説明

水性組成物

【課題】ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂とアニオン性コロイダルシリカを含有する水性組成物であって、支持体上に塗工し、乾燥して得られた皮膜が光沢性に優れるとともに、粘度安定性が高い水性組成物の提供。
【解決手段】PVA系樹脂(A)とアニオン性コロイダルシリカ(B)を含有する水性組成物であって、該PVA系樹脂(A)が、カチオン変性PVA(A1)と未変性PVA(A2)を含有し、PVA系樹脂(A)の全構造単位に対するカチオン性基の含有量が0.1〜0.4モル%であり、PVA系樹脂(A)の総量に対する未変性PVA(A2)の含有量が10〜50重量%である水性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(以下、PVAとも表記する)系樹脂とアニオン性コロイダルシリカを含有する水性組成物に関し、詳細には、紙などの支持体上に塗工し、乾燥して得られた皮膜が光沢性に優れるとともに、粘度安定性が高い水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
PVA系樹脂とコロイダルシリカを含有する水性組成物を紙などの支持体上に塗工し、乾燥して得られた皮膜は、耐久性に優れることから、保護皮膜として好適であり、さらにコロイダルシリカの含有量が多い場合には多孔質の皮膜が得られ、インクジェット記録用媒体の光沢層として有用である。
【0003】
特に、PVA系樹脂としてカチオン変性PVAを用いることで表面光沢性に優れた皮膜が得られることが知られている(特許文献1)。
【0004】
また、コロイダルシリカとしてアニオン性コロイダルシリカを用いることで、光沢性に優れる皮膜が得られることも知られている(特許文献2)。
【0005】
従って、カチオン変性PVAとアニオン性コロイダルシリカを併用した場合、光沢性に対する両者の効果が得られ、さらには、カチオン変性PVAがコロイダルシリカに吸着することにより、皮膜を形成する水性液の乾燥過程において、カチオン変性PVAがコロイダルシリカの分子間に介在し、光沢性の良い皮膜が形成されることが期待できる。しかしながら、カチオン変性PVAとアニオン性コロイダルシリカを含有する水性液は、両者の荷電が中和されるので、コロイダルシリカが凝集し、増粘しやすい。コロイダルシリカの凝集を抑制するために、カチオン変性PVAの変性量を少なくしたとしても、その改善効果は大きくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−169298号公報
【特許文献2】特開2010−234789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、PVA系樹脂とアニオン性コロイダルシリカを含有する水性組成物であって、支持体上に塗工し、乾燥して得られた皮膜が光沢性に優れるとともに、粘度安定性が高い水性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題の解決途上において、アニオン性コロイダルシリカと併用するPVA系樹脂として微量のカチオンで変性されたPVAを用いたところ、皮膜の光沢性は得られるものの、増粘の抑制に不十分なものもあることを知得した。微量のカチオンで変性されたPVA、例えば、変性基の含有量が0.2モル%未満の微量カチオン変性PVAでは、PVAの重合度が500であれば、一つの分子鎖中に含まれる変性基の平均個数は1個未満となる。これは、分子鎖中に変性基を含まない未変性PVAを必ず含有することを意味する。
【0009】
本発明者らは、このような微量カチオン変性PVA中に実質的に含まれる未変性PVAの含有量に着目し、検討した結果、未変性PVAの含有量が多くても半分以下であり、かつ全PVA系樹脂に対するカチオン性基の含有量が特定少量であるPVA系樹脂を用いて、アニオン性コロイダルシリカと併用することによって、上記課題が解決されることを見出した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、PVA系樹脂(A)とアニオン性コロイダルシリカ(B)を含有する水性組成物であって、該PVA系樹脂(A)が、カチオン変性PVA(A1)と未変性PVA(A2)を含有し、PVA系樹脂(A)の全構造単位に対するカチオン性基の含有量が0.1〜0.4モル%であり、PVA系樹脂(A)の総量に対する未変性PVA(A2)の含有量が10〜50重量%であることを特徴とする水性組成物に関するものである。
【0011】
