説明

水栓装置

【課題】ドップラセンサを用いて対象物の検出を行う構成において、対象物の検出性能を維持しつつ、消費電力を抑える。
【解決手段】吐水口から吐水される水の給水路を開閉する給水バルブと、前記吐水口に接近する対象物を検出するドップラセンサと、前記ドップラセンサのセンサ出力に基づいて前記給水バルブの開閉動作を制御する制御部と、を備えた水栓装置であって、
定在波信号が閾値A以上となった場合、対象物の接近を検出し、定在波信号が閾値Aよりも大きい閾値B以上となった場合、さらに対象物が吐水口へ接近したことを検出し、ドップラ信号があらかじめ設定された値以上となったことを条件として、給水バルブを開動作させ、定在波信号が閾値A以上となるまでは、ドップラセンサを長サンプリング周期T1で動作させ、定在波信号が閾値A以上となった場合、ドップラセンサを短サンプリング周期T2で動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水栓装置に関する。詳しくは、対象物を検出して自動的な吐水を行う水栓装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗面器に対して吐水を行うための水栓装置として、センサによって対象物の存在等を検出して自動的な吐水を行う構成のものがある。このように自動的な吐水を行う水栓装置としては、センサの配置について高い自由度が得られる等の観点から、電波センサを用いたものが知られている。
【0003】
水栓装置においては、電波センサとして、マイクロ波ドップラセンサ等のドップラセンサが用いられている。ドップラセンサは、マイクロ波を用いるものである場合、マイクロ波を送信し、送信したマイクロ波を受けた人体等の対象物から反射したマイクロ波を受信することにより、対象物の動き等を検出する。
【0004】
ドップラセンサのセンサ出力には、定在波信号とドップラ信号とが含まれ、ドップラセンサを用いた対象物の検出においては、定在波信号に基づく対象物の検出と、ドップラ信号に基づく対象物の検出とが行われる。定在波信号によれば、対象物に対する距離、つまり対象物の位置を検出することができ、ドップラ信号によれば、対象物の動きを検出することができる。
【0005】
このようなドップラセンサを用いた対象物の検出においては、ドップラセンサのセンサ出力から、定在波信号およびドップラ信号の各信号を検出する必要がある。これらの各信号は、ドップラセンサのセンサ出力からフィルタ回路等によって不要な周波数成分を除去すること等により検出される。
【0006】
一方、水栓装置としては、設置性の向上等の観点から、外部からの電力の供給が不要な電池駆動のものが普及している。電池駆動の水栓装置においては、電池の省電力化を図るため、吐水時の水力を利用した発電機を備える構成が知られている。このような電池駆動の水栓装置においては、電力消費量が多いと、容量の大きい電池を使用する必要等が生じるため、低消費電力化を図ることが重要である。
【0007】
そこで、特許文献1に記載の技術がある。特許文献1には、ドップラセンサを用いて人体等の対象物を検出して自動的な吐水を行う構成において、センサに対して対象物が所定の範囲内に入るまでは定在波信号に基づいて対象物の検出を行い、対象物が所定の範囲内に入った後に、ドップラ信号に基づいて対象物の検出を行う構成が開示されている。具体的には次のとおりである。
【0008】
ドップラ信号に基づく対象物の検出は、上記のとおり対象物の動きを検出することができるため、対象物の位置を検出するための定在波信号に基づく対象物の検出よりも高い精度で対象物の検出を行うことができる。一方で、ドップラセンサのセンサ出力からドップラ信号を検出するための信号処理は、ドップラセンサのセンサ出力から定在波信号を検出するための信号処理に比べて処理負荷が大きい。
【0009】
特に、ドップラ信号を検出するためには、ソフト処理として、デジタルフィルタ演算等、複数のデータを用いて膨大な演算処理をする必要があり、そのソフト処理にともなう消費電力は大きい。このため、上述したように対象物が所定の範囲内に入るまでは定在波信号による検出を行い、所定の範囲内に入った後からドップラ信号による検出を行うことで、最初からドップラ信号による検出を行う場合と比べて消費電力の低減が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−031825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したようなドップラセンサを用いて対象物の検出を行う水栓装置においては、検出すべき対象物に応じてドップラセンサによるサンプリング周期を切り替える手法がある。具体的には、対象物としての人体の接近を検出する際には、比較的長い(遅い)サンプリング周期によって対象物の検出を行い、人体の接近後においては、検出精度を高めるために比較的短い(速い)サンプリング周期によって対象物として手の動き等の検出を行う手法である。かかる手法によれば、サンプリング周期が長いほど消費電力が少ないことから、常に比較的短いサンプリング周期で対象物の検出を行う場合と比べて消費電力の低減を図ることができる。
【0012】
このようにサンプリング周期を切り替える手法は、特許文献1のようにドップラセンサを用いて人体等の対象物を検出して自動的な吐水を行う構成において採用される。すなわち、センサに対して対象物が所定の範囲内に入るまでの、定在波信号に基づく対象物の検出は、比較的長いサンプリング周期で行われ、対象物が所定の範囲内に入った後の、ドップラ信号に基づく対象物の検出は、比較的短いサンプリング周期で行われる。
【0013】
このような検出法によれば、対象物が所定の範囲内に入った後、つまり人体接近を検出した後においては、人体の動作等の検出精度を高めるため、サンプリング周期が短くなり、しかも対象物の検出には比較的高負荷なソフト処理をともなうドップラ信号が用いられる。このため、人体接近後では、対象物が所定の範囲内に入る前、つまり定在波信号によって人体接近を検出する前に比べて、消費電力が格段に大きくなる。このように消費電力が大きくなる時間は、低消費電力化の妨げとなることから、できるだけ短い方が望ましい。
【0014】
しかしながら、例えば、鏡面が配置される洗面台の洗面器に吐水を行う水栓装置等においては、例えば女子トイレ内での化粧直し等、吐水が行われずに水栓装置の前に人が滞在する状態が長時間継続する場合がある。かかる場合、対象物が所定の範囲内に入った状態が定在波信号によって検出され、サンプリング周期が短くなり、しかも対象物の検出に高負荷な処理をともなうドップラ信号が用いられる状態、つまり消費電力が大きい状態が長時間継続してしまうことになる。このように、ドップラセンサを用いて人体等の対象物を検出して自動的な吐水を行う構成においては、吐水が行われずに水栓装置の前に人が滞在する状態が、ドップラセンサの低消費電力化の障害となる。
【0015】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであって、ドップラセンサを用いて対象物の検出を行う構成において、対象物の検出性能を維持しつつ、吐水が行われないにもかかわらずにドップラセンサによる消費電力が比較的大きくなる時間を短くすることができ、消費電力を抑えることができる水栓装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る水栓装置は、吐水口から吐水される水の給水路を開閉する給水バルブと、前記吐水口に接近する対象物を検出するドップラセンサと、前記ドップラセンサのセンサ出力に基づいて前記給水バルブの開閉動作を制御する制御部と、を備えた水栓装置であって、前記制御部は、前記センサ出力に含まれる定在波信号に基づいて対象物の前記吐水口への接近を検出する第1検出部と、前記センサ出力に含まれるドップラ信号に基づいて対象物の動きを検出する第2検出部と、を有し、前記定在波信号があらかじめ設定された第1の閾値以上となった場合、前記第1検出部により、対象物の前記接近を検出し、前記定在波信号があらかじめ設定され前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値以上となった場合、前記第1検出部により、対象物の前記接近よりもさらに対象物が前記吐水口へ接近したことを検出し、前記第2検出部により、前記ドップラ信号があらかじめ設定された値以上となったことを条件として、前記給水バルブを開動作させ、前記定在波信号が前記第1の閾値以上となるまでは、前記ドップラセンサを、あらかじめ設定された第1のサンプリング周期で動作させ、前記定在波信号が前記第1の閾値以上となった場合、前記ドップラセンサを、あらかじめ設定され前記第1のサンプリング周期よりも短い第2のサンプリング周期で動作させるものである。このような構成により、ドップラセンサを用いて対象物の検出を行う構成において、対象物の検出性能を維持しつつ、吐水が行われないにもかかわらずにドップラセンサによる消費電力が比較的大きくなる時間を短くすることができ、消費電力を抑えることができる。
【0017】
