説明

水平掘りバケット

【課題】グラブ式浚渫において、グラブバケットの揺動を制御しほぼ水平に掘削を行う揺動制御装置を必要とせず、かつ、オペレーターの操縦技能に影響されることなく、容易に海底面を水平に掘削浚渫することを可能とする水平掘りバケットを提供する。
【解決手段】上部フレーム6とレールケース9を左右一対のロッドフレーム10で連結しさらに、下部フレーム7と左右一対のシェル12を左右一対の開閉アーム11で交差に軸支して、下部フレーム7のシーブに掛け回した開閉ロープ4を巻き上げ巻き下げすることで下部フレーム7が昇降し、同時に下部フレーム7と開閉アーム11で軸支された左右一対のシェル12がレールケース9を介して水平に開閉動作を行い、海底面を水平に掘削することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底や湖底の土砂やヘドロ等を水平に掘削浚渫することを可能とする、グラブバケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおりグラブバケットを用いた浚渫及び床掘りは、浚渫船上の起重機またはクレーンでワイヤロープを介しグラブバケットを海底面や湖底面(以下、「海底面」という。)に吊り降ろして着底後、開閉ロープを巻き上げて土砂を浚え上げる方法が一般的である。
【0003】
上記浚渫方法に用いられている従来のグラブバケットは、支持ロープ3で懸吊され開閉ロープ5で下部フレーム8を昇降させることで、主軸23と下部ロッド軸24に軸支されたシェル13が左右に開閉して浚渫を行う構造となっている(図6参照)。
【0004】
しかし、従来のグラブバケットを用いた浚渫及び床掘りの施工では、バケットの構造上バケット刃先は楕円弧軌道で揺動するため海底面は波形に掘削され大きな凹凸が発生し、薄層土砂の浚渫及び港湾防波堤や岸壁構造物の基礎床掘りでは、要求精度を適切に確保することが困難であった(図7参照)。
【0005】
上記問題の解決手段として、グラブバケットの開閉揺動を自動制御し海底面の土砂をほぼ水平に掘削する浚渫方法が種々提案されている(例えば特許文献1)。
【0006】
しかし、その殆どが自動制御装置若しくは掘削装置と称される装置(以下、「揺動制御装置」という。)を用いた浚渫方法の提案であり、各種検出量データーから刃先位置を処理装置が算出処理して表示装置に画像表示し、表示された移動軌跡に沿ってオペレーターがバケット刃先位置を調整しながらほぼ水平に移動させ掘削する方法であるため、オペレーターの操縦技能の優劣が施工精度に大きく影響していた。
【0007】
また、上記揺動制御装置を用いた浚渫方法では目標水深や潮汐等現場諸条件の変化に伴い、その都度各種数値の変更設定が必要であり、繁雑な手間を要していた。
【0008】
以上のように、揺動制御装置を用いてほぼ水平に掘削する方法は提案されているが、未だ水平掘削を容易に行うには至っておらず、更には水平掘りを可能とするバケットの構造に関する先行技術文献は公開されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭52−62942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は上記実情にかんがみ、揺動制御装置を必要とせず、かつ、オペレーターの操縦技能に影響されることなく、容易に確実に海底面を水平に掘削浚渫することを可能とする水平掘りバケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためには、起重機またはクレーン懸吊のグラブ式浚渫による下部フレームの昇降動作で、シェルの水平移動動作を可能にする必要がある。
【0012】
目的を達成するため本発明の水平掘りバケットは、支持ロープで懸吊される上部フレームとシェルの水平移動のために設けたレールケースを左右一対のロッドフレームで連結しさらに、下部フレームと左右一対のシェルを左右一対の開閉アームで交差に軸支する。上部フレームを支持ワイヤで支持した状態で下部フレームを昇降する開閉ロープを巻き下げすることにより下部フレームが自重で降下し、同時に開閉アームに押し出された左右一対のシェルがレールケース内を水平に外側へ移動し開口する。シェルを海底面に着底して開閉ロープで下部フレームを巻き上げることで浚渫を開始し、シェルは水平に土砂を掘削して内側へ移動密接し閉口する。以上のシェルの水平移動動作により水平掘削を行うことを特徴とする。
