説明

水性塗料

【課題】落書きに対しては簡単に落とすことが出来、再塗装する場合には水性塗料の塗膜を落とすことにより再塗装が可能であり、かつ作業環境に優れる水性塗料を提供すること。
【解決手段】融点が52〜69℃であるワックスをアルキル基の炭素数が30〜55である長鎖脂肪族1級アルコールにエチレンオキシドを付加重合したHLB値が7〜13である界面活性剤の存在下に水中に分散してなる水性塗料、およびこの水性塗料に酸価を有するワックスの水性分散体を配合してなる水性塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、公共及び私的建造物の外壁、内壁、鉄道高架橋などの橋脚、橋桁、地下横断通路の壁面、自動車防音壁面などへの落書きの汚れ等を容易に落としやすくするための水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道や道路の高架橋の橋脚、橋桁、高速道路外壁、地下横断通路壁面などの公共建築物から個人住宅にまでところ構わずスプレー缶等による落書きがなされ、これによる被害は年々増加の一途をたどっており社会問題に発展している。
これまでこうした落書き被害を修復する方法としていくつかの方法があった。一つには落書きを消す方法があり手段としては1)再塗装する2)ペンキを落とすの2通りあり1)落書きの上にペンキを再塗工する方法は非常にコストがかかってしまい、元の状態には戻らない。2)のペンキを落とすにはペンキは有機溶剤では簡単に落ちない為時間と労力がかかってしまう。この為ペンキを落とす手段が2つある。一つは落とす手段でありこれには特別な機械を使用したり、特殊な洗浄剤を使用したり、機械が高価であったり、洗浄剤に揮発性溶剤が含まれており環境に有害であったりする。もう一つの落とす手段は予め下地に落書き防止塗料をコート或いは加工しておくことによりその上の落書きが容易に落とせるものもあるが、フッ素樹脂系のものやシリコン系のものは再度その上に塗装を行う場合、はじいてしまいきれいに描けなかったり、塗装物がはがれ落ちる等の問題がある(非特許文献1参照)。
このため、地球及び作業環境に配慮した有機溶剤を含まない、完全水性の落書き落としに優れ、なおかつ、塗工してもその塗膜を剥がすことにより再塗装できるような落書き落とし用水性塗料が求められている。
【0003】
特許文献1には、ワックスを長鎖脂肪族1級アルコールにエチレンオキシドを付加重合した界面活性剤の存在下に水中に分散したペースト状つや出し剤が記載されているが、この組成物は作成の過程で有機溶剤を使用するため、安全衛生面に問題があった。
【0004】
【非特許文献1】2003年版能性塗料・コーティングの現状と将来展望 (株式会社富士キメラ総研)
【特許文献1】特開平9−310046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の汚れ落とし剤や落書き防止塗料の様に有機溶剤を含むことなく、汚れや落書きなどを水で洗い落とすことが出来て、再度塗装を行う場合には水性塗料の塗膜を簡単に落とすことで再塗装が可能な水性塗料を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はワックスを、長鎖脂肪族1級アルコールにエチレンオキシドを付加重合したHLB値が7〜13である界面活性剤の存在下に水中に分散してなる水性塗料に関する。
【0007】
また、本発明はワックスの融点が52〜69℃である前記水性塗料に関する。
【0008】
また、本発明は界面活性剤のアルキル基が炭素数30〜55である前記水性塗料に関する。
【0009】
また、本発明は界面活性剤がワックス100重量部に対して7〜45重量部である前記水性塗料に関する。
【0010】
また、本発明は分散粒子の平均粒子径が5μm以下である前記水性塗料に関する。
【0011】
また、本発明は、酸価を有するワックスの水性分散体を前記水性塗料100重量部に対して5〜100重量部併用してなることを特徴とする水性塗料に関する。
【0012】
また、本発明は、酸価を有するワックスが、分子量が400〜2000で酸価が10〜100mgKOH/g以下である前記水性塗料に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性塗料は完全水性で大気中に溶剤を揮発することが無い為環境に悪影響を与えることが無く、外壁等に予め塗工することによりその上に書かれた落書きを水を流しながら金属たわしで簡単に擦りとったり、粘着テープを貼りそれを剥がすことにより容易に落とすことができるようになった。また再度塗装を行う場合には水性塗料の塗膜を簡単に落とすことで再塗装が可能な水性塗料を提供できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の水性塗料はワックスを長鎖脂肪族1級アルコールにエチレンオキシドを付加重合したHLB値が7〜13である界面活性剤の存在下に水中に分散してなる水性塗料である。
【0015】