本発明に係る水栓装置は、吐水口から吐水される水の給水路を開閉する給水バルブと、前記吐水口に接近する対象物を検出するドップラセンサと、前記ドップラセンサのセンサ出力に基づいて前記給水バルブの開閉動作を制御する制御部と、を備えた水栓装置であって、前記制御部は、前記センサ出力に含まれる定在波信号に基づいて対象物の前記吐水口への接近を検出する第1検出部と、前記定在波信号の周波数の減少量を演算する周波数演算部と、前記センサ出力に含まれるドップラ信号に基づいて対象物の動きを検出する第2検出部と、を有し、前記定在波信号があらかじめ設定された第1の閾値以上となった場合、前記第1検出部により、対象物の前記接近を検出し、前記周波数演算部により算出された前記周波数の減少量があらかじめ設定された閾値以上となった場合、前記第1検出部により、対象物の前記接近よりもさらに対象物が前記吐水口へ接近したことを検出し、前記第2検出部により、前記ドップラ信号があらかじめ設定された値以上となったことを条件として、前記給水バルブを開動作させ、前記定在波信号が前記第1の閾値以上となるまでは、前記ドップラセンサを、あらかじめ設定された第1のサンプリング周期で動作させ、前記定在波信号が前記第1の閾値以上となった場合、前記ドップラセンサを、あらかじめ設定され前記第1のサンプリング周期よりも短い第2のサンプリング周期で動作させるものである。このような構成により、例えば対象物としての人体の手が吐水口の手前で止まる直前まで、処理負荷が大きく電力消費が大きいドップラ信号による検出処理を停止させることができるため、ドップラセンサを用いて対象物の検出を行う構成において、対象物の検出性能を維持しつつ、吐水が行われないにもかかわらずにドップラセンサによる消費電力が比較的大きくなる時間を短くすることができ、消費電力を抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ドップラセンサを用いて対象物の検出を行う構成において、対象物の検出性能を維持しつつ、吐水が行われないにもかかわらずにドップラセンサによる消費電力が比較的大きくなる時間を短くすることができ、消費電力を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る水栓装置の適用例を示す図。
【図2】本発明の第一実施形態に係る水栓装置の構成を示すブロック図。
【図3】本発明の第一実施形態に係る水栓装置に対する使用者の動作についての説明図。
【図4】本発明の第一実施形態に係る水栓装置の検出処理についての説明図。
【図5】本発明の第一実施形態に係る水栓装置の制御フローを示すフロー図。
【図6】本発明の第一実施形態に係る水栓装置の制御フローを示すフロー図。
【図7】本発明の第二実施形態に係る水栓装置に対する使用者の動作についての説明図。
【図8】本発明の第二実施形態に係る水栓装置の構成を示すブロック図。
【図9】本発明の第二実施形態に係る水栓装置の検出処理についての説明図。
【図10】本発明の第二実施形態に係る水栓装置の制御フローを示すフロー図。
【図11】本発明の第二実施形態に係る水栓装置の制御フローを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、ドップラセンサを用いて対象物の検出を行う構成において、手などの、吐水を受ける対象物が吐水口の近傍に存在する可能性が高い状態を検出し、かかる状態でのみ比較的負荷が大きく消費電力が大きい処理をともなう検出を実施することで、低消費電力化を図ろうとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
[水栓装置の構成]
本発明の第1実施形態に係る水栓装置1の構成について、図1および図2を用いて説明する。図1に示すように、本実施形態に係る水栓装置1は、対象物を検出して自動的な吐水を行うものであり、洗面台に備え付けられる洗面器2に対して吐水を行う。洗面器2は、洗面カウンタ3に設けられる。洗面カウンタ3上には、水栓4が設けられる。水栓4は、洗面器2のボール面2aに対して水を吐出するためのスパウトを構成する。水栓4は、水を吐出する吐水口4aを有し、この吐水口4aから吐出される水が洗面器2のボール面2a内に吐出されるように設けられる。
【0022】
水栓4の吐水口4aから吐出される水は、給水路5により供給される。給水路5は、水道管等の給水源から供給される水を吐水口4aへと導く。洗面器2には、排水路6が接続されている。排水路6は、吐水口4aから洗面器2のボール面2a内に吐水された水を排出する。
【0023】
本実施形態の水栓装置1は、電磁弁11と、マイクロ波ドップラセンサ12と、制御部13とを備える。電磁弁11は、給水路5に設けられ、給水路5の開閉を行う。つまり、電磁弁11の開閉動作により、給水路5から供給される水の吐水口4aからの吐水状態と止水状態とが切り換えられる。
【0024】
電磁弁11の開閉動作は、制御部13によって制御される。このため、電磁弁11は、制御部13に接続される。電磁弁11は、制御部13からの制御信号に従って電気的に制御され、給水路5の開閉を行う。このように、電磁弁11は、吐水口4aから吐水される水の給水路5を開閉する給水バルブとして機能する。
【0025】
マイクロ波ドップラセンサ12は、吐水口4aに接近する対象物を検出する。マイクロ波ドップラセンサ12は、マイクロ波を送信し、送信したマイクロ波を受けた人体等の対象物から反射したマイクロ波を受信することにより、対象物の位置や動き等を検出する。マイクロ波ドップラセンサ12は、水栓4の内部に設けられ、洗面台の使用者側(図1において左側)に向けてマイクロ波を送信するように配置される。マイクロ波ドップラセンサ12は、吐水口4aに人体が近付いてきたことや、吐水口4aに近付いた人体から吐水口4aに向けて手が差し出されたこと等を検出するために用いられる。
【0026】
マイクロ波ドップラセンサ12は、制御部13に接続される。マイクロ波ドップラセンサ12から出力される信号が、制御部13に入力され、制御部13により、対象物の位置や動き等が検知される。なお、本実施形態では、ドップラセンサとして、マイクロ波を用いるマイクロ波ドップラセンサ12が採用されているが、例えば超音波やミリ波を用いるドップラセンサ等であってもよい。
【0027】
制御部13は、マイクロ波ドップラセンサ12のセンサ出力に基づいて電磁弁11の開閉動作を制御する。このため、制御部13には、上記のとおりマイクロ波ドップラセンサ12からの出力信号が入力される。また、制御部13からは、電磁弁11に対する制御信号が出力される。
【0028】
以上のように、本実施形態の水栓装置1は、電磁弁11と、マイクロ波ドップラセンサ12と、制御部13とを備え、制御部13により、マイクロ波ドップラセンサ12による検出信号に基づいて、電磁弁11の開閉動作を制御することで、吐水口4aに接近する対象物の検出、つまり人体検出を行うことで、洗面台の使用者の動き等に応じた吐水を行う。以下、本実施形態の水栓装置1の各部の詳細について説明する。
【0029】
図2に示すように、マイクロ波ドップラセンサ12は、発振回路部21と、送信部22と、受信部23と、ミキシング部24とを有する。発振回路部21は、マイクロ波ドップラセンサ12から送信される電波(マイクロ波)を得るための電気信号を生成する。発振回路部21は、電気信号として、例えば10.525GHzの周波数を有する信号を生成し、送信信号S1として出力する。
【0030】
送信部22は、発振回路部21から出力された送信信号S1を受け、受けた信号を送信する。ここで、発振回路部21により生成される信号が10.525GHzの周波数を有する信号である場合、送信部22は、10.525GHzのマイクロ波を送信する。受信部23は、送信部22から送信され、検出対象となる対象物10によって反射されたマイクロ波を受信する。受信部23は、受信したマイクロ波を電気信号に変換し、受信信号S2として出力する。なお、送信部22および受信部23は、信号の送受信を行うためのアンテナを有する。
【0031】
ミキシング部24は、発振回路部21から出力される送信信号S1と、受信部23から出力される受信信号S2とを混合(ミキシング)して出力する。ミキシング部24は、送信信号S1と受信信号S2とを合成し、マイクロ波ドップラセンサ12からのセンサ出力S3とする。ミキシング部24から出力されるセンサ出力S3は、制御部13に入力される。
【0032】
マイクロ波ドップラセンサ12からのセンサ出力S3には、定在波信号とドップラ信号とが含まれる。定在波信号は、対象物10に対する距離、つまり対象物10の位置の検出に用いられ、ドップラ信号は、対象物10の動きの検出に用いられる。
【0033】
次に、制御部13について説明する。図2に示すように、制御部13は、ローパスフィルタ部31と、アンプ部32と、ドップラ信号検出部33と、定在波信号検出部34と、対象物検出部35と、電極弁制御部36と、センサ制御部37と、記憶部38とを有する。また、対象物検出部35は、人体動作検出部39と、人体位置検出部40とを含む。また、制御部13は、時間を計測するためのタイマ41を有する。
【0034】
