板56nの近傍で最大となり、その最大値は、約1400ガウスであり、S極磁束は、S極磁極板56sの近傍で最大となり、その最大値は、約1300ガウスとなった。S極磁束をマイナス方向とすれば、区間Xにおいて、磁束は、ほぼ正弦波形に近い波形になった。そして、N極磁束からS極磁束を差し引いた有効磁束は、最大で100ガウス程度となるが、そのほとんどが相殺され、当該有効磁束の波形は、100ガウス以下の略平坦状を成している。
【0063】
このように、磁極板56、すなわち磁石54から最大1400ガウス程度の磁束を流水中に放出した場合であっても、当該流水に対して電磁気的作用を与えることが可能な有効磁束の大きさは、最大で100ガウス程度に止まることが確認された。
【0064】
これに対し、図5に示すように、本実施形態に係る水処理装置(図1)の場合、N極磁束は、N極磁極体4の近傍で最大となり、その最大値は、約2000ガウスであり、S極磁束は、S極磁極体8の近傍で最大となり、その最大値は、約1200ガウスとなった。そして、N極磁束からS極磁束を差し引いた有効磁束は、最大で800ガウスとなり、当該有効磁束の波形は、なだらかな放物線状を成している。
【0065】
このように、磁極体4,8、すなわち磁石2から流水に対して放出される磁束は、S極磁束よりもN極磁束の方が大きく、放出磁束をN極磁束に集中させることで、上述した従来の水処理装置の有効磁束の最大8倍の大きさの磁束を流水に対して放出可能であることが確認された。
【0066】
以上のとおり、本実施形態に係る水処理装置によれば、同一の磁気力を有する磁石を同一個数組み付けた磁石ユニット構成とした場合、流水に対して、格段に大きな(約8倍の)電磁気的作用を与えられることが検証できた。
【0067】
さらには、同一の磁気力を有する磁石を組み付けた磁石ユニット構成とした場合、当該磁石ユニットを構成する磁石の個数を従来比で約8分の1、別の捉え方をすれば、そのサイズを従来比で約8分の1にした場合であっても、流水に対して同等の磁気的作用を与えることができ、容易に装置の小型化、及び製造コストの低減化が可能であることが検証できた。
【0068】
ところで、上述した水処理装置の技術分野では、フレミングの右手の法則に従った電磁気処理(単に、磁気処理とも言う)が行われている。この場合、流水に効率よく磁気処理を加えるためには、フレミングの右手の法則に従って、流水を磁界(磁場)に対して直角に通過させる必要がある。
【0069】
そこで、本実施形態では、図6(a),(b)に示すように、ハウジング6と接触させて位置付けられている磁極体8において、その切り欠き部8a相互間に残留した部位を羽根部8fとして構成し、これら複数の羽根部8fを流水の流れ方向に対して所定の角度θで傾斜させる。そして、複数の羽根部8fは、それぞれ、流水の流れ方向に対して同一方向に傾斜させる。
【0070】
なお、羽根部8fの数は、例えば磁極体8に形成した切り欠き部8aの数に応じて任意に設定されるため、特に数値限定はしない。また、羽根部8fの形状や大きさは、例えば流水路10の形状や広さに応じて任意(例えば、矩形、扇形、楕円形、円弧形など)に設定されるため、特に限定はしない。更に、羽根部8fの傾斜角度θは、流水路10を流れる水の流速や流量、水処理装置の使用目的や使用環境に応じて任意に設定されるため、特に数値限定はしないが、流水の流れ方向に対して、0°<θ<90°なる関係を満足するように設定すればよい。
【0071】
このように、各羽根部8fを流水の流れ方向に対して所定の角度θで傾斜させることにより、流水路10を流れる水を磁石2周りに螺旋状に環流させながら同時に、当該水に対して磁界及び電流を互いに直角に作用させることができる。この場合、水を磁石2周りに螺旋状に環流させることで、流水路10を流れる水の流速を上げると共に、通水時間を延長させることができる。更に、流水路10を流れる水に対して磁界及び電流を互いに直角に作用させることで、当該流水に対して十分な電磁気的作用を与えることができる。これにより、高い濃度の活性水素を含有する磁気処理水を生成することができる。
【0072】
ここで、高濃度の活性水素を含有する磁気処理水の実用的効果としては、例えば、水道の給水管内面に付着した赤さびの除去効果や、赤さびの酸化第二鉄(Fe)の部分還元により黒さびのマグネタイト(Fe)が防錆被膜として生成される効果、高磁束密度中を高い流速で水を通水して起電力と発生電流の双方を増大させて磁気処理効率を高める効果などを挙げることができる。
【0073】
かかる実用的効果は、磁気処理水の中に何らかの還元特性を持つ物質、即ち活性水素が高い濃度で含まれていることに起因している。そこで、かかる効果を実証するための第1の方策として、例えば図7(a)に示すような閉回路循環式磁気処理実験装置を構築した。そして、当該装置に精製水を循環させながら、その一部を分析試料として採取し、その採取試料に過酸化水素水(H)の希薄液を添加した過酸化水素希薄溶液の消費量と処理水の循環時間の関係を調査した。なお、測定は、酸化還元電位計測定により実施した。また、測定の目安は、磁気処理装置を通水する前の水を基準とし、酸化還元電位(O.R.P)の電位差測定を行った。
【0074】
