説明

水性ポリウレタン分散体及びその製造方法

【課題】 分散性に優れ、かつ、生産性(具体的には、反応制御が容易であり、得られるポリウレタン分散体も安定した品質で市場への供給が可能であること)にも優れ、かつ、強靱さと柔軟性といった両方の性能を併せ有する樹脂を供することが可能な、水性ポリウレタン分散体、及び、該分散体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを特定以上の比率で含有するジフェニルメタンジイソシアネートと脂肪族系ジイソシアネートを特定の比率の範囲内で用いることにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下「MDI」と略記。)と脂肪族系ジイソシアネートを有機ジイソシアネートとして併せ用いた水性ポリウレタン分散体、及び、該分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤を含有する塗料、接着剤及びコーティング剤は、人体への悪影響、爆発火災等の安全衛生上の問題や、また、大気汚染、水質汚濁等の公害問題を有する。これらの問題点を改善するため、近年水系システムの開発が活発に行われている。
【0003】
この水系システム用の樹脂としては、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ラテックス等様々な樹脂が用いられている。中でもポリウレタン樹脂は、耐久性、耐磨耗性等に優れているため、様々な使用用途で水系システムに応用する試みが広く行われている。例えば、特許文献1は水分散性ポリウレタン系塗料が開示され、特許文献2は水分散性ポリウレタン系接着剤が開示されている。これらは、水系ポリウレタン樹脂単独系であるが、各樹脂の特徴を組み合わせるため、アクリルエマルジョンとポリウレタンエマルジョン等、様々な樹脂の組み合わせた系も検討されている。
【0004】
しかし、特許文献1及び特許文献2記載の水系ポリウレタン樹脂は、基本的に接着性、密着性、耐アルカリ性等、全ての要求性能を満たすものではなく、このような樹脂の出現が望まれていた。
【0005】
これらを改良するものとして、特許文献3は、価格競争力があり、耐熱性・耐化学性、機械的強度等に優れた特定の芳香族ジイソシアネートと脂肪族ジイソシアネートを用いた水分散ウレタン−ウレアが示されている。しかしながら、特許文献3における芳香族ジイソシアネートでは、高すぎる反応性のため、製造方法やポリウレタン樹脂中に占める導入量が限定される。
【0006】
また、得られる樹脂のより高い機械的強度を得ることを目的に、芳香族ジイソシアネートとしてMDIのみを導入する方法が検討されている(例えば、特許文献4並びに特許文献5を参照)。しかし、芳香族ジイソシアネートとしてMDIを用いる場合、前記のとおり反応性が高すぎることから、極めて優れた製造(攪拌)設備が高度なものである必要である。また、製造(攪拌)設備が高度なものであるとしても、前記の反応性の高さから、分散体の製造が極めて困難である。
【0007】
さらに、近年、得られる樹脂について、強靱さと柔軟性といった両方の性能を併せ有することが要求される分野(用途)が出始めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−198361号公報
【特許文献2】特開平5−117358号公報
【特許文献3】特開2005−29793号公報
【特許文献4】特開昭62−109813号公報
【特許文献5】特開平1−168756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記のような背景を鑑み、MDIを有機ジイソシアネートとして用いた場合において、製造(攪拌)設備が極めて高度なものでなくても、通常の合成設備を用いても安定して分散性に優れた水性ポリウレタン分散体を得ること目的とする。
【0010】
本発明はまた、前記のような強靱さと柔軟性といった両方の性能を併せ有する樹脂を供することが可能な、水性ポリウレタン分散体を得ること目的とする。
【0011】
本発明はさらに、生産性(具体的には、反応制御が容易であり、得られるポリウレタン分散体も安定した品質で市場への供給が可能であること)に優れた、水性ポリウレタン分散体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
MDIは、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下「4,4′−MDI」と略記。)、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下「2,2′−MDI」と略記。)、並びに2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下「2,2′−MDI」と略記。)の3種類の異性体から構成される。本発明者らは、前記の一連の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、有機ジイソシアネートとして、2,4′−MDIを特定以上の比率で含有するMDIと脂肪族系ジイソシアネートとを特定の比率(質量比)で併せ用いることにより、前記の一連の課題を解決できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明は以下の(1)〜(3)に示されるものである。