制御部13は、具体的には、データ通信用のバス等により互いに接続されるCPU(Central Processing Unit)やメモリや入出力インターフェイス等の各種機能部分を有する。制御部13は、入出力インターフェイスとして、マイクロ波ドップラセンサ12からの入力信号を受けるための入力インターフェイス、および電磁弁11に対する制御信号を出力するための出力インターフェイスを有する。制御部13が有するCPUは、記憶部38等に記憶された制御プログラム等に従って所定の演算を行う演算部として機能する。
【0035】
ローパスフィルタ部31は、入力された信号から、送信信号S1や受信信号S2の周波数帯域であるマイクロ波周波数帯域の成分を除去するローパスフィルタを有する。ローパスフィルタ部31は、ローパスフィルタにより、マイクロ波ドップラセンサ12からのセンサ出力S3から、マイクロ波周波数帯域の成分を除去する。ローパスフィルタ部31は、センサ出力S3からマイクロ波周波数帯域の成分を除去した信号を、信号S4として出力する。
【0036】
アンプ部32は、ローパスフィルタ部31から出力された信号S4の入力を受け、入力された信号を増幅して出力する。したがって、アンプ部32からは、信号S4が増幅された増幅信号S5が出力される。アンプ部32から出力される増幅信号S5は、定在波信号である直流成分とドップラ信号である交流成分とを含む。
【0037】
ドップラ信号検出部33は、アンプ部32から出力された増幅信号S5の入力を受ける。ドップラ信号検出部33は、入力された増幅信号S5の周波数成分のうち、人体検出に不要な周波数帯域の成分を除去するフィルタを有する。ドップラ信号検出部33は、フィルタにより、増幅信号S5から人体検出に不要な周波数帯域の成分を除去する。ここで、人体検出に不要な周波数帯域は、例えば50Hzを上回る周波数帯域である。
【0038】
ドップラ信号検出部33は、増幅信号S5から人体検出に不要な周波数帯域の成分を除去した信号を、人体検出用のドップラ信号S6として出力する。ドップラ信号検出部33では、上記のとおり定在波信号である直流成分とドップラ信号である交流成分とを含む増幅信号S5から、人体検出に不要な周波数帯域の成分を除去することにより、ドップラ信号S6が抽出される。具体的には、ドップラ信号検出部33は、増幅信号S5をA/D変換によりデジタル信号とした後、マイクロコンピュータ等によるソフト処理としてデジタルフィルタ演算等を行うことにより、ドップラ信号S6を抽出する。
【0039】
ここで、マイクロ波ドップラセンサ12のセンサ出力S3に含まれるドップラ信号による対象物(人体等)の動きの検出について説明する。対象物の動きは、次式(1)に基づいて検出される。
【0040】
基本式:ΔF=FS−Fb=2×FS×ν/c ・・・(1)
ΔF:ドップラ周波数(センサ出力S3に含まれるドップラ信号の周波数)
FS:送信周波数(送信信号S1の周波数)
Fb:反射周波数(受信信号S2の周波数)
ν:検出対象物の移動速度
c:光速(300×10m/s)
【0041】
上記式(1)にならうと、マイクロ波ドップラセンサ12において、送信部22から送信された送信周波数FSのマイクロ波は、速度νで移動している対象物10によって反射される。この対象物10からの反射波は、受信部23により受信される。受信部23により受信される反射波の周波数は、相対運動によるドップラ周波数シフトを受け、送信周波数FSとは異なる反射周波数Fbとなる。
【0042】
ミキシング部24において送信信号S1と受信信号S2とがミキシングされた信号から、ローパスフィルタ部31によって高周波成分が除去されることによって、センサ出力S3からドップラ周波数が抽出される。そして、ドップラ信号検出部33によって人体検出のための周波数帯域(例えば50Hz以下)の成分が抽出され、人体検出用のドップラ信号S6が得られる。
【0043】
ドップラ信号検出部33から出力されたドップラ信号S6は、対象物検出部35が有する人体動作検出部39に入力される。人体動作検出部39は、入力されたドップラ信号S6に基づき、対象物10の動きから、対象物10が吐水口4aから吐出される水を受ける程度の位置に達したこと等を検出する。
【0044】
定在波信号検出部34は、アンプ部32から出力された増幅信号S5の入力を受ける。定在波信号検出部34は、入力された増幅信号S5から定在波信号を検出する。定在波信号検出部34では、上記のとおり定在波信号である直流成分とドップラ信号である交流成分とを含む増幅信号S5から、ドップラ信号の成分が除去されることにより、定在波信号S7が抽出される。
【0045】
具体的には、定在波信号検出部34は、交流成分除去回路として機能するローパスフィルタ回路を有する。定在波信号検出部34は、ローパスフィルタ回路により、増幅信号S5からドップラ信号成分を除去することで、定在波信号を抽出する。つまり、定在波信号検出部34は、アンプ部32から出力される増幅信号S5から交流成分を除去することで、定在波信号S7を抽出する。定在波信号検出部34は、増幅信号S5から抽出した定在波信号S7を出力する。
【0046】
なお、定在波信号検出部34においては、対象物10に対する距離の検出精度を向上するための信号処理が適宜採用される。具体的には、例えば次のような処理が行われる。定在波信号は、マイクロ波ドップラセンサ12と対象物10との距離が長いほど信号レベル(電圧レベル)が小さくなるように周期的に変化する信号である。このように周期的に信号レベルが変化する定在波信号においては、振幅が大きな腹部と振幅が小さな節部とが1/4周期ごとに交互に存在するため、対象物10に対する距離について十分な検出精度が得られない場合がある。なお、定在波信号の信号レベルは、周期的に変化する波形の振幅値に相当する。
【0047】
そこで、定在波信号検出部34において、まず、上記のとおりローパスフィルタ回路によって得られる定在波信号から、位相をシフトさせた信号を生成する。次に、ローパスフィルタ回路から出力された定在波信号、および位相をシフトさせた信号の各信号を、全波整流する。そして、全波整流した各信号を、加算し、合成信号とする。このようにして得られた合成信号は、マイクロ波ドップラセンサ12と対象物10との距離に応じた信号レベルの信号となる。
【0048】
定在波信号検出部34においてこのような信号処理を行うことにより、合成信号として、マイクロ波ドップラセンサ12が配置される水栓4の吐水口4aと人体等の対象物10との距離が近いほどレベルが大きくなる信号が得られる。これにより、対象物10に対する距離について検出精度の向上を図ることができる。なお、この信号処理においては、加算されて合成される、互いに位相が異なる定在波信号の数が多いほど、算出される合成信号は滑らかな曲線となり、より高い検出精度を得ることができる。
【0049】
このような対象物10に対する距離の検出精度向上のための信号処理を行う場合、定在波信号検出部34においては、例えば、定在波信号の位相をシフトさせるための位相シフト回路や、信号の全波整流を行うための全波整流回路や、全波整流した信号を加算して合成するための加算回路等が備えられる。
【0050】
定在波信号検出部34から出力された定在波信号S7は、対象物検出部35が有する人体位置検出部40に入力される。人体位置検出部40は、入力された定在波信号S7に基づき、対象物10が吐水口4aに対して所定の範囲内に入ったことや、対象物10が吐水口4aに対して所定の範囲内から出たこと等を検出する。
【0051】
電極弁制御部36は、対象物検出部35から出力される検出信号に基づいて、電磁弁11の開閉動作を制御する。具体的には、電極弁制御部36は、対象物検出部35の人体動作検出部39においてドップラ信号検出部33から入力されたドップラ信号S6に基づいて対象物10が吐水口4aから吐出される水を受ける程度の位置に達したことが検出されると、電磁弁11を開動作させる。
【0052】
センサ制御部37は、マイクロ波ドップラセンサ12の動作を制御する。センサ制御部37によるマイクロ波ドップラセンサ12の動作の制御には、マイクロ波ドップラセンサ12のサンプリング周期の制御が含まれる。
【0053】
ここで、マイクロ波ドップラセンサ12のサンプリング周期(以下単に「サンプリング周期」という。)とは、マイクロ波ドップラセンサ12を所定の周期で間欠的に動作させる際の動作周期である。例えば、マイクロ波ドップラセンサ12の動作を100ms(ミリ秒)間隔で周期的に行う場合、サンプリング周期は100msとなる。この場合、マイクロ波ドップラセンサ12においては、100msごとに、受信部23によって対象物10から反射波が受信され、センサ出力S3が出力される。
【0054】
サンプリング周期が短い(速い)ほど、高い精度でデータの検出を行うことができるが、消費電力が多くなる。逆に、サンプリング周期が長い(遅い)ほど、データの検出精度は低くなるが、消費電力が少なくなる。本実施形態の水栓装置1は、洗面台の使用者の人体の接近を検出する際には、比較的長い(遅い)サンプリング周期によって対象物の検出を行い、人体の接近後においては、検出精度を高めるために比較的短い(速い)サンプリング周期によって使用者の手の動き等の検出を行う。このように検出すべき対象物に応じてサンプリング周期を切り替えることで、サンプリング周期が長いほど消費電力が少ないことから、常に比較的短いサンプリング周期で対象物の検出を行う場合と比べて消費電力の低減が図られる。
