説明

水栓

【課題】スラストロック機構を動作させたときの動作音を小さくし得、且つ適正なクリック感(節度感)を確保し得て、操作感の良好なスラストロック機構付の水栓を提供する。
【解決手段】(a)回転子86と、(b)前進運動により駆動カム面98を回転子の第1従動カム面104に当接させ、カム作用で回転子86を所定角度回転駆動する押ボタン82と、(c)付勢手段による回転子86の後退方向の付勢力で案内カム面116を回転子86の第2従動カム面106に当接させ、カム作用で回転子86を回転させ、回転子82に対するロックと後退運動を許容するロック解除とを交互に行う回転スリーブ84とを備えたスラストロック機構付きの水栓において、第1従動カム面104の傾斜角度θを、第2従動カム面106の傾斜角度θよりも小角度となしておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は水栓に関し、詳しくはスラストロック機構により弁体を前進位置と後退位置とに位置切換えし且つそれぞれの位置に位置保持するようになした水栓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スラストロック機構を備え、そのスラストロック機構により弁体を前進位置と後退位置とに位置切換えし且つそれぞれの位置に位置保持するようになした水栓が公知である。
例えば下記特許文献1にこの種のスラストロック機構を備えた水栓が開示されている。
【0003】
ここでスラストロック機構は、(a)回転子と、(b)前進運動により自身の駆動カム面を回転子の第1従動カム面に当接させ、カム作用で回転子を第1ストッパ位置まで所定角度回転駆動する駆動子と、(c)付勢手段による回転子の後退方向の付勢力で自身の案内カム面を回転子の第2従動カム面に当接させ、カム作用で回転子を上記回転駆動の方向と同方向に第2ストッパ位置又は後退許容位置まで更に回転させ、回転子の1回の回転運動ごとに回転子に対する第2ストッパ位置でのロックと後退運動を許容するロック解除とを交互に行うロック部とを備え、回転子の前進及び後退に伴って弁体を前進及び後退運動させるとともに前進位置と後退位置とに弁体を交互に位置保持する。
【0004】
しかしながら従来のスラストロック機構付きの水栓の場合、駆動子の前進運動により回転子が駆動カム面と第1従動カム面とのカム作用で第1ストッパ位置まで勢いよく回転させられて、そのときに発生する衝突音が大きな動作音として発生してしまうといった問題がある。
このように動作音が大きいと、特に狭い浴室や洗面室等で水栓を使用したときに動作音が目立ち、使用者に不快な感じを与えてしまう。
【0005】
一方動作音を小さくしようとしてスラストロック機構に代えハートカム機構を用いた場合、動作時のクリック感(節度感)が不足して頼りなく、水栓操作時の操作感(操作フィーリング)が悪化して、使用者に対し低級感を与えてしまう。
【0006】
【特許文献1】特開2001−98596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような事情を背景とし、スラストロック機構を動作させたときの動作音を小さくし得、且つ適正なクリック感(節度感)を確保し得て、操作感の良好なスラストロック機構付の水栓を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
而して請求項1のものは、(a)回転子と、(b)前進運動により自身の駆動カム面を該回転子の第1従動カム面に当接させ、カム作用で該回転子を第1ストッパ位置まで所定角度回転駆動する駆動子と、(c)付勢手段による該回転子の後退方向の付勢力で自身の案内カム面を該回転子の第2従動カム面に当接させ、カム作用で該回転子を前記回転駆動の方向と同方向に第2ストッパ位置又は後退許容位置まで更に回転させ、該回転子の1回の回転運動ごとに該回転子に対する該第2ストッパ位置でのロックと後退運動を許容するロック解除とを交互に行うロック部と、を備えたスラストロック機構を有し、該回転子の前進及び後退に伴って弁体を前進及び後退運動させるとともに前進位置と後退位置とに該弁体を交互に位置保持するようになした水栓において、前記第1従動カム面の傾斜角度を、前記第2従動カム面の傾斜角度よりも小角度となしたことを特徴とする。
【0009】
請求項2のものは、請求項1において、前記駆動カム面と前記第1従動カム面の傾斜角度を異ならせたことを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0010】
