説明

水撃防止器

【課題】ウオーターハンマーの衝撃圧をブラダの変形で吸収する水撃防止器について、コストの高騰や耐久性の低下を伴わずに優れた水撃防止機能を発揮させる。
【解決手段】ブラダ10Aと、ブラダ10Aを収装した状態で内部に空気を封入されてブラダ10A外部側に空気室30を形成するブラダケース3を有して、ウオーターハンマーの衝撃圧をブラダ10Aの弾性変形と空気室30の空気の弾力性の両者で吸収する水撃防止器において、そのブラダ10Aを、周壁が平滑なカップ状に形成して内外圧力差の変動により周壁が弾性変形し容量を通常時の状態から縮小・拡大可能として、給水圧力を導入しない状況で空気室30の封入空気圧力と内部圧力の差で潰れて通常時よりも容量が縮小するものとし、給水圧力を導入することで容量を増し、ウオーターハンマー発生時にはさらに容量を増して通常時よりも拡大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水撃防止器に関し、殊に、給水ラインを急激に遮断することによるウオーターハンマーの衝撃圧を吸収して装置の破損や異音の発生を防止する水撃防止器に関する。
【背景技術】
【0002】
給水ラインを急激に遮断することで生じるウオーターハンマーの衝撃圧を、内部容積が弾性的に増減するブラダ内に導入することにより吸収して給水ラインに接続した装置の破損や異音の発生を防止する手段として、アキュムレータ(蓄圧器)と同様の構成を有した水撃防止器が周知である。
【0003】
例えば、実開平6−40586号公報に記載され図6(A)に示すもののように、カップ状のブラダケース5の内部に有底円筒状で周壁を伸縮可能な蛇腹状に形成した弾性材料からなるブラダ10Cを配置して、その外周面とブラダケース5の内周面との間に空気室50を形成してなる水撃防止器1Cが知られている。
【0004】
この水撃防止器1Cは、給水ラインから分岐してブラダ10C内部側に接続して給水圧を導入するように配置され、ウオーターハンマー発生の際にブラダ10Cの弾性変形(容積拡大)によりその衝撃圧を吸収することに加え、その周りの空気室50の空気の弾力によっても吸収することができるため、水撃防止機能を確実に発揮しやすいものとなっている。
【0005】
また、特開2001−120975号公報に記載され図6(B)に示すもののように、外周面にリブ100a,100b,100cを形成した有底円筒状でゴム製のブラダ10Dを、カップ状でゴム製のブラダケース6内部にその内周面との間にクリアランスを有するように配置した水撃防止器1Dも知られており、ウオーターハンマーの大きさに応じて、ブラダ10Dのみの変形による吸収、空気室60の空気の弾性による吸収、リブ100a,100b,100cが当接した状況での外筒6の変形による吸収、というように段階的に吸収を行うものとして、小型でも比較的大きな衝撃圧まで対応可能としている。
【0006】
しかし、前者の水撃防止器1Cは、ブラダ10Cの容量変動幅を大きく確保するためにその周壁を蛇腹状にしている点で構造が複雑であり、コスト高であることに加え蛇腹屈曲部分の耐久性に難点を有したものとなっている。一方、後者の水撃防止器1Dは、大きな衝撃圧にも対応可能とするためにブラダ10Dの外周面にリブを設けるとともにブラダケース6もゴムで作成しており、耐候性を考慮するとブラダケース6の外周にさらに保護ケースが必要になることから、その分サイズアップとコスト高騰を伴いやすい。
【0007】
また、これら両者に共通して、水道水の供給ラインに配設した場合には、水道水に含まれる塩素でブラダを構成するゴム材が比較的短期間で変質・劣化しやすいことが知られており、変質・劣化したゴム同士が密着する部分では互いに溶着しやすくなることも相俟って、さらに耐久性に難点を有したものとなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平6−40586号公報
【特許文献2】特開2001−120975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、給水ラインの遮断によるウオーターハンマーの衝撃圧をブラダの変形で吸収する水撃防止器について、コストの高騰や耐久性の低下を伴うことなく優れた水撃防止機能を発揮可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、内部側が給水ラインに接続されるブラダと、このブラダを収装した状態で内部に空気を封入されてブラダ外部側に空気室を形成するブラダケースを有して、給水ラインに生じたウオーターハンマーの衝撃圧をブラダの弾性変形と空気室の空気の弾力性の両者で吸収する水撃防止器において、そのブラダは、外周面を構成する周壁が平滑なカップ状に形成されて内外圧力差の変動により周壁が弾性変形して容量を通常時の状態から縮小・拡大可能なものとされ、給水圧力を導入しない状況で空気室の封入空気圧力と内部圧力の差で潰れて通常時よりも容量が縮小した状態となり、給水圧力を導入することで容量を増し、ウオーターハンマー発生時にはさらに容量を増して通常時よりも拡大する、ことを特徴とするものとした。