【0055】
記憶部38は、水栓装置1の制御プログラムや後述するような水栓装置1における吐水制御に用いられる各種データ等を記憶する。記憶部38は、例えばCPUに接続されるROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等により構成される。
【0056】
ドップラ信号検出部33および人体動作検出部39によるドップラ信号S6に基づく対象物10の検出によれば、定在波信号検出部34および人体位置検出部40による定在波信号S7に基づく対象物10の検出よりも高い精度を得ることができる。すなわち、定在波信号S7を用いた検出は、定在波信号S7の振幅値に基づくものであるのに対し、ドップラ信号S6は、センサ出力S3に対してデジタルフィルタ演算等が施された信号であるため、外乱ノイズ等を除去することができ、より高い精度での対象物10の検出が行われる。
【0057】
以上のような構成を備える本実施形態の水栓装置1においては、制御部13により、マイクロ波ドップラセンサ12による検出信号、つまりセンサ出力S3に基づく吐水制御が行われる。具体的には、洗面台の使用者が、吐水口4aからの吐水を利用する場合に行う特徴的な動作を、センサ出力S3から検出することで、使用者の一連の動作において、サンプリング周期を短いサンプリング周期に切り替えるタイミングと、上述したようにドップラ信号検出部33においてドップラ信号S6を抽出する際に行われるデジタルフィルタ演算等のソフト処理(以下単に「ソフト処理」という。)を開始するタイミングとを異ならせ、後者のタイミングを前者のタイミングよりも遅らせる。
【0058】
サンプリング周期が短いサンプリング周期に切り替えられた状態は、消費電力が多い状態である。また、ソフト処理は、比較的高負荷な処理であるため、ソフト処理を実行している状態は、消費電力が多い状態である。そこで、洗面台の使用者の洗面台への接近を検出することで、サンプリング周期を短くし、その後、使用者が吐水口4aからの吐水を利用する場合に行う特徴的な動作を検出することで、ソフト処理を開始する。これにより、サンプリング周期を短いサンプリング周期に切り替えるタイミングに対してソフト処理を開始するタイミングを遅らせる。
【0059】
つまり、使用者の洗面台への接近の検出によってサンプリング周期を短いサンプリング周期に切り替えてから、使用者が吐水口4aからの吐水を利用する可能性が高い状態を検出し、かかる状態となるまで、ソフト処理を停止させておく。このような吐水制御を行うことにより、人体の検出性能を低下させることなく、低消費電力化を図る。以下、本実施形態の水栓装置1において行われる吐水制御の具体的な内容について説明する。
【0060】
[制御内容]
本実施形態の水栓装置1において行われる吐水制御は、マイクロ波ドップラセンサ12のセンサ出力S3に基づいて、水栓4の吐水口4aから水を吐水させる際の制御である。マイクロ波ドップラセンサ12のセンサ出力S3は、洗面台の使用者が吐水口4aからの吐水を利用する場合に行う特徴的な動作を反映する。
【0061】
ここで、対象物10となる洗面台の使用者が吐水口4aからの吐水を利用する場合の動作について、図3を用いて説明する。図3(a)に示すように、洗面器2が備え付けられる洗面台の使用者20は、洗面台の使用に際して、水栓4に対して離れた位置から、洗面台に向かって移動し、洗面台の洗面カウンタ3、つまり水栓4に接近する(矢印A1参照)。
【0062】
図3(b)に示すように水栓4に接近した使用者20は、水栓4の吐水口4aから吐出される水を利用して手を洗ったりするほか、化粧直し等のために洗面台において使用者20の正面に配置される鏡を見る等、吐水口4aからの吐水を利用しないで洗面台を使用する場合がある。
【0063】
使用者20は、吐水口4aから吐水される水を利用する場合、図3(c)に示すように、手20aに吐水口4aからの吐水を受けるため、手20aを吐水口4aの近傍に向けて差し出す動作を行う(矢印A2参照)。つまり、使用者20は、図3(b)に示すように水栓4に接近した状態から、同図(c)に示すように、手20aを動かし始め、吐水口4aからの吐水を受ける位置で手20aを止めるという動作を行う。このように使用者20による手20aを吐水口4aの近傍に向けて差し出す動作が、使用者20が吐水口4aからの吐水を利用する場合に行う特徴的な動作となる。
【0064】
以上のような使用者20の一連の動作に対し、本実施形態の吐水制御では、マイクロ波ドップラセンサ12からのセンサ出力S3により、使用者20が水栓4に接近したこと(図3(a)→図3(b))と、吐水口4aから吐水される水を利用する使用者20が手20aを吐水口4aの近傍に向けて差し出す動作を行うことで手20aが吐水口4aに接近したこと(図3(b)→図3(c))とが検出される。そして、前者が検出されることで、サンプリング周期が短いサンプリング周期に切り替えられ、後者が検出されることで、ソフト処理が開始される。
【0065】
使用者20が水栓4に接近したこと、および使用者20の手20aが吐水口4aに接近したことは、定在波信号S7に基づいて検出される。したがって、使用者20が水栓4に接近したこと、および使用者20の手20aが吐水口4aに接近したことは、制御部13において、定在波信号検出部34によって検出された定在波信号S7に基づいて、人体位置検出部40により検出される。このように、本実施形態では、人体位置検出部40が、センサ出力S3に含まれる定在波信号S7に基づいて対象物の吐水口4aへの接近を検出する第1検出部として機能する。以下の説明では、人体位置検出部40により検出される、使用者20が水栓4に接近したことを「人体接近」といい、同じく人体位置検出部40により検出される、使用者20の手20aが吐水口4aに接近したことを「手接近」という。
【0066】
また、本実施形態の吐水制御では、マイクロ波ドップラセンサ12からのセンサ出力S3により、定在波信号S7に基づいて手接近が検出された後、使用者20の手20aが吐水口4aからの吐水を受ける位置で止まるまでの動作において、手20aが、手接近が検出された時よりもさらに吐水口4aに近付く際の動作が検出される。このように手20aが吐水口4aに近付く際の動作が検出されることで、電磁弁11が開動作され、水栓4からの吐水が行われる。
【0067】
手接近が検出された時よりもさらに手20aが吐水口4aに近付く際の動作は、ドップラ信号S6に基づいて検出される。つまり、手接近が検出された時よりもさらに手20aが吐水口4aに近付く際の動作は、ソフト処理が行われている状態で検出される。したがって、手接近が検出された時よりもさらに手20aが吐水口4aに近付く際の動作は、制御部13において、ドップラ信号検出部33によって検出されたドップラ信号S6に基づいて、人体動作検出部39により検出される。このように、本実施形態では、人体動作検出部39が、センサ出力S3に含まれるドップラ信号S6に基づいて対象物の動きを検出する第2検出部として機能する。以下の説明では、人体動作検出部39により検出される、手接近が検出された時よりもさらに手20aが吐水口4aに近付く際の動作を「手動作」という。
【0068】
そして、手動作が検出されると、電極弁制御部36は、対象物検出部35からの検出信号を受け、電磁弁11を開動作させる。これにより、給水路5が開かれ、吐水口4aからの吐水が開始される。
【0069】
以下、本実施形態の吐水制御について、図4を用いて具体的に説明する。図4において、上段に示すグラフは、定在波信号の波形の一例を示す。同じく図4において、中段は、マイクロ波ドップラセンサ12によるサンプリングのタイミングを示す。同じく図4において、下段は、ソフト処理の実行状態を示す。
【0070】
図4に示す定在波信号の波形は、図3を用いて説明したような使用者20の一連の動作が行われることで得られる波形の一例である。図4に示す定在波信号の波形において、符号Xaで示すタイミングは、使用者20が水栓4に対して離れた位置から水栓4に接近したタイミングに対応する(図3(b)参照)。また、符号Xbで示すタイミングは、使用者20が吐水口4aからの吐水を受けるために手20aを吐水口4aの近傍に向けて差し出す動作を行う際に、手20aを動かし始めたタイミングに対応する。また、符号Xcで示すタイミングは、使用者20の手20aが吐水口4aからの吐水を受ける位置で止まったタイミングに対応する(図3(c)参照)。
【0071】
本実施形態の吐水制御においては、定在波信号S7の信号レベル、つまり振幅値について、第1の閾値としての閾値Aと、閾値Aよりも大きい第2の閾値としての閾値Bとがあらかじめ設定される(閾値A<閾値B)。これら閾値Aおよび閾値Bは、制御部13において記憶部38等にあらかじめ設定され記憶される。
【0072】
