説明

水平偏向回路

【目的】 水平出力回路のスイッチングトランジスタの発熱を検出してこの値が最小となる水平ドライブ回路のドライブ電圧を供給することによりスイッチングトランジスタの発熱及び損失を最小にする。
【構成】 水平出力回路3のスイッチングトランジスタ3の発熱を検出する感熱素子4を用いた温度検出回路5で得た発熱温度をデジタルデータに変換し、このデータを素に最適ドライブ電圧判定プログラムに従って制御するCPU9において最適ドライブ電圧を算出し出力する。
【効果】 水平周波数やスイッチングトランジスタの素子のばらつきによらず、常に最適ドライブが行え、発熱や損失を最小に抑えることができ設計品質の安定を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、水平偏向回路に関する。
【0002】
【従来の技術】複数の水平周波数に追従するようなディスプレイ装置において、一例として図2に示すドライブ方式を有する水平偏向回路を採用している。以下、従来の水平偏向回路を図2を用いて説明する。図2において、1は水平ドライブ回路、2はドライブトランス、3は水平出力回路、7は水平FV変換器、12はFV電圧に応じて水平ドライブ回路1の電源電圧をリニアに変化させる回路である。水平ドライブ回路1及び水平出力回路3の動作については公知のため説明を省く。一般に各水平周波数に対して最適ドライブを行うためには、水平ドライブ回路1の電源電圧(以下Vdrと呼ぶ)は水平周波数(以下fH と呼ぶ)が高くなる程、低い値となる。また最適なVdr値は水平出力回路3のスイッチングトランジスタの特性(hFEやtstg のばらつき)に依存しており、一つの値に定める事はできない。ここで言う最適ドライブの条件とはスイッチングトランジスタの損失が最小となる場合であり、水平出力回路3のスイッチングトランジスタ13の発熱が最小となる事と一致する。
【0003】図3に、最適ドライブ電圧特性曲線の一例を示す。■の特性曲線は、あるスイッチングトランジスタの各水平周波数における最適Vdrをプロットした図である。しかし、実際にはこのような電圧を与える事は困難なので■のように近似的に直線で置き換えた電圧を与えている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来のVdrを与える方式では特定のスイッチングトランジスタにおいてのみ最適ドライブとすることができるが、ほとんどの場合は最適ドライブ条件となるようにVdrが与えられているわけではない。これは先に述べた様にトランジスタの特性のばらつき、特にhFEの下限値,上限値に依存しており、これらによって最適ドライブ電圧Vdrが定まるため、ほとんどの場合ある程度の損失を持っているのが常であった。図4にスイッチングトランジスタのhFEの上・下限値を考慮したVdr最適範囲を各基準周波数毎にプロットした図を示しておく。
【0005】そこで、本発明の目的は、従来のこのような課題を解決するため、スイッチングトランジスタの特性のばらつきによらず、常に最適ドライブを行えて、損失を最小に抑えるような水平偏向回路を得ることである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、この発明は水平偏向回路において、水平出力回路のスイッチングトランジスタの発熱を検出する感熱素子を用いた温度検出回路と、この検出された発熱温度と水平周波数をFV変換した電圧のアナログデータをデジタルデータに変換するためのADコンバータと水平ドライブ回路を最適にドライブするためのドライブ電圧の制御を行うCPUと、基準水平周波数に対するドライブ電圧の上下限データ及び最適ドライブ電圧判定プログラム記憶用メモリと、演算中のデータを記憶する記憶用メモリと、演算結果から求めた最適ドライブ電圧のデジタルデータをアナログデータに変換するDAコンバータを有する構成とし、水平周波数によらず且つ又スイッチングトランジスタの特性のばらつきによらず常に最適ドライブを行えるようにした。
【0007】
【作用】上記のように構成された水平偏向回路においては、水平同期信号をFV変換した電圧値により水平周波数を判断し、その周波数に対応したドライブ電圧の上下限値をメモリより呼出し、その中間値及び±ΔVの電圧値における出力回路のスイッチングトランジスタの温度上昇を検出して、ΔVの変化に対する発熱温度の大小関係を求め発熱が下がる方向にドライブ電圧を再度設定してこの電圧値と±ΔVにおける温度を再度測定していく。
【0008】以後、このような操作を繰り返してスイッチングトランジスタの発熱の最も小さくなるドライブ電圧を求め、この電圧を最適ドライブ電圧として固定して出力するようにした。
【0009】
【実施例】以下に、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1において、水平同期信号は、FV変換器7により周波数−電圧変換されて電圧データとなり、AD変換器6を介してデジタル信号に変換される。この水平周波数を示すデジタル信号はデータ記憶用メモリ11に記憶される。
【0010】一方、スイッチングトランジスタの温度は感熱素子4を用いた温度検出回路5を介して温度情報に変換され、AD変換器6によりデジタル信号に変換されデータ記憶用メモリ11に記憶される。プログラム記憶用メモリ10には、最適ドライブ電圧判定プログラム及び基準水平周波数におけるドライブ電圧の上下限データがあらかじめ記憶されていて、データ記憶用メモリに記憶されたデジタル信号と共にCPU9で演算され、最適ドライブ電圧を算出してDA変換器8によりアナログ信号に変換して水平ドライブ回路1に供給される。