以上のように本発明は、スラストロック機構付の水栓において、駆動子の駆動カム面に当接する回転子の第1従動カム面の傾斜角度を、ロック部の案内カム面に当接する第2従動カム面の傾斜角度よりも小角度となしたものである。
【0011】
即ち、従来にあっては第1従動カム面の傾斜角度と第2従動カム面の傾斜角度とを同じとなしていたのに対し、本発明では第1従動カム面の傾斜角度を第2従動カム面のそれよりも小角度となしたもので、かかる本発明によれば、駆動子の前進運動により回転子が駆動カム面と第1従動カム面とのカム作用で第1ストッパ位置まで回転する際の勢いを弱くすることができ、回転子を第1ストッパ位置で停止させる際の衝突音、即ち動作音を小さくすることができる。
【0012】
従ってスラストロック機構付の水栓を狭い浴室や洗面室等で使用した場合に、大きな動作音が発生して使用者に不快感を与えてしまう問題を解決でき、使用者は快適に水栓を使用できるようになる。また本発明ではスラストロック機構を用いることで、動作時に適正なクリック感をもたせることができる。
尚、付勢手段による回転子の後退方向の付勢力に基づいて、ロック部の案内カム面と回転子の第2従動カム面とのカム作用で回転子が第2ストッパ位置まで回転する際にも動作音が発生するが、このときの動作音を小さくしようとして第2従動カム面の傾斜角度を第1従動カム面に合せて小角度としてしまうと、回転子を同方向に回転させるための力が弱くなって回転子の回転の動きが悪化してしまう恐れが生ずる。
【0013】
駆動子の前進運動によって回転子を回転駆動する際、回転子に対しては駆動子の前進方向の力と、付勢手段による後退方向の力とが両方向から作用し、それらが回転子を回転させるための力として作用することとなるが、ロック部における案内カム面のカム作用で回転子を回転させる際には、付勢手段の後退方向の力が回転子に対して働くだけとなり、このときに第2従動カム面の傾斜角度が小角度であると、回転力が弱くなることによって回転子が円滑に回転しなくなる恐れが生ずる。
しかるに本発明では、第2従動カム面の傾斜角度を第1従動カム面の傾斜角度に対して大角度に確保しておくことで、案内カム面と第2従動カム面とのカム作用により回転子を回転させる際に円滑な回転を確保することができる。
【0014】
本発明においては、駆動子側の駆動カム面と回転子側の第1従動カム面の傾斜角度を異ならせておくことができる(請求項2)。
このようにしておけば、駆動カム面と第1従動カム面とを面接触ではなく線接触させることができ、面接触に対して接触抵抗を低減して回転子をより安定して回転動作させることができる。
この場合において駆動カム面の傾斜角度を、第1従動カム面の傾斜角度よりも大角度となしておくことができる。
このようにすれば、第1従動カム面の傾斜角度を小さくしつつ、駆動カム面と第1従動カム面とのカム作用による回転子の回転の駆動力を効果的に大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、パイロット式に吐止水及び流量調節(流調)を行う水栓の要部を表したもので、図中10はその水栓におけるボデーで、その内部に主水路を形成する1次側の流入水路12,2次側の流出水路14が形成されている。
【0016】
この実施形態では、弁機構全体が単一のユニットとして着脱可能な弁カートリッジ16として構成されている。同図中18はその弁カートリッジ16のカートリッジケースで、このカートリッジケース18は、上部18-1と下部18-2とに分割されており、そしてそれらがカートリッジケース18の中間部をなす後述の背圧室形成部材54にて弾性的に連結されている。
弁カートリッジ16は、ボデー10内部に挿入された状態で、ボデー10への固定ナット19のねじ込みにより抜止状態に固定されている。
【0017】
図1において、20は主水路上に設けられたダイヤフラム弁からなる主弁で、樹脂製の硬質の主弁本体22と、これにより保持されたゴム製のダイヤフラム膜24とからなっている。
【0018】
この主弁20は、主弁座25に対して図中上下方向に進退移動して主水路を開閉し、また主水路の開度を変化させる。
詳しくは、主弁座25への着座によって主水路を遮断し、また主弁座25から図中上向きに離間することによって主水路を開放する。
また主弁座25からの離間量に応じて主水路の開度を大小変化させ、主水路を流れる水の流量即ち吐水部からの流量を調節する。
【0019】
この主弁20の図中上側の背後には背圧室26が形成されている。
背圧室26は、内部の圧力を主弁20に対して図中下向きの閉弁方向の押圧力として作用させる。
主弁20には、これを貫通して1次側の流入水路12と背圧室26とを連通させる導入小孔28が設けられている。