本発明においてワックスとはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油ワックス、ポリエチレンワックス、プロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の合成ワックスがある。ワックスの融点は52〜69℃、好ましくは60〜66℃である。52℃未満または69℃より高いと分散粒子の平均粒子径が大きくなり落書き落とし効果が低下する。ワックスの融点はJIS K 2235−5.3に定義される方法で測定する。
【0016】
界面活性剤の分子構造は長鎖脂肪族1級アルコールの分岐構造のあるものも含むが直鎖構造のものがより好ましい。分岐構造であるとワックスを分散する能力が低下し、分散粒子の平均粒子径が大きくなる。
また、界面活性剤のアルキル基は炭素数30〜55である。これよりも炭素数が少ない或いは多いと分散粒子の平均粒子径の大きさが大きくなり落書き落とし効果が低下し好ましくない。
【0017】
本発明において界面活性剤の分子量は浸透圧法にて測定し、数平均分子量Mnとして表す。界面活性剤のHLB値が7より小さいか、13より大きいとワックスからなる分散粒子の平均粒子径が大きくなり落書き落とし効果が劣り好ましくない。
【0018】
本発明にて使用される界面活性剤はワックス100重量部に対して7〜45重量部併用することが好ましい。界面活性剤の重量比が7より少ないとワックスの分散性の低下が起こり分散粒子の平均粒子径が大きくなり分散安定性が低下し、水と有効成分が分離するまた、落書き落とし効果が低下する。また、界面活性剤の重量比が45より多いと粒子の微粒化が起こり流動性が低下し塗料の状態が悪くなり取り扱いが低下する。
【0019】
また、本発明において得られる水性塗料はワックスの分散粒子の平均粒子径が5μm以下であることが好ましい。平均粒子径が5μmよりも大きくなると分散安定性が低下し、水と有効成分が分離するまた、落書き落とし効果が低下する。
【0020】
さらに本発明の落書き落とし塗料にはワックス、界面活性剤、以外にも防腐剤、pH調整剤等の添加剤を加えることもできる。
【0021】
本発明の落書き落とし塗料はコンクリートやモルタル、金属板等の橋脚壁面や防音壁面等ペンキ等により落書き被害が生じる部分に塗工、使用できる。
【0022】
本発明の落書き落とし塗料は前記水性塗料100重量部に対し、酸価を有するワックスの水性分散体を5〜100重量部配合したものでも良い、酸価を有するワックスとしては分子量が400〜2000で酸価が10〜100mgKOH/g、好ましくは15〜45mgKOH/gのものが好ましい。
【0023】
酸化を有するワックスの具体例としては、酸化ワックス、酸変性ワックスまたは酸共重合体ワックスがあり、酸変性ワックス、酸共重合体ワックスとしては、エチレンアクリル酸、エチレンメチルメタアクリレート、エチレンエチルアクリレート、エチレンメチルアクリレート、エチレンメタクリル酸等の共重合体のワックスがある。酸価を有するワックスの分子量は浸透圧法にて測定した数平均分子量Mnで表したものである。
【0024】
酸価を有するワックスの水性分散体を併用することにより塗工時のコンクリートや金属板への定着が高まり浸食に強い塗膜を形成する。このことにより耐水性が向上しトンネル等直接水に触れない様な場合には問題無いが、屋外において雨にさらされる様な場合でも塗膜が水の影響を受けずに浸食等に強く、塗膜が白化したりしない見栄えの良い塗膜となる。併用量が重量部で5未満であると耐水性効果が得られず、100重量部よりも多くなると落書き落とし効果が低下する。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の好適な実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、これらの実施例はいかなる点においても本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
本発明における各種の特性値の測定方法は以下の方法で行った。
(1)平均粒子径(μm)の測定
堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920により測定、メジアン径を平均粒子径とした。
【0027】
(2)水性塗料の状態評価
水性塗料の状態を判定する。状態は下記の基準で判定し普通以上を使用可能とする。
良好:流動性に優れる。
普通:容器を傾けると流動する。
不良:流動しない。
【0028】
(3)水性塗料の経時安定性の評価
水性塗料をガラスビンに入れ密閉し室温に静置し6ヶ月後の状態を判定する。下記の基準で判定し普通以上を使用可能とする。
良好:分離や凝集しない。
普通:分離するが振騰すると均一化する。
不良:分離または凝集が起こり振騰しても戻らない。
【0029】
(4)耐水性の評価方法
水性塗料を塗工する基材 :大平板
塗工基材作成方法 :
1)上記基材にはけにて水で2倍に薄めた水性塗料を塗工する。
