水晶センサー及び感知装置
【課題】液相中における測定でも気相中の測定時におけるQ値との差が小さく、感知対象物を高感度で検出することのできる水晶センサーを提供すること。
【解決手段】その一面(XZ’面)に捕捉層(吸着層)12が形成されたATカットの水晶板11を備え、前記捕捉層12に感知対象物が吸着されることによる水晶振動子10の周波数の変化分に基づいて感知対象物を検出する水晶センサー1において、前記水晶振動子10に捕捉層12が形成された面(XZ’面)のZ’方向の互いに対向する端面(XY’面)に、水晶板11を発振させるための電極13を形成する。
【解決手段】その一面(XZ’面)に捕捉層(吸着層)12が形成されたATカットの水晶板11を備え、前記捕捉層12に感知対象物が吸着されることによる水晶振動子10の周波数の変化分に基づいて感知対象物を検出する水晶センサー1において、前記水晶振動子10に捕捉層12が形成された面(XZ’面)のZ’方向の互いに対向する端面(XY’面)に、水晶板11を発振させるための電極13を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相中において感知対象物を高い信頼性で測定することができる水晶センサー及び感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微量物質を感知し、測定する感知センサーとしては例えば水晶振動子を用いた水晶センサーが利用されている。水晶センサーは、水晶板の表面に吸着層が形成され、この吸着層の表面に感知対象物が付着すると、当該付着した感知対象物の重さの分だけ質量付加効果により水晶の固有振動数が変化し、この変化する性質を利用して感知対象物の濃度を測定するセンサーである。前記吸着層としては、例えばタンパク質などの抗体が用いられ、抗原抗体反応を利用して試料液中例えば血液中の抗原の吸着(反応による捕捉)が行われる。
【0003】
前記水晶センサーに用いられる水晶振動子としては、例えば特許文献1に開示されているように、ATカットの水晶板の表面及び裏面に電極が形成された垂直電界励振タイプと呼ばれる水晶振動子が知られており、この場合、表面側の電極に吸着層が形成されている。この種の水晶振動子、例えば9MHzの水晶振動子では気相中での等価回路の直列抵抗が例えば10Ω程度であるが、液相中例えば純水中では前記直列抵抗が200〜300Ω程度となる。前記水晶振動子を備えた水晶センサーでは、溶液の粘性により前記直列抵抗が変化するが、液相中での直列抵抗が小さいことから粘性による変化分が大きくなり、このため発振させたときの共振周波数の変化に影響を与え、測定結果の信頼性が低下してしまう。前記直列抵抗の変化分が共振周波数に影響を与えないか、または無視できる程小さくするためには、水晶センサーを水晶振動子の直列抵抗が大きな値例えば3kΩの値を取るように構成すればよい。
【0004】
一方、垂直電界励振タイプの水晶振動子は、気相中に比べ液相中におけるQ値(f0/Δf:f0は共振周波数、Δfは共振曲線において共振電流の最大値の1/√2に相当する周波数帯域(共振曲線の幅)である。)が低く、例えば大気中ではQ値は約60000であるが、水中ではQ値は2000程度までに低下する。一般にQ値が低いと水晶振動子の安定性が悪く、電子雑音が大きいことから、水晶振動子を用いて液相での測定においても、こうした課題が内在しているということができ、このため更なる高い信頼性を確保できる技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−78181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は試料液中の感知対象物を測定するにあたり、高い信頼性が得られる水晶センサー及び感知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水晶センサーは、ATカットの水晶板の板面に試料液中の感知対象物を捕捉するための捕捉層が形成され、この捕捉層に感知対象物が捕捉されたことによる水晶板の固有振動数が変化し、その変化に基づいて感知対象物を感知する水晶センサーにおいて、
前記水晶板における互いに対向する端面に、当該水晶板を振動させるための電極を設けたことを特徴とする。
【0008】
また、水晶センサーは以下の構成を取って良い。
1.前記水晶板の板面には、前記電極とは絶縁された金属層が形成され、前記捕捉層はこの金属層に形成されている構成。
2.前記水晶板の端面に設けられた電極を第1の電極とすると、当該水晶板の両板面の各々の一部に互いに対向する第2の電極が設けられ、前記第1の電極及び第2の電極は互いに電気的に接続されている構成。
3.前記第1の電極及び第2の電極は、水晶板上で互いに電気的に接続されている構成。
本発明に係る感知装置は、前記水晶センサーと、当該水晶センサーに接続された発振回路と、この発振回路からの周波数信号を測定するための測定部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ATカットの水晶板を用いた水晶センサーにおいて、水晶板の板面に捕捉層を設けると共に板面におけるZ’方向に互いに対向する端面に電極を設けて平衡電界励振タイプの水晶振動子を構成しているため、液相中においても高いQ値が得られ、このため周波数の安定性が高く試料液中の感知対象物の信頼性の高い測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る水晶センサーを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る水晶センサーに組み込まれる水晶振動子を示す斜視図及び断面図である。
【図3】前記水晶センサーの一部を構成するプリント基板の上面図である。
【図4】前記水晶センサーを示す縦断面図及び拡大図である。
【図5】前記水晶センサーを示す上面図である。
【図6】本発明に係る感知装置を示す斜視図である。
【図7】前記水晶センサーを用いて測定を行った測定結果の一例である。
【図8】前記感知装置を示す構成図である。