この導入小孔28は、流入水路12からの水を背圧室26に導いて背圧室26の圧力を増大させる。
【0020】
主弁20にはまた、これを貫通して背圧室26と2次側の流出水路14とを連通させる水抜水路としてのパイロット水路30が設けられている。
このパイロット水路30は、背圧室26内の水を流出水路14に抜いて、背圧室26の圧力を減少させる。
【0021】
図1に示しているように、主弁20にはその中心部においてこれを軸心方向に貫通する貫通孔が設けられており、そこに吐止水パイロット弁及び流調パイロット弁を兼ねた共通のパイロット弁34が挿通され、このパイロット弁34の外周面と貫通孔の内周面との間に、通路幅が狭小な環状をなす上記パイロット水路30が形成されている。
【0022】
この主弁20には、図4及び図5にも示しているように貫通孔の内周面に沿って主弁20の軸心周りに環状をなすパイロット弁座36が一体に設けられている。
38はこのパイロット弁座36におけるシール部で、環状溝内部に環状をなす弾性シールリングとしてのOリング40を保持ししている。
【0023】
上記パイロット弁34は、このパイロット弁座36に対し主弁20の軸心に沿って図中上下方向に進退移動可能に嵌合するようになっている。
詳しくは、このパイロット弁34は、断面円形をなし且つ図中上下方向即ち進退方向において外径が同径のシール部42と、その下側(図中下側)の環状の凹所44とを有している。
環状の凹所44の軸方向の各端部は、凹所44の最小径部に向かって漸次小径となるテーパ面とされており、そのテーパ面の大径側の各端部に段付部48,50が形成されている。
【0024】
尚、図1はパイロット弁34の止水時の状態を表しており、このときパイロット弁34は、シール部42をOリング40を介してパイロット弁座36に対し全周に亘って径方向に弾性接触させ、パイロット弁34とパイロット弁座36との間を水密にシールした状態にある。
またこのとき主弁20は主弁座25に着座した状態にあって、主水路は閉鎖された状態にある。
【0025】
図4,図5はパイロット弁34の移動による流調(流量調節)時の作用を表している。
この実施形態では、流調の際にパイロット弁34はパイロット水路30を閉鎖することはなく、その移動によってパイロット水路30の開度だけを変化させる。
後述の回転スリーブ84に対する回転操作量がそのように規制されている。
【0026】
この実施形態では、図4(I)に示しているようにパイロット弁34が図中上向きに後退移動すると、パイロット弁34とパイロット弁座36との間の隙間が大となり、背圧室26内の水がパイロット水路30を通じて流出水路14側に多く抜け出して背圧室26の圧力が減少する。
そこで主弁20が流入水路12との圧力差により図中上向きに後退移動し、そして図4(II)に示しているように、流入水路12の圧力と背圧室26の圧力とがバランスする位置で主弁20の後退移動が停止する。
即ち、主弁20がパイロット弁34の後退移動に追従するようにして共に後退移動し、そしてパイロット弁34の停止とともに主弁20もまた停止する。
【0027】
この主弁20の後退移動によって主弁20と主弁座25との間の隙間が大となり、流入水路12から流出水路14への水の流入量が増大する。
【0028】
この状態からパイロット弁34が更に図中上向きに後退移動させられると、背圧室26の圧力と流入水路12との圧力をバランスさせるようにして、主弁20がパイロット弁34の後退移動に追従して後退移動し、主水路の開度を更に広くして主水路を流れる水の流量を増大させる(図4(III)参照)。
【0029】
一方パイロット弁34が、図5(I)に示しているように図中下向きに前進移動すると、パイロット弁34とパイロット弁座36との間、詳しくはパイロット弁34におけるシール部42とパイロット弁座36に保持されたOリング40との間の隙間が小さくなって、即ちパイロット水路30の開度が小さくなって、背圧室26から流出水路14に抜ける水の量が少なくなり背圧室26の圧力が増大する。
【0030】
このため、その増大した圧力により主弁20が今度は図中下向きに前進移動して、背圧室26の圧力と流入水路12との圧力をバランスさせる位置で停止する。
このとき主弁20と主弁座25との間の隙間は小さくなって、即ち主水路の開度が小さくなって、主水路を流れる水の流量が減少する(図5(II)参照)。
【0031】
そしてこの状態から更にパイロット弁34が図中下向きに前進移動すると主水路の開度が更に小さくなり、主水路を流れる水の流量が更に減少する(図5(III)参照)。
【0032】
図1において、54は背圧室形成部材で逆カップ状を成しており、その内側に上記の背圧室26を形成している。
