説明

水性ボールペン

【課題】直詰式形態の筆記具インキに着色剤として調整剤を含む染料を用いた場合であっても、接触する界面から調整剤が液状インキ逆流防止体に滲入することがなく、外観を損なうことを抑制できる水性ボールペンを提供する。
【解決手段】インキ収容管に染料と水とを含有する水性インキ組成物を内蔵すると共に、前記インキの消費に伴って追従する液状インキ逆流防止体をインキ後端に密接配置してなる水性ボールペンであって、前記インキ中に、H酸誘導体と、下記一般式(1)で示すチアジアゾール類が含有される水性インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性ボールペンに関する。更には、水性インキ組成物と該インキの消費に伴って追従する液状インキ逆流防止体を内蔵する水性ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着色剤としてインクジェットインキや筆記具インキに染料を適用する際、染料の物性を安定することや、色相を調整することを目的として、染料の主骨格と類似の化合物や染料合成時の副生成物等を調整剤として用いる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記調整剤を用いた染料を筆記具インキに適用した場合、インキ吸蔵体を用いた中詰式筆記具や、ペン芯や弁機構等を用いた直液式筆記具においては、インキ安定性に優れた有用なインキを形成できるが、インキ収容管に収容したインキの後端に液状のインキ逆流防止体(液栓)を密接配置する直詰式筆記具(液栓式筆記具)に適用した際、経時により前記調整剤がインキ界面から液栓に滲入していき、液栓を着色することがある。特に、調整剤としてH酸の誘導体を用いた場合には前記現象が顕著に生じ、外観を損なうものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−97491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記直詰式形態の筆記具インキに、着色剤として調整剤を含む染料を用いた場合であっても、接触する界面から調整剤が液状インキ逆流防止体に滲入することがなく、外観を損なうことを抑制できる水性ボールペンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、インキ収容管に染料と水とを含有する水性インキ組成物を内蔵すると共に、前記インキの消費に伴って追従する液状インキ逆流防止体をインキ後端に密接配置してなる水性ボールペンであって、前記インキ中に、H酸誘導体と、下記一般式(1)で示すチアジアゾール類が含有されることを要件とする。
【化1】

〔式中RはCH、NH、SMのいずれかの置換基を表し、Mは水素、アルカリ金属、アンモニウム、アルカノールアミン、シクロヘキシルアミン、シクロヘキシルアルカノールアミンのいずれかを表す。〕
更に、前記染料がナフタレン骨格を有すること、前記染料が1以上のアゾ基を有するアゾ染料であること、前記H酸誘導体が1以上のアゾ基を有すること、前記チアジアゾール類をインキ組成物中0.1〜15重量%含んでなることを要件とする。
更に、前記液状インキ逆流防止体が、基油としてポリブテンを用いてなること、前記インキ収容管が透明樹脂の成形物であることを要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、染料調整剤としてH酸誘導体を含む水性インキを用いた場合であっても、インキ後端と接触する界面から、前記調整剤が液状インキ逆流防止体に滲入することを抑制でき、不本意な着色によって外観を損なうことがない水性ボールペンとなる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水性ボールペンは、水性染料インキの後端に接触状態で液状インキ逆流防止体を充填する構成のボールペンにおいて、インキ中にH酸誘導体が含まれる場合であっても、特定構造のチアジアゾール類を用いることで、経時によって前記H酸誘導体が液状インキ逆流防止体に滲入することを抑制し、ボールペン(液栓部)の外観汚損を防止するものである。
【0009】
前記ボールペンの筆記先端部となるボールペンチップの構造は、従来汎用の機構が有効であり、例えば、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属製のパイプや金属材料の切削加工により形成したチップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を適用できる。
また、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂等からなるものが適用でき、直径0.10mm〜2.0mmの範囲のものが用いられる。
【0010】
前記筆記先端部が直接又は接続部材を介して連結されるインキ収容管は、水性インキ組成物を直接収容することが可能な形態であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂からなる成形体が、インキの低蒸発性、生産性の面で好適に用いられるが、金属加工体を用いることも可能である。更に、前記樹脂製のインキ収容管は透明、着色透明、或いは半透明の成形体を用いることにより、インキ色やインキ残量等を確認できる。この場合、インキ逆流防止体が内蔵される部分も外側から視認できるため、本発明の構成が有効なものとなる。
尚、前記インキ収容管はそれ自体を把持用外装(軸筒)として使用する他、ボールペン用レフィルの形態として、該レフィルを別部材からなる軸筒内に収容するものでもよい。
【0011】
前記インキ収容管を用いたボールペンは、キャップ式、出没式のいずれの形態であっても適用できる。出没式ボールペンとしては、ボールペンレフィルに設けられた筆記先端部が外気に晒された状態で軸筒内に収納されており、出没機構の作動によって軸筒開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。
出没機構の操作方法としては、例えば、ノック式、回転式、スライド式等が挙げられる。
