説明

水洗式便器

【課題】確実にサイホン作用を生じさせ、汚物を排出することのできる水洗式便器を提供する。
【解決手段】水洗式便器は、便器本体1に形成された便鉢2の下流側に連なる上昇流路3A及び上昇流路3Aの下流側に連なる下降流路3Bからなる便器排水路3を備えている。また、水洗式便器は、便器排水路3から空気を吸引する吸気装置100を備えている。下降流路3Bは、水平方向から垂直方向に流路の向きを変える湾曲流路11と、湾曲流路11の下流側に連なり、垂直方向に延びる垂直流路12とから構成されている。下降流路3Bを形成する便器排水管10は、湾曲流路11の上面であり、垂直流路12を上方へ延ばした上方領域T内に設けられた連通口13を有している。連通口13と吸気装置100の吸気口105とが連通されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水洗式便器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の水洗式便器が開示されている。この水洗式便器は、便器本体の便鉢の下流側に連なる便器排水路と、この便器排水路から空気を吸引する吸気装置とを備えている。便器排水路は、上昇流路と上昇流路の下流側に連なる下降流路とから構成されている。便器排水路の最上昇部の上面には、連通口が設けられ、吸気装置の吸気口に連通されている。
【0003】
この水洗式便器では、便器洗浄の際、吸気装置により便器排水路から空気が吸引され、便器排水路を早期に便器洗浄水で満水にすることができる。このため、サイホン作用が早期、かつ確実に生じ、便鉢内の汚物を確実に排出することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2007−218038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の水洗式便器では、便器排水路の最上昇部の上面に連通口が設けられているため、上昇流路を上昇してきた上向きの勢いを有する便器洗浄水が連通口の近傍を流れる。このため、吸気装置が便器排水路内の空気を吸引する際、連通口から便器洗浄水や汚物を吸引してしまうおそれがある。連通口が吸引された便器洗浄水や汚物で閉鎖されると、便器排水路内からの空気の吸引が不十分となり、サイホン作用が良好に生じないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、確実にサイホン作用を生じさせ、汚物を排出することのできる水洗式便器を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水洗式便器は、便器本体に形成された便鉢の下流側に連なる上昇流路及び該上昇流路の下流側に連なる下降流路から構成される便器排水路と、該便器排水路から空気を吸引する吸気装置とを備えた水洗式便器において、
前記下降流路は、水平方向から垂直方向に流路の向きを変える湾曲流路と、該湾曲流路の下流側に連なり、垂直方向に延びる垂直流路とから構成され、
該下降流路を形成する便器排水管は、該湾曲流路の上面であり、該垂直流路を上方へ延ばした上方領域内に設けられた連通口を有し、
該連通口と前記吸気装置の吸気口とが連通されていることを特徴とする。
【0008】
この水洗式便器では、連通口の近傍を下降流路に沿って下向きの勢いを有する便器洗浄水が流れる。特に、連通口の下方には、垂直流路が延びているため、連通口の下方では、便器洗浄水は下方向に流れる勢いを増している。このため、吸気装置が便器排水路内の空気を吸引する際、連通口から便器洗浄水や汚物が吸引され難い。このため、連通口が便器洗浄水や汚物により閉鎖され難く、便器排水路内の空気の吸引を確実に行うことができる。
【0009】
したがって、本発明の水洗式便器は、確実にサイホン作用を生じさせ、汚物を排出することができる。
【0010】
便器排水管は、連通口の周縁から垂直上方に延びて設けられた連通管を有し、連通管に吸気口が連通され得る。この場合、吸気装置が便器排水路内の空気を吸引する際に、仮に、連通口から洗浄水や汚物が連通管内に侵入しても、さらに連通管内を上昇し、吸気装置内に侵入し難い。また、連通管内に侵入した便器洗浄水や汚物は、吸気装置の空気の吸引が停止すると、連通口から落下し易い。このため、連通口や連通管内が洗浄水や汚物により閉鎖され難く、吸気装置は便器排水路内の空気を良好に吸引することができる。
【0011】
連通管の直径は、30mm以上であり得る。この場合、連通口における空気の吸引力が強すぎず、連通口から便器洗浄水や汚物が吸引され難い。
【0012】
連通管の上端の開口には、吸気装置に設けられ、吸気口を下端に有する吸気管がパッキンを介して挿入され得る。この場合、気密状態で吸気装置の吸気管を便器排水管の連通管に容易に接続することができ、確実に便器排水路から空気を吸引することができる。
【0013】