【0014】
(1) 有機ジイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)、中和剤(D)、鎖延長剤(E)を反応させて得られるポリウレタン樹脂を水中に乳化させてなる水性ポリウレタン分散体において、有機ジイソシアネート(A)が、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを75質量%以上含有するジフェニルメタンジイソシアネート(A1)と、脂肪族系ジイソシアネート(A2)からなり、かつ、(A1)と(A2)の質量比が(A1)/(A2)=60/40〜90/10であることを特徴とする、水性ポリウレタン分散体。
(2) 脂肪族系ジイソシアネート(A2)が、ヘキサメチレンジイソシアネートであることを特徴とする、(1)に記載の水性ポリウレタン分散体。
(3) 有機ジイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基を含有する低分子グリコール(C)を反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーを、中和剤(D)にて中和してから水中に分散させた後、鎖延長剤(E)にて鎖延長反応を行うことを特徴とする、(1)または(2)のいずれかに記載の水性ポリウレタン分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、MDIを有機ジイソシアネートとして用いた場合において、製造(攪拌)設備が極めて高度なものでなくても分散性に優れた水性ポリウレタン分散体を得ることが可能となった。
【0016】
また、本発明により、前記のような強靱さと柔軟性といった両方の性能を併せ有する樹脂を得ることが可能な水性ポリウレタン分散体を供することも可能となった。
【0017】
さらに、本発明により、MDIを有機ジイソシアネートとして用いた場合でも、生産性(具体的には、反応制御が容易であり、得られるポリウレタン分散体も安定した品質で市場への供給が可能であること)に優れた水性ポリウレタン分散体の製造方法を提供することすることも可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
本発明の水性ポリウレタン分散体は、有機ジイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)、中和剤(D)、鎖延長剤(E)を反応させて得られるポリウレタン樹脂を水中に乳化させてなる水性ポリウレタン分散体において、前記の有機ジイソシアネート(A)として、2,4′−MDIを75質量%以上含有するMDI(A1)と、脂肪族系ジイソシアネート(A2)からなり、かつ、(A1)と(A2)を質量比が60/40〜90/10で併せ用いることを特徴としている。
【0020】
<有機ジイソシアネート(A)>
本発明の水性ポリウレタン分散体に用いられる有機ジイソシアネート(A)としては、前記のとおり、2,4′−MDIを75質量%以上含有するMDI(A1)と、脂肪族系ジイソシアネート(A2)とを、質量比で(A1)/(A2)=60/40〜90/10(好ましくは質量比で(A1)/(A2)=65/35〜85/15、中でも、得られる樹脂において極めて優れた強靭さと柔軟性の両方の性能として併せ有する樹脂が得られるとの観点から、とりわけ好ましくは、質量比で(A1)/(A2)=70/30〜80/20)の比率で併せ用いる。この比率を外れる場合、具体的には(A1)/(A2)=0/100〜59/41の場合、水性ポリウレタン分散体の製造時において水分散時に粘度が上昇して固化するといった不具合が生じる。また(A1)/(A2)=91/9〜100/0の場合も、優れた強靭さと柔軟性のいずれかまたは両方の性能を有さない樹脂が得られる(換言すれば、本発明の所望する性能を有する樹脂を得ることができない)といった不具合が生じる。
【0021】
<2,4′−MDIを75質量%以上含有するMDI(A1)>
MDIは、前記のとおり、4,4′−MDI、2,4′−MDI、並びに2,2′−MDIの3種類の異性体から構成される。本発明におけるこれらのMDIの異性体構成比は、得られる水性ポリウレタン分散体における優れた分散性を確保でき、また、生産性(具
体的には、反応制御が容易であり、得られるポリウレタン分散体も安定した品質で市場への供給が可能であること)にも優れるとの観点から、MDIを100質量%とした場合、2,4′−MDIの含有量が75質量%以上(好ましくは80質量%以上、とりわけ好ましくは、より安定した水性ポリウレタン分散体の分散性、並びに生産性を確実に併せ得られるとの観点から95.0質量%以上)である必要がある。なお、MDIの異性体構成比は、GPCやガスクロマトグラフィー(以下「GC」と略記。)によって得られる各ピークの面積百分率を基に検量線から求めることができる。