かかる調査結果によれば、処理水の循環時間が増加すると、過酸化水素希薄溶液の添加量が増加して、通水前の水よりも酸化還元電位の値が低くなることが分かった。すなわち循環時間が増加すると、これに応じて、過酸化水素希薄溶液の添加量が増加することが判明した。このことは、過酸化水素水の活性酸素(O)と処理水中の還元物資とが反応していることを意味しており、循環時間が増すと還元物質が増加し、蓄積されたことにより生じた現象といえる。
【0075】
そして、この現象結果に基づいて、磁気処理装置による活性水素含有水の中の活性水素の直接分析を、スーパーオキシド(活性水素)消去活性(SOSA)ESR法により実施したところ、磁気処理水の中に活性水素が含有していることが判明した。
ここで、閉回路循環式磁気処理実験装置に、図6の構成を施した本発明の水処理装置を組み込んで、活性水素の直接分析を実施した実験の具体例について説明する。
【0076】
図7(a)に示すように、本発明の水処理装置64は、水槽60に貯水した脱塩素水道水62をポンプPで循環させる循環経路中に接続配置されており、流量調節用バルブ66によって水処理装置64へ流入させる脱塩素水道水62の流量を調節し、磁気処理水中の水素発生量を測定した。この場合、水槽60に貯水する脱塩素水道水62の貯水量を50リットル、水処理装置64の磁束密度を2500ガウス、通水時間を2時間と4時間に設定する。そして、それぞれの時間に採取用バルブ68で採取する磁気処理水70の採取量を50ミリリットルとし、循環通水速度を0.5m/secと0.2m/secの場合に分けて実験を行った。
【0077】
この場合、採取した磁気処理水70の分析では、日本電子製 ESR,JES-FR80型の分析装置を利用し、ヒポキサンチン−キサンチンオキシターゼ系スーパーオキシド(O)を発生させる。そして、ESR(電子スピン共鳴)法によるスーパーオキシド消去活性を求めて、活性水素の直接分析を実施した。
図7(b)には、分析実験の結果が示されており、循環通水速度0.5m/secでは、0.2m/secの場合に比べて、活性水素の発生量が約4倍から5倍程度大きくなっていることが分かる。
【0078】
更に、活性水素による還元力を確認するために、給水管内に発生付着している赤さびヘマタイト(Fe)の微粉を採取し、これを図7(a)の閉回路循環式磁気処理実験装置の水槽60に投入し分散させた。ここでは、水処理装置64の磁束密度を8000ガウスに設定し、通水時間(2時間、4時間)毎に磁気処理水70に含まれる分散微粉を採取し、これにX線回析を施すことでマグネタイト(Fe)の生成を確認した。この結果、通水24時間では、マグネタイトは殆ど認められず、通水72時間ではマグネタイトが相当量確認された。そして、1週間後には、赤さびはの殆どが黒さびマグネタイトに化学変化していた。
【0079】
これにより、上述したような実用的効果が実証され、水処理装置における磁気処理によって、高い濃度の活性水素を含有する磁気処理水を生成することができることが明らかになり、かかる活性水素含有水により防錆効果が発揮される化学的メカニズムを立証することができた。つまり、化学的メカニズムにおいて、平衡状態が保持されている水(HO)が外的エネルギ(磁気処理)の作用により、微弱な電解反応が生じ、活性水素(H・)を含有した磁気処理水となり、その結果、かかる活性水素が赤さびの酸化第二鉄(Fe)を還元し、黒さびのマグネタイト(Fe)に化学変化して防錆被膜となる。
【0080】
このような科学的メカニズムを磁気処理による活性水素発生反応式(1)と、赤さびのマグネタイト化還元反応式(2)で示すと、
O(水)→(←)H・(活性水素)+・OH(ヒドロキシルラジカル)…(1)
3Fe(赤さび)+2(H・)→2Fe(マグネタイト)+HO(水)…(2)
この場合、反応式(2)では、赤さび(Fe)の3分子の中の1分子が活性水素2個により還元されて、2分子の黒さびマグネタイト(Fe)が生成される。
【0081】
赤さびの部分還元とはこのことであり、それを式(3)(4)に示す。
(2Fe+Fe)+2(H・)→(2Fe+2FeO)+HO…(3)
(2Fe+2FeO)+2(H・)→2Fe…(3)
【0082】
なお、上述した実施形態(図6)では、ハウジング6と接触させて位置付けられている磁極体8に複数の羽根部8fを設けた場合を想定したが、これに限定されることは無く、当該羽根部8fに加えて更に、ハウジング6と非接触状態に位置付けられている磁極体4の外周部に、ハウジング6方向に突出して形成した複数の羽根部(図示しない)を周方向に沿って構成してもよい。これにより、磁極体8のみに羽根部8fを設けた場合よりも、さらに流水路10を流れる水の流速を上げることができると共に、通水時間を延長させることができ、流水に対して上述した電磁気的作用をより効果的に作用させることができる。この結果、高い濃度の活性水素を含有する磁気処理水を容易に生成することができる。
