説明

水洗大便器

【課題】洗浄終了後、元の初期水位に復帰させるまでに要する給水量の低減を図ることのできる水洗大便器を提供する。
【解決手段】水洗大便器1は、ジェット孔6とトラップ入口を有するボウル部2と、トラップ入口と排水経路を連通するトラップ管路と、ボウル部2へ洗浄水を流下させるリム部4と、ジェット孔6用の洗浄水を貯留するジェット用洗浄水タンク8と、ジェット孔6へ洗浄水を供給、停止するジェット用排水弁9と、ジェット用排水弁9からジェット孔6へ洗浄水を導くジェット用導水路10と、リム部4用の洗浄水を貯留するリム用洗浄水タンク11と、リム部4へ洗浄水を供給、停止するリム用排水弁12と、リム用排水弁12からリム部2へ洗浄水を導くリム用導水路13と、を備えている。ジェット用導水路10はトラップ入口の上端部と略同じ高さの天井部を有する略水平方向の横引き管路を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄水タンクに貯留された洗浄水を供給して洗浄を行う水洗式の大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
水洗式の大便器においては、従来、ボウル部洗浄および汚物排出を速やかに行うためジェット孔を備えたサイホン式のものが採用されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1記載の水洗式大便器は、図7に示すように、洗浄水タンク61と便器本体60とを一体とすることにより、その高さ寸法を小さくしたものである。洗浄水タンク61には、排水弁61aと、リム通水路60bへ流路を接続したリム給水管61bとが組み込まれている。そして、洗浄水タンク61の底部に配設した排水弁61aの直下からジェット孔60gに洗浄水を導くためジェット水流路60dが配設されている。ジェット水流路60dは略水平な横引き管状に形成され、その天井部の高さ位置Aは、ボウル部60aの初期溜水位置WLより低い位置であり、ジェット水流路60dの底部の高さ位置Bはトラップ入口Xの上端部位置Yよりも高い位置に配置されている。
【0003】
使用者が所定の洗浄操作を行うと、排水弁操作機構(図示せず)により排水弁61aが上方に引き上げられて開放状態となり、洗浄水タンク61内の洗浄水がジェット水流路60d内に流入し、ジェット孔60gから洗浄水が吐出される。そして、トラップ部60c内に洗浄水が充満してサイホン作用が発生し、これによってボウル部60a内の汚物が洗浄水と共にトラップ部60cを経由して排水経路(図示せず)へ排出される。
【0004】
トラップ部60c内においてサイホン作用が発生することにより、ボウル部60a内の水位が低下してトラップ入口Xの上端部Y以下になると、トラップ入口Xからトラップ部60c内へ空気が進入してサイホン作用が消失し、汚物の排出が完了する。その後、ボウル部60a内の水位を初期溜水水位WLまで上昇させるために引き続き洗浄水の供給が行われ、ボウル部60a内の水位が初期溜水位置WLに達すると洗浄水の供給が自動停止される。
【0005】
【特許文献1】特開平7−180202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の水洗大便器の場合、図7に示すように、サイホン作用が消失した時点のボウル部60a内の水位は、トラップ入口Xの上端部Yの高さ位置にある。従って、ボウル部60aの水位が初期溜水水位WLに復帰するまでに供給すべき洗浄水量は、本来、便器本体60の洗浄のために必要なボウル部60aおよびトラップ部60cに供給する水量の他に、ジェット水流路60dの内容積に相当する体積分の洗浄水、即ち、図7のハッチング領域H10に相当する体積分の洗浄水を余分に供給する必要があり、洗浄水の使用量削減を図ることが困難である。
【0007】
また、特許文献1記載の水洗大便器の製造工程においてジェット水流路60dを形成する場合、図8に示すように、ボウル部60aを形成する壁部を利用してジェット水流路60dの一部を形成している。このため、ジェット水流路60dの天井部とボウル部60aとの間に、ボウル部60a方向に突出した空洞部60vが存在している。この空洞部60vには、水洗大便器が待機状態にあってボウル部60a内の溜水が初期溜水水位WLを保っている状態においても空気が残留している。このため、洗浄を開始すると、ジェット用水流路60dを経由してジェット孔60gからボウル部60aへ排出される洗浄水とともに空洞部60v内の空気が排出されることがあり、洗浄作用が悪化したり、サイホン作用に悪影響を与えたりすることがある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、洗浄終了後、元の初期水位に復帰させるまでに要する給水量の低減を図ることのできる水洗大便器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の水洗大便器は、洗浄水タンクに貯留された洗浄水を供給して洗浄する水洗大便器であって、