【0022】
<脂肪族系ジイソシアネート(A2)>
本発明に用いられる脂肪族系ジイソシアネート(A2)としては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、2−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。また、これらのポリメリック体、活性水素基含有化合物と反応させて得られるウレタン化物、ウレア化物、アロファネート化物、ビウレット化物、カルボジイミド化物、ウレトンイミン化物、ウレトジオン化物、イソシアヌレート化物等も挙げられる。さらに、これら一連の脂環族系ジイソシアネートの2種以上からなる混合物も挙げられる。
【0023】
本発明においては、本発明において所望される水性ポリウレタン分散体を得やすいとの観点から、脂肪族系ジイソシアネート(A2)としてヘキサメチレンジイソシアネート(以下「HDI」と略記。)を選択して用いるのが好ましい。
【0024】
本発明においては、本発明において所望される性能を満たすことを前提として、必要に応じて、有機ジイソシアネート成分(A)として、前記の2,4′−MDIを75質量%以上含有するMDI(A1)、並びに、脂肪族系ジイソシアネート(A2)以外のイソシアネート基含有成分を併用することが出来る。併用できるイソシアネート成分としては、例えば、2,4′−MDIを75質量%未満含有するMDI、MDI系縮合体(いわゆる二核体と称されるベンゼン環及びイソシアネート基を各2個有するMDIと、いわゆる多核体と称されるベンゼン環及びイソシアネート基を各3個以上有するMDI系多核縮合体を双方含有(この場合、MDIとMDI系多核縮合体の合計が100質量%)する有機ポリイソシアネート)、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシレン−1,4−ジイソシアネート、キシレン−1,3−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。また、これらのポリメリック体、活性水素基含有化合物と反応させて得られるウレタン化物、ウレア化物、アロファネート化物、ビウレット化物、カルボジイミド化物、ウレトンイミン化物、ウレトジオン化物、イソシアヌレート化物等も挙げられる。さらに、これら一連のイソシアネート基含有化合物の2種以上からなる混合物も挙げられる。
【0025】
<高分子ポリオール(B)>
本発明において使用される高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール或いはポリカーボネートポリオールなどが使用され、それらにはポリウレタン樹脂の原材料としての通常のものが用いられて、特に規定はされない。
【0026】
本発明において使用される高分子ポリオールとしては、数平均分子量が800〜6,000(より好ましくは数平均分子量が800〜2,500、とりわけ好ましくは、より安定した水性ポリウレタン分散体の分散性、並びに生産性を確実に併せ得られるとの観点から、数平均分子量が1,000〜2,000)のものが好ましく、代表的には、ポリプロピレンエチレンポリオール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTG)などが例示される。
【0027】
より具体的には、ポリエステルポリオールとしては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、その他の二塩基酸などと、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、或いはグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのポリオール類とからの重縮合反応により得られるポリエステルポリオールが使用される。さらに、ε−カプロラクトンなどの環状エステル、ジオールの一部をヘキサメチレンジアミンやイソホロンジアミンなどのアミン類に変更したポリエステルアミドポリオールなども使用し得る。
【0028】
ポリエーテルポリオールとしては、前記のジオール類、ポリオール類と、或いはこれらとエチレンジアミン、プロピレンジアミン、トルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミンなどのアミン類と共に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイド、メチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルなどのアルキル或いはアリールグリシジルエーテル、テトラヒドロフランなどの環状エーテルなどを付加重合することにより得られるポリエーテルポリオールが使用される。