【図9】他の実施の形態に係る水晶センサーを示す縦断面図である。
【図10】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図である。
【図11】他の実施の形態に係る水晶センサーを示す斜視図である。
【図12】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図である。
【図13】他の実施の形態に係る感知装置の一部を示す構成図である。
【図14】前記感知装置の測定結果の一例を説明する説明図である。
【図15】他の実施の形態に係る水晶板及び水晶センサーを示す斜視図である。
【図16】他の実施の形態に係る水晶センサーを示す縦断面図である。
【図17】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図18】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図19】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図20】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図21】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図22】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図23】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図24】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図25】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る水晶センサーを説明する。図1に示すように、水晶センサー1は水晶振動子10、プリント基板2及びカバー体3を備えている。前記水晶振動子10は、図2に示すように例えばATカットの短冊状の水晶板11であり、長辺が水晶のX軸に沿って伸び、短辺が水晶のZ’軸(Z軸を35°15’傾けた軸)に沿って伸び、厚さ方向が水晶のY’軸(Y軸を35°15’傾けた軸)となっている。この水晶振動子10の水晶板11の一方の板面(図2(a)では上面:XZ’面)には、金属層11a(図2(b)参照)が円形状に形成され、当該金属層11aの表面に例えば感知対象物である抗原を抗原抗体反応により、捕捉するための捕捉層(吸着層)12が形成されている。前記金属層11aは、例えば密着層であるクロム(Cr)の上に金を積層して構成されている。前記水晶板11におけるZ’方向の互いに対向する端面には当該水晶板11を発振させるための電極13が形成されており、またこれら電極13は、下端部が水晶板11の他面側(図2(a)の下面側)まで回りこみ、後述のプリント基板の導電路に接続できるようになっている。前記金属層11a及び電極13は例えばフォトリソグラフィーにより同時に形成される。また、水晶板11における捕捉層12の外縁領域であって、後述のカバー体の円筒体の下端部に対向する部位には、撥水性層14が環状に形成されている。この撥水性層14は、円筒体の下端部との間の隙間から試料液が流出するのを防止するためのものである。
【0012】
前記プリント基板2は、図3に示すようにその表面の一端側から他端側に向けて導電路21a、21bが平行に設けられている。また導電路21a、21bの一端側は後述するスペーサ側の電極と接続するための電極22a、22bとして形成され、導電路21a、21bの他端側は後述する発振回路の接続端子部と接続するための接続端子の役割を有する。
【0013】
図1及び図4(a)に示すように、前記プリント基板2の一端側領域を覆うように角型の箱状のカバー体3が設けられている。ここでプリント基板2の長さ方向に伸びる両縁を夫々左縁、右縁と呼ぶとすると、カバー体3の3辺は夫々プリント基板2の一端縁、左縁、右縁に沿って形成される。前記カバー体3とプリント基板2との間には、夫々左縁及び右縁に沿って伸びる例えば樹脂やゴム等からなる短冊状のスペーサ51a、51bが介在している。前記水晶振動子10は電極が設けられていない、互いにX方向に対向する縁部が、プリント基板2の左縁(右縁)と平行になるように、スペーサ51a、51bに跨って設けられ、当該スペーサ51a、51bとの接触位置は後述する試料液の液収容空間よりも外側である。
【0014】
スペーサ51a、51bの上下両面には電極(図示せず)が形成され、図4(a)に示すように、これら電極を互いに接続するために当該スペーサ51a、51bの厚さ方向に導電路52a、52bが設けられている。前記スペーサ51a、51bの上面側の電極は、水晶振動子10の下面側の電極13(図2(b)参照)に接触し、スペーサ52a、52bの下面側の電極はプリント基板2の導電路21a、21bの端部(電極)22a、22bと夫々接触している。従ってプリント基板2の導電路21a、21bに電圧を印加すると水晶振動子10の電極13に電圧が印加されることになる。
【0015】
図4及び図5に示すように、カバー体3の中央部は開口しており、開口縁から下方へ向けて円筒体31が伸びている。この円筒体31の下縁は水晶振動子10の表面よりもわずか上方に位置するように形成されている。前記円筒体31と水晶振動子10の表面とで囲まれる領域は試料液を収納する液収容空間32を構成している。また、円筒体31は撥水性の部材で構成され、水晶板11の表面に形成された既述の撥水性層14とにより試料液を弾き、その表面張力で試料液が液収容空間32より前記円筒体31の下縁と水晶振動子10の表面との隙間を介して外側へ漏れ出さないようになっている(図4(b)参照)。
【0016】
