説明

水性塗料捕集装置および塗装ブース

【課題】 水性塗料を用いて吹付塗装する場合において、発泡を効果的に低減でき、水性塗料ミストを捕集することが可能な捕集装置を提供する。
【解決手段】 水性塗料を捕集するための捕集装置(29)において、水性塗料ミスト(9a)を含む気体および第1ブース水(12)が流れる第1流路(15)と、第1流路(15)を通過した第1ブース水(12)を回収する第1回収槽(17)とを配置し、第1流路(15)に少なくとも1つの屈曲部(15a)を設け、第1ブース水(12)は第1流路(15)の内壁面を覆う液状膜を形成しつつ気体と共に屈曲部(15a)を通して流し、これにより気体中の水性塗料ミスト(9a)を第1ブース水(12)中に捕集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性塗料、特に気体中にミスト状で含まれる水性塗料を捕集するための捕集装置に関する。また、本発明はそのような捕集装置を備え、水性塗料により被塗物を塗装するために用いられる塗装ブースに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な塗装方法として、被塗物に塗料をスプレー(または噴霧)する吹付塗装方法が広く用いられている(例えば特許文献1〜6を参照のこと)。このような吹付塗装方法では塗装の際に被塗物に塗着しなかった塗料が気体雰囲気中にミスト状で存在し得る(以下、本明細書において塗料ミストとも言う)。この塗料ミストを捕集するために水またはブース水を利用した湿式(または水洗式)塗装ブースがある。
【0003】
従来の湿式塗装ブースの一例として、ウォーターカーテンを利用した塗装ブースについて図面を参照しながら説明する。
【0004】
図7(a)に示す塗装ブース60は塗装室61および排気路81を備える。塗装室61において被塗物であるワーク65が塗装される。塗装を実施する間、送風ファン63および排気ファン83により気流が図中矢印方向に示すように形成され、塗装室61内の気体雰囲気が排気路81を通じて強制排気される。
【0005】
塗装室61内ではウォーターカーテン71がブース水槽73内のブース水をライザー78から平板に沿って流下させることにより形成される。このウォーターカーテン71はワーク65を挟んでスプレーノズル67と反対側に位置する。塗装は、スプレーノズル67からワーク65に向けて塗料69をスプレーすることによって実施されるが、スプレーされた塗料のうち、ワーク61に塗着しなかった塗料の大部分はウォーターカーテン71に達して水中に捕集される。また、図7(b)に示すように、塗装室61内の気体中に存在し得る塗料ミスト69aは、気体がウォーターカーテン71の後方の平板と遠心板75との間の隙間からウォーターカーテン71を高速で通過する際に塗料に加わる遠心力を利用して水中に捕集される(このような遠心板は特許文献2の図1および2(渦流板)、特許文献5の図3および特許文献6の図1を参照のこと)。捕集された塗料はブース水の形態でブース水槽(回収槽)73に回収される。
【0006】
ウォーターカーテン71を通過した気体は排気路81の内部を上昇し、図示するように互い違いに傾斜配置された邪魔板77の間を通り、フィルタ79を通過して外部へ排出される。このとき、気体中に残存している塗料ミスト69a(および存在し得る水分)は邪魔板77およびフィルタ79により気体から除去され、邪魔板77に衝突した塗料ミスト69aはブース水槽73に回収される。邪魔板77は一般的に排気路81の幅(図7(a)の紙面に垂直方向の長さ)全体に亘る大きさを有する。邪魔板77およびフィルタ79は、塗装を実施する間に洗浄すると水滴が飛散して塗装に悪影響を及ぼすため、塗装を実施していない間にスプレー洗浄される。また、フィルタ79はメンテナンスの際に交換される。
【0007】
【特許文献1】特開平05−146727号公報
【特許文献2】特開平06−142573号公報
【特許文献3】特開平07−100415号公報
【特許文献4】特開平07−299399号公報
【特許文献5】特開平09−10640号公報
【特許文献6】特開2000−126659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、環境および人体に対する影響および再利用の容易さなどの観点から、溶剤型塗料に代えて水性塗料が使用されて来ている。
【0009】
しかしながら、上述したような従来のウォーターカーテン式塗装ブースは水性塗料を用いる場合に十分満足できるものではない。気流がウォーターカーテン71を高速で通過し、気流および水が遠心板75に衝突することによって強制的な気液混合が起こるため、水性塗料に通常含まれている界面活性剤によって発泡し、嵩高くなった泡がブース水槽73からあふれることがあるからである。溶剤型塗料を用いる場合には、ウォーターカーテン71を通過する際の気流の風速は約20〜35m/sであるが、水性塗料を用いる場合には風速が10m/sを超えると発泡し、発泡を許容し得る範囲の上限風速はせいぜい15m/sであり、発泡を抑制しようとすると十分な捕集率が得られない。
【0010】
発泡の問題は消泡剤の添加や、消泡装置の使用により対処し得るが、これらは追加の費用を要し、また、塗料ミストを捕集したブース水を濃縮して再利用する場合において消泡剤を多量に添加すると回収した塗料の組成が変化するために望ましくない。
【0011】
また従来、塗料ミストを捕集するために絞り流路を利用したベンチュリ式塗装ブースも知られているが(例えば特許文献1を参照のこと)、このような塗装ブースにおいても水またはブース水が塗料ミストと共にベンチュリ(または絞り流路)を高速で通過して霧化される際に発泡が起こり得る。更に、ベンチュリは構造が複雑で、内部の洗浄が困難であるという問題もある。
【0012】