本発明の水性組成物において、PVA系樹脂(A)とアニオン性コロイダルシリカ(B)の含有量比(A/B)は重量比で0.1/99.9〜50/50であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水性組成物は、粘度安定性が高く、光沢性に優れた皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の水性組成物を詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。本発明の水性組成物はPVA系樹脂(A)とアニオン性コロイダルシリカ(B)を含有する。さらに、PVA系樹脂(A)はカチオン変性PVA(A1)と未変性PVA(A2)を含有する。まず、カチオン変性PVA(A1)について説明する。
【0014】
〔カチオン変性PVA(A1)〕
本発明で用いられるカチオン変性PVA(A1)としては、特に限定されないが、例えば、カチオン性基あるいはケン化によってカチオン性基に変わる官能基を有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物との共重合体をケン化することによって得られるものが挙げられる。中でも、カチオン性基が4級アンモニウム基又はアミノ基であるものが好ましい。
【0015】
上記のカチオン性基を有する不飽和単量体としては、トリメチル−(メタクリルアミド)−アンモニウムクロライド、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロライド、3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N−(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)ジメチルアミン、N−(4−アリルオキシ−3−ヒドロキシブチル)ジエチルアミン、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等の4級アンモニウム塩が挙げられ、これら不飽和単量体から選ばれる1種または2種以上の不飽和単量体が用いられ得る。
【0016】
また、上記のケン化によってカチオン性基に変わる官能基を有する不飽和単量体としては、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−アリルアセトアミド、N−アリルホルムアミド等のカルボン酸アミド化合物が挙げられ、これら不飽和単量体から選ばれる1種または2種以上の不飽和単量体が用いられ得る。
【0017】
上記の不飽和単量体と共重合されるビニルエステル系化合物としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が単独又は併用で用いられるが、実用上は酢酸ビニルが好適である。
【0018】
本発明で用いられるカチオン変性PVA(A1)における変性量は、通常、0.1〜3モル%であり、特に0.15〜2モル%、殊に0.2〜1モル%が好ましい。変性量が多すぎると、粘度安定性が悪くなり、短時間で増粘してゲル化する傾向がある。一方、変性量が少なすぎると、表面光沢度が不十分になる傾向がある。
【0019】
本発明で用いられるカチオン変性PVA(A1)の重合度は、特に限定されないが、通常、3〜30mPa・sであり、特に4〜10mPa・s、殊に5〜8mPa・sが好ましい。重合度が高すぎると、粘度が高くなり、作業性が低下する傾向がある。一方、重合度が低すぎると、粘度が低く弾き易くなり、均一な塗工が困難になる傾向がある。なお、重合度の上記指標は、20℃における4重量%水溶液での粘度である。
【0020】
本発明で用いられるカチオン変性PVA(A1)のケン化度は、特に限定されないが、通常、70〜100モル%であり、特に75〜99.8モル%、殊に80〜90モル%が好ましい。ケン化度が高すぎると、水溶性が悪くなる傾向があり、低すぎると、製造が難しくなる傾向がある。
【0021】
〔未変性PVA(A2)〕
本発明で用いられる未変性PVA(A2)としては、特に限定されないが、例えば、ビニルエステル系化合物の重合体をケン化することによって得られるものが挙げられる。ビニルエステル系化合物としては、カチオン変性PVA(A1)で用いられるものと同様のビニルエステル系化合物が用いられ得る。
【0022】
本発明で用いられる未変性PVA(A2)の重合度は、特に限定されないが、通常、3〜30mPa・sであり、特に3〜10mPa・s、殊に4〜8mPa・sが好ましい。重合度が高すぎると、粘度が高くなり、作業性が低下する傾向がある。一方、重合度が低すぎると、粘度が低く弾き易くなり、均一な塗工が困難になる傾向がある。なお、重合度の上記指標は、20℃における4重量%水溶液での粘度である。
【0023】
本発明で用いられる未変性PVA(A2)のケン化度は、特に限定されないが、通常、70〜100モル%であり、特に75〜99.8モル%、殊に80〜90モル%が好ましい。ケン化度が高すぎると、水溶性が悪くなる傾向があり、低すぎると、製造が難しくなる傾向がある。
【0024】
〔PVA系樹脂(A)〕
