説明

水処理装置

【課題】対向させた電極間で発生する放電を利用した水処理装置において、簡易な構成で、消費電力を抑えつつ、水処理能力の向上が可能な水処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】鉛直に設けられた放電電極2の少なくとも一方の表面に、鉛直下側に傾斜した複数の突起部3を設ける構成にしたことにより、下方から供給される被処理水に含まれる気泡を捕捉し、突起部3の下側に一時的に貯留させることができる。貯留された気泡がオーバーフローすることによって、放電電極2の突起部3付近に効率よく気泡を導入することができるため、放電に要する消費電力を安定的に低減することができると同時に、突起部を含まない電極間隔を広げて処理流量を増加することができるため、水処理効率を高めた水処理装置1が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に対向させた電極間で発生する放電を利用した水処理装置であって、水道水、井戸水、河川水、飲食用水、下水、工業用水、或いは、プール、公共浴場、温泉等に使用する水(被処理水)の中に含まれる有機物の分解や微生物の殺菌により被処理水の処理を行う水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、対向させた電極間で発生する放電を利用した水処理装置として、被処理水中に配設された電極部にて放電を行い、被処理水の処理を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の水処理装置を図5に示す。図5では、電界を集中させるための複数の突起をもつ線状電極101から、板状電極102に向けて放電し、線状電極の周囲に流通する被処理水を面状に発生したストリーマ放電によって処理することができる排水処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−189978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の排水処理装置においては、電流が支配的な放電を形成するため、水処理能力においては高い性能が得られるものの、消費電力が大きくなってしまうという課題があった。
【0006】
この課題を解決するための手法の一つとして、被処理水中に配設された電極間に気泡を導入または生成することで、電極間の放電に必要な消費電力を抑える方法が考案されている。しかしながら、この手法を用いた従来技術では、放電電極の近傍に気泡を効果的に集中することができず、水処理能力が低くなってしまうという課題があった。このため、放電場に気体を集めることができる処理方法が求められていた。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、複数の突起部を設けることで、放電場に効率的に気泡を導入させつつ、突起部に保持させることができ、且つ、突起部に電界を集中させることができるため、気泡が電界集中部に接触しやすく、消費電力を抑えつつ、水処理能力の向上が可能な水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明は、被処理水中に設けた少なくとも一対の電極間に気体を供給して放電する水処理装置において、前記電極を鉛直方向に配置し、前記電極の少なくとも一方の表面に鉛直下側に傾斜した複数の突起部を設けたことを特徴としたものであり、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、少なくとも一対の電極を鉛直方向に配置し、前記電極の少なくとも一方の表面に鉛直下側に傾斜した複数の突起部を設けるという構成にしたことにより、導入した気泡を電界が集中する突起部に引っ掛けて保持させることができ、突起部から放電するときに、効率的に気泡内に放電することができる。そのため、少ない消費電力で放電させることができ、ラジカルなどの活性種の生成効率が高められるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1の水処理装置を示す概念図
【図2】同水処理装置の放電電極を示す斜視図
【図3】(a)同水処理装置の放電電極を示す正面図、(b)同水処理装置の放電電極を示す側面図
【図4】同水処理装置の放電電極を拡大した断面図
【図5】本発明の実施の形態2の水処理装置を示す概念図
【図6】従来の水処理装置の構成を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の請求項1記載の水処理装置は、被処理水中に設けた少なくとも一対の電極間に気体を供給して放電する水処理装置において、前記電極を鉛直方向に配置し、前記電極の少なくとも一方の表面に鉛直下側に傾斜した複数の突起部を設けたことを特徴としたものである。これにより、電界強度が大きい部分に効率的に気泡を保持させることができるため、放電時に効率的に気泡内で放電させることができ、消費電力を抑えつつ、有機物の分解や微生物の殺菌などの水処理能力が向上するという効果を奏する。
【0012】