便器排水管は便器本体とは別体に形成され、便器本体は上昇流路の最上昇部が開口して形成される被接続口を有し、被接続口に便器排水管の上流端の接続口が接続され得る。この場合、便器排水管を精度よく形成することができ、便器排水路から確実に空気を吸引することができる。また、便器本体の被接続口の下端は、便器本体に形成される水封部の封水面と略同一の高さとなるため、便器本体の被接続口と便器排水管の接続口との接続箇所は、常時、便器洗浄水に浸水していない。このため、過度な漏水構造を有さなくても、接続箇所から便器洗浄水が漏水することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施例1を図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0015】
図1に示すように、実施例1の水洗式便器は、便器本体1に形成された便鉢2の下流側に連なる上昇流路3Aと、上昇流路3Aの下流側に連なる下降流路3Bとから構成される便器排水路3を有している。また、この水洗式便器は、便器排水路3の下降流路3Bから空気を吸引する吸気装置100を備えている。吸気装置100は、吸引タンク101を有している。吸引タンク101の内部は、上下方向に移動可能な錘107を有する隔膜106により、上部室108と下部室109とに区画されている。また、吸気装置100は、上部室108に連通し、上部室108内の空気を吸気し、又は上部室108内へ空気を排気することにより、隔膜106を上下動させる駆動装置102を有している。
【0016】
便器本体1は、床面Fに載置される周壁4と、便鉢2の上部内周に形成されたリム5とを有している。リム5には、ストレーナ、定流量弁及び開閉弁を有する洗浄水供給装置200が連通されている。また、便器本体1は、便鉢2の上端及び側壁4の上端に連結されて設けられた天板6を有している。天板6は便鉢の上方を開放する開口部6Aを有している。天板6の後端縁には、下方に垂下する補強壁7が設けられている。
【0017】
周壁4は、便鉢2の前方部を覆う前壁部4Aと、前壁部4Aの左右端から補強壁7より後方まで延びる一対の左右壁部と、各左右壁部の後端を連結する後壁部4Bとから構成されている。便器本体1には、補強壁7より後方の左右壁部と後部壁4Bとに囲まれ、上下方向に貫通した収納空間Sが形成されている。
【0018】
後部壁4Bには、中央部に下端から縦長に延びる凹部4Cが形成されている。凹部4Cの上部には、後部壁4Bの外側から内側に斜め上方を向く開口4Hが設けられている。開口4Hには、一端が水道管に接続され、他端が洗浄水供給装置200に接続される図示しない給水管が挿通される。
【0019】
便器本体1は、補強壁7に設けられ、上昇流路3Aの最上昇部が開口して形成される被接続口8を有している。被接続口8は、補強壁7より一段凹んで形成されている。
【0020】
補強壁7より凹んで形成された被接続口8に、便器本体1とは別体に形成された便器排水管10の上流端の接続口16が嵌め込まれている。便器排水管10の上流端部の外周面にはフランジ17が形成され、フランジ17と被接続口8の周縁部の補強壁7との間に、パッキンの役割を有するOリング17Pを介して気密状態で被接続口8と接続口16とが接続されている。
【0021】
図2に示すように、便器排水管10は、水平方向から垂直方向に流路の向きを変える湾曲流路11と、湾曲流路11の下流側に連なり、垂直方向に延びる垂直流路12とから構成される下降流路3Bを形成している。また、便器排水管10は、湾曲流路11の上面であり、垂直流路12を上方へ延ばした上方領域T内に設けられた連通口13を有している。また、便器排水管10は、連通口13の周縁から垂直上方に延びて設けられた連通管14を有している。連通管の直径は50mmである。
【0022】
連通管14の上端の開口15には、吸引タンク101の下面に設けられ、吸気口105を先端に有する吸気管104が挿入されている。吸気管104は、下部外周面にパッキンの役割を有するOリング104Pが外嵌されており、連通管14に挿入するだけで、連通管14に気密状態に容易に接続することができる。
【0023】
このように構成された便器排水管10は、仮に、連通口13から洗浄水や汚物が連通管14内に侵入しても、さらに連通管14内を上昇し、吸引タンク101内に侵入し難い。また、連通管14内に侵入した便器洗浄水や汚物は、吸引タンク101の空気の吸引が停止すると、連通口13から落下し易い。このため、連通口13や連通管14内が洗浄水や汚物により閉鎖され難く、吸引タンク101は便器排水路3内の空気を良好に吸引することができる。また、連通管の直径が50mmであるため、連通口13における空気の吸引力が強すぎず、連通口13から便器洗浄水や汚物が吸引され難い。また、便器排水管10は、便器本体1とは別体に形成されているため、精度よく形成することができ、便器排水路3から確実に空気を吸引することができる。さらに、便器本体1の被接続口8の下端は、便器本体1に形成される水封部Hの封水面と略同一の高さとなるため、便器本体1の被接続口8と便器排水管10の接続口16との接続個所は、常時、便器洗浄水に浸水していない。このため、過度な漏水構造を有さなくても、接続個所から便器洗浄水が漏水することを防止することができる。
【0024】