この背圧室形成部材54はまた、主弁押えとしての働きもなしている。
【0033】
この背圧室形成部材54には、一対の弾性を有する環状のシールリングとしてのOリング52が保持されている。
これらOリング52は、後述の作用軸60における第1軸部62の外周面に全周に亘り弾性接触して、第1軸部62と背圧室形成部材54との間、即ち背圧室26との間を水密にシールする。
尚、カートリッジケース18における下部18-2にもまたその外周面にOリング56が保持されており、このOリング56にてボデー10との間が水密にシールされている。
【0034】
図1において、60は加えられた操作力に基づいてパイロット弁34を作用させる作用軸で、この作用軸60は、一様な円形断面且つ一様な外径で軸方向に延びる制御軸部としての第1軸部62と、筒状をなす第2軸部64とに軸方向に2分割されている。
そしてその制御軸部としての働きをなす第1軸部62の図中下部に上記のパイロット弁34が一体に構成されている。
この筒状の第2軸部64には、その内周面に雌ねじ66が設けられている。
【0035】
一方第1軸部62は、その上端部にボールジョイント67にて3次元的に相対移動可能な大径の頭部68を有しており、その頭部68の外周面に雄ねじ70が設けられている。
そしてこの第1軸部62の雄ねじ70が第2軸部64の雌ねじ66に螺合されている。
【0036】
この作用軸60は、雌ねじ66と雄ねじ70とのねじ送り作用で第1軸部62が図中上下方向に進退移動する。
即ち、作用軸60全体が雌ねじ66と雄ねじ70とのねじ送りによって全体的に伸縮するようになっている。
【0037】
尚第1軸部62側の頭部68には、図2に示しているように互いに平行をなす平坦な係合面72が形成されており、この係合面72を回止め部材76の一対の挟持片74が挟持しており、これら挟持片74の挟持作用によって、第1軸部62が回転防止されている。
即ちこの回止め部材76の回転防止作用によって、第2軸部64の回転により第1軸部62が図中上下方向に進退移動させられる。
そしてこの第1軸部62の図中上下方向の進退移動に伴って、その先端側に一体に構成された上記のパイロット弁34が一体に図中上下方向に進退移動させられ、これによりパイロット弁34の位置が同方向に変化せしめられる。
【0038】
ここで回止め部材76は円形の台座部78を有しており、この台座部78が、その下側の背圧室形成部材54に固定されている。
【0039】
図1において80は、作用軸60における第1軸部62、即ちそこに一体に構成されたパイロット弁34を駆動する働きをなす駆動機構で、有底円筒形状をなす押ボタン(駆動子)82と、回転スリーブ(ロック部)84及びスラストロック機構の要素を成す回転子86とを有している(図2参照)。
回転スリーブ84は、回転によりパイロット弁34を図4及び図5に示しているように前進及び後退運動させることにより、主弁20をこれに追従して移動させ流量調節を行う部分で、また押ボタン82は、1回の押込みごとにパイロット弁34を前進位置である閉弁位置と上昇位置である開弁位置とに位置切換えするための部分である。
【0040】
回転スリーブ84は、図1に示しているようにその下部がカートリッジケース18における上部18-1に内嵌状態で回転可能且つ抜止状態に組み付られている。
押ボタン82は、回転スリーブ84に内嵌されて回転スリーブ84に対し軸方向即ち図中上下方向に移動可能とされている。
この押ボタン82の外周面には縦の突条87が回転スリーブ84の内面の縦の凹条88に嵌り込んでおり、押ボタン82が回転スリーブ84の回転とともに一体に回転するようになっている。
即ち回転スリーブ84の回転運動が押ボタン82に伝えられるようになっている。
【0041】
尚この押ボタン82にはまた、その内周面に縦の凹条90が形成されていて、そこに作用軸60における雌ねじ部材としての第2軸部64の外周面に設けられた縦の突条91が嵌り込んでおり、第2軸部64が押ボタン82と一体に回転するようになっている。
即ち回転スリーブ84を回転させると、その回転運動が押ボタン82を介して第2軸部64に伝えられて、第2軸部64が回転運動する。
尚、押ボタン82の外周面にはガイド突起92が設けられている。
このガイド突起92は、回転スリーブ84の嵌入溝94に嵌入して押ボタン82の上下方向の摺動時の案内をなす。
【0042】
押ボタン82の下端には、図3にも示しているように山形状をなす係合歯96が周方向に沿って所定ピッチで連設されている。
この係合歯96の下面には、直下の回転子86を押ボタン82の上下動即ち下向きの前進移動と上向きの後退移動とによってカム作用で回転させるための駆動カム面98が形成されている。