次に、感知装置6を説明する。図6に示すように、感知装置6は前記水晶センサー1と、この水晶センサー1が着脱自在に装着される発振回路を含む発振回路ユニット4と、測定器本体61及び例えばパーソナルコンピュータ62を含む測定部と、を備えている。前記水晶センサー1は、プリント基板2の端子部(導電路)21a、21bが発振回路ユニット4の端子部49に接続され、当該発振回路ユニット4例えば同軸ケーブルを介して測定器本体61と電気的に接続される。前記発振回路ユニット4内の発振回路はコルピッツ型発振回路ユニットとして構成されており、水晶センサー1の水晶振動子10を発振させる役割を有する。図8中Trは発振増幅素子としてのトランジスタ、40、41は分割容量成分をなすコンデンサ、Vccは定電圧源である。その他の部位については、42〜44はコンデンサ、45〜48は抵抗である。前記発振回路ユニット4の後段にはバッファアンプ63を介して測定器本体61が接続されている。前記測定器本体61は、発振回路ユニット4の発振出力の周波数に関する信号を測定する機能を備えている。周波数の測定手法としては周波数カウンタを用いてもよいが、周波数信号を直交検波して、当該周波数信号の周波数と検波を用いた周波数信号の周波数との差の周波数で回転する回転ベクトルを計算し、この回転ベクトルの位相の変化を回転ベクトルの速度として評価し、この速度を求める手法であってもよい。
【0017】
次に上述の構成を備えた水晶センサー1及び感知装置6を用いて感知対象物例えば血液あるいは血清中のある種の抗原の濃度の測定を行う工程を説明する。先ず、感知装置6の発振回路ユニット4の差込み口に水晶センサー1を差し込み、この差し込みによりプリント基板2の端子部(導電路)21a、21bと発振回路ユニット4の端子部49とが電気的に接続される。そして、発振回路ユニット4により水晶振動子10を発振させ、発振された周波数信号は測定部本体62に取り込まれる。そして、測定者が水晶センサー1のカバー体3の開口部より例えば食塩水を希釈液として注入すると液収容空間32が食塩水で満たされ、水晶振動子10の雰囲気が気相から液相に変わり、このときの周波数が測定される。続いて、血清をそのままあるいは例えば食塩水で希釈した試料溶液を前記開口部より水晶センサー1の液収容空間32に注入すると当該試料溶液に含有されている抗原が吸着層の抗体に抗原抗体反応により捕捉される。この抗原抗体反応が進行し、質量負荷効果により周波数の値が低下する。そして、例えば測定器本体61に接続されたパーソナルコンピュータ62により、図7に示すように例えば74Hzの周波数の変化分を求め、例えば予め作成しておいた検量線に基づいて感知対象物の濃度を検出する。
【0018】
以上において前記カバー体3の円筒体31の下端部は図9に示すように外方側に屈曲されてフランジ状に形成されていてもよい。
【0019】
また、前記金属層11aの形状を長方形状に形成して、図10に示すようにこの上に捕捉層12を形成してもよい。この場合、図11に示すように捕捉層12の形状に合わせるためカバー体3の開口部は長方形状に開口し、開口縁から角状の筒体31が伸び出るように設けられている。
【0020】
上述の実施の形態によれば、水晶センサー1にATカットの水晶板11を用い、この水晶板11の板面に捕捉層12を設けると共に板面におけるZ’方向に互いに対向する端面に電極13を設けて平衡電界励振タイプの水晶振動子10を構成しているため、液相中においても高いQ値が得られ、このため周波数の安定性が高く感知対象物について信頼性の高い測定を行うことができる。
【0021】
次に、本発明の他の実施の形態に係る水晶センサーを説明する。図12に示すように、水晶センサー1に用いられる水晶板11の端面の中央部には弾性境界層を成す溝部100が形成され、この溝部100により水晶板11は第1の振動領域(左側の領域)101と第2の振動領域(右側の領域)102の2つに分割されている。前記第1の振動領域101における水晶板11の板面には金属層を介して感知対象物と反応しない抗体からなるブロック層103が形成され、夫々端面には電極13aが形成されている。前記第2の振動領域102における水晶板11の板面には金属層11aを積層して捕捉層12が形成され、夫々端面には電極13bが形成されている。また、電極13a、13bは水晶板11の他面側(下面側)まで回し込まれている。
【0022】
そして、水晶センサー1が測定器本体部62に差し込まれることにより、第1の振動領域101側の一方の電極13aは発振回路111に接続されると共に他方の電極13aは接地され、また第2の振動領域102側の一方の電極13bは発振回路112に接続されると共に他方の電極13bは接地される。
【0023】
このような水晶センサー1では、第1の振動領域は感知対象物の吸着による変化を受けず、試料溶液の濃度に依存しない、温度のみにより変化する発振周波数「F0」を測定でき(図14の(a))、また第2の振動領域では感知対象物を吸着することによる試料溶液の濃度、温度による発振周波数「F1」を測定することができる(図14の(b))。そして、水晶板11の周囲に温度変化が生じた場合でも、前記発振周波数「F0」及び「F1」は、同一の条件で温度変化の影響を受けることとなる。従って、発振周波数の差分「F1−F0」を計算することにより、温度変化による周波数変化を取り除いた信頼性の高い測定結果を得ることができる(図14の(c))。
【0024】
また、本発明の他の実施の形態に係る水晶センサーは、図15に示すようにプリント基板2の一端側領域に上部が開口した筐体201を設けている。この筐体201内の両端部には各々プリント基板2の幅方向に伸びる水晶板11を載置するための載置部材202が設けられている。水晶振動子10は、電極13の形成された端面が載置部材202と直交するように、当該載置部材202に載置され、例えば導電性接着剤で固定される。前記水晶振動子10の捕捉層12は既述の既述の実施の形態と同様に水晶板11の端面の電極13とは分離された(絶縁された)金属層の表面に形成されている。そして載置部材202の表面には図16に示すように導電路203a、203bが形成されているため、水晶板11が載置部材202に載置されることで、水晶板11の下面側まで回し込まれた電極13と導電路203a、203bの一端とが接続される。導電路203a、203bの他端は筐体201の底部より引き出されて、プリント基板2の21a、21bに夫々接続される。本実施の形態では、水晶板11の端面(電極13が形成された面)と筐体201の側壁とに隙間があることより、液収容空間204は水晶板11の捕捉層12の形成された面と筐体201とで囲まれる空間のみでなく、水晶板11の下面(裏面)と筐体201とで囲まれる空間も含まれることになる。