前記ノック式は、軸筒後端部や軸筒側面にノック部を有し、該ノック部の押圧により、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成、或いは、軸筒に設けたクリップ部を押圧することにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記回転式は、軸筒後部に回転部を有し、該回転部を回すことによりボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記スライド式は、軸筒側面にスライド部を有し、該スライドを操作することによりボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成、或いは、軸筒に設けたクリップ部をスライドさせることにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記出没式ボールペンは外軸内に複数のボールペンレフィルを収容してなる複合タイプの出没式ボールペンであってもよい。
【0012】
前記ボールペンに内蔵される水性インキ組成物には、染料、染料調整剤であるH酸誘導体、一般式(1)で示すチアジアゾール類が含有される。
前記H酸誘導体は、染料の物性安定化や色相調整を目的として用いられる染料調整剤である。特に、主骨格が類似である染料の調整剤として高い効果を発現するため、ナフタレン骨格を有する染料を用いた場合に高い効果を発現する。
また、1以上のアゾ基を有するものは、筆記具用着色剤として広く適用されるアゾ染料との骨格がより類似するため、当該分野でより高い効果を呈する。
【0013】
前記H酸誘導体としては、インキに適用する染料に応じて、H酸に種々の置換基を設けたものが適用でき、例えば、H酸(1−ヒドロキシ−8−アミノ−3,6−ナフタレンジスルホン酸)の2位又は7位の一方に、下記式(2)のジアゾ基が置換され、他方に下記式(2)〜(4)から選ばれるジアゾ基のいずれかが置換される化合物が例示できる。これらの置換基がH酸に備わることで調整剤としての効果が高くなる反面、水溶性が低くなり、液栓に移行し易くなるため、本発明の構成がより有効なものとなる。
【化2】

【0014】
前記チアジアゾール類は、H酸誘導体を含有する液栓式水性染料インキにおいて、経時に伴って、インキと液栓の界面部からH酸誘導体が液栓内に移行して拡散することで液栓が着色されることを防止するものである。前記効果は、チアジアゾール類がインキと液栓の界面部に被膜を形成することで、インキ中に溶解するH酸誘導体が液栓側に移行することを抑制するために発現されると推察される。
前記一般式(1)で示されるチアジアゾール類として、具体的には、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メチル−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−アミノ−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾールや、更に、これらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、シクロヘキシルアルカノールアミン塩等が例示できる。
前記チアジアゾール類は、インキ組成中0.1〜15重量%、好ましくは0.3〜5重量%添加することができる。
0.1重量%以下では液栓側への移行を抑止する効果を得ることは困難であり、また、15重量%を越えて配合しても更なる効果は得られないので、これ以上の添加を要しない。
【0015】
前記染料としては、水性媒体に溶解もしくは分散可能なものがすべて使用可能であり、酸性染料、塩基性染料、直接染料等を使用することができる。
酸性染料としては、ニューコクシン(C.I.16255)、タートラジン(C.I.19140)、アシッドブルーブラック10B(C.I.20470)、ギニアグリーン(C.I.42085)、ブリリアントブルーFCF(C.I.42090)、アシッドバイオレット6B(C.I.42640)、ソルブルブルー(C.I.42755)、ナフタレングリーン(C.I.44025)、エオシン(C.I.45380)、フロキシン(C.I.45410)、エリスロシン(C.I.45430)、ニグロシン(C.I.50420)、アシッドフラビン(C.I.56205)等が用いられる。
【0016】
塩基性染料としては、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、ローダミンB(C.I.45170)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、メチレンブルーB(C.I.52015)等が用いられる。
【0017】
直接染料としては、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)、フタロシアニンブルー(C.I.74180)等が用いられる。
【0018】
特に、染料調整剤としてH酸誘導体が有効に作用することから、前記染料としてナフタレン骨格を有する染料を適用することが好ましい。
また、前記ナフタレン骨格を有する染料のうち、1以上のアゾ基を有するアゾ染料は、他の染料に比べて耐水性が高いため、筆記具に適用する水性インキには特に有用なものとなる。具体的なアゾ染料として、Direct Black 19、同38、Direct Green 1、同6、同8、同59、Direct Blue 2、同6、同15、Direct Red 79、Acid Black 1、同94、Acid Red 1、同35、同106、同155、同249、同265、Acid Blue 29、Acid Violet 7、Acid Green 19、同20等が挙げられる。
【0019】
更に、着色剤として汎用の顔料を併用することができる。
前記顔料としては、カーボンブラック、群青などの無機顔料や銅フタロシアニンブルー、ベンジジンイエロー等の有機顔料の他、予め界面活性剤等を用いて微細に安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品等が用いられ、例えば、C.I.Pigment Blue 15:3B〔品名:S.S.Blue GLL、顔料分22%、山陽色素株式会社製〕、C.I.Pigment Red 146〔品名:S.S.Pink FBL、顔料分21.5%、山陽色素株式会社製〕、C.I.Pigment Yellow 81〔品名:TC Yellow FG、顔料分約30%、大日精化工業株式会社製〕、C.I.Pigment Red220/166〔品名:TC Red FG、顔料分約35%、大日精化工業株式会社製〕等を挙げることができる。