【0029】
ポリカーボネートポリオールとしては、前記のジオール類、ポリオール類と、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどとの反応により得られるポリカーボネートポリオールが使用される。
【0030】
<カルボキシル基含有低分子グリコール(C)>
本発明において用いられるカルボキシル基含有低分子グリコール(C)としては、末端水酸基を二個有す脂肪酸が好適に使用される。当脂肪酸は末端水酸基を活性水素基として二個有し、例えば両末端の活性水素基がイソシアネート基と反応してプレポリマーの主鎖に組み込まれ、遊離のカルボキシル基が親水性なのでプレポリマーの水分散性を高める作用をなす。活性水素基を有す脂肪酸化合物としては、例えば、末端水酸基を二個有すジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等が挙げられる。
【0031】
<中和剤(D)>
本発明において用いられる中和剤(D)は、ウレタンプレポリマー主鎖に組み込まれたカルボキシル基含有低分子グリコールのカルボキシル基を中和して、ポリウレタン樹脂の水分散性をより高める効果を付与する。この中和剤(D)としては、例えば、第三級アミン(トリエチルアミン等)が挙げられる。
【0032】
<鎖延長剤(E)>
本発明において用いられる鎖延長剤(D)は、活性水素を3以上有する化合物が使用される。活性水素を3以上有する化合物としては、例えば、エチレンジアミン(EDA)、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエタノールアミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。
【0033】
<任意成分>
本発明における水性ポリウレタン分散体は、前記の特定の有機ジイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)、中和剤(D)、並びに鎖延長剤(E)を必須とするが、必要に応じて、水への分散を促す効果を有する粘度低下剤(水への溶解度が0.1〜40質量%で引火点が50℃以上)を添加することができる。該粘度低下剤の具体例としては、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(商品名:ジメチルプロピレンジグリコール(略称:DMM、水への溶解度:37.0質量%、引火点:65℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(商品名:ジブチルジグリコール、略称:DBDG、水への溶解度:0.3質量%、引火点:122℃)、N−メチルピロリドン(略称:NMP、水への溶解度:(任意)質量%、引火点:91℃)等が挙げられる。
【0034】
また、本発明における水性ポリウレタン分散体には、ポリウレタン樹脂を形成するうえで反応を促進させる目的から、必要に応じて、ジブチルチンジラウレートやナフテン酸亜鉛のような金属系触媒、或いは、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等のようなアミン系触媒等、ウレタン反応の硬化触媒(重合触媒)としての樹脂化触媒(ウレタン化触媒)を併せ用いることができる。
【0035】
さらに、本発明の水性ポリウレタン分散体に所望される物性を高め、また、各種物性を付加する目的から、各種の添加剤として、難燃剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、内部離型剤、補強材、艶消し剤、導電性付与剤、帯電制御剤、帯電防止剤、滑剤、その他の加工助剤を用いることができる。
【0036】
<水性ポリウレタン分散体の製造方法>
次に、本発明の水性ポリウレタン分散体の製造方法について述べる。前記一連の特定の有機ジイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)を反応させる。この際、前記の任意成分として挙げた水への分散を促す効果を有する粘度低下剤、並びに、ウレタン化触媒を反応系内に介在させてもよい。次いで、第三級アミン(D)にてカルボキシル基を中和して、カルボン酸アミン塩を含有して水分散性の高められたイソシアネート基末端プレポリマーを得る。このイソシアネート基末端プレポリマーを水に分散させて乳化させた後に、鎖延長剤(E)にて鎖延長反応を行うこととにより、本発明の水性ポリウレタン分散体が得られる。
【0037】
この場合、イソシアネート基末端プレポリマーを水に分散させて乳化する工程は、イソシアネート基末端プレポリマーを予め仕込んだ系内に水を追加投入して分散させて乳化するより、水を予め仕込んだ系内にイソシアネート基末端プレポリマーを追加投入して分散させて乳化するのが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。なお、実施例及び比較例中において「部」並びに「%」は、断り書きがない限り各々「質量部」並びに「質量%」を示す。