加えて、従来の塗装ブースでは内部の構造が複雑なため洗浄性が悪く、色替えを実施する場合に洗浄時間を長くする必要がある。また、コンタミ量が多いために使用可能な塗色が制限される。
【0013】
更に、従来の塗装ブースでは排気路内(より詳細にはフィルターおよび邪魔板など)に水性塗料が付着し、メンテナンスを頻繁に実施する必要があり、費用がかかるという難点もある。
【0014】
本発明の目的は、水性塗料を用いて吹付塗装する場合であっても、発泡を効果的に低減および好ましくは防止でき、洗浄性を向上させ、メンテナンス頻度を少なくしつつ、塗料ミストを捕集することが可能な捕集装置およびこれを備える塗装ブースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の1つの要旨によれば、水性塗料を捕集するための捕集装置であって、
ミスト状の水性塗料を含む気体および第1ブース水が流れる第1流路と、
第1流路を通過した第1ブース水を回収する第1回収槽と
を含み、第1流路は少なくとも1つの屈曲部を有し、第1ブース水は第1流路の内壁面を覆う液状膜を形成しつつ気体と共に第1流路を流れ、これにより気体中にミスト状で含まれる水性塗料を第1ブース水中に捕集する捕集装置が提供される。以下、本明細書において第1流路および第1回収部を1次捕集部とも言う。
【0016】
このような本発明の捕集装置によれば、第1ブース水は第1流路の内壁面を覆う液状膜を形成しつつ気体と共に流れるので、第1ブース水と気体とが激しく混合されず、発泡を効果的に低減し、好ましくは防止することができる。また、第1ブース水および気体は屈曲部を有する第1流路を共に流れるので、気体中に含まれていた水性塗料ミストを慣性力により第1ブース水中に捕集し、そして第1回収槽に回収することができる。更に、このような捕集装置によれば、水性塗料を内壁面に固着させることなく、その大部分を第1ブース水に速やかに捕集することができ、第1流路を比較的クリーンに保つことができる(換言すれば、洗浄性が高い)。この結果、第1流路のメンテナンス頻度を少なくすることができると共に、より少量の洗浄水(または洗浄剤)で洗浄することができ、洗浄水量の減少により第1回収槽をコンパクトにすることができる。加えて、第1流路を通過する間の圧力損失が小さいので、騒音をより小さくすることができる。
【0017】
本発明を通じて「ブース水」とは水または水を主成分とする液状流体に水性塗料を捕集したものを意味する。「水性塗料」には一般的な水性塗料、即ち、不揮発分と水性溶媒とを含む水性塗料を用いることができる。水性塗料を構成する不揮発分は、塗料の樹脂や顔料などである。
【0018】
本発明において第1流路の「屈曲部」とは気体の流れ(即ち気流)方向を変化させるように第1流路が屈折または湾曲していることを意味する。気流方向を変化させることにより、水性塗料ミストは慣性力により気流方向とずれた方向に運動し、第1流路の内壁面を覆う第1ブース水に衝突して捕集される。このような屈曲部は気流方向を少なくとも1回変化させるものであればよいが、水性塗料ミストの捕集効率をより高くするためには2回またはそれ以上変化させるものであることが好ましい。
【0019】
第1ブース水が第1流路の内壁面を覆って液状膜を形成するためには、第1ブース水がこの内壁面に対して良好な濡れ性を示すことが重要である。濡れ性は第1流路の内壁面に対する第1ブース水の接触角で評価でき、この接触角は、例えば約60°以内であり、小さい程より好ましい。このような接触角を示す場合には、膜が途切れたり、液が飛散または滴下したりすることなく、液状膜が流路の内壁面全体を覆って形成され得る。
【0020】
上記の接触角は液状膜を形成するための液状物の組成および第1流路の内壁面を構成する材料の組合せによって決まる。この液体には第1回収槽に回収した第1ブース水を再利用するが、ブース水は水性塗料に含まれる親水性溶剤を含み、表面張力が小さく、液状膜を形成し易いという利点がある。他方、第1流路の内壁面を構成する材料は親水性表面を有する材料が好ましく、例えばコーティングまたは表面改質などにより親水性化処理された材料を利用することができる。また、内壁面は凹凸がなく、滑らかであることが好ましい。
【0021】
更に、気液混合を回避するには、第1流路の内壁面を覆って液状膜を形成している第1ブース水が内壁面を離れて滴下しないことが好ましく、水性塗料が内壁面に固着するのを回避するには、第1ブース水が内壁面に沿って適当に流れることが好ましい。このため第1流路の内壁面、特に屈曲部における内壁面の傾斜角は上記の濡れ性ならびに気体の通過風速および第1ブース水の流量などを考慮して制限され得る。第1流路の内壁面は(屈曲部においても)水平面に対して、例えば約15〜165°の範囲内の角度で傾斜する。この角度(本明細書において傾斜角とも言う)は内壁面と水平面との間の角度、内壁面が湾曲している場合には湾曲面の接平面と水平面との間の角度であって、内壁面の露出側(ブース水と接触する側)の角度を意味するものとする。
【0022】
本発明の1つの態様において捕集装置は、
水性塗料を捕集した第1ブース水を水性塗料濃度が上昇した濃縮部と水性塗料濃度が低下した残部とに分離する濃縮分離装置と、
得られた濃縮部を貯槽し、および濃縮分離装置に供給するように濃縮分離装置と接続された濃縮槽と
を更に含む。これにより、捕集した水性塗料を所望の濃度まで循環濃縮して再利用することができる。また、水性塗料濃度が低下した残部(例えば濾液)は、再び第1ブース水として使用することができる。
【0023】
本発明において「水性塗料濃度」とは、より厳密には水性塗料の不揮発分の濃度を意味するものとする。一般的に、濃縮分離装置にはクロスフロー式の濾過器、好ましくは限外濾過器を用いることができる。水性塗料の構成成分である不揮発分はフィルタ(濾材)の分画分子量より大きい分子量を有するのでフィルタを通過せずに上流側に残留し、他方、この分画分子量より小さい分子量を有する構成成分はフィルタを通過して濾液側に移動するので、これにより、水性塗料に含まれる不揮発分を濃縮することができる。濃縮槽には第1回収槽と別の槽を利用する。
