説明

水分に安定なポリエステル製造用チタン触媒溶液

【課題】ポリエステル製造用重合触媒として用いるチタン化合物溶液を長期保存するときに、安全衛生上の問題を有することなく、析出物の生成を防止する触媒溶液を提供することにある。
【解決手段】テトラアルコキシチタンを0.1〜20重量%含有するエーテル化合物の溶液として用いるポリエステル製造用チタン触媒溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン触媒に関する。さらに詳しくは、重合触媒としてポリエステル製造に有用なチタン触媒溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートに代表されるポリエステルは、優れた力学特性、耐熱性、耐候性、耐電気絶縁性及び耐薬品性を有することから、フィルム、繊維又はボトルなどの成形品として広く使用されている。
【0003】
このポリエステルはその製造において、重合反応を円滑に進行させるために重合触媒を用いる。この重合触媒として、例えばテトラアルコキシチタンなどのチタン化合物を用いることは広く知られている。
【0004】
このチタン触媒は、ポリエステルの製造原料のひとつであるエチレングリコールの溶液として希釈保存し、ポリエステルの反応系に投入する方法が一般的である。しかしながら、こうして調製されたチタン触媒溶液は、保存中経時的に析出物を生じ容器・装置底部に沈殿して目標の投入量とずれが生じたり、析出物を生じた触媒溶液を用いて重合を行った場合には、得られるポリエステル中に黒色の異物が混入したりするという問題点があった。
【0005】
この問題を解決するために、テトラアルコキシチタンのエチレングリコール溶液にアルカリ金属水酸化物を含有させることが提案されている(例えば特許文献1参照。)。しかしながら、この方法では、本来触媒機能としては無用のアルカリ金属水酸化物をポリエステル中に存在させることになる上に、このアルカリ金属水酸化物が劇物であり、特に飲料や食料品の包装容器材料向けのポリエステルを生産する際に安全衛生上問題視されるという欠点があった。
【特許文献1】特許第3341430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題点を解消し、チタン化合物溶液を長期保存するときに安全衛生上の問題を有することなく、析出物の生成を防止する触媒溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、チタンアルコキシド及びその加水分解物がエチレングリコールに対する溶解度が低いことが長期保存中に析出物を生ずる主な原因であるとの知見を得た。そこでよりチタン化合物の溶解性が高い溶媒を用いれば析出を生ずることなく安定で取り扱い容易なポリエステル重合触媒が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに到った。
【0008】
即ち、本発明によれば、テトラアルコキシチタンを0.1〜20重量%含有するエーテル化合物の溶液であるポリエステル製造用チタン触媒溶液を用いることにより、アルカリ金属塩の添加などを行わなくても、析出物を生じることなく長期保存可能なポリエステル製造用チタン触媒溶液が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期保存しても析出物を生成せず、安定した状態でポリエステル製造用のチタン触媒溶液として保存あるいは使用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で対象とするテトラアルコキシチタンは、同一又は異なった炭素数1〜12のアルコキシ基を持つチタン化合物であることが好ましい。より好ましくは同一又は異なった炭素数1〜6のアルコキシ基を持つことである。アルコキシ基は直鎖状であっても分岐を有する鎖状であっても良い。より具体的にはテトラブトキシチタン、テトラプロポキシチタンなどのテトラアルコキシチタンが好ましい。テトラアルコキシチタンは単一種であっても複数の種類の混合物であっても構わない。このテトラアルコキシチタンをエーテル化合物の溶液とする場合、該溶液中のテトラアルコキシチタン含有量は、0.1〜20重量%とすることが必要である。含有量が0.1重量%未満であると溶媒が多くなりすぎるために所定量の触媒を投入するのに、多量の溶液が必要となり生産効率が悪くなる。一方20重量%を超えると溶液粘度が上昇する、又は触媒溶液の安定性を損なうので好ましくない。
【0011】