【0013】
また、左右一対のシェル上部に滑走装置を設けてレールケースに内挿し、シェルの円滑な滑走手段としていること、左右一対の開閉アームの支軸8箇所にグリースニップルを設け、グリース注入により軸運動摩擦を抑止して円滑な運動伝動促進手段としていること、下部フレームの垂直な昇降誘導手段として、上部フレームとレールケース間のバケット中心縦軸に下部フレームガイド装置を設けていることを特徴とする。
【0014】
更に、掘削工程終了後のシェル内浚渫土砂を投棄する滑落機能促進のために、レールケースの両端にシェルを傾斜に跳ね上げ開口部を鈍角に保持するショートウイングを左右一対に設けていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水平掘りバケットによれば、左右一対のシェルがレールケース内を水平に移動し海底面を水平に掘削できることから、従来のバケット特性である主軸とロッド軸で軸支されたシェルの楕円弧軌道掘削による海底面の大きな凹凸の発生と、凹凸補正浚渫のための多大な時間の浪費と、補正浚渫による大量な過掘土砂の発生を防止することが可能であり、その防止効果は工事コストの縮減、かつ、浚渫土砂処分場の延命化による新規処分場確保費用等、公共投資の縮減に寄与する。
【0016】
また、施工精度を要求される港湾構造物の基礎床掘りや水深の絶対確保が条件である航路浚渫では、水平掘りバケットを目標標高まで懸吊降下し支持ロープをロックした後、開閉ロープで下部フレームを巻き上げることで、目標標高に正確に水平に高精度で基礎床掘りや航路浚渫を施工することが可能であり、港湾施設等の長寿命化と長寿命効果によるライフサイクルコストの縮減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の水平掘りバケットのシェルを開いた状態を示す正面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1のシェルを閉じた状態を示す正面図である。
【図4】図1のシェルを傾斜に跳ね上げた状態を示す正面図である。
【図5】図1のシェルの水平移動による掘削動作行程を示す模式図である。
【図6】従来のグラブバケットを示す正面図である。
【図7】従来のグラブバケットの浚渫軌跡を示す模式図である。
【符号の説明】
【0018】
1 水平掘りバケット
2 支持ロープ(水平掘りバケット用) 3 支持ロープ(従来のグラブバケット用)
4 開閉ロープ(水平掘りバケット用) 5
開閉ロープ(従来のグラブバケット用)
6 上部フレーム
7 下部フレーム(水平掘りバケット用) 8
下部フレーム(従来のグラブバケット用)
9 レールケース
10 ロッドフレーム
11 開閉アーム
12 シェル(水平掘りバケット用) 13
シェル(従来のグラブバケット用)
14 ロッドフレーム上部連結軸
15 ロッドフレーム下部連結軸
16 開閉アーム上部支軸
17 開閉 アーム下部支軸
18 下部フレームガイド装置
19 下部フレームガイド取付け軸
20 シェル滑走装置
21 ショートウイング
22 グリースニップル
23
従来のグラブバケット主軸
24
従来のグラブバケット下部ロッド軸
【発明を実施するための形態】
【0019】
図に示す本発明の水平掘りバケットについて、以下に実施の形態を具体的に説明する。
【0020】
図1、図2に示す水平掘りバケット1は、上部フレーム6と、下部フレーム7と、レールケース9と、シェル12と、それらを連結または軸支する左右一対のロッドフレーム10及び、開閉アーム11と、下部フレームガイド装置18等から構成されている。
【0021】
上部フレーム6のロッドフレーム上部連結軸14を介して連結された左右一対のロッドフレーム10の下端は、ロッドフレーム下部連結軸15を介してレールケース9に連結しフレーム本体部を形成する。シェル12上部に設けたシェル滑走装置20をレールケース9に内挿し、下部フレーム7の開閉アーム上部支軸16を介して軸支された左右一対の開閉アーム11の下端は、左右一対のシェル12に設けた開閉アーム下部支軸17を介してシェル12に交差に軸支する。
