説明

水性エマルション塗料

【課題】 煙草のヤニ、マジックインク、木質アクなどの水溶性の汚染物質が付着した被塗装面を塗装するのにより適した水性エマルション塗料を提供する。
【解決手段】 被塗装面に付着している汚染物質の吸着剤として含窒素高分子化合物を含有する水性エマルション塗料。前記含窒素高分子化合物は、ポリアミド化合物、ポリアミン化合物、環状アミド骨格を有する重合体、及び、オキサゾリン骨格を有する重合体のうちいずれか一種以上である、水性エマルション塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性エマルション塗料、特に煙草のヤニ、マジックインク、木質アクなどで汚染された被塗装面を塗装するのに適した水性エマルション塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の室内における壁面や天井等の塗装には、居住環境衛生、塗装作業環境衛生、消防安全等の観点から、近年では、水性エマルション塗料が多く用いられるようになってきている。
【0003】
水性エマルション塗料は有機溶剤の含有量が少ないために、環境や人体にとって優しい塗料である。しかし、水性エマルション塗料は、被塗装面に付着している煙草のヤニ、マジックインク、シミ等の水溶性の汚染物質を溶かし出してしまうために、水溶性の汚染物質が塗装表面側に移行して、塗装後の美観が損なわれるという問題がある(いわゆるブリージングと呼ばれる現象である)。
そこで、従来、ブリージングの防止方法としては、カチオン性の水性シミ止めシーラーを下塗り塗料として塗装する方法が提案されている(例えば特許文献1を参照)。この方法を用いた場合、カチオン性のシミ止めシーラーが煙草のヤニ等と反応するので、これらの汚染物質が塗装表面側に移行するのを防止することができる。また、これ以外のブリージングの防止方法としては、上塗塗料中に汚染物質吸着能を有する顔料を配合する方法などが提案されている(例えば特許文献2を参照)。
【0004】
【特許文献1】特公昭63−35184号公報
【特許文献2】特開平10−53728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カチオン性の水性シミ止めシーラーを用いる方法では、その後に塗装する上塗り用の水性エマルション塗料のほとんどがアニオン性であるために、下塗り塗料と上塗り塗料が接触したときに凝集が発生するという問題点が指摘されている。この場合、下塗り塗料と上塗り塗料の塗装工具の共有ができないので作業効率が悪くなる。
また、上塗り塗料中に汚染物質吸着能を有する顔料を配合する方法では、十分なシミ止め効果を得るために相当量の顔料を配合することが必要であったり、あるいは、顔料の種類によっては塗料がゲル化するなどの問題点が指摘されている。
【0006】
そこで本発明は、煙草のヤニ、マジックインク、木質アクなどの水溶性の汚染物質が付着した被塗装面を塗装するのにより適した水性エマルション塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段は、以下の(1)〜(3)の発明である。
(1)被塗装面に付着している汚染物質の吸着剤として含窒素高分子化合物を含有する水性エマルション塗料。
(2)前記含窒素高分子化合物は、ポリアミド化合物、ポリアミン化合物、環状アミド骨格を有する重合体、及び、オキサゾリン骨格を有する重合体のうちいずれか一種以上である、上記(1)に記載の水性エマルション塗料。
(3)塗料全体を100重量部としたときの前記含窒素高分子化合物の含有量が0.1重量部以上である、上記(1)または(2)に記載の水性エマルション塗料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、煙草のヤニ、マジックインク、木質アクなどの水溶性の汚染物質が付着した被塗装面を塗装するのにより適した水性エマルション塗料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明者らは、含窒素高分子化合物が被塗装面に付着している水溶性の汚染物質を効果的に捕捉することを見出して、本発明を完成した。すなわち、本発明に係る水性エマルション塗料は、含窒素高分子化合物を汚染物質の吸着剤として含有する水性エマルション塗料である。
【0010】
〔合成樹脂エマルションについて〕
本発明に係る水性エマルション塗料では、水を分散媒体とする乳化重合によって得られる合成樹脂エマルションをビヒクルとして使用する。
ここで、本発明の水性エマルション塗料に使用することのできる合成樹脂エマルションとしては、アクリル系エマルション、スチレン/アクリル酸共重合エマルション、シリコーン樹脂複合アクリルエマルション、エポキシ樹脂複合アクリルエマルション、ウレタン樹脂複合アクリルエマルション、フッ素樹脂複合アクリルエマルション、酢酸ビニルエマルション、酢酸ビニル/アクリル共重合体エマルション、酢酸ビニル/エチレン共重合体エマルション、などをその例として挙げることができる。また、これらのうち2種以上を組み合わせて使用することも可能である。合成樹脂エマルションのイオン性については、特に制限するものではなく、例えば、アニオン系、カチオン系、あるいはノニオン系の合成樹脂エマルションを使用することができる。更に、自己架橋型や非自己架橋型の合成樹脂エマルションを使用することができる。これ以外にも、塗料の分野で一般的に使用されている合成樹脂エマルションを使用することが可能である。
【0011】
〔含窒素高分子化合物について〕
本発明に係る水性エマルション塗料は、被塗装面に付着している煙草のヤニ、木質アク、マジックインク、シミ、などの汚染物質を捕捉するための吸着剤として含窒素高分子化合物を含有している。なお、ここでいう「吸着剤」とは、被塗装面に付着している汚染物質と何らかの化学的作用あるいは物理的作用を生じる物質のことであり、汚染物質の塗装表面側への移行を引き留めておくあるいは阻止するための物質のことである。また、ここでいう「含窒素高分子化合物」とは、その構成単位の分子中に少なくとも1つの窒素原子(N)が含まれている高分子化合物のことである。
【0012】
含窒素高分子化合物の具体例としては、ポリアミド化合物、ポリアミン化合物、環状アミド骨格を有する重合体、及び、オキサゾリン骨格を有する重合体、などを挙げることができる。
【0013】
前記ポリアミド化合物とは、ポリマー主鎖中にアミド結合(−NH−CO−)を有する重合体のことである。ポリアミド化合物は、汚染物質の吸着剤としての機能を発揮しうる範囲であれば、任意の重合度、分子量において使用することが可能である。ポリアミド化合物としては、例えば、商品名「アデカハードナー EH−203」(旭電化工業(株)製)等を使用することができる。