【0024】
更に、濃縮分離装置および濃縮槽を含んで成るセットを複数用意し、使用するセットを水性塗料の色に応じて切り換えてもよい。これによれば、水性塗料の再利用につき多色対応が可能となる。色替え再利用する場合には、ブースの洗浄性が特に重要になるが、本発明によれば、洗浄液である第1ブース水が汚染部分に到達することができ、洗浄液の液溜りが形成されないので、色替え再利用に好適に使用され得る。
【0025】
しかし、本発明はこれに限定されず、第1回収槽に回収した第1ブース水を必要に応じて沈降分離および浮上分離などの一般的な廃水処理方法に付した後、廃棄してもよい。
【0026】
本発明の1つの態様において捕集装置は、
第1流路を通過した気体が流れる第2流路と、
第2流路内に配置された充填材(またはフィルター)および邪魔板(またはエリミネ板)の少なくとも一方と、
第2流路内に供給される第2ブース水を回収する第2回収槽と
を更に含み、これにより、第1流路を通過した気体中にミスト状で残っている水性塗料を第2ブース水中に捕集するものであってよい。以下、本明細書において第2流路および第2回収部を2次捕集部とも言う。
【0027】
上記態様によれば、第1流路を通過した気体を充填材に通過および/または邪魔板に衝突させて、気体中に残っている水性塗料ミストを分離して、水性塗料を第2ブース水中に捕集し、そして第2回収槽に回収することができる。これにより、水性塗料ミストを1次捕集部および2次捕集部の2段で回収でき、全体として高い捕集効率を実現することができる。更に、第1回収槽に回収した第1ブース水および第2回収槽に回収した第2ブース水についての処理を個々に適宜選択することができる。例えば前者は水性塗料の再利用のために用い、後者は廃棄してよい。また、上述のように水性塗料ミストの大部分を第1ブース水中に捕集および回収できるので、第2ブース水の水性塗料濃度を低くできて、第2ブース水を循環させることにより洗浄可能となるので、第2流路のメンテナンス頻度をより少なくできる。このような塗装ブースはブース全体を容易に洗浄することができるので、色替え再利用する場合に好適に用いられ得る。加えて、2次捕集部は1次捕集部と隣接して配置されていても、離れて配置されていてもよく、任意の配置で設計できる。
【0028】
充填材(またはフィルター)および邪魔板(またはエリミネ板)には、気液分離のために一般的に使用され得る任意の適当な充填材を使用することができる。
【0029】
本発明のもう1つの要旨によれば、水性塗料により被塗物を塗装するために用いられる塗装ブースであって、
被塗物に水性塗料をスプレーするための塗装室と、
塗装室内に第1ブース水を供給し、塗装室内のミスト状の水性塗料を含む気体および供給した第1ブース水が第1流路に流れるように塗装室と連通している、本発明の上記捕集装置と
を備える塗装ブースが提供される。
【0030】
本発明の塗装ブースにより塗装される被塗物は、例えば一般的にワークと総称されるような吊下げて自動搬送される物品(例えば自動車などの部品およびその他の一般的工業製品)であってよく、あるいは吊下げて搬送されないより大きな物品(例えば自動車ボディ)であってもよい。水性塗料は、塗装すべき被塗物およびスプレー方向に応じて、被塗物の後方にウォーターカーテンとして供給されてもよく、あるいは、被塗物の下方にウォータースクリーン(または水張り、ウォーターウォ−ルもしくはウォータートンネルなどとして理解され得るが、本明細書においては便宜的にウォータースクリーンと呼ぶ)として供給されてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、水性塗料を用いて吹付塗装する場合であっても、発泡を効果的に低減および好ましくは防止でき、塗料ミストを捕集することが可能な捕集装置が提供される。更に、本発明の捕集装置は従来の捕集装置に比べて洗浄性が高く、メンテナンス頻度が少なく、低騒音である。また、本発明によれば、このような捕集装置を備える塗装ブースも提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明のいくつかの実施形態における捕集装置および塗装ブースについて、図面を参照しながら説明する。これら実施形態の説明において同様の部材には同様の参照番号を用い、特に断りのない限り同様の説明が当て嵌まるものとする。
【0033】
(実施形態1)
本実施形態は捕集装置およびこれを備える塗装ブースに関する。
【0034】
図1(a)に示す本実施形態の塗装ブース30は、被塗物であるワーク5に水性塗料9をスプレーするための塗装室1と、水性塗料9を捕集するための捕集装置29とを備える。本実施形態の捕集装置29は塗装室1と一体的に形成された1次捕集部10と1次捕集部10に連通する2次捕集部20から構成される。
【0035】
塗装室1に配置された送風ファン3および2次捕集部20に配置された排気ファン27により、塗装ブース30内において気流(図中に矢印にて示す)が形成され、塗装室1内の気体雰囲気が強制排気されるようになっている。
【0036】
塗装室1内には水性塗料をスプレーするノズル7が設けられる。塗装室1内へ第1ブース水12が供給されるが、その一部はライザー18からまたはオーバーフロー式で平板に沿って流下させ、ノズル7に対してワーク5の後方に位置するウォーターカーテン11の形態で供給される。塗装室1は、その内部の気体および供給された第1ブース水12が傾斜壁13を伝って第1流路15に流れるように1次捕集部10に連通している。
【0037】
1次捕集部10は第1流路15と、第1流路15を通過した第1ブース水12を回収する第1回収槽17とを備える。図1(b)に示すように、第1流路15は少なくとも1つの屈曲部15aを有する。尚、図1(b)では気流方向は3回曲げられているが、これに限定されるものではない。
【0038】
第1流路15の内壁面に対する第1ブース水12の接触角は、例えば約60°以内(0〜60°)、好ましくは約30°以内(0〜30°)である。第1ブース水12は表面張力が小さいことが好ましく、第1回収槽17に回収される第1ブース水12を、図1(a)に点線にて示すように塗装室1内に供給して循環使用する。第1ブース水12は水性塗料に由来する親水性溶剤、例えばジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)などを水中に適当な量で含み、表面張力が小さい。他方、第1流路15の内壁面は、第1ブース水12の表面張力が小さければステンレスなどの材料から成っていてもよいが、例えばシリケートから成る親水化処理剤を用いて表面にコーティングしたものから成ることがより好ましい。
【0039】
図2に示すように、第1流路15の内壁面(屈曲部15aも含む)の水平面に対する傾斜角は、上記接触角の大きさにもよるが、例えば約15〜165°、好ましくは約30〜150°の範囲内とする。傾斜角が小さすぎると第1ブース水12が流れにくくなり、その中に含まれる水性塗料が内壁面に固着することがある。また、傾斜角が大きすぎると、第1ブース水12が第1流路15の内壁面から滴下して、液状膜を形成できなくなる。
【0040】
第1流路15の内壁面は凹凸がなく、滑らかであることが好ましい。また、第1流路15の屈曲部は内壁面がシャープに屈折しているよりも、湾曲していることが好ましい。
【0041】
図3(a)〜(e)を参照して、第1流路15の鉛直断面において対抗する内壁面は、図中両矢印にて示すように気体が流れ得る隙間を残して第1ブース水12の液状膜で覆われている限り、互いに略平行であっても(図3(a))、図中片矢印にて示す流れ方向に拡張していても(図3(b)および(d))、狭まっていても(図3(c)および(e))よい。
【0042】
また、第1流路15の水平断面において内壁面は任意の形状、例えばスリット状、円形などであってよく、全体としては角柱、円筒などの形状であってよい。更に、このような第1流路15は1つまたは2つ以上設けられていてもよい。
【0043】
図1(a)を参照して、2次捕集部20は、充填材23を内部に備える第2流路25と、第2流路25内に充填材23を洗浄するために供給される第2ブース水22を回収する第2回収槽21とを備える。第2流路25は、第1流路15を通過した気体が流れるように連通路19により第1流路15と連通している。第2回収槽21に回収した第2ブース水22は、図1(a)に点線にて示すように第2流路25内に供給して循環使用する。
【0044】
充填材(またはフィルター)は、ミスト捕集性と洗浄性を兼ね備えるものを使用する。特に、洗浄性を持たせるためにはブース水および塗料の双方に耐性を有する材料から成り、洗浄液(ブース水)が入り込み難い(袋部のない)シンプルな構造を有することが好ましい。
【0045】
次に、本実施形態の捕集装置29を備える塗装ブース30の動作および作用について説明する。
【0046】
まず、被塗物であるワーク5が塗装室1内へ、例えば図1(a)に示すように吊下げて搬送し、送風ファン3および排気ファン27により気流を生じさせた状態で、ノズル7からワーク5に向けて水性塗料9をスプレーしてワーク5を塗装する。
【0047】
塗装を実施する間、塗装室1内を洗浄するために第1ブース水12を、例えばポンプなどにより塗装室1内に供給する(図1では3カ所から供給している)。第1ブース水12の一部は壁に沿って流下させ、ウォーターカーテン11を形成する。供給された第1ブース水12は傾斜壁13を伝って第1流路15に入り、第1流路15の内壁面を覆う液状膜を形成しつつ、気体と共に第1流路15を流れる。第1ブース水12は塗装を実施する間、常時供給する。
【0048】
例えば第1ブース水12が水:BDGの重量比が約95:5である液状物である場合、ウォーターカーテン幅1mあたり約40リットル/分およびウォーターカーテンを通過する気流の風量約70m/分(いずれも20℃および0.1MPaの標準状態換算、以下同様)で用いてよい。
【0049】
ノズル7からスプレーされた水性塗料のうち、ワーク5に塗着しなかった水性塗料の大部分はウォーターカーテン11に達して第1ブース水12中に捕集される。この他、塗装室1内の気体中には水性塗料がミスト状で存在し得るが、このような水性塗料ミストは気流に乗って流れ、一部は傾斜壁13上を流れる第1ブース水12中に捕集され得る。更に、図1(b)に示すように、気体が第1流路15を流れる際、気体中に含まれる水性塗料ミスト9aを第1ブース水12中に捕集することができる。これは、屈曲部15aにより気流の方向が変えられているのに対し、水性塗料ミスト9aは慣性力の影響を受けるために気流からそれて流れ、第1流路15の内壁面を覆っている第1ブース水12に衝突または接触するからである。
【0050】
このようにして水性塗料を捕集した第1ブース水12は第1回収槽17に回収する。回収した第1ブース水12は循環使用し、また、必要に応じて沈降分離および浮上分離などの一般的な廃水処理方法に付した後に廃棄してよい。
【0051】
他方、第1流路15から出た気体は連通路19を通って2次捕集部20に入り、第2流路25を上昇して流れる。このとき、気体は1次捕集部10で捕集しきれなかった水性塗料ミスト9aを含み得るが、充填材23により捕捉できる。充填材23を通過した気体は、好ましくは水性塗料ミストを実質的に含まず、塗装ブース30の外部へ排出される。
【0052】
充填材23を洗浄するために第2ブース水22を第2流路25内へ供給する。これにより、充填材23に捕捉された水性塗料ミストは第2ブース水22中に捕集される。本実施形態において第2ブース水22は、塗装を実施していない間(排気ファン27の停止中)に供給する。
【0053】
このようにして水性塗料ミストを捕集した第2ブース水22は第2回収槽21に回収する。回収した第2ブース水22は循環使用する。また、沈降分離、浮上分離および限外濾過などの廃水処理方法により濃縮操作を行って水性塗料濃度を低く(例えば約5%以下に)管理し、濃縮操作により得られた塗料は廃棄してよい。この結果、水性塗料濃度の増加が少ないため、廃水処理装置の負荷を低減することができる。
【0054】
以上のような本実施形態の捕集装置29および塗装ブース30によれば、第1ブース水12(および第2ブース水22)は気体と激しく混合されないので、発泡を効果的に抑制し、好ましくは防止しながら、水性塗料をブース水中に捕集することができる。これにより、回収した第1ブース水12(および第2ブース水22)を沈降分離および浮上分離などの一般的な廃水処理方法に付す際に従来のように多量の消泡剤を添加する必要がなく、消泡剤の量を低減し、好ましくは不要にすることができる。
【0055】
また、水性塗料を内壁面に固着させることなく第1ブース水12により速やかに捕集することができ、第1流路を比較的クリーンに保つことができる。この結果、より少量の洗浄水(または洗浄剤)で塗装室1内および第1流路15内を洗浄して、水性塗料を十分に除去することができる。更に、ライザー18が塗装室1内に配置されていないので、ライザー自身に水性塗料が付着することがない。よって、1次捕集部10および塗装室1のメンテナンスの頻度をより少なくできる。
【0056】
また、洗浄水量の減少により、第1回収槽17は、図7を参照して説明した従来の塗装ブース60におけるブース水槽73よりも小さく、コンパクトにすることができる。例えばウォーターカーテン幅1mあたり、従来は約100〜300リットルの容量のブース水槽73が使用されていたところ、本実施形態によれば第1回収槽17の容量は約20〜50リットルでよい。
【0057】
加えて、第1流路15(および第2流路25)を通過する間の圧力損失は、従来の塗装ブース60において気体を十分な風速でウォーターカーテン71に通過させるのに用いられる圧力損失よりも小さいので、騒音をより小さくすることができる。
【0058】
更に、本実施形態の捕集装置29および塗装ブース30においては、1次捕集部10に加えて2次捕集部20を設けているので、水性塗料ミストを2段で回収することができ、水性塗料ミストを第1ブース水12中に十分に捕集できない場合でも、第2ブース水22中に捕集することにより、全体として高い捕集効率を実現することができる。
【0059】
また、第2ブース水22を第1回収槽17と別個の第2回収槽21に回収し、これを用いて充填材23を洗浄しているので、従来の塗装ブース90のように1個のブース水槽73のブース水の一部をフィルタ79および邪魔板77を洗浄するために用いる場合よりも、第2ブース水中の水性塗料濃度が低く、沈降分離、浮上分離および限外濾過などの濃縮操作を行う塗料回収装置にて容易に低濃度管理することができる。これにより、例えば従来は排気路81のメンテナンスを1年あたり4回実施していたところ、本実施形態によれば第2流路25のメンテナンスを1年あたり1回以下にすることができる。
【0060】
加えて、2次捕集部20は1次捕集部10と隣接配置し、連通部19なしに直接接続されていてよく、あるいは連通路19を適当に引き回すことにより離れて配置してもよいので、設計の自由度が高く、スペースを有効活用できる。
【0061】
(実施形態2)
本実施形態は実施形態1の捕集装置および塗装ブースにおいて、回収した第1ブース水および第2ブース水の処理を改変し、更に、多色対応可能にしたものである。
【0062】
図4に示す本実施形態の塗装ブース30’は、水性塗料の色に応じて切換え使用される複数の第1回収槽17’(図中にはA色、B色、C色の水性塗料用の3つの第1回収槽を示す)と、切換え使用されない1つの第2回収槽21’とを備える。
【0063】
複数の第1回収槽17’に対応して、濃縮槽31、限外濾過器UFおよび濾液槽33の第1セットが各々設けられる(再利用用濃縮部)。UFは、水性塗料を捕集した第1ブース水を水性塗料濃度が上昇した濃縮部と水性塗料濃度が低下した残部(濾液)とに分離する濃縮分離装置である。各第1セットにおいて、濃縮槽31は、第1回収槽17’に回収された第1ブース水が濃縮槽31に移されるように第1回収槽17’と接続されており、かつ、UFにより得られた濃縮部を貯槽し、およびUFに戻して供給するようにUFと接続されている。他方、濾液槽33はUFにより得られた残部(濾液)を貯槽するようにUFと接続されている。また、第2回収槽21’に対しても、濃縮槽35、限外濾過器UFおよび濾液槽37の第2セットが設けられ(廃棄用濃縮部)、第1セットと同様に構成される。
【0064】
本実施形態においては、例えばA色の水性塗料による塗装を実施形態1と同様にして実施し、A色塗装終了後、第1回収槽17’内のA色水性塗料を捕集した第1ブース水を、図4中に一点鎖線にて示すように濃縮槽31に送る。その後、第1ブース水を濃縮槽31からUFに流して、A色水性塗料濃度が上昇した濃縮部と濾液とに分離し、濃縮部は濃縮槽31に戻し、濾液は濾液槽33に送る。この操作を連続的に実施して、所望の水性塗料濃度が濃縮部にて得られるまで循環濃縮する。これにより得られた濃縮部は水性塗料の再利用(リサイクル)に用いる。他方、得られた濾液は第1ブース水12として第1回収槽17’またはその循環使用ライン(図中に点線にて示す)の途中に戻して再利用してよい。
【0065】
尚、本実施形態においては第1回収槽17’と濃縮槽31とを別個に設けるものとしたが、これらは共通の槽であってもよい。共通の槽とする場合、第1回収槽17’を濃縮槽31として使用するに際して、第1回収槽17’を1次捕集部から切り離して別の場所で循環濃縮しても、切り離さずにその場で循環濃縮してもよい。