図1に示すように、便器排水管10の下流端の排水口19は、床面Fに開口する排水管30の接続口31に排水接続具20を介して連通されている。排水接続具20は、排水口19とパッキン22Pを介して連結される流入口22と、接続口31に連結される流出口23とが設けられた筐体21を備えている。筐体21内に内部配管24が配置されている。この内部配管24は、流入口22に連通する上流口24Uを有し、下降流路を形成する上流配管24Aと、上流配管24Aに連結され、筐体21内に開口する下流口24Dを有し、上昇流路を形成する下流配管24Bとから構成されている。この内部配管24の上流配管24Aと下流配管24Bとにより形成される滞留部Rは、洗浄水により完全に封水される。
【0025】
このように構成された実施例1の水洗式便器は、便器本体1の便鉢2と上昇流路3Aとにより形成された水封部Hの下流側の便器排水路3と、排水接続具20の内部配管24に形成された滞留部Rの上流側の内部配管2とに閉鎖空間が形成される。
【0026】
この水洗式便器の便器洗浄は、まず、便器洗浄装置200によってリム3に洗浄水が供給される。すると、便鉢2内の洗浄水の水位が上昇する。所定量の洗浄水が供給され、便鉢2内の洗浄水の水位が所定位置になると、吸気装置100の駆動装置102が吸引タンク101の隔膜106を上方に移動させる。吸引タンク101により、便器排水路3の下降流路3Bから空気が吸引されると、閉鎖空間には負圧作用により洗浄水が勢いよく流入し、サイホン作用が早期、かつ確実に発生する。
【0027】
この際、便器排水管10の連通口13の近傍を下降流路3Bに沿って下向きの勢いを有する便器洗浄水が流れる。特に、連通口13の下方には、垂直流路12が延びているため、連通口13の下方では、便器洗浄水が下方向に流れる勢いを増している。このため、吸気装置100が連通口13から閉鎖空間の空気を吸引する際、連通口13から便器洗浄水や汚物が吸引され難い。このため、連通口13や連通管14が便器洗浄水や汚物により閉鎖され難く、閉鎖空間内の空気の吸引を確実に行うことができる。
【0028】
したがって、実施例1の水洗式便器は、確実にサイホン作用を生じさせ、汚物を排出することができる。
【0029】
以上において、本発明を実施例1に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨に逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0030】
例えば、便器排水管10の排水口19と、排水管30の接続口31とを連通する排水接続具において、溜水部を有しなくてもよい。また、排水接続具において、溜水部を有しても、完全に封水せず、溜水部に滞留する洗浄水の上方に空気が流通する隙間が形成され、便器洗浄の際、溜水部に洗浄水が供給されることにより、この隙間が封鎖され、溜水部の上流側に閉鎖空間が形成されるようにしてもよい。また、連通管の直径は、30mm以上であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1の水洗式便器の断面図である。
【図2】実施例1の便器排水管の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1…便器本体
2…便鉢
3…便器排水路
3A…上昇流路
3B…下降流路
10…便器排水管
11…湾曲流路
12…垂直流路
13…連通口
100…吸気装置(101…吸引タンク、102…駆動装置)
105…吸気口
T…上方領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器本体に形成された便鉢の下流側に連なる上昇流路及び該上昇流路の下流側に連なる下降流路から構成される便器排水路と、該便器排水路から空気を吸引する吸気装置とを備えた水洗式便器において、
前記下降流路は、水平方向から垂直方向に流路の向きを変える湾曲流路と、該湾曲流路の下流側に連なり、垂直方向に延びる垂直流路とから構成され、
該下降流路を形成する便器排水管は、該湾曲流路の上面であり、該垂直流路を上方へ延ばした上方領域内に設けられた連通口を有し、
該連通口と前記吸気装置の吸気口とが連通されていることを特徴とする水洗式便器。
【請求項2】
前記便器排水管は、前記連通口の周縁から垂直上方に延びて設けられた連通管を有し、該連通管に前記吸気口が連通されている請求項1記載の水洗式便器。
【請求項3】
前記連通管の直径は、30mm以上である請求項1又は2記載の水洗式便器。
【請求項4】
前記連通管の上端の開口には、前記吸気装置に設けられ、前記吸気口を下端に有する吸気管がパッキンを介して挿入されている請求項2又は3記載の水洗式便器。
【請求項5】
前記便器排水管は前記便器本体とは別体に形成され、該便器本体は前記上昇流路の最上昇部が開口して形成される被接続口を有し、該被接続口に該便器排水管の上流端の接続口が接続されている請求項1乃至4のいずれか1項記載の水洗式便器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−191444(P2009−191444A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30138(P2008−30138)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】