そして、定在波信号S7の振幅値が閾値A以上となることを条件として、人体接近が検出される。図4に示す例では、使用者20が水栓4に接近したタイミング(符号Xa)である時刻t1に、人体接近が検出されている。また、定在波信号S7の振幅値が閾値B以上となることを条件として、手接近が検出される。図4に示す例では、使用者20が手20aを動かし始めたタイミング(符号Xb)から手20aが止まったタイミング(符号Xc)までの間における時刻t2に、手接近が検出されている。
【0073】
すなわち、定在波信号S7の信号レベル(振幅値)は、マイクロ波ドップラセンサ12と対象物10(使用者20の人体)との距離が近くなることで大きくなる。そこで、上述したような使用者20の一連の動作において、まず、使用者20が水栓4に接近し、定在波信号S7の振幅値が閾値A以上となることで、人体接近が検出され(時刻t1)、次に、水栓4に接近した使用者20が手20aを動かし始め、手20aが吐水口4aに接近し、定在波信号S7の振幅値が閾値B以上となることで、手接近が検出される(時刻t2)。
【0074】
以上のような検出処理において、人体接近が検出された時刻t1に、サンプリング周期Tが、短いサンプリング周期に切り換えられる。すなわち、図4に示すように、人体接近が検出される時刻t1までは、水栓装置1の待機状態であり、サンプリング周期Tは比較的長いサンプリング周期(以下「長サンプリング周期」という。)T1とされ、人体接近が検出された時刻t1を境に、サンプリング周期Tが比較的短いサンプリング周期(以下「短サンプリング周期」という。)T2に切り替えられる。
【0075】
すなわち、人体接近を検出する際には、長サンプリング周期T1で検出を行い、人体接近後においては、検出精度を高めるために短サンプリング周期T2で検出を行う。これにより、サンプリング周期Tが長いほど消費電力が少ないことから、常に短サンプリング周期T2で使用者20の検出を行う場合と比べて消費電力の低減を図ることができる。長サンプリング周期T1は、例えば100ms程度に設定され、短サンプリング周期T2は、例えば10ms程度に設定される。本実施形態では、長サンプリング周期T1が、第1のサンプリング周期に相当し、短サンプリング周期T2が、第1のサンプリング周期よりも短い第2のサンプリング周期に相当する。
【0076】
そして、時刻t1にサンプリング周期Tが長サンプリング周期T1から短サンプリング周期T2に切り替えられてから、手接近が検出された時刻t2に、ソフト処理が開始される。ソフト処理は、ドップラ信号S6に基づいて手動作を検出するために行われる処理であり、デジタルフィルタ演算等の処理を含む高負荷な処理である。このソフト処理が行われている状態で、電磁弁11を開弁させて吐水口4aからの吐水を行うための手動作が検出される。
【0077】
手動作の検出は、上述したようにソフト処理が行われている状態においてドップラ信号S6に基づいて行われる。具体的には、ソフト処理によれば、その演算結果としての演算値が得られる。この演算値は、ドップラ信号S6についての値であって、ドップラ信号S6についての信号の分散度合い等を表す値であり、使用者20の手20aが吐水口4aに近付くほど大きくなる値である。
【0078】
このソフト処理による演算結果としての演算値について、所定の値(以下「値C」とする。)があらかじめ設定される。そして、ソフト処理により抽出されたドップラ信号S6についての演算値が、あらかじめ設定された値C以上となることを条件として、手動作が検出される。このドップラ信号S6についての演算値の比較対象となる値Cは、制御部13において記憶部38等にあらかじめ設定され記憶される。
【0079】
手動作が検出されることで吐水口4aからの吐水が開始された後は、あらかじめ設定される所定の条件に基づいて、電磁弁11が閉動作し、吐水口4aからの吐水が停止される。ここで用いられる所定の条件としては、例えば、定在波信号S7の振幅値が閾値Aを下回ること等によって使用者20が水栓4から離れたこと(人体離反)が検出されることや、吐水開始から所定時間経過したこと等が挙げられる。
【0080】
以上のように、本実施形態の吐水制御においては、制御部13は、定在波信号S7があらかじめ設定された閾値A以上となった場合、人体位置検出部40により、対象物の接近を検出する。ここで、対象物の接近は、図4に示す例では時刻t1に検出された人体接近に相当する。
【0081】
また、制御部13は、定在波信号S7があらかじめ設定された閾値B以上となった場合、人体位置検出部40により、人体接近よりもさらに対象物が吐水口4aへ接近したことを検出する。ここで、人体接近よりもさらに対象物が吐水口4aへ接近したことは、図4に示す例では時刻t2に検出された手接近に相当する。
【0082】
また、制御部13は、同じく定在波信号S7があらかじめ設定された閾値B以上となった場合、人体動作検出部39により、ドップラ信号S6があらかじめ設定された値以上となったことを条件として、電磁弁11を開動作させ、吐水口4aからの吐水を行う。つまり、制御部13は、定在波信号S7が閾値B以上となることで、手接近の検出にともない、手動作が検出可能な状態となるように、ソフト処理を開始する。したがって、ここで、手動作の検出条件となる、ドップラ信号S6があらかじめ設定された値以上となったことは、上述したようにドップラ信号S6についての演算値が値C以上となったことに相当する。
【0083】
このような検出処理を行うとともに、制御部13は、サンプリング周期Tの切替えを行う。具体的には、制御部13は、定在波信号S7が閾値A以上となるまでは、マイクロ波ドップラセンサ12を、あらかじめ設定された長サンプリング周期T1で動作させ、定在波信号S7が閾値A以上となった場合、マイクロ波ドップラセンサ12を、あらかじめ設定された短サンプリング周期T2で動作させる。すなわち、図4に示す例では、定在波信号S7が閾値A未満の状態である時刻t1より前では、サンプリング周期Tとして長サンプリング周期T1を採用し、定在波信号S7が閾値A以上となった時刻t1以降では、サンプリング周期Tとして短サンプリング周期T2を採用する。
【0084】
こうした制御部13によるサンプリング周期Tの切替えは、制御部13が有するセンサ制御部37により行われる。このため、長サンプリング周期T1および短サンプリング周期T2の値は、例えばセンサ制御部37においてあらかじめ設定され記憶される。
【0085】
以上のように、本実施形態の吐水制御は、定在波信号S7の振幅値について、閾値Aと、閾値Aよりも大きい閾値Bとを用い、閾値Aにより、検出精度を高めるためのサンプリング周期の切替えタイミングを制御し、閾値Bにより、サンプリング周期の切替えタイミングよりも後に訪れることになるソフト処理の開始タイミングを制御する。つまり、本実施形態の吐水制御は、定在波信号S7の振幅値について閾値Aよりも大きい閾値Bを用いることで、吐水口4aの近傍に手20aが存在する可能性が高い状態を検出し、かかる状態が検出されたときのみ、処理負荷が大きく消費電力が大きいソフト処理を実行する。
【0086】
言い換えると、本実施形態の吐水制御は、検出精度を高めるためにサンプリング周期を切り替えるタイミングと、ソフト処理を開始するタイミングとをずらし、前者のタイミングよりも後者のタイミングの方が後となるような制御を行う。そして、ソフト処理を開始するタイミングを、サンプリング周期を切り替えるタイミングよりも吐水口4aの近傍に手20aが存在する可能性が高い状態としている。
【0087】
以上のような吐水制御を行う本実施形態の水栓装置1によれば、マイクロ波ドップラセンサ12を用いて対象物の検出を行う構成において、対象物の検出性能を維持しつつ、吐水が行われないにもかかわらずにマイクロ波ドップラセンサ12による消費電力が比較的大きくなる時間を短くすることができ、消費電力を抑えることができる。
【0088】
具体的には、図4に示すように、本実施形態の吐水制御においては、人体接近が検出されサンプリング周期Tが切り替えられたタイミング(時刻t1)から、手接近が検出されるタイミング(時刻t2)までの間(符号Δta参照)、処理負荷が大きく消費電力が大きいソフト処理が停止されていることから、その分消費電力を削減することができる。
【0089】
人体接近が検出されたタイミングである時刻t1以降は、使用者20が洗面台に接近した状態である。しかし、使用者20が洗面台に接近した状態であっても、例えば女子トイレ内での化粧直し等、吐水が行われずに洗面台の前に使用者20が滞在しているだけの状態が長時間継続する場合がある。このような場合、仮に人体接近の検出タイミング(時刻t1)からソフト処理を開始したとすると、サンプリング周期Tが短サンプリング周期T2であり、かつソフト処理が行われることで、消費電力が大きい状態が長時間継続してしまうことになる。
【0090】
そこで、ソフト処理を開始するタイミングを人体接近の検出タイミング(時刻t1)から手接近の検出タイミング(時刻t2)に遅らせることで、吐水が行われないにもかかわらず消費電力が大きくなる時間を短くすることができ、消費電力を削減することができる。すなわち、使用者20の手20aが吐水口4aからの吐水を受ける位置に近付こうとしたときのみソフト処理が実行されるため、人が洗面台の前に滞在しているだけのときの消費電力を抑えることができる。ここで、ソフト処理を開始する条件として検出される手接近は、上記のとおり吐水口4aの近傍に手20aが存在する可能性が高い状態であり、使用者20が吐水口4aから吐出される水を利用する場合に行われる動作により生じる状態である。