【0014】
前記ポリアミン化合物とは、アミノ基を有するモノマーを重合して得られる化合物のことである。ポリアミン化合物は、汚染物質の吸着剤としての機能を発揮しうる範囲であれば、任意の重合度、分子量において使用することが可能である。ポリアミン化合物としては、例えば、商品名「アデカハードナー EH−4163X」(旭電化工業(株)製)等を使用することができる。
【0015】
前記環状アミド骨格を有する重合体とは、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム等の環状アミド骨格を有するモノマーを重合して得られる化合物のことである。重合反応に用いられる部位は特に制限するものではなく、例えば、ビニル基、アクリル基、メチル(メタ)アクリル基、酢酸ビニル基等、種々の官能基を適用することが可能である。さらに、ホモポリマーに限定されずに、環状アミド骨格を有するモノマーと、例えばアクリル等の他のモノマー種とを共重合したヘテロポリマーを使用することも可能である。環状アミド骨格を有する重合体は、汚染物質の吸着剤としての機能を発揮しうる範囲であれば、任意の重合度、分子量において使用することが可能である。環状アミド骨格を有する重合体としては、例えば、商品名「PVP K−120」(アイエスピー・ジャパン(株)製)等を使用することができる。
【0016】
前記オキサゾリン骨格を有する重合体とは、オキサゾリン骨格を有するモノマーを重合して得られる化合物のことである。重合反応に用いられる部位は特に制限するものではなく、例えば、ビニル基、アクリル基、メチル(メタ)アクリル基、酢酸ビニル基等、種々の官能基を適用することが可能である。さらに、ホモポリマーに限定されずに、オキサゾリン骨格を有するモノマーと、例えばアクリル等の他のモノマー種とを共重合したヘテロポリマーを使用することも可能である。オキサゾリン骨格を有する重合体は、汚染物質の吸着剤としての機能を発揮しうる範囲であれば、任意の重合度、分子量において使用することが可能である。オキサゾリン骨格を有する重合体としては、例えば、商品名「エポクロスWS−500(登録商標)」((株)日本触媒製)等を使用することができる。
【0017】
本発明の水性エマルション塗料における含窒素高分子化合物の配合量(固形分換算)は、水性エマルション塗料100重量部(塗料全体100重量部)に対して、0.1重量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.5重量部以上2.0重量部以下である。含窒素高分子化合物の配合量が0.1重量部未満の場合には、汚染物質に対する吸着能を十分に発揮することができないので、ブリージングを十分に防止することができない。含窒素高分子化合物の配合量が2.0重量部を超える場合には、水性エマルション塗料の粘度が高くなり、塗装用途に適さなくなる。
【0018】
本発明の水性エマルション塗料には、上述した含窒素高分子化合物以外の成分、例えば、着色顔料や体質顔料などを配合してもよい。また、塗料の機能改善を目的として、各種の添加剤等を配合することも可能である。
前記着色顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等をその例として挙げることができる。これ以外にも、無機系、有機系を問わず、他の種類の着色顔料を配合することも可能である。
前記体質顔料としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、タルク、クレー、珪藻土、マイカ等をその例として挙げることができる。これ以外の他の体質顔料を配合することも可能である。
前記添加剤としては、溶剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、造膜助剤、防カビ剤、防腐剤、防藻剤、抗菌剤、凍結防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等をその例として挙げることができる。これ以外にも、塗料の分野において一般的に使用される添加剤であれば、他の添加剤を加えることも可能である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明をさらに具体化した実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0020】
〔顔料ペーストの調製〕
以下の表1〜表4に示す成分を攪拌装置により十分に撹拌して、顔料ペーストA〜Dを調整した。表1〜表4において、アニオン系分散剤には、商品名「ポイズ530」(花王(株)製)を使用した。消泡剤には、商品名「SNデフォーマー308」(サンノプコ(株)製)を使用した。酸化チタンには、商品名「タイペークR−630(登録商標)」(石原産業(株)製)を使用した。炭酸カルシウムには、商品名「NS#100」(日東紛化工業(株)製)を使用した。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
〔水性エマルション塗料の調整〕
つぎに、上記で調整した顔料ペーストA〜Dをそれぞれ69.5重量部と、合成樹脂エマルション22.6重量部と、消泡剤0.9重量部と、増粘剤0.3重量部と、純水5.2重量部と、造膜助剤1.5重量部とを混合した後、60分間撹拌して水性エマルション塗料A〜D(合計100重量部)を調整した(つまり、水性エマルション塗料A〜Dには、顔料ペーストA〜Dがそれぞれ69.5重量部ずつ配合されているということである)。なお、合成樹脂エマルションとしては、スチレン/アクリル酸エステル共重合体エマルション(商品名「ペガール812」、高圧ガス工業(株)製)を使用した。消泡剤としては、商品名「SNデフォーマー308」(サンノプコ(株)製)を使用した。増粘剤としては、商品名「HEC AG−15F」(住友精化(株)製)を使用した。造膜助剤としては、商品名「Texanol」(Eastman Chemical製)を使用した。
【0026】
また、比較例として、含窒素高分子化合物を添加していない水性エマルジョン塗料Eを準備した。
【0027】
[顔料ペーストEの調製]
表5に示す成分を攪拌装置により十分に攪拌して、顔料ペーストEを調製した。アニオン系分散剤には、商品名「ポイズ530」(花王(株)製)を使用した。消泡剤には、商品名「SNデフォーマー308」(サンノプコ(株)製)を使用した。酸化チタンには、商品名「タイペークR−630(登録商標)」(石原産業(株))を使用した。炭酸カルシウムには、商品名「NS#100」(日東粉化工業(株)製)を使用した。
【0028】
【表5】