【0025】
以下に水晶振動子の他の例について記載しておく。図17〜図20に示す水晶振動子10の捕捉層12は、いずれも金属層を介さずに水晶板11上に形成されているが、先の実施の形態のように水晶板11の端面の電極と分離して水晶板11の板面に金属層を形成し、その上に積層された構成としてもよい。また、図17(a)、(b)の例では水晶板11の端面の幅方向全体に電極311を形成した領域と、この電極311から引き出され、端面の幅方向中央部に電極311を形成した領域と、を設け、主に前者の電極により水晶板11を振動させ、また後者の電極は外部の電極との接続をとるために利用している。
【0026】
図18(a)、(b)の例では、電極321を水晶板11の端面における一端側及び他端側に間隔をおいて設け、各電極321は水晶板11の下面に回し込まれている。即ちこの例では水晶板11のZ’方向に互いに対向する電極の組が水晶板11の長さ方向に2組形成されたことになる。この場合各組の電極のうち同じ端面に形成された2つの電極は例えば共通の導電路に接続される。図19(a)、(b)に示した例は、図18に示した同じ端面に形成された2つの電極に対して、図17の構造を適用したものである。また、水晶振動子は水晶板11の両面に捕捉層12を設けても良く、その例として図19の構成に適用した例を図20に示しておく。
【0027】
また、図21〜図24に示す例は、電極が水晶板11の端面のみならず板面(上面)における左縁及び右縁に沿って設けられ、更に水晶板11の下面おいても左縁及び右縁に沿って設けられている。これら一群の例は捕捉層12が水晶板11の板面全体に設けられていることから、板面に形成された電極341a、341b(351a、352a)上にも設けられた状態となっていることから、導電路からは、平行電界励振による周波数信号に、垂直電界励振による周波数信号が重畳された周波数信号が得られる。従って、より高感度に周波数信号を検出することができる。ここで図21及び図22の例は、水晶板11の上面における電極の大きさと下面における電極の大きさとが互いに異なり、垂直電界励振を起こす電極の組がいわば非対称となっている。これに対して図23及び24の例は水晶板11の上面における電極の大きさと下面における電極の大きさとが同じであり、垂直電界励振を起こす電極の組がいわば対称となっている。また、図21〜図23は捕捉層12を水晶板11の一面側に設けた例であり、図24は捕捉層12を水晶板の両面に設けた例である。
【0028】
このように平行電界励振だけでなく垂直電界励振を起こす電極の構造は図2あるいは図12に示す実施の形態に適用してもよいが、垂直電界励振の度合いを大きくするとQ値が低くなることから、高いQ値を確保できるように垂直電界励振の度合いを設定することが望ましい。例えば図25に示すように、水晶板11の両面において、水晶板11の端面に形成した電極361に連続する電極361は左右両縁部のみに形成すると共にこれら電極361における水晶板11の上面側の電極上に捕捉層12を形成して、そして水晶板11の上面側には、端面側の電極361とは分離された金属層11aを形成してこの金属層11aの上に捕捉層12を設ける構成としている。
【0029】
次に、本発明の実施形態に係る水晶センサーの測定実験を行った。
実験方法
実験に使用する水晶センサーには実施の形態で説明した図18、図20及び図22の3種類の水晶振動子を使用し、測定環境には大気中とリン酸緩衝生理食塩水(PBS:Phosphate buffered saline)中とで水晶センサーの等価回路定数(直列抵抗R、インダクタンスL、キャパシタンス22及びQ値)の測定を行った。
【0030】
測定結果
測定結果を以下の表に示す。表1は図18の水晶振動子、表2は図20の水晶振動子、表3は図23の水晶振動子を夫々水晶センサーに用いて測定を行った場合の結果を示した表である。また、測定雰囲気が気相から液相に変わった時の周波数の差分は、図18の水晶振動子では131Hz、図20の水晶振動子では132Hz、図23の水晶振動子では64Hzであった。
【0031】
考察
図18、図20及び図23のどの水晶振動子においても直列抵抗(R)がわずかに変化しているが、その変化を無視できる程に水晶振動子の直列抵抗が大きいことが分かる。また、Q値が大気中とPBS中とを比較しても概ね同じであることから、液相中でも周波数の安定性が高く、感知対象物を高精度に検出できることが分かる。
<表1>
<表2>
<表3>
【符号の説明】
【0032】
1 水晶センサー
10 水晶振動子
11 水晶板
12 捕捉層
13 電極
2 プリント基板
21a、b 導電路
3 カバー体
31 円筒体
32 液収容空間
4 発振回路ユニット
51a、b スペーサ
6 感知装置
61 測定器本体
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相中において感知対象物を高い信頼性で測定することができる水晶センサー及び感知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微量物質を感知し、測定する感知センサーとしては例えば水晶振動子を用いた水晶センサーが利用されている。水晶センサーは、水晶板の表面に吸着層が形成され、この吸着層の表面に感知対象物が付着すると、当該付着した感知対象物の重さの分だけ質量付加効果により水晶の固有振動数が変化し、この変化する性質を利用して感知対象物の濃度を測定するセンサーである。前記吸着層としては、例えばタンパク質などの抗体が用いられ、抗原抗体反応を利用して試料液中例えば血液中の抗原の吸着(反応による捕捉)が行われる。
【0003】