【0039】
<実施例1>
撹拌機、温度計、窒素シール管、及び冷却器を装着した容量2,000mlの反応器に、ポリオールAを228.9g、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)を24.2g、並びに低粘度化するための任意成分としてジメチルプロピレンジグリコール(DMM)を70.0g各々仕込み、90℃にて攪拌を行い、均一に混合した。次いで、60℃まで冷却した後2,4′−MDIを140.0g、HDIを15.2g各々仕込み80℃で2時間、攪拌を行いながら反応させた。次いで、低粘度化するための任意成分としてN−メチルピロリドン(NMP)を70.0g仕込み、さらに1時間攪拌を行った。攪拌後、中和前のイソシアネート基含有量が3.7質量%であることを確認した後、トリエチルアミン(TEA)を18.3g仕込んでカルボキシル基を中和して、末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。
次に、撹拌機(特殊機化工業(株)製ホモミクサー)を用いて、撹拌しながら水を755.4g仕込んで転相させた。転相したらすぐに、あらかじめ水が66.3g、エチレンジアミン(EDA)が11.7gからなるアミン水(15%水溶液)を仕込み、乳化・水とアミンによる鎖延長反応を行った。
FT−IRによりイソシアネート基の存在が確認されなくなったところで反応を終了して、水性ポリウレタン分散体(樹脂エマルジョン)である「PH−A1」を得た。分散体「PH−A1」の固形分は30%、pHは9.5、25℃の粘度は140mPa・s、平均粒径(測定装置:大塚電子(株)製:電気泳動光散乱系「ELS−800」を用いて測定)は180nmであった。
一連の結果等について、表1に示す。なお、前記の表1における「中和前のイソシアネート基含有量(※1)」は、中和剤(D)、鎖延長剤(E)、並びに水を導入する前のイソシアネート基含有量を示している(以下同じ)。
【0040】
<実施例2〜5、比較例1〜5>
表1に示す組成(配合比)に従って、前記の実施例1と同じ方法に基づいて、水性ポリウレタン分散体(樹脂エマルジョン)である「PH−A2」〜「PH−A5」並びに「PH−B1」〜「PH−B5」を得た。
なお、これらのうち「PH−B3」(比較例3)については、水分散時において高粘度化して最終的に固化したため、水性ポリウレタン分散体(樹脂エマルジョン)としての状態の諸確認を中止した(表1における分散状態の欄に「×(※2)」と記載)。
また、「PH−B4」(比較例4)と「PH−B5」(比較例5)については、水を仕込み始めた時点で、イソシアネート基と水との過度な反応性の高さに起因すると思われる発泡が起きたため、水性ポリウレタン分散体の製造を中止した(表1における分散状態の欄に各々「×(※3)」と記載)。
一連の結果等について、表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
前記の表1における組成(各成分)の詳細は、以下のとおりである。
【0043】
<2,4′−MDI(本発明の有機ジイソシアネート(A1)に相当)>
(i) GPCによるMDIのピーク面積比=100%
(ii) MDI中の4,4′−MDIの割合=1%(GCによる測定)
(iii)MDI中の2,4′−MDIの割合=98%(GCによる測定)
(iv) MDI中の2,2′−MDIの割合=1%(GCによる測定)
(v) イソシアネート基含有量=33.6%
<4,4′−MDI>
(i) GPCによるMDIのピーク面積比=100%
(ii) MDI中の4,4′−MDIの割合=98%(GCによる測定)
(iii)MDI中の2,4′−MDIの割合=1%(GCによる測定)
(iv) MDI中の2,2′−MDIの割合=1%(GCによる測定)
(v) イソシアネート基含有量=33.6%
<HDI(本発明の有機ジイソシアネート(A2)に相当)>
ヘキサメチレンジイソシアネート
<ポリオールA(本発明の高分子ポリオール(B)に相当)>
ポリテトラメチレンエーテルグリコール
公称数平均分子量=1,000
公称官能基数=2
公称水酸基価=112(mgKOH/g)
商品名「PTG−1000SN」(保土谷化学工業(株)製)
<DMPA(本発明のカルボキシル基含有低分子グリコール(C)に相当)>
ジメチロールプロピオン酸
商品名「DMPA」(GEOスペシャリティケミカルズ社製)
<DMM(任意成分)>
ジメチルプロピレンジグリコール(略称:DMM)
水への溶解度:37.0質量%
引火点:65℃
商品名「ジメチルプロピレンジグリコール」(日本乳化剤(株)製)
<NMP(任意成分)>
N−メチル−2−ピロリドン
水への溶解度:(任意)質量%
引火点:91℃
商品名「N−メチル−2−ピロリドン」(三菱化学(株)製)
<TEA(本発明の中和剤(D)に相当)>
トリエチルアミン
商品名「トリエチルアミン」(キシダ化学(株)製)