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)は、上記のカチオン変性PVA(A1)と上記の未変性PVA(A2)を含有する。PVA系樹脂(A)におけるカチオン基の含有量は、PVA系樹脂(A)の全構造単位に対して、0.1〜0.4モル%であり、特に0.15〜0.35モル%、殊に0.2〜0.3モル%が好ましい。カチオン基の含有量が多すぎると、粘度安定性が悪くなり、短時間で増粘してゲル化する傾向がある。一方、含有量が少なすぎると、粘度安定性は良いが、表面光沢度が不十分になる傾向がある。なお、PVA系樹脂(A)におけるカチオン基の含有量は、以下の実施例で示すように、1H−NMRで測定して算出される値である。
【0025】
PVA系樹脂(A)の総量に対する未変性PVA(A2)の含有量は、10〜50重量%であり、特に15〜40重量%、殊に20〜30重量%が好ましい。未変性PVA(A2)の含有量が多すぎると、相対的にカチオン変性PVA(A1)の含有量が少なくなるので、平均値としての変性度が未変性PVA(A2)の含有量が適量のときと同じであっても、PVA(A1,A2)の分子間での変性量のばらつきが大きくなる。そのため、より高変性量のPVAを含有することになり、かかる高変性PVAがコロイダルシリカの橋架け剤のような作用を起こす傾向がある。すなわち、粘度安定性が悪くなり、短時間で水性液が増粘してゲル化する傾向がある。一方、未変性PVA(A2)の含有量が少なすぎる場合も、粘度安定性が低下する傾向がある。
【0026】
なお、PVA系樹脂(A)の総量に対する未変性PVA(A2)の含有量は、液相クロマトグラフィー(LC)等により測定することができる。
【0027】
PVA系樹脂(A)における重合度は、特に限定されないが、通常、3〜30mPa・sであり、特に4〜10mPa・s、殊に5〜8mPa・sが好ましい。重合度が高すぎると、粘度が高くなり、作業性が低下する傾向がある。一方、重合度が低すぎると、粘度が低く弾き易くなり、均一な塗工が困難になる傾向がある。なお、重合度の上記指標は、20℃における4重量%水溶液での粘度である。
【0028】
PVA系樹脂(A)におけるケン化度は、特に限定されないが、通常、70〜100モル%であり、特に75〜99.8モル%、殊に80〜90モル%が好ましい。ケン化度が高すぎると、水溶性が悪くなる傾向があり、低すぎると、製造が難しくなる傾向がある。
【0029】
PVA系樹脂(A)は、上記のカチオン変性PVA(A1)と上記の未変性PVA(A2)を別々に製造し、両者の配合割合を適宜調整することにより、カチオン性基の含有量や未変性PVA(A2)の含有量を本発明で規定の範囲に調整しても良く、あるいは両PVA(A1),(A2)を含有するPVA系樹脂(A)を同じ工程で製造しても良い。
【0030】
両PVA(A1),(A2)を含有するPVA系樹脂(A)を製造する場合には、カチオン変性PVAを製造するための通常の方法と比べて、未変性PVA(A2)の含有量が低減する製法が採用され得る。例えば、1)まずビニルエステル系化合物の全量とカチオン基を有する不飽和単量体の一部を仕込み、共重合を開始した後、残りの不飽和単量体を重合期間中に連続的にまたは分割的に添加する方法、2)ビニルエステル系化合物の一部とカチオン基を有する不飽和単量体の一部を仕込み、共重合を開始した後、残りのビニルエステル系化合物と不飽和単量体の混合物を連続的または分割的に添加する方法が採用され得る。
【0031】
上記の共重合方法としては、特に制限はなく、公知の重合方法が任意に採用され得るが、通常、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合が実施される。勿論、乳化重合、懸濁重合も可能である。共重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒や公知の各種低温活性触媒を用いて行われる。また、反応温度は35℃〜沸点程度の範囲から選択される。
【0032】
得られた共重合体は、次いでケン化される。かかるケン化に当たっては、アルカリケン化または酸ケン化のいずれも採用できるが、工業的には該共重合体をアルコールに溶解してアルカリ触媒の存在下に行われる。該アルコールとしてはメタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中の共重合体の濃度は20〜50重量%の範囲から選ばれる。また、必要に応じて、0.3〜10重量%程度の水を加えても良く、更には、ケン化時の溶媒の誘電率制御の目的で、酢酸メチル等の各種エステル類やベンゼン、ヘキサン、DMSO(ジメチルスルホキシド)等の各種溶剤類を添加しても良い。
【0033】
ケン化触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を具体的に挙げることができ、かかる触媒の使用量はビニルエステル系化合物に対して1〜100ミリモル当量にすることが好ましい。
【0034】
〔アニオン性コロイダルシリカ(B)〕