【0011】図7,8に、最適ドライブ電圧判定プログラムの一例を示す。最初に、水平周波数をFV変換した電圧情報により周波数が基準モードであるか?(fH =30,40,50,60kHZか?)を判定する。もし基準モードならば、プログラム記憶用メモリ10のドライブ電圧の上下限データをそのまま用いる。もし基準モードでないならばその周波数の両隣りの上限値及び下限値を直線で結んだ線上の値で近似してその周波数の上下限値とする。(図4参照の事。)
次に、最適ドライブ電圧を求める具体例を図5,6を用いて説明する。まずその周波数のドライブ電圧の上下限値(Vdrmax,Vdrmin )の中間値Vdr(m) を出力してスイッチングトランジスタの発熱温度T(m) を測定して読み込む。さらにVdr(m) に±ΔVした値を出力してT(m+1) ,T(m-1) を測定して読み込むことを繰り返す。ここでΔVの値はプログラム上で可変でき、この値が小さい程求めるVdrの精度は高くなるが、時間もかかる。従って、両者の兼ねあいをみて決めてやれば良い。(図5(a))
そしてこの3点の温度の大小関係を比べて、発熱温度の小さくなる方へドライブ電圧を移動する。この場合Vdrが大きくなる方向で発熱温度が小さくなるので、Vdr(m) をVdrmin に置き換えて、この新しいVdrmin と先のVdrmax の中間値を新しいVdr(m) と置き、このときの発熱温度T(m) を測定して読み込む。さらにVdr(m) ±ΔVした値を出力してT(m+1),T(m-1) を測定する。(図5(b))
前回と同様に、この3点の温度の大小関係を比べて発熱温度の小さくなる方へドライブ電圧を移動する。この場合Vdrが小さくなる方向で発熱温度が小さくなるのでVdr(m) をVdrmax に置き換えて、この新しいVdrmax と先のVdrmin の中間値を新しいVdr(m) と置き、このときの発熱温度T(m) を測定する。さらに±ΔV変化させたときの温度T(m+1) ,T(m-1) も測定する。(図6(a))
このときの3点の温度の大小関係を比べてみるとT(m-1) >T(m+1) >T(m)となっているが、両端の点を比べるとT(m+1) 側の方が温度が低いのでドライブ電圧を右側へ移動する。従ってVdr(m) をVdrmin に置き換え、この新しいVdrmin とVdrmax の中間値を新しいVdr(m) と置く。(図6(b))
今まで述べたように、上記操作を繰り返すことによりドライブ電圧は最適値に近づくが、際限が無くなるので制限を設ける。すなわちVdrmax とVdrmin の区間の1/2の値とΔVを比較して、前者がΔVより小さくなったら操作を終了することにする。図6(b)において、正しくこの状態でありこの時点のVdr(m)が最終値であり最適ドライブ電圧Vdr(fix) として出力する。
【0012】実際のプログラムでは、水平周波数が変化する度に再スタートすることになるが、一度表示した周波数のデータはメモリされ再演算する必要はなくすることができる。
【0013】
【発明の効果】この発明は、以上説明したように水平偏向回路において、出力回路のスイッチングトランジスタの発熱温度を検出してこのデータをCPUで演算して最適ドライブ電圧を算出する構成としたので、水平周波数によらず、かつスイッチングトランジスタの特性のばらつきにも依存せず、常に最適ドライブを行うことができる。またスイッチングトランジスタの発熱や損失もそのディスプレイ装置毎に最小に抑えているので設計品質の安定を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の水平偏向回路の一実施例を示した説明図である。
【図2】従来の水平偏向回路の一例の説明図である。
【図3】最適ドライブ電圧特性曲線の一例を示した説明図である。
【図4】ドライブ電圧範囲対水平周波数特性の一例を示した説明図である。
【図5】スイッチングトランジスタの発熱温度対ドライブ電圧特性曲線を示した説明図である。
【図6】スイッチングトランジスタの発熱温度対ドライブ電圧特性曲線を示した説明図である。
【図7】最適ドライブ電圧判定プログラムの一例を示した図である。
【図8】最適ドライブ電圧判定プログラムの一例を示した図である。
【符号の説明】
1 水平ドライブ回路
2 ドライブトランス
3 水平出力回路
4 感熱素子
5 温度検出回路
6 AD変換器
7 FV変換器
8 DA変換器
9 CPU
10 プログラム記憶用メモリ
11 データ記憶用メモリ
12 ドライブ電圧制御回路
13 スイッチングトランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 トランス結合水平ドライブ回路と水平出力回路からなる水平偏向回路において、該水平出力回路のスイッチングトランジスタの発熱度合を検出する感熱素子を用いた温度検出回路と水平周波数のFV変換値をデジタルデータに変換するADコンバータと、該水平ドライブ回路を最適にドライブするためのドライブ電圧の制御を行うCPUと基準水平周波数に対するドライブ電圧のデータ及び最適ドライブ電圧判定プログラムを記憶する記憶用メモリと、演算中のデータを記憶する記憶用メモリと、演算結果から求めた最適ドライブ電圧のデジタルデータをアナログデータに変換するDAコンバータを有する事を特徴とする水平偏向回路。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate