説明

水性塗料組成物および塗膜の製造方法

【課題】 粒子状の機能性有機ポリマーが均一に分散されたシリカ塗膜を、水系で容易に形成できる水性塗料組成物、及び、その水性塗料組成物を塗装する方法を提供すること。
【解決手段】 高い親水性を持つアミノ基含有ポリマーをシェル層とするコア−シェル粒子(A)と三価以上のシラン化合物(B)と水とを混合した水性塗料組成物が、コアシェル−粒子(A)とシラン化合物(B)の静電反発により均一に水系溶媒に分散されたシリカゾル液を形成し、粒子状の機能性有機ポリマーが均一に分散されたシリカ塗膜を容易に形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子が分散した有機無機ハイブリッド塗膜を与える水性塗料組成物および、該水性塗料組成物を塗布する塗膜製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ塗膜は、耐候性や絶縁性等の優れた特性を有することから各種絶縁膜や保護膜などに使用されている。このようなシリカ塗膜に他の機能や特性を付与するため各種有機材料とハイブリッド化させる試みが広くなされている。特にシリカ塗膜中に有機材料を粒子状や会合体状で均質に分散させることにより、ハイブリッド化による柔軟性等の特性向上や有機材料の有する機能付与などの効果を高度に発現することが期待される。
【0003】
シリカ塗膜中に有機粒子を分散させた材料としては、例えば、シラン化合物の塗液中にポリエーテルやポリエステル、あるいはポリカーボネートなどの有機ポリマーを混合した後、キャストした膜(特許文献1)、あるいは、溶液中でアルコキシシランのゾル−ゲル反応と同時にアクリルモノマーの重合反応を行い、アクリル粒子をシリカ中に分散させた膜(非特許文献1)などの多孔質無機材料の前駆体となるものが開示されている。
【0004】
しかし、これらのシラン化合物と有機ポリマーの混合物を塗装する方法や、アルコキシシランのゾルゲル反応とアクリルモノマーの重合反応を同時に行う方法によってシリカの連続相に有機粒子を含ませる技術では、シリカの連続層と有機粒子間の極性が大きく異なるために、複合体形成時に界面に十分な相溶性を持たせることができなかった。従って、シリカ塗膜全体に均質に有機粒子を分散させることが困難となり、有機材料を添加することによる柔軟性等の特性向上が十分に得られなかった。また、上記材料において添加されている有機粒子は特別な機能性を付与するものではないため、複合材料としての応用性はほとんど見られないものであった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−181506
【非特許文献1】TAMAKI et.al.PolymerJournal,30,60,1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、粒子状の機能性有機ポリマーが均一に分散されたシリカ塗膜を、水系で容易に形成できる水性塗料組成物、及び、その水性塗料組成物を塗装する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、高い親水性を持つアミノ基含有ポリマーをシェル層とするコア−シェル粒子(A)と三価以上のシラン化合物(B)と水とを混合した水性塗料組成物が、コアシェル−粒子(A)とシラン化合物(B)の静電反発により均一に水系溶媒に分散されたシリカゾル液を形成し、粒子状の機能性有機ポリマーが均一に分散されたシリカ塗膜を容易に形成できることを見出し、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0008】
本発明における水性塗料組成物及び、塗膜の製造方法を用いることにより、アミノ基をシェル層として有するコア−シェル粒子(A)が均一にシリカ塗膜中に分散したハイブリッド膜を与えることができる。この塗膜は、アミノ基を有する粒子がシリカ中に均一に分散している構造であるため、シリカ材料の持つ優れた硬度、耐熱性、あるいは耐溶剤性等を有すると共に、金属イオンや染料といった機能性分子を、アミノ基を有する粒子部分に吸着させることができ、触媒機能、発色機能等の機能を有する。
【0009】
また、本発明の水性塗料組成物は有機溶媒を使用しなくても優れた保存安定性を有するため、シリカ塗膜形成時に溶媒除去する必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[コア−シェル粒子(A)]
本発明において使用するコア−シェル粒子(A)は、高分子化合物からなるコア部の周囲に、アミノ基含有ポリマーからなるシェル層を有するものである。該アミノ基を有するコア−シェル粒子(A)が存在することにより、本発明における水性塗料組成物を塗布した際に、アミノ基を有する粒子がシリカ中に分散した構造の塗膜を得ることができる。該コア−シェル粒子(A)の粒子径としては、20nm以上であると粒子の凝集が生じにくく、また500nm以下であると沈殿が生じにくいため、組成物中の粒子の分散安定性の観点からは、20〜500nmの範囲であることが好ましい。
【0011】
コア−シェル粒子(A)は、シェル層としてアミノ基含有ポリマーを有するため、該シェル層中のアミノ基がシリカとの強い親和力によりコア−シェル粒子(A)とシリカとの界面においてハイブリッド構造を形成し、それがシリカとコア−シェル粒子(A)を接着させる。
【0012】
コア−シェル粒子(A)のシェル層を形成するアミノ基含有ポリマーとしては、キトサン、スペルミジン、ビス(3−アミノプロピル)アミン、ホモスペルミジン、スペルミンなどの塩基性アミノ酸残基を多く有する生体ポリマー、あるいは、ポリリシン、ポリヒスチン、ポリアルギニンなどの合成ポリペプチドをはじめとする生体系ポリアミンや、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミンなどのポリアミン類、あるいは、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(アミノエチルメタクリレート)、ポリ[4−(N,N−ジメチルアミノメチルスチレン)]などのポリアミン類をはじめとする合成ポリアミンや、側鎖にアミノ基を有する各種公知のアクリル樹脂、あるいは、主鎖もしくは側鎖にアミノ基を含有する各種公知のウレタン樹脂などを用いることができる。
【0013】
前記アミノ基含有ポリマーとしては、ポリアミン類が好ましく、中でも、ポリエチレンイミンがより好ましい。
【0014】
コア−シェル粒子(A)中のアミノ基含有ポリマーは、シリカとの強い親和力で、微粒子とシリカとの界面でのハイブリッド構造を形成し、それがシリカと微粒子を接着させたことになる。従って、コア−シェル粒子(A)中のアミノ基含有量は5〜35wt%であればよく10〜30wt%であればさらに好ましい。
【0015】
該アミノ基含有ポリマー中のアミノ基は塩基のまま、または中和された形で用いることができる。酸などによって中和されていると、シラン化合物(B)が加水分解縮合することによって生成するシリカゾルを安定化する効果が得られるため、塗料溶液の安定性が向上して好ましい。アミノ基を中和する度合いとしては、pHが6以下であることが好ましく、4以下であるとさらに好ましい。
【0016】
前期アミノ基を中和する酸としては、塩酸、酢酸、リン酸、ホウ酸、硫酸といった、公知各種の酸類を用いることができる。
【0017】
また、上記アミノ基含有ポリマーは、アミノ基を含有することにより、三価以上のシラン化合物(B)として加水分解性のものを使用した場合には、該アミノ基が酸類によってプロトン化されているポリマーであっても、そうでないポリマーであっても、水中で、三価以上のシラン化合物(B)の加水分解反応の触媒としても働く。
【0018】
コア−シェル粒子(A)のコア部としては、その周囲に上記アミノ基含有ポリマーからなるシェル層を形成できるものであればよく、従来公知のコア−シェル粒子のコア部を形成するものを使用できる。該コア部としてはポリマーからなるものを使用でき、該コア部を形成するポリマーとしては、疎水性ポリマーや親水性ポリマーゲルを使用でき、例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレートなどの疎水性ポリマー、あるいは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)などの親水性ポリマーのゲルを使用できる。
【0019】
コア部の粒径としては、10nm〜300nmが好適である。コア部の粒径が10nm以上であると、コアシェル粒子の合成が比較的容易であるし、300nm以下であるとコア−シェル粒子(A)の安定性が良好である。
【0020】
コア部とシェル部の重量比としては、10/1〜1/10の間にあるのが好適であり、5/1〜1/5の間にあるとさらに好ましい。コア部とシェル部の重量比が10/1以上であると、アミノ基が少なすぎて、塗膜の機能性を発現しにくい可能性があるし、1/10以下であると、コア部が小さすぎてコア−シェル粒子の調製が困難である可能性がある。
【0021】
コア−シェル粒子(A)は、高分子化合物からなる微粒子にアミノ基含有ポリマーをシェル層として付加したものであっても、シェル層を形成するアミノ基含有ポリマー鎖とコア部を形成するポリマー鎖とを有する両親媒性ポリマーからなるものであってもよいが、両親媒性ポリマーからなるものはコア−シェル粒子の調製が容易であるため好ましい。該両親媒性ポリマーは直鎖状、星状、櫛状、多分岐状等のいずれのものであってもよい。
【0022】
コア−シェル粒子(A)は、公知各種の方法で作製することが可能であり、あらかじめ作製したコア粒子の周囲にシェル層を形成する方法や、親水性部と疎水性部とを有する両親媒性ポリマーを分散媒に分散させて粒子を形成する方法、ポリアミン存在下で疎水性モノマーのエマルジョン重合を行って粒子を形成する方法などを使用できる。
【0023】
具体的な方法としては、例えば、水または水と親水性溶媒の混合溶液(以下、これらを総称して水系溶媒と略記する。)中で、水系溶媒中、アミノ基含有ポリマー、過酸化物、及びアミノ基を含まないラジカル重合可能な疎水性モノマーを共存、加熱させる方法が挙げられる。これにより、過酸化物がアミノ基と反応してラジカルを発生し、アミンラジカルを開始剤とするラジカル反応が進行する。この際、アミノ基含有ポリマーは親水性が強いためシェル部に多く存在し、ラジカル重合によってできたポリマーは疎水性を示すため、コア部に多く存在する。その結果、乳化剤などを用いることなく、自発的に粒径のそろったコア−シェル粒子(A)を合成することができる。該方法によれば、コア−シェル粒子(A)を容易に製造できる。
【0024】
この反応におけるアミノ基含有ポリマーとしては、過酸化物との反応性が高く、ラジカル反応の転化率が良好であることから、1級アミノ基を有するポリアミンを特に好適に使用できる。なかでも、分岐構造を有するポリエチレンイミン、ポリアリルアミンなどが入手のしやすさなどから最も好適である。
【0025】
上記方法におけるアミノ基を含まないラジカル重合可能なモノマーとしては、一般的な疎水性モノマーの他に、一般的なラジカル重合反応条件、例えば80℃以上の温度、で疎水性を示す親水性のモノマーも用いることができる。
【0026】
[三価以上のシラン化合物(B)]
本発明において使用する三価以上のシラン化合物(B)(以下、該シラン化合物を単にシラン化合物(B)と略記する。)は、加水分解により、シロキサン結合を形成してシリカのネットワークを形成できるものが使用できる。
【0027】
前記シラン化合物(B)としては、例えば、アルコキシシラン類、反応性基としてハロゲンを有するシラン類、あるいはこれらのオリゴマーなどの加水分解性のシラン化合物が挙げられる。
【0028】
アルコキシシラン類の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(2−エタノール)オルソシリケート、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(イソプロポキシ)シランなどのテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどのトリアルコキシシランが挙げられる。
【0029】
反応性基としてハロゲンを有するシラン類の例としては、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシランといったクロロシラン類などが挙げられる。
【0030】
また、上記シラン類を前もって部分加水分解して、オリゴマー化したものであってもよく、該オリゴマー化したものは、シラノールとなったシリカゾル状態で使用しても良い。オリゴマー化したアルコキシシランをシラン化合物(B)として使用する場合には、その平均重合度は2〜20程度のものを好適に使用することができる。この場合の加水分解触媒としては、公知各種の酸類、アルカリ類を用いることができる。
【0031】
本発明において使用するシラン化合物(B)は、一種であっても複数種であってもよいが、官能基の多いシラン化合物、特にテトラアルコキシシランを使用した場合には、得られる塗膜の塗膜硬度を高くすることができるため好ましい。塗膜硬度を高くする目的でテトラアルコキシシランを使用する場合には、全シラン化合物中のテトラアルコキシシランの含有量としては、30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上有することがより好ましい。
【0032】
また、γ−メタクリロイルプロピルトリメトキシシランをテトラアルコキシシランと併用することにより、上記コア−シェル粒子(A)中のアミノ基とγ−メタクリロイルプロピルトリメトキシシランとが、加熱によって架橋反応することにより、塗膜をより強靭にすることができる。γ−メタクリロイルプロピルトリメトキシシランを使用する場合には、水性塗料組成物中のシラン化合物(B)中の50重量%未満であることが好ましい。
【0033】
本発明の水性塗料組成物中においては、上記シラン化合物(B)以外にジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシランといったジアルコキシシラン類や、テトライソプロポキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラプロポキシチタンといったアルコキシチタン類や、トリエトキシアルミニウムといったアルコキシアルミニウムを発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。これらジアルコキシシラン類、アルコキシチタン類、アルコキシアルミニウム類を含む場合には、ジアルコキシシラン類、アルコキシチタン類、アルコキシアルミニウム類は10重量%未満の範囲であることが好ましい。
【0034】
[水性塗料組成物]
本発明の水性塗料組成物は、少なくとも、上記したコア−シェル粒子(A)、シラン化合物(B)、及び水を必須として混合してなるものである。該水性塗料組成物においては、水中に分散したコア−シェル粒子(A)が、加水分解によりゾル状になったシラン化合物(B)とイオンコンプレックスを形成し、水中でシリカゾルが安定して分散していると考えられる。このため、本発明の水性塗料組成物は、基材へ塗布して水を除去後、加熱あるいはアルカリ処理することにより、容易にゲル化され、塗膜全体がシロキサン結合のネットワークを形成する。この際、シリカゾルとイオンコンプレックスを形成していたコア−シェル粒子(A)中のシェル層が、塗膜中に複合化され、シリカと有機ポリマーとのハイブリッド膜中にコア部の粒子が分散された膜が形成される。
【0035】
混合の順序は特に制限されないが、水中に前記コア−シェル粒子(A)を分散させた後、前記シラン化合物(B)を添加するのがもっとも好ましい。この順序で添加した場合、シラン化合物(B)のゾル状態での分散が良好になるため好ましい。
【0036】
前記シラン化合物(B)は、コア−シェル粒子(A)中のシェル層を形成するアミノ基含有ポリマー/シラン化合物(B)で表される質量比が、概ね60/40〜5/95となる範囲で適宜調整すればよく、40/60〜15/85の範囲にあることが好ましく、35/65〜25/75の範囲にあるとさらに好ましい。上記比が5/95以下であれば得られる塗膜のクラックを低減することができ、また、60/40以上であると塗膜の耐水性の向上が図られる。
【0037】
また、使用する水の量としては、使用するシラン化合物(B)の0.2〜50倍量程度であることが好ましい。
【0038】
また、シラン化合物(B)としてアルコキシシラン類を使用した場合には、前記コア−シェル粒子(A)とシラン化合物(B)を混合した際、アルコキシシラン類が加水分解されて、アルコール類を生じる。このアルコール類を公知慣用の方法で除去したのち前記水性塗料組成物を使用してもよいし、アルコール類を除去せずにそのまま用いても良い。
【0039】
また、水性塗料組成物中には必要に応じて、非イオン性の親水性ポリマー(D)を混合してもよい。該中性の親水性ポリマー(D)は、塗膜を形成した際に塗膜のクラックを防止する効果がある。
【0040】
非イオン性の親水性ポリマー(D)としては、上記したコア−シェル粒子(A)の共存下で、非イオン性かつ親水性のものであれば特に制限されない。非イオン性の親水性ポリマー(D)の例としては、例えば、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリエチレンオキシドなどのポリアルキレンオキシド、ポリジヒドロキシプロピルメタクリレートなどのポリメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレートなどのポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリメチルビニルエーテルやポリエチルビニルエーテルなどのポリビニルエーテル、ポリ(N−メチルアクリルアミド)やポリ(N−エチルアクリルアミド)などのポリ(N−アルキルアクリルアミド)、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)やポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)などのポリ(N−アシルエチレンイミン)などの親水性のものが挙げられる。
【0041】
非イオン性の親水性ポリマー(D)においては、親水性、非イオン性を阻害しない範囲で、メチルメタクリレート単位や、ブチルメタクリレート単位といった、公知各種のアクリレート単位や、ウレタン結合を含む公知各種の構造単位、エステル結合を含む公知各種の構造単位などの構造単位が含まれていてもよい。非イオン性の親水性ポリマー(D)が、これら構造単位を含有する場合には、該構造単位の割合が、非イオン性の親水性ポリマー(D)中の全構造単位に比して、30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることが特に好ましい。
【0042】
非イオン性の親水性ポリマー(D)の分子量としては、300〜1000000の範囲に存在することが好ましい。さらに好ましくは、500〜80000の範囲、さらに好ましくは、1000〜50000の範囲に存在することが望ましい。
【0043】
非イオン性の親水性ポリマー(D)を使用する場合には、コア−シェル粒子に対する重量比が1以下となる量で使用することが好ましい。当該使用量を1以下とすることで、シリカ塗膜へのコア−シェル粒子(A)による機能付与や特性向上効果を十分に発現できる。
【0044】
この水性塗料組成物中に、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルといった各種公知の溶剤を加えることができるし、あるいは平滑剤・濡れ剤といった各種公知の添加剤を加えることができる。
【0045】
また、本発明の水性塗料組成物は溶媒として水を使用するものであるが、必要に応じて、水以外の水溶性溶媒、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ピリジン、ジメチルホルムアミドなどの溶媒を加えても良い。これら水以外の水溶性溶媒を加える場合には、使用する水の量に対して30%未満であることが好ましい。
【0046】
また、本発明においては、発明の効果を損なわない範囲で、各種公知の硬化剤、例えば、水溶性のエポキシ化合物を加えることもできる。
【0047】
本発明の水性塗料組成物は、該組成物中に顔料や染料などの着色剤を加えて、着色塗料として用いることもできる。添加可能な着色剤としては、酸性染料、酸性媒染染料、直接染料、反応染料などの公知慣用の各種染料、あるいは公知慣用の有機顔料、無機顔料を使用できる。着色剤として顔料を使用する場合には、必要に応じて顔料分散用樹脂などを加えることができるのは勿論である。
【0048】
本発明の水性塗料組成物は、ガラス、金属、木材、プラスチックといった各種の基材上に塗布後、硬化させることにより、高い硬度を有するシリカと有機ポリマーとのハイブリッド膜を容易に得ることができる。
【0049】
基材への塗布方法は特に制限されず、例えば、刷毛塗り、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、バーコート法、エアナイフコート法といった各種公知慣用の方法を用いることができ、さらにこれらを組み合わせて用いることもできる。
【0050】
本発明の塗料組成物は、各種基材上に塗布した後、アルカリ処理もしくは、加熱処理によって容易に塗膜を硬化させることができる。また、アルカリと加熱の両方の方法を併用することもできる。
【0051】
アルカリ処理の方法としては、例えば、アルカリ性の化合物を直接噴霧する方法や、アルカリ性の化合物を含む気体中でエージングさせる方法などが挙げられる。ここで使用できるアルカリ性化合物とは、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジエチルエタノールアミン、アミノプロパノール、アンモニアなどがある。
【0052】
上記アルカリ性化合物のなかでもアンモニアを好ましく使用することができる。例えば、上記塗装膜をアンモニア水溶液から揮発するアンモニアガス雰囲気中エージングすることにより、高温をかけることなく、シリカと有機ポリマーとのハイブリッド膜を得ることができる。
【0053】
また、加熱によって塗膜を硬化させる場合には、加熱温度は60〜180℃程度でよい。好ましくは、120℃程度で30分処理することで、塗膜を硬化させることができる。シラン化合物(B)中に、エポキシシラン類を含む場合には、加熱によってエポキシ基とポリアミン類が反応し、塗膜の強靭性がたかまるため、加熱によって硬化させるほうが望ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および参考例によって本発明をさらに具体的に説明する。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0055】
(合成例1)
<コア−シェル粒子分散液(X−1)の調製整>
188mlの水にポリエチレンイミン(Aldrich社製、Mn 60000、50wt%水溶液)4gを溶解し、2N塩酸を加えてpHを7に調整、スチレン8gを加え、窒素気流下で30分間攪拌した。この後、t−ブチルハイドロパーオキサイド(Aldrich社製、70wt%水溶液)2mlを加え、80℃で2時間攪拌(300rpm)することにより、ポリスチレンコア、ポリエチレンイミンのシェル層を有するコア−シェル型微粒子の5wt%分散液を得た。大塚電子社製の粒径測定装置FPAR−1000を用いて測定した25℃における微粒子の平均粒径は、120nmであった。このコア−シェル分散液を減圧濃縮によって、10wt%まで濃縮し、5mol/lの塩化水素水溶液を加えてpHを2に調整することによって、コア−シェル粒子分散液(X−1)を得た。
【0056】
(合成例2)
<コア−シェル粒子分散液(X−2)の調製整>
400mlの水にポリエチレンイミン(Aldrich社製、Mn 60000、50wt%水溶液)3.7gを溶解し、この溶液にN−イソプロピルアクリルアミド6.46g、N,N’−メチレンビスアクリルアミド0.66gを溶解、2N塩酸を加えて溶液のpHを7に調整した後、窒素気流下で30分間攪拌した。この後、t−ブチルハイドロパーオキサイド(Aldrich社製、70wt%水溶液)4mlを加え、80℃で2時間攪拌(300rpm)することにより、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)のコア、ポリエチレンイミンのシェル層を有するコア−シェル型微粒子の1.6wt%分散液を得た。大塚電子社製の粒径測定装置FPAR−1000を用いて測定した25℃における微粒子の平均粒径は、500nmであった。このコア−シェル分散液を減圧濃縮によって、7wt%まで濃縮し、5mol/lの塩化水素水溶液を加えてpHを2に調整することによって、コア−シェル粒子分散液(X−2)を得た。
【0057】
(実施例1)
<水性塗料組成物(1)の調製整>
合成例1で得たコアシェル粒子分散液(X−1)7.4gに、テトラメトキシシランと、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの混合物(テトラメトキシシラン:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン=4:1(質量比))2.42gを攪拌しながら加えたところ、白濁溶液を得た。この溶液を1時間放置し、水性塗料組成物(1)を得た。
【0058】
(実施例2)
<水性塗料組成物(2)の調製整>
合成例2で得たコアシェル粒子分散液(X−2)5.0gに、テトラメトキシシランと、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの混合物(テトラメトキシシラン:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン=4:1(質量比))1.15gを攪拌しながら加えたところ、微白濁溶液を得た。この溶液を1時間放置し、水性塗料組成物(2)を得た。
【0059】
(実施例3)
<水性塗料組成物(3)の調製整>
合成例1で得たコアシェル粒子分散液(X−1)5.0gに、ポリビニルアルコール(和光純薬工業(株)製、平均重合度500、完全けん化)1.5gを混合した後、テトラメトキシシランと、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの混合物(テトラメトキシシラン:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン=4:1(質量比))2.09gを攪拌しながら加えたところ、微白濁溶液を得た。この溶液を1時間放置し、水性塗料組成物(3)を得た。
【0060】
(応用例1)
<塗装物(1)の作成>
実施例1で得られた水性塗料組成物(1)を、スライドガラス上に、3milのアプリケーターで塗装後、130℃で30分乾燥させたところ、膜厚約2μmの無色透明な高い硬度を有する塗装物(1)を得た。得られた塗装物(1)断面の透過型電子顕微鏡写真を図1〜2に示す。
【0061】
(応用例2)
<塗装物(2)の作成>
得られた水性塗料組成物(2)を、スライドガラス上に、3milのアプリケーターで塗装後、80℃で30分乾燥させたところ、膜厚約2μmの無色透明な高い硬度を有する塗装物(2)を得た。得られた塗装物(1)断面の透過型電子顕微鏡写真を図3〜4に示す。
【0062】
(応用例3)
<塗装物(3)の作成>
得られた水性塗料組成物(3)を、スライドガラス上に、3milのアプリケーターで塗装後、80℃で30分乾燥させたところ、膜厚約2μmの無色透明な高い硬度を有する塗装物(3)を得た。得られた塗装物(1)断面の透過型電子顕微鏡写真を図5〜6に示す。
【0063】
上記応用例1〜3で得られた塗装物を透過型電子顕微鏡で観察したところ、図1〜6に示すようにシリカ塗膜中にコアシェル粒子が分散している構造の塗膜ができたことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】応用例1で得られた塗装物断面の透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】応用例1で得られた塗装物断面の透過型電子顕微鏡写真(拡大図)である。
【図3】応用例2で得られた塗装物断面の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】応用例2で得られた塗装物断面の透過型電子顕微鏡写真(拡大図)である。
【図5】応用例3で得られた塗装物断面の透過型電子顕微鏡写真である。
【図6】応用例3で得られた塗装物断面の透過型電子顕微鏡写真(拡大図)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基含有ポリマーをシェル層とするコア−シェル粒子(A)と、三価以上のシラン化合物(B)と、水とを混合した水性塗料組成物。
【請求項2】
前記コア−シェル粒子(A)のコア部が、疎水性ポリマー又は親水性ポリマーゲルからなるものである請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記コア−シェル粒子(A)が、疎水性ポリマー鎖とアミノ基含有ポリマー鎖とを有する両親媒性ポリマーからなるものである請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記アミノ基含有ポリマー中のアミノ基含有量が5〜35wt%である請求項1〜3のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記アミノ基含有ポリマーが、ポリアミンである請求項1〜4のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
前記コア−シェル粒子(A)の粒径が、20〜500nmの範囲にある請求項1〜5のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
非イオン性の親水性ポリマー(D)を更に混合してなる請求項1〜6のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
前記非イオン性の親水性ポリマー(D)が、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ(N−アルキルアクリルアミド)、ポリ(N−アシルエチレンイミン)類から選ばれる少なくとも一種である請求項7に記載の水性塗料組成物。
【請求項9】
前記三価以上のシラン化合物(B)が、アルコキシシラン類、反応性基としてハロゲンを有するシラン類、あるいはこれらのオリゴマーから選ばれる少なくとも一種である請求項1〜8のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項10】
前記三価以上のシラン化合物(B)が、テトラアルコキシシラン類、トリアルコキシシラン類から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜9のいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の水性塗料組成物を基材に塗布した後、アルカリ処理することからなる塗膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の水性塗料組成物を基材に塗布した後、60〜180℃の温度で加熱することからなる塗膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−291089(P2006−291089A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115620(P2005−115620)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】