前記水晶センサーに用いられる水晶振動子としては、例えば特許文献1に開示されているように、ATカットの水晶板の表面及び裏面に電極が形成された垂直電界励振タイプと呼ばれる水晶振動子が知られており、この場合、表面側の電極に吸着層が形成されている。この種の水晶振動子、例えば9MHzの水晶振動子では気相中での等価回路の直列抵抗が例えば10Ω程度であるが、液相中例えば純水中では前記直列抵抗が200〜300Ω程度となる。前記水晶振動子を備えた水晶センサーでは、溶液の粘性により前記直列抵抗が変化するが、液相中での直列抵抗が小さいことから粘性による変化分が大きくなり、このため発振させたときの共振周波数の変化に影響を与え、測定結果の信頼性が低下してしまう。前記直列抵抗の変化分が共振周波数に影響を与えないか、または無視できる程小さくするためには、水晶センサーを水晶振動子の直列抵抗が大きな値例えば3kΩの値を取るように構成すればよい。
【0004】
一方、垂直電界励振タイプの水晶振動子は、気相中に比べ液相中におけるQ値(f0/Δf:f0は共振周波数、Δfは共振曲線において共振電流の最大値の1/√2に相当する周波数帯域(共振曲線の幅)である。)が低く、例えば大気中ではQ値は約60000であるが、水中ではQ値は2000程度までに低下する。一般にQ値が低いと水晶振動子の安定性が悪く、電子雑音が大きいことから、水晶振動子を用いて液相での測定においても、こうした課題が内在しているということができ、このため更なる高い信頼性を確保できる技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−78181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は試料液中の感知対象物を測定するにあたり、高い信頼性が得られる水晶センサー及び感知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水晶センサーは、ATカットの水晶板の板面に試料液中の感知対象物を捕捉するための捕捉層が形成され、この捕捉層に感知対象物が捕捉されたことによる水晶板の固有振動数が変化し、その変化に基づいて感知対象物を感知する水晶センサーにおいて、
前記水晶板における互いに対向する端面に、当該水晶板を振動させるための電極を設けたことを特徴とする。
【0008】
また、水晶センサーは以下の構成を取って良い。
1.前記水晶板の板面には、前記電極とは絶縁された金属層が形成され、前記捕捉層はこの金属層に形成されている構成。
2.前記水晶板の端面に設けられた電極を第1の電極とすると、当該水晶板の両板面の各々の一部に互いに対向する第2の電極が設けられ、前記第1の電極及び第2の電極は互いに電気的に接続されている構成。
3.前記第1の電極及び第2の電極は、水晶板上で互いに電気的に接続されている構成。
本発明に係る感知装置は、前記水晶センサーと、当該水晶センサーに接続された発振回路と、この発振回路からの周波数信号を測定するための測定部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ATカットの水晶板を用いた水晶センサーにおいて、水晶板の板面に捕捉層を設けると共に板面におけるZ’方向に互いに対向する端面に電極を設けて平衡電界励振タイプの水晶振動子を構成しているため、液相中においても高いQ値が得られ、このため周波数の安定性が高く試料液中の感知対象物の信頼性の高い測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る水晶センサーを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る水晶センサーに組み込まれる水晶振動子を示す斜視図及び断面図である。
【図3】前記水晶センサーの一部を構成するプリント基板の上面図である。
【図4】前記水晶センサーを示す縦断面図及び拡大図である。
【図5】前記水晶センサーを示す上面図である。
【図6】本発明に係る感知装置を示す斜視図である。
【図7】前記水晶センサーを用いて測定を行った測定結果の一例である。
【図8】前記感知装置を示す構成図である。
【図9】他の実施の形態に係る水晶センサーを示す縦断面図である。
【図10】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図である。
【図11】他の実施の形態に係る水晶センサーを示す斜視図である。
【図12】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図である。
【図13】他の実施の形態に係る感知装置の一部を示す構成図である。
【図14】前記感知装置の測定結果の一例を説明する説明図である。
【図15】他の実施の形態に係る水晶板及び水晶センサーを示す斜視図である。
【図16】他の実施の形態に係る水晶センサーを示す縦断面図である。
【図17】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図18】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図19】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図20】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図21】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図22】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図23】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図24】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【図25】他の実施の形態に係る水晶板を示す斜視図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る水晶センサーを説明する。図1に示すように、水晶センサー1は水晶振動子10、プリント基板2及びカバー体3を備えている。前記水晶振動子10は、図2に示すように例えばATカットの短冊状の水晶板11であり、長辺が水晶のX軸に沿って伸び、短辺が水晶のZ’軸(Z軸を35°15’傾けた軸)に沿って伸び、厚さ方向が水晶のY’軸(Y軸を35°15’傾けた軸)となっている。