【0066】
A色水性塗料の循環濃縮は、塗装室1にて塗装を実施していない間、または他の色(例えばB色)の水性塗料による塗装を実施している間に行うことができる。
【0067】
A色水性塗料による塗装終了後、色替えしてB色、そしてC色の水性塗料により塗装を実施する。B色およびC色水性塗料の場合における塗装ならびに循環濃縮および再利用についても、A色水性塗料の場合と同様に実施できる。
【0068】
そして、充填材23を洗浄するために第2ブース水22を第2流路25内へ供給する。これにより、充填材23に捕捉された水性塗料ミストは第2ブース水22中に捕集される。第2ブース水22は、塗装を実施していない間(例えば各色の塗装を終了時、休憩時または色替え時)に供給してよい。
【0069】
他方、第2回収槽21’は水性塗料の色によらず使用されるので、第2回収槽21’に回収される第2ブース水22は複数色(A色、B色およびC色)の水性塗料が混合された混色を呈する。塗装停止している間、第2回収槽21’内の複数色の水性塗料を捕集した第2ブース水を、図4中に一点鎖線にて示すように濃縮槽35に送る。その後、第2ブース水を濃縮槽35からUFに流して、水性塗料濃度が上昇した濃縮部は濃縮槽35に戻し、濾液は濾液槽37に送る。この操作を連続的に実施して循環濃縮する。これにより得られた濃縮部はそのまま廃棄してよい。他方、得られた濾液はそのまま廃棄しても、第2ブース水22として第2回収槽21’またはその循環使用ライン(図中に点線にて示す)の途中に戻して再利用してよい。
【0070】
このような本実施形態の捕集装置および塗装ブース30’によれば、再利用用濃縮部により水性塗料の再利用が可能である。本実施形態では、実施形態1と同様の作用により発泡を効果的に抑制して消泡剤の添加を排除できるので、従来のように水性塗料に再利用される濃縮部中に消泡剤が含まれることがない。また、実施形態1と同様に1次捕集部に加えて2次捕集部を設けているので、従来のように排気路から回収槽中に塗料カスが混入することがなく、再利用に適した第1ブース水を回収することができる。これらの効果は多色の場合だけでなく、単色(例えばA色のみ)の場合においても得られることに留意されたい。
【0071】
また、本実施形態によれば、色替えを実施する場合にも水性塗料を捕集した第1ブース水を各色毎に回収して、再利用できる。本実施形態では色替えの際に、実施形態1と同様の作用により少量の洗浄水(または洗浄剤)で塗装室1内および第1流路15内を洗浄して、前の色の水性塗料を十分に除去できるので、色替え時間を短縮することができる。従来、色替えのための洗浄には約15分を要していたところ、本実施形態によれば例えば約2〜5分で十分に洗浄できる。
【0072】
更に、洗浄水量の減少により第1回収槽17’をコンパクトにできるので、同一のスペースでより多くの数の第1回収槽17’を配置でき、より多くの色数の水性塗料に対応することができる。従来の塗装ブースでは1色またはせいぜい2色までしか対応できなかったスペースにおいて、本実施形態によれば10色程度まで対応可能となる。尚、本実施形態においては例示的に3色の場合について説明したが、これに限定されない。
【0073】
(実施形態3)
本実施形態は実施形態2の捕集装置および塗装ブースにおいて、ワークに代えて自動車ボディを被塗物とするように改変したものである。
【0074】
図5に示す本実施形態の塗装ブース30’’は、自動車ボディ5’を塗装するための塗装室1’を備え、第1ブース水12は自動車ボディ5’の下方に位置するウォータースクリーン11’などの形態で塗装室1’内に供給される。
【0075】
このような本実施形態の捕集装置および塗装ブース30’’によれば、実施形態2と同様の作用により水性塗料の再利用が可能である。従来の自動車ボディ用湿式塗装ブース(例えば特許文献1を参照のこと)において水性塗料を用いる場合、発泡の問題に加え、非常に大きな容量、全体では約50〜150トンの容量、ウォーターカーテン幅1mあたり約600〜3000リットルの容量のブース水槽を使用する必要があったため、水性塗料を再利用することは困難であった。これに対して本実施形態によれば、第1回収槽17’をコンパクトにすることができ、例えばウォーターカーテン幅1mあたりの第1回収槽17’の容量は約100〜300リットルでよく、水性塗料の再利用を実用的レベルで実施できる。
【0076】
尚、実施形態1〜3において1次捕集部および2次捕集部の双方を備える2段階捕集装置について説明したが、本発明の捕集装置において2次捕集部は必須でないことに留意されたい。
【実施例1】
【0077】
本実施例においては、接触角および傾斜角が液状膜形成性および洗浄性に及ぼす影響を調べた。
【0078】
まず、第1流路の内壁面と同じ材料から成るサンプル上に、ブース水を載せて接触角を調べた。ブース水は水中に水性塗料が添加されたものであり、水性塗料に由来する親水性有機溶剤(ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG))を含む。内壁面の材料および水性塗料(より詳細には親水性溶剤)の添加量を異ならせて、表1の接触角を示す組合せを選択した。
【0079】
そして、所定の傾斜角で配置した第1流路の内壁面のサンプルに沿わせて第1ブース水を流下させて(図2を参照のこと)、膜の途切れおよび/または液の滴下が起こるどうか目視により観察した。このとき、ブース水の流量はサンプル幅0.3mあたり約7リットル/分とした。
【0080】
液状膜形成性の評価基準は、評価が高い順に、膜の途切れおよび/または液の滴下が起こらなかった場合を○、わずかに起こるが許容可能な程度である場合を△、明らかに起こった場合を×とした。