蛍光顔料としては、各種蛍光性染料を樹脂マトリックス中に固溶体化した合成樹脂微細粒子状の蛍光顔料が使用できる。
その他、パール顔料、金色、銀色のメタリック顔料、蓄光性顔料、修正ペン等に用いられる二酸化チタン等の白色顔料、アルミニウム等の金属粉、更には熱変色性組成物、光変色性組成物、香料等を直接又はマイクロカプセル化したカプセル顔料等を例示できる。
【0020】
前記熱変色性組成物としては、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物が好適であり、マイクロカプセルに内包させて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料として適用される。
前記可逆熱変色性組成物としては、特公昭51−44706号公報、特公昭51−44707号公報、特公平1−29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1〜7℃)を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料が適用できる。
【0021】
更に、特公平4−17154号公報、特開平7−179777号公報、特開平7−33997号公報、特開平8−39936号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔH=8〜50℃)を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度以上の高温域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料も適用できる。
尚、前記色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち−50〜0℃、好ましくは−40〜−5℃、より好ましくは−30〜−10℃、且つ、完全消色温度を摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度、即ち50〜95℃、好ましくは50〜90℃、より好ましくは60〜80℃の範囲に特定し、ΔH値を40〜100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0022】
前記染料を含む着色剤は、一種又は二種以上を適宜混合して使用することができ、インキ組成中1乃至30重量%、好ましくは2乃至25重量%の範囲で用いられる。
【0023】
また、前記インキ中には必要に応じて水溶性有機溶剤を添加することができ、水に相溶性のある従来汎用のものが用いられる。
前記水溶性有機溶剤としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブタンジオール、ネオプレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
尚、前記水溶性有機溶剤は一種又は二種以上を併用することもでき、インキ組成物中2〜60重量%、好ましくは5〜35重量%の範囲で用いられる。
【0024】
更に、潤滑剤を添加してボール受け座の摩耗防止効果を付与することができる。
前記潤滑剤としては、オレイン酸等の高級脂肪酸、長鎖アルキル基を有するノニオン性界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、チオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルメチルエステル)やチオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルエチルエステル)等のチオ亜燐酸トリエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、或いは、それらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩等が挙げられる。
【0025】
また、前記インキ中に剪断減粘性付与剤を添加することによって、インキを充填するボールペンの不使用時にボールとチップの間隙からのインキ漏れだしを防止したり、筆記先端部を上向き(正立状態)で放置した場合のインキの逆流を防止したり、顔料の凝集、沈降を防止することができる。
尚、前記剪断減粘性付与剤を添加したインキ組成物の粘度は、20℃でのEM型回転粘度計100rpmにおけるインキ粘度が25〜160mPa・sを示し、且つ、剪断減粘指数が0.1〜0.7を示すことが好ましい。
尚、剪断減粘指数(n)は、剪断応力値(T)及び剪断速度値(j)の如き粘度計による流動学測定から得られる実験式T=Kj(Kは非ニュートン粘性係数)にあてはめることによって計算される値である。
前記剪断減粘性付与剤としては、キサンタンガム、ウェランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100乃至800万)、アルカガム、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万〜15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する増粘多糖類(カラギーナン等)、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、無機質微粒子、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸アミド等のHLB値が8〜12のノニオン系界面活性剤、ジアルキル又はジアルケニルスルホコハク酸の塩類、N−アルキル−2−ピロリドンとアニオン系界面活性剤の混合物、ポリビニルアルコールとアクリル系樹脂の混合物を例示できる。
特に、少量の添加で所望の条件を発現することからサクシノグリカンやカラギーナンが有効である。
【0026】
その他、必要に応じてpH調整剤、防腐剤或いは防黴剤を添加することができる。
前記pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、トリエタノールアミンやジエタノールアミン等の水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物、乳酸、クエン酸等が挙げられる。