洗浄水を吐出させるジェット孔が底部に開設されたボウル部と、
サイホン作用を発生させ前記ボウル部内の溜水を排水経路へ排出するため、前記ボウル部の底部に開設されたトラップ入口と前記排水経路とを連通して山形状に配管されたトラップ管路と、
前記ジェット孔に供給する洗浄水を貯留するジェット用洗浄水タンクと、
前記ジェット孔への洗浄水の供給、停止を行うため前記ジェット用洗浄水タンクに設けられたジェット用排水弁と、
前記ジェット用排水弁を通過した洗浄水を前記ジェット孔に導くジェット用導水路と、
を備え、
前記ジェット用導水路は、前記ジェット用排水弁の直下に設けられた立下管路と、前記立下管路と連通された略水平な横引き管路とを有し、
前記横引き管路の内周面の天井部を前記トラップ入口の上端部以下の低い位置に配置したことを特徴とする。
【0010】
このような構成とすれば、横引き管路の内周面の天井部がトラップ入口の上端部以下の低い位置にあるため、ボウル部内の洗浄水が排出されてトラップ管路内のサイホン作用が消失した時点においても、ジェット用導水路の横引き管路内には、トラップ入口の上端部と同じ高さの水位まで洗浄水が残ることとなる。即ち、サイホン消失時点においても、ジェット用導水路の横引き管路内に比較的多くの洗浄水を残留させることができる。従って、洗浄終了後は、ジェット用導水路内において、横引き管路内を除いた、残留洗浄水のない空間部を満たす量だけ洗浄水を供給すればよい。このため、サイホン作用消失後から初期水位に復帰させるまでに要する給水量の低減を図ることができる。
【0011】
一方、前記ジェット用導水路内に空気が貯留するのを防止するため、前記ジェット導水路の内周面の天井部を洗浄水の流動方向に沿って凹凸のない連続面で形成することが望ましい。このような構成とすれば、洗浄水の流動に伴ってジェット用導水路内に進入した空気が集合する場所がなくなり、ジェット用導水路内に空気が貯留されることもなくなるため、ジェット用導水路内の残留空気に起因する洗浄作用の悪化、サイホン作用への悪影響をなくすことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、水洗大便器において、洗浄終了後、元の初期水位に復帰させるまでに要する給水量の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の第1実施形態である水洗大便器を示す平面図、図2は図1におけるA−A線断面図、図3は図1におけるB−B線断面図、図4は図2におけるC−C線断面図、図5はジェット用導水路に関するその他の実施の形態を示す垂直断面図である。
【0014】
図1〜図3に示すように、本実施形態の水洗大便器1は、洗浄水を吐出させるジェット孔6が底部の前方に開設されたボウル部2と、サイホン作用を発生させてボウル部2内の溜水を排水経路(図示せず)へ排出するためにボウル部2の底部の後方に開設されたトラップ入口3と排水経路とを連通して山形状に配管されたトラップ管路7と、ボウル部2へ洗浄水を流下させるためにボウル部2の上縁部に設けられたリム部4と、ジェット孔6へ供給する洗浄水を貯留するためのジェット用洗浄水タンク8と、ジェット孔6への洗浄水の供給、停止を行うためジェット用洗浄水タンク8内に設けられたジェット用排水弁9と、ジェット用排水弁9を通過した洗浄水をジェット孔6に導くジェット用導水路10と、リム部4に供給する洗浄水を貯留するリム用洗浄水タンク11と、リム部4への洗浄水の供給、停止を行うためにリム用洗浄水タンク11に設けられたリム用排水弁12と、リム用排水弁12を通過した洗浄水をリム部2へ導くリム用導水路13とを備えている。
【0015】