【0081】
また、ブース水を循環的に流し、その後、第1流路の内壁面サンプルに水性塗料が付着していないかどうか目視により観察した。このとき、ブース水の流量は上記と同様にした。
【0082】
洗浄性の評価基準は、評価が高い順に、水性塗料の付着が起こらなかった場合を○とし、わずかに起こるが許容可能な程度である場合を△、明らかに起こった場合を×とした。
【0083】
そして、液状膜形成性および洗浄性の評価結果を総合し、両者の評価のうちより低い方を採用するものとした。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
液状膜形成性および洗浄性の観点からは表1に○で示す接触角および傾斜角条件が好ましいことがわかった。例えばシリケートから成る親水化処理剤によりステンレスをコーティングしたものを内壁面とし、ブース水を水:BDGの重量比が95:5である混合液とした場合、接触角は約20°となり、許容可能な傾斜角範囲は約10〜170°、好ましくは約30〜150°であった。これに対して、例えば内壁面をステンレスとし、ブース水を単なる水にした場合、接触角は約90°となり、許容可能な傾斜角範囲は約10〜120°、好ましくは15〜90°であった。後者の場合、膜が途切れないようにするには第1流路への第1ブース水の流量を比較的大きくする必要があるが、90°より大きな傾斜角では流量を大きくすると液の滴下が起こり得ることを考慮すべきである。
【0086】
尚、本実施例においては、第1ブース水が第1流路の内壁面を覆う液状膜を形成しつつ流れる場合について、第1流路の内壁面の傾斜角および該内壁面と第1ブース水との接触角について述べたが、本実施例による結果のうち90°より大きい傾斜角については、第2ブース水が邪魔板の傾斜した下面を覆う液状膜を形成しつつ流れる場合についても当て嵌まる。後者の場合、液状膜形成性および洗浄性とは別に、装置構成の観点から、傾斜角は90°よりもある程度大きく、例えば120°以上とすることが好ましいことに留意されたい。
【実施例2】
【0087】
本実施例においては塗装ブースのテスト機を運転して捕集性、洗浄性および発泡性について調べた。
【0088】
まず、実施形態2にて上述した図4に示す塗装ブース30’をウォーターカーテン幅約1.5mの実施テスト機として構成した。この実施テスト機では、水性塗料ミストを気体から完全に除去するために、第2流路25において充填材23の上方にフィルタ(図示せず)を設けた。
【0089】
そして、水性塗料9による塗装を想定しつつワーク5なしで、第1回収槽17’に回収される第1ブース水を循環させながら水性塗料9を約30分間スプレーした。このとき、ノズル9にはエアースプレーガンを用い、エアー圧力は約0.2MPaとし、水性塗料9を約2〜3g/mでスプレーした。また、ウォーターカーテン幅1mあたりの排気風量は約70m/分とした。フィルタおよび排気ファン27を通じて排気される気体中の水性塗料ミスト含有濃度は約2〜3g/mであった。第1ブース水中の水性塗料の不揮発分の濃度は、塗装実施前は約2重量%であったが、塗装実施直後には約5重量%に上昇していた。塗装を実施する間、第2流路25内には第2ブース水を供給しなかった。
【0090】
また、比較のために、図7に示すような従来の塗装ブース60’をウォーターカーテン幅約0.5mの比較テスト機として構成し、この比較テスト機を用いて、実施テスト機と同様の条件で塗装を実施した。このとき、ウォーターカーテン71を通過する際の気流の風速は約15m/sとした。塗装を実施する間、排気路81内にはブース水を供給しなかった。
【0091】
(捕集性)
塗装終了後、1次捕集部および2次捕集部の効果による水性塗料の捕集性を評価した。
【0092】
まず、実施テスト機および比較テスト機における塗装に用いた水性塗料の固形分重量を、塗料タンク(図示せず)内の水性塗料の減少量を測定することにより求めた。
【0093】
実施テスト機を用いた場合については、第1回収槽17’内の第1ブース水中の不揮発分濃度を塗装実施前後で比較し、その増加分から、第1ブース水中に捕集された水性塗料の固形分重量を求めた。尚、不揮発分は固形分とほぼ等しいと見なし得る。また、塗装実施後のフィルタ(洗浄せず)を乾燥させて重量を測定し、これを塗装実施前の重量と比較し、その増加分をフィルタに捕捉された水性塗料の固形分重量とした。
【0094】
そして、下記の式(I)により第1ブース水およびフィルタの捕集率をそれぞれ求めた。
【数1】

【0095】
第1ブース水中への捕集率は80%であり、フィルタでの捕集率は0.3%であった。1次捕集部(屈曲部を備える第1流路)による捕集率は、第1ブース水中への捕集率80%と同じであると考えてよい。2次捕集部(充填材23)による捕集率は、排気ファン27から排気される気体中に水性塗料ミストは含まれておらず、全ての水性塗料が塗装ブース内で捕集されたと見なし得ることから、100%から第1ブース水中への捕集率(80%)およびフィルタでの捕集率(0.2%)を差し引いた19.8%として見積もられる。
【0096】
比較テスト機を用いた場合については、塗装実施後のフィルタ(洗浄せず)を乾燥させて重量を測定し、これを塗装実施前の重量と比較し、その増加分をフィルタに捕捉された水性塗料の固形分重量とした。
【0097】
そして、上記の式(II)によりフィルタの捕集率を求めたところ、0.9%であった。ウォーターカーテン、遠心板および邪魔板による総合的な捕集率は、上記と同様の理由から、100%からブース水中への捕集率(0.9%)を差し引いた99.1%として見積もられる。
【0098】
以上の結果から、実施テスト機において、気体中に含まれる水性塗料の大部分(本実施例では80%)を1次捕集部により捕集できることが確認されると共に、1次捕集部および2次捕集部による捕集率を総合すれば(本実施例では99.8%)、比較テスト機のウォーターカーテン、遠心板および邪魔板による場合(99.1%)よりも多くの水性塗料を捕集できることがわかった。
