説明

水分測定方法

【課題】検体が静止状態や、外部から振動を与えられている状態でも正確に水分率が測定できる水分率測定方法及び水分測定装置を提供すること。
【解決手段】本発明にかかる水分測定方法は、絶縁基板上に、少なくとも1対の陰極および陽極の間隔が0.1〜10μmとなるように配置された微小電極セルを有するセンサーの電極を検体中に浸漬した後、該電極に2.5V以上の電圧を印加して電極間の電解電流を測定し、測定された検体中の含水率を予め作成された検量線に基づいて求めることを特徴とし、また、本発明にかかる水分測定装置は、微小電極セルを有するセンサー1と、電源部2と、電解電流計測部3と、電流値出力部4と、読取部5と、対照部6と、出力部7と、表示部8からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水分測定方法及び水分測定装置に関し、詳しくは検体が流動状態、静止状態、振動を受けている状態のいずれにおいても水分を簡便かつ高精度に定量することができる水分測定方法及び水分測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、将来において化石燃料の産出量が減少するおそれがあることや地球温暖化防止のため炭酸ガス排出量の削減が要請されていることから、車の内燃エンジンの燃料としてガソリン中に植物由来の燃料であるアルコール例えばエタノールを混合することが検討されている。
【0003】
ガソリン中のアルコール(エタノール)濃度は、現行3%程度だが、将来は10%程度まで引き上げられるといわれている。このアルコールの品質管理の一つとして、アルコール中の水分を管理するための水分測定手段が求められている。
【0004】
従来、微量水分の測定には、もっぱらカールフィッシャ法が用いられている。この方法はカールフィッシャ試薬を用いる電量滴定法であり、数分内に微量水分量を絶対定量することができるため、バッチ式の卓上分析計として広く普及している。しかし、カールフィッシャ法は、高価な試薬を使用するため、分析費用が割高となり、また装置が複雑化して装置のコスト高と装置の保守費の増大を招く等の理由により、オンライン測定にはあまり使用されていない。
【0005】
オンライン型の水分測定法としては赤外線吸収法や誘電的方法、導電率法、超音波法、熱伝導率法などが知られている。
【0006】
しかし、赤外線吸収法は、近赤外線の反射量を測定するため、試料表面が平坦でないと誤差が生じやすく、濃色試料の測定には適用しにくいという問題があり、誘電的方法では水の比誘電率または誘電損失を測定するので、含水率が0〜50%程度の範囲でしか十分な定量性が得られないという問題がある。また導電率法は、有機酸や二酸化炭素による導電率変化の影響を受けるため、測定環境によっては測定精度が低下してしまう(特許文献1)。特に、導電率法は交流インピーダンス等を測定するので試料にpHの変化が無いこと、超音波法は超音波のエネルギー減衰量を測定するので気泡等がない均質な試料であること、熱伝導率法は、熱パルスによる温度変化を測定するので、気泡等がない均質な資料であることが求められるので、試料の調整が必要であり、一般の工業用計器としては限られた領域でのみ使用されているというのが現状であるとともに、自動化するのは決して容易ではない。
【0007】
そこで、本出願人は、水分を含む検体に対して電極を用いて定電圧電解法により電解電流を測定し、その電流値から予め作成された検量線に基づいて水分量を求める水分測定器及び水分測定方法を先に提案した。水の電解に伴う電子の移動を拡散層の安定性に依存しているこの方法では、測定精度を高めるために、陰極と陽極の間隔を0.1〜0.75mmとしている(特許文献2)。この方法では、簡便に0〜90%程度の広範囲の検体の水分率を測定することができる。
【特許文献1】特開2004−294448号公報 静電容量型水分センサ
【特許文献2】特公平7−69300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本発明者らはさらに解決すべき課題が残されていることを見出した。
【0009】
陰極と陽極の間隔が0.1〜0.75mmであれば、電子の移動はある程度自由度を増すため精度が上がるが、特に静止状態の検体の水分量を測定する場合には、入力された特定電圧に対する出力電流(測定電流)にノイズが表れ、正確な電流値の測定が困難であった。
【0010】
また、外部から振動を与えられている状態でもノイズが表れやすくなるということがわかった。
【0011】
本発明者らは、検体が静止状態や、外部から振動を与えられている状態でも、正確な水分測定が可能な方法について鋭意研究を行い、本発明を完成させるに至った。
【0012】
そこで、本発明の課題は、検体が静止状態や、外部から振動を与えられている状態でも正確に水分が測定できる水分測定方法及び水分測定装置を提供することにある。
【0013】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0015】
(請求項1)
絶縁基板上に、少なくとも1対の陰極および陽極の間隔が0.1〜10μmとなるように配置された微小電極セルを有するセンサーの電極を検体中に浸漬した後、該電極に 2.5V以上の電圧を印加して電極間の電解電流を測定し、測定された検体中の含水率を予め作成された検量線に基づいて求めることを特徴とする水分測定方法。
【0016】
(請求項2)