本発明で用いられるアニオン性コロイダルシリカ(B)は、例えば、ケイ酸ナトリウムの酸などによる複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られるコロイダルシリカであり、市販されているアニオン性コロイダルシリカとしては、扶桑化学工業社製「PL−01」等が挙げられる。本発明では1種または2種以上のアニオン性コロイダルシリカが用いられ得る。
【0035】
〔水性組成物〕
本発明の水性組成物は、PVA系樹脂(A)とアニオン性コロイダルシリカ(B)を含有し、PVA系樹脂(A)とアニオン性コロイダルシリカ(B)の含有量比(A/B)は特に限定されないが、重量比で、通常、0.1/99.9〜50/50であり、特に10/90〜45/55、殊に20/80〜40/60が好ましい。含有量比(A/B)の値が大きすぎると、PVA系樹脂(A)が過剰となり、粘度安定性が低下する傾向があり、含有量比(A/B)の値が小さすぎると、表面光沢度が不十分になる傾向がある。
【0036】
本発明の水性組成物は、上記PVA系樹脂(A)とアニオン性コロイダルシリカ(B)を分散媒中に分散又は懸濁させてなるものである。すなわち、本発明の水性組成物は、通常、分散液、懸濁液またはスラリー状態である。また、これらの成分を分散媒中に分散または懸濁させる方法は特に限定されず、パドル、タービン、ホモジナイザー等の従来公知の混合装置・方法を使用することができる。例えば、PVA系樹脂(A)の水溶液をスターラーで攪拌しながら、アニオン性コロイダルシリカ(B)の水溶液を滴下して混合し、10分間程度の攪拌を行なうことにより、本発明の水性組成物が得られる。
【0037】
本発明における分散媒としては、特に限定されないが、例えば、水、水−メタノール混合溶媒、水−イソプロピルアルコール混合溶媒、水−n−プロピルアルコール、水−ブタノール混合溶媒等が挙げられる。中でも、水が好ましい。
【0038】
本発明の水性組成物中の総固形分は、特に限定されないが、好ましくは組成物全体の1〜80重量%、特に好ましくは3〜70重量%、殊に好ましくは5〜50重量%である。総固形分の濃度が高すぎると、粘度が高くなり、作業性が低下する傾向があり、低すぎると、乾燥に多大なエネルギーと時間が必要となる傾向があるとともに、コロイダルシリカの効果が不十分になる傾向がある。なお、総固形分とは、水性組成物中に存在する全ての固形分をいい、上記の各成分のみならず、以下の添加剤に由来する固形分をも合わせたものである。
【0039】
本発明の水性組成物は、必要に応じて、天然又は合成結合剤(例えば、カゼイン、スターチ、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等)、分散剤(例えば、ポリカルボン酸等)、レオロジー調節剤、有機充填剤、消泡剤、殺生物剤、滑剤等の従来公知の添加剤等をさらに配合することができる。これらは本発明の目的が達成される限り、配合量等は特に制限されず、使用目的、使用される上記の各成分等の種類、含有量等に応じて適宜設定することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0041】
〔PVA系樹脂(A)の製造例1〕
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000部、メタノール1050部、およびジアリルジメチルアンモニウムクロライド0.9部を仕込み、開始剤としてアルキルパーオキサイドを用い、窒素気流下で加熱還流させて重合を開始した。その後、8.5時間かけてジアリルジメチルアンモニウムクロライド4.2部とメタノール4.2部の混合物を滴下した。重合率が87%となった時点で、重合禁止剤としてm−ニトロベンゼンを投入し、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応モノマーを系外に除去し、共重合体のメタノール溶液を得た。
【0042】
ついで、この溶液をメタノールで希釈して濃度40%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を、共重合体中の酢酸ビニル単位に対して4.5ミリモルとなる量にて加えてケン化を行った。生成した固形物を濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的であるPVA系樹脂(A)を得た。
【0043】
得られたPVA系樹脂(A)のケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、86.8モル%であり、20℃における4重量%水溶液粘度は、5.8mPa・sであった。また、カチオン性基(4級アンモニウム基)の含有量は1H−NMRで測定して算出したところ、0.24モル%であった。なお、NMR測定には日本ブルカー社製「AVANCE DPX400」を用いた。
【0044】
また、未変性PVA(A2)の含有量は、下記の分析条件にてLC測定を行ったところ23%であった。かかる含有量からカチオン変性PVA(A1)の含有量(77%)を算出し、さらにPVA系樹脂(A)全体のカチオン性基含有量(0.24モル%)から、カチオン変性PVA(A1)の変性量を求めたところ、0.31モル%であった。