この水晶振動子10の水晶板11の一方の板面(図2(a)では上面:XZ’面)には、金属層11a(図2(b)参照)が円形状に形成され、当該金属層11aの表面に例えば感知対象物である抗原を抗原抗体反応により、捕捉するための捕捉層(吸着層)12が形成されている。前記金属層11aは、例えば密着層であるクロム(Cr)の上に金を積層して構成されている。前記水晶板11におけるZ’方向の互いに対向する端面には当該水晶板11を発振させるための電極13が形成されており、またこれら電極13は、下端部が水晶板11の他面側(図2(a)の下面側)まで回りこみ、後述のプリント基板の導電路に接続できるようになっている。前記金属層11a及び電極13は例えばフォトリソグラフィーにより同時に形成される。また、水晶板11における捕捉層12の外縁領域であって、後述のカバー体の円筒体の下端部に対向する部位には、撥水性層14が環状に形成されている。この撥水性層14は、円筒体の下端部との間の隙間から試料液が流出するのを防止するためのものである。
【0012】
前記プリント基板2は、図3に示すようにその表面の一端側から他端側に向けて導電路21a、21bが平行に設けられている。また導電路21a、21bの一端側は後述するスペーサ側の電極と接続するための電極22a、22bとして形成され、導電路21a、21bの他端側は後述する発振回路の接続端子部と接続するための接続端子の役割を有する。
【0013】
図1及び図4(a)に示すように、前記プリント基板2の一端側領域を覆うように角型の箱状のカバー体3が設けられている。ここでプリント基板2の長さ方向に伸びる両縁を夫々左縁、右縁と呼ぶとすると、カバー体3の3辺は夫々プリント基板2の一端縁、左縁、右縁に沿って形成される。前記カバー体3とプリント基板2との間には、夫々左縁及び右縁に沿って伸びる例えば樹脂やゴム等からなる短冊状のスペーサ51a、51bが介在している。前記水晶振動子10は電極が設けられていない、互いにX方向に対向する縁部が、プリント基板2の左縁(右縁)と平行になるように、スペーサ51a、51bに跨って設けられ、当該スペーサ51a、51bとの接触位置は後述する試料液の液収容空間よりも外側である。
【0014】
スペーサ51a、51bの上下両面には電極(図示せず)が形成され、図4(a)に示すように、これら電極を互いに接続するために当該スペーサ51a、51bの厚さ方向に導電路52a、52bが設けられている。前記スペーサ51a、51bの上面側の電極は、水晶振動子10の下面側の電極13(図2(b)参照)に接触し、スペーサ52a、52bの下面側の電極はプリント基板2の導電路21a、21bの端部(電極)22a、22bと夫々接触している。従ってプリント基板2の導電路21a、21bに電圧を印加すると水晶振動子10の電極13に電圧が印加されることになる。
【0015】
図4及び図5に示すように、カバー体3の中央部は開口しており、開口縁から下方へ向けて円筒体31が伸びている。この円筒体31の下縁は水晶振動子10の表面よりもわずか上方に位置するように形成されている。前記円筒体31と水晶振動子10の表面とで囲まれる領域は試料液を収納する液収容空間32を構成している。また、円筒体31は撥水性の部材で構成され、水晶板11の表面に形成された既述の撥水性層14とにより試料液を弾き、その表面張力で試料液が液収容空間32より前記円筒体31の下縁と水晶振動子10の表面との隙間を介して外側へ漏れ出さないようになっている(図4(b)参照)。
【0016】
次に、感知装置6を説明する。図6に示すように、感知装置6は前記水晶センサー1と、この水晶センサー1が着脱自在に装着される発振回路を含む発振回路ユニット4と、測定器本体61及び例えばパーソナルコンピュータ62を含む測定部と、を備えている。前記水晶センサー1は、プリント基板2の端子部(導電路)21a、21bが発振回路ユニット4の端子部49に接続され、当該発振回路ユニット4例えば同軸ケーブルを介して測定器本体61と電気的に接続される。前記発振回路ユニット4内の発振回路はコルピッツ型発振回路ユニットとして構成されており、水晶センサー1の水晶振動子10を発振させる役割を有する。図8中Trは発振増幅素子としてのトランジスタ、40、41は分割容量成分をなすコンデンサ、Vccは定電圧源である。その他の部位については、42〜44はコンデンサ、45〜48は抵抗である。前記発振回路ユニット4の後段にはバッファアンプ63を介して測定器本体61が接続されている。前記測定器本体61は、発振回路ユニット4の発振出力の周波数に関する信号を測定する機能を備えている。周波数の測定手法としては周波数カウンタを用いてもよいが、周波数信号を直交検波して、当該周波数信号の周波数と検波を用いた周波数信号の周波数との差の周波数で回転する回転ベクトルを計算し、この回転ベクトルの位相の変化を回転ベクトルの速度として評価し、この速度を求める手法であってもよい。
【0017】
次に上述の構成を備えた水晶センサー1及び感知装置6を用いて感知対象物例えば血液あるいは血清中のある種の抗原の濃度の測定を行う工程を説明する。先ず、感知装置6の発振回路ユニット4の差込み口に水晶センサー1を差し込み、この差し込みによりプリント基板2の端子部(導電路)21a、21bと発振回路ユニット4の端子部49とが電気的に接続される。そして、発振回路ユニット4により水晶振動子10を発振させ、発振された周波数信号は測定部本体62に取り込まれる。そして、測定者が水晶センサー1のカバー体3の開口部より例えば食塩水を希釈液として注入すると液収容空間32が食塩水で満たされ、水晶振動子10の雰囲気が気相から液相に変わり、このときの周波数が測定される。続いて、血清をそのままあるいは例えば食塩水で希釈した試料溶液を前記開口部より水晶センサー1の液収容空間32に注入すると当該試料溶液に含有されている抗原が吸着層の抗体に抗原抗体反応により捕捉される。この抗原抗体反応が進行し、質量負荷効果により周波数の値が低下する。そして、例えば測定器本体61に接続されたパーソナルコンピュータ62により、図7に示すように例えば74Hzの周波数の変化分を求め、例えば予め作成しておいた検量線に基づいて感知対象物の濃度を検出する。