これらのボウル部2、リム部4、ジェット孔6、トラップ管路7、リム用洗浄水タンク11、ジェット用洗浄水タンク8、リム用導水路13およびジェット用導水路10は陶器により一体的に形成されている。ボウル部2は、水洗大便器1の前方寄りの部分に形成されており、その上縁部にはリム部4が形成され、その底部には、水洗大便器1の後方に向かって開口したジェット孔6が形成されている。また、ボウル部2の底部において、ジェット孔6の対向位置には、後方に向かって延設されたトラップ管路7と連通するトラップ入口3が開設されている。
【0016】
リム部4は、ボウル部2の上縁部に、棚状の水路として形成されている。リム部4に供給された洗浄水は、その棚状部4aに沿って旋回しながらボウル部2の上面を螺旋状に流下していき、最終的にはボウル部2の底部に流れ込むようになっている。トラップ管路7はトラップ入口3を介してボウル部2の底部と連通し、ボウル部2から後方に向かって山形状に延設されている。トラップ管路7は、ボウル部2の底部のトラップ入口3から斜め上方に延設され、トラップ管路7内の最上部である高さL2のトラップ頂部7aを経て、鉛直下方に垂下するように形成されている。トラップ管路7の下端開口部7bには、水洗大便器1が設置される床面に配管された排水経路(図示せず)に接続される。
【0017】
リム用洗浄水タンク11は水洗大便器1の後方の中央部に形成されている。リム用洗浄水タンク11は、その底面がリム部4上面の高さL1とほぼ等しい高さに配置されている。リム用洗浄水タンク11の一方の側壁面には、リム用洗浄水タンク11に供給された洗浄水を、ジェット用洗浄水タンク8に移送するために、高さL3の位置に切欠14が形成されている。リム用洗浄水タンク11内の水位が高さL3よりも高くなると、リム用洗浄水タンク11の切欠14から溢れた洗浄水が下方に配置されたジェット用洗浄水タンク8内へ流入するようになっている。
【0018】
リム用洗浄水タンク11の底面には、高さL1よりも僅かに高い位置にリム用排水弁12が設けられている。リム用排水弁12の下側にはリム用導水路13が形成されており、リム用排水弁12を通過した洗浄水はリム用導水路13に流入する。リム用導水路13は、リム用洗浄水タンク11の下部から、前方のボウル部2に向かって略水平に延設され、ボウル部2の上縁部後方で左右に分岐するように形成されている。左右に分岐した一方のリム用導水路13は第1リム吐水口13aに連通し、他方のリム用導水路13は、第2リム吐水口13bに連通している。第1リム吐水口13aは、ボウル部2の側部から便器前方に向かって開口しており、第2リム吐水口13bは、第1リム吐水口13aと反対側のボウル部2の側後部に、後方に向かって開口している。
【0019】
ジェット用洗浄水タンク8は、水洗大便器1の後方におけるリム用洗浄水タンク11の下方に配置されており、ジェット用洗浄水タンク8の容量はリム用洗浄水タンク11の容量よりも大きく形成されている。ジェット用排水弁9が、ジェット用洗浄水タンク8の下部の、高さL1よりも低く、トラップ管路7のトラップ頂部7aの高さL2よりも高い位置に設けられている。また、ジェット用排水弁9は、ジェット孔6に瞬間的に大量の洗浄水を供給するために、リム用排水弁12よりも大きく形成されている。ジェット用排水弁9の下側に位置するジェット用導水路10は、ジェット用排水弁9の直下に設けられた立下管路10vと、この立下管路10vと連通する略水平な横引き管路10hとを備えている。ジェット用排水弁12を通過した洗浄水は、その直下に位置する立下管路10v内を流下して横引き管路10h内へ流入し、この横引き管路10h内を前方に向かって進行した後、ジェット孔6からボウル部2の底部へ排出される。ジェット用導水路10は、ジェット用排水弁9の直下の立下管路10vから横引き管路10hを経て前方に向かって延設され、後方に向けて開口したジェット孔6に対して、Uターンして連通するように形成されている。
【0020】
また、ジェット用洗浄水タンク8の内部には、給水バルブ15が配置されている。この給水バルブ15は、ジェット用洗浄水タンク8内の水位が、リム部4の上面の高さL1よりも低く設定されている所定の水位L4に達するまで、洗浄水を供給するように構成されている。給水バルブ15には、ジェット用洗浄水タンク8を横断するように、リム用洗浄水タンク11の上方に延びる給水管16が接続されている。給水バルブ15を通過した洗浄水は、給水管16を通ってリム用洗浄水タンク11の上方に達し、給水管16の流出口16aからリム用洗浄水タンク11内に流入する。
【0021】