【0091】
したがって、例えば化粧直し等のように吐水が必要とされず、吐水口4aの近傍に向けて手20aを差し出す動作が行われない状態では、ソフト処理を開始する条件である手接近は検出されない。このため、人体接近が検出される時刻t1から手接近が検出される時刻t2までの間ソフト処理を停止させることは、吐水口4aの近傍に差し出された手20a等に対して吐水を行う吐水制御においては、検出性能を妨げることはない。このように、本実施形態の吐水制御によれば、消費電力を抑えることができ、なおかつ安定した検出性能を実現することができる。
【0092】
以下では、本実施形態の吐水制御の処理の一例について、図5および図6に示すフロー図を用いて説明する。なお、以下に説明する制御処理は、制御部13のCPUが記憶部38等に記憶された所定の制御プログラムを読み出して実行することにより行われる。
【0093】
図5に示すように、水栓装置1の待機状態においては、サンプリング周期Tが長サンプリング周期T1に設定され(S10)、マイクロ波ドップラセンサ12によって長サンプリング周期T1でのデータのサンプリングが行われる(S20)。
【0094】
長サンプリング周期T1でサンプリングが行われている状態で、定在波信号S7の振幅値が閾値A以上であるか否かの判断が行われる(S30)。ステップS30にて定在波信号S7の振幅値が閾値A以上であると判断されるまでは、長サンプリング周期T1でのサンプリング状態が継続される(S30、No)。
【0095】
ステップS30において、定在波信号S7の振幅値が閾値A以上であると判断された場合(S30、Yes)、人体検出判定が行われる(S40)。つまり、この場合は、図4に示す例において、時刻t1で人体接近の検出が行われた場合に相当する。したがって、人体検出判定が行われると、サンプリング周期Tが長サンプリング周期T1から短サンプリング周期T2に切り替えられる(S50)。
【0096】
サンプリング周期Tが短サンプリング周期T2に切り替えられると、その時点を起点として、タイマ41において時間t=0に設定されることでタイマ41による時間の計測が開始され(S60)、マイクロ波ドップラセンサ12によって短サンプリング周期T2でのデータのサンプリングが開始される(S70)。
【0097】
図6に示すように、短サンプリング周期T2でサンプリングが行われている状態で、定在波信号S7の振幅値が閾値B以上であるか否かの判断が行われる(S80)。ここで、定在波信号S7の振幅値が閾値B以上であると判断されるまでにおいて、定在波信号S7の振幅値が小さい状態が一定時間以上継続した場合、サンプリング周期Tを短サンプリング周期T2から長サンプリング周期T1に戻すという処理が行われる。
【0098】
すなわち、図6に示すように、定在波信号S7の振幅値が閾値B以上であると判断されるまでは(S80、No)、図5に示すように、定在波信号S7の振幅値が閾値a以上であるか否かの判断が行われる(S90)。ここで、閾値aは、閾値Bよりも小さい値であり、例えば閾値Aと同値であってもよい。
【0099】
ステップS90において、定在波信号S7の振幅値が閾値a以上である限り(S90、Yes)、タイマ41においては時間t=0に設定され(S100)、短サンプリング周期T2でのサンプリングが継続される。一方、ステップS90において、定在波信号S7の振幅値が閾値a以上でないと判断された場合(S90、No)、タイマ41における計測時間が時間t=t+1とされ(S110)、時間tがあらかじめ設定された所定の時間th以上であるか否かの判断が行われる(S120)。つまり、定在波信号S7の振幅値が閾値a以上であると判断されるまでは、タイマ41による時間の経過にともない、つまりタイマ41において時間t=t+1として時間の計測が進むたびに、時間thが経過したか否かが判断される。
【0100】
ステップS120において、時間tが所定の時間th以上であると判断された場合(S120、Yes)、つまりステップS60において時間の計測が開始されてから、定在波信号S7の振幅値が閾値a以上とならない状態が時間thの間継続した場合、サンプリング周期Tが長サンプリング周期T1へと戻される(S10)。すなわち、ステップS60において時間の計測が開始されてから、時間thが経過するまでの間に、1度でも定在波信号S7の振幅値が閾値a以上となれば(S90、Yes)、その時点で時間の計測がリセットされ(S100)、再度時間の計測が開始される。したがって、ステップS90において定在波信号S7の振幅値が閾値a以上とならない場合、ステップS120において時間tが所定の時間th以上であると判断されない限りは、タイマ41はリセットされることなく処理が継続される(S120、No)。
【0101】
このように、サンプリング周期Tが短サンプリング周期T2に切り替えられてから、定在波信号S7の振幅値があらかじめ設定された閾値a以上とならない状態が、あらかじめ設定された所定の時間th以上継続した場合、短サンプリング周期T2に切り替えられたサンプリング周期Tを長サンプリング周期T1に戻すという処理が行われる。所定の時間thは、例えば数秒から数十秒程度の範囲で設定される。
【0102】
このように、所定の場合にサンプリング周期Tを戻すという処理を行うことで、人体接近についての誤検出等によってサンプリング周期が短い状態が無駄に継続することを防止することができる。これにより、無駄な消費電力を削減することができ、更なる低消費電力化を図ることが可能となる。
【0103】
図6に示すように、ステップS80において、定在波信号S7の振幅値が閾値B以上であると判断された場合(S80、Yes)、手接近判定が行われる(S130)。つまり、この場合は、図4に示す例において、時刻t2で手接近の検出が行われた場合に相当する。
【0104】
ステップS130において手接近判定が行われると、タイマ41がリセットされるとともに(S140)、マイクロ波ドップラセンサ12によって短サンプリング周期T2でのデータのサンプリングが継続された状態で(S150)、演算処理が開始される(S160)。つまり、ここでは、ソフト処理が開始され、制御部13が、電磁弁11の開動作による吐水口4aからの吐水を行う際の契機となる手動作を検出するための準備状態となる。
【0105】
したがって、ステップS160において演算処理が開始された後は、演算結果としての演算値が値C以上であるか否かの判断が行われ(S170)る。ステップS170において演算値が値C以上と判断された場合(S170、Yes)、手検出判定が行われ(S180)、電磁弁11の開動作が行われることで(S190)、吐水口4aからの吐水が開始され、処理は終了する。なお、ステップS180における手検出判定は、上述したようにドップラ信号S6に基づく手動作の検出に相当する。
【0106】
一方、手接近判定が行われ(S130)、演算処理が開始されてから(S160)、演算値が値C以上とならない状態が一定時間以上継続した場合、再度閾値を用いた定在波信号S7の大きさの判定を行い、上述したように場合によってはサンプリング周期Tを短サンプリング周期T2から長サンプリング周期T1に戻すという処理が行われる。
【0107】
すなわち、ステップS170において、演算値が値C以上であると判断されるまでは(S170、No)、タイマ41において時間t=t+1として時間の計測が進むたびに(S200)、時間tがあらかじめ設定された所定の時間tg以上であるか否かの判断が行われる(S210)。
【0108】
一方、ステップS140においてタイマ41がリセットされてから、ステップS170において演算値が値C以上であると判断されるまでに、所定の時間tgが経過した場合(S210、Yes)、再度タイマ41がリセットされ(S220)、処理はステップS90へと移行する(図5参照)。つまりこの場合、上述したように、定在波信号S7についての閾値aを用いて、所定の場合にサンプリング周期Tを戻すという処理が行われる。一方、ステップS170において演算値が値C以上とならない場合、ステップS210において時間tが所定の時間tg以上であると判断されない限りは、タイマ41はリセットされることなくソフト処理が継続される(S210、No)。なお、ステップS210において時間tが所定の時間tg以上であると判断された場合は、演算処理を停止させる制御を行ってもよい。
【0109】
このように、ソフト処理が開始されてから、演算処理による演算値が値C以上とならない状態が、あらかじめ設定された所定の時間tg以上継続した場合、再度、サンプリング周期Tを短サンプリング周期T2から長サンプリング周期T1戻すか否かの判断処理が行われる。所定の時間tgは、例えば数秒から数十秒程度の範囲で設定される。
【0110】