【0018】
以上において前記カバー体3の円筒体31の下端部は図9に示すように外方側に屈曲されてフランジ状に形成されていてもよい。
【0019】
また、前記金属層11aの形状を長方形状に形成して、図10に示すようにこの上に捕捉層12を形成してもよい。この場合、図11に示すように捕捉層12の形状に合わせるためカバー体3の開口部は長方形状に開口し、開口縁から角状の筒体31が伸び出るように設けられている。
【0020】
上述の実施の形態によれば、水晶センサー1にATカットの水晶板11を用い、この水晶板11の板面に捕捉層12を設けると共に板面におけるZ’方向に互いに対向する端面に電極13を設けて平衡電界励振タイプの水晶振動子10を構成しているため、液相中においても高いQ値が得られ、このため周波数の安定性が高く感知対象物について信頼性の高い測定を行うことができる。
【0021】
次に、本発明の他の実施の形態に係る水晶センサーを説明する。図12に示すように、水晶センサー1に用いられる水晶板11の端面の中央部には弾性境界層を成す溝部100が形成され、この溝部100により水晶板11は第1の振動領域(左側の領域)101と第2の振動領域(右側の領域)102の2つに分割されている。前記第1の振動領域101における水晶板11の板面には金属層を介して感知対象物と反応しない抗体からなるブロック層103が形成され、夫々端面には電極13aが形成されている。前記第2の振動領域102における水晶板11の板面には金属層11aを積層して捕捉層12が形成され、夫々端面には電極13bが形成されている。また、電極13a、13bは水晶板11の他面側(下面側)まで回し込まれている。
【0022】
そして、水晶センサー1が測定器本体部62に差し込まれることにより、第1の振動領域101側の一方の電極13aは発振回路111に接続されると共に他方の電極13aは接地され、また第2の振動領域102側の一方の電極13bは発振回路112に接続されると共に他方の電極13bは接地される。
【0023】
このような水晶センサー1では、第1の振動領域は感知対象物の吸着による変化を受けず、試料溶液の濃度に依存しない、温度のみにより変化する発振周波数「F0」を測定でき(図14の(a))、また第2の振動領域では感知対象物を吸着することによる試料溶液の濃度、温度による発振周波数「F1」を測定することができる(図14の(b))。そして、水晶板11の周囲に温度変化が生じた場合でも、前記発振周波数「F0」及び「F1」は、同一の条件で温度変化の影響を受けることとなる。従って、発振周波数の差分「F1−F0」を計算することにより、温度変化による周波数変化を取り除いた信頼性の高い測定結果を得ることができる(図14の(c))。
【0024】
また、本発明の他の実施の形態に係る水晶センサーは、図15に示すようにプリント基板2の一端側領域に上部が開口した筐体201を設けている。この筐体201内の両端部には各々プリント基板2の幅方向に伸びる水晶板11を載置するための載置部材202が設けられている。水晶振動子10は、電極13の形成された端面が載置部材202と直交するように、当該載置部材202に載置され、例えば導電性接着剤で固定される。前記水晶振動子10の捕捉層12は既述の既述の実施の形態と同様に水晶板11の端面の電極13とは分離された(絶縁された)金属層の表面に形成されている。そして載置部材202の表面には図16に示すように導電路203a、203bが形成されているため、水晶板11が載置部材202に載置されることで、水晶板11の下面側まで回し込まれた電極13と導電路203a、203bの一端とが接続される。導電路203a、203bの他端は筐体201の底部より引き出されて、プリント基板2の21a、21bに夫々接続される。本実施の形態では、水晶板11の端面(電極13が形成された面)と筐体201の側壁とに隙間があることより、液収容空間204は水晶板11の捕捉層12の形成された面と筐体201とで囲まれる空間のみでなく、水晶板11の下面(裏面)と筐体201とで囲まれる空間も含まれることになる。
【0025】
以下に水晶振動子の他の例について記載しておく。図17〜図20に示す水晶振動子10の捕捉層12は、いずれも金属層を介さずに水晶板11上に形成されているが、先の実施の形態のように水晶板11の端面の電極と分離して水晶板11の板面に金属層を形成し、その上に積層された構成としてもよい。また、図17(a)、(b)の例では水晶板11の端面の幅方向全体に電極311を形成した領域と、この電極311から引き出され、端面の幅方向中央部に電極311を形成した領域と、を設け、主に前者の電極により水晶板11を振動させ、また後者の電極は外部の電極との接続をとるために利用している。
【0026】
図18(a)、(b)の例では、電極321を水晶板11の端面における一端側及び他端側に間隔をおいて設け、各電極321は水晶板11の下面に回し込まれている。即ちこの例では水晶板11のZ’方向に互いに対向する電極の組が水晶板11の長さ方向に2組形成されたことになる。この場合各組の電極のうち同じ端面に形成された2つの電極は例えば共通の導電路に接続される。図19(a)、(b)に示した例は、図18に示した同じ端面に形成された2つの電極に対して、図17の構造を適用したものである。また、水晶振動子は水晶板11の両面に捕捉層12を設けても良く、その例として図19の構成に適用した例を図20に示しておく。
【0027】
また、図21〜図24に示す例は、電極が水晶板11の端面のみならず板面(上面)における左縁及び右縁に沿って設けられ、更に水晶板11の下面おいても左縁及び右縁に沿って設けられている。これら一群の例は捕捉層12が水晶板11の板面全体に設けられていることから、板面に形成された電極341a、341b(351a、352a)上にも設けられた状態となっていることから、導電路からは、平行電界励振による周波数信号に、垂直電界励振による周波数信号が重畳された周波数信号が得られる。従って、より高感度に周波数信号を検出することができる。ここで図21及び図22の例は、水晶板11の上面における電極の大きさと下面における電極の大きさとが互いに異なり、垂直電界励振を起こす電極の組がいわば非対称となっている。これに対して図23及び24の例は水晶板11の上面における電極の大きさと下面における電極の大きさとが同じであり、垂直電界励振を起こす電極の組がいわば対称となっている。また、図21〜図23は捕捉層12を水晶板11の一面側に設けた例であり、図24は捕捉層12を水晶板の両面に設けた例である。