【0029】
[水性エマルション塗料の調製]
次に、上記で調製した顔料ペーストEを69.5重量部と、合成樹脂エマルション22.6重量部と、消泡剤0.9重量部と、増粘剤0.5重量部と、純水5.0重量部と、造膜助剤1.5重量部とを混合した後、60分間攪拌して水性エマルション塗料E(合計100重量部)を調製した。なお、合成樹脂エマルションとしては、スチレン/アクリル酸エステル共重合体エマルション(商品名「ペガール812」、高圧ガス工業(株)製)を使用した。消泡剤としては、商品名「SNデフォーマー308」(サンノプコ(株)製)を使用した。増粘剤としては、商品名「HEC AG−15F」(住友精化(株)製)を使用した。造膜助剤としては、商品名「Texanol」(Eastman Chemical製)を使用した。
【0030】
〔ブリージング防止効果評価試験〕
水性エマルション塗料A〜Eについてブリージング防止効果の評価試験を行った。
まず、汚染物質として、煙草のヤニ抽出液、3.3%リグニンスルホン酸ナトリウム水溶液、水性マーキングペン(赤及び黒)の合計4種類を準備した。
煙草のヤニ抽出液は、24本分の乾燥した煙草の葉に50%エタノール水溶液を300cc加えて、室温で一昼夜静置して得られた濾液を用いた。リグニンスルホン酸ナトリウムは、木質アクの主成分であるリグニンをスルホン化し、水に対する溶解性を高めたものである。
【0031】
4mm×210mm×300mmのサンプルボードの表面に上記4種類の汚染物質をそれぞれ直線状に適量塗布した後に室温で乾燥させることによって、ブリージング防止効果を評価するための試験板を作成した。
得られた試験板に対して水性エマルション塗料A〜Eを、湿潤時の膜厚が500ミクロンとなるように塗装した。塗料が乾燥した後のブリードの状態を、実験者の目視にて評価した。試験結果を表6に示す。
【0032】
【表6】

【0033】
上記表6において、○、△、×の各記号の意味は、次の通りである。
○:汚染物質のブリードが殆ど認められない。
△:汚染物質のブリードが相当認められる。
×:汚染物質のブリードが全面に認められる。変色が著しい。
【0034】
表6に示す結果を見ればわかるように、含窒素高分子化合物が配合されている水性エマルション塗料(A〜D)は、何も配合されていない市販品の水性エマルション塗料(E)と比較すると、汚染物質のブリード防止効果が著しく高いことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装面に付着している汚染物質の吸着剤として含窒素高分子化合物を含有する水性エマルション塗料。
【請求項2】
前記含窒素高分子化合物は、ポリアミド化合物、ポリアミン化合物、環状アミド骨格を有する重合体、及び、オキサゾリン骨格を有する重合体のうちいずれか一種以上である、請求項1に記載の水性エマルション塗料。
【請求項3】
塗料全体を100重量部としたときの前記含窒素高分子化合物の含有量が0.1重量部以上である、請求項1または請求項2に記載の水性エマルション塗料。


【公開番号】特開2007−145981(P2007−145981A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341955(P2005−341955)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000251277)スズカファイン株式会社 (7)
【Fターム(参考)】