このように、ソフト処理が開始されてから一定時間以上、手動作が検出されずに吐水口4aからの吐水が行われない状態が継続した場合、再度サンプリング周期Tを所定の条件の下で戻すという処理を行うことで、手動作についての誤検出等によってソフト処理が開始された状態であっても、サンプリング周期が短い状態が無駄に継続することを防止することができる。これにより、無駄な消費電力を削減することができ、更なる低消費電力化を図ることが可能となる。
【0111】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について説明する。なお、上述した第1実施形態と共通する部分については同一の符号を用いて適宜説明を省略する。
【0112】
本実施形態の水栓装置51は、上述した第1実施形態の水栓装置1との比較において、ソフト処理を開始する条件の点で第1実施形態と異なる。具体的には、第1実施形態の水栓装置1においては、定在波信号S7の振幅値が閾値B以上となったことを条件として、ソフト処理が開始される(図4、時刻t2参照)。これに対し、本実施形態の水栓装置51においては、定在波信号S7の周波数の減少量に基づいて、ソフト処理の開始タイミングが検出される。
【0113】
すなわち、定在波信号S7の周波数の減少量を検出することによって、吐水口4aから吐出される水を利用しようとする使用者の、手を動かし始めてから、吐水口4aからの吐水を受ける位置で手を止めるまでの間の動作(手接近)を検出することができる。具体的には次のとおりである。
【0114】
図7(a)に示すように、洗面台に接近した使用者20は、吐水口4aから吐出される水を利用しようとする場合、吐水口4aからの吐水を受けるために手20aを吐水口4aの近傍に向けて差し出す動作を行う(矢印B1参照)。このように吐水口4aの近傍に向けて差し出される手20aは、吐水口4aの近傍で止められる。
【0115】
このため、例えば図7(b)に示すように、使用者20の手20aの速度は、吐水口4aの近傍で止まる直前に必ず減速する。手20aの速度が減速すると、水栓4内に設けられるマイクロ波ドップラセンサ12のセンサ出力S3から得られる定在波信号S7の周波数は減少する。
【0116】
そこで、本実施形態の水栓装置51は、使用者20の手20aが吐水口4aの近傍で止まる直前における手20aの動作速度の減速にともなう、信号(定在波信号S7)の周波数の減少量を検出することで、その周波数の減少量が所定の値以上となったことを条件として、ソフト処理を開始させる。
【0117】
そこで、図8に示すように、本実施形態の水栓装置51は、制御部13において、定在波信号S7の周波数の減少量を演算する周波数演算部52を備える。周波数演算部52は、定在波信号検出部34から出力される定在波信号S7の入力を受け、入力された定在波信号S7の周波数の減少量を算出する。
【0118】
具体的には、周波数演算部52は、定在波信号S7の波形データについてのサンプリングデータから、定在波信号S7の波形のピークとボトムとの間の時間を算出し、そのピーク−ボトム間の時間に基づいて、定在波信号S7の周波数を算出する。詳細には、ピーク−ボトム間の時間を1/2周期として、その値を2倍することで定在波信号S7の周期を算出し、定在波信号S7の周期から、定在波信号S7の周波数を算出する。
【0119】
周波数演算部52により算出された定在波信号S7の周波数は、所定時間の間記憶される。周波数演算部52により算出された定在波信号S7の周波数が記憶される部分は、周波数演算部52であってもよく、制御部13が有する記憶部38等であってもよい。
【0120】
そして、周波数演算部52は、所定時間の間記憶された定在波信号S7の周波数のうちの最大値と、算出した最新の周波数の値との差分から、周波数の減少量を算出する。つまり、所定時間の間記憶された定在波信号S7の周波数のうちの最大の周波数をfmax(Hz)とし、算出した最新の定在波信号S7の周波数をf(Hz)とした場合、fmax−fによって得られた数値を、定在波信号S7の周波数の減少量として算出する。
【0121】
このように、周波数演算部52は、定在波信号S7の波形のピークとボトムの検出という負荷が軽い演算によって、定在波信号S7の周波数の減少量を算出する。なお、定在波信号S7の周波数の減少量の算出に際しては、定在波信号S7の波形のピーク−ボトム間の時間ではなく、ピーク−ピーク間、あるいはボトム−ボトム間の時間が定在波信号S7の周期の算出に用いられてもよい。
【0122】
このような周波数演算部52による周波数の減少量の算出において、定在波信号S7の周波数が記憶される所定時間は、例えば、0.2秒程度である。所定時間が0.2秒の場合、サンプリング周期Tが10msのときは、所定時間の間に20個のサンプリングデータが得られる。また、定在波信号S7の周波数が30Hz程度である場合は、所定時間0.2秒の間に約6個の波があらわれ、ピーク−ボトム間の時間に基づく周波数データは約12個得られることになる。したがって、この場合、12個の周波数データの中から、最大の周波数fmaxが用いられ、定在波信号S7の周波数の減少量が算出される。
【0123】
周波数演算部52は、算出した周波数の減少量についての信号を出力し、周波数演算部52から出力された信号は、人体位置検出部40に入力される。人体位置検出部40は、入力された周波数の減少量についての信号に基づいて、手接近の検出を行う。
【0124】
本実施形態の吐水制御においては、定在波信号S7の振幅値についての閾値Aと、定在波信号S7の周波数の減少量についての閾値faとがあらかじめ設定される。これら閾値Aおよび閾値faは、制御部13において記憶部38等にあらかじめ設定され記憶される。
【0125】
そして、定在波信号S7の振幅値が閾値A以上となることを条件として、人体接近が検出される。図9に示す例では、使用者20が水栓4に接近したタイミング(符号Xa)である時刻t1に、人体接近が検出されている。また、定在波信号S7の周波数の減少量が閾値fa以上となることを条件として、手接近が検出される。本実施形態における手接近は、使用者20の手20aが吐水口4aの近傍で止められる際に手20aの速度が減速した状態に相当する。図9に示す例では、使用者20の手20aが止まったタイミング(符号Xc)の直前の時刻t3に、手接近が検出されている。
【0126】
すなわち、上述したような使用者20の一連の動作において、まず、使用者20が水栓4に接近し、定在波信号S7の振幅値が閾値A以上となることで、人体接近が検出され(時刻t1)、次に、水栓4に接近した使用者20が手20aを動かし始め、手20aが吐水口4aに接近し、手20aが吐水口4aの近傍で止まる直前に、定在波信号S7の周波数の減少量が閾値fa以上となることで、手接近が検出される(時刻t3)。
【0127】
以上のような検出処理において、人体接近が検出された時刻t1に、サンプリング周期Tが、長サンプリング周期T1から短サンプリング周期T2に切り換えられる。そして、時刻t1にサンプリング周期Tが長サンプリング周期T1から短サンプリング周期T2に切り替えられてから、手接近が検出された時刻t3に、ソフト処理が開始される。
【0128】
以上のように、本実施形態の吐水制御においては、制御部13は、定在波信号S7があらかじめ設定された閾値A以上となった場合、人体位置検出部40により、対象物の接近を検出する。ここで、対象物の接近は、図9に示す例では時刻t1に検出された人体接近に相当する。
【0129】
また、制御部13は、周波数演算部52により算出された定在波信号S7の周波数の減少量があらかじめ設定された閾値fa以上となった場合、人体位置検出部40により、人体接近よりもさらに対象物が吐水口4aへ接近したことを検出する。ここで、人体接近よりもさらに対象物が吐水口4aへ接近したことは、図9に示す例では時刻t3に検出された手接近に相当する。
【0130】
また、制御部13は、同じく周波数演算部52により算出された定在波信号S7の周波数の減少量があらかじめ設定された閾値fa以上となった場合、人体動作検出部39により、ドップラ信号S6があらかじめ設定された値以上となったことを条件として、電磁弁11を開動作させ、吐水口4aからの吐水を行う。つまり、制御部13は、定在波信号S7の周波数の減少量が閾値fa以上となることで、手接近の検出にともない、手動作が検出可能な状態となるように、ソフト処理を開始する。したがって、ここで、手動作の検出条件となる、ドップラ信号S6があらかじめ設定された値以上となったことは、上述したようにドップラ信号S6についての演算値が値C以上となったことに相当する。
【0131】
このような検出処理を行うとともに、制御部13は、サンプリング周期Tの切替えを行う。具体的には、制御部13は、定在波信号S7が閾値A以上となるまでは、マイクロ波ドップラセンサ12を、あらかじめ設定された長サンプリング周期T1で動作させ、定在波信号S7が閾値A以上となった場合、マイクロ波ドップラセンサ12を、あらかじめ設定された短サンプリング周期T2で動作させる。すなわち、図9に示す例では、定在波信号S7が閾値A未満の状態である時刻t1より前では、サンプリング周期Tとして長サンプリング周期T1を採用し、定在波信号S7が閾値A以上となった時刻t1以降では、サンプリング周期Tとして短サンプリング周期T2を採用する。
【0132】