前記防腐剤或いは防黴剤としては、石炭酸、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン等が挙げられる。
更には、溶剤の浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン、アニオン、カチオン系界面活性剤、ジメチルポリシロキサン等の消泡剤を添加することもできる。
【0027】
また、耐乾燥性を妨げない範疇でアルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等の水溶性樹脂を一種又は二種以上添加したり、尿素、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤を一種又は二種以上添加することもできる。
【0028】
前記インキ収容管に収容したインキ組成物の後端には、液状インキ逆流防止体(液栓)が充填される。
前記インキ逆流防止体組成物としては不揮発性液体又は難揮発性液体からなり、具体的には、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α−オレフィン、α−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等が挙げられ、一種又は二種以上を併用することができる。
特に、ポリブテンはH酸誘導体が滲入し易いため、本発明の構成がより有用なものとなる。
【0029】
前記不揮発性液体及び/又は難揮発性液体(基油)には、ゲル化剤を添加して好適な粘度まで増粘させることが好ましく、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、セルロース系化合物を例示できる。
更に、前記液状のインキ逆流防止体組成物とともに、固体のインキ逆流防止体を併用することもできる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に実施例及び比較例のボールペン用水性インキの組成を示す。表中の組成の数値は重量部を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表中の原料の内容について注番号に沿って説明する。
(1)Direct Black 19の水溶液(固形分20%)
(2)Direct Black 38の水溶液(固形分20%)
(3)Acid Blue 29の水溶液(固形分20%)
(4)H酸の2位及び7位に式(2)の置換基を有する誘導体
(5)H酸の2位に式(4)の置換基を有し、7位に式(2)の置換基を有する誘導体
(6)2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール
(7)2−メチル−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール
(8)三晶(株)製、商品名:レオザン
(9)第一工業製薬(株)製、商品名:プライサーフAL
(10)第一工業製薬(株)製、商品名:ハイテノールNF−13
(11)アーチケミカルズジャパン社製、商品名:プロキセルXL−2
【0033】
インキの調製
前記実施例及び比較例の配合量で、染料水溶液とH酸誘導体を混合溶解した後、他の原料を混合して20℃で1時間撹拌溶解し、濾過することにより水性インキ組成物を得た。
【0034】
液状インキ逆流防止体の調製
基油としてポリブテン98.5部中に、増粘剤として脂肪酸アマイド1.5部を添加した後、3本ロールにて混練して液状インキ逆流防止体を得た。
【0035】
水性ボールペンの作製
直径0.3mmの超硬合金製ボールを抱持するステンレススチール製チップがポリプロピレン製パイプ(外径5.4mm、内径3.8mm、全長100mm)の一端に嵌着されたボールペンレフィル内に、前記各インキ組成物1.0gを充填し、その後端に前記インキ逆流防止体0.1gを接触状態に配設した後、前記ボールペンレフィルを軸筒に組み込み、試料ボールペンを作製した。
【0036】
着色確認試験
前記試料ボールペンを20℃で6ヶ月及び12ヶ月間放置した際の液状インキ逆流防止体(インキとの界面部近傍)の状態を目視により観察した。
その結果を以下に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
尚、前記表中の判定基準は以下の通り。
○:初期と変わらない。
△:界面近傍に若干の着色が見られる。
×:全体に亘って着色が見られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ収容管に染料と水とを含有する水性インキ組成物を内蔵すると共に、前記インキの消費に伴って追従する液状インキ逆流防止体をインキ後端に密接配置してなる水性ボールペンであって、前記インキ中に、H酸誘導体と、下記一般式(1)で示すチアジアゾール類が含有される水性ボールペン。
【化1】

〔式中RはCH、NH、SMのいずれかの置換基を表し、Mは水素、アルカリ金属、アンモニウム、アルカノールアミン、シクロヘキシルアミン、シクロヘキシルアルカノールアミンのいずれかを表す。〕
【請求項2】
前記染料がナフタレン骨格を有する請求項1記載の水性ボールペン。
【請求項3】
前記染料が1以上のアゾ基を有するアゾ染料である請求項2記載の水性ボールペン。
【請求項4】
前記H酸誘導体が1以上のアゾ基を有する請求項1乃至3のいずれかに記載の水性ボールペン。
【請求項5】
前記チアジアゾール類をインキ組成物中0.1〜15重量%含んでなる請求項1乃至4のいずれかに記載の水性ボールペン。
【請求項6】
前記液状インキ逆流防止体が、基油としてポリブテンを用いてなる請求項1乃至5のいずれかに記載の水性ボールペン。
【請求項7】
前記インキ収容管が透明樹脂の成形物である請求項1乃至6のいずれかに記載の水性ボールペン。

【公開番号】特開2012−177041(P2012−177041A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41054(P2011−41054)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】