【0011】
ブラダケースに内装するブラダを、このように容量の縮小方向にも弾性変形可能なものとし、給水圧力導入前の状態で空気室側と内部側との圧力差でブラダが潰れて容量を縮小した状態になるものとしたことで、形状の複雑化によるコストの高騰を伴わずにブラダの容量変動幅を大きく設定可能として優れた水撃防止機能を発揮できるものとしながら、ブラダを蛇腹のように複雑な形状を有しない簡易な構造としたことにより耐久性に優れたものとなる。
【0012】
また、この水撃防止器において、そのブラダは、合成ゴムの一体成型によるものであって底面が球面状に形成されており、その底面の中心から底面に沿って所定長さで等角放射状に肉厚部を形成した3本の突条による折り畳みガイド部が形成されており、容量縮小方向に変形する際に、突条間の薄肉部が凹むことでこの凹みが周壁基端側まで達して谷折り線を形成するものとして、底面を周方向に回転させながら高さを縮小するように潰れる、ことを特徴としたものとすれば、複雑な蛇腹構造によらない簡易な構成でもブラダの通常時と縮小時との容量差が極めて大きなものとなる。
【0013】
さらに、上述した水撃防止器において、そのブラダは、その内側面にフッ素コーティング層が形成されていることを特徴としたものとすれば、水道水の供給ラインに配置された場合に、水道水に含まれる塩素を原因としたブラダの構成素材の変質・劣化を軽減することができ、また、内周面同士の密着部分における溶着の発生を回避しやすいものとなる。
【発明の効果】
【0014】
給水圧力導入前の状態で空気室側と内部側との圧力差でブラダが潰れて容量を縮小するものとした本発明によると、コストの高騰や耐久性の低下を伴うことなく優れた水撃防止機能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における実施の形態の正面図(一部縦断面図)である。
【図2】図1の水撃防止器を給水ラインに接続して給水圧を導入していない場合のブラダの状態を示す縦断面図である。
【図3】(A)は図2の状態から静水圧力を導入した場合のブラダの状態を示す縦断面図であり、(B)は(A)の状態から動水圧力を導入した場合のブラダの状態を示す縦断面図であり、(C)は(B)の状態からウオーターハンマーが発生した場合のブラダの状態を示す縦断面図である。
【図4】図1の水撃防止器のブラダの応用例を示す開口部側を下にした斜視図である。
【図5】図3のブラダの容量縮小方向の変形状況を示す斜視図である。
【図6】(A),(B)は従来例を示す正面図(一部縦断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態の水撃防止器1Aの正面図(一部縦断面図)を示すものであり、この水撃防止器1Aは、水道水の給水ラインに配設されることを想定したものであり、円盤状の本体2下面には、硬質素材をカップ状に形成したブラダケース3の開口部側が固定されている。
【0018】
また、ブチルゴム等の合成ゴムを表裏面が平滑なカップ状に一体成形したブラダ10Aが、開口部側を本体2下面に固定した状態でブラダケース3に内装され、その外面とブラダケース3内面との間に形成された隙間に空気バルブ31を介して空気が封入されて空気室30を形成したものとなっている。
【0019】
そして、ブラダ10Aの内側空間が接続金具21を介して給水ライン側に接続されることにより、給水ラインに生じたウオーターハンマーの衝撃圧をブラダ10Aの弾性変形と空気室30の空気の弾力性の両者で吸収するようになっており、このこと自体は図6に記載した従来例とも共通している。
【0020】
本発明においては、そのブラダ10Aの構成が図6に示した従来例とは異なっており、その外周面を構成する周壁の内外面は平滑であって蛇腹構造や周方向のリブを有しないものとされ、且つ、底面が略球面状に形成されており、内外圧力差の変動により周壁が弾性変形することでその内部容量を通常時の状態から縮小・拡大可能なものとなっている。
【0021】
そして、図2に示すように、そのブラダ10Aは、給水圧力を導入していない状況では、空気室30の封入空気による外部圧力と内部圧力の差により周壁が潰れて変形前の通常時よりも容量が縮小した状態になる点を特徴としている。即ち、給水ラインに接続前の段階で、空気室30の封入空気の圧力を大気圧よりも高くなるように充填しブラダ10Aが潰れた状態にして空気バルブ31を閉止したものである。
【0022】
これにより、ブラダ10Aは給水圧力導入前の段階で容量を通常時よりも縮小した状態から、給水圧力を導入することでほぼ通常時の容量に戻り、ウオーターハンマー発生時には通常時よりも大きく拡大した容量となって、その衝撃圧を充分に吸収することができる。
【0023】
そのため、周壁に蛇腹構造等を設けない簡易且つコンパクトな構成で容量の変動幅を大きく設定できるため、広範囲に亘って水撃防止機能を有効に発揮しやすいものとなる。また、蛇腹やリブを要しない簡易な構成であることはコストの低廉化と耐久性の向上に繋がっている。