以上のように、本実施形態の吐水制御は、定在波信号S7の振幅値についての閾値Aと、定在波信号S7の周波数の減少量についての閾値faとを用い、閾値Aにより、検出精度を高めるためのサンプリング周期の切替えタイミングを制御し、閾値faにより、サンプリング周期の切替えタイミングよりも後に訪れることになるソフト処理の開始タイミングを制御する。つまり、本実施形態の吐水制御は、周波数の減少量についての閾値faを用いることで、吐水口4aの近傍に手20aが存在する可能性が高い状態として、吐水口4aの近傍に手20aが停止する直前の状態を検出し、かかる状態が検出されたときのみ、処理負荷が大きく消費電力が大きいソフト処理を実行する。
【0133】
以下では、本実施形態の吐水制御の処理の一例について、図10および図11に示すフロー図を用いて説明する。なお、ここでは、図5および図6に示す第1実施形態の場合の処理と共通する部分については説明を省略する。
【0134】
図10に示すステップS310〜ステップS370は、図5に示すステップS10〜ステップS70と同様である。図11に示すように、短サンプリング周期T2でサンプリングが行われている状態で、周波数演算が行われ(S380)、周波数減少量演算が行われる(S390)。すなわち、ステップS380では、周波数演算部52により、定在波信号S7の波形のピーク−ボトム間の時間に基づいて、定在波信号S7の周波数が算出され、ステップS390では、同じく周波数演算部52により、所定時間の間記憶された定在波信号S7の最大周波数(fmax)と、算出した最新の周波数(f)との差分から、周波数の減少量が算出される。
【0135】
次に、算出された定在波信号S7の周波数の減少量が閾値fa以上であるか否かの判断が行われる(S400)。ここで、定在波信号S7の周波数の減少量が閾値fa以上であると判断されるまでにおいて(S400、No)、定在波信号S7の振幅値が小さい状態が一定時間以上継続した場合、サンプリング周期Tを短サンプリング周期T2から長サンプリング周期T1に戻すという処理が行われる(S410〜S440)。図10に示すステップS410〜S440は、図5に示すステップS90〜ステップS120と同様である。
【0136】
図11に示すように、ステップS400において、定在波信号S7の周波数の減少量が閾値fa以上であると判断された場合(S400、Yes)、減速判定が行われる(S450)。つまり、この場合は、図9に示す例において、時刻t3で手接近の検出が行われた場合に相当する。ステップS450において減速判定が行われた後の処理であるステップS460〜ステップS540は、図6に示すステップS140〜ステップS220と同様である。
【0137】
以上のような吐水制御を行う本実施形態の水栓装置51によれば、例えば対象物としての人体の手が吐水口4aの手前で止まる直前まで、処理負荷が大きく電力消費が大きいドップラ信号S6による検出処理(ソフト処理)を停止させることができるため、マイクロ波ドップラセンサ12を用いて対象物の検出を行う構成において、対象物の検出性能を維持しつつ、吐水が行われないにもかかわらずにマイクロ波ドップラセンサ12による消費電力が比較的大きくなる時間を短くすることができ、その分消費電力を抑えることができる。
【0138】
具体的には、図9に示すように、本実施形態の吐水制御においては、人体接近が検出されサンプリング周期Tが切り替えられたタイミング(時刻t1)から、手接近が検出されるタイミング(時刻t3)までの間(符号Δtb参照)、処理負荷が大きく消費電力が大きいソフト処理が停止されていることから、消費電力を削減することができる。
【0139】
そして、ソフト処理を開始するタイミングを人体接近の検出タイミング(時刻t1)から手接近の検出タイミング(時刻t3)に遅らせることで、吐水が行われないにもかかわらず消費電力が大きくなる時間を短くすることができ、消費電力を削減することができる。ここで、ソフト処理を開始する条件として検出される手接近は、上記のとおり吐水口4aの近傍に手20aが停止する直前の状態であり、使用者20が吐水口4aから吐出される水を利用する場合に行われる動作により生じる状態である。
【0140】
したがって、例えば化粧直し等のように吐水が必要とされず、吐水口4aの近傍に向けて手20aを差し出す動作が行われない状態では、ソフト処理を開始する条件である手接近は検出されない。このため、人体接近が検出される時刻t1から手接近が検出される時刻t3までの間ソフト処理を停止させることは、吐水口4aの近傍に差し出された手20a等に対して吐水を行う吐水制御においては、検出性能を妨げることはない。このように、本実施形態の吐水制御によれば、対象物の検出性能を維持することができる。
【0141】
特に、本実施形態の場合、ソフト処理を開始するタイミングが定在波信号S7の周波数の減少量に基づいて決まることから、吐水口4aの近傍に手20aが停止する直前までソフト処理を停止させることができるので、効果的に消費電力を抑えることができる。つまり、ドップラ信号S6を用いる人体動作検出部39による処理は、ソフト処理をともなうため処理負荷が大きく消費電力が大きいが、本実施形態の場合、この人体動作検出部39による処理を時刻t1から、吐水口4aの近傍に手20aが停止する直前の時刻t3までの間停止することができるため、制御部13においてより一層の消費電力の削減を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0142】
1 水栓装置
4 水栓
4a 吐水口
5 給水路
10 対象物
11 電磁弁(給水バルブ)
12 マイクロ波ドップラセンサ
13 制御部
39 人体検出処理部(第2検出部)
40 人体位置検出部(第1検出部)
51 水栓装置
52 周波数演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐水口から吐水される水の給水路を開閉する給水バルブと、前記吐水口に接近する対象物を検出するドップラセンサと、前記ドップラセンサのセンサ出力に基づいて前記給水バルブの開閉動作を制御する制御部と、を備えた水栓装置であって、
前記制御部は、
前記センサ出力に含まれる定在波信号に基づいて対象物の前記吐水口への接近を検出する第1検出部と、
前記センサ出力に含まれるドップラ信号に基づいて対象物の動きを検出する第2検出部と、を有し、
前記定在波信号があらかじめ設定された第1の閾値以上となった場合、前記第1検出部により、対象物の前記接近を検出し、
前記定在波信号があらかじめ設定され前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値以上となった場合、前記第1検出部により、対象物の前記接近よりもさらに対象物が前記吐水口へ接近したことを検出し、前記第2検出部により、前記ドップラ信号があらかじめ設定された値以上となったことを条件として、前記給水バルブを開動作させ、
前記定在波信号が前記第1の閾値以上となるまでは、前記ドップラセンサを、あらかじめ設定された第1のサンプリング周期で動作させ、
前記定在波信号が前記第1の閾値以上となった場合、前記ドップラセンサを、あらかじめ設定され前記第1のサンプリング周期よりも短い第2のサンプリング周期で動作させる
ことを特徴とする水栓装置。
【請求項2】
吐水口から吐水される水の給水路を開閉する給水バルブと、前記吐水口に接近する対象物を検出するドップラセンサと、前記ドップラセンサのセンサ出力に基づいて前記給水バルブの開閉動作を制御する制御部と、を備えた水栓装置であって、
前記制御部は、
前記センサ出力に含まれる定在波信号に基づいて対象物の前記吐水口への接近を検出する第1検出部と、
前記定在波信号の周波数の減少量を演算する周波数演算部と、
前記センサ出力に含まれるドップラ信号に基づいて対象物の動きを検出する第2検出部と、を有し、
前記定在波信号があらかじめ設定された第1の閾値以上となった場合、前記第1検出部により、対象物の前記接近を検出し、
前記周波数演算部により算出された前記周波数の減少量があらかじめ設定された閾値以上となった場合、前記第1検出部により、対象物の前記接近よりもさらに対象物が前記吐水口へ接近したことを検出し、前記第2検出部により、前記ドップラ信号があらかじめ設定された値以上となったことを条件として、前記給水バルブを開動作させ、
前記定在波信号が前記第1の閾値以上となるまでは、前記ドップラセンサを、あらかじめ設定された第1のサンプリング周期で動作させ、
前記定在波信号が前記第1の閾値以上となった場合、前記ドップラセンサを、あらかじめ設定され前記第1のサンプリング周期よりも短い第2のサンプリング周期で動作させる
ことを特徴とする水栓装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−76225(P2013−76225A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215292(P2011−215292)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】