この場合、磁極体4の複数の羽根部の構成(数、形状及び大きさなど)は、上述した羽根部8fと同様であるため、その説明は省略する。その際、磁極体4の羽根部は、ハウジング6と非接触となるように、当該ハウジング6方向に突出させて形成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の一実施形態に係る水処理装置の構成例を示すとともに、流水に対する磁力線の放出状態を説明するための要部拡大断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る水処理装置における水流、磁力線及び電流の関係を説明するための図であって、(a)は、ポイントP2を通過する際の水の流れ、及び磁力線が迂回される状況、並びに、結果として発生する電流の流れを示した概念図、(b)は、同図(a)における磁石、N極磁極体及びS極磁極体の各構成を示す斜視図。
【図3】S極磁極体の切り欠き部の構成例を示す図であって、(a)は、4つの扇形切り欠き部を等間隔で形成した構成を示す平面図、(b)は、4つの矩形切り欠き部を等間隔で形成した構成を示す平面図、(c)は、2つの扇形切り欠き部と、2つの矩形切り欠き部を交互に等間隔で形成した構成を示す平面図、(d)は、3つの扇形切り欠き部を等間隔で形成した構成を示す平面図。
【図4】従来の水処理装置における流水に対する磁力線の放出状態を説明するための要部拡大断面図。
【図5】流水に対して与える電磁気的作用について、流水中に放出される磁力線の磁束の大きさ、及び有効磁束の大きさを測定した結果を示す図であって、(a)は、本実施形態に係る水処理装置の場合の測定結果を示す図、(b)は、従来の水処理装置の場合の測定結果を示す図。
【図6】(a)は、本発明の一実施形態に係る水処理装置の他の構成を一部拡大して示す斜視図、(b)は、流水の流れ方向に対する羽根部の傾斜角度を示す平面図。
【図7】(a)は、閉回路循環式磁気処理実験装置の構成を模式的に示す図、(b)は、同図(a)の装置で実験を行った結果を通水時間と活性水素発生量との関係で示す図。
【符号の説明】
【0084】
2 磁石
4,8 磁極体
6 ハウジング
8a,8b,8c 切り欠き部
10 流水路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流水に対して電磁気的作用を与えるための複数の磁石と、磁性素材で成り、磁石間に介在されて正極及び負極に帯磁される磁極体と、磁性素材で成り、前記磁石及び磁極体を覆うとともに、当該磁石及び磁極体との間で流水路を形成し、一端側に前記流水路の流入口、他端側に当該流水路の流出口を有するハウジングとを備えた水処理装置であって、
磁石及び磁極体は、正極に帯磁された磁極体と負極に帯磁された磁極体とが交互に隣り合うように組み付けられ、いずれか一方の極に帯磁された磁極体は、ハウジングと非接触状態に位置付けられているのに対し、他方の極に帯磁された磁極体は、その外周部を部分的に切り欠いて前記流水路の一部を成す切り欠き部を有し、外周縁をハウジングと接触させて位置付けられていることを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記他方の極に帯磁された各磁極体の切り欠き部は、その切り欠き断面積の合計が、ハウジングの流入口の断面積以上、且つ、流出口の断面積以上の大きさに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
流水に対して電磁気的作用を与えるための複数の磁石と、磁性素材で成り、磁石間に介在されて正極及び負極に帯磁される磁極体と、磁性素材で成り、前記磁石及び磁極体を覆うとともに、当該磁石及び磁極体との間で流水路を形成し、一端側に前記流水路の流入口、他端側に当該流水路の流出口を有するハウジングとを備えた水処理装置であって、
磁石及び磁極体は、正極に帯磁された磁極体と負極に帯磁された磁極体とが交互に隣り合うように組み付けられ、いずれか一方の極に帯磁された磁極体は、ハウジングと非接触状態に位置付けられているのに対し、他方の極に帯磁された磁極体は、その外周部を部分的に切り欠いて前記流水路の一部を成す切り欠き部を有し、外周縁をハウジングと接触させて位置付けられており、
ハウジングと接触させて位置付けられている磁極体には、切り欠き部相互間に残留した部位が羽根部として構成されており、これら複数の羽根部は、流水の流れ方向に対して所定の角度で傾斜していることを特徴とする水処理装置。
【請求項4】
ハウジングと非接触状態に位置付けられている磁極体には、その外周部からハウジング方向に突出して形成された複数の羽根部が周方向に沿って構成されていることを特徴とする請求項3に記載の水処理装置。
【請求項5】
複数の羽根部は、それぞれ、流水の流れ方向に対して同一方向に傾斜していることを特徴とする請求項3又は4に記載の水処理装置。
【請求項6】
磁極体及びハウジングは、その材料として、SUS系ステンレスを適用して構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−119679(P2008−119679A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203390(P2007−203390)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(504186529)株式会社 日本磁化学研究所 (10)
【出願人】(305040363)
【出願人】(506103278)
【Fターム(参考)】