【0045】
(LC分析条件)
装置:島津製作所社製、LC−10ADvp、
カラム:GLサイエンス社製、GL-Pack Nucleosil C18-100, 5μm, 4.6×250mm (40deg-C) 、
流速:0.5mL/min 、
ソルベントA:アセトニトリル/水=70/30(カチオン化成分はカラムにトラップされ、未変性成分のみが検出される) 、
ソルベントB:THF(テトラヒドロフラン)、
検出器:コロナ荷電化粒子検出器(offset=10)
【0046】
〔PVA系樹脂(A)の製造例2〕
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル300部、メタノール300部、およびジアリルジメチルアンモニウムクロライド1.7部を仕込み、開始剤としてアルキルパーオキサイドを用い、窒素気流下で加熱還流させて30分間重合した。その後、7時間かけてジアリルジメチルアンモニウムクロライド4.0部と酢酸ビニル710部、およびメタノール23部の混合物を滴下した。滴下後、1時間追い込み重合を行い、重合率が92%となった時点で、重合禁止剤としてm−ニトロベンゼンを投入し、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応モノマーを系外に除去し、共重合体のメタノール溶液を得た。
【0047】
ついで、この溶液をメタノールで希釈して濃度50%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を、共重合体中の酢酸ビニル単位に対して4.0ミリモルとなる量にて加えてケン化を行った。生成した固形物を濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的であるPVA系樹脂(A)を得た。
【0048】
得られたPVA系樹脂(A)について、製造例1と同様に分析したところ、ケン化度は86.4モル%、20℃における4重量%水溶液粘度は5.4mPa・s、カチオン性基(4級アンモニウム基)の含有量は0.29モル%、未変性PVA(A2)の含有量は25%であった。
【0049】
〔PVA系樹脂(A)の製造例3〕
製造例2において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの仕込み量を1.2部、滴下量を2.8部、メタノールの滴下量を16部とした以外は、製造例2と同様にしてPVA系樹脂(A)を得た。
【0050】
得られたPVA系樹脂(A)について、製造例1と同様に分析したところ、ケン化度は85.8モル%、20℃における4重量%水溶液粘度は5.9mPa・s、カチオン性基(4級アンモニウム基)の含有量は0.20モル%、未変性PVA(A2)の含有量は32%であった。
【0051】
〔PVA系樹脂(A)の製造例4〕
製造例2において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの仕込み量を0.8部、滴下量を1.9部、メタノールの滴下量を11部とした以外は、製造例2と同様にしてPVA系樹脂(A)を得た。
【0052】
得られたPVA系樹脂(A)について、製造例1と同様に分析したところ、ケン化度は87.6モル%、20℃における4重量%水溶液粘度は5.8mPa・s、カチオン性基(4級アンモニウム基)の含有量は0.13モル%、未変性PVA(A2)の含有量は39%であった。
【0053】
〔PVA系樹脂(A)の製造例5〕
製造例2において得られたPVA系樹脂(A)と、ケン化度87.4モル%、20℃における4重量%水溶液粘度5.3mPa・sの未変性PVA(A2)を2/1で混合してPVA系樹脂(A)を得た。得られたPVA系樹脂について、製造例1と同様に分析したところ、ケン化度は86.7モル%、20℃における4重量%水溶液粘度は5.4mPa・s、カチオン性基(4級アンモニウム基)の含有量は0.20モル%、未変性PVA(A2)の含有量は50%であった。
【0054】
〔PVA系樹脂(A)の製造例6〕
製造例2において得られたPVA系樹脂(A)と、ケン化度87.4モル%、20℃における4重量%水溶液粘度5.3mPa・s未変性PVA(A2)を1/1で混合してPVA系樹脂(A)を得た。得られたPVA系樹脂(A)について、製造例1と同様に分析したところ、ケン化度は86.4モル%、20℃における4重量%水溶液粘度は5.8mPa・s、カチオン性基(4級アンモニウム基)の含有量は0.24モル%、未変性PVA(A2)の含有量は57%であった。
【0055】
〔PVA系樹脂(A)の製造例7〕
製造例2において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの仕込み量を2.9部、滴下量を6.7部、メタノールの滴下量を38部とした以外は、製造例2と同様にしてPVA系樹脂(A)を得た。
【0056】