また、前記電極が誘電体で被覆されている構成にしてもよい。これにより、火花放電により大電流が一気に流れて電気系統が破損することを防止することができ、安定してプラズマ放電を形成させることができるという効果を奏する。
【0013】
また、前記突起部を疎水性とする構成にしてもよい。これにより、突起部付近が被処理水で覆われることを抑制することができ、放電場に適切に気泡を導入することができるため、放電効率を高めることができるという効果を奏する。
【0014】
また、前記突起部が対向するように前記電極を配置する構成にしてもよい。これにより、被処理水の流れる流路断面を減らすことなく、放電部の電極間距離を小さくすることができるため、放電にかかる消費電力が小さくなるという効果を奏する。
【0015】
また、前記電極の下方から気泡を含む被処理水を流通させる構成にしてもよい。これにより、流路全体の複数の突起部に流通する気泡を保持させることができるため、簡単な構成で放電効率を高めることができるという効果を奏する。
【0016】
また、前記電極の平坦面に複数の開口部を設け、前記開口部を通じて前記突起部に気体を供給する構成にしてもよい。これにより、気体を直接放電部に供給することができるため、気体の供給量を抑えることができ、気体の供給にかかる電力消費を削減することができるという効果を奏する。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の水処理装置1を示す概念図である。鉛直方向に設けられた平板状の放電電極2には、鉛直下向き方向に一定の角度で傾斜した突起部3が備えられ、突起部3が対向するようにもう一方の放電電極2を設けている。この放電電極2間に高電圧電源4から高圧パルスなどが印加され、放電電極2の突起部3に電界が集中して放電する構成となっている。この放電電極2間には、下方から被処理水と、送気手段5から供給された気泡が流通され、気泡が突起部3に満遍なく引っかかり、突起部3の傾斜した下側には気泡が溜まるようになっている。溜まった気泡は、隣接した気泡と合体し、より径の大きな気泡となる。
【0019】
さらに気泡が溜まると、径の大きくなった気泡がオーバーフローする形で、突起部3先端から上方に向かって漏れ出し、対向する突起部3との間隙に気泡が存在するようになる。この状態で放電すると、突起部3の一つ分の気泡に加え、下方の突起部3からの気泡も合わさるため、電界が集中する突起部3の間隙に気泡が大量に流れることになり、効率よく気泡内に放電する水中プラズマを発生させることができる。
【0020】
図2は、放電電極2の外観を示す斜視図である。放電電極2には複数の傾斜した突起部3を配列している。突起部3の形状は、例えば、板状、波状、曲面状、メッシュ状などでもよいが、気体の保持量や、電極材料の加工性の観点から、板状であることが好ましい。
【0021】
図3(a)および(b)は、放電電極2の別の様態を示す展開図である。放電電極2の複数の突起部3は短い幅のものを、間隔をおいて配置したものである。突起部3の形状は、例えば、板状、波状、曲面状、メッシュ状などであるが、幅の狭い突起部3で気泡を保持する量を大きくする観点から、曲面状であることが好ましい。また、突起部3は、下方からの被処理水の流れに確実に接触させるために、各段を横方向に少しずらして配置させることがよく、例えば、千鳥形状が好ましい。
【0022】
図3に示すように、突起部3を断片的に配置することにより、これらの突起部3によって対向する放電電極2とのギャップ間隔を局部的に小さくすることで、突起部を含まない電極間の距離を広げて流路断面積を増加することができるため、被処理水の処理流量を増やしつつ、放電に必要な印加電圧を低減することができるという効果が得られる。
【0023】
なお、放電電極2の突起部3のギャップ間隔は、印加電圧を下げる目的において、接触しないように可能な限り接近させるとよく、好ましくは0.1から10mmである。このギャップ間隔は、両方の電極または、電極を支持する支持体の間隔に非導電性の材料からなるスペーサーを挟み込み、固定化することで実現できるが、ギャップ間隔を保持できればこの限りではない。
【0024】
放電電極2の突起部3のギャップ間隔は、一般に、距離を大きくすると、放電範囲を広げることができるため処理能力が上がるが、反面、消費電力が大きくなる。一方、距離を小さくすると、低い消費電力でも放電させることが可能であるが、放電範囲が小さくなるため、被処理水との接触時間が短くなり、処理能力が低下する。被処理水中に含まれる分解対象物である有機化合物や微生物などの濃度、分解性をあらかじめ求めておき、放電場である突起部3の個数、高さ、電極面積、ギャップ間隔などと放電電力を設定するような方法が好ましい。
【0025】
また、放電電極2の突起部3の高さは、低すぎると気泡が引っかかりにくくなり、高すぎると圧力損失が著しく上昇してしまい送液ポンプの消費電力が増加する。そのため、気泡が保持できる程度の適切な高さであればよいが、必要処理流量から求められる電極平坦部の間隔と、電源能力から求められる放電電極2の突起部3のギャップ間隔とから決定することがよい。
【0026】