また、リム用排水弁12およびジェット用排水弁9にはそれぞれ玉鎖12a,9aが接続されている。水洗大便器1の使用者が用便後、所定の洗浄操作を行うと、玉鎖12a,9aが上方に引き上げられ、リム用排水弁12およびジェット用排水弁9がそれぞれ開放される排水弁操作機構(図示せず)が設けられている。
【0022】
次に、図1〜図3を参照して、水洗大便器1の機能について説明する。まず、洗浄操作を行っていない状態においては、図2,図3に示すように、水洗大便器1のボウル部2には、トラップ管路7の頂部7aの高さL2まで洗浄水が溜まっている。また、リム用洗浄水タンク11には高さL3まで洗浄水が貯留され、ジェット用洗浄水タンク8には、高さL4の水位まで洗浄水が貯留されている。
【0023】
次に、水洗大便器1の使用者が所定の洗浄操作を行うと、排水弁操作機構(図示せず)により、各排水弁12,9に連結された玉鎖12a,9aがそれぞれ上方に引き上げられ、これにより両方の排水弁12,9が上方に引き上げられることにより開放状態となる。ここで、ジェット用排水弁9に接続されている玉鎖9aは、リム用排水弁12に接続されている玉鎖12aよりも長く設定されている。このため、洗浄操作によって玉鎖12a,9aが同時に引き上げられると、最初にリム用排水弁12が開放され、その後ジェット用排水弁9が開放される。なお、各排水弁12,9が解放されるタイミングは、玉鎖12a,9aの長さ、および排水弁操作機構によって任意に設定することができる。
【0024】
リム用排水弁12が開放されると、洗浄水がリム用洗浄水タンク11からリム用導水路13に流入し、第1リム吐水口13aおよび第2リム吐水口13bからそれぞれ洗浄水が吐出される。これらの吐水口13a,13bから吐出された洗浄水は、リム部4を伝わりながらボウル部2内を旋回し、ボウル部2の露出面を洗浄しながらボウル部2の底部に流れ込む。リム部4からの洗浄水の流れによって、ボウル部2の溜水に浮遊している汚物などがボウル部2の中央部に集められる。
【0025】
リム用排水弁12の開放から少し遅れてジェット用排水弁9が開放されると、ジェット用洗浄水タンク8内の洗浄水が、立下管路10vおよび横引き管路10hで構成されるジェット用導水路10内へ流入し、ジェット孔6から吐出される。リム部4およびジェット孔6からボウル部2に洗浄水が流入し、ボウル部2内の水位が上昇すると、洗浄水はトラップ管路7の頂部7aを越えて排水経路へ排出される。この流れによってトラップ管路7内に洗浄水が充満するとサイホン作用が発生し、ボウル部2内の底部に沈んでいた汚物およびボウル部2内の中央部に集められた浮遊物が洗浄水とともに吸引され、トラップ管路7を通って排水経路へ排出される。
【0026】
リム用洗浄水タンク11内の洗浄水が、開放されたリム用排水弁12を通って排水され、リム用導水路13内の洗浄水もなくなると、リム用排水弁12に浮力が生じなくなるため自重によりリム用排水弁12が閉じる。次いでジェット用洗浄水タンク8内の洗浄水が、開放されたジェット用排水弁9を通って排水されると、ジェット用排水弁9も自重により閉じる。本実施形態では、ジェット用洗浄水タンク8の容量がリム用洗浄水タンク11の容量より大きくなっており、ジェット用洗浄水タンク8内の洗浄水が排出されるのに長い時間を要するので、ジェット用排水弁9は、リム用排水弁12よりも長時間に渡って開放状態を保った後、閉じる。
【0027】
トラップ管路7内におけるサイホン作用が消失した時点での、ボウル部2内の溜水の水位L5はトラップ入口3の上端部3aまで下がっているが、ジェット孔6およびリム部4からボウル部2内に洗浄水が流入するためボウル部2内の水位は徐々に上昇し、図2に示す初期水位L2に復帰する。また、リム用洗浄水タンク11およびジェット用洗浄水タンク8には、それぞれ給水バルブ15を介して水道から新たな洗浄水が供給され、ジェット用洗浄水タンク8およびリム用洗浄水タンク11の水位がそれぞれ所定水位に達すると給水バルブ15が閉止され、これによって一連の洗浄過程が終了する。
【0028】
一方、ジェット用排水弁9が開放され、ジェット用洗浄水タンク8内の水位が低下すると、給水バルブ15に備えられたフロート15aが下降し、給水バルブ15が開いて給水が開始される。給水バルブ15が開くと、水道から供給された洗浄水は、給水管16を通って給水管16の流出口16aから流出し、リム用洗浄水タンク11内へ流入する。このとき、水道から供給された洗浄水は、まずリム用洗浄水タンク11に流入するので、この時点では、ジェット用洗浄水タンク8への給水は行われず、ジェット用洗浄水タンク8の水位は上昇しない。