電極に印加する電圧が、2.5V以上の正弦波、矩形波或いは三角波であることを特徴とする請求項1記載の水分測定方法。
【0017】
(請求項3)
静止状態或いは不規則な振動状態にある検体の水分測定を行う請求項1又は2に記載の水分測定方法。
【0018】
(請求項4)
絶縁基板上に、少なくとも1対の陰極および陽極の間隔が0.1〜10μmとなるように配置された微小電極セルを有するセンサーと、電源部と、電解電流計測部と、電流値出力部と、読取部と、対照部と、出力部と、表示部からなることを特徴とする水分測定装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、検体が静止状態や、外部から振動を与えられている状態でも正確に水分が測定できる。
【0020】
本発明による水分測定のオンライン用計器は、簡便性と経済性とともに測定精度にも優れるため、アルコールタンクに設けて品質管理に利用できるほか、化学工業、食品工業、金属工業等の分野において特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図1は、本発明の水分測定装置を示すブロック図である。
【0023】
この装置は、センサー1と、電源部2と、電解電流計測部3と、電流値出力部4と、読取部5と、対照部6と、出力部7と、表示部8からなる。
【0024】
センサー1は絶縁基板上に、少なくとも1対の陰極および陽極が、間隔が0.1〜10μmとなるように配置された微小電極セルであり、絶縁性の基板上に電極をリソグラフィ技術によって形成し、電極を残して絶縁膜で覆って作製されたものなどが挙げられる。
【0025】
また、同一基板上に参照物質を有する参照電極や、この参照電極に対向する対向電極を形成しているものが好ましい。
【0026】
11、12はそれぞれ陽極、陰極に接続されたリード線である。
【0027】
なお、水分を測定する際は、センサー1を検体に浸漬させる。水分を含み、センサー1を浸漬させることができる検体に対応することができる。
【0028】
さらに、センサー1は、複数の作用電極がμmレベル(0.1〜10μm)の間隔で配置されているので、拡散層を形成するために検体に一定の流量を維持させる必要がない。
【0029】
この点について説明する。
【0030】
まず、拡散とは、濃度の濃い方から薄い方に分子種が移動する物理現象である。
【0031】
拡散層が形成されているとは、定常な濃度勾配が形成されている状態と定義することができる。
【0032】
電解によって生じた酸化体あるいは還元体の拡散速度は、拡散距離(λ)として、フィックの法則を変形した下記数1式で求めることができる。
【0033】
【数1】

【0034】
ここで、tは時間(秒)、Dは拡散定数である。t=1、D=1×10−5cm・sec−1程度、√40≒6とすれば、λ=6×10−2mmとなり、1秒あたり少なくとも60μm程度の拡散速度(イオンの移動速度)があると考えられる。
【0035】
陰極と陽極の間隔が0.1〜10μmで配置されていると、1秒間にイオンが拡散移動可能な範囲である60μmよりもはるかに小さい間隔で陰極と陽極が存在しているので、速やかに電解電流が生じて正確な電流値を測定できる。
【0036】
つまり、液流を生じさせなくても定常状態にある拡散相が形成されているので、検体が静止状態であっても、定常拡散による電解電流が生じ、含水率に基づいた電流値の測定が可能である。
【0037】
さらに、この状態では、10Hz程度より小さい振動など、力学的な変動の影響をほとんど受けにくい。振動による影響を受けるより早く、陽陰極間でイオンが移動するためである。なお、10Hz程度より小さいとは、振動数が1秒間に10回以下の周期であることである。
【0038】
そのため、本発明の水分測定装置は、例えば通常10Hz以下の不規則な振動が生じる車などに積載したアルコールタンクに本発明の装置を設置した場合にも振動の影響なく水分率の測定ができるため、汎用性が高い。
【0039】
これに対し、従来のように電極間の距離が0.1mm(=100μm)であると、イオンの移動には1秒以上要するので、静止状態の検体ではノイズが生じやすくなる。
【0040】
電源部2は、センサー1に、電極に水の電解電圧以上の電圧、好ましくは2.5V以上の電圧を印加する。
【0041】
2.5V以上の電圧を印加する、とは、陽極電位と陰極電位の差が、2.5V以上とすることである。(図2)
【0042】
電源部2が印加する電圧は、電極面への酸化皮膜の生成や電極への各種物質の電着を防止する点から極性(+、−)を一定時間毎に反転させる交番電圧が好ましい。電解電流値の低下が少なく、高精度に含水率を測定することができる。
【0043】
印加方法としては、単純に交流(正弦波)としてもよいし、矩形波、三角波としても良く、矩形波、三角波の場合、連続して印加しても、間隔をあけてもよい。
【0044】
印加する電圧の周波数としては、0.01〜1Hzの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜0.5Hzである。
【0045】
電圧が印加されると、水が電気分解され電流が流れる。この電流(定電位電解、出力電流)を、電解電流計測部3において計測する。本微小電極対はコンデンサ電流が非常に小さくなるため、電圧印加直後の容量電流による定量性の低下の問題はほとんど生じない。
【0046】
電解電流計測部3で測定された電流値は、電流値出力部4から出力され、読取部5において、電流値を読み取る。読み取った電流値は対照部6において、あらかじめ作成した検量線と対照して水分量を決定する。