【0043】
回転子86はリング状の部材から成るもので、周方向の複数箇所(ここでは4箇所)に、図中上向きに山形状に突出する係合歯100が設けられている。
また周方向の同じ箇所においてその外側に突出する形態で鋸歯状をなす係合歯102が、同じく上向きに設けられている。
【0044】
内側の係合歯100は、一方の斜辺に沿った上面が押ボタン82の駆動カム面98に対応した第1従動カム面104とされている。
ここで第1従動カム面104の傾斜角度θはここでは、押ボタン82側の駆動カム面98と同一角度とされている。
【0045】
一方外側の係合歯102においてもまた、その斜辺に沿った上面が角度θで傾斜した第2従動カム面106とされている。
この実施形態では、第1従動カム面104と第2従動カム面106との傾斜角度が異ならせてあり、第2従動カム面106の傾斜角度θが急角度をなし、これに対して第1従動カム面104の傾斜角度θが小角度とされている。
【0046】
この回転子86は、図2及び図1に示しているようにその下面を第2軸部64の外向きのフランジ部108の上面にて支持されており、かかるフランジ部108の上面を図3で示す矢印方向に回転摺動する。
図1及び図2に示しているように、第2軸部64のフランジ部108の下面には金属製のコイルスプリング(付勢手段)110の上端が当接させられており、かかるコイルスプリング(以下単にスプリングとする)110による付勢力が第2軸部64に対して上向きに及ぼされている。即ちこの第2軸部64を介して回転子86、押ボタン82に対して、更には第2軸部64に螺合された第1軸部62に対し、スプリング110による付勢力が後退方向の上向きに及ぼされている。
【0047】
上記回転スリーブ84には、図3に詳しく示しているようにその上部内周面にガイド部112が内方に突出する状態で設けられている。
このガイド部112は下端に係合歯114を有している。
この係合歯114の下面にもまた、回転子86をカム作用で回転させるための、回転子86の第2従動カム面106に対応した傾斜形状の案内カム面116が形成されている。
ここで案内カム面116の傾斜角度は、回転子86の第2従動カム面106と同じ傾斜角度とされている。
このガイド部112にはまた、上記のように上下方向に延びる嵌入溝94が周方向に所定間隔で形成されている。回転子86は外方への突出形状をなす係合歯102を嵌入溝94に位置させる回転位置となったとき、かかる係合歯102を嵌入溝94の内部に嵌入させることによって図中上方への後退運動が許容される。
【0048】
一方係合歯114は、係合歯102に噛み合ってこれをその前進状態、即ち図中下降状態に保持してロックする働きをなす。即ちパイロット弁34を閉弁位置に保持してロックする働きをなす。
本実施形態では、図3に示すガイド部112及びこれを備えた回転スリーブ84、下端に係合歯96及び駆動カム面98を備えた押ボタン82、その直下の回転子86、更にこれらを上向きに付勢するスプリング110等にてスラストロック機構が構成されている。
【0049】
この実施形態では、第2軸部64の下側に、押ボタン82の押し込み時に回転子86を強制回転させる機能を備えた強制回転リング118が設けられている。
この強制回転リング118は、図1に示すように回止め部材76の台座部78上に載置されている。
この強制回転リング118は、全体として円筒形状をなしているとともに,その下端には内向きのフランジ部120が設けられていて、このフランジ部120と、第2軸部64の外向きのフランジ部108との間にスプリング110が介装されている。
【0050】
この強制回転リング118はまた、そのフランジ部120がスリップワッシャとしての働きもなしており、回転スリーブ84の回転時,即ちこれと一体に回転する第2軸部64の回転時に、強制回転リング118が回止め部材76の台座部78上をスリップ回転して、第2軸部64の回転に伴ってスプリング110が捩れ変形するのを防止する。
その結果として、スプリング110の上向きの弾発力を、設定した適性な弾発力で作用させることができる。
【0051】
この強制回転リング118には、その上端に沿って周方向に所定間隔で複数の爪122が上向きに突出状態で一体に設けられている。これら爪122の上面は傾斜形状のカム面124とされている。
これらカム面124は、押ボタン82により回転子86に対して下向きの力が及ぼされたとき、回転子86の突出形状の第2係合歯102の下面のコーナー部126(図3参照)に当接して、回転子86をそのカム作用で強制的に図3中反時計方向に回転させる働きをなす。
【0052】