得られたPVA系樹脂(A)について、製造例1と同様に分析したところ、ケン化度は85.3モル%、20℃における4重量%水溶液粘度は6.2mPa・s、カチオン性基(4級アンモニウム基)の含有量は0.48モル%、未変性PVA(A2)の含有量は14%であった。
【0057】
〔PVA系樹脂(A)の製造例8〕
製造例1において、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの仕込み量を3部、滴下量を14部、メタノールの滴下量を14部とした以外は、製造例1と同様にしてPVA系樹脂(A)を得た。
【0058】
得られたPVA系樹脂(A)について、製造例1と同様に分析したところ、ケン化度は87.7モル%、20℃における4重量%水溶液粘度は5.2mPa・s、カチオン性基(4級アンモニウム基)の含有量は1.0モル%、未変性PVA(A2)の含有量は検出限界以下であった。
【0059】
以上の製造例1〜8で得られたPVA系樹脂におけるカチオン性基含有量等の測定値および算出値を表1にまとめる。また、製造例5,6で用いられた未変性PVA(A2)のケン化度等を参考例として表1に併記する。
【0060】
【表1】

【0061】
〔実施例1〜5、比較例1〜3、参考例〕
製造例1〜8および参考例で得られたPVA系樹脂の各10%水溶液と、アニオン性コロイダルシリカ(扶桑化学工業社製「PL−01」) の10%水性液を3/7で混合し、10分間スターラーで攪拌して、水性組成物を得た。製造例1〜5のPVA系樹脂を用いて得られた水性組成物を順次、実施例1〜5と、製造例6〜8のPVA系樹脂を用いて得られた水性組成物を順次、比較例1〜3と、参考例のPVA系樹脂を用いて得られた水性組成物を参考例として、下記の粘度安定性評価を行なった。
【0062】
(粘度安定性評価法)
混合直後の水性組成物の状態と、23℃の恒温室中に2週間静置した後の状態との変化を目視とB型粘度計での測定とから下記の基準で評価した。
○;殆ど変化無し。△;やや変化が有る。×;変化が大きい。
【0063】
(皮膜の作成法)
各水性組成物を50μmPETフィルム上に100μmアプリケーターで塗工し、105℃で5分間乾燥して、皮膜を作成した。得られた皮膜について、以下の評価を行った。
【0064】
(表面光沢度の測定方法)
グロスメーター(日本電色工業社製「VG−1D」)を用いて、得られた皮膜の60°表面光沢度を測定した。
【0065】
以上の評価結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2の評価結果から、本発明に係る実施例1〜5の水性組成物は、いずれも粘度安定性が高く、また水性組成物を塗工し、乾燥して得られた皮膜が光沢性に優れることが分かる。特に、未変性PVA(A2)の含有量が20〜30重量%の実施例1,2の水性組成物では、皮膜の光沢性がさらに優れることが分かる。
【0068】
一方、本発明の規定から外れた比較例1〜3の水性組成物は、いずれも粘度安定性が低く、参考例の水性組成物では、粘度安定性は良好なものの、皮膜の光沢性が本発明のものよりも劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の水性組成物は、紙(感熱記録紙、離型紙、剥離紙、インクジェット紙、カーボン紙、ノンカーボン紙、紙コップ用原紙、耐油紙、マニラボール、白ボール、ライナー等の板紙、一般上質紙、中質紙、グラビア用紙等の印刷用紙、上・中・下級紙、新聞用紙など)、不織布、布、金属箔、ポリオレフィン樹脂等の各種基材の塗工液やコーティング液、化学的機械的研磨用研磨液に利用することができる。特に、インクジェット記録用媒体の光沢層用塗工液、インク受理層用塗工液、光沢紙の表面層用塗工液、木質材料用コーティング液等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)とアニオン性コロイダルシリカ(B)を含有する水性組成物であって、該ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、カチオン変性ポリビニルアルコール(A1)と未変性ポリビニルアルコール(A2)を含有し、ポリビニルアルコール系樹脂(A)の全構造単位に対するカチオン性基の含有量が0.1〜0.4モル%であり、ポリビニルアルコール系樹脂(A)の総量に対する未変性ポリビニルアルコール(A2)の含有量が10〜50重量%であることを特徴とする水性組成物。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)とアニオン性コロイダルシリカ(B)の含有量比(A/B)が重量比で0.1/99.9〜50/50である請求項1記載の水性組成物。

【公開番号】特開2012−116910(P2012−116910A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266358(P2010−266358)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】