説明

水性殺虫液剤

【課題】特定のピレスロイド系化合物の水性殺虫液剤の製造において溶解性が高く、更に汎用な溶解助剤を得ること。
【課題の解決手段】(A)ピレスロイド系化合物及び(B)界面活性剤を含む水性殺虫液剤において、(C)溶解助剤として脂肪族ジエステル類及び/又は芳香族エーテル類を用いたことを特徴とする水性殺虫液剤。
特に、水性殺虫液剤の(C)/(A)の質量比が0.5以上15以下であり、かつ(B)/(C)の質量比が、1以上20以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピレスロイド系化合物を用いた水性殺虫液剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種ピレスロイド系化合物は、各種害虫に卓越したノックダウン効果を示し、これらの防除に使用されている。使用形態としては、ピレスロイド系化合物に各種の溶剤を添加し、これにガスを加え、エアゾール剤としたものや、ピレスロイド系化合物に界面活性剤を加え、油性の溶剤を添加し、使用に際して水を加える形態など、各種の方法で使用されている。
特許文献1では、エアゾール剤の形態として、ケロシン難溶解性ピレスロイドを溶解するための溶解剤として各種のものが検討されており、芳香族アミド系化合物をケロシン難溶解性ピレスロイド溶解剤として用いるものが提案されている。この場合の溶解剤としては、芳香族アミド化合物、さらにはN,N−ジエチルトルアミドに限定されるとともに、使用用途もエアゾ−ル剤とすることが示されており、用途が限定されている。
また、ピレスロイド系化合物に溶解助剤を加えるタイプのものとしては、ピレスロイド系化合物とサリチル酸フェニルに溶解助剤として、グリセンリンと脂肪酸がエステル結合した非イオン性界面活性剤を配合したものが、特許文献2に開示されている。この場合は、溶解助剤はサリチル酸フェニルの溶解性を高めるために使用されているものであったが、目的としては、ウレタンなどの合成樹脂に処理する際に合成樹脂を痛めない有害生物防除組成物となっている。
【0003】
しかしながら、これらのピレスロイド系化合物の溶解剤又は溶解助剤の使用においては、その使用用途が限定されるとの問題があった。また、使用に際しては各種の界面活性剤を組み合わせて検討するなど、その時々で検討がなされ、汎用に使用可能な溶解助剤といったものは見いだされてはいなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−306753号公報
【特許文献2】特開平6−166602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは、ピレスロイド系化合物を溶解する際に使用する溶解助剤として各種化合物の検索を鋭意おこなったところ、脂肪族ジエステル類及び芳香族エーテル類のうち、これらのいずれか一方又は両方を使用した場合に、別途使用する界面活性剤の使用量を削減するとともに、安定した乳化安定性が得られることを知見し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の内容で構成される。
(1)(A)ピレスロイド系化合物及び(B)界面活性剤を含む水性殺虫液剤において、(C)溶解助剤として脂肪族ジエステル類及び/又は芳香族エーテル類を用いたことを特徴とする水性殺虫液剤。
(2)(C)/(A)の質量比が0.5以上15以下であり、かつ(B)/(C)の質量比が、1以上20以下であることを特徴とする(1)に記載の水性殺虫液剤。
(3)ピレスロイド系化合物がシフルトリン又はベータシフルトリンのいずれかである(1)又は(2)のいずれかに記載の水性殺虫液剤。
(4)脂肪族ジエステル類がジブチルサクシネートである(1)から(3)のいずれかに記載の水性殺虫液剤。
(5)芳香族エーテル類がピペロニルブトキシドである(1)から(3)のいずれかに記載の水性殺虫液剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水性殺虫液剤においては、通常では、界面活性剤の選択において各種の界面活性剤の検討が必要であるものでも、これらの溶解助剤を用いることで、界面活性剤の使用量を抑えることが出来る。一般的なピレスロイド系化合物であれば、これらの溶解助剤を使用することで不安定となりがちなものでも、安定した乳化安定性を維持することが可能となる。
さらには、本発明の水性殺虫液剤を使用した場合には、殺虫効果を高めることも出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられるピレスロイド系化合物は、各種の害虫に対して卓越した効果を発揮するので、殺虫成分としては有用である。しかしながら、ピレスロイド系化合物は水には難溶解性の成分であって、溶解性を高めるために種々の検討が必要であった。
また、ピレスロイド系化合物を界面活性剤を用いて、乳化させた場合であっても乳化安定性が不十分となる場合もあり、製造してから使用するまでの間に、乳化安定性を維持できないこともあった。
かかる状況に鑑み、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、本発明の溶解助剤を見出すことに至ったものである。
特に、本発明におけるピレスロイド系化合物としては、水に難溶解性である3−フェノキシベンジルエステルタイプのピレスロイド系化合物に対しては特に有用である。
なお、本発明で示している3−フェノキシベンジルエステルタイプのピレスロイド系化合物の3−フェノキシベンジルエステル部分のフェノキシ基やベンジル基のベンゼン環やメチレン部分には各種の置換基が置換していてよいのはもちろんである。たとえば、ベンジル基の4位にフッ素やメチレン部分にシアノ基等の各種の置換基が置換しているものが挙げられる。
【0009】
本発明で溶解助剤として用いられる化合物は、脂肪族ジエステル類としては、通常の脂肪族ジエステル類であれば、何れも使用可能である。
特に、脂肪族ジエステル類でも、マロン酸ジエステル、コハク酸ジエステル、グルタル酸ジエステルなどの、エステル同士の間の炭素が1〜3個のものがよい。
また、芳香族エーテル類タイプのものでは、芳香族のメチレンジオキシ基が置換したものがより好適なものとして例示される。
【0010】
ピレスロイド系化合物としては、イミプロトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ぺルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、トラロメトリン、フタルスリン、レスメトリン、アレスリン、プラレトリン、フラメトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、エトフェンプロックス等のものが挙げられる。
また、3−フェノキシベンジルエステルタイプのピレスロイド系化合物としては、通常に使用されるものであれば特に限定はされることはなく、各種の化合物が使用可能である。例えば、フェノトリン、シフェノトリン、ぺルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン等が挙げられる。これらの中でも、難溶解性であるシフルトリンやベータシフルトリンに対して使用した場合では、特に有用である。
また、これらのピレスロイド系化合物では各種の異性体が存在する場合があるが、本発明にはこれらいずれの異性体であっても本発明に含まれる。
【0011】
これらのピレスロイド系化合物は、室温付近では液体の状態で存在するものが多いが、粘度の高い物性のものに対しては本発明は特に有用である。このような条件に当てはまる化合物としては、例えば、シフェノトリン、シフルトリン、ベータシフルトリンなどが挙げられる。
【0012】
また、本発明で使用される界面活性剤についても、一般的に使用されている界面活性剤では、いずれも使用可能である。一例を挙げると、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル類などのエーテル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類などの脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール、脂肪酸のポリアルカロールアミドなどの非イオン系界面活性剤や、例えば、ポリオキシエチレン(POE)スチリルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテル硫酸塩、ドデシルベンゼン硫酸塩などのアニオン系界面活性剤などがある。
これらの界面活性剤は、単独で使用しても良いし、混合して使用してもよい。
特に、これらの中では、ポリオキシエチレンのモノエーテルタイプが好適な例として挙げられる。また、ポリオキシエチレン部分の重合度についても各種のものが使用可能であるが、重合度が5〜100、さらには7〜40であれば、より好ましい。
【0013】
本発明の水性殺虫液剤には必要に応じて各種の共力剤、忌避剤、防黴剤などを添加することが出来る。共力剤としては、一般にピレスロイド系化合物に使用される共力剤であれば、特に限定されるものではないが、オクタクロロジプロピルエーテル、N−(2−エチルヘキシル)−1−イソプロピル−4−メチルビシクロ[2,2,2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、イソボルニルチオシアノアセテート、ベンジルベンゾエート、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、ベンジルベンゾエートなどが例示される。
【0014】
本発明の水性殺虫液剤は、必要に応じて、各種の油性溶剤や、水に溶解させて使用できる。油性溶剤としては、通常の殺虫剤に使用される油性溶剤であれば、使用可能である。例えば、ヘキサン、ケロシン、灯油、n−ペンタンなどの脂肪族炭化水素類やトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類を挙げることが出来る。
【0015】
このようにして得られた水性殺虫液剤は、各種の害虫に使用可能である。使用される害虫の例としては、例えば、アリ類、ゴキブリ類、ヤスデ、ムカデ類、シロアリ類、コナダニ、チリダニ等の屋内塵性ダニ類、アカイエカ、ネッタイシマカ、ユスリカ類、イエダニ類、ブヨ、アブ等の害虫が挙げられる。
特に、アリ類の液剤に用いる場合には、特に有用である。
【0016】
次に具体的実施例並びに試験例に基づいて、本発明の水性殺虫液剤について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
有効成分として、ベータシフルトリン0.5g、ジブチルサクシネート5g、ビトレックス0.002g及びポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル15gを混合する。さらに水を加えて、全量100gとし水性乳剤を製造した。
本水性乳剤は、無色の澄明な液で、放置しても分離等の発生はなかった。
【0018】
以下、実施例1と同様に下記の処方について、水性乳剤を作成した。
【0019】
【表1】