但し回転子86はその回転抵抗、即ち第2軸部64におけるフランジ部108の上面に対する摺動抵抗、及び押ボタン82の駆動カム面98に対する摺動抵抗が小さいときには、スプリング110の付勢力に基づいて、強制回転リング118のカム面124に接する前に、押ボタン82の駆動カム面98と、回転子86の第1従動カム面104とのカム作用で、強制回転リング118のカム面124に接する前に回転運動する。
【0053】
しかしながら回転子86は長期使用すると、摺動面で発生する磨耗粉などによって摺動抵抗が次第に増大するようになる。
そこで押ボタン82を下向きに押しても、回転子86が軽く円滑に回転しない恐れが生じてくる。
このとき、回転子86が円滑に回転しない場合であっても、押ボタン82を下向きに強く押し込むと、回転子86の係合歯102のコーナー部126が、強制回転リング118のカム面124に当ることによって、回転子86が強制回転リング118のカム面124により強制的に回転駆動される。
【0054】
本実施形態では、回転スリーブ84を直接に又は別途に設けた操作部材を介して回転させると、これと一体に作用軸60における第2軸部64が回転し、そしてその回転により雌ねじ66と雄ねじ70とのねじ送りにて作用軸60の第2軸部62が、即ちパイロット弁34が図1中上下方向に進退移動し、これにより流量調節が行われる。
一方押ボタン82を押込操作すると、1回の押し込みごとにパイロット弁34が図6に示す下降位置である閉弁位置と、図7に示す上昇位置である開弁位置とに位置切換えされ、且つスラストロック機構によりそれぞれの位置に位置保持される。
【0055】
図8及び図9は、押ボタン82に対する1回の押し込みごとに、パイロット弁34を閉弁位置と開弁位置とに位置切換えし且つそれぞれに位置保持するスラストロック機構の作用を具体的に表している。
図8(I)はパイロット弁34の閉弁状態即ち止水状態を表しており、このとき回転子86における係合歯102が回転スリーブ84のガイド部112の係合歯114に噛み合った状態にあって、回転子86は図1中の下降位置即ち前進位置にロック状態に保持される。即ちパイロット弁34が閉弁状態に保持される。
【0056】
この状態で(II)に示しているように押ボタン82を図中下向に押し込むと、回転子86がスプリング110による上向きの付勢力に抗して下向きに押し下げられ、回転子86の係合歯102とガイド部112の係合歯114との係合が外れる。
すると押ボタン82の駆動カム面98と回転子86の第1従動カム面104とのカム作用で、回転子86が図中左方向に所定角度回転させられ、そして押ボタン82の係合歯96と回転子86の係合歯100とが丁度噛み合った位置(第1ストッパ位置)で回転停止させられる。図8(III)(A)はこのときの状態を表している。
【0057】
このとき、(III)(B)に示しているように回転子86の第2従動カム面106はガイド部112の回転方向の次の案内カム面116に対向した状態となり、そこで(IV)に示しているように回転子86に加えていた押込力を除くと、スプリング110の付勢力で回転子86が押ボタン82及び第2軸部64即ち作用軸60とともに微小距離上昇して係合歯102の第2従動カム面106が、ガイド部112の案内カム面116に当接する。
【0058】
そしてそれら案内カム面116と第2従動カム面106とのカム作用で回転子86が更に同図中矢印で示す方向に回転移動して、図8(V)(B)に示すように係合歯102がガイド部112の嵌入溝94の位置に至る。
ここにおいて係合歯102が嵌入溝94に嵌入するに至って、回転子86が押ボタン82及び作用軸60とともにスプリング110の付勢力によって上向きに後退運動させられ(図9(VI))、パイロット弁34が開弁状態(吐水状態)となって主水路に水の流れが生じ、水栓における吐水部からの吐水が行われる。
【0059】
この開弁状態から再び押ボタン82を押し込むと、回転子86が上昇位置から下降せしめられ、そして係合歯102が嵌入溝94から外れると、回転子86が駆動カム面98と第1従動カム面104とのカム作用で、図9(VII)中矢印方向(左方向)に回転移動して、回転子86の係合歯100が押ボタン82の回転方向の次の係合歯96に噛み合うに至って、ここに回転子86の次の1ピッチの回転運動がそこで停止せしめられる(図9(VIII))。
【0060】
この状態で押ボタン82に対する押込力を除くと、スプリング110の付勢力で回転子86が最下位置から微小距離上昇して、係合歯102の第2従動カム面106がガイド部112の案内カム面116に当接するに至り(図9(IX))、更にそれらのカム作用で回転子86が引き続いて図中左方向に回転移動して、回転子86の係合歯102がガイド部112の次の係合歯114に噛み合う位置(第2ストッパ位置)となり、ここに回転子86の回転動がそこで停止させられる(図9(X))。