<EDA(本発明の鎖延長剤(E)に相当)>
エチレンジアミン
商品名「エチレンジアミン」(東ソー(株)製)
<水>
精製水
【0044】
<水性ポリウレタン分散体における分散状態の評価>
各実施例並びに比較例(一部を除く)において得られた各々の水性ポリウレタン分散体について、各々200gをガラス製サンプル瓶に仕込み、25℃雰囲気下で24時間静置した。静置後、目視による分散状態の確認・評価を行った。結果を表1並びに表2に示す。
「○」:均一な分散状態が保持されている。
「△」:若干ながら液の相分離の兆候が見られる。
「×」:高粘度となり固化、または、評価不可能(前記参照)。
【0045】
<(参考実施例)水性ポリウレタン分散体を用いた膜物性の評価>
各実施例において得られた各々の水性ポリウレタン分散体について、板ガラスに水性ポリウレタン分散体をキャストして25℃で5日間乾燥させて、所定の膜厚を有する乾式フィルムを作成し、以下に記載する物性測定を行った。一連の結果を表2に示す。
<引張物性>
引張試験(25℃:100%モジュラス、破断時強度、伸び):
引張速度=200mm/分
JIS K6301(1995)の4号ダンベルにて打ち抜いてサンプルを作成した。
引張物性測定装置:オリエンテック(株)製 テンシロン UTA−500
<引き裂き物性>
引き裂き試験(25℃:引き裂き強度):
JIS K7312に従って測定した。
【0046】
【表2】

【0047】
表1に記載のとおり、2,4′−MDIの割合が75質量%以上のMDI(A1)と、脂肪族系ジイソシアネート(A2)としてヘキサメチレンジイソシアネートを、(A1)と(A2)の質量比で60/40〜90/10の範囲内で併せ用いた場合、低粘度であり、かつ、平均粒径も小さい、良好な水性ポリウレタン分散体が得られた。
【0048】
なお、表1に記載のとおり、傾向として、2,4′−MDIの割合が75質量%以上のMDI(A1)の比率が高いほど、平均粒径が大きいものが得られた。前記の(A1)と(A2)との質量比が91/9〜100/0の範囲内の場合、平均粒径が200nmを超えるレベルとなっている。このことは、表1に記載のとおり、水性ポリウレタン分散体自体の粘度が高くなる傾向につながり、供される用途によっては不具合を生じる可能性があると思われる。
【0049】
また、表1に記載のとおり、傾向として、脂肪族系ジイソシアネート(A2)としてのヘキサメチレンジイソシアネートの比率が一定レベル以上になると、水分散時における高粘度化が生じ固化するという不具合があることも見出した。
【0050】
なお、表1において実施例として得られた水性ポリウレタン分散体「PH−A1」〜「PH−A5」を用いて、参考実施例として得た膜の物性を評価したところ、表2に記載のとおり、本発明において所望される性能、即ち、強靱さと柔軟性といった両方の性能を併せ有する樹脂(膜)が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により得られる水性ポリウレタン分散体は、水性塗料や水性接着剤等といった各種の水系ポリウレタン樹脂用途、特に、優れた強靱さと優れた柔軟性といった両方の性能が所望される分野において、好適に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ジイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)、中和剤(D)、鎖延長剤(E)を反応させて得られるポリウレタン樹脂を水中に乳化させてなる水性ポリウレタン分散体において、有機ジイソシアネート(A)が、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを75質量%以上含有するジフェニルメタンジイソシアネート(A1)と、脂肪族系ジイソシアネート(A2)からなり、かつ、(A1)と(A2)の質量比が(A1)/(A2)=60/40〜90/10であることを特徴とする、水性ポリウレタン分散体。
【請求項2】
脂肪族系ジイソシアネート(A2)が、ヘキサメチレンジイソシアネートであることを特徴とする、請求項1に記載の水性ポリウレタン分散体。
【請求項3】
有機ジイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基を含有する低分子グリコール(C)を反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーを、中和剤(D)にて中和してから水中に分散させた後、鎖延長剤(E)にて鎖延長反応を行うことを特徴とする、請求項1または請求項2のいずれかに記載の水性ポリウレタン分散体の製造方法。




【公開番号】特開2010−195977(P2010−195977A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44271(P2009−44271)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】