【0029】
リム用洗浄水タンク11内の水位が上昇し、高さL3に達すると、洗浄水は切欠14から溢れ出て、リム用洗浄水タンク11の下方に配置されたジェット用洗浄水タンク8内へ流入する。ジェット用洗浄水タンク8内へ洗浄水が流入し始めると、ジェット用洗浄水タンク8内の水位も上昇し始め、これに伴って、給水バルブ15のフロート15aも上方に移動する。ジェット用洗浄水タンク8内の水位が上昇し、高さL4に達すると、給水バルブ15が閉鎖され、水道からの洗浄水の給水が停止され、1回の洗浄行程が終了する。
【0030】
このように、給水バルブ15を介して洗浄水が供給されている間、給水管16を通る洗浄水のうちの一部は、流出口16aから流出せずに、給水管16の延長部16bに達して、オーバーフロー管17内へ排出される。オーバーフロー管17内に入った洗浄水は、ジェット用排水弁9をバイパスしてジェット孔6からボウル部2へ流入する。この洗浄水は、各排水弁9,12が閉鎖された後、ボウル部2の中の水位を高さL2に復帰させるために供される。
【0031】
本実施形態の水洗大便器1においては、ジェット用導水路10の一部に略水平方向をなす横引き管路10hを設けるとともに、横引き管路10hの内周面の天井部10aの高さをトラップ入口3の上端部3aと略同じ高さに配置している。従って、トラップ管路7内のサイホン作用が消失したとき、ジェット用導水路10の横引き管路10hの天井部10a以下の部分に洗浄水が残留することとなる。このため、サイホン作用消失後の水位を初期水位L2まで復帰させるためには、図2に示すL5からL2に至るまでのハッチング領域H1,H2に相当する水量を補給すればよい。従って、このハッチング領域H1,H2は、図7で示した従来の水洗大便器におけるハッチング領域H10よりも縮小されることとなり、初期水位L2に復帰させるまでに要する給水量を大幅に低減することができる。
【0032】
元の初期水位L2に復帰させるまでに要する給水量は、水洗大便器のデザインや構造などの違いにより異なるので一概に言えないが、例えば、JIS規格によるサイホンジェット式便器に相当する本実施形態の水洗大便器1の場合、サイホン消失後から初期水位L2まで復帰するのに要する給水量は約1.6リットルであり、図7に示す水洗大便器における給水量が約1.9リットルであるのに比べると、約16%低減することができる。
【0033】
一方、本実施形態の水洗大便器1においては、図4に示すように、ジェット用導水路10の内周面の天井部に平板部材18を貼着することにより、天井部全体を洗浄水の流動方向に沿って凹凸のない連続面で形成している。このような構成とすれば、洗浄水の流動に伴ってジェット用導水路10内に進入した空気が集合する場所がなくなり、ジェット用導水路10内に空気が貯留されることもなくなる。このため、ジェット用導水路10内の残留空気に起因する洗浄作用の悪化、サイホン作用への悪影響をなくすことができる。
【0034】
また、前述した残留空気をなくす手段としては、図5に示すようなジェット用導水路10Xとすることもできる。このジェット用導水路10Xは、まず、天井部10Xaおよび左側部10Xbを形成した後、これらと対向するように断面L字状の下方部材10Xcを貼着することによって形成されている。このようなジェット用導水路10Xを形成することにより、前述と同様、残留空気に起因する洗浄作用の悪化、サイホン作用への悪影響をなくすことができる。
【0035】
次に、図6を参照し、本発明の第2実施形態である水洗大便器20について説明する。図6は本発明の第2実施形態である水洗大便器を示す垂直断面図である。なお、図6に示す水洗大便器20において、前述した水洗大便器1と同じ構造、機能を備えた部分については、図1〜図4に示す符号と同じ符合を付して説明を省略する。
【0036】
図6に示す水洗大便器20においては、ジェット用洗浄水タンク8からジェット用導水路10を経由して供給される洗浄水をボウル部2内へ噴出するためのジェット孔26が、ボウル部2の左側面に設けられるとともに、ジェット孔26の高さがトラップ入口3より高い位置に配置されている。また、ジェット用導水路10を構成する略水平方向の横引き管路10hの内周面の天井部10aをトラップ入口3の上端部3aと略同じ高さに配置している。従って、この水洗大便器20において、サイホン作用が消失した後のボウル部2の底部の溜水を初期水位L2まで復帰させるのに必要な給水量は、図6に示すハッチング領域H3,H4に相当する量である。