この図9(X)に示す状態は、図8(I)に示すのと同じ状態であって、ここに水栓が止水状態となる。
【0061】
以上のような本実施形態によれば、回転子86における第1従動カム面104の傾斜角度が、第2従動カム面106の傾斜角度に対して小角度とされているため、押ボタン82の前進運動により回転子86が駆動カム面98と第1従動カム面104とのカム作用で回転する際の勢いを弱くすることができ、回転子86の回転停止時の衝突音即ち動作音を小さくすることができる。
【0062】
従って本実施形態のスラストロック機構付の水栓を狭い浴室や洗面室等で使用した場合に、大きな動作音が発生して使用者に不快感を与えてしまう問題を解決でき、使用者は快適に水栓を使用できるようになる。
またこの実施形態のものはスラストロック機構を用いていることから、動作時に適正なクリック感を持たせることができる。
【0063】
一方で回転子86の第2従動カム面106の傾斜角度は第1従動カム面104の傾斜角度に対して大角度とされているため、回転子86をガイド部112の案内カム面116と回転子86の第2従動カム面106とのカム作用で回転させる際の回転力を大となし得て、回転子86の円滑な回転を確保することができる。
【0064】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば上記実施形態では回転子86における第1従動カム面104の傾斜角度と、押ボタン82の駆動カム面98との傾斜角度を同角度としているが、それらの傾斜角度を異ならせることも可能である。
この場合それらのカム面が面接触では無く、線接触の状態となり面接触に対して接触抵抗を低減して回転子86をより安定して回転動作させることができるのに加えて、回転子86の係合歯100が押ボタン82の係合歯96に対する噛み合い位置で回転停止する際の衝突を面と線との衝突となし得(各係合歯96,100の山形状が異なる)、回転停止時の衝突音即ち動作音を更に小さくすることが可能となる。
その他本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態の水栓の要部を示す図である。
【図2】同実施形態の要部の各部材を分解して示す図である。
【図3】図2の更に要部を拡大して示す図である。
【図4】同実施形態の作用説明図である。
【図5】図4に続く作用説明図である。
【図6】同実施形態の他の作用説明図である。
【図7】図6とは異なる作用状態を示す作用説明図である。
【図8】同実施形態におけるスラストロック機構の作用説明図である。
【図9】図8に続く作用説明図である。
【符号の説明】
【0066】
34 パイロット弁
82 押ボタン(駆動子)
84 回転スリーブ(ロック部)
86 回転子
98 駆動カム面
104 第1従動カム面
106 第2従動カム面
116 案内カム面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)回転子と、(b)前進運動により自身の駆動カム面を該回転子の第1従動カム面に当接させ、カム作用で該回転子を第1ストッパ位置まで所定角度回転駆動する駆動子と、(c)付勢手段による該回転子の後退方向の付勢力で自身の案内カム面を該回転子の第2従動カム面に当接させ、カム作用で該回転子を前記回転駆動の方向と同方向に第2ストッパ位置又は後退許容位置まで更に回転させ、該回転子の1回の回転運動ごとに該回転子に対する該第2ストッパ位置でのロックと後退運動を許容するロック解除とを交互に行うロック部と、を備えたスラストロック機構を有し、該回転子の前進及び後退に伴って弁体を前進及び後退運動させるとともに前進位置と後退位置とに該弁体を交互に位置保持するようになした水栓において
前記第1従動カム面の傾斜角度を、前記第2従動カム面の傾斜角度よりも小角度となしたことを特徴とする水栓。
【請求項2】
請求項1において、前記駆動カム面と前記第1従動カム面の傾斜角度を異ならせたことを特徴とする水栓。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−315091(P2007−315091A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147242(P2006−147242)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】