説明

水分解装置及びその使用方法

【課題】本発明では、水素と酸素とを別々の電極において生成させる水分解装置であって、効率的に光触媒反応を行わせるための構造を有する水分解装置、並びにその使用方法を提供する。
【解決手段】本発明の水分解装置は、光分解素子(10)、酸素生成セル(20)、及び水素生成セル(30)を有する。ここで、光分解素子(10)は、第1及び第2水分解電極面(11、12)を有する。酸素生成セル(20)は、第1の水分解電極面を収容し、かつ第1の水分解電極面において発生する酸素を収集する。また、水素生成セル(30)は、水分解電極面を収容し、第2の水分解電極面において発生する水素を収集し、かつ光分解素子を介して酸素生成セルに隣接している。この本発明の水分解装置では、光分解素子(10)が、水平面に対して傾斜して配置されており、かつ酸素生成セル及び/又は水素生成セル(20、30)が、下側から上側に向けて水を流通させる水流路を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒を用いて水を分解する水分解装置及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーである水素をエネルギー源として用いることが多く提案されている。
【0003】
水素の製造のためには、炭化水素燃料を用いた水蒸気改質が一般的に行われている。また、近年では、水の分解、特に太陽光エネルギーを用いる水の分解によって、水から水素を得ることも考慮されている(特許文献1〜6)。水の分解によって水素を得る場合、得られる生成物は、水素、酸素、及び水の混合物となることがある。この場合、水素を得るためには、この混合物から水素のみを分離して取り出す必要がある。
【0004】
これに関して、特許文献1〜5では、光を用いた水の触媒分解又は電気分解において、水素と酸素とを別々の電極において生成し、それによって水素と酸素とを別々に回収する水分解装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−213608号公報
【特許文献2】特開平10−218601号公報
【特許文献3】国際公開WO99/38215号公報
【特許文献4】特開2008−075097号公報
【特許文献5】特許第4451954号公報
【特許文献6】特許第3570429号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明では、水素と酸素とを別々の電極において生成させる水分解装置であって、効率的に光触媒反応を行わせるための構造を有する水分解装置、並びにその使用方法を提供する。
【0007】
本発明の水分解装置は、光分解素子、酸素生成セル、及び水素生成セルを有する。ここで、光分解素子は、第1及び第2の水分解電極面を有し、かつ第1及び第2の水分解電極面の少なくとも一方に照射される光によって水を分解して、第1の水分解電極面において酸素を発生させ、かつ第2の水分解電極面において水素を発生させる。酸素生成セルは、第1の水分解電極面を収容し、かつ発生する酸素を収集する。また、水素生成セルは、第2の水分解電極面を収容し、かつ発生する水素を収集する。
【0008】
この本発明の水分解装置では、光分解素子が、水平面に対して傾斜して配置されており、かつ酸素生成セル及び/又は水素生成セルが、下側から上側に向けて水を流通させる水流路を形成している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の水分解装置の1つの態様を示す側面断面図である。
【図2】図2は、本発明の水分解装置の作用の1つの態様について説明する図である。
【図3】図3は、本発明の水分解装置の作用の他の態様について説明する図である。
【図4】図4は、本発明の水分解装置の他の態様を示す側面断面図である。
【図5】図5は、酸素生成セル及び/又は水素生成セルの水流路の1つの態様の正面図である。
【図6】図6は、酸素生成セル及び/又は水素生成セルの水流路の他の態様の正面図である。
【図7】図7は、本発明の水分解装置の他の態様を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明の水分解装置)
本発明の水分解装置は、水素と酸素とを別々の電極において生成し、それによって水素と酸素とを別々に回収することを可能にする。
【0011】