【0047】
対照部6で決定された水分量は、出力部7から、モニターなどの表示部8へ出力することができる。また、図示しない記憶部などに常時または間欠的に水分量を記録することができる。
【0048】
本発明の水分測定方法では、電解電流値から水分率を求めるので、導電率法などで問題になる有機酸や二酸化炭素による干渉を受けないが、強酸環境下では、補正が必要である。
【実施例】
【0049】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0050】
実施例1
検体にセンサーを浸漬させ、−0.9Vから+0.9Vの範囲で電位を掃引し、水分率を変化させながら電解電流を測定した。
【0051】
検体:エタノール
水分率:0%、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.06%、0.1%、0.14%
【0052】
測定結果を図3に示す。微量の水分変化でも検出することができた。
【0053】
実施例2
水分率が0.1%のエタノールを検体とし、この検体が入った容器を、静置し、静止させた状態で測定した場合(静止系試料)と、容器を手で不規則に揺らし振動を与えた状態で測定した場合(振動系試料)、スターラーで攪拌し、一定の液流が生じている状態で測定した場合(攪拌系試料)についてセンサーを浸漬させて、−0.9Vから+0.9Vの範囲で電位を掃引し、電解電流を測定した。
【0054】
測定結果を図4に示す。静止系試料、振動系試料、攪拌系試料ともほとんど同じ測定結果を得ることができた。
【0055】
実施例3
電極間が5μmのセンサーを使用し、正弦波で電圧を印加して、静止系の検体について電解電流を測定した。比較として、従来のセンサー(電極間隔0.1mm)を用いて同様に電解電流を測定した。
【0056】
検体:微量水分(約2ppm)を含むイソプロパノール
【0057】
入力電圧を図5(A)に、電極間が5μmのセンサーで測定された電解電流を図5(B)、従来のセンサーで測定された電解電流を図5(C)に示す。
【0058】
(B)が(A)とほぼ同じ動きをするのに対し、(C)は形がひずんでおり読み取りが困難である。
【0059】
実施例4
実施例3と同じ検体を用いて、電極間が5μmのセンサーを使用し、矩形波で電圧を印加して、静止系の検体について電解電流を測定した。比較として、従来のセンサー(電極間隔 0.1mm)を用いて同様に電解電流を測定した。
【0060】
入力電圧を図6(A)に、電極間が5μmのセンサーで測定された電解電流を図6(B)、従来のセンサーで測定された電解電流を図6(C)に示す。
【0061】
(C)は印加直後にコンデンサ電流が流れるため、後半部分(破線円)が電流読み取り領域となる。
【0062】
実施例5
実施例3と同じ検体を用いて、電極間が5μmのセンサーを使用し、三角波で電圧を印加して、静止系の検体について電解電流を測定した。比較として、従来のセンサー(電極間隔0.1mm)を用いて同様に電解電流を測定した。
【0063】
入力電圧を図7(A)に、電極間が5μmのセンサーで測定された電解電流を図7(B)、従来のセンサーで測定された電解電流を図7(C)に示す。
【0064】
(B)が(A)とほぼ同じ動きをするのに対し、(C)は形がひずんでおり読み取りが困難である
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の水分測定装置を示すブロック図
【図2】測定原理図
【図3】各水分率における測定電流を示したグラフ
【図4】静止系試料、振動系試料、攪拌系試料における電解電流を示したグラフ
【図5】実施例3における入力電圧と測定電流の関係を示す図
【図6】実施例4における入力電圧と測定電流の関係を示す図
【図7】実施例5における入力電圧と測定電流の関係を示す図
【符号の説明】
【0066】
1:センサー
11、12:リード線
2:電源部
3:電解電流計測部
4:電流値出力部
5:読取部
6:対照部
7:出力部
8:表示部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上に、少なくとも1対の陰極および陽極の間隔が0.1〜10μmとなるように配置された微小電極セルを有するセンサーの電極を検体中に浸漬した後、該電極に2.5V以上の電圧を印加して電極間の電解電流を測定し、測定された検体中の含水率を予め作成された検量線に基づいて求めることを特徴とする水分測定方法。
【請求項2】
電極に印加する電圧が、2.5V以上の正弦波、矩形波或いは三角波であることを特徴とする請求項1記載の水分測定方法。
【請求項3】
静止状態或いは不規則な振動状態にある検体の水分測定を行う請求項1又は2に記載の水分測定方法。
【請求項4】
絶縁基板上に、少なくとも1対の陰極および陽極の間隔が0.1〜10μmとなるように配置された微小電極セルを有するセンサーと、電源部と、電解電流計測部と、電流値出力部と、読取部と、対照部と、出力部と、表示部からなることを特徴とする水分測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−244224(P2009−244224A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93983(P2008−93983)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)