2)室温で1日放置乾燥する。
3)塗工基材を水を張った容器に3日間ドブ漬けする。
4)評価 塗膜の表面状態を判定する。評価は下記基準により3段階で評価を行う。○以上を使用可能とする。
◎:塗工状態に変化無し。
○:表面が僅かに白く変色する。
△:表面が白く変色する。
【0030】
(5)落書き落とし効果の評価方法
水性塗料を塗工する基材 :大平板
落書き落とし効果評価方法:
1)上記基材にはけにて水で2倍に薄めた水性塗料を塗工する。
2)室温で1日放置乾燥する。
3)翌日各種ペンキを塗工する。
4)評価 ペンキ塗工後1週間後金たわしにて擦り剥がし塗料未塗工部分と塗工部分とを比較し落書きの落ちた度合いを比較する。評価は下記基準により5段階で評価を行う。
5:ペンキが軽い力で完全に落ちる。
4:ペンキが強くこすることで完全に落ちる。
3:ペンキが落とせない部分がある。
2:ペンキが部分的に落とせる。
1:全くペンキが落ちない。
判定:上記評価で4以上を合格とする。
【0031】
界面活性剤の製造方法
耐熱耐圧容器に長鎖脂肪族1級アルコールと水酸化カリウムを入れ密閉し容器内の酸素を窒素で置換し完全に追い出す。その後攪拌加温しながら完全に溶解する。その後カリウムアルコラート生成と共に生じる水を真空ポンプにて減圧にして取り除く。そこへエチレンオキシドを充填したボンベを接続し容器内を攪拌しながら圧力の上昇に充分注意しつつ徐々にエチレンオキシドを添加する。目的量添加した後更に加熱攪拌し、完全に反応させる。内容物を取り出し、不純物を吸着剤で吸着後フィルターで除去し、目的の界面活性剤を得た。
使用した長鎖脂肪族1級アルコールは表1の通りである。
【0032】
水性塗料の製造方法
パラフィンワックス40部、界面活性剤10部をステンレスビーカーに計り取る。それを加熱溶解し攪拌装置で充分攪拌し110℃とする。他のステンレス容器に水50部を計り取り90℃に加熱する。そこへ上記ワックスと界面活性剤の溶融混合物をゆっくり滴下する。この時90℃の水の入ったステンレスビーカーはゆっくり攪拌しながら滴下を行う。滴下終了後加熱を止め、熱媒を取り除き室温で徐々に冷却する。50℃以下に冷却後目的の水性塗料を得る。
得られた水性塗料の処方を表2に示す。パラフィンワックスと界面活性剤の部数並びに融点、分子量等が異なっても上記条件にて作成した。
【0033】
水性分散体の製造方法
耐圧容器に分子量2000、酸価20の酸化ワックスを25部、ジメチルエタノールアミンを3部、オレイン酸を3部、水を70部加え、密閉し130℃に加温し1時間加熱攪拌後、攪拌しながら冷却し約30分程で60℃まで冷却し目的の水性分散体を取り出し得た。
この水性分散体と水性塗料とを必要に応じ計りとりかき混ぜ目的の水性塗料を得た。
また分子量1000、酸価40の酸化ワックスについても耐圧容器に酸化ワックス25部、ジメチルエタノールアミンを3部、オレイン酸を3部、水を70部加え、密閉し、同様な方法にて水分散体を得た。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
パラフィンワックス
1 融点 49℃
2 融点 54℃
3 融点 68℃
4 融点 71℃
【0037】
界面活性剤
1 分子量 1420 HLB値 8
2 分子量 1170 HLB値 8
3 分子量1150 HLB値 12
4 分子量 940 HLB値 12
【0038】
水性分散体
1 酸化ワックス 分子量2000 酸価 20mgKOH/g
2 酸化ワックス 分子量1000 酸価 40mgKOH/g
【0039】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワックスを長鎖脂肪族1級アルコールにエチレンオキシドを付加重合したHLB値が7〜13である界面活性剤の存在下に水中に分散してなる水性塗料。
【請求項2】
ワックスの融点が52〜69℃である請求項1記載の水性塗料。
【請求項3】
界面活性剤のアルキル基の炭素数が30〜55である請求項1又は2いずれか記載の水性塗料。
【請求項4】
界面活性剤がワックス100重量部に対して7〜45重量部である請求項1ないし3いずれか記載の水性塗料。
【請求項5】
分散粒子の平均粒子径が5μm以下である請求項1ないし4いずれか記載の水性塗料。
【請求項6】
酸価を有するワックスの水性分散体を請求項1ないし5いずれか記載の水性塗料100重量部に対して5〜100重量部併用してなることを特徴とする水性塗料。
【請求項7】
酸価を有するワックスが、分子量が400〜2000で酸価が10〜100mgKOH/g以下である請求項6記載の水性塗料。


【公開番号】特開2007−77344(P2007−77344A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269586(P2005−269586)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【出願人】(591004881)東洋ペトロライト株式会社 (51)
【Fターム(参考)】