【0028】
このように平行電界励振だけでなく垂直電界励振を起こす電極の構造は図2あるいは図12に示す実施の形態に適用してもよいが、垂直電界励振の度合いを大きくするとQ値が低くなることから、高いQ値を確保できるように垂直電界励振の度合いを設定することが望ましい。例えば図25に示すように、水晶板11の両面において、水晶板11の端面に形成した電極361に連続する電極361は左右両縁部のみに形成すると共にこれら電極361における水晶板11の上面側の電極上に捕捉層12を形成して、そして水晶板11の上面側には、端面側の電極361とは分離された金属層11aを形成してこの金属層11aの上に捕捉層12を設ける構成としている。
【0029】
次に、本発明の実施形態に係る水晶センサーの測定実験を行った。
実験方法
実験に使用する水晶センサーには実施の形態で説明した図18、図20及び図22の3種類の水晶振動子を使用し、測定環境には大気中とリン酸緩衝生理食塩水(PBS:Phosphate buffered saline)中とで水晶センサーの等価回路定数(直列抵抗R、インダクタンスL、キャパシタンス22及びQ値)の測定を行った。
【0030】
測定結果
測定結果を以下の表に示す。表1は図18の水晶振動子、表2は図20の水晶振動子、表3は図23の水晶振動子を夫々水晶センサーに用いて測定を行った場合の結果を示した表である。また、測定雰囲気が気相から液相に変わった時の周波数の差分は、図18の水晶振動子では131Hz、図20の水晶振動子では132Hz、図23の水晶振動子では64Hzであった。
【0031】
考察
図18、図20及び図23のどの水晶振動子においても直列抵抗(R)がわずかに変化しているが、その変化を無視できる程に水晶振動子の直列抵抗が大きいことが分かる。また、Q値が大気中とPBS中とを比較しても概ね同じであることから、液相中でも周波数の安定性が高く、感知対象物を高精度に検出できることが分かる。
<表1>
<表2>
<表3>
【符号の説明】
【0032】
1 水晶センサー
10 水晶振動子
11 水晶板
12 捕捉層
13 電極
2 プリント基板
21a、b 導電路
3 カバー体
31 円筒体
32 液収容空間
4 発振回路ユニット
51a、b スペーサ
6 感知装置
61 測定器本体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATカットの水晶板の板面に試料液中の感知対象物を捕捉するための捕捉層が形成され、この捕捉層に感知対象物が捕捉されたことによる水晶板の固有振動数が変化し、その変化に基づいて感知対象物を感知する水晶センサーにおいて、
前記水晶板における互いに対向する端面に、当該水晶板を振動させるための電極を設けたことを特徴とする水晶センサー。
【請求項2】
前記水晶板の板面には、前記電極とは絶縁された金属層が形成され、前記捕捉層はこの金属層に形成されていることを特徴とする請求項1記載の水晶センサー。
【請求項3】
前記水晶板の端面に設けられた電極を第1の電極とすると、当該水晶板の両板面の各々の一部に互いに対向する第2の電極が設けられ、前記第1の電極及び第2の電極は互いに電気的に接続されていることを特徴とする請求項1または2記載の水晶センサー。
【請求項4】
前記第1の電極及び第2の電極は、水晶板上で互いに電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載の水晶センサー。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一つに記載の水晶センサーと、この水晶センサーに接続された発振回路と、この発振回路からの周波数信号を測定するための測定部と、を備えたことを特徴とする感知装置。
【請求項1】
ATカットの水晶板の板面に試料液中の感知対象物を捕捉するための捕捉層が形成され、この捕捉層に感知対象物が捕捉されたことによる水晶板の固有振動数が変化し、その変化に基づいて感知対象物を感知する水晶センサーにおいて、
前記水晶板における互いに対向する端面に、当該水晶板を振動させるための電極を設けたことを特徴とする水晶センサー。
【請求項2】
前記水晶板の板面には、前記電極とは絶縁された金属層が形成され、前記捕捉層はこの金属層に形成されていることを特徴とする請求項1記載の水晶センサー。
【請求項3】
前記水晶板の端面に設けられた電極を第1の電極とすると、当該水晶板の両板面の各々の一部に互いに対向する第2の電極が設けられ、前記第1の電極及び第2の電極は互いに電気的に接続されていることを特徴とする請求項1または2記載の水晶センサー。
【請求項4】
前記第1の電極及び第2の電極は、水晶板上で互いに電気的に接続されていることを特徴とする請求項3記載の水晶センサー。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一つに記載の水晶センサーと、この水晶センサーに接続された発振回路と、この発振回路からの周波数信号を測定するための測定部と、を備えたことを特徴とする感知装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2010−249654(P2010−249654A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99270(P2009−99270)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
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