具体的には例えば、本発明の水分解装置(100)は、図1に示すような構造を有することができる。ここで、この図1に示す態様では、本発明の水分解装置は、光分解素子(10)、酸素生成セル(20)、及び水素生成セル(30)を有する。ここで、光分解素子(10)は、第1の水分解電極面(11)とその反対側面の第2の水分解電極面(12)を有する。酸素生成セル(20)は、第1の水分解電極面(11)を収容し、かつ発生する酸素(21)を収集する。また、水素生成セル(30)は、第2の水分解電極面(12)を収容し、発生する水素(31)を収集し、かつ光分解素子(10)を介して酸素生成セル(20)に隣接している。
【0012】
ここで、本発明の水分解装置において用いられている光分解素子(10)は、第1及び第2の水分解電極面を有し、かつ第1及び第2の水分解電極面の少なくとも一方に、酸素生成セル(20)及び/又は水素生成セル(30)の透明窓部分(25、35)を通して照射される光(52及び54)によって水(60)を分解して、第1の水分解電極面において酸素を発生させ、かつ第2の水分解電極面において水素を発生させる。
【0013】
より具体的には、図2で示されているように、第1及び第2の水分解電極面の少なくとも一方に照射される光(52及び54)は、第1の水分解電極面(11)に正孔(+)を提供して、水分子(HO)から酸素(O)及び水素イオン(H)を生成し、かつ第2の水分解電極面(12)に電子(−)を提供して、水素イオン(H)から水素(H)を生成する。なお、分解する水の中に水素イオンよりも水酸化物イオン(OH)が多く含まれる場合には、この反応は、図3に示すように表すことができる。
【0014】
本発明の水分解装置では、光分解素子(10)の両方の面が光照射を受けるようにされている必要はなく、光分解素子(10)の第1及び第2の水分解電極面の一方のみが、光照射を受けるようにされていてもよい。具体的には例えば、図4で示すように、光分解素子(10)の片側の水分解電極面に光照射を受けるようにされていてもよい。第1及び第2の水分解電極面の一方のみが、光照射を受けるようにされていている場合、光照射を受ける電極面が上側を向くようにすることが、太陽光によって光照射を行うために一般に好ましい。
【0015】
なお、第1及び第2の水分解電極面の一方のみが、光照射を受けるようにされていている場合、酸素を発生させる第1の水分解電極面が光照射を受けるようにされていていることが好ましい。これは、水の分解では、酸素と水素との発生量の比が1:2であり、酸素のほうが少ないので、酸素を発生させる第1の水分解電極面では、気泡によって反射される光の割合が比較的少なく、また気泡の存在によって光分解素子と水との接触面積が減少する割合が比較的少ないことによる。
【0016】
本発明の水分解装置では、第1及び第2の水分解電極面にバイアス電圧を印加して、本発明の水分解装置における水野分解反応を促進することもできる。
【0017】
本発明の水分解装置においては、光分解素子(10)が、水平面に対して傾斜して配置されている。
【0018】
具体的には、本発明の水分解装置では、図1の右下の図(200)で示されるように、光分解素子(10)、特に光分解素子(10)の被照射面の、水平面(G)に対する角度xが、0°超〜90°未満、特に10°以上、20°以上、30°以上、又は40°以上であって、80°以下、70°以下、60°以下、50°以下であるようにして配置されている。
【0019】
このような傾斜配置は、太陽光による光分解素子(10)の露光を促進することができ、したがって太陽光を用いて本発明の水分解装置によって水を分解する場合に好ましい。
【0020】
なお、光分解素子を水平面に対して傾斜して配置する場合、酸素を発生させる第1の水分解電極面が上側面になりかつ光照射を受けるようにされていていることが好ましい。これは、水の分解では、酸素と水素との発生量の比が1:2であり、酸素のほうが少ないので、酸素を発生させる第1の水分解電極面では、気泡によって反射される光の割合が比較的少なく、また気泡の存在によって光分解素子と水との接触面積が減少する割合が比較的少ないことによる。
【0021】
また、本発明の水分解装置においては、酸素生成セル及び/又は水素生成セルが、下側から上側に向けて水を流通させる水流路を形成している。
【0022】
例えば、本発明の水分解装置では、図1及び5に示すように、水素生成セル(30)の下側の水供給口から供給された水(矢印90)が、水素生成セル(30)と酸素生成セル(20)との間の連絡口(15)を流通し(矢印80)、酸素生成セル内を下側から上側に向けて流通し(矢印82)、そして上側の水流出口から出る(矢印84)ようにされている。なお、図5は、図1の水素生成セル(30)の水流路を光(54)の入射方向から見た図である。
【0023】
なお、水供給口は、第1及び第2の水分解電極面への光照射を妨げない位置に配置することが好ましい。したがって例えば、第1及び第2の水分解電極面の一方のみが、光照射を受けるようにされていている場合、水供給口は、光照射を受けない面側に配置することが好ましい。