溶解性の評価 ◎:完全に溶解 ○:溶解 △:わずかに白濁 ×:溶解せず
溶解安定性の評価 ◎:完全に溶解 ○:溶解 △:わずかに白濁 ×:溶解せず
※:ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル

【0020】
試験の結果、有効成分に脂肪族ジエステル類及び/又は芳香族エーテル類及び界面活性剤を加えた実施例では、いずれも溶解性に優れていた。また、40℃で1箇月保存した場合でも、液の分離等は認められなかった。
これに対して、比較に示した有効成分に界面活性剤に水を加えた場合は、溶解性が悪かった。また、界面活性剤の量を増やした比較2でも、一時的にわずかに白濁し溶解しているように思われたが、40℃で保存すると完全に有効成分が分離した。

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、各種の殺虫液剤の分野において、また、これを使用する殺虫駆除剤の分野において、須らく利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ピレスロイド系化合物及び(B)界面活性剤を含む水性殺虫液剤において、(C)溶解助剤として脂肪族ジエステル類及び/又は芳香族エーテル類を用いたことを特徴とする水性殺虫液剤。
【請求項2】
(C)/(A)の質量比が0.5以上15以下であり、かつ(B)/(C)の質量比が、1以上20以下であることを特徴とする請求項1に記載の水性殺虫液剤。
【請求項3】
ピレスロイド系化合物がシフルトリン又はベータシフルトリンのいずれかである請求項1又は2に記載の水性殺虫液剤。
【請求項4】
脂肪族ジエステル類がジブチルサクシネートである請求項1から3のいずれか1項に記載の水性殺虫液剤。
【請求項5】
芳香族エーテル類がピペロニルブトキシドである請求項1から3のいずれか1項に記載の水性殺虫液剤。


【公開番号】特開2012−87087(P2012−87087A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234536(P2010−234536)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】