【0022】
水平掘りバケット1は支持ロープ2で懸吊され、上部フレーム6に設けたガイドローラーを介して下部フレーム7のシーブに掛け回した開閉ロープ4を巻き上げ巻き下げすることで、下部フレーム7が昇降動作をする。下部フレーム7の昇降動作により、下部フレーム7と左右一対の開閉アーム11で軸支された左右一対のシェル12がレールケース9を介し、水平に開閉動作をすることで水平な掘削を行う。
【0023】
開閉アーム上部支軸16と開閉アーム下部支軸17の8箇所にグリースニップル22を設けてグリースを注入し、軸運動摩擦を抑止して下部フレーム7の昇降運動をシェル12の水平運動に円滑に変換伝動する。
【0024】
下部フレームガイド装置18は水平掘りバケット1の中心縦軸に設け、下部フレーム7をレールケースに対して垂直に昇降誘導を行い左右一対の開閉アーム11への圧力の偏倚を防止し、シェル12の水平移動動作をより円滑にする。
【0025】
レールケース9の両端にショートウイング21を設け、シェル12を傾斜に跳ね上げ開口部を鈍角に保持しシェル内浚渫土砂を投棄する滑落機能を促進する。ショートウイング21の端部にストッパーを設け、シェル12の過剰開口抑制とレールケース9内からの落脱を防止する。
【0026】
下部フレーム7の降下停止を適切な位置で行い、シェル12の開口幅を変位してシェル12を支持ロープで目標標高に着底し開閉ロープを巻き上げることで、床堀浚渫の施工幅及び土砂の掴み厚さを調整できる。
【0027】
シェル12の刃先を爪形にすることで、硬土(ここでの硬土とは、日本統一分類法による工学的土質分類に基づく一軸圧縮強度が30以上50ニュートン/ミリヘイホウメートル未満の土をいう。)床堀浚渫の作業効率が向上できる。
【0028】
シェル12の密接部に密着用パッキンを設け更に空気抜き出し機能を付加することで、密閉バケットとしてダイオキシン等の汚染土壌の水平な掘削に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持ロープで懸吊される上部フレームとシェルの水平移動のために設けたレールケースを、左右一対のロッドフレームで連結しさらに、下部フレームと左右一対のシェルを左右一対の開閉アームで交差に軸支して、上部フレームに設けたガイドローラーを介して下部フレームのシーブに掛け回した開閉ロープを巻き上げ巻き下げすることで下部フレームが昇降動作を行い、同時に下部フレームと開閉アームで交差に軸支された左右一対のシェルがレールケースを介し水平に開閉動作をすることにより、水平な掘削を行うことを特徴とする発明の詳細な説明に記載の水平掘りバケット。
【請求項2】
左右一対のシェル上部に滑走装置を設けてレールケースに内挿し、シェルの円滑な滑走手段としていること、左右一対の開閉アーム支軸の8箇所にグリース注入用のグリースニップルを設け、軸運動摩擦を抑止して円滑な運動変換と伝動促進手段としていること、左右一対の開閉アームへの圧力の偏倚防止のために、上部フレームとレールケース間のバケット中心縦軸に下部フレームガイド装置を設け下部フレームの垂直な昇降誘導手段としていることを特徴とする、請求項1に記載の水平掘りバケット。
【請求項3】
シェル内の浚渫土砂を投棄する滑落機能を促進するために、レールケースの両端にシェルを傾斜に跳ね上げ開口部を鈍角に保持するショートウイングを左右一対に設けていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の水平掘りバケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−121673(P2012−121673A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273650(P2010−273650)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【特許番号】特許第4837788号(P4837788)
【特許公報発行日】平成23年12月14日(2011.12.14)
【出願人】(510158576)株式会社坂口工業 (2)
【Fターム(参考)】