本発明では、テトラアルコキシチタンを含有するエーテル化合物の溶液をポリエステル製造用触媒溶液として用いる。そのエーテル化合物としては特に限定はないが、エーテル基の酸素原子に結合している基が脂肪族基、脂環族基及び芳香族基のいずれの組合せからなるエーテル化合物でも構わない。ただし常温で液体の性状を示すことが好ましいので、少なくとも1つの基は脂肪族基又は脂環族基であることが好ましい。より好ましい基は炭素数1〜12の脂肪族基、炭素数5〜12の脂環族基、炭素数6〜10の芳香族基であり、より更に好ましくは炭素数1〜6の脂肪族基、炭素数5〜8の脂環族基、炭素数6〜7の芳香族基である。その脂肪族基、脂環族基及び芳香族基の1つ若しくは複数の水素原子がハロゲン基、水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基、シアン基若しくはアミノ基又はそれらの誘導体、例えばエステル基、アミド基に置換されていても構わない。その脂肪族基、脂環族基の一部に不飽和結合があっても構わない。またエーテル基は1つ以上であればよく、2以上あってもよく、また環状のエーテル化合物であっても構わない。より具体的にはジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、フェニル−メチルエーテル、フェニル−エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。本発明に用いるエーテル化合物はわざわざ加熱処理する必要は無く、常温で容易に溶解する場合には撹拌すれば良く、必要であれば加熱すればよい。触媒溶液の保存温度は特に限定されないが、通常10〜90℃、好ましくは20〜50℃である。また、保存期間も限定されないが、少なくとも1ヶ月以上は安定に保存することができる。
【0012】
以上の触媒溶液は、ポリエステル製造用の触媒として好適に使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート製造の触媒として用いる場合には、重合触媒として用いることもできる。またエステル交換反応を経由してポリエチレンテレフタレートを得る場合には、エステル交換反応触媒として兼用してもよい。またポリエステル製造時の条件としては、本発明の触媒溶液をチタン元素の仕込み量が従来のチタン触媒と同量になるように使用することで、ポリエステル製造用チタン触媒溶液として好適に作用する。他のポリエステル製造用チタン触媒溶液を公知の方法を採用すればよい。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本実施例中において、ジエチレングリコール等溶媒中の水分率の測定は平沼産業株式会社製AQ−3C型微量水分測定器を用いて測定した。なお実施例・比較例中「部」とは重量部を示す。
【0014】
[実施例1]
ガラス製容器に水分率0.9%のジオキサン90部にテトラブトキシチタン10部(いずれも和光純薬工業株式会社製試薬)を加え均一撹拌することにより、透明な溶液を得た。この溶液を室温にて保存したが30日間経過した時点で析出物は全く生成していなかった。
【0015】
[実施例2]
ガラス製容器に水分率2.1%のテトラヒドロフラン90部にテトラブトキシチタン10部(いずれも和光純薬工業株式会社製試薬)を加え均一撹拌することにより、透明な溶液を得た。この溶液を室温にて保存したが30日間経過した時点で析出物は全く生成していなかった。
【0016】
[実施例3]
ガラス製容器に水分率0.3%のジエチレングリコール90部にテトラブトキシチタン10部(いずれも和光純薬工業株式会社製試薬)を加え均一撹拌することにより、透明な溶液を得た。この溶液を室温にて保存したが30日間経過した時点で析出物は全く生成していなかった。
【0017】
[比較例1]
ガラス製容器に水分率0.3%のエチレングリコール90部にテトラブトキシチタン10部(和光純薬工業株式会社製試薬)を加え均一撹拌することにより、透明な溶液を得た。この溶液を常温にて保存したところ36時間後に析出が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明によれば、長期保存しても析出物を生成せず、安定した状態でポリエステル製造用のチタン触媒溶液として保存あるいは使用することが出来、また水分が含まれている溶媒中でも安定に保存・使用することができ、その工業的な意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラアルコキシチタンを0.1〜20重量%含有するエーテル化合物の溶液であるポリエステル製造用チタン触媒溶液。


【公開番号】特開2006−70165(P2006−70165A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255486(P2004−255486)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】