【0024】
また、水素生成セル(30)の下側の水供給口から供給された水(矢印90)は、水素生成セル内を下側から上側に向けて流通し(矢印92)、そして上側の水流出口から出る(矢印94)ようにされている。
【0025】
このように、酸素生成セル及び/又は水素生成セルが、下側から上側に向けて水を流通させる水流路を形成している場合、この上向きの水の流れが、光分解素子(10)の表面で生成した酸素及び/又は水素の気泡を同伴し、それによって酸素生成セル及び/又は水素生成セル内における酸素及び/又は水素の滞留を抑制できる。
【0026】
酸素及び/又は水素の気泡が酸素生成セル及び/又は水素生成セル内に滞留する場合、透明窓部分(25、35)を通して照射される光(52、54)が、酸素及び/又は水素の気泡によって反射されること、光分解素子(10)と水との接触面積が減少すること等によって、水の分解効率が低下することがある。したがって、酸素生成セル及び/又は水素生成セルにおける酸素及び/又は水素の滞留を抑制することは一般に好ましい。
【0027】
(本発明の水分解装置−流路調節部材)
本発明の水分解装置では、酸素生成セル及び/又は水素生成セルが、下側から上側に向かう水の流れを調節する流路調節部材を有することができる。このような流路調節部材は、酸素生成セル及び/又は水素生成セルにおける水の流れを調節し、それによって水の流れによる酸素及び/又は水素の気泡の同伴を促進することができる。特に、このような流路調節部材によって、酸素生成セル及び/又は水素生成セルにおける水の流路を長くする場合、水の流速が大きくなり、それによって酸素及び/又は水素の気泡の同伴を促進することができる。
【0028】
具体的には例えば、この流路調節部材は、図6(a)及び(b)に示すような、水供給口から水流出口への直線的な水の流れを妨げる部材(252、254)、図6(c)に示すような、水供給口から水流出口への水の流れを複数の異なる方向に向ける部材、例えば放射状に拡げる部材(256)、図6(d)に示すような、水供給口から水流出口への水の流れを水平方向に交互に折り返させる部材(258)であってよい。
【0029】
(本発明の水分解装置−振動供給部)
本発明の水分解装置は、光分解素子を振動させる振動供給部を更に有することができる。このような振動供給部は、酸素生成セル及び/又は水素生成セル内に配置すること、例えば図7に示すように、振動供給部(302)として光分解素子(10)に直接に取り付けて、光分解素子(10)を直接に振動させることができる。また、振動供給部は、酸素生成セル及び/又は水素生成セル外に配置すること、例えば図7に示すように、振動供給部(304)として酸素生成セル及び/又は水素生成セル(20及び/又は30)の外側に取り付けて、水分解装置全体を振動させ、それに伴って光分解素子(10)を間接的に振動させることができる。
【0030】
本発明の水分解装置では、光分解素子の傾斜配置及び上向きの水流路と併せて、このような振動供給部を用いて、光分解素子を振動させることによって、光分解素子の表面で生成した酸素及び/又は水素の気泡の光分解素子からの脱離を促進できる。
【0031】
(本発明の水分解装置−供給水脈動部)
本発明の水分解装置は、酸素生成セル及び水素生成セルに供給される水の流れを脈動させる供給水脈動部を有することができる。このような供給水脈動部は、例えば図7に示すように、酸素生成セル及び/又は水素生成セルに水を供給する水供給路に、供給水脈動部(402)として配置することができる。このような供給水脈動部は、バルブ、ギヤポンプ及びそれらの組合せからなる群より選択することができる。具体的なバルブとしては、リリーフバルブ、電磁バルブ、切り替えバルブ等を挙げることができる。
【0032】
本発明の水分解装置では、光分解素子の傾斜配置及び上向きの水流路と併せて、このような供給水脈動部を用いて、酸素生成セル及び水素生成セルに供給される水の流れを脈動させることによって、光分解素子の表面で生成した酸素及び/又は水素の気泡の光分解素子からの脱離を促進できる。
【0033】
(本発明の水分解装置の使用)
本発明の水分解装置の使用においては、酸素生成セル及び水素生成セルに水、及び随意の電解質を入れ、そして光分解素子の第1及び第2の水分解電極面の少なくとも一方に光、特に太陽光を照射し、それによって水を分解して、第1の水分解電極面において酸素を発生させ、かつ第2の水分解電極面において水素を発生させる。
【0034】