図4は、放電電極2の突起部3を拡大した断面図である。この放電電極2は、平板から傾斜した板状の突起を突出させた構成としているが、電極の表面に、さらに誘電体材料による誘電体被膜6を構成することができる。誘電体があると、電極間に火花放電により急激に大電流が流れて電源回路などが破壊されることを防止することができ、安定してプラズマを形成することができるため好ましい。
【0027】
放電電極2は、流通させる被処理水による酸化や、放電に伴う酸化、高温による劣化に耐えられるような材料で構成する必要がある。例えばステンレス鋼やチタンなどの金属が用いることができるが、好ましくはステンレス鋼である。
【0028】
また、誘電体被膜としては、ゾルゲル法により無機酸化被膜を形成させる方法が好ましく、材料はSiO2、Al23、MgO、ZrO2、TiO2、ZnO、Y23、BaTiO2、などが使用できるが、比誘電率などの観点から、BaTiO2、Al23、TiO2が好ましい。
【0029】
放電電極2の突起部3の特に先端付近には、疎水性材料を塗布または含浸するなどにより、疎水性被膜7を形成することで、突起部3先端の水膜を薄くすることで放電効率を高めることができる。疎水性材料としては、例えば、四フッ化エチレンや、シリコーンなどが挙げられ、これらの溶液を凸部先端に接触させ、疎水性を持たせることで実現できる。
【0030】
送気手段5から供給する気体は、放電により活性酸素種を発生させることができるものを用いる。例えば、圧縮空気、高純度酸素などが好ましい。送気手段5は、細い管内に高圧の気体を送気できるものを用いるが、例えば、圧縮ポンプやコンプレッサー、高速ターボブロア、あるいは圧縮気体を密閉したガスボンベを接続することで実施できる。ガスの流量は、例えば0.1から1000L毎分程度の範囲で供給する。
【0031】
高電圧電源4から印加する高電圧は、高圧パルスを用いることが好ましく、例えば0.1から1000kV程度の矩形波、三角波、正弦波などを用いることができる。
【0032】
(実施の形態2)
図5は、本発明の水処理装置1の別の様態を示す概念図である。鉛直方向に設けられた平板状の放電電極2には、鉛直下向き方向に一定の角度で傾斜した突起部3が備えられ、突起部3が対向するようにもう一方の放電電極2を設けている。この突起部3の下側に、電極裏面に貫通する開口部8を設け、さらに電極の裏面で複数の貫通孔を連通し、密閉されたガス配管9を設ける。
【0033】
ガス配管9は、送気手段5と連通し、高圧の気体が供給され、開口部8を通じて電極の突起部3の下側に気体が供給される。供給された気体は、やがてオーバーフローして、先端から上方に漏れ出し、この状態で放電させることで効率よく気泡中に放電を起こすことができる。
【0034】
開口部8の開口面積は、小さすぎると気泡の供給が不足し、大きすぎると、勢いよく気泡が噴出して突起部3の下側に気体を溜めることが困難になる。そのため、適切な速度で気体を供給できるような開口面積を持たせることがよく、開口部形状は、例えば、φ1から3mm程度の孔にすることが好ましい。
【0035】
本発明の水処理装置1は、少なくとも一対の電極を含む構成であるが、これらの電極セットを複数重ねた構成にすることで、処理流量を上げることもできる。なお、電極の形状は、平面状に限らず、筐体の形状にあわせて筒状やらせん状などの形状にしてもよく、空間を有効活用して効率的な配置構成とすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明にかかる水処理装置は、電極の突起部に気泡を溜める構成とすることにより、効率的に放電部に気泡を導入し、消費電力を抑えつつ水処理能力の向上が可能になるものであり、上水や中水、下水などの浄化処理に使用される汚濁物質の分解、殺菌装置等として有用である。
【符号の説明】
【0037】
1 水処理装置
2 放電電極
3 突起部
4 高電圧電源
5 送気手段
6 誘電体被膜
7 疎水性被膜
8 開口部
9 ガス配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中に設けた少なくとも一対の電極間に気体を供給して放電する水処理装置において、
前記電極を鉛直方向に配置し、
前記電極の少なくとも一方の表面に鉛直下側に傾斜した複数の突起部を設けたことを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記電極が誘電体で被覆されていることを特徴とする請求項1記載の水処理装置。
【請求項3】
前記突起部が疎水性であることを特徴とする請求項1または2に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記突起部が対向するように前記電極を配置するとことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項5】
前記電極の下方から気泡を含む被処理水を流通させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項6】
前記電極の平坦面に複数の開口部を設け、
前記開口部を通じて前記突起部に気体を供給することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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