【0099】
(洗浄性)
塗装終了後、濾液で塗装室内を洗浄し、濾液洗浄の間の洗浄液中の不揮発分濃度の経時変化を調べて洗浄性を評価した。
【0100】
実施テスト機の場合、別途準備しておいた濾液を第1ブース水12の循環ライン(図中に点線にて示す)を通じて塗装室1内に供給して濾液洗浄した。第1流路15を通って第1回収槽17’に流れる洗浄後の液を洗浄開始(濾液供給)から所定時間でサンプリングし、各サンプル中の不揮発分濃度を測定した。結果を図6に示す。
【0101】
比較テスト機の場合、別途準備しておいた濾液をブース水の循環ライン(図中に点線にて示す)を通じてライザ78から塗装室61内に供給して濾液洗浄した。濾液洗浄の間、上記と同様にして各サンプル中の不揮発分濃度を測定した。結果を図6に示す。
【0102】
図6を参照して、実施テスト機では不揮発分濃度は1分後には約150重量ppm、2分以上で100重量ppm以下となった。これに対して、比較テスト機では不揮発分濃度を500重量%以下とするために6分より長い時間を要し、洗浄時間に応じて多量の洗浄液を要した。この結果から、実施テスト機は比較テスト機より洗浄性が高く、より少量の洗浄液(濾液)で十分に洗浄できることが確認された。
【0103】
(発泡性)
ブース水を循環させながら塗装を実施している間に発泡程度を調べて発泡性を評価した。尚、塗装および濾液洗浄操作を通じて消泡剤は使用しなかった。
【0104】
実施テスト機の場合は第1回収槽17’、比較テスト機の場合はブース水槽73’について、槽中に存在する泡およびブース水の体積をそれぞれ調べ、下記の式(II)により発泡率を求めた。
【数2】

【0105】
実施テスト機では発泡率5%以下であったのに対し、比較テスト機では発泡率30%以上であった。この結果から、実施テスト機を用いた場合、比較テスト機を用いた場合よりも発泡率が十分に小さく、発泡を効果的に抑制できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1(a)は本発明の1つの実施形態における捕集装置を備える塗装ブースの概略断面図、図1(b)は図1(a)の捕集装置の部分拡大概略断面図である。
【図2】図1の実施形態における第1流路の内壁面の傾斜角を説明する図である。
【図3】図3(a)〜(e)は図1の実施形態における第1流路の改変例を示す図である。
【図4】本発明のもう1つの実施形態における捕集装置を備える塗装ブースの概略断面図である。
【図5】本発明のもう1つの実施形態における捕集装置を備える塗装ブースの概略断面図である。
【図6】本発明の実施例2における実施テスト機および比較テスト機の洗浄性を評価するためのグラフである。
【図7】図7(a)は従来の捕集装置を備える塗装ブースの概略断面図、図7(b)は図7(a)の捕集装置の部分拡大概略断面図である。
【符号の説明】
【0107】
1、1’ 塗装室
3 送風ファン
5 ワーク(被塗物)
5’ 自動車ボディ(被塗物)
7 ノズル
9 水性塗料
9a 水性塗料ミスト
10 1次捕集部
11 ウォーターカーテン
11’ ウォータースクリーン
12 第1ブース水
13 傾斜壁
15 第1流路
15a 屈曲部
17、17’ 第1回収槽
19 連通路
20 2次捕集部
21、21’ 第2回収槽
22 第2ブース水
23 充填材
25 第2流路
27 排気ファン
29 捕集装置
30、30’、30’’ 塗装ブース
31、35 濃縮槽
33、37 濾液槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性塗料を捕集するための捕集装置であって、
ミスト状の水性塗料を含む気体および第1ブース水が流れる第1流路と、
第1流路を通過した第1ブース水を回収する第1回収槽と
を含み、第1流路は少なくとも1つの屈曲部を有し、第1ブース水は第1流路の内壁面を覆う液状膜を形成しつつ気体と共に第1流路を流れ、これにより気体中にミスト状で含まれる水性塗料を第1ブース水中に捕集する、捕集装置。
【請求項2】
第1流路の内壁面に対する第1ブース水の接触角が60°以内である、請求項1に記載の捕集装置。
【請求項3】
第1流路の内壁面は水平面に対して15〜165°の角度で傾斜している、請求項1または2に記載の捕集装置。
【請求項4】
第1流路を通過した気体が流れる第2流路と、
第2流路内に配置された充填材および邪魔板の少なくとも一方と、
第2流路内に供給される第2ブース水を回収する第2回収槽と
を更に含み、これにより、第1流路を通過した気体中にミスト状で残っている水性塗料を第2ブース水中に捕集する、請求項1〜3のいずれかに記載の捕集装置。
【請求項5】
水性塗料を捕集した第1ブース水を水性塗料濃度が上昇した濃縮部と水性塗料濃度が低下した残部とに分離する濃縮分離装置と、
得られた濃縮部を貯槽し、および濃縮分離装置に供給するように濃縮分離装置と接続された濃縮槽と
を更に含む、請求項1〜4のいずれかに記載の捕集装置。
【請求項6】
濃縮分離装置および濃縮槽を含む複数のセットが水性塗料の色に応じて切換え使用される、請求項5に記載の捕集装置。
【請求項7】
水性塗料により被塗物を塗装するために用いられる塗装ブースであって、
被塗物に水性塗料をスプレーするための塗装室と、
塗装室内に第1ブース水を供給し、塗装室内のミスト状の水性塗料を含む気体および供給した第1ブース水が第1流路に流れるように塗装室と連通している請求項1〜6のいずれかに記載の捕集装置と
を備える塗装ブース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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