【0037】
図6に示すハッチング領域H3,H4と図7に示すハッチング領域H10とを比較すると分かるように、水洗大便器20のような構成とすることにより、サイホン作用が消失した後のボウル部2の底部の溜水を初期水位L2まで復帰させるのに必要な給水量は、従来の水洗大便器70に比べ大幅に低減される。
【0038】
なお、第1,2実施形態の水洗大便器1,20においては、ジェット用導水路10を構成する略水平方向の横引き管路10hの内周面の天井部10aをトラップ入口3の上端部3aと略同じ高さに配置しているが、本発明の水洗大便器はこれらに限定するものではないので、トラップ入口3の上端部3aよりも低い位置に横引き管路10hの内周面の天井部10aを配置することも可能であり、その場合においても前述と同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の水洗大便器は、一般住宅のトイレや公共施設内のトイレなどの設備資材として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態である水洗大便器を示す平面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】図1におけるB−B線断面図である。
【図4】図2におけるC−C線断面図である。
【図5】ジェット用導水路に関するその他の実施の形態を示す垂直断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態である水洗大便器を示す垂直断面図である。
【図7】従来の水洗大便器を示す垂直断面図である。
【図8】図7におけるD−D線断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1,20 水洗大便器
2 ボウル部
3 トラップ入口
3a 上端部
4 リム部
4a 棚状部
6,26 ジェット孔
7 トラップ管路
7a 頂部
7b 下端開口部
8 ジェット用洗浄水タンク
9 ジェット用排水弁
9a,12a 玉鎖
10,10X ジェット用導水路
10a,10Xa 天井部
10h 横引き管路
10v 立下管路
10Xb 左側部
10Xc 下方部材
11 リム用洗浄水タンク
12 リム用排水弁
13リム用導水路
13a 第一リム吐水口
13b 第二リム吐水口
14 切欠
15 給水バルブ
15a フロート
16 給水管
16a 流出口
16b 延長部
17 オーバーフロー管
18 平板部材
H1,H2,H3,H4 ハッチング領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水タンクに貯留された洗浄水を供給して洗浄する水洗大便器であって、
洗浄水を吐出させるジェット孔が底部に開設されたボウル部と、
サイホン作用を発生させ前記ボウル部内の溜水を排水経路へ排出するため、前記ボウル部の底部に開設されたトラップ入口と前記排水経路とを連通して山形状に配管されたトラップ管路と、
前記ジェット孔に供給する洗浄水を貯留するジェット用洗浄水タンクと、
前記ジェット孔への洗浄水の供給、停止を行うため前記ジェット用洗浄水タンクに設けられたジェット用排水弁と、
前記ジェット用排水弁を通過した洗浄水を前記ジェット孔に導くジェット用導水路と、
を備え、
前記ジェット用導水路は、前記ジェット用排水弁の直下に設けられた立下管路と、前記立下管路と連通された略水平な横引き管路とを有し、
前記横引き管路の内周面の天井部を前記トラップ入口の上端部以下の低い位置に配置したことを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
前記ジェット用導水路内に空気が貯留するのを防止するため、前記ジェット導水路の内周面の天井部を洗浄水の流動方向に沿って凹凸のない連続面で形成したことを特徴とする請求項1記載の水洗大便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−291451(P2006−291451A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109080(P2005−109080)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】