ここで、水と共に酸素生成セル及び水素生成セルに入れられる随意の電解質としては、本発明の水分解装置による水の分解の間に分解されにくい電解質を用いることが好ましい。したがって例えばこの電解質としては、水酸化ナトリウムを挙げることができる。
【0035】
本発明の水分解装置で用いられる光分解素子の具体的な製造については、例えば特開2001−213608を参照することができる。すなわち、この光分解素子は、酸素を発生させる第1の水分解電極面としての酸化チタン層、水素を発生させる第2の水分解電極面としての金属チタン層、及びこれらの酸化チタン層及び金属チタン層の間の白金層を有する積層体であってよい。なお、酸化チタン層に酸素発生用触媒としての酸化ルテニウム微粒子を担持すること、及び/又は金属チタン層に水素発生用触媒としての白金微粒子を担持することもできる。
【0036】
また、この光分解素子は例えば、酸素を発生させる第1の水分解電極面として酸化チタン層、水素を発生させる第2の水分解電極面として酸窒化チタン層、及びこれらの酸化チタン層及び酸窒化チタン層の間の随意の白金層を有する積層体であってよい。
【符号の説明】
【0037】
10 光分解素子
11 第1の水分解電極面
12 第2の水分解電極面
20 酸素生成セル
21 酸素
25、35 透明窓部分
30 水素生成セル
31 水素
60 水
52、54 光
100 本発明の水分解装置
302、304 振動供給部
402 供給水脈動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の水分解電極面を有し、かつ前記第1及び第2の水分解電極面の少なくとも一方に照射される光によって水を分解して、前記第1の水分解電極面において酸素を発生させ、かつ前記第2の水分解電極面において水素を発生させる、光分解素子、
前記第1の水分解電極面を収容し、かつ前記第1の水分解電極面において発生する酸素を収集する、酸素生成セル、並びに
前記第2の水分解電極面を収容し、前記第2の水分解電極面において発生する水素を収集し、かつ前記光分解素子を介して前記酸素生成セルに隣接している、水素生成セル、
を有する、水分解装置であって
前記光分解素子が、水平面に対して傾斜して配置されており、かつ前記酸素生成セル及び/又は前記水素生成セルが、下側から上側に向けて水を流通させる水流路を形成している、
水分解装置。
【請求項2】
前記光分解素子の水平面に対する傾斜が、10°〜80°である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記酸素生成セル及び/又は前記水素生成セルが、下側から上側に向かう前記水の流れを調節する流路調節部材を有する、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記流路調節部材が、前記酸素生成セル及び/又は前記水素生成セルの水供給口から水流出口への直線的な水の流れを妨げる、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記流路調節部材が、前記酸素生成セル及び/又は前記水素生成セルの水供給口から水流出口への水の流れを水平方向に交互に折り返させる、請求項3又は4に記載の装置。
【請求項6】
前記流路調節部材が、前記酸素生成セル及び/又は前記水素生成セルの水供給口から流入する水の流れを複数の異なる方向に向ける、請求項3〜5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記水分解装置が、前記光分解素子を振動させる振動供給部を更に有する、請求項1〜6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記水分解装置が、前記酸素生成セル及び前記水素生成セルに供給される水の流れを脈動させる供給水脈動部を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記酸素生成セル及び水素生成セルに水を入れ、そして前記第1及び第2の水分解電極面の少なくとも一方に光を照射し、それによって前記酸素生成セル及び水素生成セルの水を分解して、前記第1の水分解電極面において酸素を発生させ、かつ第2の水分解電極面において水素を発生させる、請求項1〜8のいずれかに記載の水分解装置を用いて水から酸素及び水素を生成する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−76978(P2012−76978A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226695(P2010−226695)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】