【0024】
さらに、本実施の形態においては、ブラダ10Aの内側全面にフッ素コーティング層が形成されている点も特徴部分となっている。これにより、水道水に含まれる塩素の影響でブラダ10Aの構成素材である合成ゴムが変質・劣化しにくくなることに加え、内側面同士が密着する部分があっても溶着の発生を回避可能として、一層耐久性に優れたものとしている。
【0025】
図3は、本実施の形態である水撃防止器1Aの機能(動作)を説明するためのものであり、図2に示した給水圧力導入前のブラダ10Aが潰れて容量を縮小した状態から、給水バルブ90を閉めた状態で給水圧力(静水圧力)を導入することにより、図3(A)に示すように、ブラダ10Aは変形前の通常時の容量よりもやや拡大した状態で、空気室30の圧力と静水圧力がバランスしている。
【0026】
次に、図3(B)に示すようにバルブ90を開いた給水時には、給水圧力が低下することでブラダ10Aはほぼ通常時の容量に戻った状態となり、空気室30の圧力と動水圧力がバランスする。そして、図3(C)に示すように給水バルブ90を急に閉鎖して給水が遮断されることでウオーターハンマーが発生した場合、その際の圧力波をブラダ10Aが容量をさらに拡大させてこれを完全に吸収する。
【0027】
図4は、上述した図1の水撃防止器1Aのブラダ10Aの応用例としてのブラダ10Bを示しており、その球面状に形成された底面の中心から底面に沿って底面半径の3分の2程度の長さで120°の等角放射状に他の部分の1.5倍程度の肉厚部を形成した3本の突条110a,110b,110cによる折り畳みガイド部11が形成されている点を特徴としている。
【0028】
この折り畳みガイド部により、ブラダ10Bはその容量縮小方向の変形の際に、突条110a,110b,110c間の薄肉部から凹み、図5に示すようにこの凹みが周壁基端側(開口部側)付近まで達して破線で示す谷折り線を各々形成し、底面側を周方向に回転させながら、高さを縮小して潰れるように動作する。
【0029】
この応用例では、斯かる簡易な構成の折り畳みガイド部11を設けただでで、蛇腹のように複雑で耐久性に悪影響を与えるような構造を設けずに安定した折り畳み動作を実現可能として、耐久性を損なうことなくブラダ10Bの通常時と縮小時との容量差をさらに大きく設定することが可能となっている。
【0030】
以上、述べたように、給水ラインの遮断によるウオーターハンマーの衝撃圧をブラダの変形で吸収する水撃防止器について、本発明により、コストの高騰や耐久性の低下を伴うことなく、優れた水撃防止機能を発揮することができる。
【符号の説明】
【0031】
1A 水撃防止器、2 本体、3 ブラダケース、10A,10B ブラダ、11 折り畳みガイド部、30 空気室、31 空気バルブ、90 給水バルブ、110a,110b,110c 突条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部側が給水ラインに接続されるブラダと、このブラダを収装した状態で内部に空気が封入されて前記ブラダ外部側に空気室を形成するブラダケースを有して、前記給水ラインに生じたウオーターハンマーの衝撃圧を前記ブラダの弾性変形と前記空気室の空気の弾力性の両者で吸収する水撃防止器において、前記ブラダは、外周面を構成する周壁が平滑なカップ状に形成されて内外圧力差の変動により前記周壁が弾性変形して容量を通常時の状態から縮小・拡大可能であり、給水圧力を導入しない状況で前記空気室の封入空気圧力と内部圧力の差で潰れて通常時よりも容量が縮小した状態となり、給水圧力を導入することで容量を増し、前記ウオーターハンマーの発生時にはさらに容量を増して通常時よりも拡大する、ことを特徴とする水撃防止器。
【請求項2】
前記ブラダは、合成ゴムの一体成型によるものであって底面が球面状に形成されており、前記底面の中心から前記底面に沿って所定長さで等角放射状に肉厚部を形成した3本の突条による折り畳みガイド部が形成されており、容量縮小方向に変形する際に、前記突条間の前記薄肉部が凹むことで該凹みが前記周壁基端側まで達して各々谷折り線を形成するものとして、前記底面を周方向に回転させながら高さを縮小するように潰れる、ことを特徴とする請求項1に記載した水撃防止器。
【請求項3】
前記ブラダは、その内側面にフッ素コーティング層が形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載した水撃防止器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−92868(P2012−92868A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238815(P2010−238815)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000137018)株式会社ベン (21)
【Fターム(参考)】